投稿者「ats_suzuki」のアーカイブ

ブログ分析

このところ、ブログ分析についての記事やリリースが目に付いたので、少しまとめを。

最初に、リリースと関連インタビューの紹介。
3番目の「散在.com」はブログとは異なりますが・・・。
(注:NBOnlineの記事は、会員登録が必要かもしれません)

続いて、それぞれのサービスのHPもリンク。

さて・・・
ブログ分析の基本は、「出現」「共起」「波及」のようです。
調べたいワードが、どれくらいブログで取り上げられているか、どのようなワードと関連づけられて語られているか、トラックバックやコメントでどれくらい波及しているか。
これまでマーケティング・リサーチを行なうことで確認していたことが、「ブログ」を分析することでわかるということなのでしょう。それも、「アンケートに答えてくれる」という制約を越えて(ただ、「ブログを書く人」という制約が、今度は発生しますが)。
データソースがブログなので、アンケートのようにこちらから仕掛ける必要がなく、「毎日」という時系列でデータを追いかけることができるのが、大きなメリットであると感じました。

ただ、ニフティやkizasiの方のインタビューを読むと、まだまだこれからという段階でもあるようです。「どのように使うのか?という段階」とか、「量ばかりを見たがる」とか・・・。
日経リサーチがすでに取り組んでいる(さすが、リサーチ会社)「指標化」が、今後の普及のキーになるとみているようです。なので、ニフティもビデオリサーチと組んだのでしょう。

まだまだ、これからのブログ分析ですが、大きな可能性を秘めているといえそうです。
(しかし、いわゆる”マーケティング・リサーチ”にとっては、競合になります。とはいえ、これも「データ分析」であることには代わりないわけで、リサーチ会社の大きな柱のひとつになる可能性もあります。日経リサーチ、ビデオリサーチ、インテージが一歩先んじたということですね。他にも、メニュー化していないだけで、ノウハウを持っている会社もあるかもしれませんが。)

『図解・インターネットリサーチがわかる本』

図解インターネットリサーチがわかる本 [実務入門] (実務入門) 図解インターネットリサーチがわかる本 [実務入門] (実務入門)
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2007-10-26

日本能率協会マネジメントセンターからのお馴染みのシリーズですね。
著者の酒井氏はこれまでも、このシリーズで様々なリサーチ関連書籍を出版されています。
そして今回は「インターネットリサーチ」についてのみの本・・・。

結構前(もう4年前になるんですね)に、マクロミル社監修・編集協力で、↓のような本が出版されていますが、インターネットリサーチのみで1冊の本にしたのは、それ以来かもしれません(こちらの本もインターネット調査入門としては比較的お勧めです。少々~かなり?~、宣伝っぽいところがありますけど・・・)

実践!!ネットリサーチ 実践!!ネットリサーチ
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2003-10-20

では、酒井氏の本、いつものようにまずはもくじから。

第1章 インターネットリサーチとは
第2章 インターネットアンケート調査
第3章 モバイルリサーチ(携帯電話調査)
第4章 オンラインデータ放送アンケート
第5章 インターネットグループインタビュー
第6章 Webサイトのユーザビリティ評価
第7章 2次データ検索・収集調査
第8章 インターネットリサーチの応用
第9章 インターネットリサーチ会社の特徴
第10章 個人情報保護と情報セキュリティ

このシリーズをご覧になった方でしたらお判りと思いますが、見開き左が文章で、右が図表という体裁をとっています。なので、ポイントを理解するにはわかりやすい内容になっていると思います。ただ、このような体裁なので、深い言及までは期待しないでください。
今のインターネットリサーチの見取り図が提示されている&実務的なことも一応理解できるという内容です。

著者は淡々と事実を記述することに徹している、とお見受けしました(とくに、第1章)。本当は、いろいろと思うところもあると思うのですが、それを言っても仕方がないですから。きっと、「はじめに」で書かれている以下の文章が、著者の想いなのでしょう。同感です。

インターネットリサーチには、調査モニターの質や品質管理など、様々な課題もありますが、従来型調査よりも安価で結果が早く得られるなどの理由で、活用場面は増える一方です。調査に携わる方には、調査の基礎知識を十分理解した上で新しい技術を応用していく姿勢が求められます。また、経営者や管理者には、情報の妥当性を見極め、適所に活用し、上手に説明する能力が求められます。意思決定に必要な情報の入手速度を優先しすぎて、情報品質を吟味しないままデータを使うことに慣れてしまうと、失敗の連鎖を招くことになりかねません。

これまで、何も考えることなくネット調査、WEB調査をされてきた方、一度本書でインターネットリサーチとはどんな特徴を持っているのか、データを読むに際してどのような点に留意しなければいけないのか、を理解していただければと思います。

ヤマト運輸が調査事業開始?!

