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花王の強さ

今日のテレビ東京「カンブリア宮殿」は、花王会長・後藤卓也氏でした(番組HPは、こちらへ)。
花王については、いつか書いておきたいと思っていたのですが、いい機会ですので。

番組で語られていた花王の強さは5つ。

1.イノベーション(革新)だけを求めるのではなく、インプルーブメント(改良)を続ける
2.お客様の声(とくに苦情)を大切に
3.キョロキョロする好奇心
4.まじめ、まじめ、まじめ
5.偉大なる凡人集団

最後に司会の村上龍さんは、「面白みがないかもしれない。けれど、あたりまえのことを、あたりまえに続けることが強さ」というようなコメントをしていましたが、まったく同感です。
ただ、ポイント、ポイントで紹介されていた花王内部の動きは、「あたりまえに見えるけど、あたりまえに行われていないこと」が多かったように思います。

気づきとしていくつかポイントをまとめておきたいと思います。

  • 後藤会長の行動自体が、世間でいう「あたりまえ」からは外れているのではと思いました。多くの社長、会長といわれている人が、ふだんどのような生活をされているのかは、よく存じ上げませんが、後藤会長は社長時代から電車で通い、掃除・洗濯も自分でなさっているそうです。常に、「ふつうの生活」を続ける。そして、キョロキョロと好奇心をもって、周りを観察し続ける。トップ自ら、このような行動を取る企業は、DNAとして社員も当然、そのような行動を取るようになるのではないでしょうか。そのような中からも、改良の種は見出されていると思います。
  • 「アタック」は、発売以来20回以上も改良を重ねているそうです。「花王といえば、改良を重ねることで、ロング・ブランド化する」というのはマーケティング界では常識となっているので、このこと自体には驚くことはないでしょう。では、どうやって「改良」のきっかけを得るのか。ふだんから、当然のように消費者調査を積み重ねていますが、花王の強さは「現場を観察すること」を重視し続けてきたことです。いまでこそ、「観察調査(あるいは、言葉を換えて、エスノグラフィなどといったりしていますが・・・)」は、かなり調査の場面でも重視されるようになってきたと思いますが、花王は以前から、消費の現場に入り込んで実態を捉えることを重視してきました。
  • そして、「消費者相談センター」と、それを活かす仕組み(「エコーシステム」といっていたと思うのですが、今では、この呼称は使われなくなったのでしょうか・・・)。
    多くの会社に、「消費者相談窓口」はあると思います。しかし、そこに集まった声をどの程度、活用できているのか。花王では、1日500件(年間で約12万件)の声がセンターに集まるといいます。そして、次の日には、役員を含めた全社員が、この声にアクセスでき、役員自らがこの声を読みます。お客様の声を役員自らが、毎日チェックする企業がどのくらいあるでしょうか?(花王の役員会では、このようなお客様の声がプロジェクターで投影され、それについて議論が行われているというようなことを聞いたこともありますが・・・)
    そして、役員ばかりでなく、社員レベルでも改良できそうなことについては、すぐに改良を行う。全社で、お客様の声を真摯に聞く、それに応えるという姿勢ができているということが、すばらしいことだと思います。

番組の中で紹介されていたのは、以上のようなことでしたが、花王は流通でも、コミュニケーションでも、独自の考えで行動を行っています。このあたりについては、様々なマーケティングの教科書で触れられることも多いので、そちらをご覧ください。
とにかく、花王を勉強することが、マーケティングを勉強することに繋がるといっても過言ではないと思います。

ちょっと視点を変えて、他の本からも、花王についていくつか紹介を。
まずは、「アタック」の開発にあたっての調査について。
(参考図書:「ゼミナール・マーケティング理論と実際(TBSブリタニカ)」~残念ながら絶版になっているようです)

  • 「アタック」は、一般的には、それまでの洗剤が大きくて重い(番組では4㎏と紹介されていました)という消費者の不満から、開発されたとなっています。ところがアタック以前の1975年には、「ザブ」や「ニュービーズ」で洗剤の小型化商品が売り出されるものの失敗に終わったという現実があります。
    このときに、「小型化をすると、性能は同じでも評価が高くなるが、売りには繋がらない」という課題が残されました。
  • 再度、洗剤小型化への挑戦を始めたのが1983年。ここから、様々な調査が行われます。

