「母数」と「サンプル数」の本来の意味は?

ある日、つぎのようなtweetを見ました。

"ときどき、分母のことを「母数」と表現するリサーチャーがいてすご~く気になる。"

"「サンプル数」も気をつけたい表現。広く出回っている表現なので清濁併せ呑む。"

うむ・・・。なにげに使っているかもしれない。。。
そこで、
このtweetのご本人に「寺子屋で解説してくれません?」とお願いしたところ、快諾いただきました。

ということで今回は、とある市場調査会社に在籍している @slowtempo さん (すでにアカウントが異なっているので削除します)の寄稿をお届けします。

******************************************************************************************************

こんにちは。
今回はご縁があり、@slowtempoが寄稿させていただくことになりました。
よろしくお願いいたします。

まずは簡単な自己紹介を。
大学院卒業後、とある調査会社に職を得て6年になる若手(?)市場調査会社員です。
もともと統計学を専攻していた経緯もあり、データ解析に関連した業務に携わっています。

今回は、この業界に飛び込んでからお仕事をしていくなかで、とくに気になることについてお話をしたいと思います。

それは、「用語の使い方」です。

社内外を問わず市場調査関連の資料・プレゼンを見ていくと、「用語の使い方」に違和感を感じることがあります。その違和感には理由があって、「その用語が本来持つ意味と異なる使われ方をしている」ことによるものです。

本日はとくに、「母数」と「サンプル数」という表現の使い方についてお話をしたいと思います。

◆母数

はじめにお話するのは、「母数」という表現についてです。

「母数」を使った表現として、

  • 「母数がどんどん大きくなるから、この割合はどんどん小さくなって・・・」
  • 「この割合の母数はいくつで・・・」

などと、市場調査業界の内外を問わずよく耳にします。

ここでいう「母数」とは分数の「A/B」の「B」の部分のことを指しているようで、 私たちが小学校時代に算数で習った「分母の数」に相当します。

「うーん、まぁ分母の数って言った方がいいのかもしれないけど、母数という表現でもいいか?」 という気もするのですが、ここは厳密にいきましょう。

上述の文脈で「母数」という言葉を適用するのは誤りです。

それは、統計学において「母数」という言葉には、「分母の数」という意味は存在しないからです。統計用語辞典(芝祐順, 新曜社)によれば・・・

「母数:確率変数の分布を特定している定数で、分布を表す関数の中にはっきりと示されているもの」

とあります。
したがって、「母数」という言葉には「分母の数」という意味は存在しません。
先の例を表現するならば、

  • 「分母の数がどんどん大きくなるから・・・」
  • 「この割合の分母の数はいくつで・・・」

という表現のほうが正確と言えます。

◆サンプル数

もう一つお話したいのが、「サンプル数」という言葉です。
似たような表現に「サンプルサイズ」という言葉もあります。

この2つの表現はともに「抽出した標本の大きさ」の意味で使われることが多いです。 個人的な肌感覚ですが、「サンプル数」という表現が使われる頻度がより多いように思います。

・・・・・・・・・。

まぁこう言った書き出しですので、お気づきとは思いますが、「サンプル数」は統計学では「抽出した標本の大きさ」を表す表現ではありません。「サンプル数」は抽出した標本の「数」を表します。ちょっとわかりにくいですね。具体例をあげましょう。

たとえば、とあるフレームから200サンプルを抽出したときの「サンプル数」はいくつか?
答えは200・・・ではなく、「1」です。
では、AとBという2つのフレームからそれぞれ200サンプル抽出したときの「サンプル数」はいくつか?答えは「2」です。

標本は「観測された数値の集まり」を表す言葉です。したがって、「サンプル数」はその「集まり」の数をあらわします。一般的な調査では抽出は1回ですので、この場合の「サンプル数」は「1」となります。

「標本の大きさ」を表すことばとして適当なのは、「サンプルサイズ」です。 もしくは、そのまま「標本の大きさ」という言葉が統計学では正しい表現といえるでしょう。

ちなみに「n数」という表現もよく聞かれる言葉です。これはすごく独特な言い回しですね。
「n」は標本の大きさを表すことの多い記号です(一方、母集団の大きさは「N」で表すことが多いです)。要は「標本の大きさの数」ということを「n数」という言葉で表現しようという意図なのだと思いますが、スラングに近い言葉なので統計学的に正しい表現とは言い難いと思います。

◆清濁を併せ呑む

ここまで理屈っぽくお話をしてきましたが、「ん~、まぁ統計学ではそうかもしれないけど、世の中で多く出回っている表現なわけだから、どっちでもいいんじゃない?」というご意見もあろうと思います。

えーと、そのご意見には、私も部分的には同意します。
私も、社内外で「サンプル数」という表現が標本の大きさの意味で使われていても、いちいち訂正したりはしません。そんなことをしていたら、コミュニケーションが止まっちゃいますよね(汗)

ただですね・・・
市場調査に携わって、かつその道のプロを標榜するならば、統計学における正しい使い方を最低限「知っている」実務家であるべきなのではないかと個人的には考えています。

調査を円滑に、適切に実施・分析するために重要なのは、非学術的なスキルが圧倒的に重要であるように思います。上述の用語の使い方などは瑣末な問題なのかもしれません。

しかし、科学的に仮説検証、評価を行う市場調査では、統計学の知識も重要です。
正しい統計学の知識を学び、更新しつづけることが、実務家が信頼性を獲得していく上で必要なのではないか。
そう思うのです。

そういったスタンスに立った上で、清濁を併せ呑み、状況に応じて用語を使い分けるのがプロとしてあるべき姿なのではないかと若輩者ながら思う次第です。

最後は理想論になって、恐縮です。。。

あと、私より若い世代のリサーチャーには以上のようなことは伝え続けていきたいな、と思っています。草の根活動ですが、「正しいお作法」として用語の使い方を知っておいてほしいと願うのです。

                                           @slowtempo

****************************************************************************************************

いかがですか?
とくに「サンプル数」は、ほんとによく耳にしますよね。無意識に使ってしまうことも少なくないですし。。。
「サンプル数」については、@slowtempo さんの tweet で紹介されていた ↓ のサイトも参考にしてください。

サンプル数とは何か?
 (独立行政法人 労働政策研究・研修機構HP「コラム」より)

さて、ここで考えておきたいこと。
@slowtempo さんご指摘の、

市場調査に携わって、かつその道のプロを標榜するならば、統計学における正しい使い方を最低限「知っている」実務家であるべきなのではないかと個人的には考えています。

という、ご意見に賛成です。

日々の業務に追われていると、知らない言葉を聞いてもそのままスルーしてしまったり、なんとなくの理解で使ってしまうことが少なくありません。これは、統計用語に限らずですが。
同僚の話やクライアントとの話で出てきた言葉、それが専門的な言葉のようであれば、あらためてきちんと調べる態度は、とても必要なことだと思います。
「本来の意味を知らないまま、慣例的に使う」ことと、「本来の意味を知っていて、慣例的に使うこと」は、まったく異なります。このことは、仕事をしているとだんだんと理解できるようになると思いますが。

たとえば、マーケティングリサーチであれば、↓ のような辞典もあります。

マーケティング・リサーチ用語辞典 マーケティング・リサーチ用語辞典
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2004-12

今回テーマになっている「母数」や「サンプルサイズ」についても、この辞典の中で説明がされています(「サンプルサイズ」は、「標本」の項に載っています)。調べてみてください。

これからも、機会があれば@slowtempo さんに寄稿いただきながら、統計や解析についての理解を深めていきたいなと思っています(が、どうなるか?)。

【Mrs.H】「インタビュー」ということ

久しぶりの、林さんからの寄稿です。
「インタビュー」について思うことを、述べられています。

****************************************************************************************************
 人と直接接して、言葉を聴き、その態度、表情を観察することは相手を理解するために極めて重要であり、アンケート(unquёt→フランス語:一定の様式で行う問い合わせ。意見調査)では分からない生活者の微妙な意識や行動が見えてくる。
 寺子屋でも紹介された、福井遥子さんの『インタビュー調査の進めかた』(→ こちら です)は、「そうそう、そうなのよ」と思う事例がたくさん書いてあり、実に興味深い。それに関連して、とくに定性調査のインタビュアーがすることに関して、基本に戻って再確認しておきたい。

