日別アーカイブ: 2010-05-17

『マーケティング』

マーケティング (New Liberal Arts Selection) マーケティング (New Liberal Arts Selection)
価格:¥ 3,885(税込)
発売日:2010-05-01

新しいマーケティングのテキストです。
マーケティングに関しては、すでに多くのテキストもありますし、3885円也という値段もあって、購入を躊躇していたのですが。。。

twitter での

“Marketing: Consumer behavior and Strategy”という副題にある本書は、買い手理解に多くのページが割かれている。従来のマーケティングテキストではわずかなページしか割かれてなかった内容。買い手理解の重要性が増大した今の要請に対応したもの。
(via matsuoty

という投稿をみて、「お?!」と閃きが。

そこでAmazonにて、もくじを確認すると・・・

第1部 マーケティングとは
 第1章 現代マーケティングと市場志向
 第2章 企業戦略とマーケティング戦略

第2部 消費者行動の分析
 第3章 消費者行動分析の基本フレーム
 第4章 消費者行動分析の歴史
 第5章 消費行動と消費パターンの分析
 第6章 購買行動と意思決定プロセスの分析
 第7章 知識構造と関与水準の分析
 第8章 消費者データの収集と分析
 第9章 定性的調査方法

第3部 競争環境と流通環境
 第10章 競争環境の分析
 第11章 流通環境の進展

第4部 マーケティング戦略の策定
 第12章 市場細分化と標的設定
 第13章 新製品開発
 第14章 製品ライフサイクル

第5部 マーケティング意思決定
 第15章 製品政策:顧客価値のデザイン
 第16章 ブランド政策:ブランド構築の枠組み
 第17章 価格政策
 第18章 プロモーション政策:マスコミュニケーションとパーソナル・コミュニケーション
 第19章 チャネル政策

第6部 マーケティング戦略の諸側面
 第20章 サプライチェーン・マネジメント
 第21章 関係性マーケティング
 第22章 ビジネス・マーケティング
 第23章 サービス・マーケティング
 第24章 インターネット・マーケティング
 第25章 マーケティングにおける社会性と倫理性

と、確かに「第2部 消費者行動の分析」の章が厚そう。
で、さらに「なかみ検索」でページ数を確認すると、正味600ページ強の中で、第2部のページ数は200ページにも及ぶ。。。実に、3分の1近い!

これまでのマーケティングテキストの多くは、STP+4P(+ブランド)という「戦略、マネジメント」を主としたものが多かったのですが、これは異色の構成と言えるでしょう。
つまり、これまでのマーケティングテキストが「マネジメント中心のマーケティングマネージャー向けのテキスト」だとすると、本書は「リサーチャー(&リサーチャー寄りのマーケター?)向けのテキスト」ということもできそうな気がします(極論ですけど・・・)。
ともするとリサーチャーは、マーケティングのテキストに馴染めない人が少なくないと思うのですが、本書なら他のテキストに比べ興味を持てるのではないか、と思っています。

というこで、ご購入。
実際に本書の内容をみると、見慣れた有斐閣のテキストシリーズと同様の体裁。章ごとにキーワードを提示しながら、図表やコラムをまじえ、章末に演習問題と参考文献を提示、という構成です。
そして、消費者行動はもちろん、マーケティングの基本的なフレームが多くの図表を使って示されている点が第一の特徴。さらに、「サプライチェーン」「関係性マーケティング」「サービスマーケティング」「インターネットによる影響(章タイトルはインターネットマーケティングとなってますが、インターネットによるマーケティングへの影響、という方が正しいと思います)」「ソーシャルマーケティング」といった領域についても章立てされており、また「経験価値」「サービスドミナントロジック」などの比較的新しい概念についても言及されているなど、ここ10年くらいのマーケティングの焦点についても理解できる点が第2の特徴といえます。

このような特徴をもつ本書ですが、その狙いについて、「はしがき」では以下のような主旨で書かれています。(直接の引用ではなく、ポイントをまとめて書きます)

マーケティングの定義もいろいろあるが、交換に関わるものであることは異論がないであろう。だとすると、交換の対象である買い手の行動を理解することが、マーケティングでの重要な課題と考えられてきた。

ところが、多くのマーケティングのテキストにおいては、カバーすべき領域が多岐に及ぶこともあって、買い手の理解のために比較的僅かな紙幅しか割かれてこなかった。

だが、買い手の理解なしに、マーケティングのあり方を論じることは、誤ったマーケティングに結果する危険が少なくない。

とりわけ買い手が選択の目を厳しくしている状況や購買のあり方を変化させている状況では、買い手がなにゆえにある行動をとるかを理解することは、マーケティングのあり方を考える上できわめて重要だといわなければならない。

だからこそ、われわれは、目の前に現れる買い手の行動の変化に目を奪われるのではなく、その背後にある買い手行動の仕組みをより良く理解し、その理解にもとづいて、マーケティングのあり方を考える必要がある。そうすることにより、マーケティングについて、何が変わり何が変わらないかを見極めることが可能になる。

