投稿者「ats_suzuki」のアーカイブ

数字は怖い・・・(集計ベースの話)

blog 「とみざわのマーケティング思索ノート」から。
(「マーケティング千日回峰之記」というblogを書かれていた方の新blogです。千日回峰は無事、万行となられたようです。千日の間、一日も欠かさずにエントリーを続けられたことに、敬意を表します。すごいです。)

『リサーチャーとファシスト』という記事がアップされています。題名からは、よくわからないと思いますが、リサーチデータを読む際に注意しないといけないポイントが示されていると思いますので、ご紹介します。

まずは、発端となった記事から(上記blogからの孫引です)。

パスモを持っている人は全体の19.7%。うち64.3%がスイカも持っていた。両方持つ人の48.3%が交通機関によって2種類のカードを使い分けていた。
(日経朝刊07.7.15より)

さて、この記事の第一印象はどのようなものですか?
何も考えずに、すっと記事を読んでしまうと、「こんなに多くの人が、カードを2つも持って使い分けているの?」と感じませんか?
よーく読むと、これは完全に誤読だということがわかります。正しい数字の読み方をすると、どういう結論になるのか?少しご自身で考えてから、「とみざわのマーケティング思索ノート」をご覧ください。グラフも提示して、とてもわかりやすく説明されています。

以前、「シニアって誰ですか?」で、調査対象をどうするのかを、きちんと考えないといけないという趣旨のエントリーをアップしています(その後、調査結果とはまったく異なる事実を示す記事が出されています。コメント欄にリンクを掲示していますので、興味のある方はご覧ください)。
しかし、調査がしっかり行われたとしても、こんどは結果のデータをきちんと読むことができないと、これまた、意味がない。とくに、この事例のように、どんどんベース(集計を行うときの分母)を絞っていくような項目では注意が必要です。

なぜ、このことをあえて取り上げるかというと、WEB調査が全盛だからこそです。
WEB調査の調査システムは、回答対象者を設問ごとに、システム的に限定していくことができます。このシステムは、複雑な設問を行う上では、とても有用なシステムです。回答者は、とりたてて意識をすることなく、自分が答えるべき設問にのみ回答を行うことができますので。
ただ、これが集計結果を見る上での落とし穴になる場合があります。基本的に、このシステムでは、「回答者ベース」のみでの集計がアウトプットされることが多いようです。となると、事例の記事のように、「Aと答えた人は●%。そのうち、Bと答えた人は▲%。また、その中でCと答えた人は■%」というようなデータの読み方をするようになってしまいます。元々の全対象者ベースで、何%だったのかという数字を意識できなくなってしまいます。
結果、「印象としての数字」のみが一人歩きを始める・・・。

例をひとつあげましょう。
よく、商品のパフォーマンスを捉えるために、認知率・購入経験率・現在購入率という項目を設定しますよね。
このとき、集計結果はおそらく、

  • 認知率=全サンプルベース
  • 購入経験率=認知者ベース
  • 現在購入率=購入経験者ベース

で計算されている場合が多いのではないでしょうか?
もちろん、この数字を見ていくことも、重要な意味があります(ここでは、詳しくは説明しませんが)。
ただ、この「現在購入率」をそのまま、「現在、この商品を購入している人は、●%です」とやってしまうと、大きな間違いになります。基本的には、全サンプルベースで数字を計算しなおさないと、マーケットでのシェアにはなりません。

もしかしたら、このblogをご覧いただいている皆さんにとっては、「あたりまえ」のことかもしれませんが、他の人が提示するリサーチデータを読む時など、気を抜くと、こんな数字を読まされていることがあるかもしれません。

データを読む際には、「調査の設計は?=誰を対象にしたリサーチ?」と同時に、でてきたデータについても「集計のベースは?=誰の回答?」ということを、常に意識して結果を読むようにしたいものです。

ヤフーバリューインサイトHP

前の投稿を確認していたら、ヤフーバリューインサイト社のHPを発見。
「IP+IS=ヤフーバリューインサイト」という投稿をした手前もありますので、一応、紹介をしておきます。(なにせ、この記事へのアクセスが多いですし・・・。)

ヤフーバリューインサイト株式会社HP

(リサーチメニューをみると、「グループインタビュー」や「会場調査」が確かに入っていますね・・・。すでに、これらの調査のノウハウを持っているスタッフがいるんでしょうか?
これはこれで、インターネット調査とはまた別の実査ノウハウが必要なんですけど・・・。)

それはいいとして・・・、
「調査・分析手法」のページは、なかなか充実しています。とおり一遍ではなく、わりとわかりやすい内容で、紹介がされていると感じました(旧インタースコープ社のページでもあったものですが)。一度、ご覧になるのも勉強になると思います。
(って、ヤフーバリューインサイトの営業をしてもしょうがないですけど・・・)

とりいぞぎ、ご報告まででした。






「シニア」って誰ですか?