標題をみて、「え?!」という方、多かったのでは・・・。

ネタ元は、この↓記事です。

ヤマト運輸/政府統計調査事業に参入(LNEWS)

確かに、ヤマト運輸のHPでもニュースリリースが。

統計調査事業への参入について(ヤマト運輸HP)

以前に、このblogで、「統計調査の民間開放・市場化テストに関する研究会」というエントリーをしたのですが、この統計調査の民間開放に対する動きです。
ヤマト運輸と日経リサーチが共同で、政府統計調査に対応できる体制をつくる。方法は、ヤマトのセールスドライバーから、統計調査員を募り、全国規模での訪問調査を実施できる体制を作ろうと。。。
たしかに、ヤマトのドライバーさんなら、全国あまねくいらっしゃるでしょうし、お宅を訪問するのも容易かもしれませんね。目の付け所としては、なるほどと思わされました。

ただ・・・、
実は昔から、このような発想で、事業化をしている業界は他にもあるのです。
それは、「ガソリンスタンド」です。
今でもあるのかと検索してみたら、ありました。東京サーベイリサーチという調査会社と新日本石油が組んで、このような↓会社を設立しています(それも、1989年設立です)。

株式会社ユー・エヌ・エス

インターネット調査もそうですが、「全国規模のインフラ(インターネット調査でいうとモニター組織ですね)」を持っていると、調査という事業に参入したくなるんでしょうか・・・。
そんなに簡単なものじゃないと思うんですけど、調査も。。。
(まあ、こんなこと言っていると、「うちの業界は、特殊だから」「うちの業界は、ノウハウが必要だから」と言っている頭の固い方々と一緒になってしまうので、控えたいとは思うのですが。)

さて、ヤマト運輸と日経リサーチのこの試み、うまくいくのか、今後をみていきたいです。
(うまくいったら、日経リサーチは大きな成長基盤を持つことになりますね。なにせ、政府の調査を落札できる可能性が、ぐっと高まるわけですから・・・。)

PS.
実は今回のエントリーが、ちょうど100回目のエントリーになります。
昨年の10月にはじめてから1年、なんとかここまで辿り着きました。
最近は、かなり更新期間が長くなってしまっていますが、それでもアクセスしていただいている皆さまに、この場を借りてお礼申し上げます。
(ほんとは、100回目のエントリーは「寺子屋」の再開にしたいと思っていたのですが・・・。)

「脳を直撃する広告?」

おもしろい記事を見つけたので、取り急ぎのご紹介を。
その記事は、こちらです↓。

脳を直撃する広告?~“ニューロマーケティング”が欧州でブレーク(NBオンライン)

以前、『欲望解剖』という本をご紹介した際に、ニューロマーケティングについても少し触れていますが、欧州では研究が進んでおり、実務の世界でも活用されているようなのです。

「ニューロマーケティング」という新しい手法が、今、欧州で注目を集めている。人間の脳をスキャンして広告に対する消費者の反応を脳科学的に分析するもの。広告がさらにパワーアップすることによって、消費者の財布の紐が緩みっぱなしになってしまうかもしれない。
 ジョージ・オーウェル的な洗脳のような印象も受ける。だが、広告の精度を上げて売り上げアップを図りたい企業にとって、ニューロマーケティングは極めて魅力的な可能性を秘めている。莫大な広告費を投じる前に、広告やCMソング、ロゴが消費者の潜在意識にどのぐらい響くかを定量的に測定できるようになるからだ。「フォーカスグループインタビュー」や、そのほかのフィールド調査の信頼性に疑問を抱いていたマーケティング担当者にとっては、待ちに待った手法と言える。

「ニューロマーケティング」って何?、という方は、こちら↓を参照ください。

「マーケティング用語集:ニューロマーケティング」(JMR-LSI)

さらに、こちら↓の会社では、すでに「ニューロコンサルティング」というメニューもある・・・。

ニューロコンサルティング(株式会社NTTデータ経営研究所)

以前、blog上でも結構話題になった雑誌↓。(ニューロマーケティングそのものについては、一部ですが。)

