日別アーカイブ: 2006-11-02

マーケティング・リサーチ業界の歴史2

owl 「高度成長期」って言葉、聞いたことあるよね?

P夫 東京オリンピックとか、新幹線開通のころですよね?

owl そう、1960年前後。とにかく、モノを作れば売れるという時代だったらしい。『このように60年代前半のマーケティングは、(・・・中略・・・)全般的に広告プロモーション主体のマーケティングであり、その意味で広告代理店主導型のマーケティングであったといえます』と書いてあるね。結果として、調査会社に何が起こったのか?
60年代の中ごろには40社くらいの調査会社があって、高度成長経済とともに成長していったんだけど、そこに歪が起こっていたらしい。つぎのように書いてある。

先述のような市場環境のもとで、安易に大規模サンプルの消費者サーベイを企画設計することによって売上拡大を図るという傾向が強かったのです。さらにこの傾向は広告代理店からの下請け的なサーベイ業務の増大によっても助長されたともいえます。(・・・中略・・・)このように「マーケティング・リサーチも量産され、量販された」ことが、その後、リサーチ業界に大きな構造的問題を内在させることになったのです。

P夫 なるほど。でも、構造的な問題って何ですか?

owl 1970年前後になると、高度成長も鈍化し始める。公害問題などが表面化してきた時でもあるね。そうなると、企業が求めるマーケティング・リサーチも変化をしてきたんだ。それまでは、どちらかというと「結果の解釈」であったのが、「これからどうしたらいいか」という行動するためのリサーチが求められはじめたらしい。どうしてか、わかる?

P夫 え~と。作れば売れる時代は、やったことの結果が正しかったかがメインの課題だったけど、売れなくなると、どうしたら売れるようになるのかを考えないといけなくなるから。

owl そう。ところが、当時、このようなニーズに応えられるリサーチ会社は少なかったといっているね。1977年にリサーチユーザーを対象とした調査結果が出ているんだけど、市場調査機関に対し「不満・意見あり」という回答が51%になっていることからも、明らかだろうね。

Q子 半分の回答者が不満といっているんですか?たいへん・・・。

P夫 なんで、そうなっているんですか?

owl そこが、調査会社とマーケティング力の問題、リサーチ業界の構造的な問題なんだよ。ちょっと長いけど、そのまま引用するね。

マーケティング・リサーチは技法の体系ではありません。それはリサーチを実施する主体の目的意識、リサーチ結果の期待効用、リサーチ技法の三要素が構成する企業組織の行動形態であるというべきでしょう。したがって、リサーチ会社が顧客とする企業の期待に応えるためには、顧客企業におけるマーケティングのあり方を研究する機能と、そのための素材として情報を収集・加工する機能とが有機的に結びついていなければなりません。いいかえれば、研究機能と情報収集機能はリサーチ会社の二本の足であって、そのどちらかが弱体であってもユーザー側に不満が生じるのです。従来のリサーチ会社についてこの点をみると、フィールドワーク、集計機能を中心とした情報収集処理機能だけが重点的に拡充され、マーケティングに対する研究機能が著しく弱体であったことは否定できません。この原因はすでに主要なものについては指摘しましたが、基本的にはリサーチ会社自体がその責任を負うべきでしょう。「研究」というおよそ生産性の上がらない業務をできるだけ省略して、サンプリング・サーベイ業務を外延的に拡大することによって生産性の向上を図ることが、高度成長期にリサーチ会社が採用した一般的な政策だったからです。

P夫 なるほど。「ルーチンワークは、創造性を駆逐する」という言葉があるみたいですけど、それなんですかね。でも、これは70年代くらいの話ですよね?いまではどうなんですか?

owl そう、このような状況の中で、量産・量販ではない新しいリサーチを求めた人達もいたみたいだね。まさに、今の私みたいに。1965年~75年に設立されたリサーチ会社も多いみたいなんだけど、このころにできたリサーチ会社の大半は、このような気持ちを抱いてリサーチ会社からスピンオフしたリサーチマンだったらしいよ。

P夫 だったら、その会社に仕事を頼むといいんですよね?

owl ところが、事はそんなに簡単じゃない。スピンオフした人達の会社は、基本的に規模が小さい。大きくした人達もいるとは思うけど。そうなると、やはり業務量をこなせなかったり、とくに大規模調査となると対応できなくなったりするんだよ、どうしても調査には人手が必要だから。ほんとに、労働集約型産業の典型なんだよ、リサーチ業界は。だから、調査テーマによって、いろいろとリサーチ会社を使い分けているクライアントも多いんだよね。