少し前の記事になりますが、

低調なシニア向けケータイ、40歳以上で5%未満(japan.internet.com)

という記事が出ています。また、同じところからのリリースで、

「シニア向けサイト」を利用しない理由は「自分はまだシニアではない」

という記事もあります。
確かに、これらの記事を見たような記憶があったのですが、スルーしていました。
ところがいくつかのblogで、これらの記事を題材にしているものがあり、もう一度記事を見直したのですが。。。(文末に、同じテーマを上げている方のblogを紹介しています。)

ポイントは、「調査対象者の設定」です。
調査対象者は、つぎのようになっています(いずれも、ほぼ同様です)。

調査対象は、全国の40歳以上の男女330人。性別では、男性44.2%、女性55.8%。年齢別では、40代53.3%、50代27.9%、60代14.5%、70歳以上4.2%。

40代が過半数、50代が3割近く、このふたつの年代で8割です。
はたして、「シニア向け携帯」や「シニア向けサイト」のターゲットはこの年代なのか???
どう思いますか?

なのに、この調査対象者でシニア向け携帯の利用率が5%未満だからといって「低調」と結論付けることになんの意味がるあるのでしょうか?
また、調査方法がインターネット調査なのですが、インターネット調査にモニター登録するような方は、そもそもがPCや携帯のリテラシーは低くはないでしょう。その人たちに、シニア向け携帯の調査を行うことに意味があるのでしょうか?この記事のリンクにある記事(ドコモ、FOMA 対応のらくらくホンを発売)のように、シニア向け携帯電話は、現在の高機能な携帯電話では使いこなせない方や、画面の文字が小さくて読みにくいという方にむけて、使用方法をシンプルにすることをコンセプトとしているはずなのに・・・。
(かくいう私もすでに40代ですが、シニア向け携帯のお世話になる気など毛頭ありません。画面の字が小さいと感じることもありませんし、機能が使いこなせないということも全くありませんので -_- )

一方の「シニア向けサイト」については、「シニア向けサイトを利用しない理由は、自分はまだシニアではない」って・・・。
これって、何か意味がある結果でしょうか???

「調査対象を、どう設定するか」は、調査を行う上でのイロハの部分であり、この部分をしっかり行わないと、どんなに優れた質問設計や分析を行っても、結果にほとんど意味はありません。車の両輪のひとつといっても過言ではない重要なポイントです。
ところが、現状では、この部分がかなり疎かになっていると感じています。
調査のテーマは何なのか、そのためにはどのような人たちを対象とした調査を行うべきなのか、このあたりの議論が十分になされないままにリサーチが行われているように思います。(それだけならまだしも、こうやって、その結果がいかにも一般的な傾向であるように公表される・・・)

だいぶご無沙汰している「寺子屋」本編ですが、近日中に、この「調査対象者の設定」に関わる問題から再開をしようと思います。

PS.
この記事についてコメントしているblogは、↓のようなものがあります。
いずれも、もっともなご意見だと思いますので、参考にしてください。

これで調査レポートと言えるの(「市民はたさんの普通の感覚?」さん)

シニア向け携帯電話 No1(「消費者心理学とマーケティング」さん)

このリサーチおかしくないか?(「NOTHING BAT・・・」さん)

『売れないのは誰のせい?』

売れないのは誰のせい?―最新マーケティング入門 (新潮新書 220) 売れないのは誰のせい?―最新マーケティング入門 (新潮新書 220)
価格:¥ 714(税込)
発売日:2007-06

「最新マーケティング入門」というサブタイトルで手に取りましたが、著者もblogで言っているように、“マーケティングをネタにしたエッセイ的な読み物”というのがあたっているような気がします。

まずは、もくじ。

序章  二つの「買ってください」
第1章 市場にingをつける発想
第2章 ブランドは魔法の杖か
第3章 急増した「日本人の種類」
第4章 ああ言えばこう買う?
第5章 テレビは本当に強いのか
終章  他者を知るということ

この本を読むと、マーケティングの基礎的なことが理解できるという内容では決してありません。読むうちに、「確かにそういうことも考えないといけないね」、ということを感じさせてくれる内容だと思います。
ただ、著者が広告代理店出身ゆえか、基本的には広告やコミュニケーションを軸にした展開が主流になっていますので、商品開発とか、価格・流通についての内容を期待している人には、向かないかもしれませんが・・・。

で、著者がおそらくメッセージとして伝えたかったことは、つぎの一文だと思いました。
(もしかしたら、こちらがそう思っているので、琴線に触れただけなのかもしれませんが)

