「プレミアムライフ向上委員会」by 7&i

ソーシャル・ネットワークに関連して、備忘録的にひとつ。

ニュースリリースや、企画・開発を担当した方のコラムを見ていて、前からウオッチしていたのですが、具体的な開発商品も発売されたようなので、このタイミングで紹介を。

セブン&アイ・ホールディングスが、商品開発のためのコミュニティサイトとして『プレミアムライフ向上委員会』をオープンしています。

プレミアムライフ向上委員会 (セブン&アイ・ホールディングス)

そして、このサイトを企画・開発した方のコラムが、こちら ↓ 。

「セブンプレミアム」 が顧客参加型商品開発サイト「プレミアムライフ向上委員会」をオープン (Webマーケティングコラム「生活者の力をマーケティングに活かそう」 by japan.internet.com:2009/10/30)

こちらのコラムでは、さらに継続してサイトに関連したエントリーを連載をしていますので、同サイトの詳細についてはこちらで理解できます。

早くも急成長している顧客参加型商品開発コミュニティ「プレミアムライフ向上委員会」
(同上:2009/11/2)

「セブンプレミアム」が顧客の声を商品開発に活用するために考えたこと
(同上:2009/11/9)

あなたも「セブンプレミアム」の商品開発プロジェクトに参加しませんか?
(同上:2009/11/16)

どうやってクラウドソーシングを実現するか?(同上:2009/11/30)

そして、「プレミアムライフ向上委員会」で開発された商品が、「ひとくちポテトコロッケ」。
この商品開発の過程についても、同コラムで紹介しています。

ソーシャルメディアを活用した「セブンプレミアム」の商品開発~第一弾「ひとくちポテトコロッケ」を発売 (同上:2010/1/25)

コミュニティサイトの立ち上げと運営についての事例のひとつとして参考になると思います。

ただ・・・
商品開発の流れ自体は、とくに新しいものは無いように思います。とくに、アンケートの内容とその分析については。(ここで明かされていないことも多いのだろうと思いますが)
これまで、事業会社とリサーチ会社が行ってきた過程を、事業会社とエンドユーザーが行っているに過ぎないのでは、と感じてしまうのは、ソーシャルメディアを理解していないだけなのかもしれませんが。。。
正直、この点については考えてしまいます。
(しかし、「リサーチ会社」が中抜きされていることだけは、紛れもない事実でしょう・・・。そして、その理由は?・・・)

この「プレミアムライフ向上委員会」の仕組みの中で、ひとつ面白いと思ったことがあります。
それは、下記の視点と仕組みです。

そこで、ペルソナに基づいて、「学生ライフ」、「自由人ライフ」、「OL ライフ」、「キャリアウーマンライフ」、「ビジネスマンライフ」、「子育てママライフ」、「スーパー主婦ライフ」、「マイペース奥様ライフ」、「アクティブシニアライフ」というチームをつくり、いずれかのチームメンバーとして参加してもらい、それぞれの「プレミアムライフ」の向上を目指せるようにしたのである。 (同上:2009/11/9より)

このチーム名は投稿の際にもハンドルネームと一緒に表示されているので、発言者の背景(コンテクスト)を理解した上で、発言内容を理解することができるという点が優れていると思います。私の持論でもある「リサーチの結果は、回答者のコンテクストを理解しないと有効ではない」という点にマッチした仕組みだと思いました。

さて、
「プレミアムライフ向上委員会」が成功なのかどうかは、まだこれからの評価になるだろうと思います。ソーシャルコミュニティ、クラウドソーシングを活用した取り組み事例のひとつとして、今後もウオッチはしていこうと思います。

海外マーケティングリサーチ情報源

本寺子屋の「弱み」は?

それは、日本語で記述された以外の情報に弱いということです。。。
これは自分でも重々自覚しているのですが、なにせ英語は得意ではないので、これまでチラチラと気になるサイトは眺めるものの、積極的な情報収集と紹介をしていませんでした。
(内容の理解が、どこまで正しいのか覚束ないというのもあるので・・・)

この点を補ってくれるサイトがありました。
以前このblogでも紹介しました 『最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本』 の著者である岸川さんのサイトです。
ここ2回のエントリーは、下記のような内容になっています。

Maket Research -Adapt or Die (みんなのMR.COM:2010/2/1)

2010年のリサーチトレンド~続き (みんなのMR.COM:2010/2/8)

あわせて、こちらのサイトもどうぞ。

Digital Consumer Planner’s Blog

海外の文献や論文、サイト 等を紹介しつつ、今後のマーケティングリサーチについての展望を整理しています。
基本的に、岸川さんのスタンス(というか、お仕事の方向性)はソーシャル・メディアの活用だと思うので、そちらの方向性の内容になっていますが、あながち否定もできない、いやいやこういう視点はとても大切、とも思います。とくに、asking から listening という言葉は、なるほどと思わされます。

岸川さんは、twitter でもご自身で検索されたサイトをその都度紹介していますので、海外のリサーチに関する論調に興味のある方は、フォローしてみてはいかがでしょう?

Experidge 岸川さんのtwitter アカウント

また、Survey MLの萩原さんのtwitterでも、時折、英語サイトが紹介されていますので、こちらも紹介しておきます。(このblogをご覧いただいている方は、すでにフォローされている方も多いと思いますが・・・)

Survey ML のtwitter アカウント

たとえば、こんな投稿が(まさに、いま投稿されました^^;)

業界の重鎮レイ・ポインター氏、ネットリサーチ会社のパネルを使った調査は現在がピーク、次第に他の新手法に取って代わられるとの予測 RT @RayPoynter: Have access panels peaked?
(Survey ML twitter でのtweet :2010/2/8 22:20ころ)

ただ、このblog(寺子屋)も含めて、いずれもそれぞれのフィルターを通った情報が発信されているということは忘れてはいけないと思います。これらの情報源を参照しつつ、自分でも検証や情報探索を行う姿勢も忘れずに。
(これは、決してお二人を批判しているわけではないので、この点はお間違えなきよう。どんな情報も、その発信者による価値判断がなされているということを踏まえて、判断を行う必要があるということです)

(しかし、やっぱり英語力はもっとつけないと・・・、と思う今日この頃。。。
それと、遅ればせながら twitter も始めようかな、とも思う今日この頃。。。
blogで書くには、それなりの覚悟と手間がかかるのですよ。
もっと気軽に、日頃の気づきや、読んだ本の紹介や記録をするには、twitterもいいかなと。
始めるときは、このblogでもお知らせします)