そのために本書では、消費者行動に焦点を当て、それがいかなる仕組みにもとづいているかに、通常のテキストブックをはるかに上回る紙幅を充てた。こうした消費者行動の仕組みの理解にもとづいて、マーケティングのあり方を把握し、マーケティングを実践していくうえでの基本を身につけること、これが本書の狙いである。

「消費者インサイト」や「エスノグラフィ」という言葉がよく聞かれるようになったのも、この主旨で述べられているように、より「買い手」の理解が重要になってきていることの表れであるといえるでしょう。
まさに、いまの時代だからこそのテキスト、といえそうです。

さらに、本書とほぼ時を同じくして見つけた本に、↓ の本があります(洋書なのですが)。

Marketing 3.0: From Products to Customers to the Human Spirit Marketing 3.0: From Products to Customers to the Human Spirit
価格:¥ 2,411(税込)
発売日:2010-05-03

この本の著者はコトラー、言わずと知れたマーケティングの大家です。
この本のAmazonでの商品説明をみると、つぎのように書かれています。

現代マーケティング論の第一人者フィリップ・コトラーがマーケティングの未来像を語る、注目の新著。
本書でコトラーは、これまでのマーケティングの潮流を「製品中心主義」のマーケティング1.0から「消費者中心主義」のマーケティング2.0への変化と整理した上で、来たるべきマーケティング3.0は「人間中心主義」になると予測する。
人間中心主義のマーケティングとは、顧客を単なる「消費者」としてではなく、多元的で能動的な存在、価値の創造に積極的に関わろうとする人間として理解し、そのような顧客のニーズに応えることを意味する。いくつかの先進的な企業は既に、顧客の参加意識・創造性・コミュニティ意識・理想主義といった深層的なニーズを満足させる製品・サービス・企業文化を提示し始めている。そのようなマーケティングを実現するには、環境・健康・社会問題に取り組む企業の社会的責任を果たすことも重要な要素となる。
マーケティングの世界的な流れに関心を持つすべての人々にとっての必読書。

やはり、消費者や人間の理解、消費者行動の理解が必要になるという提言がなされています。
(こちらも「なかみ検索」ができますので、興味のある人は本文を覗いてみてください。コトラーの主旨を理解できると思います)

誤解を畏れずに極論を言えば、これまでのマーケティングは「製品中心主義の、マネジメント偏重」のものだったといえるかもしれません。
しかし、ここ数年の環境変化は買い手を大きく変貌させ、消費行動を大きく変えてしまいました。いまはまさに「消費者」や「人間」を理解しないといけない時代といえます。
それも、個々の人ばかりではなく、人のネットワークやダイナミズムまで含めた消費行動の理解が必要なのかもしれません。
このような、そして今後もっと変化していく消費行動を理解し、その上でのマーケティングのあり方を考える上で、本書はよいテキストになると思います。
これまで、いろいろなマーケティングテキストを読まれた方へも、お勧めしたい本です。
(ただし、いわゆる「入門書」ではないので、その点は注意を。一番最初に読むマーケティングの本としては重すぎるかもしれません。他の概説書で、マーケティングの"いろは"を理解した上で、本書を読むことをおすすめします)

<さらに>

これまでの日本におけるマーケティングや消費者の変遷を理解する上で、本書の著者の一人である慶応大学大学院・池尾先生が書かれた ↓ の本も、一読に値する本だと思います。
すでに10年前の出版になりますが、「歴史に学ぶ」ことは大切な事だと思うので。

日本型マーケティングの革新 日本型マーケティングの革新
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:1999-07

消費者行動について、もっと学びたいという方に。
すでにこのblogでも紹介しているのですが( こちら にて)、本書においても「まずよむべき1冊」と紹介されている本。ある意味、古典?

消費者理解のための心理学 消費者理解のための心理学
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:1997-06

そして、中央大学大学院・田中先生の本。本書では「最近の研究動向をふまえて書かれた体系的書籍」と紹介されています。消費者行動論を網羅したレファレンスとしての価値があります。が、文章主体で図表はあまりありません。。。

消費者行動論体系 消費者行動論体系
価格:¥ 3,045(税込)
発売日:2008-09-26

もう少し取っつきやすい本で、消費者行動とコミュニケーションとの関連付けが強いという特徴をもつ本として、こちら ↓ も欠かせません 。とくに「ポストモダン消費者研究」については、いいガイドになると思います。

消費者・コミュニケーション戦略―現代のマーケティング戦略〈4〉 (有斐閣アルマ) 消費者・コミュニケーション戦略―現代のマーケティング戦略〈4〉 (有斐閣アルマ)
価格:¥ 2,205(税込)
発売日:2006-05

最後に、すでに紹介していたと思っていたのですが、紹介し忘れていた ↓ の本を。
こちらは、これまでのマーケティングテキストの構成(マーケティングマネジメントの流れ)に則ったものですが、日本人(法政大学大学院・小川先生)が執筆した、日本の事例による、できるだけ日本語の書籍や文献を優先的に取り上げた本です。
本格的なマーケティングテキスト、しかし翻訳書でないものをお探しの方には、本書をお勧めします。

マネジメント・テキスト マーケティング入門 マネジメント・テキスト マーケティング入門
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2009-07-10