投稿者「ats_suzuki」のアーカイブ

雑誌『プレジデント』石井先生のコラム part3

雑誌『プレジデント』に掲載される石井淳蔵先生のコラムの紹介、Part3になります。
前のエントリーとの関連エントリーですので、あわせてごらんください。
(→こちら。先生の著書『ビジネス・インサイト』の紹介です

まず、このblogでの石井先生関連のエントリーのリンクから。
(いずれも、雑誌『プレジデント』のHPへのリンクです)

マーケティングコラム(備忘録) (2007/3/30)

雑誌『プレジデント』石井先生のコラム part2 (2008/6/2)

では、新しいコラムの紹介を。
(一部、前回とダブリがありますが、関連性がありますのであえて)

■本質を見抜く力「ビジネス・インサイト」を磨け(2008/6/2号)

ある一つの事象から、新しいビジネスの価値を生み出す能力──。
筆者は、二つの事例を交えて、この能力を身につける方法論を説く。

■マネジメントの必須条件「ミッション、ドメイン、成果測定」(2008/8/4号)

今日の経験を明日に繋げるためにはどうすればよいか。
筆者は、マネジメントのサイクルを回す三つの要素を解説する。

■沈むGMS、粘る百貨店(2008/9/28号)

企業は業態を超えられないという。
果たして克服する術はないものか。
GMSと百貨店における長期分析から明らかにする。

■仮説検証の限界、新しい「知価創造」の技法(2008/12/1号)

人には「知らないうちに知ってしまう」ことで、確信が閃くことがあるという。
筆者はこの「暗黙の知」について、メカニズムと重要性を説き明かす──。

■「誤算の連鎖」と価値創発のメカニズム(2009/2/2号)

日常会話の過程では、話し手の当初の意図には
存在しなかった新しい現実が創発される。
この過程はマーケティングのモデルになりうると筆者は説く──

■常識を打ち破る「創造的瞬間」のつかみ方(2009/3/30号)

不況の時代、経済の構造改革にとって重要なのは
「創造的瞬間」の概念であると筆者は説く。
ダイエー創業者・中内功の創業当時の苦悩から、
その概念を明らかにする。

『ビジネス・インサイト』

ビジネス・インサイト―創造の知とは何か (岩波新書 新赤版 1183)
価格:¥ 819(税込)
発売日:2009-04

このblogでも、何度か紹介しています石井淳蔵先生の新しい著書が出てました。
これまで、あちこちのコラム等で書いてこられたことを、「ビジネス・インサイト」というテーマの元にまとめたものと言えそうです。

また、前エントリー「マーケティング・リサーチの現状」でのコメントのやりとりの内容とも、多少かかわってくるかもしれません(→こちらのエントリーです、コメント欄をご覧ください)。
永遠の若手さんが最初感じていたような「マーケティングは、所詮、センスではないのか?」、そしてそれへの回答でとおりすがりさんが指摘した「科学的に「商売」を定式化したものが、マーケティング」。
今、この「センス」と「科学」の間で揺れ動いているマーケターの方は、多いのではないでしょうか?(リサーチャーの方も?)
私自身、このような意味でマーケティング・リサーチへの懐疑を抱き、一度現場から少し離れた視点で、マーケティング・リサーチを学びなおしたいということで大学院進学を選んだという経緯もあります。

石井先生の今回の著書は、このような疑問に対して、ひとつの回答を呈示している本だと思います。(この回答を肯定できるかどうかは、それぞれだと思いますが・・・)

では、いつものように、まずはもくじを。

序章 経営者は跳ばなければならない
第1章 実証主義の経営を検証する
第2章 ビジネス・インサイトとは何か
第3章 知の隠れた力 tacit knowing
第4章 ビジネス・インサイトをケースで学ぶ
第5章 ケース・リサーチの可能性
第6章 経営における具有性

こうやってもくじだけみると、お手軽なビジネス書に見えるかもしれませんが、岩波新書ですので。。。そんなにお手軽ではないですし、ノウハウが書いてあるわけでもありませんので、この点は誤解なきよう。
では、何が書いてあるのか?「本書の課題」として、つぎのように述べています。

本書では、「経営者は跳ばなければならない」ということをめぐって、それについての、経営の実践と経営の研究との関わりについて考えたい。経営者が跳ぶ、そこには経営者が将来の事業についてもつところのインサイトの存在があると考え、それを「ビジネス・インサイト」と名づける。そして、ビジネス・インサイトの考え方と、それを理解するための枠組みとを提起したいと考えている。(p10)

キーワードはすでに紹介した。「暗黙に認識する」ことと「対象に棲み込む」ことである。(p11)

このように、本書で書かれているのは、ノウハウではなく「考え方と枠組みの提起」ですので。
この文章だけでは内容がわからないかもしれませんが、ぜひ一度、ご自身で読んでみてください。よくある経営書とは違う視点を得ることができるかもしれませんので。

(amazonにも出てないようなので、以下、カバー折の惹句を紹介しておきます。こちらで少しはわかるでしょうか?・・・)

新しいビジネスモデルが生まれるときに働く知を、「ビジネス・インサイト」と著者は呼ぶ。この創造的な知は何なのか。M・ポランニーの「知の暗黙の次元」を手がかりに、ビジネス・インサイトが作用した多くの事例を考察して、ケースを学ぶことで習得できる可能性を探る。マーケティング研究の第一人者による経営学の新展開。