『マーケティング・メトリクス』

マーケティング・メトリクス マーケティング・メトリクス
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:2010-01-13

以前、このblogで下記の本を紹介しました。

『分析力を武器とする企業』(2008/10/8)

この本は、データを軸にする経営、ビジネス・インテリジェンスの重要さを説いたものでしたが、今回紹介する本書『マーケティング・メトリクス』は、もっと具体的に、どのようなデータを使うのか、ということに焦点をあてています。

ここで紹介されている指標は119本。網羅的で、基本的な指標が紹介されています。
また、「マーケティングの基本問題別に整理しながら、具体的な事例も交えて展望」(本書 p.ⅳ)されています。

では、どのような分類で整理がされているのかを、もくじで確認します。

序章 マーケティング・メトリクスがなぜ必要なのか
Ⅰ章 魅力的な対象市場を選ぶ
Ⅱ章 市場シェアを確保する
Ⅲ章 売上の収益性を高める
Ⅳ章 顧客創造で売上を積み上げる
Ⅴ章 バリュー顧客を狙う
Ⅵ章 ブランド化で競争力を持続させる
Ⅶ章 広告で市場普及を加速する
Ⅷ章 強い販路を構築する
Ⅸ章 営業力を強化する
終章 組織型ダッシュボードの構築に向けて

これらの基本問題別に、どういう視点で、どのようなデータを使い、どのように計算するのか、が整理されています。指標そのものを覚えることも、もちろん必要ですが、その指標の意味=計算式の意味もあわせて理解すべきです。さらに、具体的な指標についての理解だけでなく、マーケティング活動のポイントを理解することもできるでしょう。

ただ、「マーケティング・メトリクス」という言葉自体が、よくわからない方もいらっしゃるかもしれません。簡単に言ってしまえば、マーケターが意思決定を行う際に依拠する数的指標、とでもいえるでしょうか。
そして、このメトリクを理解するには、さらに終章のタイトルにもある「ダッシュボード」を理解すると、わかりやすいのかもしれません。そう、車のダッシュボードのメタファです。車を運転するときにダッシュボードでメーターを確認するのと同様に、経営においてもダッシュボードのデータを確認しながら、運営を行っていくことが必要だということです。

ここで、具体的な商品としての「マーケティング・ダッシュボード」をいくつか紹介しておきます。マーケティング・メトリクスに興味を持たれた方は、以下の資料もご覧いただくことで、よりマーケティング・メトリクスを理解できると思います。(いずれのリンクも、PDFが開きます)

マーケティングダッシュボード~マーケティング戦略の「見える化」
(野村総合研究所『知的資産創造』2006年5月号)

マーケティングダッシュボード
(電通イーマーケティングワングループ:商品紹介パンフレット)

ダッシュボードのご案内 (インテージ:商品紹介パンフレット)

とはいえ、ここまできっちりしたものを構築しようとすると、それなりの費用がかかりそう。。。
すでに意思決定に際し、なんらかのデータを常にウオッチしている企業は少なくないと思いますが、さらに基本的な指標にはどのようなものがあるのか、マーケティング活動の基本的な流れを指標という視点で理解したい方は、本書を手にとってみるといいでしょう。

ただし個人的には、ここで紹介されている指標は、ほんとに基本的な指標であり、誰もが知っておいてよい(知っておくべき?)指標だという感じもしています。(そういう意味では、必読書になりますね)
そして、もっと大切なのは、「どの指標を重視するのか」であり、KPIの指標として使うとするなら、もっと独自性の高い指標を開発することも必要ではないかと思っています。この点については、ちょうど『日経情報ストラテジー』で特集されていたので、そちらを参考にしていただければと思います。

『日経情報ストラテジー』2010年2月号もくじ (日経BP書店)

(ちなみに、まだ読んでませんが、3月号も関連がありそうです
 → 2010年3月号もくじ ) 

こちら ↓ を見ると、2月号の特集趣旨がわかると思いますので、あわせてどうぞ。
(似たようなことは、著書の田村先生も本書の中で、指摘されています)

「あなたの仕事で一番大事な「数字」は何ですか?」
(日経IT Pro:2009/12/22)

※「KPI」って何?という方は、こちらへ → 情報マネジメント用語事典(by IT Media)

【Mrs.H】行動観察

久しぶりに、林さんに寄稿いただきました。
テーマは、「行動観察」についてです。

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 社団法人日本マーケティングリサーチ協会の機関紙『Marketing Reseacher 110号』の特集は、今、脚光を浴びている行動観察であり、各分野の経験者の方が具体例とその成果をあげている。中でも、TOTO株式会社の江藤祐子さんのお書きになった、UD(ユニバーサル・デザイン)サイクルの実例は興味深い。行動観察を商品開発に有効活用している実例が分かりやすく紹介されている。
 また過去の『Marketing Reseacher 101号』では、松下電器産業(現パナソニック)のユーザビリティ実践チームの水谷美香さんが、機器の操作性に関するユーザーの観察調査の例を紹介されていて、メーカーの方達が商品開発の段階で行動観察手法に積極的に取り組んでいらっしゃることが、如実にわかる。

 大手のトイレタリーメーカーでは、本社内に洗面台やシャワールームが備えてあり、生活者を招いて、洗髪や髪の手入れ、洗顔、スキンケアをしてもらう。その行動を観察したり、インタビューすることが日常的に行われ、商品開発の全てのステップで、この機能が活用されている。家電、食品メーカー等々、研究開発部門の担当者が生活者を知るために、行動観察調査を有効活用している。
 商品開発の初期の段階で、生活者ニーズを探すためにシニアの家庭に訪問して、行動観察やインタビューをし、さらにお買いものに同行する調査をさせていただいたことがある。その時担当だった研究開発の女性は、「いつも、あの時の対象者の方の立場に立ってものを考えている」と言って下さった。また、大手の流通のシンクタンクに入社した新人マーケッターは、オーナーの指導で、毎朝、ターミナル駅で生活者を観察し、そこでの気づきをレポートにすることを繰り返したという話を聞いたことがある。彼女は今、広告代理店のアカウントプランナーとして活躍している。

