日別アーカイブ: 2010-03-08

『聞き方の技術』

聞き方の技術―リサーチのための調査票作成ガイド― 聞き方の技術―リサーチのための調査票作成ガイド―
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2010-02-16

いまではすっかり、マーケティングリサーチは調査会社の専売特許ではなくなりました。。。
(たとえばこのblogでも紹介した 「プレミアムライフ向上委員会」by 7&i (2010/2/9) も事例のひとつですね)

アウラマーケティングラボの石井栄造氏も、twitterでつぎのように言っていました。

ネットは全ての「中」を抜く。リサーチも。(@auraebisu 2010/2/15)

至言だと思います。

しかし、そのことによる弊害もいろいろとありそうです。
たとえばWEB上では、つぎのような警句を見ることができます。

とりあえずアンケートというのは考えもの
 (『大西宏のマーケティング・エッセンス』2010/2/22)

意外性の法則 (『とみざわのマーケティングノート』2010/2/15)

いずれもそのとおりだと思いますし、このあたりのことについては、やはりリサーチ経験を積み重ねることで、肌感覚として理解できることでもあると思います。

しかし、基本的な「聞く」ということにも、いろいろな知識や技術が必要になるのです。

そこで、今回紹介する本書です。
副題に、「リサーチのための調査票作成ガイド」とあるように、とくに調査票を介した調査におけるポイントが整理されています。
著者である山田一成先生(法政大学)は、「はじめに」で、つぎのように書いています。

調査票はマーケティング・リサーチや世論調査などにおいて、主に言語を介して情報を収集するためのツールであり、アンケート用紙や質問紙とも呼ばれながら、たいへん身近なものになっています。
しかし、広く普及しているからといって、何の知識も経験もないままでは、調査票を作ることはできません。実用に耐える調査票は、さまざまな領域で蓄積されてきた専門技術を身につけなければ、決して作ることはできないのです。(本書 p3)

まさに!
「アンケート」というと、たとえば学校や職場、自治会などで実施したことがある人も少なくないと思います。けれど、ほんとに意味のある調査票は、簡単に作れるものではありません。
まだまだ、このあたりの理解が成されていないことに、危機感を感じます。

それでは、もくじから。

第1章 言葉ひとつで結果が変わる~ワーディングの要点
第2章 選択肢はそろっているか~回答形式の種類と特性
第3章 回答者はウソをつく~回答傾向と回答能力
第4章 鉱脈を掘り当てるには~類型・尺度・測定技法
第5章 調査票はこうして作る~質問の構成と配列

そして巻末資料として、調査票の実例も掲載されています。

各章は、Q&A方式で書かれており、「冒頭で初心者・初学者の方々が抱かれる疑問を紹介し、それに答える形で解説が始まる」(p5)ような構成になっていますので、自分の課題に沿った質問から確認していくこともできるようになっています。
(とはいえ、ぜひ、全編を読んで欲しいのですが)

たとえば、つぎのような質問です。

会社の先輩から、質問文の作成について、「あいまいな表現は避けるように」と教えられましたが、あいまいな表現とは、具体的にいうと、どのような表現のことなのでしょうか。(本書 p20)

消費者調査で「あなたは有機野菜にどれくらい関心がありますか」という質問文を作ったところ、上司からダメ出しされてしまいました。いったい、どこが悪いのでしょうか。どうしてNGなのか、まったくわかりません。(本書 p29)

商品への好意度を調べる質問は、なぜ5段階であることが多いのでしょうか。また、そうした質問では、「かなり好き」「とても好き」といった言葉が使われますが、どんな言葉でたずねるのが一番よいのでしょうか。上司や同僚には今さら聞けません(本書 p54)

いかがですか?
これらの回答に、明快に答えることができますか?なかなか、難しいですよね・・・。
あらかじめ断っておいた方がいいと思いますが、すべての質問に対して、「これが正解」ということが書かれているわけではありません。「考え方」しか書かれていない質問も、少なくありません。
けれど、これは当たり前のことです。たとえば選択肢の問題などは、ひとつの絶対的な解があるわけではないですから。

調査票を使ってリサーチを行うときは、ここに書いてあるような知識や技術を理解してほしいと思う内容です。さらに、定量調査に限らず、定性調査を行うときにも、ここに書いてあるようなことは参考になると思います。
まだ経験が浅いリサーチャーは当然として、ベテランの域にある方もこれまでの知識の整理として、ぜひ一読をしていただきたい本です。

(また、リサーチに関わっていない方でも、これだけ世の中に調査結果が溢れている時代には、ここに書かれていることは知っておくべきかもしれません。ものごとの正しい判断をするためにも。。。)