    1:社外製品テスト
    →剤状評価のための8週間の長期使用テスト
    2:社内製品テスト
    →包装形態、箇装、計量器具などについて、秘密保持のために社内でテスト
    3:洗濯使用実態調査
    →濃縮型洗剤の潜在需要、マーケットサイズ確認のための調査
    4:長期定性パネル調査
    →プロダクト・コンセプト+製品の2週間使用テスト&事後グルイン
    5:C/Pテスト
    →定量的なコンセプト/プロダクト調査
    6:長期定性パネル調査(2回目)
    →コンセプト+製品の6週間使用テスト
    7:コンセプトテスト
    →コンセプトの方向性確認のための定量調査
    8:C/Pテスト(2回目)
    →定量的なコンセプト/プロダクト調査
    9:容器使い勝手テスト
    →容器形状決定のためのテスト
    10:粒子色の嗜好性テスト
    →4種類の粒子の比較テスト
    11:社外製品テスト(2回目)
    →競合商品とのブラインド・コンペアテスト
    12:社外製品テスト(3回目)
    →前回試作品&競合商品とのコンペアテスト
    13:ネーミングテスト
    →4案での比較テスト
    14:コンセプトテスト(2回目)
    →表現2案の比較テスト
    15:C/Pテスト(3回目)
    →表現2案+プロダクトの6週間使用テスト
    16:コンセプトテスト(3回目)
    →これまでの調査結果からの修正案によるコンセプトテスト
    17:新聞広告タイプのコピーテスト
    →広告表現づくりのためのテスト
    18:パッケージデザインテスト
    →4案での比較テスト
    19:パッケージデザインテスト
    →シェルフインパクトテスト(既存11銘柄との比較~モナディック&一対比較)
    20:社外製品テスト(4回目)
    →最終2案でのコンペアテスト
    21:CFオンエア前テスト
    →完成TV-CFのオンエア前テスト

  • と、これだけの調査を重ねて最終商品に辿り着いています(長い・・・)。
    さらに、このときに、「売上予測モデル」の開発にも取り組んでいます。
    この「売上予測モデル」について、筆者の陸正氏はつぎのように述べていますが、至言だと思います。

「予測モデルをもつことにより予測にかかわるいろいろな要因を論理的、組織的に考えるマーケティング風土が生まれ、根づいていくことが、モデルの第一の効果であり、モデルによる予測が当たるか当たらないかは副次的な要素といえよう。」

  • 1987年に「アタック」は上市されますが、花王の調査はここからも続きます。

    22:トラッキングサーベイ
    →発売直後(TV広告1000GRP時点)での知名、使用状況の把握(電話)
    23:トラキングサーベイ(2回目)
    →TV広告2000GRP時点での知名、使用状況の把握(電話)
    24:CF電話調査
    →TV-CFオンエア後のCF認知・評価、購入意向の把握
    25:購入者追跡調査
    →発売直後に店頭での面接調査&1ヵ月後の追跡調査
    26:トラッキングサーベイ(3回目)
    →TV広告3000GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
    27:購入者追跡調査(2回目)
    →地方都市での購入状況の把握
    28:トラッキングサーベイ(4回目)
    →TV広告6000GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
    29:トラッキングサーベイ(5回目)
    →TV広告7500GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
    30:意識実態調査
    →新型洗剤市場の今後を占うための意識&実態調査
    31:洗濯実態調査
    →市場実態の把握と、新型洗剤市場の意識&実態調査
    32:トラッキングサーベイ(6回目)
    →発売半年後の知名、使用状況の把握(訪問)
    33:トラッキングサーベイ(7回目)
    →9ヵ月後の知名、使用状況の把握(訪問)

参考書に書かれていた「アタック」に関する調査は、以上です。(まさかこんなに長くなるとは思っていませんでしたが・・・)
一度失敗しているカテゴリーであり、市場開拓型の新商品であったからこそだとは思いますが、すさまじい調査の繰り返しです。
後藤氏の語っていた、「まじめに、当たり前のことをしっかりと」「ヒーローではなく、凡人が皆の力で事を成していく」を、そのまま当てはめられそうな事例になっています。

