月別アーカイブ: 2008年10月

『公的統計の体系と見方』

公的統計の体系と見方 公的統計の体系と見方
価格:¥ 3,780(税込)
発売日:2008-08

総務省統計局の広報活動について紹介しましたが、その結果として得られる公的統計について整理している本です。
リサーチでは、一次データだけでなく、公的データを扱うことも少なくないと思います。しかし、そのデータがどのようなデータかを本当に理解して利用しているでしょうか?

帯の紹介文が簡潔なので、まずそちらを紹介します。

統計を利用するときには、理解しておかなくてはいけないことがある。

わが国の公的統計がどのように作られているか、それをどのように利用すればよいのか。統計を探すときやそれを利用するときに必要となる基礎的な、また全般的な知識、考え方を学習してゆく。

で、もくじはこちら。

第Ⅰ部 公的統計の概要
 第1章 統計制度
 第2章 統計調査の仕組
 第3章 統計の利用

第Ⅱ部 分野別統計
 第4章 人口統計
 第5章 労働・雇用統計
 第6章 家計統計
 第7章 生活関連統計
 第8章 事業所・企業統計
 第9章 産業統計
 第10章 経済の構造・動向統計
 第11章 物価指数
 第12章 その他の統計

第Ⅰ部は、いわゆる統計についての概説で、調査手法とか標本調査についてなど、あまり新味はないかもしれません。
重要なのは第Ⅱ部です。それぞれの分野について、公的統計がどういう体系をなし、どのように見るべきか、そして個別の調査についての概要、調査項目、結果の見方について整理されています。

たとえば、市区町村別の人口を調べる時には、どの統計をみるのか。
「国勢調査」を思い浮かべる人と、「住民基本台帳人口要覧」を思い浮かべる人がいると思います。では、この2つの調査で、気をつけないといけないことは何か?(「国勢調査」が5年おきにしか実施されていないというのは、もちろんですが・・・。)

「住民基本台帳人口要覧」は、その名の通り「住民基本台帳」を元にした統計ですので、その点の制約があります。つまり、日本国民でない限り、そして住民票移動の届けをしない限り、データには反映されないのです。たとえば、単身赴任中の方や学生などが実家に住民票を置いたままだと、その人は実家にカウントされているということになります。この点で、調査時点での居住地でカウントされる「国勢調査」とは異なるデータとなる可能性があるわけです。
この本で、実際に「国勢調査」と「住民基本台帳人口要覧」のデータを比べているのですが、20歳前後の人口においてかなりの差があることがわかります(たとえば20~24歳人口を、国勢調査人口に対する住民基本台帳人口の差率でみると、東京都は-7.24%に対し、和歌山県では+13.93%となっています~本書P127より)

このような基本的なデータの見方に対する知見はもちろん、よくある「○○率」という数字の計算方法も必要に応じて記されていますので、この点も便利です。

これまで、公的統計を利用されてきた人はもちろん、これまであまり公的統計を利用してこなかった方も、ぜひ本書に目を通してみてください。公的データだけでも、結構いろいろなデータがあるということがわかると思いますし、もしかしたら、マーケットを見る新たな視点が得られるかもしれません。

PS.
参考までに、公的統計を参照するのに便利なHPを紹介しておきます。

まず、総務省統計局のサイトは、外すことができません↓。
(「e-Stat」のリンク集で、各省庁の主要統計へのリンクを探せます。各省庁のHPで探すのは、結構たいへんなので、これは便利です。)

総務省統計局

政府統計の総合窓口「e-Stat」

民間企業では、ここが便利です↓。主要な統計の月次データが見られます。
(ただし、データダウンロードにはメンバー登録が必要です)

企画に使えるリサーチデータ(J-Marketing.net:JMR生活総研)

個人の方が、運営されているようなのですが、かなり参考になります↓。

社会実情データ図録

年会費や費用がそれなりにかかりますが、公的統計ばかりでなく、オープンデータも含めたデータの検索は、こちら↓。アバウトに「こんなデータは?」でも、探し当ててくれます。

MDBマーケティング・データ・バンク(日本能率協会総合研究所)

統計局の統計調査広報

200810252_3

10月18日は「統計の日」だそうです・・・、ご存知でした?