Q子 でも、最近はインターネット調査がでてきて、だいぶ効率よくなったんですよね?この前、朝日新聞にそんな記事が出ていましたけど(注:2006年10月26日「繁盛 ネット世論調査」)

owl 確かにそうだね。インターネット調査は、これまでの労働集約型のリサーチをシステマティックに大変革したよね。おかげで、時間もコストも格段にリーズナブルになった。
ただね・・・。これは私見だけど、インターネット調査会社は、まさに「情報収集機能だけを拡充」した会社だと思うんだ。極論すれば、リサーチ業界をひと昔前の状態に逆戻りさせた。彼らの利益の源泉は、自分たちが持っているモニターをいかに効率よく回すか、だから。集計とか分析とか人手がかかることをやっていると、効率がよくないからね。さすがに、それだけではいけないと研究機能を充実させよう、マーケティング力をつけようという動きもあるとは思うけど。
それと、もうひとつ。インターネット調査によって、調査の単価は明らかに下落した。不思議なことに、インターネット調査以外でもね。そうなると、売上を上げるためには、これまで以上の本数の調査をこなさないといけない。結果として、従来の調査会社も、また情報収集機能に注力せざるを得ない状況に追い込まれているんじゃないかと思うんだ。やっぱり、ひと昔前の状況に逆戻りだよね・・・。

P夫 でも、そんな会社が付け入る状態にあったというのも、また事実ですよね。

owl そう。この著者がいうような「研究機能と情報収集機能」という二本足をしっかりと確立できた会社が少なかったからこそ、情報収集機能だけを武器に参入することができたともいえる。
裏返せば、リサーチを発注する側も、リサーチ会社を育てることをしなかったということになるのかもしれないけど・・・。これは、ニワトリとたまごだね。できないから期待しなくなったのか、期待されないからいつまでもできないのか・・・。

P夫 そうかな・・・。リサーチ会社と一緒にやっていきたい会社はいっぱいあると思うけどな。少なくても、うちみたいに、これまでリサーチをあまりやってこなかった会社は。

owl うん、そう思うよ。そう思ったからこそ、フリーになろうと思ったんだけどね(苦笑)。
それに、いまのリサーチ会社すべてがマーケティングが弱いわけじゃないと思うんだ。そういう志向をする人の絶対数が、各社に足りないだけでね。メーカーのマーケ職の人を懸命に中途採用しているという噂も聞くし。

P夫 あれ?だけど、リサーチって結構難しいですよね?マーケをやっていれば、リサーチもできるんですか?

owl ポイントを突いてるね。確かにマーケティングをやってきた人は、リサーチの素養は持っているはずだ。ただ、真の理解をできているかとなると多少の疑問もある。社内にリサーチセクションがあって、そこのスタッフだったというなら別だけど。クライアントサイド、つまりリサーチの発注側ではマーケティングやデータからの発想はプロだけどリサーチはよくわからない、一方のリサーチ会社ではリサーチはプロだけどマーケティングはよくわからない。こんな状況に陥っていると思うんだ。するとどうなるか?ほんとうにマーケティングに役立つリサーチができているかどうかについて疑問がでてくるよね。
でもね、ここがポイントでもあるんだけど。日本の企業は、リサーチをどこに頼んでいると思う?

Q子 それは、リサーチ会社でしょ?あたりまえじゃないですか。

owl ところが、そうでもない。とくに、社内でリサーチセクションを持っていない会社とか、事業部などでちょっとリサーチを頼みたいという時は、広告代理店に頼む場合が少なくないんだ。広告代理店は、マーケティング・リサーチの初期から社内に専門セクションを作ったりしているわけだから、リサーチについても結構理解しているし、マーケティングに関してはプロだからね。とくに、「これからどうすればいいか」というテーマの時には、この傾向が強いと思う。なぜなら、リサーチは手段であって、リサーチの目的意識に沿って、結果からどのような提言をもらえるか、どれだけ今の自分の仕事に役立つ情報が得られるかが必要なんだ。その点、広告代理店は、マーケティングの視点からデータを読んで、ずばっと言ってくれるからね。発注する側からすると、とても効率的だよね。

P夫 なるほど・・・。広告代理店に頼めばいいのか。

owl ちょっと待って。そんなに短絡的に考えないでほしいな。確かに、広告代理店のスタッフは、リサーチについても結構理解しているけど、とはいえ、やはりリサーチ会社のスタッフにはかなわない。と、思うけど・・・。たぶん・・・。そんなこともないかな・・・。

