本2:リサーチ周辺」カテゴリーアーカイブ

『成功は洗濯機の中に』

成功は洗濯機の中に―P&Gトヨタより強い会社が日本の消費者に学んだこと 成功は洗濯機の中に―P&Gトヨタより強い会社が日本の消費者に学んだこと
価格:¥ 1,600(税込)
発売日:2008-09-05

2009.1.26の日経MJ一面「P&G、日本に溶け込む泥臭経営」を見て、積読になっていたこの本を想起。。。あわてて、読了。

日経MJの記事見出しを並べてみると、

    • 客・店に密着~社長、抜き打ち売場回り
    • 狭い日本の家研究~洗濯洗剤、横長容器に変更
    • 郷に入りては・・・~卸と二人三脚
    • 5期連続増収達成~成功モデル、アジアに移植

実は、P&Gは2000年に危機に陥っているのですが、それを克服し、この記事にあるような状態に復活しています。

P&Gは、2000年の危機をどのように乗り越えたのか?、どのような思想で、どのような取り組みを行ったのか?、これらについて概観し、整理しているのが本書です。
(よくある企業本のような軽さを感じるタイトルですが、P&G改革をきちんと整理している良書だと思います。タイトル変えるともっと売れるような気もしますが。)

まずは、もくじを。

第1章 トヨタを抜く、170歳の不死鳥
第2章 三年でV字回復させた「ラフリー大改革」
第3章 経営改革の基本設計
第4章 「消費者中心経営」宣言
第5章 強み1~オープン型の全方位イノベーション
第6章 強み2~メガブランド構築力の卓越性
第7章 強み3~売上拡大からスケール・メリットを享受
第8章 強み4~小売店頭で勝つしたたかな市場展開力
第9章 日本のビジネス体験からラフリーが会得した極意
第10章 P&G改革を日本企業に導入する

2000年危機については、2章の書き出しでつぎのように記しています。

2000年の初頭、P&Gは破裂寸前の状態まできていた。次々と発売した新製品は失敗し、社内は混乱する。成長を期して注ぎ込んだ研究開発、マーケティング投資と、成長を前提に抱えすぎた社員数。度重なる下方修正の発表。そして、社員のモラール低下、ブランド・マネジャーの大量退職など。160年間にわたり脈々と築き上げたP&Gの名声も、これまでかと思われた。

そして、「消費者がボス」「コネクト&ディベロップ」「ふたつの決着の瞬間」などをキーワードに、復活をしていくことになるのですが、詳細については、ぜひ本書を読んでください。

ここではリサーチに焦点を絞り、おもしろいと思った文章をいくつか紹介しておきます。このblogを読んでくださっている方には、いまさらという感じもあるかもしれませんが、いま一度、リサーチの課題を思い起こしていただければと。

◆「未知との遭遇」

(「さらなる成長を目指すには、新興国の低所得者市場に参入しなければならない」という文脈において)
したがって、消費者理解という点からは「未知との遭遇」状態が起きていた。その場合は、これまでの欧米、日本など高度経済市場での成功体験は横に置き、新興国で生活する消費者の人たちと虚心坦懐に接して、深く理解しなおすことがビジネス成功のカギになる。
新興国市場のほとんどを占める低所得の消費者が満足してくれる製品を提供する時に、米国の低所得者層の知識は全く役に立たない。その知識は逆に、有望ビジネスを破壊する危険性さえある。

ここでは新興国市場攻略のためのリサーチについて言及していますが、「未知との遭遇」というワードに注目すると、他にも応用の利く内容では?

◆「消費者にリードしてもらう」

消費者中心経営の中で、最も誤解されやすいのは、「消費者に決めてもらう経営」と解釈されることである。P&Gは決して、そう考えない。「消費者自身も、自分で何が欲しいのかわからない」からである。P&Gでは商品の開発時にあたっても、消費者と開発者が互いに対話を交わしながら、消費者の反応を見ながら、商品開発を進める。つまり、消費者に決めてもらうのではなく、消費者にリードしてもらう形で積極的に消費者の嗜好を取り入れている。

いまでは「消費者に直接答えを聞いても意味がない」は、リサーチの常識の部類でしょう。ただ、だからといって、消費者を蚊帳の外に置いていいわけでもない。それが、「リードしてもらう」感覚なのでしょう。

◆「生活現場重視」

消費者の真意は、調査データに存在するのではないことを、ラフリーは日本でのビジネス経験を通して学んだ。P&Gのシンシナティ本社の経営陣は、消費者調査の統計データの中に埋まっているが、生きた消費者の生活実体や心を理解していないと見抜いた。
ラフリーは日本駐在の間、自分が確信の持てる市場調査を行うため、絶えず小売店や家庭を訪問した。

調査データの平均値だけを追っていっても、消費者の実態や心をなかなか把握できないというのもだいぶコンセンサスが取れてきたのでは?だから、エスノグラフィなどの手法に注目が集まっているのでしょう。(ただ、ここから短絡的に「定量調査は意味をなさない」などと思わないでください。)

他にもいろいろあるのですが、このようなP&Gのリサーチ思想は、世界60カ国で年間232億円という調査予算となって表出しています。単純平均で、1カ国で3.8億円強の予算。。。
(こんな企業がもっと増えてくれれば、リサーチ業界ももっと・・・)

以上、今回はリサーチ中心にレビューしてますが、他にもいまのマーケティングを考える上でのヒントが随所にあると思います。とくに、「コネクト・アンド・ディベロップ」は、オープン・イノベーションの事例としても、取り上げられることが多いものです。
P&Gの改革については、すでにあちこちで書かれていますが(たとえばHBRでの記事↓)、まだ読んだことがない方や、一度全体像として理解しておきたいという方には、必読の本だと思います。