◆Interviewerと司会者は違う
 Interviewという言葉を語源辞典で調べると、「interは、相互にという意味の接頭語」、「viewは、見る/眺めるの意味を持つ動詞」で、互いに見るの意味から面接や対談になり、取材で人に会って話しを聞く(聴く)ことを意味するようになったと書いてある。
 インタビュールームの備品の中に、司会者という名札立てがあって、時には、ご丁寧に「司会者:林」と用意して下さっているところもある。申し訳ないが、私は、それを席から引いて備品用の場所に返している。私は、インタビュアーであるが司会者ではないからである。書くのなら、名前だけにして欲しい。
 ここで、司会者を広辞苑で引いてみると「会の進行を司る人」、英和辞典で引くと「The chair/the president」など、会を仕切る人のような意味がある。ここには、Iinter&Viewという役目は含まれていない。
 つまり、インタビュアーと司会者は、その役割が異なっている。
 インタビュアーをモデレーターと呼んでいるところもあるが、この言葉には調停/調節役という意味があり、反応を抑えるといったニュアンスが含まれていて、少しは仕切り的な役割があるが、それでも司会者とは違う。

◆誤解があるのかもしれない
 司会者でもインタビュアーでも、呼び名そのものは大した問題ではない。しかし、その役割と心構えは異なるから、パーソナルインタビューやグループインビューの発注、受注側共に、台本(フロー)どおりに上手に質問して、会を仕切る「司会者」を期待しているとすると、様々な問題が発生する危険性がある。
 その問題とは、対象者の方から出てくる言葉の意味(真意)の掘り下げや因果関係の追及不足で、表層的に出てくる言葉だけが次のステップの指針となり、調査結果と実際の市場が食い違うことにある。情報の取り方も、分析も、奥行きが不足しているからこういうことが起こる。そして、定性調査は信頼できないとか、定量調査との結果が違うとかいう声を聞くと、実に腹だたしい。
 人には奥行きがあって、表面だけを見ていてもその本質は分からない。そして、人は簡単に、なおかつ的確に自分の気持ちを表現できないし、受ける相手もそれを完全に理解できない。そして、その奥の方にあることも、日常の行動に大きく関係しているから、無視できない。(言葉数が多いということと、自分の気持ちが表現できているということは、必ずしも一致しないので要注意)。
 だから、定性調査ではインタビューという手法が取り入れられていて、“Inter”や“View”もしないと、インタビュアーという仕事は成立しない。
(ただ、インタビュアーはもっといろいろなことをしますけど)

◆相手の気持ちを理解しようとして、耳と心を傾ける
 心理カウンセラーは「訊く、聞く、聴く」を使い分けている。そして、最後の耳と心を傾けて「聴く」が最も重要な役割と位置づけている。定性調査のインタビュアーも同じである。現実問題としては、どうも質問することが重視されている傾向があり、上手に質問すれば、対象者は気持ちを容易に吐露すると誤解している様子がある。
 インタビューで言葉が出ないと、手を換え品を変え質問攻撃をすると、相手は固く押し黙るか、どうでもいい言葉を返してきて蟻地獄に落ちる。私も初期の頃、質問大攻勢を試みて大失敗をしている。また、何とか答えを引き出そうとして「こういう意味ですね/こういうことを言いたかったんですね」と有無を言わせずに整理してしまって、相手の真意に迫っていないという失態もしている。
 待つとか、受ける、突く(プローブ)ということをする余裕が無かった時代の手痛い思い出である。

◆今、インタビューアーに求められているのは、マーケティングリサーチャーとしての素養
 上手に質問できること、その場を仕切れることは前提条件であり、司会者の役割も当然求められている。
 ただし、定性調査のインタビュアーはこれだけでは不十分であり、調査課題を頭に叩き込んでおいて、生活者の言葉や反応の奥を、絡んだ糸を紡ぐにように丁寧に引き出していき、その因果関係をみつけて、調査課題に繋げることができないと人の心の奥には迫れない。「定性調査のインタビュアーを養成しようと思ったら、企画から」というのが私の持論であり、企画ができれば、インタビューも分析もできる。
 企画書を書くことだけが企画ではないが、少なくとも、企画の中の目的と課題と仮説(アクションスタンダートも含む)だけは、理解しておかないと定性調査のインタビュアーはできない。
「この通りに訊いて下さい」というインタビューフローだけでは、表層的な言葉は取れても、心の中に潜む何かには迫れないし、その因果関係も解明できない。

                                              林美和子

*****************************************************************************************************         

今回のお話も、リサーチャーにとって大切な提言を含んでいると思います。

少なくとも、企画の中の目的と課題と仮説(アクションスタンダートも含む)だけは、理解しておかないと定性調査のインタビュアーはできない。

これは、まったく同意です。
そしてこの視点は、定性調査、インタビュアーに限ったことではないでしょう。定量調査においても、同じでしょう。
リサーチをする目的、課題、仮説を理解せずに、どうして調査票が作れるのか、集計ができるのか、あまつさえ分析ができるのか、これは私もときどき感じることです。

そして、もうひとつ気になった一文がありました。

心理カウンセラーは「訊く、聞く、聴く」を使い分けている

「訊く」と「聞く」と「聴く」。この違いも意識したいポイントです。
ちょうど、「ask」と「hear」と「listen」の違いはなんだろう?、ということを考えていたのですが、合い通ずるものがありますね。

※「askingからlisteningへ」ということについては、experidgeの岸川さんが連載で紹介されていますので、こちらも参考にしてください。

  第1回がこちら→ The ARF Listening Playbookの紹介 (1)
                                   (Digital Consumer Planner’s Blog 2010/2/8) 

『マーケティング』

マーケティング (New Liberal Arts Selection) マーケティング (New Liberal Arts Selection)
価格:¥ 3,885(税込)
発売日:2010-05-01

新しいマーケティングのテキストです。
マーケティングに関しては、すでに多くのテキストもありますし、3885円也という値段もあって、購入を躊躇していたのですが。。。

twitter での

“Marketing: Consumer behavior and Strategy”という副題にある本書は、買い手理解に多くのページが割かれている。従来のマーケティングテキストではわずかなページしか割かれてなかった内容。買い手理解の重要性が増大した今の要請に対応したもの。
(via matsuoty

という投稿をみて、「お?!」と閃きが。

そこでAmazonにて、もくじを確認すると・・・

第1部 マーケティングとは
 第1章 現代マーケティングと市場志向
 第2章 企業戦略とマーケティング戦略

第2部 消費者行動の分析
 第3章 消費者行動分析の基本フレーム
 第4章 消費者行動分析の歴史
 第5章 消費行動と消費パターンの分析
 第6章 購買行動と意思決定プロセスの分析
 第7章 知識構造と関与水準の分析
 第8章 消費者データの収集と分析
 第9章 定性的調査方法

第3部 競争環境と流通環境
 第10章 競争環境の分析
 第11章 流通環境の進展

第4部 マーケティング戦略の策定
 第12章 市場細分化と標的設定
 第13章 新製品開発
 第14章 製品ライフサイクル

第5部 マーケティング意思決定
 第15章 製品政策:顧客価値のデザイン
 第16章 ブランド政策:ブランド構築の枠組み
 第17章 価格政策
 第18章 プロモーション政策:マスコミュニケーションとパーソナル・コミュニケーション
 第19章 チャネル政策

第6部 マーケティング戦略の諸側面
 第20章 サプライチェーン・マネジメント
 第21章 関係性マーケティング
 第22章 ビジネス・マーケティング
 第23章 サービス・マーケティング
 第24章 インターネット・マーケティング
 第25章 マーケティングにおける社会性と倫理性

と、確かに「第2部 消費者行動の分析」の章が厚そう。
で、さらに「なかみ検索」でページ数を確認すると、正味600ページ強の中で、第2部のページ数は200ページにも及ぶ。。。実に、3分の1近い!

