日別アーカイブ: 2009-12-22

『「嫌消費」世代の研究』

「嫌消費」世代の研究――経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち 「嫌消費」世代の研究――経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2009-11-13

1ヶ月くらい前に出版されている本ですが、いまでも平積みしている本屋さんをよくみかけますので、すでに読まれた方も多いかもしれません。(帯に書いてある「クルマ買うなんてバカじゃないの?」という惹句が、効いている気がしますけど・・・)
よくある、「いまの時代」解説本のひとつのように見えますが、類書とは異なり、やや骨太な内容の本だと思います。

(ここで、個人的な話を少し。。。
本書の著者である松田さんは、私が社会人となって最初に影響を受けた人、といっても過言ではありません。社会人として入社した直後の研修で、「社会人は学生以上に勉強をしなければならない」「月に1万円は本を買え」と言われたことは、いまでも記憶に残っていますし、この言葉があったからこそ、いまの私があるのかもしれません。社会科学の方法論や、リサーチのいろは、データの読み方、多変量解析などを最初に学んだのも松田さんですし)

さて、本書に戻ります。。。
まずは、もくじを。

第1章 嫌消費の時代
第2章 嫌消費世代の登場とプロフィール
第3章 嫌消費の要因は世代特性か、低収入か
第4章 世代論はどこまで有効か
第5章 嫌消費世代のマインドと市場攻略
終章  未来の消費社会

本書の目的について、「はじめに」の中で、つぎのように書かれています。

嫌消費の事実はどこにみられるのか。どんな層が担っているのか。なぜ嫌消費なのか。嫌消費は広がるのか。彼らにどう対応したらいいのか。経済にどのような影響を与えるのか。本書では、これらのテーマを明らかにした。そして、この問題の分析に活用したのが「世代論」である。(本書「はじめに」pp.1-2)

タイトルやもくじを見ても、この「はじめに」でも、「世代」がキーワードになっていることが分かります。そして、この本の特徴と価値は、この「世代」論で分析を行なっていることにあると思います。

「いま」を分析するときに、いくつかの視点があります。“時代”、“年代”、そして“世代”です。

まず“時代”。
多くの場合、この“時代”という言葉で現象を解説しますし、「いまは、XXXな時代だから」といわれると、妙に納得してしまうマッジクワードでもあります。しかし、ほんとうに“時代”が、大きな要因となっているのかはきちんと検証しなければならない場合が多いようにも思います。そして、もしも“時代”が現象を説明する真の要因ならば、今後、変化をする可能性もあるわけです。(景気変動やファッションの循環性などは、この時代による変化といえそうです)

ふたつめは“年代”や“ライフステージ”。
ある特定の“年代”で特徴づけられる現象を取り上げて、いまを説明しようとするものです。しかし時代と同様、ほんとうに“年代”や“ライフステージ”で説明できる要因なのかということは、きちんと検証する必要があると思います。年代で説明できるということは、歳を重ねる、あるいは家族形成の過程で、その現象は変化するということですので、いずれはその年代特有の現象は消滅していくと考えられます。(「ルーズソックス」や「やまんば」といわれた現象は、この年代によるものかもしれません。ある時代の特定年代に特有の現象で、彼女たちの成長とともに消滅した現象だったということで)
また、“年代”と“世代”を、結構あいまいに使っているので、この点も注意が必要です。たとえば、「いまの若者はXXXだ」という場合、ここで言われている「若者」は、ある特定の年齢に紐づいた“年代”について語っているのか、あるいはつぎにみる(ある特定の「生まれ年」に紐づいた)“世代”について語られているのか、判然としない場合が少なくありません。

そして、3つめに考えたいのが、今回のテーマである“世代”です。
もしも、ある現象をもたらしている要因が“世代”だとすると、その現象は構造的なものとなる可能性が高いといえます。なぜなら、“世代”によるとするなら、基本的に変わることのない価値観に根ざした変化なわけですから、いわゆる時代が変化しても、歳を重ねても、ライフステージの変化でも、大きく変わることがないと判断できるからです。
たとえば「ファストフード化」は、世代の要因が大きいのではないかと思われる現象です。たしかに、時代の影響のように見えますが、マクドナルドやカップヌードルで育った以前の世代の人たちが、それ以降の世代の人たちと同様にファストフードを食べるかというと、そんなことはないでしょう。では年代かというと、多少は加齢によって利用頻度は減るでしょうけど、まったく利用しないというわけではない。むしろ、先ほどの「マクドナルド&カップヌードル」を小さい頃に経験したか否かということで、その食用傾向が異なるというのが一番の要因ではないでしょうか。(家計調査のデータを利用して、このような仮説を検証している研究もあります)

「世代とは何か」については、本書で詳しく述べられていますので、世代をきちんと理解するためにも本書はお勧めです。
というか、「いまの時代を理解するため」というよりも、「世代を理解する」「世代による分析の有効性を理解する」ということが、本書の大きな貢献ではないかと思っていますし、ここで本書を紹介したいと思ったのも、この点からです。

しかし一方で、実務上、この「世代」で分析を行なうことは、あまりないのではないかと思います。その大きな要因として、先ほどの“時代” “年代” “世代”を厳密に分ける手法として活用できる「コーホート分析」には、ある程度長期のデータが必要になるからです。また、コーホート分析のソフトもあまり見かけないですし。。。(コーホート分析、ご存知ですか? このコーホート分析についても、本書である程度理解できると思います)

本書で「世代による分析」の有効性と、そのための「長期継続調査」の有用性、そして「世代」による分析の方法の一端を、理解していただければ、と思いました。
ファッションやトレンドのような表層的な変化ではなく、本質的、構造的な変化を見極めるにはどうすればいい?、と思っている方には、一度読んでみてほしい本です。

PS1.
似たようなタイトルの下記の本も読み比べてみるといいかも。
こちらは、少し社会学的なスタンスの本ですが。

欲しがらない若者たち(日経プレミアシリーズ) 欲しがらない若者たち(日経プレミアシリーズ)
価格:¥ 893(税込)
発売日:2009-12-09

PS2.
著者の松田さんのセミナーが、JMA(日本マーケティング協会)で、2010/1/26にあるようです。詳細は、下記のHPでどうぞ。

JMA特別セミナー「消費の地殻変動を読む~キーワードはスマートな消費~」
(日本マーケティング協会HP)

PS3.
松田さんの論文は、下記のHPにも多数あります。全文を読むには会員登録が必要ですが、本書を読んで興味をもたれた方はぜひ。(ただし、かなり骨のある文章です。。。)

戦略家のための知的羅針盤<M Next>
(JMR生活総合研究所)