注:HBRでの関連記事は、つぎのようなものがあります。

「P&G:マーケティングの原点」(HBR2007年7月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 07月号 [雑誌] Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 07月号 [雑誌]
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2007-06-08

「P&G:コネクト・アンド・ディベロップ戦略」(HBR2006年8月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 08月号 [雑誌] Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 08月号 [雑誌]
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2006-07-10

「P&G:有機的成長のリーダーシップ」(HBR2005年11月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2005年 11月号 Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2005年 11月号
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2005-10-08

「P&G:マーケティング力の復活」(HBR2004年2月号)

また、英語がOKな方は、改革の当事者であるA.G.ラフリーが著者である↓の本もありますでの参考までに。(おそらく翻訳されていないと思います。。。)

The Game-Changer: How You Can Drive Revenue and Profit Growth with Innovation

The Game-Changer: How You Can Drive Revenue and Profit Growth with Innovation
価格:¥ 2,587(税込)
発売日:2008-04-08

(↑ この本、翻訳されていました、こちら ↓ )

ゲームの変革者―イノベーションで収益を伸ばす ゲームの変革者―イノベーションで収益を伸ばす
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2009-05-23

さらに、オープン・イノベーションについては、こちら↓を。
P&Gが事例として取り上げらています。他にも、ボーイング、BMW、レゴ、メルク、IBMなども。

ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2007-06-07

『世論調査と政治』

世論調査と政治――数字はどこまで信用できるのか (講談社プラスアルファ新書) 世論調査と政治――数字はどこまで信用できるのか (講談社プラスアルファ新書)
価格:¥ 940(税込)
発売日:2008-11-21

つい先日も、麻生内閣の支持率が下がったことを、各マスコミが大々的に報じていましたが、なぜこれほどまでに世論調査を行う必要があるのか、そもそもマスコミの示す調査結果を「世論」と判断していいのか、数字をどこまで信用するのか、マスコミで報道される世論調査をどのように読めばいいのか、について考えさせられます。帯の惹句が、なかなか。

支持率は本当に必要か!?
その真の役割とは!?
世論調査大国において、われわれは政治とどう向き合うべきか!?
その功罪を徹底検証!!

ちょっと、「!」「?」が多すぎますが、調査やリサーチに携わっている、いないに関わらず、多くの人に読んでもらいたいテーマだと思います。
著者は、朝日新聞で世論調査に従事した記者の方なので、読みやすいですし、わかりやすいと思います。調査の知識がない人でも、読むことに抵抗はないでしょう。「世論調査支持率から見た政治小史」的な読み方も、おもしろいです。

まずは、もくじ。

プロローグ 「支持率政治」が始まった
第1章 世論調査はどうやって作られているのか
第2章 吉田内閣から麻生内閣まで、内閣支持率物語
第3章 小泉内閣から支持率の注目度アップ
第4章 政権交代が見えてくる政党支持率
第5章 選挙情勢調査の舞台裏
第6章 世論調査にどこまで信をおくべきか

第1章は、いわゆる調査入門です。調査方法の話とか、質問文の話とか、回収率の話とか、世論調査のデータを読むときにリテラシーとして身につけておくべきポイントが整理されています。また、第5章も選挙情勢調査がどのように行われているかについて、簡単に触れられていますので、選挙時の予測などに興味がある方はこちらも。

本筋とはあまり関係ないですが、小ネタとしておもしろいのが民主党・鳩山由紀夫幹事長の話。「個人事務所の執務室には林知己夫氏の著作が並べられていた」というくらい、世論調査への造詣が深いらしいです。

そして、この本の著者のメッセージは、「世論調査の目利きになるために」と題された節だと思います。この中で、つぎの4つのポイントを示しています。

第一の提案は、世論調査の数字を多角的に見よ、である。

第二の提案は、調査方法に注意を払おう、である。

第三の提案は、複数の世論調査の結果を読み比べよう、だ。

第四の提案は、調査結果を見るときに、自分ならどう答えるかを考えてみよう、である。

これらのポイントは折に触れ、このblogでも指摘してきたことですが、何も世論調査に限らず、すべての調査やリサーチについてあてはまることだと思います。

そして、もうひとつ気になる点を。

朝日新聞の政治意識調査によると、世論調査に対し、

  直感で答えるほうだ      60%
  じっくり考えて答えるほうだ  32%

という回答だった。テンポが早く、矢継ぎ早の判断が求められる現代。世論調査の回答も直感頼りの感覚型になるのもやむを得ないのかもしれない。

(中略)

世論調査に直感で答えるのは致し方ないとして、せめて情報と知識に裏打ちされた直感であってほしい。裏打ちのない直感だけで作られた世論は、感情的に暴走する私情の産物、百害あって一利なしになってしまう。

これも、世論調査に限らず、常に調査やリサーチにつきまとう問題でしょう。
回答は6割が直感、そして、この直感が情報や知識に裏打ちされたものかどうか。。。
これくらいのスタンスで、データと接することも、時には必要だと思います。

さて、
これまで、『世論調査と政治』を紹介してきましたが、ほぼ同じ時期(こちらの本の方が先行しています)につぎの本も出版されています。

輿論と世論―日本的民意の系譜学 (新潮選書) 輿論と世論―日本的民意の系譜学 (新潮選書)
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2008-09

こちらは、メディア史や大衆文化論を専攻している大学の先生が著者なので、だいぶ専門的になりますが、「ヨロン」とは何か、ということについて正面から論じています。「輿論(ヨロン)」と「世論(セロン)」を使い分けている点が、本書の主題でしょう。
とくに、「第12章 空気の読み書き能力」では、『世論調査と政治』でも取り上げられているものと同じデータについての論述があるので、読み比べてみるのもおもしろいと思います。

さらにまた、
SurveyMLで萩原さんが一押している朝日新聞の夕刊連載も、あわせてご覧いただくのも立体感が増していいのでは?
(シリーズ第1回の記事は、ネットでご覧いただけます。こちら↓)