一言で言えば、他者を知ろうとすること。それがマーケティングの原点だと思う。

そして、「他者のことを知る」ためにはどうしたらいいか。つぎのように続けます。

何も特別に難しいことをするわけではない。だが、まず手をつけるのはリサーチにも少々お金や人を割くことであろう。消費者の声を聞くには手間がかかるしお金もいる。だが、それはマーケティングに関わるお金を再配分すれば捻出できるだろう。先の章にも書いたようなテレビCMのより効果的な利用によって十分可能だと思う。
何せ、テレビCMのためのコストはかなり高い。リサーチの世界とはゼロがふたつ、いや三つ違うようなお金が動いている。もちろんテレビCMも効く場合があるのだが、そのあり方を冷静に見直した企業からつぎのステージへ進んでいくだろう。

ありがとうございます。ほんとに、広告費(約6兆円)の1割でもリサーチに回していただければ・・・。

最近、マーケティング・リサーチ関連の本が結構出版され、マーケティング系の本も顧客を知ること、感じること、一緒につくることをテーマとしたものが多いように感じています。きっと、ほんとうに顧客を理解することは難しいと感じている人が増えたからではないかと、思っています。
さて、世のリサーチ会社はこのような状況を感じているのか、そして、それに応える努力を行っているのか。

「やっぱり広告に費用を回した方が売上に繋がるよ」となるか、「リサーチって大切だね、もう少し費用をかけないと」となるか・・・。

PS.
「顧客理解」の視点からの本で、わりとおもしろいと思ったものをいくつか。

できない人ほど、データに頼る できない人ほど、データに頼る
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2007-04-20

(↑この本は、こちらのエントリーでも紹介しています)

超地域密着マーケティングのススメ 超地域密着マーケティングのススメ
価格:¥ 1,523(税込)
発売日:2007-03-31

顧客力を高める 顧客力を高める
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-05-25

IP+IS=ヤフーバリューインサイト

Dashさんから情報をいただきました。

インフォプラントとインタースコープが合併という記事は以前紹介しています(こちら)が、正式に社名や体制が発表になっています。

社名は、「ヤフーバリューインサイト」。

知らなかったのですが、ヤフーの子会社で「ヤフー」という名前を冠するのは、初めてのことらしいです。ヤフーの井上社長も取締役に名前を連ねていますし、それだけ力が入っているということなのでしょうか。(このことは、インタースコープの創業者の一人である平石氏のblogから知りました。創業者としての親心なようなものが伝わります。。。)

具体的なリリースは、↓こちらを参照してください。
(ヤフーのものをリンクしています。インフォプラントもインタースコープも、同時にリリースを発表しているようですが、まったく同じ内容です。)

株式会社インフォプラントと株式会社インタースコープの合併に関するお知らせ

この文章の中で、いくつか気になった点を、コメントしておきます。
(社名に「インサイト」を入れたのか・・・、と思ったのが最初ですが、このことは置いておいて^^;)

新会社の企業ミッションは「市場の今から、明日の価値を生み出すマーケティングパートナー」

「マーケティングパートナー」と謳っています、リサーチと出していないところがいいです。これからは、リサーチ・データを提供していくだけではなく、「マーケティングパートナー」となることが、リサーチ会社には求められていると思いますので。真にマーケティングパートナーとなることができると、強い会社になると思いますし、リサーチ会社もマーケティングパートナーとなれるんだという成功事例を作っていただき、業界の地位を高いものにしていっていただきたいと思います(いま、企業のマーケティングパートナーといえば、広告代理店が主ですから。。。)

Yahoo!リサーチモニターを含めた約150万人(重複モニターを除く)のアンケートモニター

これもある意味、興味深い。記事下方にある各社のモニターを純粋に足し合わせると、ヤフー135万人+インフォプラント37万人+インタースコープ28万人で、200万人。単純に考えると、重複モニターが50万人くらいいるということですか?この3社以外でも、ネットモニターの登録者は、結構重複しているんだろうな・・・、と思います。
(あまりいないとは思いますが)このことからすると、同じテーマの調査を複数の会社に発注して回収数を確保することは、もしかしたら同じ回答者から複数の回答を得ることになる可能性も高いということを頭においておいた方がよさそうですね。

つぎのセンテンスも興味深いです。

さまざまな調査ニーズに対応できるサービスラインナップに加え、会場調査・グループインタビューなどのコンベンショナルリサーチも拡充してまいります。

これまでも、会場調査やグループインタビューのリクルーティング業務は行ってきたと思いますが、今後は実査部分まで含めて行っていくということでしょうか?となると、いまの両社(3社?)のスタッフではノウハウ不足のように思うのですが、どこかCLTやGIの専門会社を買収あるいは提携していくことになるのでしょうか?このあたりは、まだ目が離せないところです。