これまでのマーケティングテキストの多くは、STP+4P(+ブランド)という「戦略、マネジメント」を主としたものが多かったのですが、これは異色の構成と言えるでしょう。
つまり、これまでのマーケティングテキストが「マネジメント中心のマーケティングマネージャー向けのテキスト」だとすると、本書は「リサーチャー(&リサーチャー寄りのマーケター?)向けのテキスト」ということもできそうな気がします(極論ですけど・・・)。
ともするとリサーチャーは、マーケティングのテキストに馴染めない人が少なくないと思うのですが、本書なら他のテキストに比べ興味を持てるのではないか、と思っています。

というこで、ご購入。
実際に本書の内容をみると、見慣れた有斐閣のテキストシリーズと同様の体裁。章ごとにキーワードを提示しながら、図表やコラムをまじえ、章末に演習問題と参考文献を提示、という構成です。
そして、消費者行動はもちろん、マーケティングの基本的なフレームが多くの図表を使って示されている点が第一の特徴。さらに、「サプライチェーン」「関係性マーケティング」「サービスマーケティング」「インターネットによる影響(章タイトルはインターネットマーケティングとなってますが、インターネットによるマーケティングへの影響、という方が正しいと思います)」「ソーシャルマーケティング」といった領域についても章立てされており、また「経験価値」「サービスドミナントロジック」などの比較的新しい概念についても言及されているなど、ここ10年くらいのマーケティングの焦点についても理解できる点が第2の特徴といえます。

このような特徴をもつ本書ですが、その狙いについて、「はしがき」では以下のような主旨で書かれています。(直接の引用ではなく、ポイントをまとめて書きます)

マーケティングの定義もいろいろあるが、交換に関わるものであることは異論がないであろう。だとすると、交換の対象である買い手の行動を理解することが、マーケティングでの重要な課題と考えられてきた。

ところが、多くのマーケティングのテキストにおいては、カバーすべき領域が多岐に及ぶこともあって、買い手の理解のために比較的僅かな紙幅しか割かれてこなかった。

だが、買い手の理解なしに、マーケティングのあり方を論じることは、誤ったマーケティングに結果する危険が少なくない。

とりわけ買い手が選択の目を厳しくしている状況や購買のあり方を変化させている状況では、買い手がなにゆえにある行動をとるかを理解することは、マーケティングのあり方を考える上できわめて重要だといわなければならない。

だからこそ、われわれは、目の前に現れる買い手の行動の変化に目を奪われるのではなく、その背後にある買い手行動の仕組みをより良く理解し、その理解にもとづいて、マーケティングのあり方を考える必要がある。そうすることにより、マーケティングについて、何が変わり何が変わらないかを見極めることが可能になる。

そのために本書では、消費者行動に焦点を当て、それがいかなる仕組みにもとづいているかに、通常のテキストブックをはるかに上回る紙幅を充てた。こうした消費者行動の仕組みの理解にもとづいて、マーケティングのあり方を把握し、マーケティングを実践していくうえでの基本を身につけること、これが本書の狙いである。

「消費者インサイト」や「エスノグラフィ」という言葉がよく聞かれるようになったのも、この主旨で述べられているように、より「買い手」の理解が重要になってきていることの表れであるといえるでしょう。
まさに、いまの時代だからこそのテキスト、といえそうです。

さらに、本書とほぼ時を同じくして見つけた本に、↓ の本があります(洋書なのですが)。

Marketing 3.0: From Products to Customers to the Human Spirit Marketing 3.0: From Products to Customers to the Human Spirit
価格:¥ 2,411(税込)
発売日:2010-05-03

この本の著者はコトラー、言わずと知れたマーケティングの大家です。
この本のAmazonでの商品説明をみると、つぎのように書かれています。

現代マーケティング論の第一人者フィリップ・コトラーがマーケティングの未来像を語る、注目の新著。
本書でコトラーは、これまでのマーケティングの潮流を「製品中心主義」のマーケティング1.0から「消費者中心主義」のマーケティング2.0への変化と整理した上で、来たるべきマーケティング3.0は「人間中心主義」になると予測する。
人間中心主義のマーケティングとは、顧客を単なる「消費者」としてではなく、多元的で能動的な存在、価値の創造に積極的に関わろうとする人間として理解し、そのような顧客のニーズに応えることを意味する。いくつかの先進的な企業は既に、顧客の参加意識・創造性・コミュニティ意識・理想主義といった深層的なニーズを満足させる製品・サービス・企業文化を提示し始めている。そのようなマーケティングを実現するには、環境・健康・社会問題に取り組む企業の社会的責任を果たすことも重要な要素となる。
マーケティングの世界的な流れに関心を持つすべての人々にとっての必読書。

やはり、消費者や人間の理解、消費者行動の理解が必要になるという提言がなされています。
(こちらも「なかみ検索」ができますので、興味のある人は本文を覗いてみてください。コトラーの主旨を理解できると思います)

誤解を畏れずに極論を言えば、これまでのマーケティングは「製品中心主義の、マネジメント偏重」のものだったといえるかもしれません。
しかし、ここ数年の環境変化は買い手を大きく変貌させ、消費行動を大きく変えてしまいました。いまはまさに「消費者」や「人間」を理解しないといけない時代といえます。
それも、個々の人ばかりではなく、人のネットワークやダイナミズムまで含めた消費行動の理解が必要なのかもしれません。
このような、そして今後もっと変化していく消費行動を理解し、その上でのマーケティングのあり方を考える上で、本書はよいテキストになると思います。
これまで、いろいろなマーケティングテキストを読まれた方へも、お勧めしたい本です。
(ただし、いわゆる「入門書」ではないので、その点は注意を。一番最初に読むマーケティングの本としては重すぎるかもしれません。他の概説書で、マーケティングの"いろは"を理解した上で、本書を読むことをおすすめします)

<さらに>

これまでの日本におけるマーケティングや消費者の変遷を理解する上で、本書の著者の一人である慶応大学大学院・池尾先生が書かれた ↓ の本も、一読に値する本だと思います。
すでに10年前の出版になりますが、「歴史に学ぶ」ことは大切な事だと思うので。

日本型マーケティングの革新 日本型マーケティングの革新
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:1999-07

消費者行動について、もっと学びたいという方に。
すでにこのblogでも紹介しているのですが( こちら にて)、本書においても「まずよむべき1冊」と紹介されている本。ある意味、古典?

消費者理解のための心理学 消費者理解のための心理学
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:1997-06

そして、中央大学大学院・田中先生の本。本書では「最近の研究動向をふまえて書かれた体系的書籍」と紹介されています。消費者行動論を網羅したレファレンスとしての価値があります。が、文章主体で図表はあまりありません。。。

消費者行動論体系 消費者行動論体系
価格:¥ 3,045(税込)
発売日:2008-09-26

もう少し取っつきやすい本で、消費者行動とコミュニケーションとの関連付けが強いという特徴をもつ本として、こちら ↓ も欠かせません 。とくに「ポストモダン消費者研究」については、いいガイドになると思います。

消費者・コミュニケーション戦略―現代のマーケティング戦略〈4〉 (有斐閣アルマ) 消費者・コミュニケーション戦略―現代のマーケティング戦略〈4〉 (有斐閣アルマ)
価格:¥ 2,205(税込)
発売日:2006-05

最後に、すでに紹介していたと思っていたのですが、紹介し忘れていた ↓ の本を。
こちらは、これまでのマーケティングテキストの構成(マーケティングマネジメントの流れ)に則ったものですが、日本人(法政大学大学院・小川先生)が執筆した、日本の事例による、できるだけ日本語の書籍や文献を優先的に取り上げた本です。
本格的なマーケティングテキスト、しかし翻訳書でないものをお探しの方には、本書をお勧めします。

マネジメント・テキスト マーケティング入門 マネジメント・テキスト マーケティング入門
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2009-07-10

『お客様の“生”の声を聞くインタビュー調査のすすめ方』

お客さまの“生の声”を聞くインタビュー調査のすすめ方 お客さまの“生の声”を聞くインタビュー調査のすすめ方
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2010-04-27

この本、ターゲティングが明確にできていると感じます。
著者の福井さんが書いているように、「ビジネス現場で実務に関わる方々にとって参考となる調査ノウハウをお伝えしよう」(「はじめに」より、pⅲ)というコンセプトで書かれています。ですから、本職のリサーチャーではなく、日々の業務の中でリサーチを活用したい方、とくにこれまであまりリサーチをしたことがない方向けの本です。
ターゲットにあわせ、商品=内容も語り調で書かれており、やさしく、わかりやすい内容になっています。(ただ、タイトルに「調査」という単語を使わない方がよりターゲットに届いたかも、という気もしました)

また、著者の福井さんの経歴が、メーカー→リサーチ会社→フリーコンサル+MBA、であることが、この本の質を高めているのだなとも感じました。
やはり、リサーチ会社のみの経歴では事業の現場感覚はなかなか理解することはできません。しかし、事業会社の経歴だけでもリサーチの専門的な理解をすることはできなかったでしょう。また、大学院で体系的な勉強をされたことが、理論的な深みを与えているように思いました。

前置きはこれくらいにして、いつものようにもくじを。

Part1 「お客様の声」に耳を傾ければ、こんないいことが・・・
Part2 調査会社に頼まず、自分たちでできる消費者インタビュー調査
Part3 インタビュー調査の活用(1)-商品開発の情報収集
Part4 インタビュー調査の活用(2)-デザイン、広告の情報収集
Part5 インタビュー調査の活用(3)-不振脱出への突破口を探る
Part6 お客様へのインタビュー調査を企画しよう
Part7 インタビュー実施に向けた準備の段取り
Part8 上手に話を聞き出すインタビューの実践ノウハウ
Part9 発言内容を分析し、役立つ情報を抽出するステップ
Part10 消費者インタビュー調査を戦略の立案に生かそう
【ケーススタディ:マタニティ専門のウエディングドレスショップの開業に向けて】