首相も縛るオートコール
(朝日新聞「ニッポン人脈記・民の心を測る」2008年11月28日掲載)

さらにさらに、
萩原さんご自身が、日経新聞で連載しているコラムでも関連ある記事が。
(他の回も、とても参考になる記事なので、そちらもあわせてどうぞ。)

<「世論調査」の死角> 抜け落ちた声はネットにあり
(日本経済新聞「深読み・先読み」2008年11月11日掲載)

「世論調査がどのように行われ、それが政治にどのように影響してきたのか?」に興味がある方はもちろん、「マーケティング・リサーチに置き換えるとどうなのか?」という視点でも考えてみると、日常の仕事にも十分役立つと思います。






『公的統計の体系と見方』

公的統計の体系と見方 公的統計の体系と見方
価格:¥ 3,780(税込)
発売日:2008-08

総務省統計局の広報活動について紹介しましたが、その結果として得られる公的統計について整理している本です。
リサーチでは、一次データだけでなく、公的データを扱うことも少なくないと思います。しかし、そのデータがどのようなデータかを本当に理解して利用しているでしょうか?

帯の紹介文が簡潔なので、まずそちらを紹介します。

統計を利用するときには、理解しておかなくてはいけないことがある。

わが国の公的統計がどのように作られているか、それをどのように利用すればよいのか。統計を探すときやそれを利用するときに必要となる基礎的な、また全般的な知識、考え方を学習してゆく。

で、もくじはこちら。

第Ⅰ部 公的統計の概要
 第1章 統計制度
 第2章 統計調査の仕組
 第3章 統計の利用

第Ⅱ部 分野別統計
 第4章 人口統計
 第5章 労働・雇用統計
 第6章 家計統計
 第7章 生活関連統計
 第8章 事業所・企業統計
 第9章 産業統計
 第10章 経済の構造・動向統計
 第11章 物価指数
 第12章 その他の統計

第Ⅰ部は、いわゆる統計についての概説で、調査手法とか標本調査についてなど、あまり新味はないかもしれません。
重要なのは第Ⅱ部です。それぞれの分野について、公的統計がどういう体系をなし、どのように見るべきか、そして個別の調査についての概要、調査項目、結果の見方について整理されています。

たとえば、市区町村別の人口を調べる時には、どの統計をみるのか。
「国勢調査」を思い浮かべる人と、「住民基本台帳人口要覧」を思い浮かべる人がいると思います。では、この2つの調査で、気をつけないといけないことは何か?(「国勢調査」が5年おきにしか実施されていないというのは、もちろんですが・・・。)

「住民基本台帳人口要覧」は、その名の通り「住民基本台帳」を元にした統計ですので、その点の制約があります。つまり、日本国民でない限り、そして住民票移動の届けをしない限り、データには反映されないのです。たとえば、単身赴任中の方や学生などが実家に住民票を置いたままだと、その人は実家にカウントされているということになります。この点で、調査時点での居住地でカウントされる「国勢調査」とは異なるデータとなる可能性があるわけです。
この本で、実際に「国勢調査」と「住民基本台帳人口要覧」のデータを比べているのですが、20歳前後の人口においてかなりの差があることがわかります(たとえば20~24歳人口を、国勢調査人口に対する住民基本台帳人口の差率でみると、東京都は-7.24%に対し、和歌山県では+13.93%となっています~本書P127より)

このような基本的なデータの見方に対する知見はもちろん、よくある「○○率」という数字の計算方法も必要に応じて記されていますので、この点も便利です。

これまで、公的統計を利用されてきた人はもちろん、これまであまり公的統計を利用してこなかった方も、ぜひ本書に目を通してみてください。公的データだけでも、結構いろいろなデータがあるということがわかると思いますし、もしかしたら、マーケットを見る新たな視点が得られるかもしれません。

PS.
参考までに、公的統計を参照するのに便利なHPを紹介しておきます。

まず、総務省統計局のサイトは、外すことができません↓。
(「e-Stat」のリンク集で、各省庁の主要統計へのリンクを探せます。各省庁のHPで探すのは、結構たいへんなので、これは便利です。)

総務省統計局

政府統計の総合窓口「e-Stat」

民間企業では、ここが便利です↓。主要な統計の月次データが見られます。
(ただし、データダウンロードにはメンバー登録が必要です)

企画に使えるリサーチデータ(J-Marketing.net:JMR生活総研)

個人の方が、運営されているようなのですが、かなり参考になります↓。

社会実情データ図録

年会費や費用がそれなりにかかりますが、公的統計ばかりでなく、オープンデータも含めたデータの検索は、こちら↓。アバウトに「こんなデータは?」でも、探し当ててくれます。

MDBマーケティング・データ・バンク(日本能率協会総合研究所)

『なぜビジネス書は間違うのか』

なぜビジネス書は間違うのか ハロー効果という妄想 なぜビジネス書は間違うのか ハロー効果という妄想
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2008-05-15

この本、タイトル通りの内容~なぜビジネス書は間違うのか~について、紹介するわけではありません。。。
ビジネス書で取り上げられている事例が、数年後にはエクセレントではなくなっていることなど、みなさん、ご承知でしょうから、正直なところ、何をいまさら感は無きにしも非ず、です。
ただ、ビジネス書を読んで、その通りにするとうまくいくと思っている人がいるとしたら、この本は有益でしょう(よくいますよね、「正解」だけを求めたがる人・・・。語られている要因の背景にある文脈などを無視して、表層だけをまねしようとする人・・・)。

しかし・・・
この本を、「なぜ、研究、調査、リサーチが間違うのか」という視点で読むと、これは使えるのではないかと思ったのです。とくに、最初の2ページ~4ページに書いてあることがポイントです。(実際、このページを見たから、この本を買ったのですが。)