さらに興味深いのはつぎのパラグラフ。今後の、ヤフーのリサーチ事業についての言及です。

今後は、Yahoo!のリサーチのモニターを活用したリサーチサービスの新商品開発や企画推進、Yahoo! JAPANユーザーの膨大なアクセスログや購買データの活用など、インターネット・マーケティング・リサーチを軸により付加価値の高いサービスを拡充することにより、インターネットリサーチ市場でのナンバーワンを質・量ともに目指してまいります。

「アクセスログや購買データの活用など」とあります。行動ターゲティングや文脈型ターゲティングの広告はよく聞きますが、これをリサーチに使う?、ということ?この文章ではよくわかりませんが・・・。もしも、このような文脈だとして、これが実現するとなると、他の調査会社では決してまねのできない仕組みが構築されますね。

それと、気になったのは、これまでヤフーと共同していたインテージはどうするのかということ。これも、Dashさんのコメントにあったのですが、時を同じくして、インテージからもリリースが発表されています。

ヤフー子会社へのモニター利用拡大に関するお知らせ

これまでどおりです、ということのようです。

いずれにしても、これでネット調査に関しては、マクロミルvsヤフーという構図になりそうです。

(〆の文章がいつも同じになってしまうので、今回は割愛します・・・)

アイトラッキング

この記事↓に関連して、結構あちらこちらのblogで引用されているようなので、備忘録もかねてご紹介。(しかし、昨年9月~10月調査なのに、なんでいまごろリリースなんだろう・・・)

検索ユーザーの目線はどう動く~Yahoo!とGoogleで違い(ITmediaNews)

この記事で行われているのは、「アイトラッキング」という調査手法です。
手法自体は、結構前から行われていたものですが、以前はカメラのようなものを装着していたのが、カメラなしでできるようになっているようです。

今では、WEBサイトのユーザビリティ調査に使われることが多いようですが、広告評価など、他にも応用できる範囲は結構あると思います。
ただ、アイトラッキングで判るのは、「どこを見ているのか」という事実のみであって、「なぜ、そこを見たのか」「それが、よい印象を与えているのか、よくない印象を与えているのか」といった理由(Causal dataといったりします)については、やはりインタビューなどを絡めないとわからないということです。
いまでは、アイトラッキングを行う会社も増えているようですが(ただ、いわゆる「調査会社」は、少ないようです・・・)、このあたりの見極めも行ったうえで、発注することが必要だと思います。(「アイトラッキング」で検索すると、いろいろな会社がヒットします。)

関連して、いくつかのサイトを紹介しておきます。
もう少し具体的に、アイトラッキングを使った分析例を紹介しているものとしては、↓のサイトがわかりやすいかもしれません。今後、シリーズ化されていくようなので、期待しているのですが。

実践! Webユーザビリティ研究室(INTERNET watch)

さらに、かなり骨っぽいところでは、↓のサイトを。
理論的な背景から含め、説明を行っています。長文です・・・。
(ただし会員制のサイトですので、オープンコンテンツでないと、見られないかもしれません。)

見えないニーズを捉える方法(J-marketing.net)

最後に少々蛇足を。
「実践!Webユーザビリティ研究室」を見ていただくとわかると思うのですが、人という動物は、かなり「先入観」というものに囚われています。このところ、「脳」関係の本を読み重ねているのですが、読めば読むほど、リサーチってなんだろう?、ほんとにリサーチで人の考えていることがわかるのだろうかと思わされます。(だから、Z-MET調査とか、エスノグラフィなどが注目されてくるのだとも、思います。)
先入観のような「脳」の働きを理解するとしないとでは、リサーチの設計や結果の読み方にかなり違いが出てくるだろうなと・・・。
ほんとに、リサーチって難しい・・・。
(「脳」については、近いうちにエントリーしていこうと思っています。)

『マーケティング調査入門』

マーケティング調査入門―情報の収集と分析 マーケティング調査入門―情報の収集と分析
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2007-04

しばらく更新をしていませんでしたが・・・。
再開第一弾は、本の紹介から(リハビリも兼ねて)。。。

最近、マーケティング・リサーチに関する新刊が多いようですが、基礎をきっちりと学びたいという方には、この本はお勧めです(少々高いですが)。
著者は学者の方なので、教科書的で少々硬い記述になっていますが、理論的なベースはしっかりしています。

まずは、もくじから。

1章 マーケティングの基礎
2章 マーケティング調査の概要
3章 定量調査の方法
4章 定性調査の方法
5章 マーケティング調査の課題
6章 マーケティング調査の進め方
7章 調査票の設計
8章 調査対象者の選定
9章 調査の実査と集計・分析
10章 統計的分析の基礎
11章 多変量解析の基礎
12章 テキストマイニングの基礎
13章 市場細分化とその方法
14章 ハイテク調査の現状と動向