Part1~2で「お客様の声を聞くこと」とはどういうことか、なぜ大切なのかという考え方を示し、3~5で具体的な活用場面を提示、6~10でインタビューのノウハウについて整理、という構成です。

これまで、実務の中でお客様の声を聞くことがなかった方には、まずPart1~2を読んでいただければと思います。ここを読んで学ぶことや同意することが多ければ、本書を購入する価値があると思います。

そして、このPart1~2には、同意できる記述が多いです。いくつか紹介すると、

企業が「知っていて当たり前」、「わかっていて当然」と思っていることも、消費者は案外わかっていない(p5)

結果がポジティブであれ、ネガティブであれ、その理由が大事(p9)

「誰が、なぜそう言ったのか?」という理由がわかる情報が重要(p9)

問題は、「業界関係者の話ばかり聞いて、肝心の消費者の声を聞いていない」という、情報が偏ってしまい、バランスを欠いているケースです(p12)

お金をかけて外部のリサーチ会社に調査をお願いするほではないけれども、消費者はどんな反応をするのか、おおよその状況を知りたいとき、つまり“アタリ”をつけたいときに行うことが多かったと思います(p20)

いずれも、とても賛同できる記述です。

少し話がずれますが、4番目の「業界関係者の話ばかり」を読んで、以前、つぎのようなtweetをしたことを思い出しました。

「売れ筋だとか言っているが、そんなアホなことせんと、ちゃんと生活シーンから提案しない限りは、聞く耳もちまへん」byアイリスオーヤマ・大山社長(2/15「カンブリア宮殿」にて) http://bit.ly/aglJQc 

「市場志向」という言葉には3つの側面がありますね。1:市場で何が売れているかをみる、2:競合が何をしているかをみる、そして、3:生活や人をみる。「3」であってほしいけど・・・。

(2010/2/10  http://twitter.com/ats_suzuki にて)

市場志向といいながら、実は「売れ筋」や「競合」ばかりを気にしている場合が少なくないです。しかし、ほんとに大切なのは「お客様」であり「生活」であるということを、大山社長の発言は気づかせてくれます。そして、そのために必要なことのひとつが「お客様の生の声を聞く」ことでしょう。

また、5番目の「アタリ」の話。これはリサーチ会社のリサーチャーにとっても重要な話です。調査の企画をするとき、やはり、この「アタリをつける」という行為は重要だと思うからです。この観点からすると、リサーチャーにとっても読むべき本となるかもしれません。
(というより、リサーチャーは直接のターゲットではないですが、読んだ方がいいと思います。「紺屋の白袴」「医者の不養生」という言葉もありますし。。。また最後のケースは、実際の事業の中でリサーチがどう活用されていくかのひとつの事例としても読めると思います)

さて、
本書の紹介については、下記もあわせて参照いただければ、よりよいかと。

「福井遥子著『お客さまの"生の声"を聞くインタビュー調査のすすめ方』のご紹介」(みんなのMR.COM  2010/5/10)

そして、福井さんの出版記念セミナーから、「そう!」と思った言葉を最後に紹介しておきます。

お客様に聞くことの前提は、「戦略に生かすこと」。調査のための調査となっては意味がない。

「未充足ニーズ」こそは、実務者(具体的な課題を持っている人、リサーチ会社から見るとクライアント)が、お客様の声を元に、それまでの知見を動員して考えるべき。

お客様の声を聞くことは経験の蓄積が大切。ただ、隣の人の話を聞くことも、1回の経験になりうる。

【追記:2010/5/21】

福井さんが、本書の中で師匠の一人としてあげている梅澤先生。その梅澤先生の新著が出ていますので、紹介しておきます。
「ビジュアル図解」とあるように、これまで梅澤先生がまとめてこられた消費者心理に関する理論が、見開きで整理されています。こちらも一緒によむと、より「お客様の気持」を理解することができると思いますので、本書とあわせてどうぞ。

ビジュアル図解ヒット商品を生む!消費者心理のしくみ (DO BOOKS) ビジュアル図解ヒット商品を生む!消費者心理のしくみ (DO BOOKS)
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2010-04-28

2010/4月の twitter から

twitter を始めて2ヶ月半くらい経ちますが、多くの人がおっしゃるとおり、twitter  しているとそれでおしまいとなり、blog が滞りがちになりますね。。。(もともと更新頻度が少ない、というツッコミはなしで・・・)

しかし、twitter は一部の方(とくに、フリーランス系やIT関連の方が多いと感じています)へは届くものの、まだまだ一般的なツールでないなというのも感じています。
さらに、140文字の制限があるのでポイントのみを発信することになる、つまり背景や文脈的なものがオミットされてしまうということや、TL(タイムライン)が流れていくのでストックとしては不向き、といった特徴もあることがわかってきました。

そこで、ひと月に1回のペースで、twitter の内容から注目すべきものを抽出して、こちらのblogでも整理していこうと思います。(twitter まとめ第1回目の今回は、2010年4月の内容を中心にしますが、初回なのでその前のものも含めて)

◆リサーチ周辺情報

まずは、リサーチ周辺の情報から。

1)RFIDによる顧客導線研究
このblog でも何度かRFIDについては紹介していますが、やはりRFIDを使った顧客導線研究はなされていました。その紹介記事。

やはりありました、RFIDを用いた顧客導線研究> 「新しいデータ生成が生み出すサービス・イノベーション」(日経ITPro) http://tinyurl.com/yb6yn2r (2010/3/31)

2)PPMという新たな視聴実態調査手法
ラジオの聴取率調査は日記形式が多いと思いますが、こちらはITを活用した新たな調査手法=PPM(Portable People Meter)の紹介。この方式を応用するとラジオに限らず、ネット等の様々なコンテンツの視聴実態を把握可能とか。

新たな方式での視聴実態調査、ただしアメリカでの話 RT @JBpress: ラジオ・リスナー数調査もモバイルの時代! => http://bit.ly/9pFZLX (2010/4/2)

3)ユーザビリティ、HCDに関連した2つの記事
ノーマンの言及は"つり"だろうということも言われていますが、ユーザビリティやHCDについて考えるきっかけにも。またエスノグラフィに興味ある方は、GTAについても理解するといいかも(そのまま使えるかどうかは別にして、ですが・・)

少し古い記事&すでにtweetされているようですけど、(きづかなかったので、あらためて)メモ。。。>Web担当者Forum | ノーマンの間違い – 創造的ユーザビリティと標準的ユーザビリティ/HCD-Net通信 #19 http://bit.ly/9BA4Ud

ついでに、こちらもメモ。でもGTAって結構難しいと思う・・・>Web担当者Forum | 人間中心設計のためのインタビューで得たデータの分析法 – GTAとSCAT/HCD-Net通信 #18 http://bit.ly/c13IJw (2010/4/5)

4)大日本印刷のニューロマーケティング支援サービス
ニューロマーケテティングについても、ふつうに話題になるようになりましたが、大日本印刷が低価格でニューロマーケティングの支援サービスを提供開始したというニュース。

かなり安いけど、どこまでできる?、何がわかる?・・・>「脳科学を活用したマーケティング支援サービスを開始」(DNPニュースリリース2010.4.9)http://bit.ly/cLzONX 
(2010/4/12)

ただしニューロサイエンスについては、同時に注意を喚起する意見も出ています。

同意です&これは「測定装置」だと思っています。解釈はまったく別物  
RT @auraebisu : 脳科学は精度が低い(部位の特定とニューロン発火の頻度)ことと認知・認識のプロセスの未解明(ソーシャルブレインズ)で、まだ役立たない。と愚考

装置自体への厳しい意見も>QT @NaotakaFujii: こんなチャチな実験装置で一体何が分かるのか教えて欲しい。一体顧客にどんな説明するんだろう。こういうインチキ臭い商売には、正直に嘘つきって言った方が・・

5)IDEOの行動観察事例
IDEOも、このblogで何度か紹介していますが。。。

IDEOの行動観察事例 RT @hiroyuki_ni: 地下鉄「自動販売機の売り上げを増やしたい」 コンサル「自販機の上に時計を置きましょう!」 結果は大正解。> http://u.nu/76sp8 (2010/4/26)

6)エスノグラフィについての解説文
エスノグラフィの第一人者である田村大氏のエスノグラフィ解説。エスノグラフィの原義から説いているのが良いかと。(プラス、『東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた』(早川書房)の紹介と)

