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『売れないのは誰のせい?』

売れないのは誰のせい?―最新マーケティング入門 (新潮新書 220) 売れないのは誰のせい?―最新マーケティング入門 (新潮新書 220)
価格:¥ 714(税込)
発売日:2007-06

「最新マーケティング入門」というサブタイトルで手に取りましたが、著者もblogで言っているように、“マーケティングをネタにしたエッセイ的な読み物”というのがあたっているような気がします。

まずは、もくじ。

序章  二つの「買ってください」
第1章 市場にingをつける発想
第2章 ブランドは魔法の杖か
第3章 急増した「日本人の種類」
第4章 ああ言えばこう買う?
第5章 テレビは本当に強いのか
終章  他者を知るということ

この本を読むと、マーケティングの基礎的なことが理解できるという内容では決してありません。読むうちに、「確かにそういうことも考えないといけないね」、ということを感じさせてくれる内容だと思います。
ただ、著者が広告代理店出身ゆえか、基本的には広告やコミュニケーションを軸にした展開が主流になっていますので、商品開発とか、価格・流通についての内容を期待している人には、向かないかもしれませんが・・・。

で、著者がおそらくメッセージとして伝えたかったことは、つぎの一文だと思いました。
(もしかしたら、こちらがそう思っているので、琴線に触れただけなのかもしれませんが)

一言で言えば、他者を知ろうとすること。それがマーケティングの原点だと思う。

そして、「他者のことを知る」ためにはどうしたらいいか。つぎのように続けます。

何も特別に難しいことをするわけではない。だが、まず手をつけるのはリサーチにも少々お金や人を割くことであろう。消費者の声を聞くには手間がかかるしお金もいる。だが、それはマーケティングに関わるお金を再配分すれば捻出できるだろう。先の章にも書いたようなテレビCMのより効果的な利用によって十分可能だと思う。
何せ、テレビCMのためのコストはかなり高い。リサーチの世界とはゼロがふたつ、いや三つ違うようなお金が動いている。もちろんテレビCMも効く場合があるのだが、そのあり方を冷静に見直した企業からつぎのステージへ進んでいくだろう。

ありがとうございます。ほんとに、広告費(約6兆円)の1割でもリサーチに回していただければ・・・。

最近、マーケティング・リサーチ関連の本が結構出版され、マーケティング系の本も顧客を知ること、感じること、一緒につくることをテーマとしたものが多いように感じています。きっと、ほんとうに顧客を理解することは難しいと感じている人が増えたからではないかと、思っています。
さて、世のリサーチ会社はこのような状況を感じているのか、そして、それに応える努力を行っているのか。

「やっぱり広告に費用を回した方が売上に繋がるよ」となるか、「リサーチって大切だね、もう少し費用をかけないと」となるか・・・。

PS.
「顧客理解」の視点からの本で、わりとおもしろいと思ったものをいくつか。

できない人ほど、データに頼る できない人ほど、データに頼る
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2007-04-20

(↑この本は、こちらのエントリーでも紹介しています)

超地域密着マーケティングのススメ 超地域密着マーケティングのススメ
価格:¥ 1,523(税込)
発売日:2007-03-31

顧客力を高める 顧客力を高める
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-05-25

『できない人ほど、データに頼る』

できない人ほど、データに頼る できない人ほど、データに頼る
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2007-04-20

「仮説って、どうやって考えるの?」という方、本書を読んでみてください。

ただ・・・
これは強調しなければいけないのですが、「できない人ほど、データに頼る」であって、「できる人は、データに頼らない」ではない、ですからね。ここのところを間違ってもらっては、困りますので。実際、この本に出てくるできる人達も、結構、調査をやっていますから。
著者は、インターブランドというコンサル会社のディレクターで、翻訳本です。原題は、“SEE、FEEL、THINK、DO~The power of instinct in business”。かなりの意訳です・・・。

まずは、もくじから。

序章 それでも、まだデータに頼るのですか?
第1章 すべては「見て、感じて、考えて、実行する」から生まれた
第2章 見る~実際に自分の目で確かめなければ何もわからない
第3章 感じる~顧客の心に共感できるか
第4章 考える~「なぜだろ?」子供のように自問しよう
第5章 実行する~直感を信じて行動に移そう
第6章 疑問を持ち続けることが成功を引き寄せる
第7章 見て、感じて、考えて、実行した勝者たち