 マーケティングリサーチ業界では、「今こそ行動観察」だと、あたかも新しい手法のように言っているが、行動観察は市場調査の原点であり、アンケートやインタビュー法は、行動観察だけでは分からないことを解明するために導入された調査手法だと私は解釈していた。
 過去と比較すると、得られた情報のデータ化、分析の処理スピードや精度は上がっている。また、システムも整備され、行動観察を調査の中に取り入れやすくなったのは確かである。何でもアンケートやインタビユーで生活者に聞いて答えを出そうとしていたことがそもそも片手落ちで、今、日本のリサーチ業界でも、行動観察が見直されたことは、リサーチャーのはしくれとして大賛成である。
 携帯電話が普及する以前の調査で、「1週間にその家でかけた電話の本数」を思い出させた結果と、実際にかけた数には大きな差異があった。旦那が内緒で、子供が深夜にこっそり長電話をするような行為を差し引いても、実際にカウントした数の方が多かった。生活者が嘘をついているというのは被害妄想以外の何物でもなく、実際に人の記憶なんてそんなものである。誤解がないように言っておくが、だから、アンケートやインタビュー調査はあてにならない、行動観察こそ真実だと言うことではない。そもそも、その手法の特性を生かした使い分けが必要であり、新手法が全てを解決してくれるという妄想は抱かない方がいい。

 面接方式のインタビュー調査では、その場の生活者の態度、表情、そして語調も分析の対象であり、インタビュアーも分析者も、音として発せられる言葉以外の反応も重視している。冷静な観察者であることは、インタビュアーや分析者の役割のひとつであり、グループインタビューをバックで観察していたマーケッターが対象者のちょっとした仕種を見逃さなかったことで、パッケージ機能の些細でありながら重大な問題点を発見し、発売前に解決したケースもある。
 「Marketing Reseacher 110号」の中の、TOTOの内藤さんの項のタイトルは、観察者の「気づき」に着目したモノづくりである。また、同号の「観察工学の製品開発への展開」で和歌山大学の山岡先生は、行動観察をする人のセンスという言葉を使っていらっしゃる。気づきもセンスも人間がしなければならない。特に定性的観点での観察調査はそれを生かすも殺すも、リサーチャーやマーケッターの力量に掛っているということではないだろうか。

 ここが、一番難しい。                               

                                                 林美和子

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今回も、林さんのおっしゃる内容に、かなり同意です。
どんな手法も、「魔法の杖」でも「打出の小槌」でもありません。それぞれにメリットとデメリットがあり、その特質を理解した上で使うからこそ、意味があるのです。そして、「使う人」次第でもあります。
結局は、「リサーチのテーマと目的」に沿った手法を、しかるべきが人が実施しないと、どんな手法であっても効果を発揮することはできないのです。

少し視点が変わるかもしれませんが、日頃感じていることを・・・。
日本人の特質なのかどうかわかりませんが、経営手法などにしても、とかくその時に"流行っている"(としか言いようがないと思うのですけど)手法に、誰もがわっと飛びついてしまう傾向があるように思います。少し前では、「成果主義」などは、その典型でしょう。
どんな手法にも、メリット、デメリットがありますし、その背景を十分理解せずに行うと、「百害あって一利なし」だと思います。(このblogでも、いろいろ新しい動向を紹介していますが、実はこの点は、いつも気になっていました)
ですから、どんな手法でも「いまの流行はこれ」といって、その上辺だけをまねすることなく、しっかりと背景と内容を理解した上で、実施してほしいと思っています。

ということで、林さんの寄稿「行動観察」に関連して紹介しておきたい資料をいくつか。

まず、『マーケティング・リサーチャー』誌。
これは、社団法人マーケティング・リサーチ協会(JMRA)が発行している機関誌です。ここ数年、意欲的なテーマもありますし、リサーチに携わる方は読むべき雑誌だと思います。
(JMRA会員社には必ず本誌があるはずです、なかなか社内を回らないかもしれないですけど。。。見たことがない方は、総務あたりに聞いてみては?)

今回のテーマである110号のもくじは、こちら ↓ 。

『マーケティング・リサーチャー110号
 特集:なぜ、生活者が見えにくいのか ―今、脚光を浴びる行動観察』
(JMRA HP)

このページの下に、バックナンバーの案内もありますので、あわせてどうぞ。
ちなみに、林さん紹介の101号のもくじはこちら ↓ 。

『マーケティング・リサーチャー101号
 特集:言葉を介さない調査の最前線-なぜ「言葉を介さない調査」なのか?』
(JMRA HP)

(そういえば、『マーケティング・リサーチャー』の記事が、日経テレコンで検索ができるようになったはずです。記事単位での購入ができると思いますので、こちらでもどうぞ)

そして、今号で特集の総論を執筆されている山岡先生の本は、こちら ↓ 。
特集を読んで興味をもたれた方は、こちらもあわせて読んでみては?

ヒット商品を生む 観察工学 -これからのSE,開発・企画者へ- ヒット商品を生む 観察工学 -これからのSE,開発・企画者へ-
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2008-06-10

『イノベーションを興す』

イノベーションを興す イノベーションを興す
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2009-12-17

この本の著者は、『経営戦略の論理』の伊丹敬之先生。
伊丹先生は、一橋大から東京理科大のMOT社会人大学院へ移られたのですが、そこでの研究テーマについて、現在の自分なりの枠組み(「海図」と言っています)をまとめたのが本書です。
したがって、研究結果をまとめた本ではない、つまり理論が整理された本ではないという点には留意ください。「いまの時点で先生が捉えているイノベーションについての考え方をまとめた本」、になります(もともと、新書として書こうとしていた内容のようです)。

もくじを示すと、ほぼ本書の内容はおわかりいただけると思います。

序章 イノベーションプロセスとは

第Ⅰ部 筋のいい技術を育てる
第1章 筋のいいテーマを嗅ぎ分ける
第2章 偶然を必然が捕まえる
第3章 技術が自走できる組織

第Ⅱ部 市場への出口を作る
第4章 顧客インの技術アウト
第5章 外なる障壁、内なる抵抗
第6章 死の谷とダーウインの海を活かす組織

第Ⅲ部 社会を動かす
第7章 コンセプトドリブンイノベーション
第8章 ビジネスモデルドリブンイノベーション
第9章 デザインドリブンイノベーション

第Ⅳ章 イノベーションの発生メカニズム
第10章 イノベーションの不均衡ダイナミズム
第11章 組織は蓄積し、市場は利用する
第12章 アメリカ型イノベーションの幻想