核心はもう少しあとで。
まずは、いつものようにもくじから。

第1章 わかるのはほんの少し
第2章 シスコ・ストーリー
第3章 ABBの栄光と転落
第4章 ハロー効果のまばゆい光
第5章 企業調査は答えを教えてくれるのか
第6章 星を探し、ハローを見つける
第7章 積み重ねられる妄想
第8章 ストーリー、科学、多重人格的超大作
第9章 ふたたびビジネスの最大の疑問
第10章 エセ科学に惑わされないマネジメント

この本、タイトルがよくないのかも。。。
主題は、「はじめに」に書いてあるように、

企業パフォーマンスの要因を理解するのはなぜ難しいのか

だと理解するのがいいと思います。
そもそも、経営やマーケティングが「科学」なのか?科学は、要因をコントロールした実験室での実験が基本的に可能ですが、経営やマーケティングで、要因を完全にコントロールした実験など、そもそも難しいのですから。
(全否定をするつもりはないですので、その点は了解ください。)

それと、著者のいう「レポート」と「ストーリー」という対比も興味深いです。

レポートとは、何よりも事実を伝えることであり、作意や解釈が紛れ込んではならない。(・・・中略・・・)他方、ストーリーは人々が自分の生活や経験の意味を理解するための手段だ。よいストーリーの条件は、事実に忠実であることではない。それよりも、ものごとが納得いくように説明されていることが重要なのである。

(中略)

ストーリーがいけないのではない。ストーリーだとわかって読むならかまわない。ところが油断ならないことに、科学の仮面を被ったストーリーが知らぬ間にはびこっている。いかにも科学です、という顔をしているが、そこには真の科学の厳密さも論理もない。

ここでは、ビジネス書の多くが「レポート」ではなく「ストーリー」だということを言っているのですが、私たちがふだん書いている調査報告書はどうでしょう・・・。
(調査報告書も、「ストーリー」が悪だ、などと決め付けるつもりはないです。「ストーリー」が必要な場面は、いっぱいあるのも承知しています。ただ、「ストーリー」の前提となった「レポート」も、きちんとあるべきだとは思っています。)

さて、今日の本題であるこの本のポイント。
ほんとは、ルール違反の引用になるかもしれませんが、あえて紹介しておきます。
ビジネス書が間違う背景にある「妄想」として、つぎの9つをあげています。

妄想1 ハロー効果
妄想2 相関関係と因果関係の混同
妄想3 理由は1つ
妄想4 成功例だけをとり上げる
妄想5 徹底的な調査
妄想6 永続する成功
妄想7 絶対的な業績
妄想8 解釈のまちがい
妄想9 組織の物理法則

これらをみて、「なるほど」とか「あたりまえだな」と思う方は、本書は読む必要はないです。
一方、「よくわからないな」と思った方。本書を読んで、「なぜ、研究、調査、リサーチが間違うのか」を一度考えてみた方がいいかもしれません。

『思考・論理・分析』

思考・論理・分析―「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践 思考・論理・分析―「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2004-07

連投で。(紹介したい本がいくつかあるので、しばらくは本シリーズになりそうです。。。)

前の「分析力が~」などの本を読むと、大量データ時代、分析力が必要だということはわかります。しかし、ここで陥りがちなのが、「分析ばかり症候群」あるいは「アナリスト気取り」だと思うのです。

データを集めて、エクセルでピボット集計や回帰分析(エクセルでもできてしまうんです)をしてみる。あるいは、SPSSとかクレメンタイン、SAS、テキストマイニングなど、ちょっと高度なソフトをまわしてみる。すると何らかの結果は出るので、自分では“分析”をしたようなつもりに陥る人が増えるのではないか、という危惧があるのです。
さらに、その分析は必要な分析なのか?、役に立つ分析なのか?、なんらかの知見が得られているのか?、ためにする分析になっていないか?、そもそも間違った方法・視点で分析していないか・・・?

そこで、「分析とは、なんぞや」ということに、いまいちど立ち返ってみる必要はないかと。そして、その方法論(ノウハウではありません)も、いまいちど理解する必要があるのではないかと。。。
そんな問題意識で出会ったのが、今回の本です。

では、いつものように、もくじを。

第1章 思考
 Ⅰ.1 思考とは
 Ⅰ.2 「分ける」ための三要素
 Ⅰ.3 思考成果
 Ⅰ.4 因果関係
 Ⅰ.5 思考の属人性
第2章 論理
 Ⅱ.1 論理とは
 Ⅱ.2 論理展開
 Ⅱ.3 論理展開の方法論
 Ⅱ.4 正しさの根拠
第3章 分析
 Ⅲ.1 分析とは
 Ⅲ.2 分析作業
 Ⅲ.3 合理的分析の方法
 Ⅲ.4 論理と心理

各章とも、「○○とは」で始まってます。なので、人によっては理屈っぽいと感じるかもしれません。大学の教科書的な雰囲気です。(Amzonでも、「わざと難しく書いているのでは」という批評もありました)

けど、それでいいと思うのです。本書を読む目的は、「そもそも、分析とは何ぞや」を確認・理解するためなので。著者も「はじめに」で、つぎのように書いてます。

(筆者注:論理思考に関する関心の高まりもあり、書店には多くの本が並んでいる。という文脈に続いての記述です。)
ただし、残念な点もある。それは現在数多く存在する論理的思考の解説書のほとんどが、論理的思考のテクニックとフォーマットを紹介したハウツウ本にとどまっている点である。論理的思考プロセスをフォーマット化して、各人が指導要領に従ってフォーマットを埋めていけば論理的思考的な手順を踏めるというようなマニュアル本になっているのである。
これでは本当の論理的思考力を習得するのは難しい。なぜなら、マニュアルに基いてフォーマットを埋める行為とオリジナルの思考とは、本質的に正反対の性質のものだからである。