う~ん、やはり調査否定のように感じますかね。。。
「序章」で、著者はつぎのように言っています。

本書は、調査機関やコンサルティング会社、MBA(ビジネススクール)を決して批判するものではありません。もう少し自分の本能を信じて、お客様との距離を縮めてはどうですかと呼びかけているのです。仕事だけではなく、何年にもわたる経験から得た知識と直感をもっと信じるべきです。もちろん情報に基づいて決断する必要はありますが、そこには感情も存在していなければなりません。見たいものを見ようとするのではなく、ありのままを見る。感情を排除するのではなく、感じるものを感じる。いま起きていることに対して、はっきりと焦点を当てて考える。そして、調査結果を鵜呑みにするのではなく、参考にして実行する。

ポイントは、「お客様との距離を縮める」です。そして、なぜだろうと考えることが大切なのです。ここから、仮説が生まれます。

もうひとつ間違って欲しくないのは、「経験から得た知識と直感」をもっと信じることは大切ですが、決して「見たいものを見る」ではなく、「ありのままを見る」ということです。よくあるのが、業界に長いこと居て、その分野の「プロ」になってしまっているにもかかわらず、自分の考え=お客様の考えと勘違いしてしまうことです。よくいますよね、「どうして、この味がわからないのだろう?」「どうして、こんな便利なものを使わないのだろう?」という、ある意味、傲慢な視点で語る方々が・・・。このような人達は、見たいものを見ている、自分の物差しだけですべてを解釈しているから、同じ「見る、感じる、考える」でも間違った方向に行ってしまうのです。
消費者は決してその分野のプロではない、ということを忘れてはいけないと思います。「ありのまま」を見て、感じることが大切だと思います。その上で、プロの視点からもう一度、解決策を考えていく、仮説をつくり、実行していく。
著者が伝えたかったのは、そういうことではないかと、自分なりの解釈をしています。

翻訳書にしては、文章が平易なのでわりと読みやすいと思います。ただ、事例が外国の企業なので、なじみがない場合も多く、その点が少々難ありでしょうか。。。

『ヒット商品を最初に買う人たち』

ヒット商品を最初に買う人たち ヒット商品を最初に買う人たち
価格:¥ 735(税込)
発売日:2007-03-16

【2007.3.28追記しました】

(またまた本紹介です。寺子屋は4月から再開予定です、すいません<(_ _)>)

前回紹介した『シンプルマーケティング』の著者・森氏の、新書による新刊です。
テーマはイノベータ理論を使っての商品ヒットについての分析、解説です。
今回も、具体的な事例を使ってのわかりやすい内容になっています。

もくじは、以下。

第1章 最初に手を出す人たち
第2章 ヒットを作る「イノベータ」たち
第3章 ヒットの寿命もイノベータ次第
第4章 ヒットを狙う企業の戦略
第5章 ゲームの理論を変える革新的イノベータ

森氏のイノベータ理論は、「イノベータ」「アーリーアダプタ」「フォロワー」の3分類で、日本での分布を、イノベータ=10~12%、アーリーアダプタ=15~35%、フォロワー=60~70%としています。
ロジャースの普及理論をすでにご存知の方からすると、この言葉の使い方は少々混乱するかもしれませんので、その点は注意が必要かもしれません。

1章で「ヘルシア緑茶」「ニンテンドーDS」「iPod」を事例にヒット過程を検証していきます。
2章では、イノベータがどんな人たちかを解説します。
3章では、この3分類を軸とした購入意向を指標としながら商品のプロダクトライフサイクルの見極めを行う方法を解説します。
4章では、ヒットを狙う企業サイドからの方法論として、プロダクトコーン理論とスキミング戦略/ペネトレーション戦略の視点から解説します。
そして5章。おそらくこの本のポイントだと思うのですが、革新的な商品は市場のルールを変える商品だとして、ルールを変える消費者を「革新的イノベータ」と定義します。そして、「伝統的なイノベータ」と「革新的イノベータ」が存在するダブルイノベータ構造が生まれます。詳しくは、本書を読んでいただくとして、リサーチの視点としては、つぎの文章が参考になります。