終章 イノベーターたち

この本でのイノベーションの定義は、

技術革新の結果として新しい製品やサービスを作り出すことによって人間の社会生活を大きく変革すること(本書 p.2)

としています。つまり、よくいわれる「技術革新」だけではない、ということです。
そこで、イノベーションのプロセスとしてあげているのが、

1.筋のいい技術を育てる
2.市場への出口を作る
3.社会を動かす

という三段階のプロセスであり、「三つの段階が積み重なってはじめて、人々に感動を与えられるようなイノベーションが生まれる」(本書 p.9)としています。
すでにお判りのように、もくじの各部がこの3つのプロセスになっていて、各部は具体的な内容を綴ったものです。

リサーチを考える上で参考になるのが、第4章。
イノベーションの第2段階である「市場への出口を作る」人のもつべきスタンスが、「顧客イン、技術アウト」であるとして、つぎのように説明しています。

マーケットインではなく、顧客イン。プロダクトアウトではなく、技術アウト。しかも、本体部分が技術アウトで、その修飾句として顧客インがついている。(本書 p.73)

なにやら禅問答のような文章ですが、以降の本文を読むと理解できると思います。(さすがに、ここで引用することは控えさせていただきます。長い引用になってしまいますし・・・)
マーケットイン、顧客イン、プロダクトアウト、技術アウトの4つの単語の意味を取り違えないことが重要になってきます。

論文でも、理論書でもないので、とても読みやすい文章です(最初は、新書を想定したものですし)。とはいえ、もちろんハウツー書でもありません。
「イノベーションのあり方」といったような本質?について考えたい、学びたいという方は、本書を手に取ってみてください。思考の整理になったり、新たな気づきを得ることができるかもしれません。

(もうしばらく、本の紹介が続きそうです。どこかで、一気に在庫処分してしまおうかとも思っていますが・・・。正直、みなさんも飽きてきましたよね^^;)

『売り方は類人猿が知っている』

売り方は類人猿が知っている(日経プレミアシリーズ) 売り方は類人猿が知っている(日経プレミアシリーズ)
価格:¥ 893(税込)
発売日:2009-12-09

(もう少し、本紹介をメインに投稿していきます。当初、紹介しようと思っていた以外の本がどんどん増えているのですが・・・)

この本の著者は、ルディー和子さん。私にとってこの方は、著者買いをするお一人です^^;
年末年始帰省の車上で一気に読みきりましたが、やはりおもしろかった。この方の視点や、その視点を理解させる事例の取り上げ方にはいつも関心させられます。
(ここで、ひとつ注意。ルディーさんの視点は、誰もが共感できるものではないかもしれません。とくに、リサーチ業界に多いかもしれないデータ主義、実証主義系の方々には・・・)

今回のテーマは、「進化心理学」。
これまで、このblogでも「行動経済学」や「ニューロマーケティング」、「脳科学」については、何度か取り上げてきましたが、また新しい領域ですね・・・。

ルディーさんによると、1990年代に「神経科学」と「行動経済学」が大きな進化を遂げたのですが、モノを選択して購買するときの「ちぐはぐ」や「ちゃらんぽらん」を説明できるのは、1970年代に登場した「進化心理学」だというのです(本書 pp.3-4)。
そして、

数十万年から数百万年という太古の昔に遡って、私たちの祖先がしたことや学んだこと、環境の変化に脳の仕組みが適応してきた歴史を知れば、現代の不可思議な消費行動が明らかになります。モノを売る売り手がどう対処すべきかの解決方法も見えてきます。(本書 p.4)

と。

さて、ではどのような内容か。いつものように、もくじを紹介します。

第1章 不安なホモサピエンスはモノを買わない
第2章 人間もサルも「得る」よりも「失う」を重く考える
第3章 金持ち父さんは貧乏父さんがとても気になる
第4章 自動車の売上と孔雀の羽との関係
第5章 感情と記憶が長寿ブランドをつくる
第6章 人間も進化の歴史から逃れられない

進化心理学の理論(というか、私たちの祖先がどのような生活をし、どのように進化してきたのか、ということがメインですけど)を紹介しつつ、いまの消費社会やマーケティングについて読み解いていくという内容です。

中でも、本書の大きなテーマになっていると思われるのが、「低価格が、ほんとうに消費や経済を活性化させることができるのか」ということについてです。結論を書いてしまうと、「否」なんですけど。
私個人としても、いまの「低価格でないと、モノが売れない」というような風潮?、路線?はどうなんだろうと思っていたところなので、ルディーさんの主張には納得。(とくに、お金持ちにはもっと消費してもらわないと、という点は同意)
そして先にも引用したように、いまの消費状況を脱却するためには、進化心理学をベースとしてカスタマー・インサイトを得ることが必要だということになるのです。

小見出しから、キーワードと思えるものをほんのいくつか紹介すると、

    • 最初に生まれた感情は「恐れ」
    • キーワードは「安心」
    • 金持ちに買い控えさせる罪悪感
    • 他人と協力すると快感を感じる
    • 購買を正当化させてあげる
    • 記憶は事実とは異なる
    • 商いは飽きないに通じる
    • ソーシャルメディアが再現する「村の生活」

などなどです。

ルディーさんも「楽しく面白く読んでいただけることが、筆者の一番の願いです」(p.4)と書いているように、新書ですし、気軽に、面白く読める本だと思います。(正月明けのアタマを、自然に仕事モードにもって行くことができるかもしれませんし。。。)
いまの消費状況や、マーケティングに行き詰まりを感じている方は、ぜひ読んでみてください。こんな見方もあるんだと思える内容だと思います。
(とはいえ、決していい加減な内容の本ではないです。しっかり参考文献一覧も載っていますので、進化心理学に興味を持った方は、こちらの文献一覧からさらに勉強することもできると思います。ただし、ほとんどが英語の文献なんですけど・・・)

そして・・・
こういう本を読むと、経営学や商学といった社会科学だけでなく、社会学や心理学、さらには哲学や思想といった人文科学系の勉強をしないと、マーケティングはやっていけない時代に一層なったんだな、と思います。。。

PS.

