日別アーカイブ: 2006-12-02

「インサイト」「インサイトマーケティング」

インサイト インサイト
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2005-02-17

「インサイト」について、もう少し知りたいという方に向けての本を2冊。

まず、その名もずばり「インサイト」。
入門書として読むには手ごろな本です。ただ、あまり奥行きはありません。
インサイトとは何か、インサイトを見つけるリサーチ手法は、発見したインサイトをどうマーケティングに結びつけるのかということと、ハーゲンダッツとシックをケーススタディとして取り上げています。

ただ、この本で一番共感してしまったのは、「はじめに」に書かれていたつぎの文章でした。

(グループインタビューで)
この日の座談会も司会者の仕切りのもと、「この点はいいと思います」「ここは、こういうふうに変えたほうがいい」など、理路整然と話し合いが進んでいた。ところが、話し合いの途中でたまたま、司会者がトイレか何かの急用で部屋を出た。そのときである。鏡の向こう側(座談会会場)で、とんでもないことが起きたのは。
司会者がいなくなったとたん、対象者たちがホンネで自由気ままに話し出したのだ。「この商品は売れないと思うな」「いままでのと変わらない」「私には必要なさそう」といった声が飛び交ったのである。
さっきまでの話し合いはいったい何だったのだろう、という感じだ。もし、司会者がいるときの発言だけを元にして新製品を出したとしたら・・・。想像するのも恐ろしい。司会者が部屋に戻ってくると、何事もなかったかのように話し合いが再開されたから、一同苦笑いだ。

あってはいけないシチュエーションですが、実際にあります。なので、私は謝礼を取りにわざと席をはずすようにしています。あるいは、謝礼を配る時や、帰り支度をしている時に核心の質問をしたりします、この時はふっと気が緩む瞬間ですから。

それと、クライアントの方。グルインは、必ず同じ瞬間に立ち会うようにしてください。その場での表情や、行間の雰囲気がとても大切ですから。あとでまとめられた報告書は、極論すれば報告書のための報告書であって、そこで雰囲気や行間を伝えることは難しいですので・・・。

インサイトの本題から横道にそれてしまいましたが、とりあえず、「インサイト」ってなんだという方の入門書として、どうぞ。

図解やさしくわかるインサイトマーケティング 図解やさしくわかるインサイトマーケティング
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2006-09-22

つぎに、「インサイトマーケティング」。図解とあるように、左ページ文章、右ページチャートで構成されています。
やはり、インサイトとは何か、脳科学とインサイトとの関係、インサイトマーケティングの進め方、インサイトを発見する技術、などで構成されています。いってしまえば、ノウハウ本です。
いまのところ、インサイトについて、ある程度、実務的に書いている本はこれだけだと思うので、実務でどう使うんだろうと思われる方は、こちらの本を。
ただ、読んだからといって、ほんとうにできるかどうかは別だということを心しておいてください。さきほどのグルインの事例にもあるように、彼ら、彼女らのほんとうの心を知ることは、簡単ではないので。

「マーケティングは消費者に勝てるか?」

マーケティングは消費者に勝てるか マーケティングは消費者に勝てるか
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2005-09-01

結構、あちこちのブログでも紹介されていましたし、評判もよかったので、すでに読まれている方も多いかもしれません。個人的にも、ここ数年では、かなり共感、納得をさせられた本です。

内容は、やはり、消費者の「心」を捉えるにはどうしたらいいのか、という視点で書かれています。ただ、古典的な消費者行動論や消費者心理学ではなく、脳科学やネットワーク理論などを用いて、こういう視点でみると、こういう解釈ができるのではないかというスタンスです。当時、なんとなくもやもやとしていたリサーチやマーケティングの限界のようなものについて、なるほどね、と思って読んだことを覚えています。
ただ、やはり鵜呑みは危険ですので、その点は注意しながら読んだ方がいいと思います。(すべての本にあてはまると思いますが・・・)

どの部分を引用すると、内容が伝わるかなと思ったのですが、カバー袖に書かれているものがいいかもしれません。

・アサヒ・スーパードライとニューコーク、同じことをしてなぜ成否が分かれたのか?
・消費者は理性的に考えて行動しているのか、そもそも人間の頭の中はどうなっているのか?
・直感的判断と客観的・科学的判断、どちらがあたるのか?
・大ブームや大ブーイングはどのようなプロセスで生まれるのか?
・流行に負けないマーケティングを行うことは可能か?
・消費者はどんな価格に納得するのか?
・CRMはどの企業にも必要なのか?
・企業ブランドと商品ブランド、どちらがより消費者の行動に影響を与えるのか?
・市場調査と仮説構築、どちらを先にやるべきか?
・これまでどんなマーケティングが行われ、今、どんなマーケティングが始まろうとしているのか?