日経サイエンス臨時増刊「こころのサイエンス」

関連本もいくつか、ご紹介しておきます。
いきなりニューロマーケティングもいいですけど、しっかりと「脳」についての理解をしておくことも、リサーチャーには必要だと思います。

欲望解剖 欲望解剖
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2006-12

⇒脳科学の茂木先生とブランド論の田中先生の本。さっと理解するにはいいです。

心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす Harvard Business School Press 心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす Harvard Business School Press
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2005-02-10

⇒定番本。リサーチと絡めて、脳科学を理解するにはこちら。

脳科学から広告・ブランド論を考察する 脳科学から広告・ブランド論を考察する
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2007-02

⇒こんな本もあります。脳科学の視点から、広告調査を考察しています。ただ学術論文的で、読みにくい・・・。

進化しすぎた脳 (ブル-バックス) 進化しすぎた脳 (ブル-バックス)
価格:¥ 1,050(税込)
発売日:2007-01-19
脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!? 脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!?
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2006-09
海馬―脳は疲れない (新潮文庫) 海馬―脳は疲れない (新潮文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2005-06

⇒池谷裕二先生の著書。いずれも、脳について理解するとっかかりとしては、お勧め。

「マーケティング・リサーチの今」

「読売ADレポート」最新号の特集で、「マーケティング・リサーチの今」と題して3つの記事がアップされていました。(「今」というほど、今のことでもないですが・・・)
今回は、この記事の紹介&コメントを。

カスタマーの声に耳をかたむける調査とは

日産自動車市場情報室室長星野朝子氏のインタビュー記事です。
現場でマーケティング・リサーチを行ってきた人の言葉だけあって、納得できるものです。マーケティング・リサーチとはなんぞやという理解のためにも、ぜひ一読を。

いくつか、気になった発言を紹介しておきます。

(ネット調査は)あくまで、データベースとして使うための定量調査として行っています。

(定性調査は)調査結果から何かをわかろうとしてやっているというよりは、お客様に刺激をもらおうとしてやっていますね。

調査は「自分を刺激する材料」だというのが、私の考えです。カスタマーオリエンテッドとは、カスタマーに答えを聞くことではなくて、自分がカスタマーになりきって発想することです。

いずれも、納得の発言です。
このような発言の背景も、本文でぜひ確認してください。

■ネット調査を補正する「傾向スコア」の可能性

こちらは、個人的にはやや懐疑的。手法が懐疑的というのではなく、現実性の問題として懐疑的ということなのですが。
「傾向スコア」を適用するには、結局、正しくサンプリングされた対象データが必要となるわけで、そもそもそのようなデータを得ることができるのか?という問題が残されます。なので、記事の中でも、つぎのように指摘しています。

今後は欧米で行われているように、官公庁が行った調査データを一定の条件の下に民間でも利用できるようにすることが日本でも求められると思います。

確かに、官公庁はいまも「正しいサンプリングによる訪問調査」を実施していますので(回収率の問題はありますが・・・)、官公庁のデータを利用できれば実現可能性は高まるでしょう。ただ、マーケティング・リサーチにも適用したい補正項目が、官公庁調査でも取得できているということが前提になりますが。

そもそも、多くのマーケティング・リサーチでは補正はあまり必要ないというのもあります。ただ、記事で紹介されているビデオリサーチ社の「ACR調査」のような汎用性の高い実態・意識調査では、必要になるというのも理解できます。

■ネット調査利用のポイント

これは、JMRA(日本マーケティング・リサーチ協会)で制定された「インターネット調査に関する品質保証ガイドライン」を元に、JMRAの委員の方が寄稿したものです。
オリジナルのガイドラインは、JMRAのHPでダウンロードすることができます(⇒こちら)。

「報告書に記載すべき」とされる項目を中心に、チェックポイントとしてまとめてられています。「べき論」としては、確かにこれらの項目を記載すべきだというのは正論だと思います。いずれも、データを読むベースとしては必要な情報ですので。
ただ、これらが実行されているかというと、ほとんどお目にかかったことがない。。。とくに、発信数や回収率などは、調査報告書としては不可欠だと思うのですが。
思うに、クライアント=リサーチユーザーの方も、なぜこれらが必要なのかということを理解できていないからだと思います(or 理解していたとしても、この点を突っ込んでも仕方がないと諦めているか?)。
なのでJMRAには、次回このような記事を書く機会がある場合は、ぜひ「なぜ」の部分を説明していただければと、期待しています。
(機会を見つけて、このblogでも取り上げたいとは思っていますが・・・)