このもくじでもわかるように、まず「マーケティング」についての基礎的な部分を押さえてから、マーケティング・リサーチの詳細に入っていっている、また最近のリサーチの焦点になっている「テキストマイニング」や「ハイテク調査」についても章を割いているのが本書の特徴です。

このblogでも、「リサーチャーは、マーケティング・リサーチについての理論を知ることはもちろん、マーケティングについての理解も欠かせない」ということを書いてきたつもりですが、この本の著者も「はじめに」で、つぎのように書いています。

高度の専門知識と豊富な経験で武装するリサーチャーは、マーケティング担当者(マーケター)の意思決定に不可欠な情報を提供できると期待されてきたし、成功の事例も少なくない。しかし、高度の専門性が、逆に問題の本質を隠し、決定的な失敗をもたらした事例もある。(・・・中略・・・)すなわち、専門家による調査は、成功を保証する十分条件ではない。困難な問題に直面している担当者こそが、問題解決に必要な情報を知っているのであり、自らが情報の探索・分析・解釈に主導的な役割を果たすべきである。

ここまでですと、「リサーチャーに任せるのではなく、マーケターがリサーチの知識を持って、自ら探索・分析・解釈を行え」と言っているように思えますが、続けて、つぎのように言っています。

すなわち、マーケターは、100年の歴史を通じて開発された数多くの調査・分析法の特徴を理解し、問題に応じて適切な方法を選択する基礎知識を持つべきである。この知識なしに調査を行うと無駄な結果を生むだけでなく、かえって誤った結論を導くことになる。このため、問題解決の助言者としてリサーチャーの役割は重要であり、リサーチャーはマーケターの直面している問題を十分に理解すべきである。すなわち、マーケターとリサーチャーの密接な協同(コラボレーション)こそがマーケティング調査の不可欠な条件である。

リサーチャーもマーケティングの知識をもつべきであり、マーケターもリサーチの知識を持つべきである。そして、両者が密接に協同してこそ、はじめて有意義なマーケティング・リサーチが実現するということだと思います。大賛成です。意義のある結果を得るためには、マーケターとリサーチャーが共通の問題意識や課題を、同じレベルで共有することが不可欠ですから。

この「はじめに」を読んでいただけるとわかるように、本書は「マーケター」がリサーチの基礎を学ぶことを主眼にしていますが、「リサーチャー」が基礎的な理論をマーケティングの視点を踏まえながら再度学ぶのにも、適していると思います。
マーケティング・リサーチでよく取り上げられる事例である、「ネスカフェのインスタントコーヒー価値の発見」「アサヒスーパードライの開発」「ニューコークの失敗」「花王の調査システム」「DAKARAの開発」の事例なども(ポイントだけですが)取り上げられています。

そして、巻末にある参考文献が秀逸です。
本書を読んで、もっと詳しい内容を知りたいと思ったら、参考文献を容易に探すことができるのは、とてもありがたいです。

実務家の書いた本は読みやすく身近に感じることができますが、たまにはこのような学者の書いた理論書をきちんと読むのも必要ですね。

マーケティング・リサーチを取り巻く2題

マーケティング・リサーチに関して、気になるblog、HP、MLを立て続けに見たので、エントリー。
ひとつはクライアントサイドの問題、ひとつは調査対象者の問題です。

■マーケティング・リサーチ/リサーチ・リテラシー

いつもの「マインドリーダーへの道」さんのblogで、「リサーチ・リテラシー」といいうエントリーがありました。詳しくは、直接blogを読んでいただくとして、つぎの文章にとても同意です。

そして、実は、しばしばリサーチ・リテラシーの低さが、マーケティング企画の立案や実行上の障害となる場合がある点です。(私自身、過去なんども経験してきました・・・)
もちろん、すべてのマーケターが、調査の具体的なノウハウ・テクニックを習得する必要はありません。
ただ、調査の意義や、基本的な調査・分析手法の考え方、データの見方といった最小限のリサーチリテラシーを持っておく必要性は高いんじゃないでしょうか?

このblogをはじめたのも、まさに同じ問題意識からでした。
リサーチにお金をかけることを疎ましく思っている人が少なくない、また、リサーチを実際に行っている人のリサーチに対する理解力が低下している、こんな危機感は今も強くあります。(「リサーチを行っている人」は、いわゆる調査会社に所属している人も含めます。こちらの方が、問題はより一層深刻になりますが・・・)

「マインドリーダーへの道」さんが引用している、石井先生の記事はこちら↓になります。

成長持続の鍵「マーケティング・リテラシー」
~独立したリサーチ部門をもたなければ、マーケティングの経験を長期的に蓄積することは難しい。筆者は、「マーケティング・リテラシー」を改善する手法を提案する。