同意です。
「ほんとうの論理思考」を習得するなら、このような本を一冊は読んでおくべきだと思います

◆プラスして

「思考」ということに関しては、つぎの2冊もお勧めです。
(↑の本にもまして、大学の教科書的ですが。。。)

知的複眼思考法―誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫) 知的複眼思考法―誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫)
価格:¥ 924(税込)
発売日:2002-05

常識やステレオタイプに囚われないものの見方をするにはどうすればいいか。
これがテーマです。そして、いま必要なのは、「問をどうたてるか」。
けっこう読みやすい文体だと思います。

創造の方法学 (講談社現代新書 553) 創造の方法学 (講談社現代新書 553)
価格:¥ 735(税込)
発売日:1979-09

1979年出版、なのにいまだに増刷を重ねています。それだけ良い本だということです。
ただ、少々骨がおれるかもしれません。

◆とはいえ、「もっと使える本は?」という方へ・・・

「確かに学生ならいいかもしれないけど、こっちは毎日仕事してんだよ。もっと、手っ取り早いのはないの?」という方へ。。。   (ひよった・・・)

ビジネス数字力を鍛える (グロービスの実感するMBA) ビジネス数字力を鍛える (グロービスの実感するMBA)
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2008-07-04

いま流行の「プチ物語+解説」という体裁です。
こちらは、一応もくじをあげておきますか。。。

第1章 目的を明らかにし、仮説を持つ
第2章 数字を加工する
第3章 解釈し、意味合いをつむぎだす
第4章 分析結果を伝える
第5章 マネジャーとして数字を読む

リサーチ会社で企画・分析をするなら、ここで書かれていることは最低限理解してないと、という内容です(それだけ、初歩的内容だということでもありますが)。
当然リサーチ以外でも、ビジネスマンなら必要なスキルです。

(でもやっぱり、最初の3冊も読んで欲しい・・・)

『分析力を武器とする企業』

分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学 分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2008-07-24

最近は、リサーチ関連の本とともに、「分析力」をキーワードとした本も多く出版されてます。
今回紹介するのはその中の一冊で、概論的にまとまっていると思った本です。

キーワードは、「ビジネス・インテリジェンス」。
たとえば、↓のHPでもわかりやすく整理されています。(というか、このHPで紹介されているものと同じチャートが、本書の中でも引用されています)

進化するビジネス・インテリジェンス(COMPUTERWORLD.JP)

いま、データソースはリサーチからだけではありません。とくにIT革命以降、企業はさまざまなデータを入手できるようになりました。本書でも書かれていましたが、「データのコモディティ化」といえるような状況がおきつつあります。さらに、パソコンの処理量も速度も飛躍的に増し、さまざまな分析ツールを実用的に使えるようになりました。
(いつか、どこかで、同じようなことを書いたような気がしますが・・・)

このような時代背景から、「分析力」が企業の競争優位を産み出す、というのが本書の主張です。(原題はダイレクトに、"Competing on Analytics")

では、もくじ。

第1部 分析力を武器とする企業の特徴
 第1章 データ分析で競争に勝つ
 第2章 こんな企業が分析力を武器にしている
 第3章 データ分析を業績に結び付ける
 第4章 社内へデータ分析を活用する
 第5章 社外へ向けてデータ分析を活用する

第2部 分析力を組織力にする
 第6章 分析力活用のためのロードマップと組織戦略
 第7章 分析力を支える人材
 第8章 分析力を支える技術
 第9章 分析競争の未来

もくじをご覧いただくとわかるように、第1部では分析力とは何かについて事例や調査結果を踏まえて論じ、第2部では分析力を活かすための組織づくりについて論じています。ただし、分析の具体的なノウハウを紹介しているわけではないので、その点は注意してください。
(分析の具体的なノウハウを求める方は、統計・解析の専門書が必要になります。。。)

Amzonの書評でも指摘している人がいますが、結局、分析力を活かせるかどうかは組織に関わってくるような気がしています。たとえば、CIOの役割。本書では、つぎのように述べています。

言うまでもなくCIOはITの総責任者であり、分析力の技術面に関しては陣頭指揮を執るポストである。だが、CIOの仕事はそれだけではない。確かに社内に分析システムを構築するには専門家が必要だが、何もCIOが努める必要はない。専門家を呼んでCIOが監督をしても十分間に合う。
それよりもCIOが心すべきは、肩書きの「I」の部分、つまり情報である。情報は正確か、信頼できるか、実態を正確に反映しているか。そこに注意を注ぐべきだ。

このような時代の中での、調査会社、リサーチ会社のポジションは?
たとえば、つぎのように言及しています。

(筆者注:分析ビジネスに携わる企業には、データ販売を行う企業もある~たとえば、ダンハンビーなど~、という流れの中での言及。)
ただしたいていの場合、情報を売ってもらうだけではお客さんは満足しない。その情報をどう解釈しどう活用するのかも教えてもらいたがっている。そこで、情報と一緒にコンサルティングも提供することが必要になる。

「ビジネス・インテリジェンス」とは何か、「分析力」を競争優位に活かすとはどういうことか、「分析力」を競争優位に活かすための組織づくりはどうすればいいのか。
これらについて理解したい人は、本書をどうぞ。

◆さらに、関連書もいくつか。

その数学が戦略を決める その数学が戦略を決める
価格:¥ 1,800(税込)
発売日:2007-11-29

テーマはほとんど一緒だと思います。訳者解説では、「本書の中心テーマの一つは、大量データ解析が各種の意思決定にますます活用されているということだ」と書いてますので。
何が違うかというと、こちらの方が少し統計・解析の内容的なものにも触れている、という点でしょうか。

マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫) マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫)
価格:¥ 798(税込)
発売日:2006-03-02