ここでは、本書の本題からは離れるかもしれませんが、前のエントリーで少しテーマとなった「学ぶ」ということについて考えさせられる文章が随所にあるので、いくつかご紹介しておきたいと思います。(とはいっても、創造的な知のためには「暗黙に認識する」「対象に棲み込む」ことが必要、というキーコンセプトと関連しているのですが。)

たとえば、経営研究と経営実践については、つぎのように言っています。

学者の所説を一つの素材として自分の構想に取り込み、構想を描く。あるいは、その所説の中に棲み込んで、その所説を自家薬籠中のものとする。所説の良いところも悪いところも、裏も表も理解する。そしてたぶん、その所説を述べる学者が当初想定していた範囲を超えて、その所説に新たな意味づけを与え新しい生命を吹き込む。そのようにして、経営学における知識や所説は、彼らにとってかけがえのないものとなり、自身の事業経営の核にも位置することになる。(p9)

そして、「セオリー」については、つぎのように言っています。

セオリーを現実に使いこなすためには、セオリーもまた現実の一断片、意味ある全体を見通すための一つの手がかりでしかないことを知ることである。現実を説明する唯一無二のセオリーがあるわけではなく、一つ一つのセオリーが説明できる範囲、説明できない範囲を知り、セオリーの適材適所を図らないといけない。つまり、セオリーは相対化されることが必要だ。(p164)

さらに、「暗黙の認識の存在」という力を得るための姿勢について。これはまさに、「学ぶ」ことの基本的な姿勢だと思います。

第一に、「意味ある全体像」は、能動的に経験を形成しようとする結果として生起することである。(・・・中略・・・)
能動的な関わりは、現実にそういう事情に迫られれば、誰でもそうなることだろう。だが、「いつ必要になるかわからない将来に備えて学ぶ」ということになると、途端に能動的な関わりへの意欲を失ってしまう。(・・・中略・・・)
先に述べたように、その学ぶ意欲が教育においてもっとも肝心な要素である。意欲がなければ、言葉で伝えることができずに後に残した何かを、受け手が発見できることはないのである。(pp167-168)

第二として、学ぶ意欲をもって、全体を把握する手がかりとなる対象に棲み込むことが大事であるということも理解しておきたい。(・・・中略・・・)対象が当事者であれば当事者になりきって同じ視界で物事を見、そして考えること、対象がセオリーであれば、まずそのセオリーを使って問題を解いてみること、対象が事物であれば、その事物のありとあらゆる可能性や意味について探りを入れること、になるだろう。

こうやって、本を読み替えることも「新しい知の創造」には必要なことだと思います。(と、正当化をしておきます。。。)

PS.
実は、最近の石井先生のコラムを読むと、本書のポイントが散りばめられています。
つぎのエントリーで、まとめておきますので、こちらもどうぞ。

「マーケティングリサーチの現状」by JMA

先日(2009/4/10)、日本マーケティング協会(JMA)の「マーケティングリサーチの現状:2008年度調査報告会」に行ってきました(→こちら)。

この調査はJMAが1985年から隔年で実施しているもので、今回で13回目になります。
報告内容≒報告書構成は、以下の内容です。

Ⅰ.MRの実施状況とMR担当部門に対する役割・期待
Ⅱ.外部調査機関の利用状況と委託業務内容の期待・満足
Ⅲ.「定性調査」の実施状況と実施上の課題
Ⅳ.MR情報の意思決定寄与度合と活用を高めていくための施策
Ⅴ.「ROI」を意識したMRの実施状況と将来のMRの重要性
Ⅵ.(参考資料)「海外事業におけるMR」の実施状況と海外MRにおける課題

セミナーでは、上記の結果報告とあわせ、アサヒビール、花王、日本コカ・コーラの3社によるパネルディスカッションが行われました。

とくに「Ⅱ.外部調査機関について」の報告内容で、いくつか考えさせられる点がありましたので、ご紹介しておこうと思います。(ここで、どこまで引用、紹介していいのかという問題もありますが、あえて・・・)
JMA会員社の方は、おそらく報告書が送付されていると思いますので、あわせて実際の報告書をご覧ください。

◆気になるポイント1:外部調査機関の選択重視点

まずは、下の表を。

20090414chart1

外部調査機関の選択重視点のトップが「コスト」になっています。
この点は、パネルディスカッションでも議論になりました。
調査実施時期が2008年の11月から2009年の1月という時期だったこともあり、経済の低迷が大きな要因となっているという解釈は、そのとおりだと思います。
また、パネラーの方が言っていたように、単純に「コストが下がればよいと思ってもらっては困る、安かろう悪かろうになる」というのも、ほんとうでしょう。

しかし、「コストの低減」のポイントが大きくアップしているのと同時に、「リサーチャーの優秀さ」「調査結果の分析」「調査結果の提言」が大きくポイントを下げているのが、気になります。

このセミナーの標題でもある「ROIを意識した意思決定に役立つ」ということ、つまり「投資効果=価値/コスト」という式で考えるとすると、“価値は期待していないから、コストを下げることで、投資効果に寄与してね”という声が聞こえてきそうです。。。
あるいは、“これまでは分析も期待していたけど、無理みたいだからコストで貢献してね”という声が。。。

外部調査機関に対する全体的な満足度も、TOP2では63%ですが、TOP BOXでは5%に過ぎない。これを「高い」と判断するか、「低い」と判断するか?・・・
(ちなみに、花王の方はノーム値の話の際に、「指標は、5段階のTOP BOXで判断する」とおっしゃっていましたが・・・汗。さらに、このTOP BOXの選択肢は「そう思う」です。「とてもそう思う」では、ありません・・・。)

◆気になるポイント2:外部調査機関への委託内容

つぎに、外部調査機関への委託内容です。
これも、個人的にはかなりショックな内容で・・・。

20090414chart2

調査設計は36%、報告書作成は40%しか任されていない、しかも前回に比べ10ポイント以上ダウンしている。

パネラーの方は、「定型調査だと設計も報告書もいらない場合が多いから、その反映では?」とフォローしてくれていましたが、それだけでしょうか・・・?
どうも、データサプライヤーとしかみられていないと感じるのですが。。。
(というか、設計も分析もできない会社がふえたから?)