以上、「読売ADリポート」の紹介でしたが、ぜひ、リンク先の原文を読んでいただき、マーケティング・リサーチについて考えていただきたいと思います。

マクロミルの新たな動き:続報

ひとみしりさんより、情報いただきました。
前回投稿した、「マクロミル社のニールセン社からのPOS事業譲渡」はご破算になったようです。

マクロミル社のリリースは、こちら↓を参照ください。

ニールセン・カンパニー株式会社の事業一部譲受に関する基本合意の解消について(2007.9.10:マクロミル社IR情報)

理由については、こちらのリリースから、皆さん自身でご確認ください。
(今回の結論に至った理由については、いろいろと思うところもありますが、勝手な推測の域を出ませんので、ここで述べることは控えたいと思います。あわせて、合意解消理由についてのコメントは、皆さんも控えていただければと思います。)

個人的には、今回の結果はとても残念なことだと思っています。前回のコメントにも書きましたが、競争がないところに成長はないと思っているので、POSデータパネルがインテージさん1社の独占になってしまうことは、あまりいいことではないと思うからです。
(とはいえPOSデータについては、日経グループはじめ調査業界以外で、販売している企業はあるようなので、完全な独占というわけではないようですが。)

同時に、ひとみしりさんが指摘していたように、パネル事業を行なうことの難しさについても、あらためて感じた次第です。視聴率調査もそうですし・・・。

ただマクロミルさんも、拡大志向や見切り発車で事業を始めることなく、冷静な判断に基いて、クライアントや自社にとって賢明な判断をしたのだと思いますので、萬さんご指摘のように、今後のマクロミルさんの動向については期待をしていきたいと思います。

PS.
今回の件に関連して、「とみざわのマーケティング思索ノート」さんが、おもしろい見解を示しているので、参考にしてください。

コンサルと言い始めたら(とみざわのマーケティング思索ノート)

この見解は、確かにネット調査会社や上場会社でより大きな課題になると思いますが、個人的には、いずれの調査会社も抱える成長の限界だと感じました。この限界があるから、調査会社はなかなか大きくなれず、また、小さな会社でも存在できるのだと思います。
つぎの一文はまさに、「現実」、でしょうね。。。肯定したくない気持ちも多分にあるのですが。(まさに、私自身がこの現実を感じて、スピンアウトしたようなところもありますし・・・)

結論的には、効率を重視しなければいけないのなら、「知」のことは考えず、「キカイ」に徹しろということです。
知に無駄は避けられない。
その無駄を嫌うなら、従業員を機械として見るしかない。
銀河鉄道999に乗りたくなる話のようですが、現実はそういうことです。






マクロミルの新たな動き

(8/20追記あり)

今週、マクロミルの決算発表と今後へ向けての新たな動きが発表されていました。

まずは、決算から(決算説明会資料は、↓でご確認ください)。

「平成19年6月期決算説明会資料」(マクロミルIR情報TOPページ)

連結で売上高64億円(対前年+23.4%)、単体で売上高54億円(対前年+20.2%)。
いずれも2桁増で、着実に売上を拡大しているようですが、↓の記事をみると、計画に達していないということで、株価はストップ安とか・・・。

マクロミルが値下がり率トップ、今期連結業績予想が2カ年計画を下回る

「調査会社」としてみれば、毎年着実に売上増を達成している(しかも2桁増)だけでも凄いと思うのですが、マーケットは評価してくれないんですね。。。他の調査会社で、毎年着実に売上増を達成している会社が、いくつあるのか?(上場するということは、こういうことなんですね・・・。確かに市場からの資金確保や信用面でのメリットは大きいですが、成長性を毎年確実に示していけないと、あっという間に市場から見放されてしまう。たいへんです。。。)

今後の活動方針については、「決算説明会資料」の17ページ以降に記されています。至極全うな内容で、あまり驚きはないですが・・・。

ところが、決算発表後に、↓のような発表がされているようです。日経でも記事になっていたようなので、すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが。

ニールセン・カンパニー株式会社の事業一部譲受に関する基本合意契約締結のお知らせ(マクロミルIR情報TOPページ)

何かというと、これまでニールセンが行なっていた「スキャントラック」というPOSデータ販売事業を、そのままマクロミルが買収したということのようです。いくらで買い受け、今後どれくらいの売上となるかは、未定とのことですが・・・。

実は、もうひとつ興味深いリリースもあります。こちらは、あまり報道されていないようですが。

商品購買調査サービスに関する共同展開についてのお知らせ(マクロミルIR情報TOPページ)
新サービスの開始に向けたシステム開発に関するお知らせ(マクロミルIR情報TOPページ)

