月別アーカイブ: 2006年11月

「購買心理を読み解く統計学」

購買心理を読み解く統計学―実例で見る心理・調査データ解析28 購買心理を読み解く統計学―実例で見る心理・調査データ解析28
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2006-06

統計学つながりで、もう一冊。

回帰分析、因子分析、クラスター分析、コレポン(コレスポンデンス分析)あたりが、マーケティングで使われる多変量解析の四天王だと思うのですが、他にも多変量解析の手法はいっぱいあります。「ほんとうは、こんなことが知りたいんだけど・・・」「課題を明らかにするもっと適切な手法はないだろうか」ということを考えたことのある方には、お勧めの本です。

表紙の紹介文を引用してみます。

企業や商品の「ブランド力」、お客さんの潜在的な「好み」、価格とニーズのバランス・・・
多種多様なデータをいくら集められても、それだけでは直接測ることのできない、いろいろな「買いたいココロ」があります。そのココロを、心理統計学+マーケティング・サイエンスの第一人者が、具体的な事例から幅広く役に立つ28の最新分析法をもとに、魅力的に解き明かします。

元々は、雑誌「プレジデント」に連載されていたものですので、読んでわかりにくいことはないと思いますが、この本を読んだからといって、すぐに解析ができるというものでもありません。「この解析手法を使うと、こんなことがわかるんですよ」という道案内をしてくれている本です。さらに、各解析手法の最後には、手法を実際に行うためのソフトウエアと参考図書が紹介されていますので、そちらを参照すれば興味をもった手法について、さらに詳しく知ることができるようになっています。
(ただし、参考図書を読むには、それなりの統計知識が求めまれますが・・・)

いくつかの手法を、タイトル見出しと一緒に紹介します。

第1章 目に見えない「好み」やニーズを読み解く
・構造方程式モデリング~見えない「ブランド力」の測定法 (他4手法)
第2章 「買いたいココロ」、その行動ルールを読み解く
・決定木~「もう一度買いたい」その理由のありかを探す (他4手法)
第3章 複雑な要因から、決定を下す根拠を読み解く
・AHP~「決められない問題」を優先順位から評価する (他5手法)
第4章 グループ化&マッピングで、関係性を読み解く
・多次元尺度法~心の中の「商品間のキョリ」の測定法 (他5手法)
第5章 どのくらい正確か、判断の信頼性を読み解く
・時系列分析~時季変動の予測から、リスク最小かつ利益最大に (他5手法)

この本を読んで、どのような解析手法があるかを知る、そして調査会社に「こんな手法があるみたいなんだけど、できる?」と問い合わせてみるのが、この本の一番の利用方法かもしれません・・・。
(そして、この質問への調査会社の応答が、調査会社を判断するひとつの指標にもなるかもしれません・・・。「なんですか、それ?」では、心もとないですよね?少なくとも、「聞いたことがあります、調べてみます。」くらいでないと。)

「現場で使える統計学」

現場で使える統計学 現場で使える統計学
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2006-09-28

本編(寺子屋)でのテーマにあわせながら、本を紹介していこうと思っていたのですが、つぎつぎと新刊が出るので、テーマ性に関係なく、新しい本が出たタイミングで紹介していくことにします。でないと、情報鮮度が落ちてしまうので・・・。

「マーケティング・リサーチはこう使え!」が、“道具としてのマーケティング・リサーチ”の視点から書かれている本であるのと同様に、この本は“道具としての統計学”としての視点から書かれています。
なので、極力数式は使わずに、ビジネスの現場でお目にかかる事例を交えながら、統計をどう使うのかということを説明しようと試みています。「現場でいろいろな数字を見てきたけど統計について勉強したことがなかった」「統計の本を読もうと思ったけど立ち読みしただけで止めた」「統計の本を読んだけど挫折した」、というような方にとっての入門書としてはよいかもしれません。

しかし、やはり統計を言葉だけで説明するのは難しいなということを感じさせる本でもあり、統計をきちんと学びたいという人にはお勧めしません。
このような欠点もありながら、この本を取り上げようと思ったのは、学者の方が書いている本にしては、厳密性にこだわっていないことに驚きを感じたからです。現場でときおり感じる統計の限界についてもきっちりと触れて、その上で、どう使えばいいかについて書かれているからです。

いくつか、共感できたフレーズを引用してみます。

・データがあれば、なんでもかんでも要約するというのであれば、せっかくのデータをわざわざ捨ててから使うということになってしまいます。(・・・中略・・・)捨てられる情報にこそ、ビジネスヒントがあることが多いからです。
・分析方法のみではなく、データが良いデータかどうか、十分なデータが揃っているかといったことを吟味しておかなければならないということです。
・分析しているデータに関心を持っている情報が全て含まれているとは限らないということです。
・母集団の厳密性を気にしていたらいつまでたってもビジネスの現場では統計学は使えないということです。
・仮説の主張は、みなが納得できるのであれば、理屈や直感で納得しても、グラフや表で説明しても、統計学から説得しても良いわけです。

どうでしょう?
「統計って、わずらわしいな・・・」と思っていた人にとっては、「そうなんだよ!」と思えることが少なくないのでは?
ただし、ここで誤解をしてもらっては困るのですが、著者は何も、統計なんてあてにならないんだよといっているのではなく、このようなことも頭に入れながら統計を使うと、より有益な情報も得られるということを書いているのです。

「このようなことを書いている統計の本ってどんな本?」「ほんとに現場で使えるようになる?」「へぇ~統計ってそうなんだ」などと思った方、ぜひ一度、手に取ってみてください。
そしてこの本で、「統計ってビジネスで使えるんだ」と思った方、つぎはもう少し専門的な統計の本へと進んでください(ブルーバックスあたりが手ごろだと思います。こちらの出張書店をのぞいてみてください)。

この本の著者も言っています。

統計の考え方の理解が「簡単だった」ことと「簡単に使える」ということは必ずしも一致しません。このことを知っておくことが、現場で使える統計学になるか、現場で使えない統計学になるかの分かれ目になります。
(中略)
現場で使うためには、このシンプルなものを現実のテーマに応用するといった応用力が必要で、この応用は必ずしも簡単ではないからです。

「マーケティング・リサーチの理論と実践~理論編」

マーケティング・リサーチの理論と実践 理論編 マーケティング・リサーチの理論と実践 理論編
価格:¥ 9,450(税込)
発売日:2006-11

このところ、マーケティング・リサーチ関連の新刊が相次いでいます。
他にも紹介したい本はあるのですが、取り急ぎ日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)肝いりのこの本を。

アメリカで2年前くらいに出版されたものを、JMRAが主導して翻訳した本のようです。
(「ようです」と書いたのは、立ち読みした記憶に頼っているからです・・・。なにせ、お高い本ですので、まだ購入していません。。。)
内容は、マーケティング・リサーチに関して、網羅的に、かつ詳細に記述されています。
今回は、「理論編」として、原書の前半部分である理論的なパートが出版されました。
ちなみに、後半部分は実査と解析系が取り上げられるようです。

参考までに、もくじを引用しておきます。

第1章 マーケティング・リサーチ序論
第2章 マーケティング・リサーチ課題定義とアプローチの展開
第3章 調査設計
第4章 探索的リサーチの設計:二次データ
第5章 探索的リサーチの設計:定性調査
第6章 記述的リサーチの設計:質問法と観察法
第7章 因果的リサーチの設計:実験法
第8章 測定と尺度化:基本原理と相対尺度
第9章 測定と尺度化:絶対尺度
第10章 調査票と観察フォームの設定
第11章 標本抽出:設計と実行手順
第12章 標本抽出:標本サイズの決定(?)