エスノグラフィーの原義も理解しておきたいです> RT @tamdai99: 話は変わるが、エスノグラフィに関する短い解説文を書きました。お手すきの折にでも:http://bit.ly/anQ0jd (2010/4/26)

期待!(思いのほか安いですね・・・) RT @tamdai99: 東大i.schoolの本が出ます。http://bit.ly/dv4s7l まだ校正終わってないんですがw (2010/4/26)

7)JDパワー社がソーシャルメディアのリスニングツールを提供開始
こちらは、Survey MLさんのtweet から。旧来のサーベイばかりでなく、ソーシャルメディアからの情報収集は、今後増えてくるんでしょうね。。。

surveyml 顧客満足度調査で有名なJDパワーもソーシャルメディアのリスニングツールを提供開始、調査票を使わない調査ほんと増えてきた、まずはクルマ>‘Automotive Intelligence Monitor’ http://ow.ly/1z51B (2010/4/16)

◆おすすめサイト

つづいておすすめのサイトを。

1)『科学の道具箱』(科学技術振興機構)

『科学の道具箱』(科学技術振興機構)~このサイト、いつからあったんだろう? http://bit.ly/ca3ofk /JMRAクレジットで近藤さんのコンテンツも~「MRの必要性と社会での役割」 http://bit.ly/bYrrqk (2010/3/28)

これ、結構おもしろいサイトです。サイトの目的は、

本教材は、生徒自らが科学・理科的なデータや身近なデータに実際に触れ、新しい知識を獲得したり、更に疑問を深めたりするプロセスを繰り返し、自然現象や日常生活の諸活動を統計的に捉え考える「統計的能力」を育成する事に主眼を置いた、複合型のデジタル教材です。

ということのようです。そういえば、学習指導要領の改訂で統計教育の充実が図られていると言う話を聞いたような気がしますが、その一貫なのでしょうか。

そもそもの目的は上記のようなものだとしても、リサーチに関わる方は必見だと思います。統計用語の理解にも役立ちますし。ぜひ一度アクセスして、いろいろと触ってみてください。
(お子さんがいる方は、お子さんと一緒にみると、なおよい、かも)

2)Marketing Research Watch

こんな内容のサイト、待ってました!更新たいへんでしょうけど、ぜひぜひ継続を。(サイドのおすすめ本も、御意!) RT @shig_ono: Marketing Research Watch
(サイトはこちら→ http://elsur.jpn.org/mr_watch/ )

twitter を通じて知り合いになったリサーチャー(といっていいのかな?、アナリストのほうが適切?)の方が始めたサイト。

誰かがJ. Marketing ResearchとかJ. Consumer Researchとか,消費者行動論系の最新論文を紹介するブログを書いてくれていないかなあ,と時々思っていたのだが,探してもなかなか見あたらない。先日ふと,そんならいっそ自分でちびちび読んでみようかしらん。。。と思ったのがきっかけである。

ということですが、これは貴重な情報です。
最新論文を日本語で読める&関心のあるテーマの論文の所在がわかる&論文の読み方がわかる、などなど一粒で何度もおいしい!、というサイトです。
(しかも、きちんと毎週更新されているのがすごいと思う、個人的には・・・)

3)リクルートの50周年記念サイト
マーケターに必要な教養のひとつに、これまでの時代変遷への理解があると思っています。その手助けとなってくれるサイトがこちら。単に、興味と関心で見るだけでも面白いとおもうんですけど。。(期間限定かもしれないので、お早めに)

1960年以降50年間の時代状況がわかる!>「リクルート50周年記念サイト」http://bit.ly/9CuEZz (2010/4/15)

◆おすすめデータ

確認しておきたい公表データ。

1)「消費者の購買に関するニーズの動向調査」
まずは、経産省実施のこちらの調査から。ただし、定量調査はWEBなので、この点は読み取りに注意を。

あとで熟読。消費者WEB定量3000s+消費者GI6G+企業250社電話による調査> 「消費者の購買に関するニーズの動向調査」の結果発表について~リーマンショック以降の日本の消費者の実像~(経産省) http://bit.ly/9ICVax 
(2010/4/22)

2)「平成21年 通信利用動向調査」
時系列でWEB関連の利用動向がわかる調査。気になったのは、tweet しているように、インターネット利用目的。。。

PCからのインターネット利用目的(MA)→「アンケート」12%、「懸賞応募」12%、「SNS参加」5% > 【MarkeZine】60代のインターネット利用率が急伸、PCより携帯を活用 【平成21年 通信利用動向調査】 http://bit.ly/bs3Jg8 (2010/4/28)

◆おまけ

「おまけ」とはいっても、かなり大切なことだったりするのですが。他の方のtweet で共感したものを拾い集めると、リサーチャー、あるいは社会人として意識して欲しい心構え集になりました。

GIGOも測定論(信頼性と妥当性)も、とても重要な言葉ですよね。とくに、データが溢れる今のような時代は RT @Experidge: GIGOはリサーチャーが肝に銘ずる言葉ですね。私の本でも述べましたが、調査における「測定論」(信頼性と妥当性)の重要性がわかります。 (2010/4/7)

確かに。参考までに教えてもらえれば。誰(どんな人)が、どんな内容の教育を? QT @m_echigoya: 事業部の社員がああして調査の設計や分析を教育されていけば、今の調査会社、リサーチャーの出る幕は、データコレクト、つまり実査とごく初期の集計しかなくなる。 (2010/4/19)

Thanks! QT @m_echigoya:「分析とは3種類。比較、構成、変化のどれか」「チャートは縦と横の広がりに意味があって成立する」「1チャート、1メッセージ」「常にIssue-drivenであれ」「構造を意識せよ」「So Waht?にならないようHowに踏む込め」 (2010/4/19)

「人間の解釈が伴わなければ、ただの”数字”でしかありません」→同意です、ベーシックな指標をきっちり使う大切さ>RT @mmlab_jp: コラムアップしました。決して新しい話ではないですが、前からちょっと気になっていたことです http://bit.ly/cbsXkC (2010/4/22)

御意!>「つまり調査設計に、人的コストを注入するべきだ」>「ネットリサーチと牛丼」(山本直人さんのblog) http://bit.ly/c9QLHM (via @yasu_wtnb) (2010/4/23)

大賛成&大きな課題 RT @surveyml: 論理性や実現性などの評価項目があるが、差がつくのはクライアント課題に対する理解に尽きる気がする<RT @surveyml: 研修委員が発注企業役となって、5グループに別れた参加者が練り上げた調査企画・提案のプレゼンを審査 (2010/4/28)

そしてクライアント課題を理解するための肝がこちらだと思う> RT @tomizawa: リサーチャーは街へ出ろ | http://bit.ly/an83NP (2010/4/28)

です! RT @matsuoty: 「理論」は、知っているだけでなく、使いこなせるようになって初めてマスターしたと言える。「理論は使えない」と切り捨てるのは自分の無知を露呈しているだけ。理論をマスターしている人は、理論の限界も当然わかっているから、単に使えないとは言わない。 (2010/4/28)

マナー、作法を知識に置き換えても一緒ですね RT @yujoywow: マナー研修心得。「こころ」の部分をすっ飛ばしてHOW TOで知ろうとしても無理。気持ち(そうする理由)が伴なわなかったら、いくらマナーを覚えても無駄。上っ面の作法は相手に見透かされちゃうからね。 (2010/4/28)

まさしく! RT @madarame: 営業が提案を作る際に、「要件が曖昧過ぎて、何がしたいのか分かんねーよ!」と愚痴を言うということは、「私は要件を全くヒアリングできていません。」と広言しているようなものだ。   (2010/4/28)

そして、ぜひ読んでみてほしいサイトがもうひとつ。
急逝した読売巨人軍木村拓也選手の講演録です。「これは自分の仕事ではない」などと言う前に「いまやらなければならないこと」をやること、その大切さを気づかせてくれます。

【訃報】くも膜下出血のために入院していた巨人の木村拓也内野守備走塁コーチが7日、ご逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。 http://bit.ly/cSexKH ←のページは、木村コーチが新人選手に向けて語った講義です。(via. @j_the_journal
(2010/4/7)

<2010年4月twitter まとめ、ここまで>

ふぅ~。結構な量になってしまいましたね^^;
これらの情報源のひとつが twitter であり、同時にこれらの情報が流れていってしまうのもtwitter。

けれどtwitter の大きなメリットは、「いま、その時」の気持ちが現れることと、その共有に大きな意味があるような気がしているので、TL(タイムライン)が流れてしまうのは、大きな問題ではないようにも思います。必要なら、こうやってストックすればいいんだし。
また、すでに twitter の内容を分析するツールもいろいろ出ていますから、それらを使えばよいわけで(こちら ↓ を参照。これもtwitter からの情報でした^^; )。

