日別アーカイブ: 2009-12-18

『変わる家族 変わる食卓』

本を読むことから少し離れていたのですが、このごろ少し復活。さらに、積んでいた本も読んでみると、結構おもしろいなと思う本も多くて。。。
なので、過去に読んで紹介し忘れた本も含め、新旧織り交ぜながら、年末に向け本の紹介を高頻度でやってみようかなと思っています。(あまり、期待せずにお願いします・・・)

変わる家族 変わる食卓 - 真実に破壊されるマーケティング常識 (中公文庫) 変わる家族 変わる食卓 – 真実に破壊されるマーケティング常識 (中公文庫)
価格:¥ 940(税込)
発売日:2009-10-24

まずは、この本から。
単行本で出版されたのは2003年、当時それなりに話題になった本だと思います。立読みはしていたのですが当時は購入せず、最近文庫になっているのを見かけて購入しました。

本書の内容は、家庭の食卓を定性的に追ったリサーチ結果です。紹介文はつぎのように。

首都圏に在住する1960年以降に生まれた<子どもを持つ>主婦を対象として、5年間にわたって実施された食卓の実態調査<食ドライブ>によって明らかにされた驚くべき現代の食卓の実態。食卓写真付きのアンケートの徹底分析によって、日本の家庭で起きている人間関係、価値観、教育観等の変化にも迫る。
(本書 背表紙より)

本書を読んで考えさせられたことは、実はいろいろあります。順に紹介してみます。

◆エクストリームユーザーの重要さ

まず本書についての Amzon のコメントをご覧になってください。これほど、いい評価と悪い評価が分かれる本は、そう多くはないでしょう。できれば、同著者の別の本のコメントも見てみてください、最後に本を紹介しておきますので。
とくに批判派のスタンスは、「一部の特殊な例をとりあげて、あげつらっているだけだ」「自分の周りにはこんな人はいない」「科学的でない」などといったものでしょうか。(なんか、自分の考え方や感覚と異なる調査結果が出ると、「この調査はおかしい」とおっしゃる方たちを想起してしまいましたが・・・)
あとは、文章自体への批判も少なくないかもしれません。たしかに、少し上から目線というか、感情的ともとれる文体ではあるかな、とも思いますが。

先に、「単行本のときは買わなかった」と書きました。それは、なんかエキセントリックな内容だなと思ったから、というのが正直なところです。つまり、Amazonコメントでの批判的な方たちに近い感想を持ったということです(あそこまで嫌悪感は感じませんでしたけど・・・)。大いに反省しないといけないですね、リサーチャーとしては。。。
いま改めて本書を読んでみると、当時感じたようなエキセントリックさを、あまり感じません。どこの家庭でも少なからず似たような状況にあるのではないか、と思えます。つまり、ここに書かれている2000年前後の食卓は、いまに至る兆候であったと考えることができるのではないかということです。
(しかし、裏腹ではありますが、一方で企業がこのような家庭の状況を促進したという面も否めないと思います。兆候をどう捉え、それに対しどのような未来を描き、そのために企業がどのような活動を行なうかによって、未来は異なるということも忘れてはいけないと思います。・・・・・・あれ、なんかドラマ「仁」のテーマのよう^^; )

定量調査は、いまの平均的な像を知るには有効だと思います。しかし、新たな市場を開拓したり、今後のシナリオを考えるには、エクストリームといわれる極端なユーザーの実態を眺めることが有効であると、あらためて気づかせてくれた本でした。(ビジネスにおける)エスノグラフィでは、「エクストリームユーザー」に注目すべきということが言われたりしますが、本書を読むと「まさに」と思わずにいられません。
(たとえば、こちらの過去エントリーを参照→ 『デザインリサーチメソッド10』 )

◆社会学的な視点が重要になっているのでは?

また、本書を読んで、いまは社会学的な視点が重要になってきていると感じています。
本書で行われている調査は、確かに「食」に関するマーケティング・リサーチといえるかもしれません。しかし、単純に、安直に、マーケティング・リサーチとは言い切れない感じも。
著者は、つぎのように書いています。

効率化の時代、みんな、すぐに結論が欲しい。すぐに原因が知りたくて、すぐに解決策が欲しい。だから手っ取り早く答えを示す人や調査・研究が求められてもいる。しかし、こんなに「激変」し、こんなに「見えなくなった」時代には、どんなに手間がかかろうとも、そのレイヤーの1枚1枚をきちんと見ていかなければ、事態はもっと分からなくなってしまうだろう。(本書「まえがき」p.15)

