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『花王の日々工夫する仕事術』

花王の「日々工夫」する仕事術 花王の「日々工夫」する仕事術
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2006-05-27

実はずいぶん前に読んでいたのですが、紹介するまでもないかなと思っていました。まんまと、「あたりまえ」の罠にはまっていたと反省です・・・。

筆者は、花王と長い間専属契約を結んでいたライターなので、等身大の「花王マン」の仕事ぶりが描かれています。書かれていることは、さらっと読んでしまうと、至極あたりまえのことに思われますが、よく読むと、日々の仕事に活かせることが随所に散りばめられています。これに気づくかどうかが、本書を読んで価値を得るかどうかの分かれ目になるのでしょうが・・・。

「はじめに」で、本書を書くきっかけについてつぎのように書かれています。

花王の成長の秘密は、「当たり前のことを当たり前にやる」強みだといわれます。それは確かにそうでしょうが、多くの花王社員に接した結果、「当たり前のことを自分で工夫する」のも大切だと思うようになりました。
この本に出てくる花王社員の仕事ぶりは「きわめてフツー」です。みなさんのなかには「こんな程度なの?」と思う人がいるかもしれません。ただし地道に日々の業務に取り組みながら、“自分なりに工夫”しています。そんな個人の工夫が、チームとして、会社としての「総合力」に結びつく。それが花王のもうひとつの真骨頂といえます。

さて、では「フツー」と「工夫」がどのように紹介されているか。いつものように、もくじを紹介しておきます。

1章 常に考えて「新たな展開」につなげる
    ~花王マンの「商品開発」に学ぶヒント
2章 「従来のよさ」と「新しさ」を使い分けて進む
    ~花王マンの「商品マーケティング」に学ぶヒント
3章 顧客への密着で「新たな提案」をし続ける
    ~花王マンの「販売・販促現場」に学ぶヒント
4章 「専門性」を打ち出し、「存在感」を高める
    ~花王マンの「原料調達・生産・物流現場」に学ぶヒント
5章 消費者の“真意”を探り、ファン獲得をめざす
    ~花王マンの「消費者交流」に学ぶヒント
6章 「聞き手の関心」を考え、自分の言葉で熱心に伝える
    ~花王マンの「話し方・プレゼン」に学ぶヒント
7章 「親切」「ていねい」がすべてにまさる
    ~花王マンの「人とのつき合い方」に学ぶヒント
8章 「効率性」と「根回し」を使い分ける
    ~花王マンの「会議・ミーティング」に学ぶヒント
9章 「柔軟」に受け入れ、「頑固」にこだわる
    ~花王マンの「風土・体質」に学ぶヒント
10章 「何を得たか」を重視して、「今後の活動」につなげる
    ~花王マンの「失敗」に学ぶヒント

本書の一番最初に紹介されている「トップブランドの全面刷新に結びついた母親の洗濯」は、まさに「カンブリア宮殿」でも紹介されている事例です。

冒頭でも書いたように、ほんとうにさらっと読めてしまう本です。
しかし、「自分はどうか」という視点で読み返すと、なかなかできていないことも多いことに気づくと思います。
本書を、「つまらん」と感じるか、「なるほど」と感じるかは、読み方ひとつです。
(か、ふだんから、当たり前のことをやる、少しでも工夫しながらやる、ということが身についている人ですね。そういう人は、本書を読む必要は無いでしょう。)

「花王マン」の仕事ぶりに興味のある方、ふだんの自分の行いを顧みたい方、少しでも仕事のヒントを得たいと思う方、一読ください。






花王の強さ

今日のテレビ東京「カンブリア宮殿」は、花王会長・後藤卓也氏でした(番組HPは、こちらへ)。
花王については、いつか書いておきたいと思っていたのですが、いい機会ですので。

番組で語られていた花王の強さは5つ。

1.イノベーション(革新)だけを求めるのではなく、インプルーブメント(改良)を続ける
2.お客様の声(とくに苦情)を大切に
3.キョロキョロする好奇心
4.まじめ、まじめ、まじめ
5.偉大なる凡人集団