さて、朝日新聞(2008.10,25)に掲載された広告→。
広告主体は総務省統計局・都道府県。
「統計調査って、何を調べて、何に使われているの?」と題し、
労働力調査、家計調査、小売物価統計調査、個人企業経済調査の概要を紹介し、協力をお願いしています。

総務省統計局のHPでも、同じ内容のページがあります↓。
こちらでは結果ページへのリンクもあり、より具体的な
内容がわかる仕掛けに。

統計調査のご案内(総務省統計局)

さらに、政府広報としてテレビ番組も作成され放送されていたみたいです。
(「峯竜太のナッ得!ニッポン」という番組です。10月10日にBS朝日で放送されたようです。
こちらも、政府インターネットテレビにてHP上で見ることができます~25分番組です↓。)
具体的な調査の流れや回収された調査票の保管方法、統計調査の歴史なども紹介されていて、なかなか興味深いです。

峯竜太のナッ得!ニッポン(政府広報オンライン)

政府も、統計調査の回収にかなり苦労をしていることがうかがえます。。。
前回の国勢調査でも回収率についてはかなり話題(問題)になりましたし、統計調査の回収率がかなり低下していることも実態として明らかになっています。

そして、政府の統計調査でさえそうなのですから、一民間企業が実施するマーケティング・リサーチにおいてはなおさら・・・。
これらの政府広報を見て、マーケティング・リサーチが何をやっていて、どう使われ、どのように私たちの生活に役立っているのか?、についても広報が必要だなと思った次第です。

(ただ・・・。
「この政府の広報広告を見る人は、すでに調査に協力しているよね、きっと(苦笑)」ということを話してくれた人がいましたが、そうだろうなと思ったりもしています。広告の難しさです。。。)

SPSSインテージ田下社長講演から

10月21日、22日に開催された「SPSS DIRECTIONS JAPAN2008」にて、インテージの田下社長が『「情報価値鑑定士」への道』という題目で、特別講演をされていました。
連投になりますが、忘れないうちにアップしておきます。

ここで、お話の内容自体を紹介するわけにはいかないと思いますが、講演からいくつか興味を惹かれた点を紹介しておきたいと思います。
(田下社長の講演内容とは直接関係のない、個人的な興味が主ですので、この点はあらかじめお断りしておきます。)

(講演内容自体については、後日、SPSSのHP(→こちら)で紹介されるかもしれませんので、そちらを参照してください。)

■グローバルリサーチ企業と日本のリサーチ企業

講演の最初は、お決まりの自社紹介。ここで紹介されていた「TOP25グローバルリサーチ企業」に興味が。。。
これまで、あまり気にしていなかったのですが、「本国以外での売上比率」というデータも掲載されており、これがまたなんとも特徴的な数字で。。。
すぐにひらめく人もいると思いますが、TOP25に上がっている日本企業3社のこの比率が、見事に低い。低いというか、ほとんど0(ゼロ)。TOP8の会社は、多くが50%越えの数字を示す(シノベイトなどは90%越え・・・)ことをあわせて考えると、いかに日本のリサーチ会社が、ドメスティックかということがわかります。
他の産業でもよくいわれていることでもありますが、日本の市場が半端に大きいために、ドメスティックでもそれなりの売上を上げることができてしまうので、たとえば携帯電話などで「ガラパゴス化」といわれるように、国際競争力のない状態に陥ってしまう。リサーチ業界も、同様なのでしょうか?・・・。

(世界の中での日本のリサーチの位置づけは、JMRAのHPでの資料でもいろいろ確認できます。とくに、↓の資料はなかなか興味深い点がいろいろあります。)

世界における日本のMarketing Researchの概況2008(JMRA:業界・海外動向)

■「内閣改造支持率の怪」

以前、このblogでも「まちまちな改造内閣支持率・・・」として紹介した8月の福田改造内閣支持率の結果について、調査の本質は操作主義という事例として取り上げていました。
各社の質問文を紹介していたのですが、どうも質問文に「改造」という言葉を入れている会社での支持率が高めという傾向があるようです。
調査タイミングの問題とあわせて考えると、内閣の顔ぶれ等を知らない回答者でも、「改造したんだ」という印象で支持率が高まる可能性はありますね。
ほんとに、調査は怖いということをあらためて感じます。