この提案の骨子は、「専門部署としてのリサーチ部門を持つこと」だと思うのですが、企業のマーケティング・リテラシーの問題点として、つぎの3つを上げています。

  • やるべきリサーチをやらずにすます
  • 不明確なリサーチ課題の下にリサーチが実施される
  • 「リサーチ標準」を定着させることができない

この指摘も、的を射たものだと思います。よく出くわすことです・・・(残念ながら)。
もしも、読者にリサーチ担当者の方がいらっしゃったら、「リサーチ専門部署」を持つかどうかは別として、このあたりの問題点は常に認識をしながら、リサーチに取り組んでいただければ、よりよいリサーチの実施に繋がると思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

■「調査協力依頼文のモデルについて」(JMRA)

日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)のHPで、

「調査協力依頼文のモデルについて」が策定されました(2007.5.21)

というWhats newが出ています。このモデル策定の背景として「はじめに」で説明されている文章をみると、

2005年-2007年期の(社)日本マーケティング・リサーチ協会 倫理綱領委員会は、「個人情報の保護に関する法律」(以下「保護法」)および「JIS Q 15001:2006 個人情報保護マネジメントシステム-要求事項」(以下「JIS」)に対応した調査協力依頼状モデルの作成を課題の一つとして与えられた。
モデルは、調査会社が調査対象者から個人情報を取得する場合に、保護法やJISが求めている明示あるいは通知すべき事項を満たす内容でなければならないが、さらに、マーケティング・リサーチ綱領の定めを満たし、できれば、(社)日本マーケティング・リサーチ協会のPRも含めたいとの要望があった。

との事なんですが・・・。
もっと、「調査対象者は何に不安を感じているのか」「なぜ調査協力依頼文が重要なのか」というような視点からの言及もしてほしかったなという気もするのですが。これでは、法律やシステム上必要だから作りました、ってだけに聞こえてしまいます(通達の意味合いが強い事務的文章かもしれないので、あえて考え方を入れる必要もないのかもしれないですけど・・・)。

それはさておき、JMRAとして、このようなモデルを提示することはとても重要なことだと思います。調査環境が悪化し調査協力を得ることが難しい状況の中では、少しでも調査対象者に対して、安心感を持ってもらうことは必要ですから。
で、あるMLでこのことに対し、素朴な疑問があげられていました。

「そもそも、この(調査)会社が言っていることが信用できるのだろうか?」という疑問を解消できるのでしょうか?

というような趣旨だったと思います。たしかに・・・。

いくら、個人情報を守ります、このような趣旨で調査への協力をお願いしますと言っても、そもそもにおいて、市場調査って何だ?なんで自分が協力しないといけないのか?だいたいこんな会社聞いたこともない!という状況だと、なかなか調査への協力は得られないですよね。
前のエントリーで紹介したようにインテージさんやマクロミルさんが上場を果たし、企業本も出版されるまでになり、またいろいろな調査会社さんが調査結果をリリースするようになり、少しは「市場調査」というものへの理解は得られるようになったかもしれませんが、世間一般では、まだまだ・・・。
JMRAのHPでも、「調査協力者」というページをつくり(しかし、「調査協力者」って偉そうですよね・・・。「調査にご協力いただく方へ」とか、もう少し言いようもあるように思うんですけど)、

各種調査に御協力いただいた方、調査に興味をお持ちの方のページです。
マーケティング・リサーチへのご理解を深めていただける情報をご提供いたします。

とPRも行っているようですが、内容はまだまだ感もあり。。。

「統計調査の民間開放・市場化テストに関する研究会」の報告書にもあったように、

さらに、統計調査を円滑かつ適切に行うためには、調査対象者の理解と協力が不可欠であり、今回の取組を契機として、民間開放の趣旨に加え、統計の意義や重要性について改めて国民に理解されるよう、より一層の広報を適切に行っていくことも重要である

ということを、もっと推し進める必要があると感じます。

協会として、新聞一面にPR広告を出すとか、「ガイアの夜明け」「カンブリア宮殿」「プロフェッショナル」などで取り上げてもらうようにテレビ局に働きかけるとか、もっとマス広告の力も活用すべきかもしれませんね(先立つものの問題もありますが・・・)。HP上での啓蒙では、所詮、興味がある人向けにならざるを得ないので。
あるいは、インテージさんやマクロミルさんのようにお金を持っているところに、業界リーダーとしての活動をもっとがんばってもらうとか。。。そういえば「宣伝会議」という雑誌では、よくマクロミルさんや楽天リサーチさんなどの広告を見かけますね。でも、クライアントへの訴求ばかりでなく、調査対象者の理解を得るような訴求も、もっと行っていただければと思うのです。