最後に司会の村上龍さんは、「面白みがないかもしれない。けれど、あたりまえのことを、あたりまえに続けることが強さ」というようなコメントをしていましたが、まったく同感です。
ただ、ポイント、ポイントで紹介されていた花王内部の動きは、「あたりまえに見えるけど、あたりまえに行われていないこと」が多かったように思います。

気づきとしていくつかポイントをまとめておきたいと思います。

  • 後藤会長の行動自体が、世間でいう「あたりまえ」からは外れているのではと思いました。多くの社長、会長といわれている人が、ふだんどのような生活をされているのかは、よく存じ上げませんが、後藤会長は社長時代から電車で通い、掃除・洗濯も自分でなさっているそうです。常に、「ふつうの生活」を続ける。そして、キョロキョロと好奇心をもって、周りを観察し続ける。トップ自ら、このような行動を取る企業は、DNAとして社員も当然、そのような行動を取るようになるのではないでしょうか。そのような中からも、改良の種は見出されていると思います。
  • 「アタック」は、発売以来20回以上も改良を重ねているそうです。「花王といえば、改良を重ねることで、ロング・ブランド化する」というのはマーケティング界では常識となっているので、このこと自体には驚くことはないでしょう。では、どうやって「改良」のきっかけを得るのか。ふだんから、当然のように消費者調査を積み重ねていますが、花王の強さは「現場を観察すること」を重視し続けてきたことです。いまでこそ、「観察調査(あるいは、言葉を換えて、エスノグラフィなどといったりしていますが・・・)」は、かなり調査の場面でも重視されるようになってきたと思いますが、花王は以前から、消費の現場に入り込んで実態を捉えることを重視してきました。
  • そして、「消費者相談センター」と、それを活かす仕組み(「エコーシステム」といっていたと思うのですが、今では、この呼称は使われなくなったのでしょうか・・・)。
    多くの会社に、「消費者相談窓口」はあると思います。しかし、そこに集まった声をどの程度、活用できているのか。花王では、1日500件(年間で約12万件)の声がセンターに集まるといいます。そして、次の日には、役員を含めた全社員が、この声にアクセスでき、役員自らがこの声を読みます。お客様の声を役員自らが、毎日チェックする企業がどのくらいあるでしょうか?(花王の役員会では、このようなお客様の声がプロジェクターで投影され、それについて議論が行われているというようなことを聞いたこともありますが・・・)
    そして、役員ばかりでなく、社員レベルでも改良できそうなことについては、すぐに改良を行う。全社で、お客様の声を真摯に聞く、それに応えるという姿勢ができているということが、すばらしいことだと思います。

番組の中で紹介されていたのは、以上のようなことでしたが、花王は流通でも、コミュニケーションでも、独自の考えで行動を行っています。このあたりについては、様々なマーケティングの教科書で触れられることも多いので、そちらをご覧ください。
とにかく、花王を勉強することが、マーケティングを勉強することに繋がるといっても過言ではないと思います。

ちょっと視点を変えて、他の本からも、花王についていくつか紹介を。
まずは、「アタック」の開発にあたっての調査について。
(参考図書:「ゼミナール・マーケティング理論と実際(TBSブリタニカ)」~残念ながら絶版になっているようです)

  • 「アタック」は、一般的には、それまでの洗剤が大きくて重い(番組では4㎏と紹介されていました)という消費者の不満から、開発されたとなっています。ところがアタック以前の1975年には、「ザブ」や「ニュービーズ」で洗剤の小型化商品が売り出されるものの失敗に終わったという現実があります。
    このときに、「小型化をすると、性能は同じでも評価が高くなるが、売りには繋がらない」という課題が残されました。
  • 再度、洗剤小型化への挑戦を始めたのが1983年。ここから、様々な調査が行われます。