◆気になるポイント3:新しい調査技法や分析手法の提案

もうひとつ議論になったのが、外部調査機関への期待での「新しい調査技法や分析手法の提案」について。
パネラーの方のお話を聞くと、新しいリサーチの可能性を模索している様子、切実さが伝わってきました。「調査会社の営業の方がお見えになると、コストのことはお話いただけるが、新しい手法を提案してくれる会社はほとんどない」とも。さらに、「新しい提案を持ってきてくれるのなら、門戸を開いていますから、どんどん持ってきてください」とも。。。

ただ、司会の近藤さんが、新しい技法・手法開発はクライアントや学会の協力もいただかないと難しいといった趣旨の話を振ったときの反応が、また気になり・・・。
今回のパネラー3社は、いずれも産学共同プロジェクトを行っていると回答。そして、そのプロジェクトの中にリサーチ会社は入っていない。つまり、研究・開発の相手として、リサーチ会社に期待はしていないというのが本心でしょう。いみじくも、「実査の段階、オペレーションの段階になったら、リサーチ会社さんにも入ってもらって・・・」と、つい本音を漏らしていましたが。。。

◆さて・・・

以上の結果について、調査会社の方はどのように感じたでしょう?
「深読みのしすぎでしょう、そんなことはないよ」?
「たしかに反省すべき点が多いな」?
あるいは、「たしかにそうかもしれないけど、それで?何か問題?」?

リサーチ・クライアントの皆さんはどうでしょう?
「そのとおりだから、少し考えて欲しい」?
「そこまでは言ってないよ、このご時勢だからさ・・・」?
あるいは、「たしかにそのとおりだけど、いいよ気にしなくて、期待しないから・・・」?

ポイント1~3の解釈は、報告書の中で書かれているものではなく、あくまで個人的なものです。しかし、このような状況=“リサーチ会社への期待感が低下しており、データサプライヤーとしての位置づけが強くなっている。結果、真のマーケティングパートナーとはなり得ていない”というのが、いまのリサーチ会社の大きな課題ではないかと考えています。
今回の調査結果は、これらが如実にデータとなって表れていると感じています。
この解釈が、杞憂であればいいのですが。。。
(あるいは、データサプライヤーで何がいけないのか?リサーチ会社はそういうものだ、という考え方であれば、それはそれでいいです・・・)

そして、調査のもっともおもしろいデータのひとつが自由回答。
今回も、ずいぶんと考えさせられる意見が多く寄せられています。データを見なくても、この自由回答を読むだけで、今後のリサーチ業界を考えるヒントがあると思います。

中でも、つぎの意見には思わず涙が・・・(^^;
これこそ、私が独立して「りんく考房」として活動しているコンセプトそのものです。勇気づけられました。

今後の調査実施の広がりを期待する意味で、あまり調査がうまくないクライアントの場合は特に、クライアントサイドと調査会社をうまくコーディネートするプロが必要ではないか。調査会社は会社として調査の実施完了に重点を置くため、そのマーケティング上の役立ち度には責任を持ちたくない、持てないことが多いのではと思う。マーケティングの全体を把握しつつベストな調査を企画実施し分析し提案することを仕事とする人間集団が調査会社とは独立して必要と思われる。これにより調査の品質だけでなくその役立ち度、価値が維持向上すると考える。
(報告書p63)

日本版顧客満足度指数(日本版CSI)モデル

新聞で記事を見て、あわててチェック。
(朝日新聞では2009/3/17の経済面。たった25行のべた記事?・・・)

しかし、具体的な内容の発表会(シンポジウム)は、すでに16日に終了していました。
(そういえば以前、朝野先生(首都大学東京大学院)から、このお話をうかがっていたことを思い出す。もっと早くからウオッチしておけばよかったと後悔・・・)

なので、ここではWEB上で集められる資料を紹介しておきます。
(もしも、もっと具体的な内容についてご存知の方がいらっしゃいましたら、参考HPなどご紹介いただけるとうれしいです。)

サービス業に関わる方は、確認しておいた方がいいかと思います。

◆サービス産業生産性協議会HP

まずは、発表元から。

サービス産業生産性協議会のリリースのページ

ここを見ると、今回の「日本版顧客満足度指数(日本版CSI)モデル」の特徴として、つぎの3つをあげています。

1、  消費者の購買行動に共通する心の動きをモデル化したもので、サービス産業全体を業種横断的に比較ができます
2、  顧客満足度だけでなく、満足および不満足にいたる原因と、満足および不満足だった結果としてとるであろう行動までも分析できる因果モデルです。
3、  ヘビーユーザーだけでなくライトユーザーも含むサービス利用者の全体像を明らかにするために、サービスの利用経験者から一定数の信頼できるデータをとっています。

記者発表資料のPDFで概要はわかるんですけど、詳細はちょっとわからない感じ。

◆シンポジウムに参加された方のblog

そこで、実際にシンポジウムに参加された方のblogを紹介。

日本版CSI(顧客満足度指数) (「調査マンの独り言」2009/3/18)

