日別アーカイブ: 2007-07-31

出口調査って?

2007年参議院選挙も終了し、結果について様々な論議がされていますが・・・。

ここでは、前回の選挙前情勢調査に続いて、「出口調査」について。
(しかし、みなさん出口調査に関心があるんですね。blog検索をすると、「出口調査ってなんだ」「どうして、開票前にわかるんだ」「出口調査を頼まれました」というような記事がいっぱい出ています。出口調査に協力した人の生の声を見てみたい方は、検索してみてください。)

20時の選挙特番開始と同時に発表される各テレビ局の議席数予想。これは、「出口調査」と呼ばれる調査を元に各社が算出しているものです。
各社の数字と実際の確定議席数を比べてみると、今回は各社ともかなりいい予測を出していたことがわかります(前回の衆議院選挙の時は、各社とも自民を多めに予測していたと記憶していますが。。。)

         NHK 日テレ系   TBS系 フジ系  テレ朝系   テレ東系 確定

  • 自民  31-43  38     34   36    38     39    37
  • 公明  8-12   9     10    10    8      9     9
  • 民社  55-65   59     60    61    58    60    60
  • 共産  2-6    3     4     4     4     3     3
  • 社民  1-2    2     2     2     2     2     2
  • 国民  0-2    1     2     2     2     2     2
  • 日本  0-1    0     1     0     1     0     1
  • 他   5-10    9     8     6     8     6     7

調査をしっかりやって、周辺情報を鑑みてデータを解釈すると、これだけの精度で結果が得られるというよい見本です。

では、「出口調査」はどのように行われているのか?
まずは、「何人の人に聞いているのか(サンプル数)」を見てみます。
この点について、WEB上で確認できたのは、朝日新聞とNHKです(他社さんで記述がありましたら、教えてください)。

「安倍不信任」鮮明 本社出口調査(朝日新聞:記事終りに説明)

おはようコラム 「参院選・当確の打ち方」(NHK:解説委員室)

朝日新聞は「全国3630カ所の投票所で」「約18万5000人から有効回答を得た」、NHKは「全国1600箇所で20万人を対象に」となっています。
今回選挙では、投票所数が51743ヶ所、有権者数が約1億371万人とのことですので、両社ともかなりの地点数と対象者人数で行っています。
(1回の調査規模としては、マーケティング・リサーチではありえない地点数とサンプル数です、調査会社はたいへんだろうな。それと、調査の現場にいた人間からみると、つい費用を計算したくなってしまうのですが・・・。面接調査のはずですから、かなりの費用を投じていますね。)

整理すると、

  • 朝日が、約14投票所に1地点、有権者約560人に1人、1地点あたり約51人。
  • NHKが、約32投票所に1地点、有権者約520人に1人、1地点あたり125人。

地点数を多くとるか、1地点あたりのサンプル数を多くするか、どちらがいいとは一概には言えませんが、両社の考え方の違いなのでしょう(プラス予算かな?)。

さて、これで調査の概要がわかりましたが、もうひとつ大切なことがあります。「どこの投票所で」、「誰に調査をお願いするか」ということです。
blogを見ても、「うちみたいな田舎では、調査しないんだろうな」とか、「調査をやっていたので頼まれると思ったのに、頼まれなかった。人を見ているのか?」というような記述がありましたが、そんなことはありません。きちんと、ルールがあるはずです。

まずは、「どこの投票所で」。都市部でしかやらないとか、行きやすそうなところだけでやっているとか、そんなことはないはずです。
たとえば、ある県の投票所数が100あって、この県で調査する投票所が10だとします(この都道府県あたりの調査対象投票所数も、きちんと有権者数などを元に決められます)。そうすると、100の投票所のリストから、10おきに投票所を選び出すというようなことをしていると思います。あるいは、投票所ごとの有権者数を元にもっと正確な方法で、選んでいるかもしれません(説明が面倒なので、省略しますが・・・)。いずれにしても、「すべての投票所が、同じ確率で選ばれるような方法」があって、その方法に従って、「どこの投票所で調査をするのか」を決めているはずです。