革新的イノベータは、つまり、いくら「その商品を買っている人」を調べても発見できません。しかし、多くの企業は、自社に関連する商品のユーザーしか調査していません。たとえば、ビール会社なら「ビールを週に1回以上を飲む人200人を対象としたアンケート調査」、ゲーム会社なら「ゲーム機を週3回以上使う人を対象としたアンケート調査」などです。ましてや、「自店に来店する顧客1000人を対象としたアンケート調査」しかしないファミレスもある。これでは、従来のルールに則った常識的な反応しか返ってきません。
この方法はマーケティング的には間違いではありませんが、たとえばiMACのような「パソコンを滅多に使わない人」「今までパソコンを使っていなかった人」の中から革新的イノベータを見つけることはできません。

・ビールを飲まないのはなぜなのか
・ファミレスをかつては利用していたのに、現在滅多に来店しないのはなぜなのか

こういった視点からしか革新的イノベータを見つけることはできないのです。

リサーチの設計、とくに「誰を対象とするのか」は、とても大切です。
このあたりを理解しているか、いないかでリサーチが有用なものになるか、ならないかが大きく異なるでしょう。

マーケティング初級者~中級者にお勧めの本です。
さらに、つぎの2冊もあわせて読むといいと思います。

キャズム キャズム
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2002-01-23

ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2006-05-16

最後に、少々苦言を・・・。
校正が、全般に甘い感じです。ソフトバンクとはいえ出版社なのですから、もう少しきちんと校正を行って欲しいものです。読む時の障害となってしまうこともありますが、119ページにあるようなミスは本書の信頼性を損なってしまいます。(こちらの読み違いかとも思ったのですが、たぶんミスです。ちょっと出版社に確認してみますが。)せっかくの良書なので、このあたりが残念です。

【2007.3.28追記】
上記の「119ページにあるようなミス」の件、出版社より返信をいただきました。
該当部分を、以下に紹介します。

この部分では、『ポカリスエット』や『オロナミンC』は他社製品で同等の広告費を掛けている例であり、これは、ケンタッキー・フライドチキンやカルピス食品工業1社分の年間広告費にあたります…という点を述べたかったとのことでございました。
増刷の段階で、このあたりは修正させていただきたいと考えております。

「コカ・コーラ」のように30億規模の広告費を使っているブランドの例として、他にも「ポカリスエット」「オロナミンC」があるということのようです。だとしたら、納得ですね。

『シンプルマーケティング』

改訂 シンプルマーケティング 改訂 シンプルマーケティング
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2006-01-31

最後に、もう一冊。
実は、この本が、個人的には一番のお勧め本だったりします^^;

この著者のメールマガジンは、マーケティング関連の中ではピカイチです(最近は、半年に1回くらいしか発行されないのが残念ですが)。
なにが良いかというと、本質をついた視点&結構長いメルマガなのですが、とにかく読みやすい。
そんな著者の書いた本ですし、身近な事例を用いながら解説していますので、読みやすいし、わかりやすい。
ただ、実践的な内容でもありますし、著者独自の理論もありますので、マーケティングの本質を理解した上で、かつある程度のマーケティング理論を知った上で読んでいただいた方がいいかと思い、一番最後に持ってきた次第です。
(この本から入っても、もちろん大丈夫だと思います。マーケティングは、こんな風に使えるのかと興味を持ってもらうのもありだと思いますので。)

もくじは、こんな感じです。

第1章 生活者をとらえる
  1-1 「イノベータ理論」で生活者をとらえる
  1-2 「ライフスタイル」から生活者をとらえる
第2章 市場をとらえる
  2-1 「クープマンの目標値」で戦略を立てる
  2-2 市場を細分化して考える
  2-3 売上を占う「プロダクト・ライフサイクル」
第3章 商品を評価する
  3-1 プロダクトコーン理論
  3-2 商品の「記号」と「意味」の一致(ブランド)
  3-3 ブランディング
第4章 商品の「戦略」を評価する
  4-1 3種の攻撃法
  4-2 スキミング&ペネトレーション戦略
  4-3 力のない企業でも勝てるDCCM理論
  4-4 「知名度」「トライアル」「レギュラー」から問題点を見つける(U&E)
第5章 生活者の意識と商品
  5-1 レーダー理論とポジショニング
  5-2 購入基準とヒエラルキー
  5-3 「選好シェア」と「実売シェア」の時間差理論