「分析力~」でも、「その数字~」でも取り上げられている共通の事例がこれ、ベースボールでのセイバーメトリクスです。この本、出版当時かなり話題になったので、すでに読まれている人も多いと思いますが、もう一度「分析力」という視点で読み直すのもいいかもしれません。

戦略的データマイニング アスクルの事例で学ぶ 戦略的データマイニング アスクルの事例で学ぶ
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2008-04-17

Tesco顧客ロイヤルティ戦略 Tesco顧客ロイヤルティ戦略
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2007-09

いずれも、“もっと個別事例を深く知りたい方”向け。
アスクルは、データマイニングの教科書としてもいけそう。
Tescoは、「分析力~」でも取り上げられている事例です(実は未読です。お世話になっているOUTLOGICさんのblogで知りました↓。こちらもあわせて、ご覧いただければ。余談ですが、最近のOUTLOGICの読書傾向、かなりかぶってます。。。)

データマイニングを活用したマーケティング動向(OUTLOGIC)

そういえば、「ガイアの夜明け」や「日経MJ」で取り上げられていた事例で、オギノというSMの事例もありました(詳しくは、↓こちらのblogを参照してください)

ガイアの夜明け「地元密着スーパーの逆襲」を見ました(名経大経営学部のブログ)

『経営の美学』

経営の美学―日本企業の新しい型と理を求めて 経営の美学―日本企業の新しい型と理を求めて
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2007-11

続けて、もう一冊。
こちらは、まさに「経営書」です。トップの心得レベルの話です。
なぜ、連投でこの本も紹介しようと思ったかというと、前の本(『マーケティング優良企業の条件』)で取り上げられている企業で、こちらの本でも取り上げられている企業が多いからです。
前の本は、マーケティングの現場の話でしたが、こちらの本をあわせて読んでいただくと、より背景の部分も理解できるのではないかと思って、連投でご紹介しています。

以前(まだ若かりし頃)、マーケや経営をやっている先生や実務家がお年を召してくると、「愛」とか「美」とか、かなり抽象度の高い話をし始めるのはなぜなんだろうと思っていました。
最近、なんとなくその気持ちがわかるようになってきました。(とくに、90年代後半から今にかけての、様々な企業の不祥事や栄枯盛衰等を見るにつけ・・・)
この本も、まさにこのようなテーマの本だといえます。(そんなに抽象度が高いわけではありませんが)

もくじを。

序章 価値創造の構造と基軸
第1章 価値創造を語る ~福原義春、小林陽太郎、井関利明
第2章 相対から絶対の競争へ ~坂田藤十郎+野中郁次郎、中谷巌、嶋口充輝
第3章 市場原理と人間原理の綜合 ~野中郁次郎、槍田松瑩
第4章 環境変化への柔軟かつ機敏な対応 ~竹内弘高、武藤信一、前田新造
第5章 社会に対する価値創造 ~伊藤邦雄、大星公二、寺島実郎
第6章 イノベーションへの情熱 ~宮田秀雄、米倉誠一郎、岩田彰一郎
第7章 価値創造の実践 ~岩沙弘道、藪土文夫、長島徹
第8章 価値創造のリーダーシップ

本書はフォーラムでの講演を元に書かれていますので、内容は思ったほど難解ではありません。むしろ、この手の本の中では、わかりやすい、読みやすい本ではないかと思います。

将来的に、いわゆる「上」を目指す方には、ぜひ本書は読んでいただければと。。。
やはり経営は、テクニックではなく、考え方・志だと思うんですよね。
「まえがき」から、本書のスタンスをご紹介しておきます。

未来の経営は、ますます量から質の経営に移行し、そこではかつてのような戦争型の相対競争時代から社会や顧客の価値を追求する絶対競争の時代になる。この絶対価値の創造と追求は、時代の進展とともに新しい形態となって出現するため、絶えざるイノベーションが不可欠になる。しかし、企業はそのイノベーションの実行においても、自らの経営の型を常に確認・精緻化し、市場原理と人間原理を統合・融合させながら永続性を追及する。ここにこそ未来の日本的経営の美学がある。

『マーケティング優良企業の条件』

マーケティング優良企業の条件―創造的適応への挑戦 マーケティング優良企業の条件―創造的適応への挑戦
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2008-01

「エスノグラフィという手法」という記事で、手法は手法として大切だけれども、リサーチの結果を使いこなす体制も重要だということを書いたと思います。
この点について、ケースで学ぼうというのが、本書のテーマです。

取り上げられている9社は、あちらこちらで取り上げられたり、語られたりしている優良企業といえるでしょう。

その9社、もくじで確認しましょう。

序章 マーケティング優良企業を求めて
第1章 マーケティングリテラシーのための論理
第2章 調査の独立性が意味すること(花王:調査部)
第3章 市場情報を循環させる「心臓」(資生堂:お客さまセンター)
第4章 他社との連携による新製品開発(アスクル)
第5章 失敗から学ぶ組織文化(サントリー:マーケティングサポートセンター)
第6章 情報の多重展開(積水ハウス:納得工房)
第7章 経路依存的に構築される仕組み(カルビー:営業部門)
第8章 反応スピードを加速するSAPS(ユニ・チャーム)
第9章 マーケティングの持続力(ネスレコンフェクショナリー:「キットカット」)
第10章 ターゲットを絞り込んで反応する(松下電器産業:「レッツノート」)
終章 市場への創造的適応

いかがですか?いくつのケースをご存知でしたか?
結構、知っているケースばかりかもしれません。逆にみると、マーケをやっているなら知っておくべきケースばかりとも言えるかもしれませんが。。。

本書のテーマは、「市場志向の組織と戦略」です。
表紙とびらの折込から引用します。

マーケティング優良企業9社の市場情報の活用と展開の仕組みを徹底解剖

・把握
市場調査の結果などが組織的に理解され、
必要な時に必要な形で把握されているか?