これまで、東急エージェンシーが独自に行なっていた「QPR(家庭内スキャンパネル調査)」というシステムを、共同で開発・展開を行なっていくということ、そのために4000万円を投資しシステム開発を行なうということです。(こちらは、決算発表にも反映されていて、売上としては、来期で1億を見込んでいるようです。)

これまで、マクロミルはアドホック調査(=クライアントのテーマ・課題毎に調査を行う単発実施型の調査)を中心に行ってきましたが、この2つによって、データ販売型の事業の基盤を築くことができるようになったということです。それも、小売のデータであるPOSデータをニールセンから、消費の現場でのデータであるホームスキャンデータを東急エージェンシーと協同で、と売りと購入の両面を押さえているところが秀逸だと思います。
いまのところ、この両方のデータを扱っているのは、おそらくインテージだけだと思いますので(これまでは、ニールセンが対抗していましたが)、まさに両社が、がちんこで勝負を行なう状況になったともいえそうです。

【追記:2007.8.20】
ブルームバーグに解説記事があるのを見つけましたので、リンクを貼っておきます。

マクロミルが上場来安値、パネル調査事業の買収価値に不透明感(ブルームバーグ:8/16記事)

たしかに、ニールセンさんは採算が合わなかったので売却するんでしょうから、このような記事になるのもむべなるかな・・・。
そこは、マクロミルのシステム構築力&事業構想力でどのような展開にするのか?ですね。

『社員満足の経営』

社員満足の経営―ES調査の設計・実施・活用法 社員満足の経営―ES調査の設計・実施・活用法
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2007-03

この本、正直驚きです・・・。
ここまでノウハウをさらけだしていいのでしょうか?、という意味で。
著者はシンクタンクのコンサルタントなのですが、社員満足度調査(ES調査)について、これほど丁寧に書かれている本は、他にはないと思いますが・・・。

もくじは、つぎのようになっています。

1章
ビジネスストーリー1 ゲーム業界の大型経営統合
Lets ESサーベイ1 社員満足度とは何か
2章
ビジネスストーリー2 ESとCSの関係を学ぶ
Lets ESサーベイ2 ES調査を実施する
3章
ビジネスストーリー3 分析手法を身につける
Lets ESサーベイ3 集計結果を分析する
4章
ビジネスストーリー4 聖域にメスを入れろ
Lets ESサーベイ4 社員満足経営を実践する
5章
ビジネスストーリー5 若手社員がやめていく
Lets ESサーベイ5 元気な会社はどこが違うか
6章
ビジネスストーリー6 経営改革に終わりはない
Lets ESサーベイ6 分析結果を戦略的に活用する

最近の流行でもあるのですが、ストーリー形式と解説を交互に進める構成になっています。
基本的には、ES調査をどのように進め、結果をどのように活用するかについて、具体的に解説されています。ただ、具体的すぎて、大丈夫ですか?と問いたくなるくらい・・・。
コンサルタントだけあって、ところどころに差し込まれているチャートもわかりやすく、ES調査の解説本として良書であるばかりでなく、調査・リサーチの解説本としても良書だと感じました。とくに、1章~3章を丹念に読んでいただければ、リサーチフローに沿った作業イメージの理解は、かなり進むのではないかと思います。
反則かもしれませんが、チャートの標題の一部も紹介しておきます。

    • 調査プロジェクト・スケジュール
    • プロジェクトフロー
    • ES構造の仮説設定
    • 調査票の設計
    • 分析モデルの設計
    • 調査目的の明確化
    • 調査票設計の流れ
    • 満足度構造分析
    • 階層別フィードバック例

このように、リサーチの解説書としてもお勧めなのですが、はじめに書かれているつぎの視点に共感したのも、本書をお勧めするポイントとなっています。

このような考え方の根底にあるのが、「社員満足」(ES)の向上が「顧客満足」(CS)の向上をもたらし、それが企業業績の向上につながって「株主満足」(SS)を満たし、企業価値の創造に寄与するという社員満足経営(ES経営)の基本モデルである。