SuiJackDo [B!] 企業がTwitter分析を行う際に使えるツールと分析手法を @ryuka01 さんがわかりやすく説明。海外でもここまで詳細な記事はないような。 http://bit.ly/bnPsBu 無料で始める、企業向けTwitter分析術 – リアルアクセス解析 (2010/4/20)

ただし、ストックを分析するのも必要だとは思いますけど、「いま、その時」を大切にすることがもっと必要なのかもしれません。(けれど、そのためにすごい労力を取られるのも、否めない事実です・・・)

そういえば、宣伝会議の最新号(2010/5/1号)の特集が「ソーシャルメディアコミュニケーション」です。いま時点のまとめとして、一読の価値はあると思いますので、こちらもぜひ。
→ http://www.sendenkaigi.com/hanbai/magazine/sendenkaigi/index_100501.html 

『星野リゾートの教科書』

星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則 星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2010-04-15

また星野本ですか・・・、という方もいらっしゃるかもしれませんが。。。
星野さんの本は「ベーシックなことをしっかり」というものが多いと思うので、先端とかバズワードに向きがちな視点を、基本に戻してくれる効果があると思っているので。

今回の本も、日経BPの雑誌連載の単行本化です。正直、すかすか&ページ少ないので、2時間もあれば十分読みきれると思います。また、テーマもベーシックな内容(なんといっても「教科書をどう生かすか」についての本ですから)。
ということで、「あまり本をよむのに慣れていなんだよね」とか言いそうな社会人ビギナーの方が、経営とかマーケティングへの取っかかりとして読むには、とくにおすすめの本です。

まずは、もくじ。

第Ⅰ部 教科書の生かし方 ~定石を知り、判断ミスのリスクを最小にする
第Ⅱ部 教科書通りの戦略 ~難しそうに見えて、実は効果的である
第Ⅲ部 教科書通りのマーケティング
      ~「やるべきこと」をやり切れば、すべてが変わる
第Ⅳ部 教科書通りのリーダーシップ
      ~すぐに成果は出ないが、必ず成果は出る
第Ⅴ部 教科書通りに人を鍛える
      ~「未経験者歓迎」で成長できる理由

内容は、

では、星野社長は、どんな教科書から学んで、どんな成果を上げてきたのか。そのとき現場はどう動いたのか。本書では、その具体的な事例を取り上げ、教科書を経営に生かすためのポイントを明らかにする。(本書「はじめに」より、p2)

というものです。
まず第Ⅰ部で本の探し方+読み方+実践の仕方が紹介されています。
そして第Ⅱ部以降で事例が紹介されていますが、それぞれの事例はほぼ、

概要 + 抱えていた課題 + 解決への取り組み + 他分野への応用 + 教科書のエッセンス

という内容で構成されています。
正直なところ、親切すぎる内容かなという印象もありますが。。。

このような事例もさることながら、この本を紹介しようと思ったのは、以下のような考え方に共感する部分が大きかったからです。

「教科書の理論なんて机の上でしか通用しない」「本当にビジネスの現場で役立つのか?」と思う人がいるかもしれない。(・・・中略・・・)しかし、私はこれまでの経験から「教科書に書かれていることは正しく、実践で使える」と確信している。(本書「第Ⅰ部」より、p12)

囲碁や将棋の世界に定石があるのと同じように、教科書に書かれている理論は「経営の定石」である。何も知らないで経営するのと、定石を知って経営するのでは、おのずと正しい判断の確率に差が出る。それは会社の長期的な業績に直結するはずだ。(本書「第Ⅰ部」より、p14)

むしろ私が注目するのは、書棚に1冊ずつだけ置いてあるような本だ。こうした本は流行の波を乗り越えて、体系化された理論として生き残り、定石として一般的に認知されたことを示している。私はこういう古典的な理論の中にこそ、経営に役立つメッセージがあると実感している。だから棚に差された本をじっくりと見る。(本書「第1部」より、p18-19)

いかがでしょう?
確かに、「教科書なんて役に立たない」という声を聞くことも少なくないです。しかし、それは理解が十分でない、あるいは、徹底的にやり抜いていないからだ、というのが星野氏のスタンスのようです(「はじめに」より)。

そして、本書を読んで思いを新たにしたことがあります。
それは、「星野リゾートは、ほんとにリサーチを活用している」ということです。他書でも、星野氏がリサーチを重視していることは明らかですが、本書でも多くの事例に調査の話が顔を出します。

市場調査のデータを分析しながら、競合から抜け出す戦略を立てた。(本書p35)

星野リゾートの独自の調査によると・・・(本書p50)

予約ページの使いやすさをチェックするために、外部の専門会社を使い調査を実施する。(本書p64)

こんな感じです。

リサーチでしっかり実態を把握し、教科書に書かれた理論に従い、きっちりとやり抜く。
これが、星野リゾートの強さなのでしょう。

最後に、どんな本を教科書としているのか、一部を紹介。

競争の戦略
価格:¥ 5,913(税込)
発売日:1995-03

コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 基本編 第3版
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2008-12-19
売れるもマーケ 当たるもマーケ―マーケティング22の法則
価格:¥ 1,529(税込)
発売日:1994-01

真実の瞬間―SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか
価格:¥ 1,325(税込)
発売日:1990-03
ブランド・エクイティ戦略―競争優位をつくりだす名前、シンボル、スローガン
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:1994-01
ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則
価格:¥ 2,039(税込)
発売日:1995-09

10年以上前の本が多い、でも確かに、いずれも必読書だと思います。

MMとYVIが経営統合へ向け協議開始?!

(いやはや、こんな記事で1ヶ月ぶりに更新とは。。。さらに、twitter の力も痛感。。。)

本日(2010.4.19)、マクロミルからニュースリリースが配信されています。

株式会社マクロミルとヤフーバリューインサイト株式会社(ヤフー連結子会社)の経営統合に関する本格協議開始について (マクロミル社IR情報)

マクロミルとヤフーバリューイサイト(YVI)の経営統合へ向けて、マクロミル社とヤフー社が協議に入ったと。さらに同日のリリースでは、ヤフー社に対してマクロミル社株の第三者割当増資を行っている(募集後のヤフー社の持株比率は7.22%、第3位の株主に)ので、本気ですね。

リリース資料をみると、両者の売上は、マクロミルが78億円、YVIが49億円、単純合計でも127億円の売上高を誇るリサーチ企業が誕生することになります。

リリースでは、統合のメリットをつぎのようにしています。

 このような状況のもと、本経営統合後の新会社(以下「統合新会社」)において、マクロミルのシステム構築力と営業力ならびにヤフーの調査パネル資産およびYVI のソリューション提案力を融合させることは、顧客資産の統合、経営管理の効率化、販売促進等の機能向上も相俟って、さらなる業容の拡大につながります。
 統合新会社は、いままで以上に高品質のネットリサーチを効率的に大量提供するこが可能となるほか、商品ラインアップの拡充で、高度化するマーケティング課題をワンストップ解決することが可能となります。また、ヤフーグループと協働することによって新時代のインターネットマーケティング事業創出などについて模索・検討してゆきたいと考えております。

注目したいのは、「ヤフーグループと協働することによって新時代のインターネットマーケティング事業創出などについて模索・検討してゆきたい」の部分ですね。単に、ネットリサーチ会社2社の統合という枠を超えた新たなマーケティングリサーチ企業への飛躍を期待したいと思います。

(ほんとに経営統合されれば、の話ですが。。。キリンとサントリーのような例もありますし)

ここで、他の業界情報もついでに。

twitterではすでに紹介していましたが、クロス・マーケティングからは下記のリリースが発表されています。

「株式会社クロス・マーケティング、株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント~ネットリサーチ業務に関する業務提携のお知らせ~」(PDF)
(クロスマーケティングよりリリース 2010/4/1)

資本提携ではなく業務提携ですけど。。。

また、すでにグローバルレベルではグループとなっているカンターとテイラーネルソンですが、日本でも、統合的な活動に移行するようです。
ジャパンカンターリサーチの下記のリリースによると、

本社移転に関するご案内(ジャパンカンターリサーチ社ニュースリリース2010.4.15)

新たに「日本事業を統括する機能として、カンター・ジャパン(Kantar Japan)を設立いたしました」ということのようで、新宿にJKR社とTNS Infoplan社が移転、集結するようです。