マーケティングを少しでもやっている人であれば、聞いたことのある言葉がいくつかあると思います。教科書ではなかなか理解しにくい言葉でも、事例をもとに説明していますので、「なるほど、このように使うのか」ということを理解できるでしょう。

とくに、「プロダクトコーン理論」はおすすめです。
これを知っているといないとでは、商品を考える視点がまったく違ってくるのではないかとも思います。
また、ネット調査を考える上では、「イノベータ理論」も押さえておかなければならないです。今後、寺子屋で代表性の話をしていきますが、そのときにも、この「イノベータ理論」の視点から話をしようと思っていますので。

とにかく、マーケティングの理論を事例を元に理解するには、この本以上のものはないのではないかと思っています。
お勧めです、ぜひ一度、ご覧になってみてください。

PS.
また、「マインドリーダーへの道」さんのblogになってしまいますが・・・。
この本のポイントを、20回のシリーズで紹介してくれています。
著者の森さんも、コメントを投稿してくれていますので、本書についてのさらに深い理解も得られるかもしれません。(なので、ぜひ本文だけでなくコメントもご覧ください。)

デイリーブログ「マインドリーダーへの道」:シンプルマーケティング






『MBAマーケティング』

新版MBAマーケティング 新版MBAマーケティング
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2005-03-04

もっと、体系的にマーケティングを学びたい、けどコトラーのような分厚い専門書はちょっと・・・、という方へ。

まさに「教科書」です。それ以下でも、以上でもないという感じ。
とはいえ、ある程度、マーケティングのなんたるかはわかってきたし、もっと総合的に、理論的な背景も身につけたいと思っている方には、手ごろな本だと思います。

もくじはこちら。

第1章 マーケティングの意義とプロセス
第2章 市場機会の発見
第3章 セグメンテーション、ターゲティング
第4章 ポジショニング
第5章 製品戦略
第6章 価格戦略
第7章 流通戦略
第8章 コミュニケーション戦略
第9章 ブランド戦略
第10章 マーケティング・リサーチ
第11章 競争戦略
第12章 カスタマー・リレーションシップ・マネジメント
第13章 ビジネス・マーケティング(生産財マーケティング)

各章とも、「POINT-CASE-理論」という構成になっています。ですので、理論で説明されている内容について、ケースを再度考えながら読み込むことによって、理解が深まるのではないでしょうか。

本格的な専門書を読む前の導入として、本書をおすすめします。

さて・・・
ここまで、マーケティングについての3冊の本を紹介してきましたが、世の中には「マーケティング」と付いている本は、もっといっぱいあります。ここで紹介しなかった本でも、良書はあると思います。本屋さんのマーケティングのコーナーへ行って、片っ端から手に取ってみて、自分に合いそうな本を見つけていただいてもいいと思います。(ただ、玉石混合なので、その点は注意してください)
そして、より専門的な本へも、ぜひ挑戦してみてください。

といいながら・・・、
こちら↓でも、マーケティングに関する本をいくつか紹介していますので、こちらを参考にしていただけると、なおうれしいですが・・・^^;

マーケティング・リサーチの寺子屋出張書店:マーケティング

『マーケティング実践講座』

実況LIVE マーケティング実践講座 実況LIVE マーケティング実践講座
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2005-06-10

少しは、マーケティングについて理解できたかな、という方向けに。

マーケティングの代表的な理論を紹介しつつ、事例を交えながら、マーケティングを実践していく流れが紹介されています。
そして、割とマーケティング・リサーチ寄りの説明がなされているので、とくにリサーチャーの方にとっては、役立つポイントがあるのではないかと思います。

もくじは、こちら。

Part1 マーケティングとは何か
Part2 マーケティング戦略の実践法
 STEP1 顧客を知る
 STEP2 競合を知る
 STEP3 自社を知る
 STEP4 自社が勝てる市場を特定する
 STEP5 差別化のための具体策を立てる
Part3 マーケティングの調査分析手法
Part4 これからのマーケティングには何が求められるか?
Part5 [演習]サントリーDAKARAのマーケティング戦略を立てる