もう一冊、花王の仕事ぶりを紹介した本があるのですが、いい加減長くなってしまったので、エントリーを改めることにします・・・。

PS.
テレビ放送の欠点は、こうやって紹介しても、見てない人に「見たら」といえないことです・・・。
しかし、「カンブリア宮殿」については、BSデジタル放送とスカパーで再放送があるようなので、これらの放送を見られる人は、ぜひご覧いただければと思います。
再放送のタイミングは、HP(→こちら)で紹介されていますので参考にしてください。






「NO1」が、そんなにいいのか?・・・

広告βさんは、最近のCMについて、つぎのように書いています。

ほとんどのTVCMが説明口調なんですよ。商品の説明をずっとしてる。つまんない。
なんか最近、その傾向がどんどん増しているように感じます。
(『宣伝部はナンパの厳しさを知っているか』)

ここでいう説明口調のCMには含まれないかもしれないし、もしかしたら広告βさんの趣旨に反するのかもしれませんが、最近のCMでとても気になることがあります。

それは、「○○調査で一番になりました」「みんなに支持されています」というニュアンスのCMの多さです。
以前から、某通販化粧品会社はこの「NO1」訴求を行っていて、そのときからかなり違和感を感じていたのですが、最近、とみにこの手法を使うCMが増えてきている気がしてなりません。

広告βさんのナンパの比喩にたとえるなら、

「俺って、みんなの人気者なんだよね。一度、つきあってみない?」

って言っているようなものですよね?
こんな口説き文句で付き合う人がいるのか・・・?
そもそも、「みんな」って誰だよ!、どうやって調べんたんだよ!って突っ込みたくなります。小さい子供に、「みんなが持ってるから、あなたもこれにしなさい!」と言う論理と、まったく代わらないのではないかと思ってしまいます。
消費者は、そんなに分別がないのですか?

「NO1」CMに違和感を感じる要因は、3つあります。

まず、「消費者は、みんなが買っているといえば、買うんだよ。どうせ、商品の良しあしなんてわからないんだから」というように言われている気がするのです。
自分の商品に自信がないからなのか、ほんとうに消費者をバカにしているのかわかりませんが、このようなコミュニケーションが相手に伝わるとは思えません。
(でも、効果があるから広告代理店も、このようなCMを作るのかもしれませんが・・・)

ふたつめは、テレビCMで行うことについての違和感です。
商品を検討している人が、自分の意志でランキングや調査結果を参考にするというのはいいことだと思います。しかし、企業自らがランキング一位だということを、それも情報の根拠を確認する術のないテレビCMで喧伝するというのは、どうなんだろう?ということです。
テレビCMでデータの背景を説明することは、まず無理でしょう。ということは、あまりにも無責任ではないか?と思います。

そして、調査をこのように使うことについての違和感が3つめです。
これは、なにもCMでの取り上げ方に限ったことではなく、世にあふれる「調査結果」というもの全般にも感じることなのですが。
数字は一人歩きします。しかし、その数字の根拠=誰に聞いたのか、どのように聞いたのかを確認する術を提示することなく、数字のみを発表するというのは、自覚的にであれ、非自覚的にであれ、かなり罪が重い行為だと思うのです。
極論すれば、調査結果なんて、自分の都合のよいように操作することはできるからです。
このようなCMを見た人が「ほんとかな?、自分の感じじゃそんなことないけどな?」と思えば、やっぱり調査なんてあてにならないな・・・、ということに繋がるんじゃないかと危惧もします。

「なにも、そんなに肩肘張って言うことでもないんじゃないの?」という意見もあると思います。「しょせん、CMなんてそんなもんでしょ?」というように思っておけばいいのかもしれません。
でも、こんなんでは、広告βさんが言うように、やっぱり「つまらない」。
そして、調査にとっても、CMにとっても、さらにいえばマーケティングも、消費者に見向きもされなくなるんではないかと思うのです。

みなさんが、「そんなCMは、気にしてないよ」と言ってくれれば、それでいいのかもしれませんが・・・。
(だとしたら、なおさら、こんなCMはなくなってほしい。もっと、面白いCMが増えて欲しいとも思うんですけど・・・。)






行動経済学?、経済心理学?、神経経済学?

