世論調査と政治――数字はどこまで信用できるのか (講談社プラスアルファ新書) 価格:¥ 940(税込) 発売日:2008-11-21 |
つい先日も、麻生内閣の支持率が下がったことを、各マスコミが大々的に報じていましたが、なぜこれほどまでに世論調査を行う必要があるのか、そもそもマスコミの示す調査結果を「世論」と判断していいのか、数字をどこまで信用するのか、マスコミで報道される世論調査をどのように読めばいいのか、について考えさせられます。帯の惹句が、なかなか。
支持率は本当に必要か!?
その真の役割とは!?
世論調査大国において、われわれは政治とどう向き合うべきか!?
その功罪を徹底検証!!
ちょっと、「!」「?」が多すぎますが、調査やリサーチに携わっている、いないに関わらず、多くの人に読んでもらいたいテーマだと思います。
著者は、朝日新聞で世論調査に従事した記者の方なので、読みやすいですし、わかりやすいと思います。調査の知識がない人でも、読むことに抵抗はないでしょう。「世論調査支持率から見た政治小史」的な読み方も、おもしろいです。
まずは、もくじ。
プロローグ 「支持率政治」が始まった
第1章 世論調査はどうやって作られているのか
第2章 吉田内閣から麻生内閣まで、内閣支持率物語
第3章 小泉内閣から支持率の注目度アップ
第4章 政権交代が見えてくる政党支持率
第5章 選挙情勢調査の舞台裏
第6章 世論調査にどこまで信をおくべきか
第1章は、いわゆる調査入門です。調査方法の話とか、質問文の話とか、回収率の話とか、世論調査のデータを読むときにリテラシーとして身につけておくべきポイントが整理されています。また、第5章も選挙情勢調査がどのように行われているかについて、簡単に触れられていますので、選挙時の予測などに興味がある方はこちらも。
本筋とはあまり関係ないですが、小ネタとしておもしろいのが民主党・鳩山由紀夫幹事長の話。「個人事務所の執務室には林知己夫氏の著作が並べられていた」というくらい、世論調査への造詣が深いらしいです。
そして、この本の著者のメッセージは、「世論調査の目利きになるために」と題された節だと思います。この中で、つぎの4つのポイントを示しています。
第一の提案は、世論調査の数字を多角的に見よ、である。
第二の提案は、調査方法に注意を払おう、である。
第三の提案は、複数の世論調査の結果を読み比べよう、だ。
第四の提案は、調査結果を見るときに、自分ならどう答えるかを考えてみよう、である。
これらのポイントは折に触れ、このblogでも指摘してきたことですが、何も世論調査に限らず、すべての調査やリサーチについてあてはまることだと思います。
そして、もうひとつ気になる点を。
朝日新聞の政治意識調査によると、世論調査に対し、
直感で答えるほうだ 60%
じっくり考えて答えるほうだ 32%という回答だった。テンポが早く、矢継ぎ早の判断が求められる現代。世論調査の回答も直感頼りの感覚型になるのもやむを得ないのかもしれない。
(中略)
世論調査に直感で答えるのは致し方ないとして、せめて情報と知識に裏打ちされた直感であってほしい。裏打ちのない直感だけで作られた世論は、感情的に暴走する私情の産物、百害あって一利なしになってしまう。
これも、世論調査に限らず、常に調査やリサーチにつきまとう問題でしょう。
回答は6割が直感、そして、この直感が情報や知識に裏打ちされたものかどうか。。。
これくらいのスタンスで、データと接することも、時には必要だと思います。
さて、
これまで、『世論調査と政治』を紹介してきましたが、ほぼ同じ時期(こちらの本の方が先行しています)につぎの本も出版されています。
輿論と世論―日本的民意の系譜学 (新潮選書) 価格:¥ 1,470(税込) 発売日:2008-09 |
こちらは、メディア史や大衆文化論を専攻している大学の先生が著者なので、だいぶ専門的になりますが、「ヨロン」とは何か、ということについて正面から論じています。「輿論(ヨロン)」と「世論(セロン)」を使い分けている点が、本書の主題でしょう。
とくに、「第12章 空気の読み書き能力」では、『世論調査と政治』でも取り上げられているものと同じデータについての論述があるので、読み比べてみるのもおもしろいと思います。
さらにまた、
SurveyMLで萩原さんが一押している朝日新聞の夕刊連載も、あわせてご覧いただくのも立体感が増していいのでは?
(シリーズ第1回の記事は、ネットでご覧いただけます。こちら↓)
さらにさらに、
萩原さんご自身が、日経新聞で連載しているコラムでも関連ある記事が。
(他の回も、とても参考になる記事なので、そちらもあわせてどうぞ。)
「世論調査がどのように行われ、それが政治にどのように影響してきたのか?」に興味がある方はもちろん、「マーケティング・リサーチに置き換えるとどうなのか?」という視点でも考えてみると、日常の仕事にも十分役立つと思います。