事例がアメリカのものなので、多少理解しにくいところはあるかもしれませんが、「日本では」というようなコラムを差し込むなどの工夫もしているようです。

JMRAが、なぜここまで投資をしたのか?(あまり投資をしてこなかったので、これまで)
「はじめに」で監訳の小林氏は、つぎのように書いています(記憶ですので、正確なニュアンスはお伝えできませんが)。
海外に比べ日本でのマーケティング・リサーチ市場規模が小さいのは、日本でマーケティング・リサーチャーが育つ環境になかったからではないかという危機感がある、と。
海外では、大学や大学院の授業でマーケティング・リサーチの講座があり、イギリスでは資格制度まであるようです。

まったく、同感です。このブログの「業界の歴史」でも見てきたように、このような業界環境、背景により、日本では真のマーケティング・リサーチャーが育ちにくく、多くの調査会社やリサーチャーが情報の中間流通業者的な働き、位置づけしかとれなくなっているという側面があると思います。マーケティング・リサーチの理論と技術を学ぶには、かなりの部分を自助努力で補わなければなりませんでしたから。
日本において、真のリサーチャーを育て、調査会社のポジションを上げていくことは、マーケティング・リサーチの市場を拡大していく上で、必須でしょう。マーケティング・リサーチ市場が拡大するということは、イコール、より消費者サイドにたった企業活動、科学的な意思決定に基づく成功確率の高い企業活動を拡大するということにつながります。そしてそれは、最終消費者であるお客様にとっても、選択・購買の効率を高め、より自分の生活を高める商品やサービスを手に入れる機会が多くなることを意味します。

少々、私的な想いの部分が長くなりましたが、現役リサーチャー、これからリサーチャーを目指す人にとっては、この本は基礎を固める上で有用だと思います。
ただ・・・。
いかんせん、価格が高いです。。。
(価格が高いのも、マーケティング・リサーチというテーマに対する需要が少ないからです・・・。多くの人に買ってもらえるのであれば安くできるのでしょうが、見込める販売量が少ないので。難しいですね。。。)
なので、会社経費で購入してもらうとか、大学の図書館に入れてもらうなどしながら、入手してください。お金の余裕のある方は、もちろん自腹で。

そういえば、JMRA会員の方は、1000円引きで購入できるようです。
詳細は、こちら(→JMRAのホームページ)

(他にも、紹介したい本があるのですが、今日はとりあえずこの1冊で・・・)




「マーケティング・リサーチはこう使え!」

マーケティング・リサーチはこう使え! マーケティング・リサーチはこう使え!
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2006-11-09

この本を見つけた最初の感想・・・、「しまった!先を越された!」です。。。
それも、知っている方の本だったりするので、なおさら・・・。

「インターネット調査の功罪」「現状仮説と戦略仮説」「あらかじめ調査の限界を知っておく」「結果をどう読んで、どう判断するかが最も大事」などなど、これからこのブログでお話をしようと思っていること(さらには、出版化の野望も・・・)を、先んじられてしまいました。
仕方がありません、ビジネスは機を制することが肝要ですから、こちらがもたもたしていたのがいけないのだと反省しつつ、この本を紹介します。
とはいえ、この本を読んだからといって、もうこのブログは必要ないやと思わないでください、さらに深い内容で、皆さんにご提供していこうと思いますので。

さて、本の内容です。
「はじめに」から紹介するのが一番わかりやすいと思いますので、その部分を引用します。

この本では、「マーケティング・リサーチ」を自分のビジネスの中で活用していこうと考えている方々の、「これが本当に最良な調査の方法なのか」「調査結果はどこまで信じてよいのか」「結果をもっと上手く活かすにはどうしたらよいのか」といった疑問に対し、
・ビジネスのいろいろな局面で、調査をどのように使えば仕事がうまく進められるのか
・調査結果を使いこなす立場から見て「良い調査」とは何なのか
・その際に調査の依頼者としてどのようなことに留意すれば失敗しないですむのか
という視点から具体的に答えていきます。
調査を調査会社任せにせず、自分でコントロールできるようになることで、調査をもっと身近で有用なものとして欲しいと思います。

語り口もやわらかく、豊富な事例で話を進めていますので、とても理解しやすいと思います。マーケティング・リサーチって役に立つの?と考えている、あるいは、もっとマーケティング・リサーチを有効に使いたいと考えている実務家の方、お勧めです。

PS.私信です。
菅野さんが、このような本を出そうと考えられていたとは・・・。
でも、リサーチについて考えていること、想いの方向が同じだということを確認させていただき、自信にもなりますし、うれしく思います。
どれだけ貢献できるかわかりませんが、この著書が少しでも多くの人に読んでいただくことの一助となれば幸いです。
機会があれば、またお仕事をご一緒させてください。




「マーケティング・リサーチの論理と技法」

マーケティングリサーチの論理と技法 マーケティングリサーチの論理と技法
価格:¥ 3,465(税込)
発売日:2004-09

【2008年6月第3版が出版されてます→こちらにエトリー

著者は、長く広告代理店やメーカーで、マーケティング・リサーチの実務家として活躍された方です。
マーケティング・リサーチの本には、学者や研究者が書いたものと、この本のように実務家が書いたものとの2通りがありますが、「発注サイド」の方たちは、このような実務家が書いたものがお勧めです。その上で、もっとリサーチ、調査をしっかりと身に着けたいという方は、学者や研究者が書いた専門書で、理論を学んでいくのがいいと思います。(ただし、実務家の本は玉石混交なので、注意も必要ですが・・・)

この本はすでに第2版で、第1版の評価が高く、大学・大学院での講義教材としても使われているようです。内容も、リサーチプロセスから調査手法、多変量解析まで、またテーマ別のリサーチについても触れられており、リサーチ/調査について一通り学ぶにはちょうどよい内容となっています。もくじを紹介しておきます。

序章 マーケティングとマーケティング・リサーチ
第1章 企画段階
第2章 実施・分析・報告段階
第3章 定性調査
第4章 定量調査
第5章 比較について
第6章 特定目的のリサーチ設計
第7章 シンジケート・サービスの調査
第8章 インターネット調査
第9章 市場に関するリサーチ
第10章 新製品開発に関するリサーチ
第11章 ブランドに関するリサーチ
第12章 広告に関するリサーチ
第13章 そのほかのリサーチ
第14章 マーケティング・リサーチの管理
第15章 ハイテク製品のリサーチ計画
第16章 多変量解析
第17章 実験法

この本の特徴は、第9章から15章のテーマ別のリサーチ計画について触れられていることで、このように網羅的に紹介している本はなかなかないと思います。それと、リサーチの中でも少々理解するのが面倒な実験計画についても一章を割いているのも特徴的です。

実務の視点から、一通りマーケティング・リサーチについての理解をしたいという方にはお勧めの本です。

リサーチ、調査を依頼する側の心得は?