2002年のノーベル経済学賞は、ダニエル・カーネマンという方が受賞しています。
その時、心理学を経済学に応用した功績によりというような紹介をされ、興味をもった記憶があります。しかし、当時はカーネマン教授の著書は日本語訳のものはなく(いまでも?)、また行動経済学についての書籍もなく、どのようなものかわからずにいました。

それが、ここにきて「行動経済学」「経済心理学」「神経経済学」というワードを使った本が立て続けに出版され、この年末・年始はこれらの本を読んでいました。
(さらに、朝日新聞2007年1月1日版第4部「Oh!脳」でも、ニューロマーケティングについてとりあげています。かなり、HOTなテーマになってきているのでしょう。)
いろいろと考えさせられることも多く、マーケティング・リサーチでも役立つ知見が多いです。
今回は、個人的な備忘録もかねて、「行動経済学」のポイントとなる理論をまとめておこうと思います。
(ただ、私の経済学についての知識は、大学の一般教養レベルでしかないため、本格的に経済学を学んだ方からすると反論等の余地はあるかもしれません。その点については、ご容赦ください。)

■標準的な経済学?
(従来の経済学を「標準的経済学」というのでしょうか?)

「標準的経済学」が前提としているのは、「経済人(ホモ・エコノミカス)」という人々であり、超合理的に行動を行うことを前提としている。
そもそも、人間はそんなに合理的に行動しているのか?

■ヒューリスティクスとバイアス

ヒューリスティクスとは、『問題を解決したり、不確実な事柄に対して判断を下す必要があるけれども、そのための明確な手掛かりがない場合に用いる便宜的あるいは発見的な方法(『行動経済学』より)』であり、対比される言葉として「アルゴリズム」がある。

1:利用可能性ヒューリスティクス
あることを判断するときに、最近の事例や顕著な例を思い出し、それに基づいて判断する。

2:代表性
ある事象が、その集合(ある事象を含む全体)の特性をそのまま表していると判断する、あるいは、ある事象がそれが属する集合と類似していると判断する。
→ギャンブラーの誤謬、平均への回帰の無視を生じる

3:繋留(アンカリング)と調整
不確実な事象について予測をするとき、はじめにある値(=アンカー)を設定し、その後で調整を行って最終的な予測値を確定するが、はじめの値(=アンカー)に必要以上にひきずられて十分な調整ができないことからバイアスが生じることがある。
→確証バイアス(自分の信じることを裏付ける情報ばかり集め、反対情報を無視する)

■プロスペクト理論

『プロスペクト理論とは、「損失をそれと同じ規模の利得よりも重大に受けとめる」「わずかな確率であっても発生する可能性があるケースを強く意識する」という、人々にある程度共通に見られる行動パターンを理論的に説明するためのツール(『行動経済学入門』)』

1:価値関数の3つの性質
参照点依存性=価値は参照点(原点)からの変化またはそれとの比較で測られ、絶対的な水準が価値を決定するのではない
感応度逓減性=利得も損失もその値が小さいうちは変化に対して敏感であり、利得や損失の値が大きくなるにつれ、小さな変化の感応度は減少する
損失回避性=同じ額の損失と利得があったならば、その損失がもたらす「不満足」は、同じ額の利得がもたらす「満足」よりも大きく感じられる

2:確率加重関数
期待効用理論で前提としている、ある事象の起こる確率は線形ではなく、非線形の重みが付けられ価値(効用)と掛け合わされる。(確率1/3は、1/3とは感じられず、それをさらに解釈した違った重みで受け取られる)。
結果、確率が小さい時には過大評価され、確率が中ぐらいから大きくなると過小評価される。

3:保有効果と現状維持バイアス
保有効果=人々があるものや状態を実際に所有している場合には、それを持っていない場合よりもそのもを高く評価する
現状維持バイアス=人は現在の状態からの移動を回避する傾向にある

■フレーミング効果

『問題が表現される方法を、判断や選択にとっての「フレーム」と呼び、フレームが異なることによって異なる判断や選択が導かれることを「フレーミング効果」と名付けた。(『行動経済学』)』