つぎに、その決められた投票所で、「誰にお願いをするのか」。
これも、一定のルールを決めます。たとえば「10人おきに依頼をすること」というような取り決めです。(もっと正確に行おうとすると、事前に投票所毎の性別・年齢別の有権者数を把握して、この「投票所では、男性○人・女性△人」というように、性別×年齢ごとにあらかじめ回収数を設定し、その条件の中で、何人おきにお願いするという方法も考えられます。しかし、この方法では、ほぼ全員の有権者が投票するという前提ならOKですが、棄権のことを考えると、正しくないように思います)。
もしも調査員にお任せで、誰にお願いするかを勝手に決めるとどうなるか?おそらく、頼みやすそうな人、女性とか、やさしそうな人とかに頼んでしまうことになるでしょう。しかし、投票所に来るのは、男性もいれば、ぱっと見では話しずらそうな人もいるはずです。となると「偏った人の意見しか聞いていない」ということになり、せっかくの調査も台無しです。

このように、精度の高いデータを得るためには、「何人の人に調査をお願いするのか」「どこで調査を行うのか」「対象者をどのように選ぶのか」ということを取り決めているのです。前回も出てきた「代表性」に関わる、重要な決め事です。
(プラス、現場で調査員がきちんと指示通りの調査を行っているのか、というのも重要です。ですから、きちんとした調査会社は、現場を巡回して調査の状況をチェックします。他より安い費用で調査を請け負う会社は、この辺りを手抜きすることになります。あるいは、理解していないか・・・。)

さてつぎに、「500人に1人から聞いた数字で、なぜ結果がこんなに正確なのか」という疑問も出てくると思います。これは、統計の領域に入ってしまうので、少々難しい話になります。
こちら↓のblogで、詳しい説明をしていますので興味のある方はどうぞ(ただし、数学的な説明になりますが・・・)。

出口調査は、どの程度、結果を予測できるのか?(永井孝尚のMM21)

また、今回の選挙ではないですが、日経リサーチが出口調査の結果を検証した記事もありましたので、あわせて紹介しておきます(こちらも、かなり専門的です)。
こちらでは、「いいかげんな出口調査も」として、先ほどの「きちんと、対象者を選んでいるのか」という問題点を指摘しています。プラス、最近の選挙では無視できなくなってきている期日前投票をどうするかについての考察も行っています。

衆院選出口調査の検証(日経リサーチ)

きっと、まだ疑問がありますよね?
開票が進んで、ある程度の実際の得票数が出てきている場面で、票が少ない人が、多い人よりも先に当確がでてしまうのは、なぜか?この点については、先ほど紹介しているNHK解説委員室のblogでも、次のような記述があります。

当確についてNHKの原則は三つ。
1.世論調査や記者の取材で、事前に情勢を把握する。
2.投票日の出口調査。今回は全国1600箇所で20万人を対象に行います。
3.開票所の直接取材です。
これらを総合的に判断して、当選確実を打ち出しているのです。
おはようコラム 「参院選・当確の打ち方」(NHK:解説委員室)

どういうことかというと、たとえばある県で2人の候補者が競っていたとします。
Aさんは県北部で強く、Bさんは県南部で強いということが、事前の情勢取材で予想されています。ところが、開票50%くらいの時点で、県北部しか開票結果がわかっていなかったのですが、得票数ではAさんとBさんがほとんど同じだとします。となると、開票されていない県南部での票が当初の情勢取材どおりBさんに多く集まっていれば、Bさんが有利ということになりますよね?で、出口調査の結果でも、この取材結果が裏づけられているとすると、すべてを開票しなくても、Bさんの当確を打つことができるということになります。実際に放送の現場で作業を行っているわけではないのですが、おそらくこのようなことだと思います。

最初の方で、「調査をしっかりやって、周辺情報を鑑みてデータを解釈すると」と書いたのは、この点についてです。マーケティング・リサーチも、実は考え方は一緒です。何度か、「1回の調査で判断するより、調査を重ねることが必要」というようなことを書いてきましたが、これと一緒です。1回きりの調査結果では、結果からマーケットを予測することは難しいですが、同じフォーマットで何度も調査を重ねていれば、過去の傾向から今回の結果データを解釈することで、マーケットの読みは正確さを増していくと思っています。
(この点は、神戸大学石井先生も「リサーチ標準」という言葉で、指摘されていることです→こちらのエントリーから参照ください)

最後に、「出口調査の歴史」が理解できるblogもみつけたので、紹介しておきます。

出口調査の父:ミトフスキー氏の死を悼む(メディア・レボリューション)

さて・・・
軽く「出口調査」を紹介しようと思っていましたが、結構長くなってしまいました。。。
ただ、世間の多くの人が「調査」というものに興味を持ってくれる機会ですし、WEB調査ではわからない調査の基本部分を理解するのに、いい教材ですので、少々詳しく書いてみました。
少しでも、「調査」「リサーチ」というものに興味を持ち、理解してくれる人が増えてくれればいいなと思っています。