気づいた方、いらしゃいますか?
前のエントリーの『ドリルを売るには穴を売れ』で言われていた4つのポイントと、ほぼ同じ構成ですよね。やはり、誰が書いても、マーケティングの本質はこの4つだということですね。

この本でおもしろいのは、Part5の演習。DAKARAを事例にしながら、具体的なマーケティング戦略立案の流れを示しています。自分で考えながら、このPartを読んでいけば、マーケティングの流れをさらに理解することができると思います。

PS.
以前、著者の講演を聞く機会がありましたが、そのセミナーもおもしろかったです。
こちら↓に概要がありますので、あわせてご覧ください。

夕学五十講楽屋blog:「五感と実質価値を提供する」 須藤実和さん






『ドリルを売るには穴を売れ』

ドリルを売るには穴を売れ ドリルを売るには穴を売れ
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2006-12-23

「寺子屋」で、マーケティングの本をいくつか紹介するといいながら、横道に逸れたエントリーばかりで・・・。

今回は、本筋に戻り、マーケティング本の紹介です。
とくに、マーケティングって何?、いくつかマーケティングの本を読んだけどピンとこなかった、というような入門者向きの本から、紹介します。

本書の題名をみて、「マーケティングの本だ」とわかる方は、すでにマーケティングを理解されている方だと思います。この「ドリルを売るには・・・」は、実はレビットという学者がだいぶ前に言った言葉で、マーケティングの本質を端的に示しています。
そして、個人的には、この本を読んで、「マーケティング・リサーチをやるには、やはりマーケティングを理解していないと」と強く思わされました・・・。

いつものように、まずはもくじから。

序章 ”マーケティング脳”を鍛える
第1章 あなたは何を売っているのか~ベネフィット
第2章 誰があなたの商品を買ってくれるのか~セグメンテーションとターゲット
第3章 あなたの商品でなければならない理由をつくる~差別化
第4章 どのようにして価値を届けるか~4P
第5章 強い戦略は美しい

いまの流行なのでしょうか、廃業寸前レストランの復活というサイドストーリーを絡めながら、マーケティングの本質をわかりやすく説明しています。
それは、もくじを見ていただければわかるように、マーケティングの理論を4つのポイントで説明しているからでもあります。確かに、マーケティングを学ぶ上では、他にもいろいろな理論や用語がありますが、マーケティングの「本質」を学ぶには、この4つでいいのかもしれません。(だからこそ、入門者向け、なのですが)
著者も、「序章」でつぎのように書いています。

もちろん、これは基本中の基本であり、これ以外のことも知っておいた方がもちろん良い。だが、その前にこの基本をおさえておかないと、次の応用・実戦などに進んでも、しっかりとした土台のないまま知識を積み上げていくことになってしまう。

ただし、本でマーケティングを学ぶことも大切ですが、地に足のついたマーケティングを行うには何が必要か。とくに、リサーチャーは、ともするとパソコンとにらめっこばかりになりがちなので、つぎの言葉は、心に留めておきたいものです。

「マーケティングは、お客様のココロの中で起きている」

そして、

マーケティング脳を鍛えるには、自分の身の回りから学べばよい。何かを買ったとき、買わなかったときに「なぜこの商品を買ったのか?」「なぜこの店で買ったのか」と考えていけばよいのだ。その裏には、売りたい人のマーケティングがあるはずだ。さらに家族の誰かが何かを買ったら、なぜそれを買ったのかを聞いてネタにすればいい。

これができるか、できないかで、ほんとうに大きな差がつきます。

それと・・・
少し本題からはずれるのですが、サイドストーリーの中に、集めたアンケート(紙)を一枚一枚読み込むシーンがでてきます。
いまのようにネット調査が主流ではなく、紙ベースでの調査が主だった頃、回答内容の点検をするために、ざっとではありますが一枚一枚の回答用紙を見ていたことを思い出しました。そうすると、回答をしてくれた方ひとりひとりの行動や意識のパターンがなんとなく想像されたものでした。これは、集計データという個をまったくなくしたものでは得られない情報だったと思います。この過程を経ることで、分析の際もある程度、「個」を意識したものになったと思います。
ネット調査では、これは難しい。データはすでに、Excel上の数字だけになってしまってますから。。。ネット調査がもたらした、ひとつの欠点といえるでしょうね。
(この視点については、「マインドリーダーへの道」さんのblogでも、もう少し詳しいエントリーがありましたので、こちらも参考にしてください。)