Q子 あれ、ずいぶん弱気・・・。

owl なので、その辺りをきちんと見極めないとね。それに、彼らも商売をしているわけで、リサーチだけを広告代理店に発注できるのか?そこのところは、よくわからない。基本的には、広告クライアントに対するサポート業務としての位置づけだと思うんだけどね、リサーチは。ただ広告代理店は、広告の制作やメディアバイイングをしているだけでなく、商品開発はもとより、クライアントの戦略部分に深く携わっていることが多いから、そのような業務の一環としてリサーチも主業務となっているという面もある。とくに、アカウントプランニングという概念が広まってからは、なおさらだと思う。この辺りのことについては、参考になる本もあるから、また後で紹介しよう。

P夫 リサーチ会社が情報を収集する機能だけだと・・・。

owl そうなんだよね。この本の中でも、情報技術革新によってリサーチ会社は不要になるという意見もあるといっている。しかし、として、つぎのように記述しているね。

しかし情報の収集はマーケティング・リサーチ体系のごく一部なのであって、どのような情報をどのような方法で収集し、どういった分析を行うかといった部分が大きな比重を占めているのです。(・・・中略・・・)またリサーチ会社としては、単なる「情報の中間流通業者」に終わらないためにも、マーケティング全般への広い視野と専門的ノウハウの蓄積にいっそうの努力が求められているといえるでしょう。

何度も言っているように、調査会社にもマーケティング・マインドを持った人はいる。現状では、調査会社の担当がこのようなマーケティング・マインドを持った人にあたるとラッキーということになるかもね。組織として、マーケティング・マインドをいかに作っていくか、これが今の調査会社の課題だともいえるよね。
ただ、これも何度も言っているように、「研究機能と情報収集機能」という二本足が必要なんだよ。マーケティングの研究機能にばかり力が入り過ぎて、情報収集機能が御座なりになったら、これも調査会社としては失格。このバランスがとても難しい。

Q子 業界の歴史と問題はわかったんですけど、今現在のリサーチ業界、リサーチ会社はどうなっているんですか?そこが知りたいです。

owl そうだね。では、次回は今のリサーチ業界についてみてみよう。
本題のリサーチのノウハウになかなか入れないな・・・。




マーケティング・リサーチ業界の歴史1

owl では、日本のマーケティング・リサーチの成り立ちを少し勉強してみよう。
「マーケティング・リサーチ業界」の本にも少し触れられているけど、今回は「マーケティング・リサーチ入門(第2版)」という本を参考にしながら進めるね。
(注:「マーケティング・リサーチ入門(日経文庫)」は、現在すでに第3版になっています。この版では、前の2版で記述されていた『マーケティング・リサーチの歩み』という章が削られているので、以下に記す内容は読むことができません。)

日本でマーケティング・リサーチが始まるのは、第二次世界大戦の後のことなんだ。だから、まだ50年と少ししか歴史がないんだよ。

P夫 え!そんなに新しいものなんですか?だって、戦前から企業はあっただろうし、マーケティングだって、あったのでは・・・?

owl ところが、戦後なんだね。アメリカによる技術指導があって、世論調査とか品質管理、サンプリング理論というのがもたらされたんだ。だから、日本におけるマーケティング・リサーチは、主にサンプリング・サーベイによる世論調査法の普及によって作り上げられたんだね。このころできた調査機関としては、1946年の輿論科学協会、時事通信社輿論調査室、47年の電通調査局、49年国立輿論調査所(現在の中央調査社の前身)がある。

Q子 ん?初歩的な質問かもしれませんけど、世論調査とマーケティング・リサーチって同じですか?違うんですか?

owl うん、そのあたりの定義も難しいけど、ここでは広い意味での「調査」としてひと括りで考えておいて。この点も、あとできちんと考えよう。
このように、政府や新聞社、広告代理店によって世論調査として調査が始まったんだけど、57年に日本生産性本部の視察団が、アメリカへマーケティング・リサーチの視察にいっているんだ。これによって、マーケティング・リサーチというものが日本でも啓蒙されていったんだね。
そうこうしている内に、50年代後半になると日本経済も復興し、企業でもマーケティング・リサーチが現実的な活動となってきたんだ。経済白書に「もはや戦後ではない」と記されたのが1956年。ちょうどこの頃から、今の大手といわれる調査会社が続々と創業しているんだよ。
1949年総合統計調査研究所(現・綜研)
1954年中央調査社
1957年市場調査社、JMRB(現・RI)
1958年日本マーケティング研究所(JMR)
1959年マーケティング・センター、マーケッティング・リサーチ・サービス
1960年社会調査研究所(現・インテージ)、日本リサーチセンター、ニールセン
1962年ビデオリサーチ
というようにね。