P夫 今日は、マーケティング・リサーチや調査を「頼む」側が、調査会社とどうつきあうべきか?、でしたよね。

owl そうだね。ただ、私の話からはじめても、「調査会社に都合のいいように言っているだけでしょ?」といわれるかもしれないので、いくつかの本を参考にしながら考えていこう。

最初は、「マーケティング・リサーチの論理と技法」という本から。この本の著者は、広告代理店やメーカーでマーケティング・リサーチを実務として経験してきた方なんだ。この本の中で、調査会社を管理運営する上での心得として、つぎのように書いている。

調査会社とのコミュニケーションを密にして、相手に自分のためにやってやろうという意欲を持ってもらうことが、何よりも大切な管理運営上の心得である。管理は厳しくすべきであるが、相手の意欲を低下させないように心がけたい。

1.自社のリサーチャーが調査会社に対して、すべてのリサーチプロセスにおいて、正しい方向付け・ディレクションを実行する。ディレクションの悪さが、相手の作業のやり直しやスケジュールの遅れをよび、労力、時間、経費の無駄になり、相手からの信頼も損ないやすい。
2.調査会社に対し、調査の結果が自社のマーケティングの展開に生かされている点を可能な限り相手に説明する。そのことは、リサーチャーの職業的喜びを充たせるかもしれない。
3.調査会社との共同研究作業を実施する。

また、『リサーチ業務を正しく効果的に遂行し、意味のある調査結果をフィードバックしていくには、マーケターに期待することが少なくない』として、つぎの7つのポイントをあげている。ここでの「リサーチャー」は、調査会社にいる人間ばかりでなく、自社内のリサーチセクションの人もイメージしていると思うので、調査会社との付き合い方とは少し異なるかもしれないけど、大切なことを指摘しているので、紹介しておくよ。

1.マーケターは、リサーチャーを従属関係におくのではなく、対等のパートナーであることを十分に認識すること
2.マーケターは、リサーチャーが効果的に業務を遂行できるように、つねに必要な情報を継続してインプットしていくこと
3.マーケターは、調査企画時に、リサーチャーとの間で十分な時間を設け、解決すべきマーケティング問題、リサーチ目的、調査結果の活用法などを検討すること
4.マーケターは、積極的にグループインタビューや調査票の点検に立ち会うことによって、消費者の生の声を発見するとともに、リサーチャーの主張を理解できるようになること
5.マーケターは、マーケティングの一番バッターはリサーチャーであることを認識し、彼らからの提案を尊重すること
6.マーケターは、調査結果のほとんどは、自分たちの常識(仮説)の確認であることを承知しておくこと
7.マーケターは、リサーチャーから奇跡や救済を求めないこと

6や7は、言いえて妙だね(^^;。
なかなか、ここまではっきりと書いているものは少ないけど、ある意味真実だと思うよ。

つぎは、「マーケティング・リサーチはこう使え!」という本から。この本の著者も、大手広告代理店のリサーチディレクターで、現場で常に調査会社と付き合っている人だね。
この本の8章が「調査会社に依頼する際のポイント」となっていて、具体的な事例を交えながらポイントを整理しているんだけど、ここではとりあえず見出しだけを引用しておくよ。具体的な内容については、直接本を読んでもらう方が理解できると思うので。

・まずは、自分で企画の大枠を考えてみる
・どの調査会社と組むかで雲泥の差
・問題意識、狙いを明確に伝える
・提案を受ける/一緒に考える/そのための「ゆとりあるスケジュール」
・予めアウトプットイメージを共有する

ふたつめの「どの調査会社と組むかで雲泥の差」では、以前このブログで取り上げたことと一緒のテーマだけど、内容は近いものがあると思うから、ほっとしている。。。

どうだろう?イメージできたかな?

P夫 とにかくコミュニケーションを密にして、課題や問題意識、アウトプットを共有しながら作業を進めることが大事だということですね。それと、ディレクションをしっかりと、かな。

owl そう、その2つがポイントになる。
まずは、コミュニケーション。よくあるパターンが、「黙って言われたとおりにやればいいんだ」というスタンスで、自分の考えだけを押し付ける人。それと、最初に課題や目的、アウトプットの共有をせずに、調査会社から提出されたものについて、あれこれと文句をいう「後出しジャンケン」のパターン。これは、調査会社の意欲を失わせることになるから、このような言動は慎んだ方がいい。
それと、ディレクション。調査会社から事前に確認を求められているにもかかわらず、実査ぎりぎりになってから、ここを直せ、あそこを直せと言って来るパターンも、少なく無いんだ。これをやられると、調査会社にとってはそれまで準備してきたものがすべて無駄になってしまうし、短い時間でやり直しをしなければいけないので、当然ミスも発生しやすくなる。調査会社のスタッフだけでなく、調査員さんが必要な場合とか、グループインタビューの対象者をお願いしていた場合などは、「なんていい加減なんだ」と思われることで、彼らの協力の意欲も阻害してしまう。だから、急なスケジュールや内容の変更は、百害あって一利なしなんだ。調査は、始めるまでに結構ろいろな準備が必要になるから。紹介した2人の著者もいっているように、きっちりとしたディレクションとゆとりをもったスケジュールは、とても大切な要素になる。

P夫 そうはいっても、すぐに調査したいとか、上司に確認したら変更が必要になったということも少なく無いですよね。。。

owl そうだね、その点は調査会社も理解しているよ。だから、程度問題でもあるし、やはりコミュニケーションとディレクションだよね。詳細は決まっていなくても、これくらいの時期にこんな調査をやる予定があるとか、いつまでには内容を必ず詰めると連絡するとか、そんなやりとりをすることで、お互いの信頼関係は高まると思うんだ。

P夫 それに、調査会社の方も、大切なことを言ってこなかったり、聞いてこなかったりということもありますよ。

owl それも否定しない。調査会社も、結構コミュニケーションが下手なところはあるからね。。。
けれど、お互いに、「相手が悪い」と言い合っていても仕方がないと思うんだ。調査を頼む方も、頼まれる方も、コミュニケーションを取りあっていく、それしかないよね。これは、調査に限らず、ビジネスの基本だと思う。
ただ、いくら情報を共有しても、それに対する意見を言ってくれなかったり、相手の指示を待つだけの調査会社や人がいることも事実だけど。その場合は、あきらめて他の会社や人を探すか、あるいは一から十まで指示を与えるしかないんだけどね。。。

P夫 そうですね。。。よく、覚えておきます。

Q子 あの・・・。これからリサーチ会社に入りたいと思っている、私のような人が心がけることってないんですか?

owl そうか(^^;
このブログも、就職でマーケティング・リサーチ業界に入りたい人が、結構見に来てくれているようだし、つぎは、リサーチ業界に入りたい、調査会社への就職を考えているという人達へのメッセージを話そうか。

Q子 はい、お願いします!




調査、リサーチパートナーの選び方(調査会社はどうやって選ぶ?)

P夫 コメントで、ぐらさんから質問が来てましたね。調査、リサーチを頼む時に、誰に最初に頼むべきか。
ひとつ疑問だったんですけど、代理店が調査会社に実際の調査をさせるのはわかります。けど、調査会社が、分析を外部の会社や人に頼むことってあるんですか?なんか、納得できないものを感じるんですけど・・・。

owl うん、実際にあると思うよ。とくにインターネット調査の会社では、報告書を外注することがあるという話を聞いているね。ただ、今ではリサーチ経験者を採用して、分析を内製化しようと努力しているという話も聞いているけど。
それ以外にも、多変量解析といった特殊な集計を外注したり、グループインタビューのモデレーター(座談会の司会をする人)やリクルート(座談会に参加してくれる人を集めること)を外注したり、さらに実査そのものを外注したり・・・。こんなことは、日常茶飯事じゃないかな。

P夫 へぇ、そうなんですか。。。でも、それってありですか?

owl もちろん、クライアントに黙ってやるのはルール違反だと思う。情報管理上の問題があるからね。ただ、クライアントにとっても、外注してもらった方がよりよいアウトプットが得られるなら、その方がいい場合もあるだろうしね。お互いが納得していれば、いいと思うよ。

Q子 で、ぐらさんの質問の答えは?調査会社に頼むのがいいのか、プランナーがしっかりしている会社、もしくは人に頼むのがいいのか?

