2002年のノーベル経済学賞は、ダニエル・カーネマンという方が受賞しています。 その時、心理学を経済学に応用した功績によりというような紹介をされ、興味をもった記憶があります。しかし、当時はカーネマン教授の著書は日本語訳のものはなく(いまでも?)、また行動経済学についての書籍もなく、どのようなものかわからずにいました。
それが、ここにきて「行動経済学」「経済心理学」「神経経済学」というワードを使った本が立て続けに出版され、この年末・年始はこれらの本を読んでいました。 (さらに、朝日新聞2007年1月1日版第4部「Oh!脳」でも、ニューロマーケティングについてとりあげています。かなり、HOTなテーマになってきているのでしょう。) いろいろと考えさせられることも多く、マーケティング・リサーチでも役立つ知見が多いです。 今回は、個人的な備忘録もかねて、「行動経済学」のポイントとなる理論をまとめておこうと思います。 (ただ、私の経済学についての知識は、大学の一般教養レベルでしかないため、本格的に経済学を学んだ方からすると反論等の余地はあるかもしれません。その点については、ご容赦ください。)
■標準的な経済学? (従来の経済学を「標準的経済学」というのでしょうか?)
「標準的経済学」が前提としているのは、「経済人(ホモ・エコノミカス)」という人々であり、超合理的に行動を行うことを前提としている。 そもそも、人間はそんなに合理的に行動しているのか?
■ヒューリスティクスとバイアス
ヒューリスティクスとは、『問題を解決したり、不確実な事柄に対して判断を下す必要があるけれども、そのための明確な手掛かりがない場合に用いる便宜的あるいは発見的な方法(『行動経済学』より)』であり、対比される言葉として「アルゴリズム」がある。
1:利用可能性ヒューリスティクス あることを判断するときに、最近の事例や顕著な例を思い出し、それに基づいて判断する。
2:代表性 ある事象が、その集合(ある事象を含む全体)の特性をそのまま表していると判断する、あるいは、ある事象がそれが属する集合と類似していると判断する。 →ギャンブラーの誤謬、平均への回帰の無視を生じる
3:繋留(アンカリング)と調整 不確実な事象について予測をするとき、はじめにある値(=アンカー)を設定し、その後で調整を行って最終的な予測値を確定するが、はじめの値(=アンカー)に必要以上にひきずられて十分な調整ができないことからバイアスが生じることがある。 →確証バイアス(自分の信じることを裏付ける情報ばかり集め、反対情報を無視する)
■プロスペクト理論
『プロスペクト理論とは、「損失をそれと同じ規模の利得よりも重大に受けとめる」「わずかな確率であっても発生する可能性があるケースを強く意識する」という、人々にある程度共通に見られる行動パターンを理論的に説明するためのツール(『行動経済学入門』)』
1:価値関数の3つの性質 参照点依存性=価値は参照点(原点)からの変化またはそれとの比較で測られ、絶対的な水準が価値を決定するのではない 感応度逓減性=利得も損失もその値が小さいうちは変化に対して敏感であり、利得や損失の値が大きくなるにつれ、小さな変化の感応度は減少する 損失回避性=同じ額の損失と利得があったならば、その損失がもたらす「不満足」は、同じ額の利得がもたらす「満足」よりも大きく感じられる
2:確率加重関数 期待効用理論で前提としている、ある事象の起こる確率は線形ではなく、非線形の重みが付けられ価値(効用)と掛け合わされる。(確率1/3は、1/3とは感じられず、それをさらに解釈した違った重みで受け取られる)。 結果、確率が小さい時には過大評価され、確率が中ぐらいから大きくなると過小評価される。
3:保有効果と現状維持バイアス 保有効果=人々があるものや状態を実際に所有している場合には、それを持っていない場合よりもそのもを高く評価する 現状維持バイアス=人は現在の状態からの移動を回避する傾向にある
■フレーミング効果
『問題が表現される方法を、判断や選択にとっての「フレーム」と呼び、フレームが異なることによって異なる判断や選択が導かれることを「フレーミング効果」と名付けた。(『行動経済学』)』
■異時点間の比較
決定の時点と損失や利得を得る時点が時間的に離れているような意思決定の問題を考える場合は、時間が効用や意思決定に及ぼす影響について考慮しなければならない。
フレーミング効果とか代表性などは、マーケティング・リサーチでもよく耳にする言葉でもありますし、私たちの日常経験からするとあたりまえのことばかりのようにも思えますが、実は「標準的経済学」からは逸脱する理論のようです。 これらを、マーケティング・リサーチの実務上で、どう応用させていくかはこれからさらに考えないといけませんが、ひとつの理論として覚えておいて損は無いと思います。
つぎからのエントリーで、参考にした本を紹介していきます。
[PR] Vバランス