■異時点間の比較

決定の時点と損失や利得を得る時点が時間的に離れているような意思決定の問題を考える場合は、時間が効用や意思決定に及ぼす影響について考慮しなければならない。

フレーミング効果とか代表性などは、マーケティング・リサーチでもよく耳にする言葉でもありますし、私たちの日常経験からするとあたりまえのことばかりのようにも思えますが、実は「標準的経済学」からは逸脱する理論のようです。
これらを、マーケティング・リサーチの実務上で、どう応用させていくかはこれからさらに考えないといけませんが、ひとつの理論として覚えておいて損は無いと思います。

つぎからのエントリーで、参考にした本を紹介していきます。




intermission

「寺子屋」お待ちの皆様(いるんでしょうか・・・?)、次の展開に向けてしばらく幕間とさせていただきます。
次回からは、リサーチの具体的なことについてやっていこうと思うのですが、どのような内容にしようかと思案中です。。。

構成は、どうしようか・・・。
教科書的にしても、つまらないし・・・。
とはいえ、ばらばらにやっても理解しずらくなるか・・・。

内容はどうしようか・・・。
これだけ、調査環境が変わっているのに、教科書的にやってもしかたがないな・・・。
でも、原理原則を知らずに応用だけやっても、確かな理解にならないし・・・。

事例、エピソード・・・。
どこまで踏み込もうか・・・。
創作で、どこまで真実味が出せるか・・・。

などなどと、考えております。
年明けから新シリーズとしてはじめようと思いますが、「こんな内容を期待している!」「こんなことが知りたい!」というようなことがありましたら、どんどんコメントください。
参考とさせていただきます。

それまでは、本紹介をメインに進めていきます。
⇒「マーケティング・リサーチの寺子屋~出張書店」で紹介している本を中心に)

寺子屋にあわせて紹介しようかと思っていたのですが、それではいつのことになるやら・・・、なので、ベーシックなものから、そうでないものまで、マーケティング・リサーチや市場調査に参考になると思われるものを、どんどん出していこうと思っています。
あらかじめ、こちらで興味があるものを読んでおいてもらった方が、blogの内容もより理解しやすくなると思いますし。。。
(年末年始の休みにも入りますし・・・)

話はかわりますが・・・
今日の「カンブリア宮殿(テレビ東京)」は、医師の鎌田實さんでした。
以前から個人的に思っていたことに、リサーチャーはお医者さんと同じ気持ち、姿勢が必要ではないか、ということがあります。
相手が、人間か、企業や組織か、という違いはありますが、どこに問題があるのかを適切に判断できることが必要ではないかと。そして、問題や課題を適切に伝え、クライアント(患者さん)のよくなりたいという気持ちに応え、よくなるための行動を手助けすることが大切なのではないかと。
ただ、お医者さんは自分で処方や施術を行うことができますが、リサーチャーはこれらのことを自分で行うことはできません。これは、大きな違いですが。

今日の鎌田さんの発言で、強く同意したことはつぎのことです。
カンブリア宮殿のHPより引用させていただきました)

「医学は生物学とは違い、人間科学である。人間の疾病を部品の故障というようなデカルト的なとらえ方をせず、対象の個別性やその人が生きてきた歴史に配慮し、それぞれの『生きている意味』を尊重して、治療していくべきではないだろうか」
「ぼくら医療者はつい、肺炎という疾患だけをとり出して、入院が必要という常識を振りかざしてしまう。彼は自分の命全体を見つめながら、多様なファクターを多重に分析し、入院が必要かどうか考えていた。ぼくら医療者はこの患者のわがままをもっと大切にしなければいけない」

よく、西洋医学と東洋医学の違いなどと議論されることですが、患部にだけ注目し要素還元主義的な治療を行うのか、人体を小宇宙とみたててホリスティックな立場で治療を行うのか。。。
医療にかかわらず、哲学でも西洋と東洋の違いとしていわれていることですよね。
(たぶん・・・です。医学も哲学も専門ではないので、間違いがありましたらご指摘ください)

で、リサーチ。
ひとつのデータや、特定の事象にとらわれ、木を見て森を見ずになってしまうことがあります。また、クライアントの背景や周辺情報、これまでの過程や結果を見ずに分析を行い、ピントはずれの結論を導きだすこともあります。
いずれも、戒めたいことです。
クライアントにとってのリサーチャーは、かかりつけのお医者さんのように、そのクライアント全体を視野に入れ、過去のリサーチ結果もふまえながら、仕事をしていくべきだと思っていますし、そうありたいと思っています。
(リサーチャーとお医者さんを一緒にするのは、失礼かもしれませんが・・・)

なので、「コトー先生」や「医龍」や「救命病棟24時」や「白い巨塔」や・・・、
医療関係のドラマを見るのが好きなowlなのでした・・・。

視聴率はどこへ向かう?

