日別アーカイブ: 2006-11-24

「購買心理を読み解く統計学」

購買心理を読み解く統計学―実例で見る心理・調査データ解析28 購買心理を読み解く統計学―実例で見る心理・調査データ解析28
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2006-06

統計学つながりで、もう一冊。

回帰分析、因子分析、クラスター分析、コレポン(コレスポンデンス分析)あたりが、マーケティングで使われる多変量解析の四天王だと思うのですが、他にも多変量解析の手法はいっぱいあります。「ほんとうは、こんなことが知りたいんだけど・・・」「課題を明らかにするもっと適切な手法はないだろうか」ということを考えたことのある方には、お勧めの本です。

表紙の紹介文を引用してみます。

企業や商品の「ブランド力」、お客さんの潜在的な「好み」、価格とニーズのバランス・・・
多種多様なデータをいくら集められても、それだけでは直接測ることのできない、いろいろな「買いたいココロ」があります。そのココロを、心理統計学+マーケティング・サイエンスの第一人者が、具体的な事例から幅広く役に立つ28の最新分析法をもとに、魅力的に解き明かします。

元々は、雑誌「プレジデント」に連載されていたものですので、読んでわかりにくいことはないと思いますが、この本を読んだからといって、すぐに解析ができるというものでもありません。「この解析手法を使うと、こんなことがわかるんですよ」という道案内をしてくれている本です。さらに、各解析手法の最後には、手法を実際に行うためのソフトウエアと参考図書が紹介されていますので、そちらを参照すれば興味をもった手法について、さらに詳しく知ることができるようになっています。
(ただし、参考図書を読むには、それなりの統計知識が求めまれますが・・・)

いくつかの手法を、タイトル見出しと一緒に紹介します。

第1章 目に見えない「好み」やニーズを読み解く
・構造方程式モデリング~見えない「ブランド力」の測定法 (他4手法)
第2章 「買いたいココロ」、その行動ルールを読み解く
・決定木~「もう一度買いたい」その理由のありかを探す (他4手法)
第3章 複雑な要因から、決定を下す根拠を読み解く
・AHP~「決められない問題」を優先順位から評価する (他5手法)
第4章 グループ化&マッピングで、関係性を読み解く
・多次元尺度法~心の中の「商品間のキョリ」の測定法 (他5手法)
第5章 どのくらい正確か、判断の信頼性を読み解く
・時系列分析~時季変動の予測から、リスク最小かつ利益最大に (他5手法)

この本を読んで、どのような解析手法があるかを知る、そして調査会社に「こんな手法があるみたいなんだけど、できる?」と問い合わせてみるのが、この本の一番の利用方法かもしれません・・・。
(そして、この質問への調査会社の応答が、調査会社を判断するひとつの指標にもなるかもしれません・・・。「なんですか、それ?」では、心もとないですよね?少なくとも、「聞いたことがあります、調べてみます。」くらいでないと。)

「現場で使える統計学」

現場で使える統計学 現場で使える統計学
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2006-09-28

本編(寺子屋)でのテーマにあわせながら、本を紹介していこうと思っていたのですが、つぎつぎと新刊が出るので、テーマ性に関係なく、新しい本が出たタイミングで紹介していくことにします。でないと、情報鮮度が落ちてしまうので・・・。

「マーケティング・リサーチはこう使え!」が、“道具としてのマーケティング・リサーチ”の視点から書かれている本であるのと同様に、この本は“道具としての統計学”としての視点から書かれています。
なので、極力数式は使わずに、ビジネスの現場でお目にかかる事例を交えながら、統計をどう使うのかということを説明しようと試みています。「現場でいろいろな数字を見てきたけど統計について勉強したことがなかった」「統計の本を読もうと思ったけど立ち読みしただけで止めた」「統計の本を読んだけど挫折した」、というような方にとっての入門書としてはよいかもしれません。

しかし、やはり統計を言葉だけで説明するのは難しいなということを感じさせる本でもあり、統計をきちんと学びたいという人にはお勧めしません。
このような欠点もありながら、この本を取り上げようと思ったのは、学者の方が書いている本にしては、厳密性にこだわっていないことに驚きを感じたからです。現場でときおり感じる統計の限界についてもきっちりと触れて、その上で、どう使えばいいかについて書かれているからです。

いくつか、共感できたフレーズを引用してみます。

・データがあれば、なんでもかんでも要約するというのであれば、せっかくのデータをわざわざ捨ててから使うということになってしまいます。(・・・中略・・・)捨てられる情報にこそ、ビジネスヒントがあることが多いからです。
・分析方法のみではなく、データが良いデータかどうか、十分なデータが揃っているかといったことを吟味しておかなければならないということです。
・分析しているデータに関心を持っている情報が全て含まれているとは限らないということです。
・母集団の厳密性を気にしていたらいつまでたってもビジネスの現場では統計学は使えないということです。
・仮説の主張は、みなが納得できるのであれば、理屈や直感で納得しても、グラフや表で説明しても、統計学から説得しても良いわけです。

どうでしょう?
「統計って、わずらわしいな・・・」と思っていた人にとっては、「そうなんだよ!」と思えることが少なくないのでは?
ただし、ここで誤解をしてもらっては困るのですが、著者は何も、統計なんてあてにならないんだよといっているのではなく、このようなことも頭に入れながら統計を使うと、より有益な情報も得られるということを書いているのです。

「このようなことを書いている統計の本ってどんな本?」「ほんとに現場で使えるようになる?」「へぇ~統計ってそうなんだ」などと思った方、ぜひ一度、手に取ってみてください。
そしてこの本で、「統計ってビジネスで使えるんだ」と思った方、つぎはもう少し専門的な統計の本へと進んでください(ブルーバックスあたりが手ごろだと思います。こちらの出張書店をのぞいてみてください)。

この本の著者も言っています。

統計の考え方の理解が「簡単だった」ことと「簡単に使える」ということは必ずしも一致しません。このことを知っておくことが、現場で使える統計学になるか、現場で使えない統計学になるかの分かれ目になります。
(中略)
現場で使うためには、このシンプルなものを現実のテーマに応用するといった応用力が必要で、この応用は必ずしも簡単ではないからです。