リサーチ業界、まだまだいろいろありそうです。。。

【追記:2010.4.20】
過去の関連記事は、こちらに ↓ 。

業界再編の予感・・・(2007.1.25)
インフォプラント&インタースコープ合併へ(2007.5.11)
IP+IS=ヤフーバリューインサイト(2007.6.21)

平成21年度JCSI(日本版CSI)調査結果

以前、このblogでも取り上げた日本版CSI調査、本格実施となり、第1回目である平成21度の調査結果が発表になっていました。
いくつかの記事をとりまとめ。

まずは、JCSI(日本版CSI)とは何かについては、本blogのこちら ↓ のエントリーで確認を。

日本版顧客満足度指数(日本版CSI)モデル(2009/3/19)

結果については、まずは実施主体であるサービス産業生産性協議会によるリリースを。

平成21年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)調査結果発表
 (サービス産業生産性協議会:H22/3/16ニュースリリース)

平成21年度 JCSI(日本版顧客満足度指数) 調査結果発表
 (サービス産業生産性協議会:H22/3/16~こちらはPDFです)

さすが実施主体だけあり、結果ランキングだけでなく、JCSIで設定している因果モデル図や質問内容、調査方法についても詳しく説明しているので、まずはここで、JCSIについての理解をすることを、おすすめします。

そして、JCSIの開発に参加されていた小野譲司先生(明治学院大学:ちなみに、CS関連の文献を探すときは小野先生の名前で検索すると、いくつかの論文が見つかると思います)による解説が読める記事が、こちら。

待望の「業界横断」顧客満足ランキングが登場!
 (日経ビジネスONLINE:2010/3/16)

この記事では、指標や調査方法、なぜ中央値なのかなどの背景や考え方について、上記のリリースよりも、より深い理解をすることができると思います。

そして、一般的な記事として代表的なもの、皆さんの関心が高いと思われる「どこの企業が一番なのか」に始まるランキングについては、同じ日経ビジネスオンラインに。

トップサービスは東京ディズニーリゾート
 (日経ビジネスONLINE:2010/3/16)

こちらの記事は、今回の単発記事ではなく結果詳細について、「”究極のサービス”はここだ」というタイトルでシリーズ化するようです。関心のある方は、追いかけてみてください。

さらに、ネットではないものも。
日経MJの2010/3/17にて取り上げ、つぎのような見出しを打っています。

「A(安価)、K(快適)、B(便利)で顧客満足」
「通販・旅行、競争バネに躍進」
 (日経MJ:2010/3/17、1&3面)

新聞ならではの解説記事といえそうです。

今回のJCSIの結果は上記のようになっていますが、ランキングばかりに気をとられずに、顧客満足度調査のモデルや調査方法の考え方なども理解し、自社で顧客満足度調査を考える際の参考にしていただければ、とも思っています。

※twitter やってます → MR寺子屋メモ
 twilog(過去twitt の取り纏め)はこちら → MR寺子屋メモ




『聞き方の技術』

聞き方の技術―リサーチのための調査票作成ガイド― 聞き方の技術―リサーチのための調査票作成ガイド―
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2010-02-16

いまではすっかり、マーケティングリサーチは調査会社の専売特許ではなくなりました。。。
(たとえばこのblogでも紹介した 「プレミアムライフ向上委員会」by 7&i (2010/2/9) も事例のひとつですね)

アウラマーケティングラボの石井栄造氏も、twitterでつぎのように言っていました。

ネットは全ての「中」を抜く。リサーチも。(@auraebisu 2010/2/15)

至言だと思います。

しかし、そのことによる弊害もいろいろとありそうです。
たとえばWEB上では、つぎのような警句を見ることができます。

とりあえずアンケートというのは考えもの
 (『大西宏のマーケティング・エッセンス』2010/2/22)

意外性の法則 (『とみざわのマーケティングノート』2010/2/15)

いずれもそのとおりだと思いますし、このあたりのことについては、やはりリサーチ経験を積み重ねることで、肌感覚として理解できることでもあると思います。

しかし、基本的な「聞く」ということにも、いろいろな知識や技術が必要になるのです。

そこで、今回紹介する本書です。
副題に、「リサーチのための調査票作成ガイド」とあるように、とくに調査票を介した調査におけるポイントが整理されています。
著者である山田一成先生(法政大学)は、「はじめに」で、つぎのように書いています。

調査票はマーケティング・リサーチや世論調査などにおいて、主に言語を介して情報を収集するためのツールであり、アンケート用紙や質問紙とも呼ばれながら、たいへん身近なものになっています。
しかし、広く普及しているからといって、何の知識も経験もないままでは、調査票を作ることはできません。実用に耐える調査票は、さまざまな領域で蓄積されてきた専門技術を身につけなければ、決して作ることはできないのです。(本書 p3)

まさに!
「アンケート」というと、たとえば学校や職場、自治会などで実施したことがある人も少なくないと思います。けれど、ほんとに意味のある調査票は、簡単に作れるものではありません。
まだまだ、このあたりの理解が成されていないことに、危機感を感じます。

それでは、もくじから。

第1章 言葉ひとつで結果が変わる~ワーディングの要点
第2章 選択肢はそろっているか~回答形式の種類と特性
第3章 回答者はウソをつく~回答傾向と回答能力
第4章 鉱脈を掘り当てるには~類型・尺度・測定技法
第5章 調査票はこうして作る~質問の構成と配列

そして巻末資料として、調査票の実例も掲載されています。

各章は、Q&A方式で書かれており、「冒頭で初心者・初学者の方々が抱かれる疑問を紹介し、それに答える形で解説が始まる」(p5)ような構成になっていますので、自分の課題に沿った質問から確認していくこともできるようになっています。
(とはいえ、ぜひ、全編を読んで欲しいのですが)

たとえば、つぎのような質問です。

会社の先輩から、質問文の作成について、「あいまいな表現は避けるように」と教えられましたが、あいまいな表現とは、具体的にいうと、どのような表現のことなのでしょうか。(本書 p20)

消費者調査で「あなたは有機野菜にどれくらい関心がありますか」という質問文を作ったところ、上司からダメ出しされてしまいました。いったい、どこが悪いのでしょうか。どうしてNGなのか、まったくわかりません。(本書 p29)

商品への好意度を調べる質問は、なぜ5段階であることが多いのでしょうか。また、そうした質問では、「かなり好き」「とても好き」といった言葉が使われますが、どんな言葉でたずねるのが一番よいのでしょうか。上司や同僚には今さら聞けません(本書 p54)

いかがですか?
これらの回答に、明快に答えることができますか?なかなか、難しいですよね・・・。
あらかじめ断っておいた方がいいと思いますが、すべての質問に対して、「これが正解」ということが書かれているわけではありません。「考え方」しか書かれていない質問も、少なくありません。
けれど、これは当たり前のことです。たとえば選択肢の問題などは、ひとつの絶対的な解があるわけではないですから。

調査票を使ってリサーチを行うときは、ここに書いてあるような知識や技術を理解してほしいと思う内容です。さらに、定量調査に限らず、定性調査を行うときにも、ここに書いてあるようなことは参考になると思います。
まだ経験が浅いリサーチャーは当然として、ベテランの域にある方もこれまでの知識の整理として、ぜひ一読をしていただきたい本です。

(また、リサーチに関わっていない方でも、これだけ世の中に調査結果が溢れている時代には、ここに書かれていることは知っておくべきかもしれません。ものごとの正しい判断をするためにも。。。)

『マーケティングを学ぶ』『ビューティフルカンパニー』『マーケティング・アンビジョン思考』

紹介しなくてはと思いながら、いままで紹介してなかった3冊を、ここで。

1冊目は石井淳蔵先生による、わりと最近のこちらの本 ↓ 。

マーケティングを学ぶ (ちくま新書) マーケティングを学ぶ (ちくま新書)
価格:¥ 945(税込)
発売日:2010-01-10

「マーケティングを学ぶ」とはいいながら、入門者向けの本ではありませんので、ご注意を。
むしろ、マーケティングマネージャー、あるいは現場で数年の経験を積んだマーケターが読むべき本ではないでしょうか。基本的なテーマは、マーケティングマネジメントなので。

それは、もくじを見てもらえば一目瞭然ですし、このもくじを見ると石井先生の主張も見えてくると思います。(そのために、少し細かなレベルで紹介しておきます)