■アブダクション

まさか、「アブダクション」が出てくるとは思いませんでした。
個人的にも「アブダクション」は、これからのリサーチのキーワードになるのではないかと思っていたのですが、説明するのが難しい(つまり、完全な理解に至っていないということでもありますが・・・)ので、blogに取り上げずにきてました。しかし、田下社長も言及していたので、ここで少しだけ紹介を。
アブダクション(abduction または retroductionとも)は、演繹(Reduction)、帰納(Induction)と並ぶ科学論理的思考法のひとつとして、パースが唱えたものです。日本語では、「仮説的推論」と呼ばれることが多いようです。
アブダクションを紹介する人に共通する趣旨は、「演繹や帰納では創造的な仮説を作り出すことができない。現在のような時代にほんとうに必要なのは、アブダクションのような仮説を創造できる論理的思考だ。」というものです。

これ以上の説明は無理なので、興味のある方はこちら↓の本をどうぞ。(ただし、基本的に思想書に分類される本なので、なかなか・・・)

アブダクション―仮説と発見の論理 アブダクション―仮説と発見の論理
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2007-09-20

また、こちら↓の本でも、第5章の補論「知識デザインの実践:コンセプト・デザインにおける応用」の中でアブダクションを取り上げています。
(この本は、こんな中途半端な紹介ではなく、単独で取り上げたい本です。私が大学院で学んでいる先生の一人でもありますし・・・)

知識デザイン企業―ART COMPANY

知識デザイン企業―ART COMPANY
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2008-02

(※ちなみに、「アブダクション」には「拉致」という意味がありますので、googleなどで検索する場合は、この点を注意して検索してください。)

■データフュージョン

これも、注目していたワードのひとつでした。
再三このblogでも書いてきましたが、今は、さまざまな事実データが入手できる時代です。しかし事実のデータだけでは、事実の背景にある要因などをさらに分析するには難しいことが多い。そこで、リサーチデータとビジネス上で入手できるデータ(POS、FSP等)を融合=フュージョンさせることができると、有用だというものです。

こちら↓でも、同様の主張をされていますので、参考にしてください。
(ただし、論文要旨の紹介のみです。本文では方法まで論じているようですので、興味のある方は冊子を購入してみてください。)

データフュージョンの新展開(JMR生活総合研究所:J-marketing.net)

<掲載誌はこちら→ 『消費経済レビューVol.9』

以上、SPSSでの田下社長講演からインスパイアされた事どもを、徒然に書き留めてみました。。。
ここで、お願いです。
アブダクションやデータフュージョンについては、まだまだ理解を深めたいので、有用な情報源(HPや本など)をご存知の方、ぜひコメントにて教えてくださいm(_ _)m

商品開発@SNS事例

以前、「クラウドソーシング」についてのエントリーをしましたが、SNSを使った商品開発の事例をいくつかクリップしておきます。
今回カルピスの記事を見たのをきっかけに、過去のものをあらためて検索した結果ですので、少々古い事例ですが。。。

「クラウドソーシング」に関するエントリーは、こちらで↓。

次代MR?~1.クラウドソーシング

SNS利用の商品開発の事例は、こちら↓。

カルピス、mixi公認コミュニティで「フルーツカルピス」の新製品を開発(ITPro)

ニフティのSNSでコクヨの商品開発 ビジネスパーソンの声反映(ITmedia)

携帯SNSコミュニティによる消費者巻き込みマーケティングでの商品開発をトリンプが本格開始(Web担当者Forum)

mixiでアイデア募集したカップめん【開発者に直撃取材】(nikkei TRENDY net)

最後(4つめ)のは、エースコックの開発担当者のインタビューです。

これらの事例が、成功だったのかどうかがわからないのが、ジャーナルの欠点で・・・。

あくまで、メモですので、あしからず。。。

『なぜビジネス書は間違うのか』

なぜビジネス書は間違うのか ハロー効果という妄想 なぜビジネス書は間違うのか ハロー効果という妄想
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2008-05-15

この本、タイトル通りの内容~なぜビジネス書は間違うのか~について、紹介するわけではありません。。。
ビジネス書で取り上げられている事例が、数年後にはエクセレントではなくなっていることなど、みなさん、ご承知でしょうから、正直なところ、何をいまさら感は無きにしも非ず、です。
ただ、ビジネス書を読んで、その通りにするとうまくいくと思っている人がいるとしたら、この本は有益でしょう(よくいますよね、「正解」だけを求めたがる人・・・。語られている要因の背景にある文脈などを無視して、表層だけをまねしようとする人・・・)。