詳しい内容は直接ご覧いただくとして、

ただ、業界横並びの思想は前世紀的な古い考え方です。企業の戦略を考える材料としては、もう少し先を見た独自性のある観点がないと、情報としての価値は薄いようにも感じます。

という感想は同意。ただ、つぎの企業担当者のコメントも、またなるほどと思わされる。。。

この手の話はコンサルから嫌ほど売込みがある。さらに、マスコミのランキングに翻弄されたうえに、社内からもいろいろ言われて、ウンザリするといった本音の話が垣間見えました。
こういう事から、ある程度業界スタンダード的なものが合った方が、担当者の負担低減にも繋がると言うこともあろうかと思います。

これに近い話は、実はメーカーとお仕事をしているときに聞いたことがありました。
要は使い方。調査マンさんおっしゃるように、この指標は、行政機関やマスコミなどに積極的に利用していただいて、企業さんにはこの指標は現状把握のツールのひとつとしていただきながら、戦略的な課題解決のためには、独自のリサーチをしていただけるとよいかと^^;。

◆座長である小川先生(法政大学大学院)のblog

つぎに、開発プロジェクトの座長である小川孔輔先生(法政大学大学院)のblogから。
ここでは、狙いと意義について知ることができます。

日本版CSI(顧客満足度指数)開発の現在 (「Professor Ogawa」2008/7/26)

こちらで、ポイントのひとつである「業界横断」の狙いをつぎのように説明しています。

「携帯電話に支払うお金が増えたので、旅行に行かなくなった/本を買わなくなった」などと良く言われます。これは、個々のお客様が「同一業種内」ばかりで比べているのではなく、「自分が接している様々な商品・サービス」を比べて選択をしていることを示しています。「うちの業界の中では評判が良い方なんだけど、業界全体の調子は良くないなあ」というような業種・業界がたくさんあるのですが、それって「自分の業界だけを見ている内弁慶」になってしまっていて、「お客様の心」や「お客様の気持ち」にまで踏み込んでいないから起きてしまっていると考えられます。

業界内でよい評価だとしても、他業界との相対的な比較でその業界のポジションが低ければ、ずるずると落ち込んでいく可能性がある。あるいは、これまでの業界基準とはまったく異なるサービス水準で参入されたらどうなるか、ということですね。
(なんか、身につまされる話でもあるような・・・。どうです?調査業界は。今回はBtoBは対象外かもしれませんが。)

また、つぎの記事では、そもそもの経緯を垣間みることができます。

「日本版顧客満足度指数の構築を」連載:続・サービス産業の生産性向上7
(「Professor Ogawa」2008/12/21)

そして、パイロット調査の結果についてのコメント。

日本版顧客満足度調査(JCSIの開発を終えて) (「Professor Ogawa」2009/3/6)

ここをみると、対象は「15業種や約180社(各300サンプル、全国調査)」のようです。
(実査はどこがやったんだろう、ネット調査みたいだけど。と、ちょっと下世話な興味^^;)

◆関連本

本題は以上ですが、ここでサービスや顧客満足関連の本を。

実務で顧客満足度調査をやっていると、たびたび悩ましい結果に出くわします。そのひとつの側面について言及しつつ、サービスについて総括的に整理しているのが、この↓本です。
副題にある「顧客満足向上の鍵を握る事前期待のマネジメント」というフレーズは、まさに!と思います。この点を無視して、満足度だけを単純に比較しても・・・、だと思います。

顧客はサービスを買っている―顧客満足向上の鍵を握る事前期待のマネジメント

顧客はサービスを買っている―顧客満足向上の鍵を握る事前期待のマネジメント
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2009-01-17

サービスに関するものではないですが、「顧客満足度」といえば、J.D.パワー社。広告でよく登場する「NO1マーク」は、この会社の調査結果であることが多いです。
そのJ.D.パワー社からの本が、こちら↓。宣伝っぽい側面も多分にありますが、顧客満足測定の本家・本元でもあるので、さまざまな事例を示しながらCSを紹介できるのが強み。

J.D.パワー 顧客満足のすべて J.D.パワー 顧客満足のすべて
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2006-08-25

いまでは古典になってしまいますが、個人的に「サービスとは」を考えるフレームを与えてくれたのが、この↓本。「真実の瞬間」「サービス・サイクル」「サービス・トライアングル」などなど、サービスの基本を理解するには良書だと思うのですが、どうも絶版のよう。。。おしい。(中古はあるようです)

サービス・マネジメント サービス・マネジメント
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2003-04

◆さらに蛇足ですが

日本版CSIから離れてしまうのですが、もしかしたら、こちらの方に興味がある方が多いかもしれませんので。。。

今回紹介した「サービス産業生産性協議会」のHPはお勧めです。とくに、

専門委員会のページ (サービス産業生産性協議会)

の「科学的・工学的アプローチ委員会」の議事要旨。各回とも事例報告が行われ、その資料PDFがあるのですが、これがなかなか。

たとえば、2009年2月27日の回は、最近エスノグラフィの事例でよくお見かけする大阪ガスの方が、「サービスサイエンス 行動観察技術のビジネスへの応用」と題して事例報告をしています。

科学的・工学的アプローチ委員会(第4回)議事要旨 (サービス産業生産性協議会

他にもいくつかの事例をみることもできますので、丹念に追ってみてください。(平成19年版もありますので、お見逃しなく)