序章 マーケティング・マネジメントを求めて
第1部 市場志向の戦略づくり
 第1章 生活者に向き合う
 第2章 市場を細分化し、ターゲットを定め、ポジションを獲得する
 第3章 顧客関係の深化に向けて事業を再定義する
 第4章 ポジショニングを先行させる
 第5章 第1部のまとめ:市場志向の戦略を立てる
第2部 戦略志向の組織体制づくり
 第6章 コーポレート・ブランドを経営する
 第7章 製品分野別に経営する
 第8章 ポジショニングを通じてブランド・エクイティを確立する
 第9章 ブランドを拡張する
 第10章 市場カテゴリーとブランドの絆を作る
 第11章 第2部のまとめ:戦略体制を確立する
第3部 顧客との接点のマネジメント
 第12章 ブランド・コミュニケーションをマネジメントする
 第13章 ブランド・エクイティの成長をマネジメントする
 第14章 ブランド・エクイティに基づいて企業を経営する
 第15章 営業プロセスをマネジメントする
 第16章 チャネルをマネジメントする
 第17章 第3部のまとめ:顧客関係をマネジメントする
第4部 組織の情報リテラシーを確立する
 第18章 市場調査情報を使いこなす
 第19章 営業情報を使いこなす
 第20章 お客様の問い合わせ情報を使いこなす
 第21章 第4部のまとめ:組織の情報リテラシー
終章 コマーシャル・イノベーションに向かって

著者の言葉を借りると、

本書は、<創造的適応>というそうしたマーケティングの基本論理を念頭に置きながら、市場や組織に向けて企業が考える戦略やマネジメントを、具体的なケースを通してわかりやすく読み解こうとするものです。21世紀に入り、ますます複雑さを増し、流れが早くなる環境にある企業にとって、創造的適応の姿勢はますます重要になると思います。(p.311)

ここにあるとおり、各章は“テーマ>ケース>まとめ”という構成をとっており、読みやすい内容になっています。
ただ、ケースは読みやすいのでわかった気になりがちですが、やはりマーケティグの基本を理解していないと正しい理解はできないと思いますので、まずはマーケティングの基本を理解した上で、本書に進んだ方がいいかと思います。
その上で本書を読むと、理論と現場の結びつきが理解できるようになるのでは?

とはいえ、なぜか新書なんですよね、この本。
なので、とりあえずこの本から読んでみて、マーケティングに興味を持ってもらうというのも、ありなのかもしれませんね、肩肘を張らずに。

2冊目の本は、少し前に出版された、嶋口充輝先生のこの本 ↓ 。

ビューティフル・カンパニー 市場発の経営戦略 ビューティフル・カンパニー 市場発の経営戦略
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2008-10-17

石井先生の本は、どちらかというと戦術レベルでの内容だったとすると、嶋口先生のこの本はもう一段上の戦略レベル、あるいは理念レベルの内容ということができるかもしれません。

実は、つい先日、twitter上で「マーケティングは戦争か」ということについての議論が行われていました。その時に、SurveyMLの萩原さんが嶋口先生のネット上の記事を紹介してくださり、この本を思い出しました。
(萩原さんが紹介した記事は、こちらです ↓ )

特集「見えない顧客ニーズをつかむ組織の作り方」
(読売ISコミュニケーションマガジン「ペリジーvol.6」2009年1月号)

本書の中でも、「戦争型の競争から恋愛型の競争の変化へ」と題して、つぎのように述べています。

大きな変化の一つは、それまでの市場シェアをベースにした「戦争型の競争」のウエイトがだんだんと小さくなって、それに代わって「恋愛型の競争」が重視されてきたことだ。どういうことかと言うと、競合他社との相対的な競争ではなく、顧客価値を高めるという絶対的な競争にそのウエイトが移ってきたのである。(p.46)

このような環境の元での、「必要なアンビジョン、仕組み革命、マーケティング・マッスル、顧客主義と顧客との関係性などについてもその考え方を紹介していきたいと思う」(p.4)ということで書かれたのが本書です。

もくじは、つぎのように。

第1章 マーケティングの持つ本来の意味とは
 第1節 アンビジョンという名の戦略
 第2節 マーケティングは企業経営の根幹機能
第2章 ビューティフル・カンパニーの条件
 第1節 仕組み革新の時代への対応
 第2節 マーケティング・マッスルという組織づくり
 第3節 ビューティフル・カンパニーという価値軸
第3章 関係性マーケティグと先客万来のシステム
 第1節 恋愛競争の時代におけるロイヤル・カスタマーの創造
 第2節 関係型ソリューションを売る金融マーケティング
 第3節 お得意様をもてなす、千客万来の仕組みづくり
第4章 顧客満足の追求とコーポレート・ガバナンス
 第1節 社外取締役に求められるもの
 第2節 企業理念、CREDOと呼ばれる羅針盤の意義
 第3節 顧客満足とコーポレート・ガバナンス
 第4節 クレームをガバナンスに生かす
第5章 揺らぎ始めたモノ主導型マーケティング
 第1節 サービス・ドミナント・ロジックという概念
 第2節 品質に関するパラダイム・チェインジの必要性

ある雑誌でのインタビュー記事を元に構成した本のようで、とても読みやすい内容になっています。

さて、以上の2冊の本。
いずれも、これまでの両先生の研究のエッセンスをまとめたような内容で、さらにとても読みやすいという特徴も共通です。
論文書や理論書ではなかなか取っ付きにくいかもしれないですが、この2冊でしたらあまり抵抗なく読めるのではないかと思って紹介しました。
とくに、マーケティングの基本を学びながらも、時代の変化(パラダイムシフトとも言われますね)の中で、これまでのマーケティング理論が、なんかしっくりこないという疑問を感じ始めた人に読んでもらいたい本です。「序破離」でいうところの、序から破に向うくらいの方ですね。
なんらかのヒントが得られるかもしれません。

そして、さらにもう1冊。
石井、嶋口両先生も名を連ねているのですが、JMA(日本マーケティング協会)の研究を元に書かれた、こちら ↓ の本もぜひ。

マーケティング・アンビション思考 (角川oneテーマ21) マーケティング・アンビション思考 (角川oneテーマ21)
価格:¥ 740(税込)
発売日:2008-11-10

この本、2008年の出版となっていますが、実は2001年に出版されている下記の本とほとんど同じ内容の本です。

柔らかい企業戦略―マーケティング・アンビションの時代 (角川oneテーマ21)
価格:¥ 600(税込)
発売日:2001-11

つまり、2001年に提言されていた内容が、そのまま2008年でも通用したということで。。。
新しい考え方が受け入れられるのには、時間がかかるということですね。
あるいは、ハウツーやノウハウでないと理解されないのか。。。

この本も、もくじを紹介しておきます。

第1章 戦略アンビジョンの時代(嶋口充輝)
第2章 マーケティングの使命は夢を売ること(竹内弘高)
第3章 マーケティングへの2つのチャレンジ(片平秀貴)
第4章 新しい時代の顧客ニーズと顧客志向(恩蔵直人)
第5章 アンビジョンを具現化するマーケティング戦略(上原征彦)
第6章 創造的瞬間がアンビジョンを確信に変える(石井淳蔵)
終章  新たなパラダイムシフト

基本的に、新しいマーケティングについての考え方が示されている本です。
(さすがに今となっては、「新しいか?」と思う方もいらっしゃるでしょうけど・・・)
「アンビジョン」がテーマなので、たとえば竹内先生の章では、マーチン・ルーサーキング師のスピーチが引用されていたりします。

これまでの調査について、少なからず否定的な言説がなされているのも本書の特徴で。。。
(とはいっても、リサーチ自体を否定しているわけではなく、その使い方、考え方についての否定ですので)
引用したいところは多々あれど、ここで抜書きするとそれぞれの文脈とは異なった解釈をされる危険性があるので、やめておきます。

けど、せっかく紹介しているのに、エッセンスを感じてもらえないのも・・・。
思い切って、終章からつぎの文章を紹介しておきます、少し長い引用になりますが。

私たち現代人は、要素還元法と呼ばれる線形の理論に慣れ親しんでしまった。確かに、この手法は重要だ。MBA(的教育)の重要性が叫ばれる。ロジカル・シンキングや財務や税務をはじめ、さまざまな理論という名の知識が必要とされる。
しかし、アンビジョンはロジカル・シンキングでは導き出されない。アンケート調査や統計手法の先にもアンビジョンはない。アンビジョンは哲学のようなものだ。ホーリスティックなアプローチ、あるいはアフォーダンス理論のようなアプローチによって、インスパイアされるものだ。ロジカル・シンキングや財務的なアプローチなどは、得られたアンビジョンを吟味し、ブレイクダウンし、戦略化するために重要なのである。(p.164)

本書の通奏低音になっているのは、このような考え方だということを感じていただければ。
個人的には、おすすめの本です。
(けど、否定的な人も少なくないだろうと思います・・・)