しかし・・・
この本を、「なぜ、研究、調査、リサーチが間違うのか」という視点で読むと、これは使えるのではないかと思ったのです。とくに、最初の2ページ~4ページに書いてあることがポイントです。(実際、このページを見たから、この本を買ったのですが。)

核心はもう少しあとで。
まずは、いつものようにもくじから。

第1章 わかるのはほんの少し
第2章 シスコ・ストーリー
第3章 ABBの栄光と転落
第4章 ハロー効果のまばゆい光
第5章 企業調査は答えを教えてくれるのか
第6章 星を探し、ハローを見つける
第7章 積み重ねられる妄想
第8章 ストーリー、科学、多重人格的超大作
第9章 ふたたびビジネスの最大の疑問
第10章 エセ科学に惑わされないマネジメント

この本、タイトルがよくないのかも。。。
主題は、「はじめに」に書いてあるように、

企業パフォーマンスの要因を理解するのはなぜ難しいのか

だと理解するのがいいと思います。
そもそも、経営やマーケティングが「科学」なのか?科学は、要因をコントロールした実験室での実験が基本的に可能ですが、経営やマーケティングで、要因を完全にコントロールした実験など、そもそも難しいのですから。
(全否定をするつもりはないですので、その点は了解ください。)

それと、著者のいう「レポート」と「ストーリー」という対比も興味深いです。

レポートとは、何よりも事実を伝えることであり、作意や解釈が紛れ込んではならない。(・・・中略・・・)他方、ストーリーは人々が自分の生活や経験の意味を理解するための手段だ。よいストーリーの条件は、事実に忠実であることではない。それよりも、ものごとが納得いくように説明されていることが重要なのである。

(中略)

ストーリーがいけないのではない。ストーリーだとわかって読むならかまわない。ところが油断ならないことに、科学の仮面を被ったストーリーが知らぬ間にはびこっている。いかにも科学です、という顔をしているが、そこには真の科学の厳密さも論理もない。

ここでは、ビジネス書の多くが「レポート」ではなく「ストーリー」だということを言っているのですが、私たちがふだん書いている調査報告書はどうでしょう・・・。
(調査報告書も、「ストーリー」が悪だ、などと決め付けるつもりはないです。「ストーリー」が必要な場面は、いっぱいあるのも承知しています。ただ、「ストーリー」の前提となった「レポート」も、きちんとあるべきだとは思っています。)

さて、今日の本題であるこの本のポイント。
ほんとは、ルール違反の引用になるかもしれませんが、あえて紹介しておきます。
ビジネス書が間違う背景にある「妄想」として、つぎの9つをあげています。

妄想1 ハロー効果
妄想2 相関関係と因果関係の混同
妄想3 理由は1つ
妄想4 成功例だけをとり上げる
妄想5 徹底的な調査
妄想6 永続する成功
妄想7 絶対的な業績
妄想8 解釈のまちがい
妄想9 組織の物理法則

これらをみて、「なるほど」とか「あたりまえだな」と思う方は、本書は読む必要はないです。
一方、「よくわからないな」と思った方。本書を読んで、「なぜ、研究、調査、リサーチが間違うのか」を一度考えてみた方がいいかもしれません。

『思考・論理・分析』

思考・論理・分析―「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践 思考・論理・分析―「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2004-07

連投で。(紹介したい本がいくつかあるので、しばらくは本シリーズになりそうです。。。)

前の「分析力が~」などの本を読むと、大量データ時代、分析力が必要だということはわかります。しかし、ここで陥りがちなのが、「分析ばかり症候群」あるいは「アナリスト気取り」だと思うのです。

データを集めて、エクセルでピボット集計や回帰分析(エクセルでもできてしまうんです)をしてみる。あるいは、SPSSとかクレメンタイン、SAS、テキストマイニングなど、ちょっと高度なソフトをまわしてみる。すると何らかの結果は出るので、自分では“分析”をしたようなつもりに陥る人が増えるのではないか、という危惧があるのです。
さらに、その分析は必要な分析なのか?、役に立つ分析なのか?、なんらかの知見が得られているのか?、ためにする分析になっていないか?、そもそも間違った方法・視点で分析していないか・・・?