ルディーさんご自身による本書の紹介が、こちらに ↓ 。
(本書を読んで興味を持った方は、他のエントリーも読んでみてください。新たな気づきを得られるかもしれませんよ)

「売り方は類人猿が知っている(お知らせ)」
(ルディ和子さんのblog『明日のマーケティング』2009/12/2)

それと、以前にこのblogで取り上げた、こちら ↓ のエントリーもどうぞ。

『マーケティングは消費者に勝てるか?』(2006/12/2)

『ヒットを生み出す最強チーム術』

ヒットを生み出す最強チーム術 キリンビール・マーケティング部の挑戦 (平凡社新書) ヒットを生み出す最強チーム術 キリンビール・マーケティング部の挑戦 (平凡社新書)
価格:¥ 735(税込)
発売日:2009-09-16

Amazonのこの ↑ 形式のリンクの欠点は、著者名が表示されないことですよね・・・。
本書の著者は、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で、一躍有名になった(と思うのですが)キリンの佐藤章氏です。
番組出演当時(2006年だと思います)、佐藤氏はキリンビバレッジに所属していました。飲料業界は、年に100~150もの新商品を上市するものの(1社で、です)、1年後に生き残るのは数商品しかないという熾烈な競争を行っている市場です。その中で、佐藤氏は多くのヒット商品を生み出してきました。2007年にキリンビールに異動され、ビール市場でもヒット商品を生み出しています。
本書では、これらの商品開発の舞台裏を紹介しながら、仕事における「チーム術」について書いています。

もくじは、つぎのように。

第1章 「一番搾り」リニューアルの舞台裏
第2章 落ちこぼれからのスタート
第3章 "確信犯"がヒットを生む
第4章 商品開発は異種格闘技
第5章 言葉をいかに磨くか ―会議とプレゼンの技法
第6章 縄文サラリーマンのすすめ
対談  佐藤可士和×佐藤章 ものづくりはコミュニケーション

このもくじでは、本書のポイントは伝わらないかもしれないです。。。
そこで、帯にある「本書の内容」から。

・ものづくりの現場では多数決と民主主義は意味がない
・どう仮説をたてるかで新商品の成否は決まる
・大きい市場、伸びる市場を狙う
・会社の都合で商品はつくらない
・危機感の共有が会議を盛り上げる
・上司が部下にできるのは"場"を与えること

メインテーマは、タイトルにあるように、仕事におけるチーム(ここでのチームは社内に限りません、社外を含めたチームです)の運営についてです。ただ、題材が商品開発ですので、商品開発の流れやポイントを理解することができる内容になっています。
「商品開発はひらめきだ」という方も少なくないですが、佐藤氏のスタンスは、ひらめきだけでも、データだけでもない、2者のバランスです。仮説や確信の重要さを主張するとともに、その仮説も日々のインプットから生まれること、さらにその仮説を検証することの大切さもきちんと書かれています。そしてこのバランスを、「個人」としてではなく、「チーム」として運営していくことの大切さを説いているのが、本書のメインテーマだと思います。

いくつかを紹介すると・・・。

どんな時代でも、消費者は潜在的に「こんなものがあったらいいなあ」と心の中で思っています。その心の動きに寄り添い、答えを探し続ける。それが、商品開発の仕事の醍醐味です。(p.15)

商品は世に出た瞬間に開発者のものではなく、消費者のものになります。そこを忘れて、作りたいものを作ってしまうと、消費者からそっぽを向かれてしまう。商品開発では、決して消費者目線を忘れてはいけません。(p.39)

市場調査から浮かび上がった数値やデータはあくまでも結果であって、その背景には消費者の心の動きがあります。消費者の"今の心の揺れ"に注目することが、次にくるシナリオを先読みするヒントになります。(p.70)

他にも引用したいフレーズはたくさんあります。ここで紹介しだすときりがないので、これくらいにしておきます。。。
それに、フレーズの断片を切り出して紹介しても、文脈として理解してもらわないと誤解を招くかもしれないですので。

新書ですし、語り口調のわかりやすい文章ですので、ぜひ読んでみてください。
商品開発、仕事を進める上でのチーム運営、仮説を生み出す思考法、日頃のインプット方法、プレゼンのポイント、などについてのヒントを得られると思います。

PS.
佐藤氏がNHK「プロフェッショナル」に出演した時の内容は、こちら ↓ の本でどうぞ。
(この巻は、佐藤氏以外のお二人も、興味のもてる内容だと思います。いずれも、時代やお客様に向き合うことがテーマになっていますので)

プロフェッショナル 仕事の流儀〈4〉 プロフェッショナル 仕事の流儀〈4〉
価格:¥ 1,050(税込)
発売日:2006-07

『世論の曲解』

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書) 世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)
価格:¥ 861(税込)
発売日:2009-12-16

このblogでも何度か「世論」に関するエントリーを書いてきましたが、その世論について新たな見方を示してくれるのが本書です。
著者は若手の政治学者です。だからでしょうか、少し挑戦的な感じも受ける本です。ご本人も、「本書は、手軽に知見を得るための本ではなく、挑戦的な議論と検証を行う種類の本である」(p.20)と言っているので、間違いないと思いますが^^;

2005年のいわゆる「郵政選挙」以降の世論や政治状況を理解する上でもおもしろいのですが、世論調査、広く見れば調査全般、データの読み方について学ぶ上でも、おもしろい本だと思います。

では、まずもくじを。

第1章 寝た子を起こした?-2005年総選挙・郵政解散の意味
第2章 逆小泉効果神話-曲解される2007年参院選の「民意」
第3章 逆コースをたどる自民党-安部政権はなぜ見限られたのか
第4章 「麻生人気」の謎-2007年総裁選・迷走の構図
第5章 作られた人気-「次の首相」調査の意味
第6章 世論とネット「世論」-曲解が生まれる過程
第7章 「振り子」は戻らない-2009年総選挙・自民党惨敗の表層と底流
終章  自民党大敗の教訓-世論の曲解を繰り返さないために

このように、巷間言われてきたいくつかの見方、解釈に対して、データ分析を通じて斬りこんでいくという内容の本です。
その対象となっているのは、「郵政選挙はマスコミに踊らされた結果」「07年参院選の自民大敗は逆小泉効果の結果」「麻生首相誕生は国民的人気の結果」「若者の右傾化」「09年総選挙の自民党大敗は振り子が民主に振れた結果」といったものです。これらの見方、解釈が、世論や世論調査を読み違えた結果として、もたらされたと主張しています。