さて、本書に戻ります。
なんども書いてますが、マーケティングの本質を理解する上で、とくに入門者の方には、おすすめの本です。

【関連して】

同じように、マーケティングの入門としては、↓の本もいいと思います。こちらは、ほんとに小説仕立てで、理論的なことはポイント的にまとめられているだけですが。

マーケティングは愛 銀座ママ麗子の成功の教えシリーズ マーケティングは愛 銀座ママ麗子の成功の教えシリーズ
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2005-05-25

それと、どのようにお客様のココロに近づくかについては、こちらのエントリーで紹介している本が、役立つと思います。

本書とあわせて、読んでみてください。

『つっこみ力』

ちくま新書 645 ちくま新書 645
価格:¥ 735(税込)
発売日:2007-02-06

ご存知(ですか?)、パオロ・マッツァリーノ氏の三冊目の本です。
(パオロ・マッツァリーニという名前をみて、「おぉ!」とか、「くすっ^^」とされた方、同好の士ですね^^;)

この本の本題は、題名にもある「つっこみ力」だと思うのですが、マーケティング・リサーチを主テーマとしているblogとしては、「第二夜:データとのつきあいかた」を中心に紹介をしていこうと思います。
(「第一夜:つっこみ力とはなにか、もしくは、なぜメディアリテラシーは敗れ去るのか」も、おもしろい内容ですし、一読の価値はあると思います。)

マーケティング・リサーチを飯の種にしている私がいうのもなんですが、ここで氏が語る「データ」についての見解は、まったくもってその通りと思わざるを得ません。
たとえば、つぎのようなことです。

データほどおもしろいものはないし、便利なものはない。と同時に、データほどバカバカしいものもない、っていえば、私の気持ちをほぼ伝えられると思います。

社会現象に関するデータとつきあう上で、最も大事な点をお話しましょう。「データは自然に湧いてこない」んです。
どんなに高度な分析から得られたものであろうと、データは自然に湧いてくるものではありません。誰かがなんらかの目的を持って社会現象の一部を切り取ったものなんです。すべてのデータには、それを作成した人間の、なんらかの意図や偏見が裏に隠されています。データをおもしろがれずに、信じてしまう人は、そこらへんのカラクリをわかっていないのでしょう。

少し旧聞になってしまいますが、「あるある大事典」でのデータ捏造問題なんて、こんなことをわかっていれば振り回されることもないでしょうに・・・、と思ってしまいます。(ただ、「あるある」の場合は「捏造」なので、データの読み方とか、解釈の仕方以前の問題でありますし、「社会現象」ではなく「科学実験」として提示しているところが、なお罪深いのですが。)
「あるある」ほどひどい例はそんなにないとしても、すべて「データの解釈」は、それを行った人の意図に沿って行われているというのは真実だと思いますし、Aというデータを見た全員が一意にデータを解釈するということもないと思います。(だから、「格差論争」が起こるわけで・・・)
すべてのデータは、それを発表している人達の意図に沿って提示、編集されているものです。
さらに、調査データなんて(「なんて」、といってしまうと少々語弊もありますが)、データ発表者の意図した結果を出したいと思ったら、ある程度可能な世界であったりもします。

メディアに取り上げられるデータにしろ、マーケティングで行われる調査にしろ、結局、つぎのような視点がとても大切になるのではないでしょうか。

経済学者のディアドラ・N・マクロスキーさんは、統計データを解析しただけで学問したつもりになっている学者が増えている現状を批判しています。データの計算結果をどう考え、どうやって社会にいかしていくべきかは、最終的には人間が判断しなければいけないんだと、ごくあたりまえと思える忠告をしています。

ここでは学者を批判していますが、これはそのままリサーチャーやマーケターといわれる人にも当てはまりますし、データは素材であって、それをどのように活かしていくのかを常に考えていかなければならないと思います。