「人は石垣、人は城」。武田信玄だったでしょうか、この言葉を今一度、考える必要があると思います。

私もこれまで、いくつかの企業のCS・ES調査に関わってきましたが、CSとESは密接に関連していることが少なくありません。社員が満足して働いていなければ、あるいは働きやすい環境になければ、お客様に満足していただくことはやはり難しいでしょう。また、CSで明らかになった改善ポイントが、社員の日常的な活動における阻害要因(機能的要因かもしれませんし、モティベーション的な要因かもしれませんが)に原因が求められることもよくあることです。
ですから、CS調査を行うと同時に、ES調査を行うことは必須であると言っても過言ではないと思います。ただし、CS調査とES調査を、どう関連づけて設計するかということがポイントになるのですが。

最後に、やはり「はじめに」からの引用で。

ESの重要性は理解していても、その測定方法がわからない、実際にES調査は実施しているものの、その有効な活用方法がみつからないという企業は少なくない。そのような企業のES担当者にこそ、本書をご一読いただきたいと考えている。

そして、ES調査に限らず、「調査・リサーチは、どうやって進めるんだ?ポイントは?」と思っている方にも。

出口調査って?

2007年参議院選挙も終了し、結果について様々な論議がされていますが・・・。

ここでは、前回の選挙前情勢調査に続いて、「出口調査」について。
(しかし、みなさん出口調査に関心があるんですね。blog検索をすると、「出口調査ってなんだ」「どうして、開票前にわかるんだ」「出口調査を頼まれました」というような記事がいっぱい出ています。出口調査に協力した人の生の声を見てみたい方は、検索してみてください。)

20時の選挙特番開始と同時に発表される各テレビ局の議席数予想。これは、「出口調査」と呼ばれる調査を元に各社が算出しているものです。
各社の数字と実際の確定議席数を比べてみると、今回は各社ともかなりいい予測を出していたことがわかります(前回の衆議院選挙の時は、各社とも自民を多めに予測していたと記憶していますが。。。)

         NHK 日テレ系   TBS系 フジ系  テレ朝系   テレ東系 確定

  • 自民  31-43  38     34   36    38     39    37
  • 公明  8-12   9     10    10    8      9     9
  • 民社  55-65   59     60    61    58    60    60
  • 共産  2-6    3     4     4     4     3     3
  • 社民  1-2    2     2     2     2     2     2
  • 国民  0-2    1     2     2     2     2     2
  • 日本  0-1    0     1     0     1     0     1
  • 他   5-10    9     8     6     8     6     7

調査をしっかりやって、周辺情報を鑑みてデータを解釈すると、これだけの精度で結果が得られるというよい見本です。

では、「出口調査」はどのように行われているのか?
まずは、「何人の人に聞いているのか(サンプル数)」を見てみます。
この点について、WEB上で確認できたのは、朝日新聞とNHKです(他社さんで記述がありましたら、教えてください)。

「安倍不信任」鮮明 本社出口調査(朝日新聞:記事終りに説明)

おはようコラム 「参院選・当確の打ち方」(NHK:解説委員室)

朝日新聞は「全国3630カ所の投票所で」「約18万5000人から有効回答を得た」、NHKは「全国1600箇所で20万人を対象に」となっています。
今回選挙では、投票所数が51743ヶ所、有権者数が約1億371万人とのことですので、両社ともかなりの地点数と対象者人数で行っています。
(1回の調査規模としては、マーケティング・リサーチではありえない地点数とサンプル数です、調査会社はたいへんだろうな。それと、調査の現場にいた人間からみると、つい費用を計算したくなってしまうのですが・・・。面接調査のはずですから、かなりの費用を投じていますね。)

整理すると、

  • 朝日が、約14投票所に1地点、有権者約560人に1人、1地点あたり約51人。
  • NHKが、約32投票所に1地点、有権者約520人に1人、1地点あたり125人。

地点数を多くとるか、1地点あたりのサンプル数を多くするか、どちらがいいとは一概には言えませんが、両社の考え方の違いなのでしょう(プラス予算かな?)。

さて、これで調査の概要がわかりましたが、もうひとつ大切なことがあります。「どこの投票所で」、「誰に調査をお願いするか」ということです。
blogを見ても、「うちみたいな田舎では、調査しないんだろうな」とか、「調査をやっていたので頼まれると思ったのに、頼まれなかった。人を見ているのか?」というような記述がありましたが、そんなことはありません。きちんと、ルールがあるはずです。