朝日新聞に3回シリーズで、「視聴率のふしぎ」という記事が連載されていました。
(2006/11/30,12/5,12/6)

2003年でしたでしょうか、視聴率買収事件が起こり、にわかに注目を浴びた「視聴率」。朝日の記事は、今一度、「視聴率」がどのようなもので、いまどのような問題を抱えているのかを整理しています。
(2003年の事件のとき、同時に「調査」自体も注目をされたと記憶しています。サンプル数と精度の問題で。ビデオリサーチさんが一生懸命説明してくれましたが、一般的にはサンプル数が多ければ多いほど、単純に精度が高まるという認識が強いようです。それにかかるコストを度外視して・・・。)

テレビ局にとっては、唯一で最大といっていい営業指標となる視聴率。視聴率によって、スポット広告の料金が決定するのですから。
しかし、

世帯視聴率への疑問が広告主に広がり始め、さらにゴールデンの帯の視聴率も下がり始める。広告主は、どこにCMを投下すれば必要な購買層に効果があるのか根拠を求めたい。加えてネット上での広告効果に注目が集まる時代。(11/30記事)

「個人視聴率」や「視聴質」の問題は、何も今にはじまった問題ではないですが、今後一層「視聴率」の捉え方についての議論が深まるのは自明でしょう。インターネット広告の拡大、ハードディスクレコーダーやPCなど大量録画や検索が可能なツールの登場、そしてテレビ自体も地上デジタル放送、ワンセグへと移行することになります。他にも、ケーブルテレビや、スカパー/WOWWOWなどの衛星放送に、GYAOのようなインターネット放送・・・。
一昔前のような、『CMを見るのは民放テレビで』という時代は、過ぎ去ろうとしているのですから。

まず、いま現在、新聞等で発表される「視聴率」はどのように調べられているのでしょうか?この点を確認しておきます。
ビデオリサーチのホームページに、詳しい説明が出ています。
TV RATING GUIDE BOOK (ビデオリサーチ社)

この説明をみると、すでにビデオリサーチでも「個人視聴率(個人ベースでの視聴率)」への対応は行っているようです。
(そもそも、視聴率が『世帯ベース』であることを、どれくらいの人が認識しているかという問題もあります。決して、『日本人の○○%が見た』ではないのです。調査データを読むときは、このような点も注意が必要です。)

そして、「視聴質(番組がどのように見られているのか)」への取組としては、テレビ朝日と慶應義塾大学による共同プロジェクトがあります。
リサーチQ (テレビ朝日)
  (詳細については、フレーム下の「リサーチQ概要」を参照)

リサーチQへ登録した人を対象者としたインターネット調査で、一日の回答者数は4500程度のようです。ビデオリサーチが行っている視聴率調査と比べてしまうと、対象者の代表性についての厳密性はありませんが、検証上は実用に耐えるものになっているとしています。

そして、アメリカの事例ですが、広告について次のような記事もありました。
トヨタが米テレビ界に一撃、「印象に残らない番組はダメ」 (NBニュース2006/8/7)

米国トヨタ自販が、広告費を支払うにあたって「番組関心度」による保証を求めるというものです。いってみれば「視聴質」によって、広告費を変動しようということです。この動きが実際に行われているのかどうかは定かでではありませんが、すでにこのようなニュースもでるようになっています。

ここで少し視点を変えて。
実は、「CMそのもの」についての評価を行っている企業もいくつかあります。
代表的なのは、「CM DATABANK」でしょう。ここで、年間アワードを獲得すると、企業サイドでもホームページ等で、受賞したことを発表するくらいですから。
CM DATABANK (CM総合研究所)

他にも、CM放送回数を指標にしている
CM@Navi (宣伝会議&ビデオリサーチコムハウス)

「印象に残った」という指標でランキングを行っている
MC-CMインパクト (マーケティングセンター)

