日別アーカイブ: 2010-05-12

『お客様の“生”の声を聞くインタビュー調査のすすめ方』

お客さまの“生の声”を聞くインタビュー調査のすすめ方 お客さまの“生の声”を聞くインタビュー調査のすすめ方
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2010-04-27

この本、ターゲティングが明確にできていると感じます。
著者の福井さんが書いているように、「ビジネス現場で実務に関わる方々にとって参考となる調査ノウハウをお伝えしよう」(「はじめに」より、pⅲ)というコンセプトで書かれています。ですから、本職のリサーチャーではなく、日々の業務の中でリサーチを活用したい方、とくにこれまであまりリサーチをしたことがない方向けの本です。
ターゲットにあわせ、商品=内容も語り調で書かれており、やさしく、わかりやすい内容になっています。(ただ、タイトルに「調査」という単語を使わない方がよりターゲットに届いたかも、という気もしました)

また、著者の福井さんの経歴が、メーカー→リサーチ会社→フリーコンサル+MBA、であることが、この本の質を高めているのだなとも感じました。
やはり、リサーチ会社のみの経歴では事業の現場感覚はなかなか理解することはできません。しかし、事業会社の経歴だけでもリサーチの専門的な理解をすることはできなかったでしょう。また、大学院で体系的な勉強をされたことが、理論的な深みを与えているように思いました。

前置きはこれくらいにして、いつものようにもくじを。

Part1 「お客様の声」に耳を傾ければ、こんないいことが・・・
Part2 調査会社に頼まず、自分たちでできる消費者インタビュー調査
Part3 インタビュー調査の活用(1)-商品開発の情報収集
Part4 インタビュー調査の活用(2)-デザイン、広告の情報収集
Part5 インタビュー調査の活用(3)-不振脱出への突破口を探る
Part6 お客様へのインタビュー調査を企画しよう
Part7 インタビュー実施に向けた準備の段取り
Part8 上手に話を聞き出すインタビューの実践ノウハウ
Part9 発言内容を分析し、役立つ情報を抽出するステップ
Part10 消費者インタビュー調査を戦略の立案に生かそう
【ケーススタディ:マタニティ専門のウエディングドレスショップの開業に向けて】

Part1~2で「お客様の声を聞くこと」とはどういうことか、なぜ大切なのかという考え方を示し、3~5で具体的な活用場面を提示、6~10でインタビューのノウハウについて整理、という構成です。

これまで、実務の中でお客様の声を聞くことがなかった方には、まずPart1~2を読んでいただければと思います。ここを読んで学ぶことや同意することが多ければ、本書を購入する価値があると思います。

そして、このPart1~2には、同意できる記述が多いです。いくつか紹介すると、

企業が「知っていて当たり前」、「わかっていて当然」と思っていることも、消費者は案外わかっていない(p5)

結果がポジティブであれ、ネガティブであれ、その理由が大事(p9)

「誰が、なぜそう言ったのか?」という理由がわかる情報が重要(p9)

問題は、「業界関係者の話ばかり聞いて、肝心の消費者の声を聞いていない」という、情報が偏ってしまい、バランスを欠いているケースです(p12)

お金をかけて外部のリサーチ会社に調査をお願いするほではないけれども、消費者はどんな反応をするのか、おおよその状況を知りたいとき、つまり“アタリ”をつけたいときに行うことが多かったと思います(p20)

いずれも、とても賛同できる記述です。

少し話がずれますが、4番目の「業界関係者の話ばかり」を読んで、以前、つぎのようなtweetをしたことを思い出しました。

「売れ筋だとか言っているが、そんなアホなことせんと、ちゃんと生活シーンから提案しない限りは、聞く耳もちまへん」byアイリスオーヤマ・大山社長(2/15「カンブリア宮殿」にて) http://bit.ly/aglJQc 

「市場志向」という言葉には3つの側面がありますね。1:市場で何が売れているかをみる、2:競合が何をしているかをみる、そして、3:生活や人をみる。「3」であってほしいけど・・・。

(2010/2/10  http://twitter.com/ats_suzuki にて)

市場志向といいながら、実は「売れ筋」や「競合」ばかりを気にしている場合が少なくないです。しかし、ほんとに大切なのは「お客様」であり「生活」であるということを、大山社長の発言は気づかせてくれます。そして、そのために必要なことのひとつが「お客様の生の声を聞く」ことでしょう。

また、5番目の「アタリ」の話。これはリサーチ会社のリサーチャーにとっても重要な話です。調査の企画をするとき、やはり、この「アタリをつける」という行為は重要だと思うからです。この観点からすると、リサーチャーにとっても読むべき本となるかもしれません。
(というより、リサーチャーは直接のターゲットではないですが、読んだ方がいいと思います。「紺屋の白袴」「医者の不養生」という言葉もありますし。。。また最後のケースは、実際の事業の中でリサーチがどう活用されていくかのひとつの事例としても読めると思います)

さて、
本書の紹介については、下記もあわせて参照いただければ、よりよいかと。

「福井遥子著『お客さまの"生の声"を聞くインタビュー調査のすすめ方』のご紹介」(みんなのMR.COM  2010/5/10)

そして、福井さんの出版記念セミナーから、「そう!」と思った言葉を最後に紹介しておきます。

お客様に聞くことの前提は、「戦略に生かすこと」。調査のための調査となっては意味がない。

「未充足ニーズ」こそは、実務者(具体的な課題を持っている人、リサーチ会社から見るとクライアント)が、お客様の声を元に、それまでの知見を動員して考えるべき。

お客様の声を聞くことは経験の蓄積が大切。ただ、隣の人の話を聞くことも、1回の経験になりうる。

【追記:2010/5/21】

福井さんが、本書の中で師匠の一人としてあげている梅澤先生。その梅澤先生の新著が出ていますので、紹介しておきます。
「ビジュアル図解」とあるように、これまで梅澤先生がまとめてこられた消費者心理に関する理論が、見開きで整理されています。こちらも一緒によむと、より「お客様の気持」を理解することができると思いますので、本書とあわせてどうぞ。

ビジュアル図解ヒット商品を生む!消費者心理のしくみ (DO BOOKS) ビジュアル図解ヒット商品を生む!消費者心理のしくみ (DO BOOKS)
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2010-04-28