まずは、「どこの投票所で」。都市部でしかやらないとか、行きやすそうなところだけでやっているとか、そんなことはないはずです。
たとえば、ある県の投票所数が100あって、この県で調査する投票所が10だとします(この都道府県あたりの調査対象投票所数も、きちんと有権者数などを元に決められます)。そうすると、100の投票所のリストから、10おきに投票所を選び出すというようなことをしていると思います。あるいは、投票所ごとの有権者数を元にもっと正確な方法で、選んでいるかもしれません(説明が面倒なので、省略しますが・・・)。いずれにしても、「すべての投票所が、同じ確率で選ばれるような方法」があって、その方法に従って、「どこの投票所で調査をするのか」を決めているはずです。

つぎに、その決められた投票所で、「誰にお願いをするのか」。
これも、一定のルールを決めます。たとえば「10人おきに依頼をすること」というような取り決めです。(もっと正確に行おうとすると、事前に投票所毎の性別・年齢別の有権者数を把握して、この「投票所では、男性○人・女性△人」というように、性別×年齢ごとにあらかじめ回収数を設定し、その条件の中で、何人おきにお願いするという方法も考えられます。しかし、この方法では、ほぼ全員の有権者が投票するという前提ならOKですが、棄権のことを考えると、正しくないように思います)。
もしも調査員にお任せで、誰にお願いするかを勝手に決めるとどうなるか?おそらく、頼みやすそうな人、女性とか、やさしそうな人とかに頼んでしまうことになるでしょう。しかし、投票所に来るのは、男性もいれば、ぱっと見では話しずらそうな人もいるはずです。となると「偏った人の意見しか聞いていない」ということになり、せっかくの調査も台無しです。

このように、精度の高いデータを得るためには、「何人の人に調査をお願いするのか」「どこで調査を行うのか」「対象者をどのように選ぶのか」ということを取り決めているのです。前回も出てきた「代表性」に関わる、重要な決め事です。
(プラス、現場で調査員がきちんと指示通りの調査を行っているのか、というのも重要です。ですから、きちんとした調査会社は、現場を巡回して調査の状況をチェックします。他より安い費用で調査を請け負う会社は、この辺りを手抜きすることになります。あるいは、理解していないか・・・。)

さてつぎに、「500人に1人から聞いた数字で、なぜ結果がこんなに正確なのか」という疑問も出てくると思います。これは、統計の領域に入ってしまうので、少々難しい話になります。
こちら↓のblogで、詳しい説明をしていますので興味のある方はどうぞ(ただし、数学的な説明になりますが・・・)。

出口調査は、どの程度、結果を予測できるのか?(永井孝尚のMM21)

また、今回の選挙ではないですが、日経リサーチが出口調査の結果を検証した記事もありましたので、あわせて紹介しておきます(こちらも、かなり専門的です)。
こちらでは、「いいかげんな出口調査も」として、先ほどの「きちんと、対象者を選んでいるのか」という問題点を指摘しています。プラス、最近の選挙では無視できなくなってきている期日前投票をどうするかについての考察も行っています。

衆院選出口調査の検証(日経リサーチ)

きっと、まだ疑問がありますよね?
開票が進んで、ある程度の実際の得票数が出てきている場面で、票が少ない人が、多い人よりも先に当確がでてしまうのは、なぜか?この点については、先ほど紹介しているNHK解説委員室のblogでも、次のような記述があります。

当確についてNHKの原則は三つ。
1.世論調査や記者の取材で、事前に情勢を把握する。
2.投票日の出口調査。今回は全国1600箇所で20万人を対象に行います。
3.開票所の直接取材です。
これらを総合的に判断して、当選確実を打ち出しているのです。
おはようコラム 「参院選・当確の打ち方」(NHK:解説委員室)

どういうことかというと、たとえばある県で2人の候補者が競っていたとします。
Aさんは県北部で強く、Bさんは県南部で強いということが、事前の情勢取材で予想されています。ところが、開票50%くらいの時点で、県北部しか開票結果がわかっていなかったのですが、得票数ではAさんとBさんがほとんど同じだとします。となると、開票されていない県南部での票が当初の情勢取材どおりBさんに多く集まっていれば、Bさんが有利ということになりますよね?で、出口調査の結果でも、この取材結果が裏づけられているとすると、すべてを開票しなくても、Bさんの当確を打つことができるということになります。実際に放送の現場で作業を行っているわけではないのですが、おそらくこのようなことだと思います。

最初の方で、「調査をしっかりやって、周辺情報を鑑みてデータを解釈すると」と書いたのは、この点についてです。マーケティング・リサーチも、実は考え方は一緒です。何度か、「1回の調査で判断するより、調査を重ねることが必要」というようなことを書いてきましたが、これと一緒です。1回きりの調査結果では、結果からマーケットを予測することは難しいですが、同じフォーマットで何度も調査を重ねていれば、過去の傾向から今回の結果データを解釈することで、マーケットの読みは正確さを増していくと思っています。
(この点は、神戸大学石井先生も「リサーチ標準」という言葉で、指摘されていることです→こちらのエントリーから参照ください)