この本では、自殺の原因についてある見解を示しています。しかし、これもひとつの見方であってすべてではない。氏も、これを読んで「そうだ、そうだ」と手放しで納得する人に対しては、「わかってないな」と突き放すと思うのですが・・・。

この本とあわせて、ぜひ↓の本を読むことをお勧めします。

反社会学講座 反社会学講座
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2004-06-20

パラサイトシングル、少子化論などを題材として、いわゆる「世間」でいうところの一般論とは異なる見方を提示してくれています。データの取り出し方、見方ひとつで、このような見方もできるのだという例示をしてくれています(もちろん、データは捏造されたものではありません。出所のしっかりしたデータを使って論を展開しています。)

ついでに、氏のもう一冊の本も。
(個人的には、あまりいいできだと思いませんが・・・)

反社会学の不埒な研究報告 反社会学の不埒な研究報告
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2005-11

データは決して一面的ではないということを理解するには格好の本だと思いますので、とりあえず一読されることをお勧めします。できれば、「反社会学講座」→「反社会学の不埒な研究報告」→「つっこみ力」の順番で読むのがいいと思いますが。

とはいえ・・・、
氏は自分の職業を「戯作者」としています。いずれの本も、結構、毒含みの文章ですし、ときおり、それこそ劇作っぽく構成していたりと、好き嫌いがわかれると思いますが・・・。

PS.
「データの読み方」という視点では、以前にこのblogで紹介している次の2冊も、あわせて読んでいただくといいと思います。

■リサーチリテラシーのすすめ

■データの罠

プラス、blogでは紹介していませんでしたが、つぎの2冊も類書としては参考になると思います。

統計数字を疑う なぜ実感とズレるのか? 統計数字を疑う なぜ実感とズレるのか?
価格:¥ 777(税込)
発売日:2006-10-17
99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方 99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方
価格:¥ 735(税込)
発売日:2006-02-16

『新製品・新事業開発の創造的マーケティング』

新製品・新事業開発の創造的マーケティング―開発情報探索のマネジメント 新製品・新事業開発の創造的マーケティング―開発情報探索のマネジメント
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2006-12

前回寺子屋で、「調査(リサーチ)は役にたたない?」と題してアップしましたが、開発プロジェクトをどのように進めるのかについて論じている本が、ちょうど出版されていました。
内容は、『主として大学テキストとして、また企業経営者、行政管理官、さらにはこれから事業を起こそうとしている人々などを対象に』と書かれているように、ベーシックに研究開発や新製品開発、新事業開発についてまとめたものです。

もくじは、つぎのようになっています。

序章 プロローグ
第2章 戦略計画と研究開発管理
第3章 研究開発プロジェクトの計画、選択及び評価法
第4章 情報の新しい体系化と戦力化
第5章 研究開発の進め方と考慮すべき要件
第6章 『からだ巡茶』の開発における情報探索
第7章 Webリコメンデーション・エンジンを搭載した商品お勧めサイト
      『教えて!家電』の開発
第8章 ロボットの開発事例-感性と機能からのアプローチ
第9章 製品事故における企業組織内外コミュニケーションとマネジメント
      -M社、P社の一酸化炭素中毒事故を事例に

研究開発や新製品開発についての概論書としてもよくまとまっていると思いますが、「リサーチは新製品開発にどのように寄与するのか?」あるいは「新製品開発に役立つリサーチは?」という視点では、第6章の『からだ巡茶』の開発事例がとても参考になると思います。
開発キーワードの整理、開発与件の整理から、製品化にむけての過程まで、比較的ていねいに紹介してくれています。詳しい内容は、本書をお読みいただくとして、さすが飲料トップメーカーだけあり、いたるところでリサーチを活用していることがうかがえます。

この中で、開発にたずさわった日本コカ・コーラ㈱の経営情報部統括部長のコラムから、今後のリサーチを考える視点となる一文を引用しておきます。

さて、上記の復権は誤解を恐れずに極論すればリサーチの現場に「調査票との決別」、また言い換えれば、リサーチの軸足を「見えるものの計測とその組み合わせによる推計」から、「人間の本質的な共通性の理解とそこに存在するモチベーション仮説の構築」へ移行するという変化を興す。生活者にとって認知、認識できる領域、マーケターにとって理解しやすい領域の中だけでグルグルと表面的な現象を追いかけ回すことよりも、生活者自身も理解・説明困難な領域に果敢に踏み込み、リサーチャー自らがコンテクスト化し、逆に生活者に気づきとして還元することが、製品開発やマーケティング戦略への近道になるからである。「ニーズを創りだすリサーチ」の誕生である。