『R25のつくりかた』

「R25」のつくりかた (日経プレミアシリーズ) 「R25」のつくりかた (日経プレミアシリーズ)
価格:¥ 893(税込)
発売日:2009-02

(すでに出版から1月くらい経っているようなので、読まれた方も多いかもしれませんが。。。)

創刊当時(もう4年半も経つんですね・・・)、大きな話題を呼び、多くの講演やセミナーが組まれたフリーマガジン「R25」。その講演の内容が、やっと(?)本となって出版されました。
書かれている内容は、著者自身が言っているように当時の講演で語られていた内容ですが、再読してみると、やはりいろいろなきづきを与えてくれるのではないでしょうか。
当時、講演を聞かれた方も、もう一度おさらいのつもりで読んでみても損はないと思います(新書ですし・・・)。

(このblogでも、藤井氏のセミナーの内容を紹介しています。こちら↓)

リサーチをきちんと使う(2006/12/2エントリー)

もくじは、つぎのようになっています。

第1章 少人数の組織で「業界常識」に立ち向かう
第2章 M1層は本音を語ってくれない
第3章 M1層に合わせた記事づくり&配布作戦
第4章 世の中のちょとだけ先を行く発想術
第5章 M1世代とM1商材を結びつける
第6章 さらにビジネスを広げるために

とくに、リサーチに関係するのは2章です。
「R25」のターゲットであるM1層のインサイトを明らかにするために、彼らがどのようなリサーチを行なったのか、ぜひ読んでみてください。調査・リサーチのほんとうの意味、そしてインサイトに迫るには、上辺だけの、通り一遍のリサーチでは通用しないことも、わかってくると思います。

ただ、この本をこのようなリサーチ活用の視点からだけ読むのはもったいない。とくに、調査会社に所属しているリサーチャーの方は、ぜひ一読を。
なぜなら、調査会社所属のリサーチャーは自分たちが取り組んだリサーチがクライアントでどのように活用されるのかがよくわからない、というジレンマを感じることがあります。本書を読むと、この点が少しはわかると思います。クライアントでプロジェクトがどのように進むのか、その中でリサーチがどのようなときに使われるのか、結果がどのように活用(解釈かな?)されているのか、などがなんとなく感じることができると思います。
実際にクライアントのプロジェクトの全過程に関与していくことは、ほとんど不可能でしょう。なので、このような本を読むことで擬似体験をしておくことは、クライアントがどのようなことを望んでいるのか、どのようなことを考えているのかということを理解する一助になると思います。
(ただし、すべてのクライアントが、同じレベルでリサーチを理解・活用しているというわけではない、ということも忘れずに。)

リサーチャーに限らず、読む人の立場や問題意識によって、いろいろに読むことができる本だと思います。そういう意味でも、おすすめです。
新書(≒安い)ですし、語り口調なので読みやすく、90分くらいで読むことができる内容ですので、一度手に取ってみてください。

PS.
同じリクルートの方の著書ですが、こちら↓の本もあわてどうぞ。
リクルート流発想術&広い意味でのリサーチの勘どころのようなものを感じ取れる内容です。
(こちらの本も、本blogで以前紹介しています。あわせて、どうぞ→ こちら )

リクルート「創刊男」の大ヒット発想術 (日経ビジネス人文庫) リクルート「創刊男」の大ヒット発想術 (日経ビジネス人文庫)
価格:¥ 750(税込)
発売日:2006-08

【2009.6.25追記】
「R25」に関して、↓のような記事も。

解体!R25――ビジネスの裏側、教えます。社内では意外に評価されていない!?
(東洋経済:2009.6.24)

クラウド、エスノ、ペルソナ~最近のWEB記事から

備忘録として、この1ヶ月くらいの間に見つけたWEB記事をご紹介。

◆クラウドソーシング

japan.internet.comの記事から。
この1ヶ月くらいで立て続けに、クラウドソーシング関連の記事が連載されています。
(以下で紹介するリンクの他にも、関連記事はありますので、そちらもご覧ください。)

2つめはDellの事例、3番目はこのblogでも書籍を紹介したP&Gの事例(→こちら)。

まずは、「実は意味を知らないビジネス用語、第1位の「クラウド」って何?」から読んでみてください。クラウドソーシングとは何か?、誤った認識とは?、限界は?、危険性は?、などがまとめられています。たとえば、つぎの一文のような。

一方で、クラウド・ソーシングに過度の期待をするケースもある。クラウド・ソーシングのためのオンラインコミュニティサイトを作れば、何でも自由自在にソーシングができると考える人もいる。ボタンを押せば何でも自動的に出てくる”打ち出の小づち”といった具合である。

世の中には「打ち出の小づち」は、ないですよね。。。
(そういえば、多変量解析も「打ち出の小づち」のように思われている節がありますが、そんなことはなく・・・。"Garbage in,Garbage out" 「ゴミを入れても、ゴミしか出ない」のです。)

◆エスノグラフィ

こちらは、WEB担当者Forumでの新たな連載のよう。
エスノグラフィに限らず、ユーザビリティ関連の内容のようですが、2回目のこの記事がエスノグラフィに関連した内容。

インタビュー調査の極意「ユーザーに弟子入りしよう」
(Web担当者Forum:2009/2/25)

内容はぜひ一読を。つぎの一文などは同意できます。(ちょっと言いすぎかも、ですが)

そして設計者は「ユーザーの声」ではなく「ユーザーの体験」を分析するべきだ。ユーザーの声は、すでにユーザー自身が分析した結果なので、もはやあらたな発見はない。

インタビューの例も、少しですが紹介されていますので、インタビューの経験がまったくない方もわかりやすいと思います。

(この記事に出てくる、「コンテキスト調査法」という言葉。これ、私がいま考えているリサーチのキーワードのど真ん中です。ただ、ここでは新たなインタビュー手法という狭い意味で使っているようなので、その点が異なりますが。ひとりごとでした。。。)