などがあります。
興味がある方は、それぞれのサイトを訪問してみてください。

「個人視聴率」「視聴質」「CMそのものの評価」・・・。
このように、これまで唯一最大の指標といわれていた「視聴率」がゆらいでいる今、「視聴率」がどこへ向かうのかについては、関心をもってみていきたいと思います。
(どこの調査会社がつぎの覇権を握るのか、という意味でも。ビデオリサーチさんだとは思いますが・・・。)

朝日の記事では、つぎのように締めくくっています。

広告主や民放、広告会社の3者は、デジタル時代の視聴率調査の研究に取り組み始めた。しかし「ビジネスモデルが確立されていない以上、どんなデータが必要なのかもわからない」といった本音も聞こえる。
視聴者とテレビとの関係を示す最大の指標、視聴率。姿、形や存在価値はどう変わるのだろうか。(2006/12/6記事)



リサーチをきちんと使う

今週は、ばたばたしておりまして、投稿できず・・・
今日は、そのばたばたのひとつ、某セミナーで思った「そうだよ!」について。

ということで、新たなカテゴリーをつくりました。

「アハ!または???」

「アハ!」は茂木健一郎氏をご存知の方はわかると思うのですが、英語でいうところのaha!のように、なるほど!、そうか!という感じでしょうか。
セミナー、テレビ、新聞、ブログなどで、「これは!」と思ったことを平文でご紹介していきます。たまには、「???」なことも織り交ぜながら(一番最初に書いた「巷の調査」も、ここで・・・)

本題です。
そのセミナーのプレゼンテーターは、フリーペーパー「R25」の藤井編集長でした。
詳しい内容は、こちらこちらを参照していただくとして、ここではとくに調査についてお話をします。

「R25」をはじめるときに、「M1層(男性の20~35歳)って、もっとも活字から遠い人で、いくらフリーペーパーでも成功しないだろうな」と感じたという藤井編集長。まずは、彼らの調査からはじめたそうです。手法は、WEB調査とグルイン(だと思います)。
とくに、グルインはつぎのように実施されたようです。

  • グルインの最初のグループ(100人くらいだったでしょうか?この対象者数もすごいですが・・・)では、8割が新聞を読む、それも日経を読んでいると答えた。テレビも、WBSやガイアの夜明け、プロフェッショナル・・・。
  • 世間で言われている仮説=若者はネットでニュースを見るから新聞を読まない、とどうも違う、実感とも違う、と考える。「彼らは、本音で答えているのか?」
  • そこで、ネット調査で「新聞を読まない」と答えた人達だけを集めて、再度グルインを実施して、疑問を検証することを考え、実施する。
  • しかし、やはり「新聞、読んでます」という回答。ここですぐに、ネタバレ(=新聞を読まないという人を集めていること)をせずに、そのままふだんの生活について、詳細に聞いてみる。
  • ところが、ここで「新聞」が出てこない。そこで、最後の30分で、「最初に新聞を読んでいると言っていたけど、ふだんの生活に新聞が出てこないよね?」と核心に迫る。
  • これを、さらに100人で実施。

ここで得たインサイトが、R25のコンセプトや編集方針、チャネル(=どこに置くか)を決定づけることになり、ご存知のように、いまでは大成功を収めています。

いくつかポイントがあると思います。

  • 最初の100人もの回答を信じずに、さらに100人もの人の話を聞いて検証しようという態度、姿勢。
  • よくある間違い=直接、対象者に答えを聞いてしまう=この場合、なぜ新聞を読まないのか?、ではなくふだんの生活の中から、インサイトを探ろうという態度、姿勢。
  • あせらず、核心は最後の30分に。

なんか、こう書いてしまうと「あたりまえじゃないか」と思われそうですが、ほんとうにそうでしょうか?
あくまで真実を探求しようという態度、数グループでわかったような気にならずにとことん知ろうとする態度、直接答えを求めるのではなく洞察からインサイトを求めようという態度、答えがみつかりそうになってもあせらずに核心にもっていく態度。
わかってはいても、なかなか実践するのは難しいことのように思います。

調査はテクニックばかりではない、「インサイトをみつける洞察力」「はてな?と思える力」が大切なんだと、あらためて気づかされたセミナーでした。

(他に、このセミナーを聞かれた方がいらっしゃいましたら、ぜひ補足をコメントしていただけるとうれしいです。。。筆力のなさを痛感・・・。)