そこで、「分析とは、なんぞや」ということに、いまいちど立ち返ってみる必要はないかと。そして、その方法論(ノウハウではありません)も、いまいちど理解する必要があるのではないかと。。。
そんな問題意識で出会ったのが、今回の本です。

では、いつものように、もくじを。

第1章 思考
 Ⅰ.1 思考とは
 Ⅰ.2 「分ける」ための三要素
 Ⅰ.3 思考成果
 Ⅰ.4 因果関係
 Ⅰ.5 思考の属人性
第2章 論理
 Ⅱ.1 論理とは
 Ⅱ.2 論理展開
 Ⅱ.3 論理展開の方法論
 Ⅱ.4 正しさの根拠
第3章 分析
 Ⅲ.1 分析とは
 Ⅲ.2 分析作業
 Ⅲ.3 合理的分析の方法
 Ⅲ.4 論理と心理

各章とも、「○○とは」で始まってます。なので、人によっては理屈っぽいと感じるかもしれません。大学の教科書的な雰囲気です。(Amzonでも、「わざと難しく書いているのでは」という批評もありました)

けど、それでいいと思うのです。本書を読む目的は、「そもそも、分析とは何ぞや」を確認・理解するためなので。著者も「はじめに」で、つぎのように書いてます。

(筆者注:論理思考に関する関心の高まりもあり、書店には多くの本が並んでいる。という文脈に続いての記述です。)
ただし、残念な点もある。それは現在数多く存在する論理的思考の解説書のほとんどが、論理的思考のテクニックとフォーマットを紹介したハウツウ本にとどまっている点である。論理的思考プロセスをフォーマット化して、各人が指導要領に従ってフォーマットを埋めていけば論理的思考的な手順を踏めるというようなマニュアル本になっているのである。
これでは本当の論理的思考力を習得するのは難しい。なぜなら、マニュアルに基いてフォーマットを埋める行為とオリジナルの思考とは、本質的に正反対の性質のものだからである。

同意です。
「ほんとうの論理思考」を習得するなら、このような本を一冊は読んでおくべきだと思います

◆プラスして

「思考」ということに関しては、つぎの2冊もお勧めです。
(↑の本にもまして、大学の教科書的ですが。。。)

知的複眼思考法―誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫) 知的複眼思考法―誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫)
価格:¥ 924(税込)
発売日:2002-05

常識やステレオタイプに囚われないものの見方をするにはどうすればいいか。
これがテーマです。そして、いま必要なのは、「問をどうたてるか」。
けっこう読みやすい文体だと思います。

創造の方法学 (講談社現代新書 553) 創造の方法学 (講談社現代新書 553)
価格:¥ 735(税込)
発売日:1979-09

1979年出版、なのにいまだに増刷を重ねています。それだけ良い本だということです。
ただ、少々骨がおれるかもしれません。

◆とはいえ、「もっと使える本は?」という方へ・・・

「確かに学生ならいいかもしれないけど、こっちは毎日仕事してんだよ。もっと、手っ取り早いのはないの?」という方へ。。。   (ひよった・・・)

ビジネス数字力を鍛える (グロービスの実感するMBA) ビジネス数字力を鍛える (グロービスの実感するMBA)
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2008-07-04

いま流行の「プチ物語+解説」という体裁です。
こちらは、一応もくじをあげておきますか。。。

第1章 目的を明らかにし、仮説を持つ
第2章 数字を加工する
第3章 解釈し、意味合いをつむぎだす
第4章 分析結果を伝える
第5章 マネジャーとして数字を読む

リサーチ会社で企画・分析をするなら、ここで書かれていることは最低限理解してないと、という内容です(それだけ、初歩的内容だということでもありますが)。
当然リサーチ以外でも、ビジネスマンなら必要なスキルです。

(でもやっぱり、最初の3冊も読んで欲しい・・・)

『分析力を武器とする企業』

分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学 分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2008-07-24

最近は、リサーチ関連の本とともに、「分析力」をキーワードとした本も多く出版されてます。
今回紹介するのはその中の一冊で、概論的にまとまっていると思った本です。

キーワードは、「ビジネス・インテリジェンス」。
たとえば、↓のHPでもわかりやすく整理されています。(というか、このHPで紹介されているものと同じチャートが、本書の中でも引用されています)

進化するビジネス・インテリジェンス(COMPUTERWORLD.JP)

いま、データソースはリサーチからだけではありません。とくにIT革命以降、企業はさまざまなデータを入手できるようになりました。本書でも書かれていましたが、「データのコモディティ化」といえるような状況がおきつつあります。さらに、パソコンの処理量も速度も飛躍的に増し、さまざまな分析ツールを実用的に使えるようになりました。
(いつか、どこかで、同じようなことを書いたような気がしますが・・・)