◆ペルソナ

日経ビジネスONLINEで、立て続けに「ペルソナ」関連の記事が。(どうやら、日経情報ストラテジーの3月号で、ペルソナ手法を紹介したようです)

実は、気になりながらもこれまで紹介していなかったのが、この「ペルソナ」です。ずいぶん前に本も出ていたし、雑誌でも特集記事があったし、ワールド・ビジネス・サテライト(テレビ東京)などテレビでも紹介されているのを見たこともあります。
しかし、こちらの理解が十分でなく、手法としての新しさがわからないというのが正直な感想でした。STPとどう違う?という感じで。。。

しかし、こちら↓のblogを読んで、納得。なるほど。。。
まずは、こちらの記事を読んで、ペルソナについての理解を。

マーケティングの顧客セグメントとペルソナ(DESIGN IT! we/LOVEさんのblog)

このblog「DESIGN IT! we/LOVE」は、他にもおもしろい&ためになるエントリーが多いので、お勧めのblogです。とくに、デザイン関係の方にお勧め。(ちょっと、エントリーが長いのが難ですが・・・)
まずは、「ペルソナ」のタグがついているエントリーから読んでみるのがいいかも。

「ペルソナ」についての本は、まず、この2冊でしょうか。

ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2007-03-16

ペルソナ作って、それからどうするの? ユーザー中心デザインで作るWebサイト ペルソナ作って、それからどうするの? ユーザー中心デザインで作るWebサイト
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2008-05-30

(2冊目の「ペルソナ作って、それからどうするの?」の著者は、DESIGN IT! we/LOVEの管理人です)

ニューロマーケティング(みたび)

日経ビジネスONLINEで、ニューロマーケティングについての連載が始まっています。
(おそらく閲覧には会員登録が必要だと思いますが、登録しても損はないと思います。)

「ニューロマーケティング~話題の新手法の実力」
日経ビジネスマネジメントリポート(日経ビジネスONLINE)

連載はまだまだ続くようですが、ニューロマーケティングについての包括的な理解ができる内容になりそうですので、ご紹介しておくことにします。
これまでに、3回の連載が終了していおり、そのタイトルはつぎのような内容。
(2009.3.3追記:その後の連載タイトルを更新しています)

ヒット商品は「脳科学」が作る(2009/2/2)

脳が語る「不況だから値下げ」の誤り(2009/2/7)

脳は「セクシー広告」がお嫌い?!(2009/2/14)

脳科学は不況から救う(2009/2/21)

記者が体験した「広告評価」の”威力”(2009/2/28)

日本の市場は100億円に育つ(2009/3/7)

ハーレーダビッドソンは脳に心地よい(2009/3/28)

茂木健一郎が語る「グーグル、強さの秘密」(2009/4/4)

茂木流「売れない時代」に売る方法(2009/4/11)

第3回で紹介されているのが、↓の本。

買い物する脳―驚くべきニューロマーケティングの世界 買い物する脳―驚くべきニューロマーケティングの世界
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2008-11-21

この本、たしかにおもしろい。おもしろいけど・・・、少しエキセントリックだな、というのが正直な感想でした。(なので、単独エントリーとしては紹介しなかったのですが。)

そしてこの本、とても気になる記述もすくなからずあり。このあたりを、以下で。

◆ニューロマーケティング、確かにおもしろいけど。。。

このblogで、「エスノグラフィ」と並ぶ注目コンテンツが、この「ニューロマーケティング」です。
これまでも、以下のようなエントリーで紹介しています。

リサーチにはこのような限界がありますよ、脳科学の世界をのぞくとこんなこともいわれてますよ、人ってほんと複雑ですね、すでにこんなことまでできるようになってますよ、などなどのことをお伝えしたいと思ってのエントリーです。

ただし・・・
このようなエントリーを再三アップしていながらも、少し気になっていることもあり。。。
なので、ここでひとつ、お断りしておきたいことがあります。
それは、これら「エスノグラフィ」や「ニューロマーケティング」を、無条件に、手放しで紹介しているわけではないということです。
「従来のリサーチはもう終わった、これからは新しい手法じゃないと!」などということを言っているわけではないということです。
この点は、了解いただきたいなと思ってます。

たとえば、上↑で紹介した本にも、つぎのような記述があります。

私が言いたいのは、炭酸飲料であれ、タバコであれ、テレビゲームであれ、この世のありとあらゆる商品について、会社は消費者の反応を痛ましいほど予測できていないということだ。本書でずっと述べているように、私たちの言葉と行動は一致しない。したがって、市場調査は信頼性が低く、ときには会社をひどく間違った方向に導いたり、さらには商品をぶち壊しにしたりしてしまうことさえあるのだ。(p.210)

アンケート、サーベイ、フォーカス・グループといった従来の市場調査の役割はどんどん小さくなり、ニューロマーケティングが商品の成功と失敗を予知するための主要なツールになっていくだろう。(p.219)