・普及
市場から集められた情報が、
マーケティング部門だけでなく、
製品開発部門などの組織全体に行き渡っているか?

・反応
反応すべき顧客の声を見極め、
適切な意思決定やマーケティング展開に活かしているか?

これらを組織的に展開できている企業が、市場の声に応え続けられる強い企業であるという結論になります。
引用したいポイントも多かったのですが、本書を読んで、皆さんご自身で確認してください。

そして、ケースを読むときの注意点を。
ケースは、あくまでケースであり、この本に書かれているケースと同様のことを実施したからといって決してうまくいくとは限りません。むしろ、失敗することが多いのではないかと思います。(同じことを実施すること自体が、まず難しいのですが。。。)
ケースは、その背景にある考え方を理解するためのものだと思います。何をやっているのか、どうやっているのかといった表層ではなく、何を目的に、キーとなるポイントは、を見つけることが重要だと思います。
学ぶのは「方法、ノウハウ」ではなく、方法『論』である、という気持ちで。

『視聴率調査はなぜウチに来ないのか』

視聴率調査はなぜウチに来ないのか (青春新書INTELLIGENCE 189) 視聴率調査はなぜウチに来ないのか (青春新書INTELLIGENCE 189)
価格:¥ 767(税込)
発売日:2008-01-08

今回紹介するのは、上記の本。
amazonのコメントにもあったのですが、この本のタイトル、はたしてこれでよかったのか。。。
「さおだけや~」以降、こんな感じのタイトルが多いですけど。

この本は、決して「視聴率調査」について書いた本ではありません。テーマは、マーケティングです。タイトルだけ見て手に取らない人もいるかも、と思いここで紹介しておきます。
著者は、日経文庫で「コトラーを読む」という本も書いている酒井さん。難しいことを、やさしく説明するのは、たいへんなことですが、「コトラー~」にしても、本書にしても、この壁を乗り越えているのではないかと感じました。
(あ、よくマーケティング・リサーチの本を書いていらっしゃる酒井(隆)さんとは、別の酒井(光雄)さんです。念のため。)

内容は、マーケティングの様々なテーマを、日常の事例を取り上げながら、コラム的に紹介しています。すでに、マーケティングの奥底に関わっている人には、もの足りないと思いますが、学生さんや、社会人1年生、いままでマーケティングについてあまり考えたことがないけど興味がある、という人にとっては、いい導入になるのではないかと思います。
(730円なんだから、これくらいの本は読もうね>社会人1年生のみなさん)

では、もくじ。(どのレベルで紹介しようか迷いましたが、本書の内容を理解してもらうには、項目レベルで紹介したほうがいいだろうと思い、長くなりますが30項目を並べます。)

1章 「エルメスのケリーバックが1万円」はありうるか?~市場と顧客を知る
1.BMWと「洋服の青山」のマーケティングの違い(顧客の設定と市場規模)
2.銀座・表参道と「かっぱ橋」の共通点(エリア特性・商圏特性)
3.女性をとりこにする店の「商品の秘訣」とは?(ブランド・コンセプト・哲学)
4.スウォッチの「4千円から数百万円まで」という発想(想定顧客層)

2章 「20代のモデルが広告している化粧品」を買っている世代とは?~商品開発
5.「永遠に売れる」4つのテーマ(商品開発のテーマ)
6.売れる”サプライズ”を生むプロの共通点(仮説立案の重要性・定量調査と定性調査)
7.プロは、いつどのようにお客さんを観察しているか(潜在欲求の発見)
8.お客さんの実際の年齢ではなく「マインドエイジ」で考える(顧客年齢の設定)
9.ヒット商品をロングセラーに育てるカラクリ(顧客の価値・商品の陳腐化防止)
10.アサヒビールとDHCの”強みを生かす”方法(商品のポジショニング・マーケティングの戦略)

3章 「婚約指輪は給料の3か月分」は日本だけの”常識”~マーケティングプランの立案とブランドづくり
11.「限定商品」はなぜ生まれるのか(マスプロダクトとセグメントプロダクトの違い)
12.スーパーや量販店は、どうしてどこでも同じものを売っているのか(マスプロダクトとマスメディアの関係)
13.同じものでも、どこで売るかで運命は分かれる(販売チャネル・販売方法)
14.「あなただけにお知らせします」という広告、販促の効果(広告・販促)
15.日本中をその気にさせた、デ・ビアスのすごい発想(市場に商品を導入するタイミング・世論をつくるコミュニケーション)
16.権威志向の男性こそ”最高のお客さん”になる理由(男性心理と女性心理の違い)
17.「バレンタインデー=チョコレート」の必要はあるか(商品の選択肢)

4章 スターバックスが広告しなくても流行る理由~メディア特性とコミュニケーション
18.売れる商品は「情報の塊」だ(企業と商品の情報力)
19.無料のメディアは、どうして経営が成り立っているのか(無料メディアが見られる仕組み)
20.メディアの特性に合わせた広告のいろいろ(コンテンツと広告の関係性)
21.マスメディアを使わず成功したクリスピー・クリーム・ドーナツ(街のメディア化)
22.テレビ通販会社が広告費で潰れないカラクリ(反復してアピールする力・年配の人たちの新たな需要)
23.女性が「洗濯したあと、においをかぐ」という大発見(広告心理)
24.”検索すると出てくる情報”の質と量が、企業の信頼度を高める(マスメディア社会からネット社会へ)

5章 レクサスを「トヨタ」で売ったら、どうなるか~プロモーションプラン
25.1円も割引せずにファンをつくったお店の秘密(生涯顧客づくり)
26.意外に知らない「マイレージ」の裏側(固定費がかかる企業と一般企業との割引制度の違い)
27.ネット予約で、シティホテルが安く泊まれるしくみ(サービス業のプロモーション)
28.オマケ付きキャンペーンはどうして減ってきたのか(サンプリング)
29.「セルシオ」をやめて「レクサス」にしたトヨタの戦略(付加価値・ブランド)
30.クチコミが生まれる4つの条件(パブリシティ活動)

