日別アーカイブ: 2010-01-08

『売り方は類人猿が知っている』

売り方は類人猿が知っている(日経プレミアシリーズ) 売り方は類人猿が知っている(日経プレミアシリーズ)
価格:¥ 893(税込)
発売日:2009-12-09

(もう少し、本紹介をメインに投稿していきます。当初、紹介しようと思っていた以外の本がどんどん増えているのですが・・・)

この本の著者は、ルディー和子さん。私にとってこの方は、著者買いをするお一人です^^;
年末年始帰省の車上で一気に読みきりましたが、やはりおもしろかった。この方の視点や、その視点を理解させる事例の取り上げ方にはいつも関心させられます。
(ここで、ひとつ注意。ルディーさんの視点は、誰もが共感できるものではないかもしれません。とくに、リサーチ業界に多いかもしれないデータ主義、実証主義系の方々には・・・)

今回のテーマは、「進化心理学」。
これまで、このblogでも「行動経済学」や「ニューロマーケティング」、「脳科学」については、何度か取り上げてきましたが、また新しい領域ですね・・・。

ルディーさんによると、1990年代に「神経科学」と「行動経済学」が大きな進化を遂げたのですが、モノを選択して購買するときの「ちぐはぐ」や「ちゃらんぽらん」を説明できるのは、1970年代に登場した「進化心理学」だというのです(本書 pp.3-4)。
そして、

数十万年から数百万年という太古の昔に遡って、私たちの祖先がしたことや学んだこと、環境の変化に脳の仕組みが適応してきた歴史を知れば、現代の不可思議な消費行動が明らかになります。モノを売る売り手がどう対処すべきかの解決方法も見えてきます。(本書 p.4)

と。

さて、ではどのような内容か。いつものように、もくじを紹介します。

第1章 不安なホモサピエンスはモノを買わない
第2章 人間もサルも「得る」よりも「失う」を重く考える
第3章 金持ち父さんは貧乏父さんがとても気になる
第4章 自動車の売上と孔雀の羽との関係
第5章 感情と記憶が長寿ブランドをつくる
第6章 人間も進化の歴史から逃れられない

進化心理学の理論(というか、私たちの祖先がどのような生活をし、どのように進化してきたのか、ということがメインですけど)を紹介しつつ、いまの消費社会やマーケティングについて読み解いていくという内容です。

中でも、本書の大きなテーマになっていると思われるのが、「低価格が、ほんとうに消費や経済を活性化させることができるのか」ということについてです。結論を書いてしまうと、「否」なんですけど。
私個人としても、いまの「低価格でないと、モノが売れない」というような風潮?、路線?はどうなんだろうと思っていたところなので、ルディーさんの主張には納得。(とくに、お金持ちにはもっと消費してもらわないと、という点は同意)
そして先にも引用したように、いまの消費状況を脱却するためには、進化心理学をベースとしてカスタマー・インサイトを得ることが必要だということになるのです。

小見出しから、キーワードと思えるものをほんのいくつか紹介すると、

    • 最初に生まれた感情は「恐れ」
    • キーワードは「安心」
    • 金持ちに買い控えさせる罪悪感
    • 他人と協力すると快感を感じる
    • 購買を正当化させてあげる
    • 記憶は事実とは異なる
    • 商いは飽きないに通じる
    • ソーシャルメディアが再現する「村の生活」

などなどです。

ルディーさんも「楽しく面白く読んでいただけることが、筆者の一番の願いです」(p.4)と書いているように、新書ですし、気軽に、面白く読める本だと思います。(正月明けのアタマを、自然に仕事モードにもって行くことができるかもしれませんし。。。)
いまの消費状況や、マーケティングに行き詰まりを感じている方は、ぜひ読んでみてください。こんな見方もあるんだと思える内容だと思います。
(とはいえ、決していい加減な内容の本ではないです。しっかり参考文献一覧も載っていますので、進化心理学に興味を持った方は、こちらの文献一覧からさらに勉強することもできると思います。ただし、ほとんどが英語の文献なんですけど・・・)

そして・・・
こういう本を読むと、経営学や商学といった社会科学だけでなく、社会学や心理学、さらには哲学や思想といった人文科学系の勉強をしないと、マーケティングはやっていけない時代に一層なったんだな、と思います。。。

PS.

ルディーさんご自身による本書の紹介が、こちらに ↓ 。
(本書を読んで興味を持った方は、他のエントリーも読んでみてください。新たな気づきを得られるかもしれませんよ)

「売り方は類人猿が知っている(お知らせ)」
(ルディ和子さんのblog『明日のマーケティング』2009/12/2)

それと、以前にこのblogで取り上げた、こちら ↓ のエントリーもどうぞ。

『マーケティングは消費者に勝てるか?』(2006/12/2)