この本に限らず、このようなニュアンスの記述は、散見されます。
確かに、これまでのリサーチにはさまざまな限界がありますし、実施環境もかなり厳しくなってきています。そして、新たな科学の進歩で、いろいろな測定方法やデータの収集手段の可能性も広がっています。
けれど、だからといって、「これからのリサーチは、ニューロだ!」というのも行き過ぎでしょう。これまでの(定量含む)手法も、使い方をきちんと考えれば、まだまだ有効だと思うのです。逆にみると、きちんと使いきれていないと思うのです。
なので、新しい手法について、「こういう考え方や手法があるのだな」という理解をしておくことは、とても大切なことだとは思うのですが、安直にこれまでのリサーチを否定することがないようにしていただければと思います。
(もしかしたら、こちらの疑心暗鬼かもしれませんが、念のため。。。)

ちょっと専門的&難しいと感じるかもしれませんが、ニューロマーケティングに関しては、

『ニューロサイエンスとマーケティングの間』 (kaz_atakaさん)

というblogでの以下のエントリーもあわせて読んでおくといいと思います。

脳科学、大脳生理学とニューロサイエンス

現在の脳科学、脳神経科学で脳の活動はどこまでわかるのか(6回シリーズ)
→最終回のまとめは、こちら↓

現在の脳科学、脳神経科学で脳の活動はどこまでわかるのか(最終回)、、、および現在のニューロマーケティングについての個人的所見

このblogでは、他にもつぎのようなエントリーもおもしろいです。

脳は「市場」をどう感じるか (4回シリーズ)

市場における原子

知覚のポイントからみた商品、サービスの打ち出し原則 (5回シリーズ)

(つまり、いいたいことは、「視野は広く」です。ひとつの考え方に凝り固まることなく、いろいろな考え方を知っておけば、視野は広くなります。そして、このblogが視野を広くもつ一助になればいいなと思っています。)

花王のエスノグラフィ

「エスノグラフィ」は、皆さんの関心がかなり高いようなので、参考記事紹介のみのエントリー。
(トラックバックいただいた wackyhope さん、ありがとうございます。)

花王、消費者調査にエスノグラフィー手法を導入~「極端な消費者」に密着し普遍的な結論を得る (IT Pro by 日経BP、2009/2/12)

ついでに、こんな記事も発見。。。
「エコーシステム」という言葉、最近聞かなくなったなと思っていたのですが、しっかり活用していたんですね。そして、このシステムが今度はカネボウに導入されることに。

カネボウ化粧品、CRMシステムで消費者の声を一元化
(IT Pro by 日経BP、2009/1/22)




録画による視聴も測定可能に?

読売オンラインの記事から。

録画も視聴率測定、テレビ音声で番組判別…ビデオリサーチ
(YOMIURI ONLINE:2009/2/5

テレビ視聴率調査の「ビデオリサーチ」は、これまで集計できなかった「録画による視聴率」を測定できる装置を開発した。

たしかに、テレビそのものだけの、かつオンタイムだけの視聴率は、どれだけ視聴の実体を把握しているんだという話なので。。。
ただし、まだ「可能になった」という段階で、実施するかどうかはこれからのことなので、この点はお間違えないように。

しかし、録画でも番組視聴率が測定できるようになるとは言っても・・・。
録画視聴で、どれだけCMを見ているのかという問題もあるので、番組視聴率=CM視聴率とならないかもしれないのが、また悩ましいですね。。。

いまの視聴率調査の仕組みについて知りたい方は、ビデオリサーチ社のこちら↓のHPを。

視聴率について(TV RATING GUIDE BOOK) (ビデオリサーチ社HP)

本では、こちら↓の本が参考になります。

視聴率の正しい使い方 (朝日新書 42) (朝日新書) 視聴率の正しい使い方 (朝日新書 42) (朝日新書)
価格:¥ 756(税込)
発売日:2007-04-13

そういえば、ビデオリサーチ社からは数日前に、このような↓リリースも。

6媒体(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・インターネット・交通)の広告出稿データを統合 ビデオリサーチ『iNEX2 6媒体広告統計』のサービスを開始
(ビデオリサーチ社プレスリリース:2009/1/22)

広告主にとっては、こちらの方が興味あるかもしれませんね。。。

【追記:2009.2.23】

関連記事が出てましたので、追記を。

メディアの多様化で変わる視聴率(接触率)調査(IT Pro:日経BP)

『成功は洗濯機の中に』

成功は洗濯機の中に―P&Gトヨタより強い会社が日本の消費者に学んだこと 成功は洗濯機の中に―P&Gトヨタより強い会社が日本の消費者に学んだこと
価格:¥ 1,600(税込)
発売日:2008-09-05

2009.1.26の日経MJ一面「P&G、日本に溶け込む泥臭経営」を見て、積読になっていたこの本を想起。。。あわてて、読了。

日経MJの記事見出しを並べてみると、

    • 客・店に密着~社長、抜き打ち売場回り
    • 狭い日本の家研究~洗濯洗剤、横長容器に変更
    • 郷に入りては・・・~卸と二人三脚
    • 5期連続増収達成~成功モデル、アジアに移植

実は、P&Gは2000年に危機に陥っているのですが、それを克服し、この記事にあるような状態に復活しています。

P&Gは、2000年の危機をどのように乗り越えたのか?、どのような思想で、どのような取り組みを行ったのか?、これらについて概観し、整理しているのが本書です。
(よくある企業本のような軽さを感じるタイトルですが、P&G改革をきちんと整理している良書だと思います。タイトル変えるともっと売れるような気もしますが。)

まずは、もくじを。

第1章 トヨタを抜く、170歳の不死鳥
第2章 三年でV字回復させた「ラフリー大改革」
第3章 経営改革の基本設計
第4章 「消費者中心経営」宣言
第5章 強み1~オープン型の全方位イノベーション
第6章 強み2~メガブランド構築力の卓越性
第7章 強み3~売上拡大からスケール・メリットを享受
第8章 強み4~小売店頭で勝つしたたかな市場展開力
第9章 日本のビジネス体験からラフリーが会得した極意
第10章 P&G改革を日本企業に導入する