owl うん、個人的にはプランナーがしっかりしている会社、あるいは人に頼むべきだと思う。
調査って、企画・設計の段階で、どれだけ内容を検討したか、吟味することができたかが、得られる結果が役立つかどうかを決定付けるひとつのポイントだから。調査のテーマにないことは、そもそもデータが無いんだから、どんな分析をしてもわからないでしょ?時々あるんだけど、担当者の上司を含めて報告会をしていると、上司の人が「で、○○についてはどうなの?」って、調査テーマになかったことを聞いてくることがあるんだ。クライアントの担当者も気づいていなかった視点なんだから、非は調査会社にないかもしれない。けど、最初のテーマ打合せの時に、調査会社からのフォローがあれば気づいていたかもしれないよね。言われたままをやるのではなく、議論や提案を行えるかどうかが、調査のプランナーがしっかりしているかどうかのポイントだと思う。
それに、分析ができない調査会社は、そもそも企画・設計の時点で十分な内容の検討ができるとは思えないんだよ。だいたい、どのような分析やアウトプットを出したらいいかがわからないのに、調査の設計なんかできっこないと思うからね。
あと、調査会社を先に決めてしまうと、テーマによっては他によい調査手法があるかもしれないのに、そこの会社ではできないとか、やったことがないばかりに、次善の方法でしか調査ができないということも起こると思うんだ。こればっかりは、プランナーにはどうしようもないことだから。

Q子 でも、この前の話だと、マーケティングに長けている調査会社はそんなに多くないのでは?、という話だったじゃないですか。ぐらさんも、そう感じているみたいだし。

owl そう、そこが問題。だから、ぐらさんもプランナーがしっかりしている会社や人に出会いにくいと悩んでいるんだと思うんだ。数だけでなく、いわゆる営業の問題もあるけどね。インターネット調査会社は、営業が積極的だから。。。
じゃあ、そういう会社や人をどうやってみつけるか?正直なところ、地道に探すしかないと思っている。今は、blogやHPでPRしている人もいると思うし、あとは学会やセミナーでの発表内容や、「マーケティング・リサーチャー」「マーケティング・ジャーナル」といった業界誌を見ながら、これはと思う会社や人にコンタクトを取るしか方法はないと思う。

P夫 でも、その会社や人がほんとうにできるかどうかは、また別の問題では・・・。

owl そうだね。あとは、実際に仕事を頼んでみるしかないと思うよ、身も蓋もない答えだけど・・・。とくに、会社の場合は要注意なんだ。
総合調査会社であれば、マーケティングの視点を持ったプランナーが、必ず何人かはいると思う。前に紹介した星野朝子さんみたいにね。でも、その会社に仕事を頼んだとして、担当になってくれる人が、できる人かどうかはやっぱり仕事をしてみないとわからないんだよ。それに、最初はその”できる人”が顔を出してくれても、そのうちにフェイドアウトして、こちらの期待どおりじゃなかった、ということもあるし。その“できる人”が、部長とか役員だったりしたら、とくに注意ね。
ここがサービスである調査、リサーチの難しいところだよね。モノであれば、メーカーの評判がよければ、だいたいその商品に外れはないけど、サービスは人が提供するものだから。。。会社の規模や歴史で、一概に決められない。

P夫 でも、実際にデータを集める段になれば、規模が影響しますよね。

owl 確かにデータ収集部分では、ある程度、規模が影響する。ただ、企画・分析と実査(=データの収集パート)を分離するつもりがあるのであれば、問題はないでしょ?広告代理店やシンクタンク、マーケティング・エージェンシーに頼むとか、分析に重きをおいたリサーチ会社に頼むとかすれば、実査については彼らが選定、コントロールしてくれるから。

P夫 う~ん・・・。なんだか、少し混乱ぎみなんですけど。

owl 少し整理をしよう。
調査会社、というかリサーチの外注先を選ぶ時に、考えるべき視点が2つあるんだ。ひとつめは、調査を頼む側、つまり自分の会社に、どれだけ調査についてのノウハウがあり、調査に携われるスタッフがいるかということ。ふたつめは、どうやって外注先を見極めるのかということ。

ひとつめ、自社(=クライアントサイド)のリサーチ能力。
自社で、リサーチに対する意識も高く、ノウハウも十分にもっていて、スタッフも十分にいるのであれば、企画・設計や分析は自社内で行えばいいわけだから、外注するのは実査と集計部分だけでいいよね。ところが、社内に十分なリサーチノウハウがなかったり、企画や分析に時間をかけられるスタッフがいないとなると、企画や設計の段階から外注しなければならなくなるし、当然分析を行った上で報告書も作ってもらわないと困る。あるいは、これまでに経験のないテーマや分析方法、調査手法でやってみたいという時も、企画・設計や分析については相談したり、サポートしてもらう必要がある。
自社でできることを見極める、今回のテーマはどういうテーマなのかを考える、結果として、どこからどこまでの範囲を外注に出すのか決める。調査の発注先をどこにしようかと考える前に、まず、これらのことを検討しておく必要があるんだ。
外注の範囲が決まれば、自ずと外注先も決まってくるよね。実査部分をメインに頼むのであれば、それなりの規模があって、調査員さんとかモニターの数が多いとか、会場調査やグループインタビューの会場を自前で持っているとか、紙でなくてPCで回答を集められるとか。このような会社の方が、しっかりとデータを集めてくれる確率は高い。また、グループインタビューであれば、それを専門にしている会社もあるから、そこに頼めばいい。
けれど、企画・設計や分析も含めて頼みたいのであれば、プランナーがしっかりしているところに頼むべきだろう。それが、広告代理店なのか、シンクタンクなのか、マーケティング・エージェンシーなのか、調査会社なのか、個人のプランナーなのかは、やはりテーマによるだろうし、これまでの付き合い方にもよると思う。ただこの場合は、会社ではなく、担当する「人」を見極めることが、より重要になるということを忘れずに。

そして、ふたつめ。外注先の見極め。
前にも言ったけど、具体的な仕事を発注してみるのが最善の方法だとは思う。でも、なかなかそういうわけにもいかないだろうから、いくつかの会社に声をかけて、実際に会って話をしてみる、企画書と見積りを出してもらう、これだけでもある程度の感触はつかめると思う。
まず、実査面について。調査会社だったら、調査員さんやモニターはどのように募集しているのか、どのように管理しているのか、集まった票をどのようにチェックしているのか、といったことを確認する。グルインの場合、モデレータは誰がやるのか、どのようにリクルートをするのか、会場はどうするのかなど。そのほか、その会社で得意としている調査テーマや調査手法は何か、といったことを確認すればいい。調査会社以外に頼むなら、実査はどのように行うのか、どのような管理をするのか、といった点の確認が必要になる。
つぎに、企画・設計や分析の面。たとえば、テーマについての話をマーケティング的な視点も含めて話をしてみて、なかなか話に乗ってこない(乗ってこれない)ようでは難しいだろうし、「もう少し具体的になってから」というような話を出してくる場合は、「仕様がもっとはっきりしないと、動けない」と言っているようなものだから、これも難しい。「なんでもできます」といのも、何も特徴がないといっているようなものだし。その場で、ある程度、テーマの視点とか、調査の仕様について話が出るくらいが望ましいと思う。で、企画書と見積りを依頼して、内容を検討すれば、ある程度の判断はできると思う。ただ、無償で調査票まで求めるのはルール違反だからね。ほんとうは、企画コンペでもある程度の費用は見てあげる方がいいんだけどね・・・、元調査会社の人間としてはそう思う。

P夫 で、企画書や見積りは、どう判断すれば?