一見、理論書のように見えますが、スーパードライとニューコーク、たまごっち、韓流ブーム、マクドナルド、ユニクロなど、日本人におなじみの事例を盛り込んでいますので、読みやすいと思います。

それと、リサーチャーの方。第1章だけでも読んでみてください。マーケティング・リサーチの歴史(どういう背景で、どういう手法が出てきたのか)とか、リサーチ界の神話とも言える「ニューコーク」や「アサヒスーパードライ」の事例が取り上げられていますので。
(1章を読めば、2章も読みたくなると思うんだけどな・・・)

「アカウント・プランニングが広告を変える」

アカウント・プランニングが広告を変える―消費者をめぐる嘘と真実 アカウント・プランニングが広告を変える―消費者をめぐる嘘と真実
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2000-06

(今日は、一気にいきます。日々、チェックをされている方がいましたら、ゴメンナサイ)

今度は、「インサイト」つながりで。
この本、タイトルだけみると広告関連の本で、リサーチや調査とは関係ないやと思いそうですが、副題の「消費者をめぐる嘘と真実」の方が内容をより表していると思います。リサーチに関すること、満載です。

いま、よく耳にする「コンシューマー・インサイト」という言葉を使ったのは、おそらく日本ではこの本が最初ではないかと思います(間違いであれば、コメントをお願いします)。
(この本では、あくまで広告業界で、ですが)「インサイト」がなぜ必要で、どのような背景から出てきたのか。インサイトを探る上で、従来の調査がどのようなデメリットを抱えているのか、それをふまえた上で、ではどうしたらいいのかについて事例をふまえて紹介しています。

とくに、「3章・調査に基づいた広告が間違った方向へ」であげている様々な事例は、思わず、にやりとさせられてしまします(ほんとうは、してはいけないのですが・・・)。具体的な内容については、ご自身でお確かめいただくとして、「はじめに」で著者がこの章について紹介している部分を引用しておきます。

その前提となる考え方、すなわち消費者を喜んで受け入れる広告主や広告代理店があまりに少なすぎるという考え方に対して、我々は消費者の意見を受け入れている、なぜなら「非常に多くの調査を行っている」のだから、と異議を申し立てる企業は多い。そこで3章「調査に基づいた広告が間違った方向へ」では、そういう企業の多くは、消費者の意見を受け入れているどころか、ますます遠ざける結果を招いていると申し上げたい。
広告リサーチをすべて否定する気は毛頭無い。なぜなら、それが正しく行われたときの価値と威力を心から信じているからだ。ここでは、調査を無意味とするばかりか、まったく非生産的なものにしてしまいがちな誤った使い方を、いくつか提示する。内容はさまざまだ。調査が広告づくりのプロセスで果たすべき役割に対する時代遅れなニュートン主義的定義、そもそもの発想から間違っていて、でたらめとすら言える調査、果ては、調査自体はしっかりしているのに、解釈やデータの使い方が誤っている場合もある。

ここで誤解をしていただきたくないのは、「ほら、調査は使えないって言っているでしょ」とか、「インサイト発見は、調査をしなければだめなんだ」とか、デジタルな2分法で考えないでいただきたいということです。どちらも正しいし、どちらも間違っている、要は使い方次第なんだ、そのためにはどうするかということを意識しながら読んでほしいのです。

それと、ここで書かれていることは、何も広告に限ったことではありません。商品開発の調査にも、すべからく当てはまります。

ただ・・・。
私だけなのかもしれませんが、正直、翻訳書は苦手です。
訳がどうこうではなく、事例とポイントがごちゃごちゃに書かれていることが多いので・・・。
日本式マニュアル本になれているからかもしれませんが・・・。

そこで、
同じような趣旨の本と、もっと「インサイト」に的を絞った本を、つぎに紹介することにします。

「リクルート創刊男の大ヒット発想術」

リクルート「創刊男」の大ヒット発想術 リクルート「創刊男」の大ヒット発想術
価格:¥ 750(税込)
発売日:2006-08

「R25・藤井氏」つながりで、この本を。
以前から、リクルート出身者に興味を持っていました。なぜか、目に留まる人や、気になるブログの著者がリクルート出身者が多かったので、「リクルートというのは、一体、どうやって仕事をしているんだろう?」という想いがありましたので。
この本の著者のくらたまなぶ氏も、実は藤井氏と同じセミナーでプレゼンテーターをされたことがあり、その際の話が面白く、この本を読んでみようという気になりました。

著者は、リクルートで「とらばーゆ」や「じゃらん」など、それまで市場にない雑誌(=商品)を、14も世に送り出した方です。その際の仕事の流れについて、実体験を多く交えながら紹介してくれています。
まえがきで著者も書いてあるとおり、創刊にかかわらず、サイトの立ち上げ、企画、商品改良や新商品開発、既存事業の見直しや新規事業開発、新会社創業など、新たな市場を創造しようという場面で使えるノウハウが詰まってると思います。
ただ「リクルート」という組織だからできるのでは?と思うこともありますので、すぐにまねできるかどうかは別ですが、ヒントは与えてくれるのではないでしょうか。