2000年危機については、2章の書き出しでつぎのように記しています。

2000年の初頭、P&Gは破裂寸前の状態まできていた。次々と発売した新製品は失敗し、社内は混乱する。成長を期して注ぎ込んだ研究開発、マーケティング投資と、成長を前提に抱えすぎた社員数。度重なる下方修正の発表。そして、社員のモラール低下、ブランド・マネジャーの大量退職など。160年間にわたり脈々と築き上げたP&Gの名声も、これまでかと思われた。

そして、「消費者がボス」「コネクト&ディベロップ」「ふたつの決着の瞬間」などをキーワードに、復活をしていくことになるのですが、詳細については、ぜひ本書を読んでください。

ここではリサーチに焦点を絞り、おもしろいと思った文章をいくつか紹介しておきます。このblogを読んでくださっている方には、いまさらという感じもあるかもしれませんが、いま一度、リサーチの課題を思い起こしていただければと。

◆「未知との遭遇」

(「さらなる成長を目指すには、新興国の低所得者市場に参入しなければならない」という文脈において)
したがって、消費者理解という点からは「未知との遭遇」状態が起きていた。その場合は、これまでの欧米、日本など高度経済市場での成功体験は横に置き、新興国で生活する消費者の人たちと虚心坦懐に接して、深く理解しなおすことがビジネス成功のカギになる。
新興国市場のほとんどを占める低所得の消費者が満足してくれる製品を提供する時に、米国の低所得者層の知識は全く役に立たない。その知識は逆に、有望ビジネスを破壊する危険性さえある。

ここでは新興国市場攻略のためのリサーチについて言及していますが、「未知との遭遇」というワードに注目すると、他にも応用の利く内容では?

◆「消費者にリードしてもらう」

消費者中心経営の中で、最も誤解されやすいのは、「消費者に決めてもらう経営」と解釈されることである。P&Gは決して、そう考えない。「消費者自身も、自分で何が欲しいのかわからない」からである。P&Gでは商品の開発時にあたっても、消費者と開発者が互いに対話を交わしながら、消費者の反応を見ながら、商品開発を進める。つまり、消費者に決めてもらうのではなく、消費者にリードしてもらう形で積極的に消費者の嗜好を取り入れている。

いまでは「消費者に直接答えを聞いても意味がない」は、リサーチの常識の部類でしょう。ただ、だからといって、消費者を蚊帳の外に置いていいわけでもない。それが、「リードしてもらう」感覚なのでしょう。

◆「生活現場重視」

消費者の真意は、調査データに存在するのではないことを、ラフリーは日本でのビジネス経験を通して学んだ。P&Gのシンシナティ本社の経営陣は、消費者調査の統計データの中に埋まっているが、生きた消費者の生活実体や心を理解していないと見抜いた。
ラフリーは日本駐在の間、自分が確信の持てる市場調査を行うため、絶えず小売店や家庭を訪問した。

調査データの平均値だけを追っていっても、消費者の実態や心をなかなか把握できないというのもだいぶコンセンサスが取れてきたのでは?だから、エスノグラフィなどの手法に注目が集まっているのでしょう。(ただ、ここから短絡的に「定量調査は意味をなさない」などと思わないでください。)

他にもいろいろあるのですが、このようなP&Gのリサーチ思想は、世界60カ国で年間232億円という調査予算となって表出しています。単純平均で、1カ国で3.8億円強の予算。。。
(こんな企業がもっと増えてくれれば、リサーチ業界ももっと・・・)

以上、今回はリサーチ中心にレビューしてますが、他にもいまのマーケティングを考える上でのヒントが随所にあると思います。とくに、「コネクト・アンド・ディベロップ」は、オープン・イノベーションの事例としても、取り上げられることが多いものです。
P&Gの改革については、すでにあちこちで書かれていますが(たとえばHBRでの記事↓)、まだ読んだことがない方や、一度全体像として理解しておきたいという方には、必読の本だと思います。

注:HBRでの関連記事は、つぎのようなものがあります。

「P&G:マーケティングの原点」(HBR2007年7月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 07月号 [雑誌] Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 07月号 [雑誌]
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2007-06-08

「P&G:コネクト・アンド・ディベロップ戦略」(HBR2006年8月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 08月号 [雑誌] Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 08月号 [雑誌]
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2006-07-10

「P&G:有機的成長のリーダーシップ」(HBR2005年11月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2005年 11月号 Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2005年 11月号
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2005-10-08

「P&G:マーケティング力の復活」(HBR2004年2月号)

また、英語がOKな方は、改革の当事者であるA.G.ラフリーが著者である↓の本もありますでの参考までに。(おそらく翻訳されていないと思います。。。)

The Game-Changer: How You Can Drive Revenue and Profit Growth with Innovation

The Game-Changer: How You Can Drive Revenue and Profit Growth with Innovation
価格:¥ 2,587(税込)
発売日:2008-04-08

(↑ この本、翻訳されていました、こちら ↓ )

ゲームの変革者―イノベーションで収益を伸ばす ゲームの変革者―イノベーションで収益を伸ばす
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2009-05-23

さらに、オープン・イノベーションについては、こちら↓を。
P&Gが事例として取り上げらています。他にも、ボーイング、BMW、レゴ、メルク、IBMなども。

ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2007-06-07