日別アーカイブ: 2009-01-28

『成功は洗濯機の中に』

成功は洗濯機の中に―P&Gトヨタより強い会社が日本の消費者に学んだこと 成功は洗濯機の中に―P&Gトヨタより強い会社が日本の消費者に学んだこと
価格:¥ 1,600(税込)
発売日:2008-09-05

2009.1.26の日経MJ一面「P&G、日本に溶け込む泥臭経営」を見て、積読になっていたこの本を想起。。。あわてて、読了。

日経MJの記事見出しを並べてみると、

    • 客・店に密着~社長、抜き打ち売場回り
    • 狭い日本の家研究~洗濯洗剤、横長容器に変更
    • 郷に入りては・・・~卸と二人三脚
    • 5期連続増収達成~成功モデル、アジアに移植

実は、P&Gは2000年に危機に陥っているのですが、それを克服し、この記事にあるような状態に復活しています。

P&Gは、2000年の危機をどのように乗り越えたのか?、どのような思想で、どのような取り組みを行ったのか?、これらについて概観し、整理しているのが本書です。
(よくある企業本のような軽さを感じるタイトルですが、P&G改革をきちんと整理している良書だと思います。タイトル変えるともっと売れるような気もしますが。)

まずは、もくじを。

第1章 トヨタを抜く、170歳の不死鳥
第2章 三年でV字回復させた「ラフリー大改革」
第3章 経営改革の基本設計
第4章 「消費者中心経営」宣言
第5章 強み1~オープン型の全方位イノベーション
第6章 強み2~メガブランド構築力の卓越性
第7章 強み3~売上拡大からスケール・メリットを享受
第8章 強み4~小売店頭で勝つしたたかな市場展開力
第9章 日本のビジネス体験からラフリーが会得した極意
第10章 P&G改革を日本企業に導入する

2000年危機については、2章の書き出しでつぎのように記しています。

2000年の初頭、P&Gは破裂寸前の状態まできていた。次々と発売した新製品は失敗し、社内は混乱する。成長を期して注ぎ込んだ研究開発、マーケティング投資と、成長を前提に抱えすぎた社員数。度重なる下方修正の発表。そして、社員のモラール低下、ブランド・マネジャーの大量退職など。160年間にわたり脈々と築き上げたP&Gの名声も、これまでかと思われた。

そして、「消費者がボス」「コネクト&ディベロップ」「ふたつの決着の瞬間」などをキーワードに、復活をしていくことになるのですが、詳細については、ぜひ本書を読んでください。

ここではリサーチに焦点を絞り、おもしろいと思った文章をいくつか紹介しておきます。このblogを読んでくださっている方には、いまさらという感じもあるかもしれませんが、いま一度、リサーチの課題を思い起こしていただければと。

◆「未知との遭遇」

(「さらなる成長を目指すには、新興国の低所得者市場に参入しなければならない」という文脈において)
したがって、消費者理解という点からは「未知との遭遇」状態が起きていた。その場合は、これまでの欧米、日本など高度経済市場での成功体験は横に置き、新興国で生活する消費者の人たちと虚心坦懐に接して、深く理解しなおすことがビジネス成功のカギになる。
新興国市場のほとんどを占める低所得の消費者が満足してくれる製品を提供する時に、米国の低所得者層の知識は全く役に立たない。その知識は逆に、有望ビジネスを破壊する危険性さえある。

ここでは新興国市場攻略のためのリサーチについて言及していますが、「未知との遭遇」というワードに注目すると、他にも応用の利く内容では?

◆「消費者にリードしてもらう」

消費者中心経営の中で、最も誤解されやすいのは、「消費者に決めてもらう経営」と解釈されることである。P&Gは決して、そう考えない。「消費者自身も、自分で何が欲しいのかわからない」からである。P&Gでは商品の開発時にあたっても、消費者と開発者が互いに対話を交わしながら、消費者の反応を見ながら、商品開発を進める。つまり、消費者に決めてもらうのではなく、消費者にリードしてもらう形で積極的に消費者の嗜好を取り入れている。

いまでは「消費者に直接答えを聞いても意味がない」は、リサーチの常識の部類でしょう。ただ、だからといって、消費者を蚊帳の外に置いていいわけでもない。それが、「リードしてもらう」感覚なのでしょう。

◆「生活現場重視」

消費者の真意は、調査データに存在するのではないことを、ラフリーは日本でのビジネス経験を通して学んだ。P&Gのシンシナティ本社の経営陣は、消費者調査の統計データの中に埋まっているが、生きた消費者の生活実体や心を理解していないと見抜いた。
ラフリーは日本駐在の間、自分が確信の持てる市場調査を行うため、絶えず小売店や家庭を訪問した。

調査データの平均値だけを追っていっても、消費者の実態や心をなかなか把握できないというのもだいぶコンセンサスが取れてきたのでは?だから、エスノグラフィなどの手法に注目が集まっているのでしょう。(ただ、ここから短絡的に「定量調査は意味をなさない」などと思わないでください。)

他にもいろいろあるのですが、このようなP&Gのリサーチ思想は、世界60カ国で年間232億円という調査予算となって表出しています。単純平均で、1カ国で3.8億円強の予算。。。
(こんな企業がもっと増えてくれれば、リサーチ業界ももっと・・・)

以上、今回はリサーチ中心にレビューしてますが、他にもいまのマーケティングを考える上でのヒントが随所にあると思います。とくに、「コネクト・アンド・ディベロップ」は、オープン・イノベーションの事例としても、取り上げられることが多いものです。
P&Gの改革については、すでにあちこちで書かれていますが(たとえばHBRでの記事↓)、まだ読んだことがない方や、一度全体像として理解しておきたいという方には、必読の本だと思います。

注:HBRでの関連記事は、つぎのようなものがあります。

「P&G:マーケティングの原点」(HBR2007年7月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 07月号 [雑誌] Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 07月号 [雑誌]
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2007-06-08

「P&G:コネクト・アンド・ディベロップ戦略」(HBR2006年8月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 08月号 [雑誌] Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 08月号 [雑誌]
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2006-07-10

「P&G:有機的成長のリーダーシップ」(HBR2005年11月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2005年 11月号 Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2005年 11月号
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2005-10-08

「P&G:マーケティング力の復活」(HBR2004年2月号)

また、英語がOKな方は、改革の当事者であるA.G.ラフリーが著者である↓の本もありますでの参考までに。(おそらく翻訳されていないと思います。。。)

The Game-Changer: How You Can Drive Revenue and Profit Growth with Innovation

The Game-Changer: How You Can Drive Revenue and Profit Growth with Innovation
価格:¥ 2,587(税込)
発売日:2008-04-08

(↑ この本、翻訳されていました、こちら ↓ )

ゲームの変革者―イノベーションで収益を伸ばす ゲームの変革者―イノベーションで収益を伸ばす
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2009-05-23

さらに、オープン・イノベーションについては、こちら↓を。
P&Gが事例として取り上げらています。他にも、ボーイング、BMW、レゴ、メルク、IBMなども。

ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2007-06-07