具体的なデータ分析や議論、どのような主張なのかは本書を読んでいただくとして、ここではデータに向き合う姿勢についての学びをしていきたいと思います。

まず、なぜこのような「曲解」が起こるのか。著者は、つぎのように書いています。

人は、自分の考え方や事前に有している印象や情報にしたがって、物事を解釈しがちである。さまざまな情報やデータが周囲にあっても、自分の考えに合致する、都合のよいものだけを選び取ってしまう習性がある。少し難しい言葉で言えば、これを確証バイアスという。(本書「はじめに」pp.16-17)

これは、多くの人が陥る習性だとも思います。そして、「自分の考え方や事前に有している印象や情報」も、当然、日々の情報によって形成されているわけです。
たとえば、「麻生人気」の背景として、つぎのようなことがあったとしています。

08年総裁選時には、他にもいくつもの「国民的人気」の「証拠」が登場した。たとえば麻生太郎が書いた本の売り上げや、麻生饅頭の売り上げなどがそうである。「麻生人気」に限らず社会のごく一部による行動、限定的な現象を、一般的であるかのように語る、もしくは錯覚させる報道や言説が、政治の世界でも多い。(本書 p.141)

とかくマスコミはひとつの事象に対して集中豪雨的な報道をしがちですし、得てしてステレオタイプな、一般的に受けのいい言説を行いがちだなと日頃から感じていますので、この指摘には同意できます。

そして、このような判断の偏りや歪みは、当然、政治の話だけではないでしょう。私たちの日々の判断、ビジネス上の判断でさえ同様ではないでしょうか。
自分が多く目にしたり耳にする、自分の納得性が高い、あるいは心に残る「エピソード」だけを頼りに判断するケースを、少なからずみかけます。しかし、そのエピソードが出てきた背景や、そのエピソードが語られる文脈を理解することが重要ですし、さらにそのエピソードに対する反証例がないのかと考えることも欠かせないでしょう。
情報やデータをどれだけ多面的に見ることができるか、自分のもっている仮説や信念を批判的に見て自ら検討することができるか、ということが必要なのだと思います。
(そして本書についても、ここに書いてあることを鵜呑みにするのではなく、この分析や論理は正しいのか、という視点も必要なのだと思います)

とはいえ、このような姿勢はなかなか難しいものです。
まずは本書で、これまでの“世間的な常識”がどのように批判されているのかを見ることで、多面的な分析や批判的な検討とはどのようなことか、を学んでみてはいかでしょう。
単純集計によるデータの読み取りだけでなく、データの深い読込みには「視点の持ち方」がどれだけ重要かということも感じていただけるのではないかと思います。さらに、調査それ自体についての理解を深めるためにも。5章「次の首相」調査の意味などは、日々のリサーチを考える上でも参考になるのでは?(ベテランの方にとっては常識の範囲だと思いますが・・・)

PS.
(本書とはまったく関係ない内容だとは思いますが、「データの見方」という点では参考になると思うので・・・)
『とみざわのマーケティングノート』さんにて、先日のM-1結果についての分析をしています。
「笑い飯への紳助の100点」が話題になっていましたが、このように分析すれば取り立てて特異なことではないことがわかります。(そして、このようなデータを見ると、リサーチにおける得点も素直に集計してしまっていいのかと思いませんか?)
このような疑問をもつこと、そして実際に計算をしてみることが大切なのですね。
興味のある方は、ぜひこちらも。

M-1笑い飯、紳助の100点は東国原の92点
(「とみざわのマーケティングノート」2009/12/21)

『「嫌消費」世代の研究』

「嫌消費」世代の研究――経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち 「嫌消費」世代の研究――経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2009-11-13

1ヶ月くらい前に出版されている本ですが、いまでも平積みしている本屋さんをよくみかけますので、すでに読まれた方も多いかもしれません。(帯に書いてある「クルマ買うなんてバカじゃないの?」という惹句が、効いている気がしますけど・・・)
よくある、「いまの時代」解説本のひとつのように見えますが、類書とは異なり、やや骨太な内容の本だと思います。

(ここで、個人的な話を少し。。。
本書の著者である松田さんは、私が社会人となって最初に影響を受けた人、といっても過言ではありません。社会人として入社した直後の研修で、「社会人は学生以上に勉強をしなければならない」「月に1万円は本を買え」と言われたことは、いまでも記憶に残っていますし、この言葉があったからこそ、いまの私があるのかもしれません。社会科学の方法論や、リサーチのいろは、データの読み方、多変量解析などを最初に学んだのも松田さんですし)

さて、本書に戻ります。。。
まずは、もくじを。

第1章 嫌消費の時代
第2章 嫌消費世代の登場とプロフィール
第3章 嫌消費の要因は世代特性か、低収入か
第4章 世代論はどこまで有効か
第5章 嫌消費世代のマインドと市場攻略
終章  未来の消費社会

本書の目的について、「はじめに」の中で、つぎのように書かれています。

嫌消費の事実はどこにみられるのか。どんな層が担っているのか。なぜ嫌消費なのか。嫌消費は広がるのか。彼らにどう対応したらいいのか。経済にどのような影響を与えるのか。本書では、これらのテーマを明らかにした。そして、この問題の分析に活用したのが「世代論」である。(本書「はじめに」pp.1-2)

タイトルやもくじを見ても、この「はじめに」でも、「世代」がキーワードになっていることが分かります。そして、この本の特徴と価値は、この「世代」論で分析を行なっていることにあると思います。

「いま」を分析するときに、いくつかの視点があります。“時代”、“年代”、そして“世代”です。

まず“時代”。
多くの場合、この“時代”という言葉で現象を解説しますし、「いまは、XXXな時代だから」といわれると、妙に納得してしまうマッジクワードでもあります。しかし、ほんとうに“時代”が、大きな要因となっているのかはきちんと検証しなければならない場合が多いようにも思います。そして、もしも“時代”が現象を説明する真の要因ならば、今後、変化をする可能性もあるわけです。(景気変動やファッションの循環性などは、この時代による変化といえそうです)