最後に、「出口調査の歴史」が理解できるblogもみつけたので、紹介しておきます。

出口調査の父:ミトフスキー氏の死を悼む(メディア・レボリューション)

さて・・・
軽く「出口調査」を紹介しようと思っていましたが、結構長くなってしまいました。。。
ただ、世間の多くの人が「調査」というものに興味を持ってくれる機会ですし、WEB調査ではわからない調査の基本部分を理解するのに、いい教材ですので、少々詳しく書いてみました。
少しでも、「調査」「リサーチ」というものに興味を持ち、理解してくれる人が増えてくれればいいなと思っています。

参議院選挙情勢調査(代表性の話)

2007年参議院選挙も佳境に入り、報道各社の情勢調査が出ています。
ざっと見てみましょう。

論調は、自民党40議席の攻防というところで各社とも一致しているようです。
選挙についても思うところはありますが、ここで政治的な話をしてもしかたないので、やはり調査について。
(とはいえ、ぜひ各紙の解説記事を読み比べてみてください、ふだん新聞を一紙しか読まない方はとくに。各紙の論調の違いがわかっておもしろいですよ。)

WEB上で、具体的な予想議席数が見られるのは朝日新聞だけなのですが、参考までに予想議席数を引用しておきます。

  • 自民  38(31~45)
  • 民主  58(52~64)
  • 公明  10(7~13)
  • 共産   4(2~7)
  • 社民   2(1~3)
  • 国民   2(0~2)
  • 日本   0(0~1)
  • 無所属 7(5~9)

この数字が正しいかどうかは、月曜日の結果を見ればわかりますが、どうでしょうか・・・。
(調査結果が正しかったのかどうかが検証できるのが、選挙予測の怖いところですね。マーケティング・リサーチでは、調査結果が正しいかどうかの検証なんて、ほとんどできませんから。)

さて、報道各社で行っている世論調査、どのように行われているかご存知ですか?
どこの報道機関でも、電話調査で行っていると思います。それも、「RDD方式」と呼ばれる電話調査です。
マーケティング・リサーチと違って(と書くと、かなり語弊がありますが、あえてこう書きます)、世論調査、なかでも選挙予測となると、調査の「代表性」というものが、かなり重要になってきます。
「代表性」、ご存知ですか?もしも、あなたがリサーチを担当していたり、お仕事でリサーチをされたことがあるとしたら、この言葉を知らないと、かなりまずいことになります。。。
とはいえ、この代表性という概念をきっちり理解し、調査を行う際に完全に守ることはとても難しいことでもありますが・・・。
簡単にいいますと、「代表性」というのは、今回の調査に回答した人が、調べたい人全体(=母集団、選挙予測では有権者すべて)から、等しい確率で選ばれているか、ということになります。
といっても難しいですね・・・。
たとえば、地域別・性別・年齢別に見たときに、有権者全体の構成比と、調査回答者の構成比が等しいかどうかということを考えるわけです。ほんとうは、さらに、職業別だとか、年収別だとか、他のざまざまな属性においても等しいことが望ましいのですが。

では、各報道機関(実施しているのはどこかの調査会社さんだと思いますが)は、「代表性」の確保のために、どのようなことを行っているのか?
日経リサーチ社のホームページに、丁寧な説明が掲載されていますので、こちらを参考にしてください。

【日経リサーチHPより】
日経電話世論調査~調査方法

日経電話世論調査~よくある質問

いかがでですか?すぐに理解できますか?
正直、すぐには理解できないし、かなり面倒なことを行っていますよね?電話番号の選び方、さらには、世帯の中で誰に回答をしてもらうかも「年齢が上から乱数番目の人」というように、特定しています。
しかし、これだけのことをしないと、先ほどの「代表性」というものが確保できず、代表性が確保できなければ調査結果の信頼性も崩れてしまうということなのです。

あわせて、「よくある質問」もご覧ください。少々長いですが、調査というものを理解するには、ちょうどよい資料だと思いますので。

今回は、選挙予測に絡めて「代表性」というものを考えてみました。
(寺子屋、始まりませんね・・・。代表性からはじめようと思っているのですが、このように難しいテーマでして・・・ 
⇒ いいわけです、すいません。。。)