    1:社外製品テスト
    →剤状評価のための8週間の長期使用テスト
    2:社内製品テスト
    →包装形態、箇装、計量器具などについて、秘密保持のために社内でテスト
    3:洗濯使用実態調査
    →濃縮型洗剤の潜在需要、マーケットサイズ確認のための調査
    4:長期定性パネル調査
    →プロダクト・コンセプト+製品の2週間使用テスト&事後グルイン
    5:C/Pテスト
    →定量的なコンセプト/プロダクト調査
    6:長期定性パネル調査(2回目)
    →コンセプト+製品の6週間使用テスト
    7:コンセプトテスト
    →コンセプトの方向性確認のための定量調査
    8:C/Pテスト(2回目)
    →定量的なコンセプト/プロダクト調査
    9:容器使い勝手テスト
    →容器形状決定のためのテスト
    10:粒子色の嗜好性テスト
    →4種類の粒子の比較テスト
    11:社外製品テスト(2回目)
    →競合商品とのブラインド・コンペアテスト
    12:社外製品テスト(3回目)
    →前回試作品&競合商品とのコンペアテスト
    13:ネーミングテスト
    →4案での比較テスト
    14:コンセプトテスト(2回目)
    →表現2案の比較テスト
    15:C/Pテスト(3回目)
    →表現2案+プロダクトの6週間使用テスト
    16:コンセプトテスト(3回目)
    →これまでの調査結果からの修正案によるコンセプトテスト
    17:新聞広告タイプのコピーテスト
    →広告表現づくりのためのテスト
    18:パッケージデザインテスト
    →4案での比較テスト
    19:パッケージデザインテスト
    →シェルフインパクトテスト(既存11銘柄との比較~モナディック&一対比較)
    20:社外製品テスト(4回目)
    →最終2案でのコンペアテスト
    21:CFオンエア前テスト
    →完成TV-CFのオンエア前テスト

  • と、これだけの調査を重ねて最終商品に辿り着いています(長い・・・)。
    さらに、このときに、「売上予測モデル」の開発にも取り組んでいます。
    この「売上予測モデル」について、筆者の陸正氏はつぎのように述べていますが、至言だと思います。

「予測モデルをもつことにより予測にかかわるいろいろな要因を論理的、組織的に考えるマーケティング風土が生まれ、根づいていくことが、モデルの第一の効果であり、モデルによる予測が当たるか当たらないかは副次的な要素といえよう。」

  • 1987年に「アタック」は上市されますが、花王の調査はここからも続きます。

    22:トラッキングサーベイ
    →発売直後(TV広告1000GRP時点)での知名、使用状況の把握(電話)
    23:トラキングサーベイ(2回目)
    →TV広告2000GRP時点での知名、使用状況の把握(電話)
    24:CF電話調査
    →TV-CFオンエア後のCF認知・評価、購入意向の把握
    25:購入者追跡調査
    →発売直後に店頭での面接調査&1ヵ月後の追跡調査
    26:トラッキングサーベイ(3回目)
    →TV広告3000GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
    27:購入者追跡調査(2回目)
    →地方都市での購入状況の把握
    28:トラッキングサーベイ(4回目)
    →TV広告6000GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
    29:トラッキングサーベイ(5回目)
    →TV広告7500GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
    30:意識実態調査
    →新型洗剤市場の今後を占うための意識&実態調査
    31:洗濯実態調査
    →市場実態の把握と、新型洗剤市場の意識&実態調査
    32:トラッキングサーベイ(6回目)
    →発売半年後の知名、使用状況の把握(訪問)
    33:トラッキングサーベイ(7回目)
    →9ヵ月後の知名、使用状況の把握(訪問)

参考書に書かれていた「アタック」に関する調査は、以上です。(まさかこんなに長くなるとは思っていませんでしたが・・・)
一度失敗しているカテゴリーであり、市場開拓型の新商品であったからこそだとは思いますが、すさまじい調査の繰り返しです。
後藤氏の語っていた、「まじめに、当たり前のことをしっかりと」「ヒーローではなく、凡人が皆の力で事を成していく」を、そのまま当てはめられそうな事例になっています。

もう一冊、花王の仕事ぶりを紹介した本があるのですが、いい加減長くなってしまったので、エントリーを改めることにします・・・。

PS.
テレビ放送の欠点は、こうやって紹介しても、見てない人に「見たら」といえないことです・・・。
しかし、「カンブリア宮殿」については、BSデジタル放送とスカパーで再放送があるようなので、これらの放送を見られる人は、ぜひご覧いただければと思います。
再放送のタイミングは、HP(→こちら)で紹介されていますので参考にしてください。