このような時代背景から、「分析力」が企業の競争優位を産み出す、というのが本書の主張です。(原題はダイレクトに、"Competing on Analytics")

では、もくじ。

第1部 分析力を武器とする企業の特徴
 第1章 データ分析で競争に勝つ
 第2章 こんな企業が分析力を武器にしている
 第3章 データ分析を業績に結び付ける
 第4章 社内へデータ分析を活用する
 第5章 社外へ向けてデータ分析を活用する

第2部 分析力を組織力にする
 第6章 分析力活用のためのロードマップと組織戦略
 第7章 分析力を支える人材
 第8章 分析力を支える技術
 第9章 分析競争の未来

もくじをご覧いただくとわかるように、第1部では分析力とは何かについて事例や調査結果を踏まえて論じ、第2部では分析力を活かすための組織づくりについて論じています。ただし、分析の具体的なノウハウを紹介しているわけではないので、その点は注意してください。
(分析の具体的なノウハウを求める方は、統計・解析の専門書が必要になります。。。)

Amzonの書評でも指摘している人がいますが、結局、分析力を活かせるかどうかは組織に関わってくるような気がしています。たとえば、CIOの役割。本書では、つぎのように述べています。

言うまでもなくCIOはITの総責任者であり、分析力の技術面に関しては陣頭指揮を執るポストである。だが、CIOの仕事はそれだけではない。確かに社内に分析システムを構築するには専門家が必要だが、何もCIOが努める必要はない。専門家を呼んでCIOが監督をしても十分間に合う。
それよりもCIOが心すべきは、肩書きの「I」の部分、つまり情報である。情報は正確か、信頼できるか、実態を正確に反映しているか。そこに注意を注ぐべきだ。

このような時代の中での、調査会社、リサーチ会社のポジションは?
たとえば、つぎのように言及しています。

(筆者注:分析ビジネスに携わる企業には、データ販売を行う企業もある~たとえば、ダンハンビーなど~、という流れの中での言及。)
ただしたいていの場合、情報を売ってもらうだけではお客さんは満足しない。その情報をどう解釈しどう活用するのかも教えてもらいたがっている。そこで、情報と一緒にコンサルティングも提供することが必要になる。

「ビジネス・インテリジェンス」とは何か、「分析力」を競争優位に活かすとはどういうことか、「分析力」を競争優位に活かすための組織づくりはどうすればいいのか。
これらについて理解したい人は、本書をどうぞ。

◆さらに、関連書もいくつか。

その数学が戦略を決める その数学が戦略を決める
価格:¥ 1,800(税込)
発売日:2007-11-29

テーマはほとんど一緒だと思います。訳者解説では、「本書の中心テーマの一つは、大量データ解析が各種の意思決定にますます活用されているということだ」と書いてますので。
何が違うかというと、こちらの方が少し統計・解析の内容的なものにも触れている、という点でしょうか。

マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫) マネー・ボール (ランダムハウス講談社文庫)
価格:¥ 798(税込)
発売日:2006-03-02

「分析力~」でも、「その数字~」でも取り上げられている共通の事例がこれ、ベースボールでのセイバーメトリクスです。この本、出版当時かなり話題になったので、すでに読まれている人も多いと思いますが、もう一度「分析力」という視点で読み直すのもいいかもしれません。

戦略的データマイニング アスクルの事例で学ぶ 戦略的データマイニング アスクルの事例で学ぶ
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2008-04-17

Tesco顧客ロイヤルティ戦略 Tesco顧客ロイヤルティ戦略
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2007-09

いずれも、“もっと個別事例を深く知りたい方”向け。
アスクルは、データマイニングの教科書としてもいけそう。
Tescoは、「分析力~」でも取り上げられている事例です(実は未読です。お世話になっているOUTLOGICさんのblogで知りました↓。こちらもあわせて、ご覧いただければ。余談ですが、最近のOUTLOGICの読書傾向、かなりかぶってます。。。)

データマイニングを活用したマーケティング動向(OUTLOGIC)

そういえば、「ガイアの夜明け」や「日経MJ」で取り上げられていた事例で、オギノというSMの事例もありました(詳しくは、↓こちらのblogを参照してください)