もくじをみると雰囲気がわかると思うので、引用します。

1章 ちゃんとふつうに生活すること
2章 「人の気持ち」を聞いて、聞いて、聞きまくる
3章 「不」のつく日本語をもとめて
4章 ひたすらブレストをくり返す
5章 不平不満をやさしい言葉でまとめる
6章 まとめた言葉をカタチにする
7章 プレゼンテーション-市場への第一歩
8章 「起業」-夢を見すえて変化に即応する

この中で、2~3章がリサーチについて述べている章です。
いくつか、見出しを紹介しておきます。

・「マーケティング」とは、「人の気持ちを知る」こと
・ヒアリングのとっかかりは「算数」から
・とにかく「身近な人」から聞き始める
・用紙なし、録音なし、謝礼なし、90度の位置、友達感覚、2ショット
・「したこと」から、「思い」や「感じ」を引き出す
・いつでも、どこでも、誰でも、何でも、ヒアリング

4番目などは、ほんとうはグルイン、インタビューの理想型だと思うのですが、実践は難しいです。どこかの調査会社さん、グルインルームの改革をしてくれないでしょうか?会議室然としたものではなく、もっとサロン、居間のような感じのものに・・・。(もしも、そんなグルインルームを知っている方がいらっしゃっいましたら、教えてください。)

それと、6番目。これは、調査会社所属のリサーチャーに、とくに言っておきたいこと。ひとりでパソコンにしがみついているばかりでは、ダメ。テーマについて、もっといろんな人と話をしてみましょう、街へでましょう!

PS.
R25・藤井氏の話も、この本を読んでいたので、200人ヒアリングと聞いてもさほどの驚きは感じなかったです。リクルートならやるかも、と思っていました。。。

リサーチをきちんと使う

今週は、ばたばたしておりまして、投稿できず・・・
今日は、そのばたばたのひとつ、某セミナーで思った「そうだよ!」について。

ということで、新たなカテゴリーをつくりました。

「アハ!または???」

「アハ!」は茂木健一郎氏をご存知の方はわかると思うのですが、英語でいうところのaha!のように、なるほど!、そうか!という感じでしょうか。
セミナー、テレビ、新聞、ブログなどで、「これは!」と思ったことを平文でご紹介していきます。たまには、「???」なことも織り交ぜながら(一番最初に書いた「巷の調査」も、ここで・・・)

本題です。
そのセミナーのプレゼンテーターは、フリーペーパー「R25」の藤井編集長でした。
詳しい内容は、こちらこちらを参照していただくとして、ここではとくに調査についてお話をします。

「R25」をはじめるときに、「M1層(男性の20~35歳)って、もっとも活字から遠い人で、いくらフリーペーパーでも成功しないだろうな」と感じたという藤井編集長。まずは、彼らの調査からはじめたそうです。手法は、WEB調査とグルイン(だと思います)。
とくに、グルインはつぎのように実施されたようです。

  • グルインの最初のグループ(100人くらいだったでしょうか?この対象者数もすごいですが・・・)では、8割が新聞を読む、それも日経を読んでいると答えた。テレビも、WBSやガイアの夜明け、プロフェッショナル・・・。
  • 世間で言われている仮説=若者はネットでニュースを見るから新聞を読まない、とどうも違う、実感とも違う、と考える。「彼らは、本音で答えているのか?」
  • そこで、ネット調査で「新聞を読まない」と答えた人達だけを集めて、再度グルインを実施して、疑問を検証することを考え、実施する。
  • しかし、やはり「新聞、読んでます」という回答。ここですぐに、ネタバレ(=新聞を読まないという人を集めていること)をせずに、そのままふだんの生活について、詳細に聞いてみる。
  • ところが、ここで「新聞」が出てこない。そこで、最後の30分で、「最初に新聞を読んでいると言っていたけど、ふだんの生活に新聞が出てこないよね?」と核心に迫る。
  • これを、さらに100人で実施。

ここで得たインサイトが、R25のコンセプトや編集方針、チャネル(=どこに置くか)を決定づけることになり、ご存知のように、いまでは大成功を収めています。

いくつかポイントがあると思います。

  • 最初の100人もの回答を信じずに、さらに100人もの人の話を聞いて検証しようという態度、姿勢。
  • よくある間違い=直接、対象者に答えを聞いてしまう=この場合、なぜ新聞を読まないのか?、ではなくふだんの生活の中から、インサイトを探ろうという態度、姿勢。
  • あせらず、核心は最後の30分に。

なんか、こう書いてしまうと「あたりまえじゃないか」と思われそうですが、ほんとうにそうでしょうか?
あくまで真実を探求しようという態度、数グループでわかったような気にならずにとことん知ろうとする態度、直接答えを求めるのではなく洞察からインサイトを求めようという態度、答えがみつかりそうになってもあせらずに核心にもっていく態度。
わかってはいても、なかなか実践するのは難しいことのように思います。

調査はテクニックばかりではない、「インサイトをみつける洞察力」「はてな?と思える力」が大切なんだと、あらためて気づかされたセミナーでした。

(他に、このセミナーを聞かれた方がいらっしゃいましたら、ぜひ補足をコメントしていただけるとうれしいです。。。筆力のなさを痛感・・・。)