(*注:「上記」とは、モチベーショナルリサーチ、オブザベーショナルリサーチを指しています)

おそらくリサーチを活用している企業では、あたりまえの視点になっていることだと思いますが、あらためてこのように提示されると、今後のリサーチの方向性がクリアになってきます。決して、対象者に「なにがほしいか」を聞くことだけが新製品開発のリサーチではないということです。

蛇足ながら・・・
ひるがえって調査業界をみるに、このような環境変化が起こっている中で、「人間の本質的な共通性の理解とそこに存在するモチベーションの仮説構築」に寄与する調査技法とか分析技法の開発が行われているのかどうか・・・。
調査業界こそ、この本で研究開発のなんたるかを学ばなければならないのかもしれません。
(ただ、人にしろ、金にしろ、モノにしろ、情報力にしろ、いまの調査業界で資本力のある会社が限られているのも事実です。なので、いつか書いたこともあるのですが、そろそろ調査業界の再編も必要ではないかと思ったりしています。1社ではできないことも、数社が共同で行えばできることもあるでしょうから・・・。)

さらに蛇足・・・
この章の最後に『本製品の開発にあたり、良き議論の相手がいなければ決して成功に導けなかった』謝辞として、関与者の氏名が並んでいるのですが、この中に調査会社は含まれていません。広告代理店やデザイン会社は紹介されているのに・・・。
おそらく、いくつかの調査会社を使っているでしょうし、議論の相手にもならなかったのでしょうが、このような時に、きちんと議論の相手になれる調査会社がないというのも寂しいかぎりです・・・。

『欲望解剖』

欲望解剖 欲望解剖
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2006-12

最後に、もう1冊。
こちらは、行動経済学というよりも、さらに脳科学の視点から経済学(というか、マーケティング)に迫ろうという内容になっています。

著者は、脳科学者の茂木健一郎先生と法政大学の田中洋先生。
ただし、「電通ニューロマーケティング研究会・編」となっているとおり、バックにいるのは電通ですが。

「まえがき」で、茂木先生は、この研究会についてつぎのように書いています。

電通のニューロマーケティング研究会は、消費者研究センターの佐々木厚さんを中心に構想された。「ニューロマーケティング」は、神経経済学のような新しい脳科学の動きを受けて、脳の働きという視点からマーケティングにかかわる諸問題を検討し、ひいては人間性の本質を理解しようというアプローチである。

本書の内容は、茂木先生が脳科学の立場から「欲望」を説明するパート、田中先生がニーズ・ウオンツ・デマンドというマーケティングの視点から「欲望」を説明するパート、そしてお二人の対談という3部構成となっています。
この中で、茂木先生の脳科学の視点からの「欲望解剖」は、なかなかおもしろいものがありました。

「ニューロマーケティング」「神経経済学」って何?、あるいはちょっと斜に構えて、「電通は、つぎに何を考えているんだ?」ということに興味をもたれた方、一読してみてください。

蛇足。

朝日新聞2007年1月1日第4部「Oh!脳」でも、アメリカの研究として、ペプシ・コーラとコカ・コーラの飲み比べで、ブランド名を知らずに飲む時と、知って飲んだ時では脳の活動が異なるという事例も紹介されています。(個人的には、最終商品テストで「ブラインド・テスト」をすることに意味はないのでは?、と思っていましたが・・・。)
また、fMRI(機能的磁気共鳴断層撮影)試験によってデザインされたホンダのオートバイの事例も紹介されています(→ホンダのリリース。「二輪車技術<FACEデザイン>」参照)。

また、少し前に、「心脳マーケティング」という本が出版され、結構売れましたし、この本で紹介されている方法を実際に活用している調査会社もあるようです。
(私個人は、立ち読みで「どんなもんかな・・・」という感想を持ち、まだ読んでいませんでしたが。これを機に、読んでみようかな。。。)

心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす Harvard Business School Press 心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす Harvard Business School Press
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2005-02-10