(ふぅ~)

さて、気づいた方、いらっしゃいますか?本書のタイトルである「視聴率調査はなぜウチに来ないのか」が、ありません・・・。実は、このテーマは「はじめに」で書かれています。。。

本書でマーケティング・リサーチについて書かれているのは「6」です。内容は前回紹介したエスノグラフィに通ずるものがあるかもしれません。

調査ではお客さんの反応がとても良く、「これなら買いたい」という結果が出ているのに、発売してみたら売れないということがあります。
人はアンケート調査に答えるときには積極的で肯定的に答えますが、実際に行動を起こす時には消極的で否定的に行動する傾向が強いからです。お客さんに調査をして、「答」を教えてもらうのは難しい時代になってしまったのです。

ほんと、そうですよね。(そもそも、「お客さんに答えを直接聞こう」という前提自体が、間違っているとも思いますけど。)

本書の紹介は以上にして、ほんとうに「視聴率」について知りたい人は、↓の本がお勧めです。

視聴率の正しい使い方 (朝日新書 42) (朝日新書 42) 視聴率の正しい使い方 (朝日新書 42) (朝日新書 42)
価格:¥ 756(税込)
発売日:2007-04-13

著者はビデオリサーチに在職したことがある方のようなので、内容は確かだと思います。
一応、もくじを紹介しておきます。

第1章 視聴率・5つの神話
第2章 視聴率はどう調べているか
第3章 視聴率で何がわかるか(入門編)
第4章 視聴率で何がわかるか(実践編)
第5章 視聴率の限界と課題
第6章 視聴率調査の未来

ね、本格的でしょ?

ついでに、酒井さんの「コトラー~」は、↓の本です。

コトラーを読む (日経文庫 F 56) コトラーを読む (日経文庫 F 56)
価格:¥ 903(税込)
発売日:2007-04-14

『社員満足の経営』

社員満足の経営―ES調査の設計・実施・活用法 社員満足の経営―ES調査の設計・実施・活用法
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2007-03

この本、正直驚きです・・・。
ここまでノウハウをさらけだしていいのでしょうか?、という意味で。
著者はシンクタンクのコンサルタントなのですが、社員満足度調査(ES調査)について、これほど丁寧に書かれている本は、他にはないと思いますが・・・。

もくじは、つぎのようになっています。

1章
ビジネスストーリー1 ゲーム業界の大型経営統合
Lets ESサーベイ1 社員満足度とは何か
2章
ビジネスストーリー2 ESとCSの関係を学ぶ
Lets ESサーベイ2 ES調査を実施する
3章
ビジネスストーリー3 分析手法を身につける
Lets ESサーベイ3 集計結果を分析する
4章
ビジネスストーリー4 聖域にメスを入れろ
Lets ESサーベイ4 社員満足経営を実践する
5章
ビジネスストーリー5 若手社員がやめていく
Lets ESサーベイ5 元気な会社はどこが違うか
6章
ビジネスストーリー6 経営改革に終わりはない
Lets ESサーベイ6 分析結果を戦略的に活用する

最近の流行でもあるのですが、ストーリー形式と解説を交互に進める構成になっています。
基本的には、ES調査をどのように進め、結果をどのように活用するかについて、具体的に解説されています。ただ、具体的すぎて、大丈夫ですか?と問いたくなるくらい・・・。
コンサルタントだけあって、ところどころに差し込まれているチャートもわかりやすく、ES調査の解説本として良書であるばかりでなく、調査・リサーチの解説本としても良書だと感じました。とくに、1章~3章を丹念に読んでいただければ、リサーチフローに沿った作業イメージの理解は、かなり進むのではないかと思います。
反則かもしれませんが、チャートの標題の一部も紹介しておきます。

    • 調査プロジェクト・スケジュール
    • プロジェクトフロー
    • ES構造の仮説設定
    • 調査票の設計
    • 分析モデルの設計
    • 調査目的の明確化
    • 調査票設計の流れ
    • 満足度構造分析
    • 階層別フィードバック例

このように、リサーチの解説書としてもお勧めなのですが、はじめに書かれているつぎの視点に共感したのも、本書をお勧めするポイントとなっています。

このような考え方の根底にあるのが、「社員満足」(ES)の向上が「顧客満足」(CS)の向上をもたらし、それが企業業績の向上につながって「株主満足」(SS)を満たし、企業価値の創造に寄与するという社員満足経営(ES経営)の基本モデルである。

「人は石垣、人は城」。武田信玄だったでしょうか、この言葉を今一度、考える必要があると思います。

私もこれまで、いくつかの企業のCS・ES調査に関わってきましたが、CSとESは密接に関連していることが少なくありません。社員が満足して働いていなければ、あるいは働きやすい環境になければ、お客様に満足していただくことはやはり難しいでしょう。また、CSで明らかになった改善ポイントが、社員の日常的な活動における阻害要因(機能的要因かもしれませんし、モティベーション的な要因かもしれませんが)に原因が求められることもよくあることです。
ですから、CS調査を行うと同時に、ES調査を行うことは必須であると言っても過言ではないと思います。ただし、CS調査とES調査を、どう関連づけて設計するかということがポイントになるのですが。

最後に、やはり「はじめに」からの引用で。

ESの重要性は理解していても、その測定方法がわからない、実際にES調査は実施しているものの、その有効な活用方法がみつからないという企業は少なくない。そのような企業のES担当者にこそ、本書をご一読いただきたいと考えている。

そして、ES調査に限らず、「調査・リサーチは、どうやって進めるんだ?ポイントは?」と思っている方にも。