owl 企画書は、まずテーマの整理ができているか、そのテーマにあった設計がなされているか、アウトプットまで視野にいれているかといったあたりかな。ただ、これは慣れないと難しいかもしれないね。
見積書は、安ければいいというものではないので、その点は注意して。とくに、調査の場合、コストダウンの余地は、正直いってあまりないと思う。極端に低い見積りの場合は、どこかで手を抜いていると思っても間違いない。なので、安いからいいやと思うのではなく、他社との比較やこれまでの経験からみて安い場合は、なぜこの価格になるのかの説明を受けた方がいい。納得のいく理由であれば問題ないけど、理由が明確でなかったり、がんばりますといった場合は、疑ってかかるくらいの方がいい。高い場合も同様だけどね。それと、企画とか分析に、どれくらいの費用を当てているかでも、会社のスタンスはある程度わかる。企画、分析にそれなりの費用を載せているところは、企画や分析をする意思があると思っていいと思う。ただ、これも必ずしもそうではなく、単に高いだけという場合もあるけど・・・。

Q子 あの・・・、クライアントって、調査会社をいつもそうやって選んでいるんですか?同じとこに頼むんじゃなくて?

owl 同じ会社に頼むことが多いと思うよ。というか、そうした方がいい。何回か仕事をしてみて、信頼できるし、対応力もあるし、アウトプットの質もいいという会社があったら、できるだけその会社と一緒に仕事を続ける方がいいんだ。そうやって、一緒に仕事をしていると、経験値が上がるからお互いに効率もよくなるし、なによりテーマをより深く検討することができるようになるからね。発注者、受託者という関係を超えて、パートナーとして付き合えるようになることが、理想だと思うよ。
これは、P夫君に、とくに言いたいことなんだけど・・・(^^。

P夫 はい・・・。心しておきます。。。
では、調査会社に仕事を頼む時の心得があれば、ぜひ。

owl そうだね、ではそれは次回に。

・・・おっと、大切なことを忘れていた。クライアントと調査会社のパートナー関係に関連して、調査会社を見極める方法を。
担当者をころころ変える調査会社は、そのクライアントをあまり重視していないと思った方がいいだろうね。たとえば年度代わりに、実務担当者が全員これまで会ったこともない人ばかりになりますと言われるようなことがあれば、論外。早々に次の会社を探した方がいい。こちらがパートナーになろうと思っても、相手はそう思っていないということなんだから。
リーダー格の人と実務をやる人数人がチームになっていて、これまで実務をやっていた人の中から新しいリーダーがでてきて、代わりに新しく実務をやる人も入り、これまでのリーダーは社内できちんと新リーダーの相談にのったり、ポイントとなる場面では同行したりというのが理想的な引継ぎ方だと思うよ。こういう関係になっていれば、その調査会社は大丈夫。

P夫 なるほど。これも、心しておきます。
では、次回は、クライアントサイドが、調査会社に仕事を頼む時の心得について。




マーケティング・リサーチ業界とは?2

owl さて、前回のつづき。また、JMRAの数字をみながら話をするね(→こちら)
まず、取引先業種別売上高構成比をみてごらん。一番大きいのはどの業種?

P夫 あ、広告代理店・・・。

owl 確かにこの表のつくりだと、そうなるね。だけど、製造業をまとめると4割くらいになる。やっぱり、リサーチを多くやっているのはメーカー、その中でも「食品」と「化学・医薬品」、「自動車」ということになる。これらの業種の主要企業を押さえている調査会社は強いよね。
とはいえ、確かに「広告代理店」の2割は大きい。広告代理店に調査を発注しているクライアントが少なくないといったのも、うなづけるでしょ?それと、「調査機関」も7%くらいある。業界内での下請け構造も結構あるということだよね。これがいいのか、悪いのかは別にして。。。

Q子 わあ!インターネット調査、すごいですね。

owl 調査手法別の売上高構成比だね。正直、これほど一気にインタネット調査にシフトするとは思わなかった。前回話をしたJMRA加盟社の問題もあるけど、2002年の8%から2005年には17%、アドホック調査だけみるとすでに30%に達しようというんだから。
ただ、これは「売上高構成比」であることに注意しないといけない。単価のことを考えると、一般的に、他の調査手法に比べてインターネット調査は安いわけだから、本数ベースでみると、もしかしたらアドホック調査ではインターネット調査が5割を超えている可能性もある。ある意味、危険なことだとも思っているんだけど。発注する側=データを活用する側が、きちんとインターネット調査の特徴やくせを理解した上で、こんな数字になっていればいいんだけど。ただただ、安い、早いだけで、インターネット調査に流れていっているとすると、あまりいい傾向とはいえない。

Q子 すいません・・・、「アドホック調査」ってなんですか?

owl アドホック調査は単発調査ともいって、あるひとつのテーマ・課題について、企画から分析までの業務が一回で終了する調査のことをいうんだ。だからこそ、早い、安いインターネットの強みが活きてくる。表の中に「継続調査」ってあるでしょ?これは、同じテーマについて、ある期間をおいて何回も繰り返しやるタイプの調査で、これがアドホック調査の対極になる。調査を行う目的がまったく異なるんだよね。
このあたりの話も、おいおいしていくから。

P夫 訪問調査とか郵送調査は右肩下がりですね・・・。

owl 訪問や郵送調査はインターネット調査で代替できる場合が多いから、こういう結果になるよ。他にも、いろいろな要因はあるんだけど。
一方で、会場調査とか定性調査はそんなに落ち込んでいないでしょ?これは、会場・定性調査のもつ特徴、強みがあるから。この辺りのことも、きちんと理解して調査を使い分けないといけないよね。

P夫 ふむ・・・。なんでもインターネットでやればいいというわけでもないんですね。

owl では、報告形態別売上高構成比をみてごらん。「調査票・データ・統計表納品」で5割でしょ?これは、「分析はいらないから、データだけくださ~い」というパターンだね。いわゆる「情報の中間流通業」、データを収めるだけ・・・。
対して、「報告書・勧告」「コンサル等」があわせて5割。ただ、数年前に比べると数値が下がっているでしょ?JMRA加盟社の問題があるから単純には比較できないんだけど、業界の歴史で話したことが奇しくも裏づけられたとみるべきか、調査業界の底辺ではデータ納品だけの会社も多かったとみるべきか。いずれにしても、あまり喜ばしいことではないよね。。。

Q子 調査会社の話をしてください。ますます、調査会社っていろいろあるように思えてきました。就職活動、どうしたらいいんだろう・・・。

owl そうだね、調査会社といってもいろいろなタイプがある。確かに、みんな「ウチは調査会社です」っていうけどね。これは、Q子さんみたいに就職をしようという人にとっても問題だけど、仕事を頼もうとする企業にとっても問題になるよね。分析まで頼もうと思っていてもデータ納品しかしません、と言われたら困るから。
まず、「マーケティング・リサーチ業界」にあった分類を確認しようか。どんな分類をしていた?

Q子 えーと。「装置型企業」と「非装置型企業」って分けてありました。「装置型企業」がインテージとかビデオリサーチ、ACニールセンなどがあたるって。あれ?前回、売上が上位の会社にあがったところだ。

owl 装置型企業というのは、特定の装置を使わないと調査ができないデータを集めて、それを独占的に売っているんだ。たとえば、ビデオリサーチの視聴率調査を考えてもらえばいいんだけど。他の会社がこれから参入しようにも、莫大な費用がかかるし、ビデオリサーチがこれまで築き上げてきた過去データはどうしようもない。結果、参入障壁が高いし、利益も取れるという構造になっている。なので、装置型企業は売上も大きいし、資本力もある。経営面からみれば、この業界の中では優良企業だよね。インターネット調査のマクロミルも、いってみれば装置型企業に分類されるかな。

P夫 じゃあ、非装置型っていうのは?

owl 「マーケティング・リサーチ業界」の本ではこう書いてある。

大資本が要求される装置型企業とは逆の調査会社を一般に非装置型の調査会社と呼びます。これらはそう大きな資本が必要なわけではありません。リサーチャー一人ひとりのマンパワーを調査に活かした裁量労働型ともいえる活動を続けています。言ってみれば、「頭」と「足」を使っているわけです。