Q子 知らない名前ばかりですね・・・。インテージって、聞いたことがるような気がするけど。あと、ビデオリサーチって視聴率調査ですよね。他には、マクロミルってよく聞くんですけど。

owl そうだね、調査会社はどちらかというと黒子みたいな面があるから。今、名前の出たインテージやマクロミルは、調査会社では珍しく上場している会社だから聞いたことがあるのかもしれないね。

P夫 そのころも、まだ世論調査が主体だったんですか?

owl いや、多くの会社はマーケティング・リサーチが主だよ。とくに、50年代の後半くらいには、サンプリング・サーベイ主体のリサーチ技法が定着しつつも、「モチベーション・リサーチ」という手法も導入されてきたんだ。これは、誰が買ったとか、どのくらい買ったとかという事実だけでなく、「なぜ、買ったのか」という消費者の行動と心理を解明するために開発されたんだね。グループ・インタビューとか、デプス・インタビューとか、投影法、SD法などが主な技法で、量的なデータだけでなく、質的な面を明らかにしようとするものだったんだ。

P夫 う~ん・・・。前回いっていた調査会社の問題って、まだ見えてこないですけど。逆に、すごく先進的なイメージ・・・。

owl そう。このころは、まだ今の問題は出てきてないかもしれない。もう少し時代を経ると見えてくるんだけど、それは次回に。




マーケティング・リサーチ業界って?~イントロダクション

owl だいぶ日にちが経ってしまったけど、日本のマーケティング・リサーチ業界、調査業界について話をしようか。前回の本は読んでみたかな?

Q子 はい。「マーケティング・リサーチ業界」って本が面白かったです。この業界って、実際のところ、どんな業界なのか知る手段があまりなかったから。

owl そうだね、「業界初のリクルート本」と銘打っているくらいだから。で、どんなところが気になったかな?

Q子 やっぱり、現場の人達の声ですね。生活者の立場を忘れずにとか、メーカーとの橋渡しとか、自分のやりたいこともこれだ!って気になりました。ただ、意外にアナログだとか、泥臭いとかも書いてあって、その辺がよくわからなかったかな・・・。

P夫 僕は、実際に会っている調査会社の人とのギャップを少し感じたんですけど・・・。えーと、「これからマーケティング・リサーチを志す人にとっては、マーケティング・リサーチだけを知っていればいいということではなく、マーケティング活動全体を知っておくことが必要です」ってとこ。こちらも、まだマーケティングについてはよく知らないので、その点も相談したくて調査会社の人とも話をするんですけど、ほんとうに知っている人って少ないんじゃないですか?

owl うん、その点は難しい問題だね。たとえば、カルロス・ゴーンさんにスカウトされて、今は日産の市場調査部門を取り仕切っている星野朝子さんという人がいるんだけど、その人は元・社会調査研究所、今のインテージの人なんだ。他にも、調査会社出身でマーケティングの視点で本を書いている人もいる。だから、調査会社にマーケティングを知っている人がいない、というわけではないけど、絶対数としては少ないのかもしれないね。
(少し古いですが、星野朝子氏のプロフィール・インタビュー記事はこちら。調査会社の印象についても話しています。)

それと、マーケティング・リサーチ業界で働く人へのメッセージになれば、ということで調査会社の社長さんが書いているブログがあるんだ(→こちら)。この人の意見には賛同できることが多くて、その中でこんなことが書いてある。

マーケティング・リサーチという仕事は一体どういう仕事なのでしょう?
「消費者の声を様々なかたちで掬い上げ、企業の商品やサービス開発に生かす仕事」。その通りです。その通りだとしたらこんなにやりがいのアル仕事はないはずです。でもそれが「ただのアンケートをする会社」と言われればなにかレベルの低い業界の一員のようにしか見られませんよね。
調査依頼主である企業から、こうした企業の視線をマーケティング・リサーチ会社の若い人たちが肌に感じ始めた時から、悩みは始まります。同じ代理業者なのに、片や広告代理店はあこがれの的であり、一方で調査会社はお給料も他の業界から見れば安く、どちらかというと日陰の立場です。これは日本にマーケティング・リサーチが導入されたいきさつにも関係があるようですが、果たしてこれでいいのでしょうか?

ここが、日本の調査会社の難しいところなんだ。
あえて「日本の」といったのは、どうも欧米の調査会社では違うらしいということ。広告代理店の人と話をすると、向こうのリサーチャーはとても社会的なポジションが高いという話をよく聞くんだ。

P夫 確かに、調査会社がマスコミに出てくることって少ないですよね?出てくるのは、シンクタンクとか広告代理店の人が多いみたい・・・。なぜ、そうなったんですか?

owl うん、それには、日本の調査業界の成り立ちから見ていかないといけないんだ。
長くなりそうだから、これは別のページで。