ふたつめは“年代”や“ライフステージ”。
ある特定の“年代”で特徴づけられる現象を取り上げて、いまを説明しようとするものです。しかし時代と同様、ほんとうに“年代”や“ライフステージ”で説明できる要因なのかということは、きちんと検証する必要があると思います。年代で説明できるということは、歳を重ねる、あるいは家族形成の過程で、その現象は変化するということですので、いずれはその年代特有の現象は消滅していくと考えられます。(「ルーズソックス」や「やまんば」といわれた現象は、この年代によるものかもしれません。ある時代の特定年代に特有の現象で、彼女たちの成長とともに消滅した現象だったということで)
また、“年代”と“世代”を、結構あいまいに使っているので、この点も注意が必要です。たとえば、「いまの若者はXXXだ」という場合、ここで言われている「若者」は、ある特定の年齢に紐づいた“年代”について語っているのか、あるいはつぎにみる(ある特定の「生まれ年」に紐づいた)“世代”について語られているのか、判然としない場合が少なくありません。

そして、3つめに考えたいのが、今回のテーマである“世代”です。
もしも、ある現象をもたらしている要因が“世代”だとすると、その現象は構造的なものとなる可能性が高いといえます。なぜなら、“世代”によるとするなら、基本的に変わることのない価値観に根ざした変化なわけですから、いわゆる時代が変化しても、歳を重ねても、ライフステージの変化でも、大きく変わることがないと判断できるからです。
たとえば「ファストフード化」は、世代の要因が大きいのではないかと思われる現象です。たしかに、時代の影響のように見えますが、マクドナルドやカップヌードルで育った以前の世代の人たちが、それ以降の世代の人たちと同様にファストフードを食べるかというと、そんなことはないでしょう。では年代かというと、多少は加齢によって利用頻度は減るでしょうけど、まったく利用しないというわけではない。むしろ、先ほどの「マクドナルド&カップヌードル」を小さい頃に経験したか否かということで、その食用傾向が異なるというのが一番の要因ではないでしょうか。(家計調査のデータを利用して、このような仮説を検証している研究もあります)

「世代とは何か」については、本書で詳しく述べられていますので、世代をきちんと理解するためにも本書はお勧めです。
というか、「いまの時代を理解するため」というよりも、「世代を理解する」「世代による分析の有効性を理解する」ということが、本書の大きな貢献ではないかと思っていますし、ここで本書を紹介したいと思ったのも、この点からです。

しかし一方で、実務上、この「世代」で分析を行なうことは、あまりないのではないかと思います。その大きな要因として、先ほどの“時代” “年代” “世代”を厳密に分ける手法として活用できる「コーホート分析」には、ある程度長期のデータが必要になるからです。また、コーホート分析のソフトもあまり見かけないですし。。。(コーホート分析、ご存知ですか? このコーホート分析についても、本書である程度理解できると思います)

本書で「世代による分析」の有効性と、そのための「長期継続調査」の有用性、そして「世代」による分析の方法の一端を、理解していただければ、と思いました。
ファッションやトレンドのような表層的な変化ではなく、本質的、構造的な変化を見極めるにはどうすればいい?、と思っている方には、一度読んでみてほしい本です。

PS1.
似たようなタイトルの下記の本も読み比べてみるといいかも。
こちらは、少し社会学的なスタンスの本ですが。

欲しがらない若者たち(日経プレミアシリーズ) 欲しがらない若者たち(日経プレミアシリーズ)
価格:¥ 893(税込)
発売日:2009-12-09

PS2.
著者の松田さんのセミナーが、JMA(日本マーケティング協会)で、2010/1/26にあるようです。詳細は、下記のHPでどうぞ。

JMA特別セミナー「消費の地殻変動を読む~キーワードはスマートな消費~」
(日本マーケティング協会HP)

PS3.
松田さんの論文は、下記のHPにも多数あります。全文を読むには会員登録が必要ですが、本書を読んで興味をもたれた方はぜひ。(ただし、かなり骨のある文章です。。。)

戦略家のための知的羅針盤<M Next>
(JMR生活総合研究所)

『変わる家族 変わる食卓』

本を読むことから少し離れていたのですが、このごろ少し復活。さらに、積んでいた本も読んでみると、結構おもしろいなと思う本も多くて。。。
なので、過去に読んで紹介し忘れた本も含め、新旧織り交ぜながら、年末に向け本の紹介を高頻度でやってみようかなと思っています。(あまり、期待せずにお願いします・・・)

変わる家族 変わる食卓 - 真実に破壊されるマーケティング常識 (中公文庫) 変わる家族 変わる食卓 – 真実に破壊されるマーケティング常識 (中公文庫)
価格:¥ 940(税込)
発売日:2009-10-24

まずは、この本から。
単行本で出版されたのは2003年、当時それなりに話題になった本だと思います。立読みはしていたのですが当時は購入せず、最近文庫になっているのを見かけて購入しました。

本書の内容は、家庭の食卓を定性的に追ったリサーチ結果です。紹介文はつぎのように。

首都圏に在住する1960年以降に生まれた<子どもを持つ>主婦を対象として、5年間にわたって実施された食卓の実態調査<食ドライブ>によって明らかにされた驚くべき現代の食卓の実態。食卓写真付きのアンケートの徹底分析によって、日本の家庭で起きている人間関係、価値観、教育観等の変化にも迫る。
(本書 背表紙より)

本書を読んで考えさせられたことは、実はいろいろあります。順に紹介してみます。

◆エクストリームユーザーの重要さ

まず本書についての Amzon のコメントをご覧になってください。これほど、いい評価と悪い評価が分かれる本は、そう多くはないでしょう。できれば、同著者の別の本のコメントも見てみてください、最後に本を紹介しておきますので。
とくに批判派のスタンスは、「一部の特殊な例をとりあげて、あげつらっているだけだ」「自分の周りにはこんな人はいない」「科学的でない」などといったものでしょうか。(なんか、自分の考え方や感覚と異なる調査結果が出ると、「この調査はおかしい」とおっしゃる方たちを想起してしまいましたが・・・)
あとは、文章自体への批判も少なくないかもしれません。たしかに、少し上から目線というか、感情的ともとれる文体ではあるかな、とも思いますが。

先に、「単行本のときは買わなかった」と書きました。それは、なんかエキセントリックな内容だなと思ったから、というのが正直なところです。つまり、Amazonコメントでの批判的な方たちに近い感想を持ったということです(あそこまで嫌悪感は感じませんでしたけど・・・)。大いに反省しないといけないですね、リサーチャーとしては。。。
いま改めて本書を読んでみると、当時感じたようなエキセントリックさを、あまり感じません。どこの家庭でも少なからず似たような状況にあるのではないか、と思えます。つまり、ここに書かれている2000年前後の食卓は、いまに至る兆候であったと考えることができるのではないかということです。
(しかし、裏腹ではありますが、一方で企業がこのような家庭の状況を促進したという面も否めないと思います。兆候をどう捉え、それに対しどのような未来を描き、そのために企業がどのような活動を行なうかによって、未来は異なるということも忘れてはいけないと思います。・・・・・・あれ、なんかドラマ「仁」のテーマのよう^^; )