前回、調査会社では売上規模の小さな会社がいっぱいあるとわかったよね。その会社のほとんどがこの非装置型企業になる。

P夫 ていうか、さっきでてきた3社以外は、非装置型ということですよね?

owl そういっても構わないかな。ただ、装置型といわれるインテージやビデオリサーチ、ACニールセンだって、非装置型的な業務も行っているし、非装置型の企業でも、規模こそ小さいけれど装置型的な業務も行っている。
だから、確かに”業態”という視点ではこの分類は正しいけど、調査会社を選ぶ基準にはなりにくいと思う。
他にも、こんな分類の方法もある。電通リサーチや日経リサーチみたいに親会社の系列の会社と親会社を持たない独立系の会社。また、最近増えてきているのが、外資系リサーチ会社の系列会社と系列以外の会社。

P夫 リサーチ業界もM&Aですか?

owl そうともいえるのかな・・・。どこの業界でもそうだけど、国際的な合従連衡は、この業界でも起こっている。なぜかというと、国際的な企業が増えたからだよ。日本にも外資の企業がどんどん参入しているでしょ?逆に、日本企業が海外に進出する場合も増えているけど。すると、どうなるか?・・・。
クライアントにとって、それぞれの国で違う調査会社を使うのはとても非効率なんだ。どこの国でも同じリサーチ会社で調査をすることができれば、ノウハウも一緒、データも一緒、クライアントにとっては同じレベルで各国のデータを比べることができる。だから、日本でも本国で使っているリサーチ会社を使って、同じフレーム・ノウハウで調査をしたいと思うのはあたりまえ。となると、担当リサーチ会社は、クライアントが進出した日本に系列の調査会社が欲しい。一方で日本の調査会社は、これまで大クライアントだった外資企業の売上を持っていかれると経営的に厳しくなるし、系列に入ればそのリサーチ会社の他のクライアントの仕事ができるかもしれない、さらに新たなノウハウが入手できるというメリットもある。お互いの利害が一致すれば、これはクライアントも含めて、Win-Win-Winの関係が築けるからね。
これまでも、日本で活動していた外資系の企業はいっぱいあったけど、ここ数年でこのような傾向が強まっているみたいなんだ。

Q子 そうなると、日本資本の調査会社ってたいへんですね。英語、もっと勉強しておこうかな・・・。

owl 英語は絶対にやっておくべきだよ、選択肢が広がるから。ほんと、痛感してるよ・・・。
閑話休題。確かに海外のリサーチ会社の系列ではない、それも非装置型で、独立系の会社は厳しくなるかもしれない。他社に無い、それも高いレベルで差別性のある強みをもっていれば別だけどね。
私見なんだけど、こういう会社もある程度の規模を目指して、それこそ合併するというのも選択肢に入るんじゃないかと思うんだ。これからは、少なくともアジア対応は必要になるだろうし、インターネット調査だってシステム投資がかかる、ITを活用した新たな調査技術の開発も必要になるだろうし。そうなると、どうしても資本力が必要になるからね。この辺りを、どう考えているのか・・・。

Q子 ふむふむ、メモメモ・・・。

owl だから、勝手な私見だから(^^;
で、話を戻すけど、日本のリサーチ業界をどう分類するか。考えたのは、『コストを追求するか、差別性を追及するか』という軸と、『データ収集に集中するか、マーケティング的な要素を強めるか』という軸の2つ。この2軸で整理していくと、いまの調査会社は6つのタイプに分けることができそうなんだ。
もっとも多いのは、総合リサーチ会社。とりあえず調査ならなんでも対応できます、マーケがわかる人間も数名います、という会社。歴史のある調査会社は、ほとんどここに入ると思うんだけど、コストを追求するわけでも差別性を追及するわけでもなく、またデータ収集に特化するわけでもマーケティング力を強めるわけでもない。戦略論でいうと、“stuck in the middle”という、もっとも危険なポジションだと思うんだけどね・・・。
そして、コスト追求型のインターネット調査会社。これまでは、このコスト追求戦略でシェアを獲ってきたよね。ただ、もうコストだけでは勝負することが難しくなっているので、より効率を求めてデータ収集特化に向かうか、差別性を求めてマーケティング力をつけていくか、どちらかの選択が必要な岐路にあると思う。
3つめは、データ収集に特化している、いわゆる実査会社。極論すると、調査員さんの派遣会社みたいな感じかな。このタイプもかなり苦しくなっていると思う。だって、インターネット調査にシェアを奪われているんだから。だけど、この会社にはがんばってほしいとも思うんだ。これまで、リサーチ業界を支えてきてくれた調査員さん達のためにも。
4つめは、定性調査に特化している会社で、いまでもそれなりの数の会社がある。定性調査は、そんなにシェアを落としていないし、むしろこれからは定性調査の必要性は高まると思うから、比較的安泰かもしれない。それに仕事自体、定量調査に比べると面白いと思うし・・・。これも私見です。。。
5つめは、特定の業界やテーマに特化した会社。たとえば、CSに特化しているJDパワーとか、PC系とかIT系に特化しているGfkとか。このタイプの会社も、差別性が高いから、テーマや業界についての知見を高めて、社会への発信力を高めれば、なかなか他の会社に置き換わることはないだろうね。そういえば、JDパワーの創業者が書いたCSに関する本がでていたね、これも後で紹介と。
最後に、マーケティング力を高めて、コンサル力も持った会社。日本ではまだまだ少ないし、広告代理店やシンクタンクという強力なライバルもいる。けど、自前でリサーチをする能力を持って、リサーチ&コンサルを完結することができれば、これは高い差別性になると思うんだ。日本ではJMRグループくらいだろうか、&Dという会社もそういう臭いを感じる。これらの会社をいわゆる「調査会社」と位置づけるのはどうかとも思うけど、一応JMRAの会員社でもあるので。

Q子 ・・・・・・。長講釈、ありがとうございました(^^;
でも、とってもおもしろかったし、参考になりました。

P夫 でも、それぞれの会社がどのグループにあてはまるのかって、どうするればわかるんですか?どこにも、そんな情報ないし。。。どうやって、調査会社を選べばいいんですか?

owl ホームページをみれば、その会社のスタンスがある程度は、わかるとは思う。ただ、これはあくまでスタンスであって、実際にできるかどうかは別だしね。
よし、では次回は調査会社の選び方について、考えてみよう。
また本題に入れない、ぶつぶつ・・・。

マーケティング・リサーチ業界とは?1

owl では、前回のつづき、いまのマーケティング・リサーチ業界についてみていこうか。

Q子 「マーケティング・リサーチ業界」という本で少し書いてありましたよね。その中で、業界の売上高が約1300億円ってあったんですけど、なんか少ないんじゃないかと思ったんですけど・・・。業界全体ですよね?

P夫 そうなんですか?1300億円というと、ヤフー1社の売上と一緒くらいですけど・・・。

owl そうだね、確かにあの本には、2001年で1300億という数字がでていたね。ただ、この数字がマーケティング・リサーチ業界の規模とみることはできないだろうな。業界数字として公に発表されているのは、日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)のものしかなくて、1300億円という数字もここのデータを参考にしていると思う。最新の数値(2005年度)だと、1500億円くらいになっているね(→最新データはこちら)。
ただ、この数字はJMRAに加盟している調査会社だけのもので、ほんとうの売上は捉えきれないんだよ。2006年11月現在で、JMRAに加盟している会社は137社、それ以外の調査会社を含めると250社くらいはあるといわれているから。たとえば、ACニールセンみたいな比較的大きな会社が加盟していなかったりするし。その他にも、さっき名前の出たYahoo!やgooみたいに、一事業部としてリサーチ業務を行っているところもあるから、マーケティング・リサーチ業界の規模はもっと大きいだろうね。

Q子 あれ?、本では、2003年12月で98社とありましたけど・・・。137社ということは、この3年間で40社も増えているんですか?!そんなに、調査会社っておいしいんですか?。

owl それは違う。さっきも言ったように、JMRAの加盟社が増えているだけで、調査会社がそんなに増えているわけではない。確かに、インターネット調査で参入している会社が増えているという事実はあるけどね。

P夫 じゃあ、ここ3年でこんなに会員社が増えている理由はなんですか?

owl わからない?