マーケティング・リサーチを取り巻く課題を2題、ご紹介しました。
本格的にマーケティング・リサーチが始まって50年。この50年という期間が短いのか、長いのかわかりませんが、マーケティング・リサーチへの理解はまだまだだな、と思いました。
このような状況を打開するために、このblogが微力ながらも力になるといいのですが。
(という想いのもと、できるだけエントリーをするように心がけます。。。)






『サスティナブルカンパニーの条件~持続的成長企業「インテージ」の挑戦』

サスティナブル・カンパニーの条件―持続的成長企業「インテージ」の挑戦 サスティナブル・カンパニーの条件―持続的成長企業「インテージ」の挑戦
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-03

ほんと、リサーチ会社についての企業本が出るとは想像していませんでした。
(なので、気付いたのが少し遅くなって、今頃のエントリーになっているのですが。)

リサーチ業界を題材に企業本を書いた著者はどんな方だろうと思って略歴を見ると・・・。
なんだ、社会調査研究所(インテージが社名変更を行う前の社名です)の出身の方じゃないですか。現社長の田下氏とも、お歳が近いようですし。ある意味、納得です。
(なんか、インテージさんの広報blogのようになってますよね・・・。でも全然関係ないんです、インテージさんとは。けれど、リサーチ業界でインテージさんを見ておかないと意味ないですし、また上場して企業情報を公開しているのがインテージさんとマクロミルさんだけなので、どうしてもこの2社の情報が中心になってしまうんですよね。。。)

で、内容。
正直に言わせてもらうと、そんなに面白くなかったです。。。(もしかしたら、私がリサーチ業界にどっぷり浸かっているからかもしれませんが。)
一応、インテージをケースとして「サスティナブル・カンパニー」の要件を抽出するということなのですが、ほとんどの部分がインテージの紹介に終始している感じで。
「インテージ」という企業そのものに興味がある方は、一度、目を通しておくのもいいでしょう。ただ、この本でリサーチ業界について理解しようとは思わないでください、この本に書かれていることは、あくまでも「インテージ」のことなので。

いつものように、もくじは紹介しておきましょう。

プロローグ 絶えず変革を求める会社がさらに変わるとき
第1章    危機感なくして持続的成長はない
第2章    新たな人材の登用が変革を加速する
第3章    本社移転がさらなる進化の契機に
第4章    ナンバーワン企業が歩んできた道のり
第5章    変革のDNAを共有する仲間たち
第6章    なぜ、この会社は持続的成長ができるのか

この本の中で、へ~と思ったことは、つぎの2つでした。
「INTAGE」という社名が、Intelligence+Ageからの造語だということ。そして、ESOMAR(マーケティングリサーチの国際団体)の2005年の国際カンファレンスで次のような趣旨の発表がされているということ。(以下は、本書からの引用ですが、確かに以前JMRAのホームページで見たことを思い出しました。今でも、JMRAのホームページで元本の抄録を読むことができます)

こうした状況下、戦略・ITコンサルティングファームと戦うために、マーケティング・リサーチ会社がなすべきことが見えてきた。レポートではその内容を以下のように指摘する。

一 戦略・ITコンサルティング力のいずれか一方、または両方を備えること。
二 戦略・ITコンサルティングファームとのパートナーシップを結ぶこと。
三 マーケティングデータを価値ある情報へと変えるビジネススキルを身につける必要性があると認識している人間を雇い入れるか、または自社でそのような教育を施すこと。

マーケティング・リサーチ会社は、それぞれが特定の市場をますます重点的に取り扱うようになってきており、その中で幅広いサービスを提供しているというのが実情だ。特定分野での経験や集積される知識はとても重要なものとなる。なぜならば、クライアントはマーケティング・リサーチ会社にデータ分析にもとづくインサイトの提供を期待しているからだ。
これによりリサーチャーのスキルも見直しを要求される。ダイナミックに変化するビジネス環境にあって、マーケティングデータを超えたインサイトや、そればかりかビジネス上の解決策まで求めるようになっているのだ。リサーチャーは「これまで」なにが起こったかを報告するよりも、むしろクライアントが「その先」を見据えられるように手助けすべき存在とならなければならないのである。

(日本でも、クライアントが「インサイトの提供を期待」しているかどうかは別にして)
やはり、これからのリサーチ会社の方向性は、このような事であり、自分が感じていたことは間違いではなかったのだなと思いました(そして、コメントをくれた萬さんの考え方も、一緒でしたし)。
早くから「インテリジェンス・プロバイダー」を目指したインテージは、この視点からも、やはり日本のリサーチ会社では、特別な存在といえるのかもしれませんね。

(で、そのインテージの決算説明会の様子がWEB上で見ることができます。インテージのIRページからご覧ください。もしかしたら、この本よりおもしろいかも。リサーチ業界の今とこれからを知るにも、いいかもしれません。ただし、45分ありますので時間のあるときにどうぞ。。。)