ガイアの夜明け「地元密着スーパーの逆襲」を見ました(名経大経営学部のブログ)

『課題解決型マーケティング・リサーチ』

課題解決型マーケティング・リサーチ 基礎編
価格:¥ 2,205(税込)
発売日:2008-10
課題解決型マーケティング・リサーチ 事例編 課題解決型マーケティング・リサーチ 事例編
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:2008-10

ほんとに、マーケティング・リサーチの本がよく出ます。
一応、特徴的なものを選んで紹介しているつもりですが、これだけ紹介してしまうと、結局どれがいいのか迷ってしまいますよね・・・。
目的次第でどの本になるかも決まりそうですが、それぞれに長短があるので、本屋さんで実物を確認してからの方がいいかもしれません。
(とはいえ、↑のリンクを通じてアマゾンで購入していただくのが、一番うれしいです^^;)

今回ご紹介する本は、「基礎編」と「事例編」の2分冊になっています。両方買うと、5千円近いので、ちょっと高いかなという気もしないではないですが。

まずは、もくじを見てみましょう。「基礎編」から。

第1章 マーケティング・リサーチの役割
第2章 マーケティング・リサーチの手順と基本設計
第3章 定量的手法の概説
第4章 インターネット・リサーチの特徴と活用
第5章 実験調査法と評価技法の概説
第6章 データ分析の方法
第7章 今後のマーケティング・リサーチ

本文総ページ数185ページの中に、これだけ網羅していますので、もくじにもあるとおり「概説」です。マーケティング・リサーチ(それも定量調査について)を行う際に知っておくべき知識を網羅している感じで、事典的に利用するのに適しているといえるかもしれません。これだけだったら、きっとこのblogで取り上げることもなかったと思います。

では、なぜ、ここで取り上げたのか?
それは、「第5章 実験調査法と評価技法の概説」の章があるからです。これまでの類書で、この点をきっちりおさえている本は、あまりないのではないでしょうか?
たとえば、つぎのような言葉について、解説されています。いずれも、コンセプト調査やプロダクトテスト、パッケージテストなどの商品開発系の調査を行うには、知っておかなければいけない知識です。(が、このあたりを書いている本は専門書になってしまうし、web上でもあまり見かけません・・・)
以下にあげる言葉を、きっちりと説明できますか?

順序効果、記号効果、位置効果、初期効果と練習効果、疲労効果、対比効果、期待効果、実験者効果、偽薬効果

テスト品の提示順

モナディックテスト、シーケンシャルモナディックテスト、一対比較テスト

オープンテストとブラインドテスト

絶対評価と相対評価

よくわからない方は、一度、この本で確かめてください。商品開発系の調査は、これらをどう判断するか、さらにCLTで実施するのか、HUTで実施するのか等の手法の選択など、多くのポイントを検討しておく必要があるのです。

つぎに、「事例編」のもくじを。

第1章 マーケティング課題へのリサーチ手法の応用
第2章 消費者ニーズ把握のための調査
      ~携帯電話の消費者ニーズ調査
第3章 アイデア探索・コンセプト構築のための調査
      ~緑茶飲料のニーズ探索調査
第4章 製品コンセプト開発のための調査
      ~カップスープのコンセプト評価調査
第5章 新製品のプロダクトテスト
      ~キャラメルのプロダクト評価調査
第6章 ネーミングテスト
      ~ビールのネーミング調査
第7章 価格戦略立案のための調査
      ~電動歯ブラシの価格調査
第8章 ブランド・マネジメント戦略立案のための調査
      ~輸入車のブランド・イメージ調査
第9章 広告効果測定調査
      ~特定保健用食品のテレビCM効果測定調査
第10章 顧客との関係性強化のための調査
      ~コンビニエンスストアの顧客満足度調査

以上の事例について、「調査の背景と目的」「アプローチ方法」「調査設計と調査項目」「調査の結果」「考察・示唆・知見」といった項目で整理しています。

これまでマーケティング・リサーチをあまり実施したことがない方や、特定の領域でのリサーチしか経験したことがない方が、様々なテーマでのリサーチについて、具体的なイメージをつかむ参考になると思います。(あるいは、自分がふだん行っている内容と同じなのか違うのか、どこが違うのか、を確認するというのもありかもしれません。)

ただし、ここで取り上げられている内容ややり方が、いつも正解というわけではないので、その点はお間違えなきよう。