P夫 ・・・。

owl 答えは、個人情報保護法だよ。この法律によって、個人情報を的確に管理している会社に対しては、「プライバシーマーク」が発行されるようになったんだ。で、JMRAに加盟していると、指導とかもしてくれるから、比較的このマークが取りやすい。とはいっても、きちんと審査を受けて承認されないといけないんだけどね。

Q子 その「プライバシーマーク」って、そんなに大切なものなんですか?

owl うん、調査会社にとっては生命線だろうね。クライアントサイドからすると、プライバシーマークを取っていない会社には調査を出しにくい、という感覚があるんだ。このマークを持っているということは、個人情報についてきちんと管理ができているというお墨付きだから、情報漏えいなどの事故を起こす可能性は少ないと判断できる。実際に、プライバシーマークをとっていない会社には調査を発注しないというクライアントもあるらしい。P夫くんが一緒にやっている会社は、プライバシーマークを取ってるかな?
それと、調査に答えてもらう人にとっても、このマークを取っているということがひとつの信用になるよね。
そんな背景があるから、これまでJMRAに加盟していなかった調査会社が、どんどん加盟するようになったんだ。

P夫 てことは、2001年から売上が200億円も増えているけど、それも加盟社が増えたからということ?この業界は、ほんとうに成長しているんですか?なんか、一社あたりの売上は小さくなっていますけど。。。

owl 正しい疑問だね。ここ数年で加盟社数が4割も増えたんだから、単純に数字を比較するわけにはいかないよね、数字のベースが根本的に異なるんだから。一社あたりの売上が減少しているのは、ここ数年で加盟した会社が比較的売上の小さな会社が多いからだと思うよ。対前年売上比は、毎回ベースを揃えて比較できるけど、これをみると大きく成長しているわけではないけど、毎年着実に成長はしているようだね。

Q子 もうひとつ、気になったことがあって。。。調査業務従事者数が3600人ってあるんですけど、リサーチャーってこんなに少ないんですか?狭き門?

owl うん、これもJMRA会員社の数字だから、これがすべてというわけではないし、調査会社以外にもリサーチャーと呼ばれる人はいると思うから、こんなに少ないわけではないと思うけど。ただ、調査の専門家といってもいい人は、多くても一万人くらいだと思っていいんじゃないかな。

Q子 たった、一万人・・・。

owl そう、だから調査会社に所属しているリサーチャーはもっと自信をもつべきだと思うんだ。日本全国で、たった一万人しかいない職業に就いているわけだから。それだけの専門性の高い仕事、スペシャリスト、エキスパートだという意識をもって仕事をしてほしいと思うよ。

P夫 あれ・・・、売上規模別の数字があるけど・・・。126社の内、1億円台以下が46社って、三分の一以上じゃないですか!やっていけるんですか・・・。

owl そうだね、逆に21億円以上は14社で1割強。そして売上はこの14社で6割強。さらに、個別の会社でみていくと、売上100億を超えているのはインテージとビデオリサーチだけ。50億を超えているのも電通リサーチと日経リサーチだけ。マクロミルが、50億くらいになったかな?
業界の歴史で少しふれたけど、大きな会社からスピンアウトして志をもってリサーチをやりたい人達がいたといったよね。それとも関連するけど、クライアントとの信頼関係さえできていれば、会社が大きい、小さいはあまり関係ない場合もある。むしろ、「この会社に頼みたい」というより、「○○さんに頼みたい」ということも少なくない。だから、一人や二人でも、十分にやっていける業界でもある。さっき言った、ほんとうの意味でのスペシャリストになれればね。

P夫 でも、そうなると一言で調査会社といっても、いろいろあるということですか?

owl そうだね、いくつか分類の視点はあると思うから、次回に説明するよ。そうそう、広告代理店との関係や「情報の中間流通業者」という実態も、この数字から少しみえてくるから、それについても次回で少し話をしよう。

マーケティング・リサーチ業界の歴史2

owl 「高度成長期」って言葉、聞いたことあるよね?

P夫 東京オリンピックとか、新幹線開通のころですよね?

owl そう、1960年前後。とにかく、モノを作れば売れるという時代だったらしい。『このように60年代前半のマーケティングは、(・・・中略・・・)全般的に広告プロモーション主体のマーケティングであり、その意味で広告代理店主導型のマーケティングであったといえます』と書いてあるね。結果として、調査会社に何が起こったのか?
60年代の中ごろには40社くらいの調査会社があって、高度成長経済とともに成長していったんだけど、そこに歪が起こっていたらしい。つぎのように書いてある。

先述のような市場環境のもとで、安易に大規模サンプルの消費者サーベイを企画設計することによって売上拡大を図るという傾向が強かったのです。さらにこの傾向は広告代理店からの下請け的なサーベイ業務の増大によっても助長されたともいえます。(・・・中略・・・)このように「マーケティング・リサーチも量産され、量販された」ことが、その後、リサーチ業界に大きな構造的問題を内在させることになったのです。

P夫 なるほど。でも、構造的な問題って何ですか?

owl 1970年前後になると、高度成長も鈍化し始める。公害問題などが表面化してきた時でもあるね。そうなると、企業が求めるマーケティング・リサーチも変化をしてきたんだ。それまでは、どちらかというと「結果の解釈」であったのが、「これからどうしたらいいか」という行動するためのリサーチが求められはじめたらしい。どうしてか、わかる?

P夫 え~と。作れば売れる時代は、やったことの結果が正しかったかがメインの課題だったけど、売れなくなると、どうしたら売れるようになるのかを考えないといけなくなるから。

owl そう。ところが、当時、このようなニーズに応えられるリサーチ会社は少なかったといっているね。1977年にリサーチユーザーを対象とした調査結果が出ているんだけど、市場調査機関に対し「不満・意見あり」という回答が51%になっていることからも、明らかだろうね。

Q子 半分の回答者が不満といっているんですか?たいへん・・・。

P夫 なんで、そうなっているんですか?

owl そこが、調査会社とマーケティング力の問題、リサーチ業界の構造的な問題なんだよ。ちょっと長いけど、そのまま引用するね。

マーケティング・リサーチは技法の体系ではありません。それはリサーチを実施する主体の目的意識、リサーチ結果の期待効用、リサーチ技法の三要素が構成する企業組織の行動形態であるというべきでしょう。したがって、リサーチ会社が顧客とする企業の期待に応えるためには、顧客企業におけるマーケティングのあり方を研究する機能と、そのための素材として情報を収集・加工する機能とが有機的に結びついていなければなりません。いいかえれば、研究機能と情報収集機能はリサーチ会社の二本の足であって、そのどちらかが弱体であってもユーザー側に不満が生じるのです。従来のリサーチ会社についてこの点をみると、フィールドワーク、集計機能を中心とした情報収集処理機能だけが重点的に拡充され、マーケティングに対する研究機能が著しく弱体であったことは否定できません。この原因はすでに主要なものについては指摘しましたが、基本的にはリサーチ会社自体がその責任を負うべきでしょう。「研究」というおよそ生産性の上がらない業務をできるだけ省略して、サンプリング・サーベイ業務を外延的に拡大することによって生産性の向上を図ることが、高度成長期にリサーチ会社が採用した一般的な政策だったからです。