本書が出版されたころ<食DRIVE>調査は、広告会社の行う食マーケティングにも使われていたが、実は当初より現代の家族や家庭を調べる調査だったのである。なぜなら、食のマーケティングを行うにしても、私たちはいまの家族の実態を余りにも知らないと思ったからである。(本書「文庫版あとがき」p.283)

ある商品の購買行動とか、購買理由とか、購買意向とか、ブランドとか、プロモーションとか、価格とか・・・。これら、経営学や商学におけるテーマも確かに大切だと思います。ただ一方で、社会学で行われているような、もっと大きな変動を捉えておくことが、以前に増して大切な時代になっているようにも思えます。一方で効率も、とても重視されるので、背反してしまうのが厄介なのですが・・・。

そういえば、本書の付論として、いまの食卓の状況をみると世代が関係しているのではないかという仮説を提示しています。1960年前後生まれと1968年前後生まれのあたりで、断層が見られ、これは家庭科の学習内容の変更と符合するということです。
この仮説が正しいかどうかは別として、「世代」という視点も、いまの社会を分析するには有効な視点ではないかと考えています。
(「世代」に関しては、別の本でさらに詳しく書かれていますので、そちらで紹介します)

◆そして、いわゆる“アンケート調査”は・・・

そして、この本で強く打ち出されているのは、いわゆる“アンケート調査”への懐疑です。
著者は、つぎのように書いています。

<食DRIVE>から得られる結果で見逃せない重要なポイントに、生活者がアンケートやインタビューに回答する「言っていること」と実際に生活場面で「やっていること」との間には無視できないほどの乖離があり、それが年々大きくなっているという事実がある。しかもそれは、若い層ほど顕著になってきている。(本書「第7章 言っていることとやっていることは別」p.245)

たとえば、「手作り派」と答えている主婦の食卓が昔の考え方でいうと「手作り」とは言いがたいものであったり、「味にうるさい」「グルメ」という言葉も昔の本格志向や本物志向とは異なる、という事例が多く紹介されています。
ところで、たとえば「麻婆豆腐」をCook-Doのような合わせ調味料を使って料理するのは「手作り派」でしょうか? この本では否というスタンスのようです。もしかすると、この考え方自体が、すでに一般的でない可能性もありますよね。よくある、ことわざや四字熟語の誤認の問題のように。
このように、質問者と回答者の言葉の意味、コードが異なっている可能性があるという点も、リサーチをする人間は心に留めておかなくてはいけない大切なことです。つい、自分の基準が世間の基準だと思ってしまうので。というかあまりにも当たり前なので、思うことさえしないでしょうが。どのような文脈の元で言葉を解釈しているのか、使っているのかまで吟味しないと、真のインサイトにはたどり着かないことが増えたように思います。

著者は、さらに言います。

マーケティングリサーチにおいては、「とりあえずアンケートをとってみれば、何かがわかるんじゃないか」「アンケートでこう出ているんだからきっとそうなんじゃないか」というような安易な姿勢ではものごとを判断できなくなっている。調査にも、このような人々に対応した高度な技術や設計、そしていままで以上の深い洞察力が要求される時代になっているということだろう。(本書「第7章 言っていることとやっていることは別」p.257)

そのとおりだと思いますし、このように考えてくれる方が一人でも増えると、世のリサーチ会社も、もっと仕事が増えるのではないかと思うのですが。。。
(いや・・・、もしかしたら、だからこそリサーチ会社は頼られなくなったのか?。。。)

このように、この本はいろいろなことを考えさせてくれました。実は、もっと考えることはあったのですが、このblogの本題ではないので、ここでは触れません。
興味をもたれた方は、一度、読んでみてください。面白いと思うか、腹を立てるかは、あなた次第ですが。。。

PS.
興味を持った方は、同じ著者のつぎの2冊もどうぞ。
(とくに、『普通の家族がいちばん怖い』のAmazonコメント欄を。いい評価と悪い評価が見事に分かれています・・・)

“現代家族”の誕生―幻想系家族論の死 “現代家族”の誕生―幻想系家族論の死
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2005-06

普通の家族がいちばん怖い―徹底調査!破滅する日本の食卓 普通の家族がいちばん怖い―徹底調査!破滅する日本の食卓
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2007-10

(あとがきによると、この年末にも続編が出ることになっているようなのですが・・・。まだみたいですね~2009/12/18現在)

【追記:2010/2/21】
新刊が出版されていました。
今回は、「食卓の写真」が多く掲載されているので、ビジュアルで状況を確認できます。

家族の勝手でしょ!写真274枚で見る食卓の喜劇 家族の勝手でしょ!写真274枚で見る食卓の喜劇
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2010-02-19