定量調査は、いまの平均的な像を知るには有効だと思います。しかし、新たな市場を開拓したり、今後のシナリオを考えるには、エクストリームといわれる極端なユーザーの実態を眺めることが有効であると、あらためて気づかせてくれた本でした。(ビジネスにおける)エスノグラフィでは、「エクストリームユーザー」に注目すべきということが言われたりしますが、本書を読むと「まさに」と思わずにいられません。
(たとえば、こちらの過去エントリーを参照→ 『デザインリサーチメソッド10』 )

◆社会学的な視点が重要になっているのでは?

また、本書を読んで、いまは社会学的な視点が重要になってきていると感じています。
本書で行われている調査は、確かに「食」に関するマーケティング・リサーチといえるかもしれません。しかし、単純に、安直に、マーケティング・リサーチとは言い切れない感じも。
著者は、つぎのように書いています。

効率化の時代、みんな、すぐに結論が欲しい。すぐに原因が知りたくて、すぐに解決策が欲しい。だから手っ取り早く答えを示す人や調査・研究が求められてもいる。しかし、こんなに「激変」し、こんなに「見えなくなった」時代には、どんなに手間がかかろうとも、そのレイヤーの1枚1枚をきちんと見ていかなければ、事態はもっと分からなくなってしまうだろう。(本書「まえがき」p.15)

本書が出版されたころ<食DRIVE>調査は、広告会社の行う食マーケティングにも使われていたが、実は当初より現代の家族や家庭を調べる調査だったのである。なぜなら、食のマーケティングを行うにしても、私たちはいまの家族の実態を余りにも知らないと思ったからである。(本書「文庫版あとがき」p.283)

ある商品の購買行動とか、購買理由とか、購買意向とか、ブランドとか、プロモーションとか、価格とか・・・。これら、経営学や商学におけるテーマも確かに大切だと思います。ただ一方で、社会学で行われているような、もっと大きな変動を捉えておくことが、以前に増して大切な時代になっているようにも思えます。一方で効率も、とても重視されるので、背反してしまうのが厄介なのですが・・・。

そういえば、本書の付論として、いまの食卓の状況をみると世代が関係しているのではないかという仮説を提示しています。1960年前後生まれと1968年前後生まれのあたりで、断層が見られ、これは家庭科の学習内容の変更と符合するということです。
この仮説が正しいかどうかは別として、「世代」という視点も、いまの社会を分析するには有効な視点ではないかと考えています。
(「世代」に関しては、別の本でさらに詳しく書かれていますので、そちらで紹介します)

◆そして、いわゆる“アンケート調査”は・・・

そして、この本で強く打ち出されているのは、いわゆる“アンケート調査”への懐疑です。
著者は、つぎのように書いています。

<食DRIVE>から得られる結果で見逃せない重要なポイントに、生活者がアンケートやインタビューに回答する「言っていること」と実際に生活場面で「やっていること」との間には無視できないほどの乖離があり、それが年々大きくなっているという事実がある。しかもそれは、若い層ほど顕著になってきている。(本書「第7章 言っていることとやっていることは別」p.245)

たとえば、「手作り派」と答えている主婦の食卓が昔の考え方でいうと「手作り」とは言いがたいものであったり、「味にうるさい」「グルメ」という言葉も昔の本格志向や本物志向とは異なる、という事例が多く紹介されています。
ところで、たとえば「麻婆豆腐」をCook-Doのような合わせ調味料を使って料理するのは「手作り派」でしょうか? この本では否というスタンスのようです。もしかすると、この考え方自体が、すでに一般的でない可能性もありますよね。よくある、ことわざや四字熟語の誤認の問題のように。
このように、質問者と回答者の言葉の意味、コードが異なっている可能性があるという点も、リサーチをする人間は心に留めておかなくてはいけない大切なことです。つい、自分の基準が世間の基準だと思ってしまうので。というかあまりにも当たり前なので、思うことさえしないでしょうが。どのような文脈の元で言葉を解釈しているのか、使っているのかまで吟味しないと、真のインサイトにはたどり着かないことが増えたように思います。

著者は、さらに言います。

マーケティングリサーチにおいては、「とりあえずアンケートをとってみれば、何かがわかるんじゃないか」「アンケートでこう出ているんだからきっとそうなんじゃないか」というような安易な姿勢ではものごとを判断できなくなっている。調査にも、このような人々に対応した高度な技術や設計、そしていままで以上の深い洞察力が要求される時代になっているということだろう。(本書「第7章 言っていることとやっていることは別」p.257)

そのとおりだと思いますし、このように考えてくれる方が一人でも増えると、世のリサーチ会社も、もっと仕事が増えるのではないかと思うのですが。。。
(いや・・・、もしかしたら、だからこそリサーチ会社は頼られなくなったのか?。。。)

このように、この本はいろいろなことを考えさせてくれました。実は、もっと考えることはあったのですが、このblogの本題ではないので、ここでは触れません。
興味をもたれた方は、一度、読んでみてください。面白いと思うか、腹を立てるかは、あなた次第ですが。。。

PS.
興味を持った方は、同じ著者のつぎの2冊もどうぞ。
(とくに、『普通の家族がいちばん怖い』のAmazonコメント欄を。いい評価と悪い評価が見事に分かれています・・・)

“現代家族”の誕生―幻想系家族論の死 “現代家族”の誕生―幻想系家族論の死
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2005-06

普通の家族がいちばん怖い―徹底調査!破滅する日本の食卓 普通の家族がいちばん怖い―徹底調査!破滅する日本の食卓
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2007-10

(あとがきによると、この年末にも続編が出ることになっているようなのですが・・・。まだみたいですね~2009/12/18現在)

【追記:2010/2/21】
新刊が出版されていました。
今回は、「食卓の写真」が多く掲載されているので、ビジュアルで状況を確認できます。

家族の勝手でしょ!写真274枚で見る食卓の喜劇 家族の勝手でしょ!写真274枚で見る食卓の喜劇
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2010-02-19