P夫 なるほど。「ルーチンワークは、創造性を駆逐する」という言葉があるみたいですけど、それなんですかね。でも、これは70年代くらいの話ですよね?いまではどうなんですか?

owl そう、このような状況の中で、量産・量販ではない新しいリサーチを求めた人達もいたみたいだね。まさに、今の私みたいに。1965年~75年に設立されたリサーチ会社も多いみたいなんだけど、このころにできたリサーチ会社の大半は、このような気持ちを抱いてリサーチ会社からスピンオフしたリサーチマンだったらしいよ。

P夫 だったら、その会社に仕事を頼むといいんですよね?

owl ところが、事はそんなに簡単じゃない。スピンオフした人達の会社は、基本的に規模が小さい。大きくした人達もいるとは思うけど。そうなると、やはり業務量をこなせなかったり、とくに大規模調査となると対応できなくなったりするんだよ、どうしても調査には人手が必要だから。ほんとに、労働集約型産業の典型なんだよ、リサーチ業界は。だから、調査テーマによって、いろいろとリサーチ会社を使い分けているクライアントも多いんだよね。

Q子 でも、最近はインターネット調査がでてきて、だいぶ効率よくなったんですよね?この前、朝日新聞にそんな記事が出ていましたけど(注:2006年10月26日「繁盛 ネット世論調査」)

owl 確かにそうだね。インターネット調査は、これまでの労働集約型のリサーチをシステマティックに大変革したよね。おかげで、時間もコストも格段にリーズナブルになった。
ただね・・・。これは私見だけど、インターネット調査会社は、まさに「情報収集機能だけを拡充」した会社だと思うんだ。極論すれば、リサーチ業界をひと昔前の状態に逆戻りさせた。彼らの利益の源泉は、自分たちが持っているモニターをいかに効率よく回すか、だから。集計とか分析とか人手がかかることをやっていると、効率がよくないからね。さすがに、それだけではいけないと研究機能を充実させよう、マーケティング力をつけようという動きもあるとは思うけど。
それと、もうひとつ。インターネット調査によって、調査の単価は明らかに下落した。不思議なことに、インターネット調査以外でもね。そうなると、売上を上げるためには、これまで以上の本数の調査をこなさないといけない。結果として、従来の調査会社も、また情報収集機能に注力せざるを得ない状況に追い込まれているんじゃないかと思うんだ。やっぱり、ひと昔前の状況に逆戻りだよね・・・。

P夫 でも、そんな会社が付け入る状態にあったというのも、また事実ですよね。

owl そう。この著者がいうような「研究機能と情報収集機能」という二本足をしっかりと確立できた会社が少なかったからこそ、情報収集機能だけを武器に参入することができたともいえる。
裏返せば、リサーチを発注する側も、リサーチ会社を育てることをしなかったということになるのかもしれないけど・・・。これは、ニワトリとたまごだね。できないから期待しなくなったのか、期待されないからいつまでもできないのか・・・。

P夫 そうかな・・・。リサーチ会社と一緒にやっていきたい会社はいっぱいあると思うけどな。少なくても、うちみたいに、これまでリサーチをあまりやってこなかった会社は。

owl うん、そう思うよ。そう思ったからこそ、フリーになろうと思ったんだけどね(苦笑)。
それに、いまのリサーチ会社すべてがマーケティングが弱いわけじゃないと思うんだ。そういう志向をする人の絶対数が、各社に足りないだけでね。メーカーのマーケ職の人を懸命に中途採用しているという噂も聞くし。

P夫 あれ?だけど、リサーチって結構難しいですよね?マーケをやっていれば、リサーチもできるんですか?

owl ポイントを突いてるね。確かにマーケティングをやってきた人は、リサーチの素養は持っているはずだ。ただ、真の理解をできているかとなると多少の疑問もある。社内にリサーチセクションがあって、そこのスタッフだったというなら別だけど。クライアントサイド、つまりリサーチの発注側ではマーケティングやデータからの発想はプロだけどリサーチはよくわからない、一方のリサーチ会社ではリサーチはプロだけどマーケティングはよくわからない。こんな状況に陥っていると思うんだ。するとどうなるか?ほんとうにマーケティングに役立つリサーチができているかどうかについて疑問がでてくるよね。
でもね、ここがポイントでもあるんだけど。日本の企業は、リサーチをどこに頼んでいると思う?

Q子 それは、リサーチ会社でしょ?あたりまえじゃないですか。

owl ところが、そうでもない。とくに、社内でリサーチセクションを持っていない会社とか、事業部などでちょっとリサーチを頼みたいという時は、広告代理店に頼む場合が少なくないんだ。広告代理店は、マーケティング・リサーチの初期から社内に専門セクションを作ったりしているわけだから、リサーチについても結構理解しているし、マーケティングに関してはプロだからね。とくに、「これからどうすればいいか」というテーマの時には、この傾向が強いと思う。なぜなら、リサーチは手段であって、リサーチの目的意識に沿って、結果からどのような提言をもらえるか、どれだけ今の自分の仕事に役立つ情報が得られるかが必要なんだ。その点、広告代理店は、マーケティングの視点からデータを読んで、ずばっと言ってくれるからね。発注する側からすると、とても効率的だよね。

P夫 なるほど・・・。広告代理店に頼めばいいのか。

owl ちょっと待って。そんなに短絡的に考えないでほしいな。確かに、広告代理店のスタッフは、リサーチについても結構理解しているけど、とはいえ、やはりリサーチ会社のスタッフにはかなわない。と、思うけど・・・。たぶん・・・。そんなこともないかな・・・。

Q子 あれ、ずいぶん弱気・・・。

owl なので、その辺りをきちんと見極めないとね。それに、彼らも商売をしているわけで、リサーチだけを広告代理店に発注できるのか?そこのところは、よくわからない。基本的には、広告クライアントに対するサポート業務としての位置づけだと思うんだけどね、リサーチは。ただ広告代理店は、広告の制作やメディアバイイングをしているだけでなく、商品開発はもとより、クライアントの戦略部分に深く携わっていることが多いから、そのような業務の一環としてリサーチも主業務となっているという面もある。とくに、アカウントプランニングという概念が広まってからは、なおさらだと思う。この辺りのことについては、参考になる本もあるから、また後で紹介しよう。

P夫 リサーチ会社が情報を収集する機能だけだと・・・。

owl そうなんだよね。この本の中でも、情報技術革新によってリサーチ会社は不要になるという意見もあるといっている。しかし、として、つぎのように記述しているね。

しかし情報の収集はマーケティング・リサーチ体系のごく一部なのであって、どのような情報をどのような方法で収集し、どういった分析を行うかといった部分が大きな比重を占めているのです。(・・・中略・・・)またリサーチ会社としては、単なる「情報の中間流通業者」に終わらないためにも、マーケティング全般への広い視野と専門的ノウハウの蓄積にいっそうの努力が求められているといえるでしょう。

何度も言っているように、調査会社にもマーケティング・マインドを持った人はいる。現状では、調査会社の担当がこのようなマーケティング・マインドを持った人にあたるとラッキーということになるかもね。組織として、マーケティング・マインドをいかに作っていくか、これが今の調査会社の課題だともいえるよね。
ただ、これも何度も言っているように、「研究機能と情報収集機能」という二本足が必要なんだよ。マーケティングの研究機能にばかり力が入り過ぎて、情報収集機能が御座なりになったら、これも調査会社としては失格。このバランスがとても難しい。

Q子 業界の歴史と問題はわかったんですけど、今現在のリサーチ業界、リサーチ会社はどうなっているんですか?そこが知りたいです。

owl そうだね。では、次回は今のリサーチ業界についてみてみよう。
本題のリサーチのノウハウになかなか入れないな・・・。