インフォプラント&インタースコープ合併へ

インフォプラントとインタースコープの合併が発表されていました(2007/5/10)。

ヤフー傘下のネット調査会社、インフォプラントとインタースコープが合併(nikkei BPnet)

インフォプラントとインタースコープが7月に合併–インフォプラントを存続会社に(CNET Japan)

ヤフー傘下のネット調査会社2社が合併(ITmedia)

それぞれの会社のニュースリリースは、こちら。

株式会社インタースコープとの合併に関する基本合意のお知らせ(インフォプラント)

株式会社インフォプラントとの合併に関する基本合意のお知らせ(インタースコープ)

すでに、blogで取り上げられている方たちは、こちら(素早いですね・・・)。

トゥーランとプログレのためのブログ

備忘録

IT業界トレンド通

このblogでも以前、「業界再編の予感・・・」でつぎのようにコメントしています。

ただ、よくわからないのは、子会社化してシナジーが得られるのかということ。Yahoo!単独でも、事業部として活動を行っているようですし、4社が並列に営業をしたり、システムを抱えていても無駄ではないかと。。。
それぞれの関係がどうなっているのかは、中にいないのでわかりませんが、1社に統合すればこそ、4社のパワーが発揮できるのではないかと思います。
Yahoo!のモニター構築・管理力と顧客基盤、インフォプラントのシステムとネットリサーチ先駆者としてのノウハウ、インタースコープの分析力、インテージのマーケティング・リサーチ理解力。(ただ、インテージはこのグループに入らなくても、単独で世界のマーケティング・リサーチ業界で11位ですが・・・)
とくに今回は、以前からHPを見ていて、研究・開発力に一目置いていたインタースコープだけに、今後このグループがどのような展開を見せるのか、注目してみていきたいです。

このコメントが少し現実化したということですね。

関連して、

インテージの決算資料も発表されています。

平成19年3月期決算短信(インテージ)

この中で、つぎのような記述があります。

当社グループが属しております情報サービス業界では、経済産業省の「特定サービス産業動態統計」によりますと、当連結会計年度の月々の売上状況はおおむね前年を上回る伸び率で推移しております。当社グループの主力事業分野であります市場調査業界でも社団法人日本マーケティング・リサーチ協会の「第31回経営業務統計実態調査」から、堅調な伸びが報告されております。特にインターネット調査の拡大が当市場を牽引している状況です。
このような市場環境のもと、当社グループは「Team INTAGE によるインテリジェンス・プロバイダー事業の実現」を目指し、ビジネスパートナーとしてのお客様満足度の向上に向けて努力してまいりました。当連結会計年度は「変革のスピードを上げよう-本当のたたかいは、これから始まる」を基本方針に掲げ、「カスタムリサーチ分野の構造変革とインターネット調査への資源集中の加速化」を最重点課題としました。また、パネル調査分野のソリューション型ビジネスへのシフト推進、personal eye(個人消費者パネル調査)やRep Track(MR訪問実態調査サービス)等の新商品の成長促進、融合ソリューションの拡大、CRO(医薬品開発業務受託機関)業務の持続的成長の基盤再構築、トータルヘルスケア分野の積極投資に取り組んでまいりました。

高らかな「インターネット調査シフト宣言」です・・・。

では、インターネット調査のトップ企業であるマクロミルはどうかというと・・・。

平成19年6月期中間決算説明会資料(マクロミル)

売上・利益ともに着々と上昇、またクライアント構成もこれまでの代理店/調査会社/コンサル会社依存から一般事業会社比率の上昇へ(50%超)と、地保を固めているようです。
とくに注目したいのが、この資料の6ページ「サービス別売上構成比の推移」です。構成比こそ、まだ10%前後であるものの「分析」と「グローバルリサーチ」の対前年伸び率が大きいことです。

これまでは、ともするとインターネットリサーチ会社は、データ収集は強いが集計・分析は弱いとされてきました。しかし、これまでみてきた3つの会社の事例をみると、インターネット調査でも「集計・分析力」がこれからの競争ポイントになるであろうことは予想できます。
調査票設計力や集計・分析力で、ネット調査会社との差別化を図ってきた従来の調査会社は、この環境の中でどのような戦略を描くのでしょうか・・・。
ネット調査シフトが明らかな中で、従来調査に依存しているばかりではジリ貧は目に見えているでしょうし、とはいえネット調査インフラでの競争力では、先行ネット調査会社に太刀打ちできるとも思えないですし・・・。だからといって、合従連衡して力を合わせるという機動力もなさそうですし・・・。

さらに、設計力と集計・分析力に磨きをかける、それしかないでしょうか???

これからも、リサーチ業界の動きはウオッチしていきたいと思います。

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