owl 前回は、Q子さんにつられて、だいぶ実利的な話になってしまったけど、今回は、調査会社がどんな仕事をしているのか、どういう資質や能力が求められているのかについて。
Q子 お願いしま~す(^^)
owl ・・・。
では、調査会社の仕事。調査会社の主な仕事は、一般的には、クライアントの課題解決のために、リサーチの企画・設計をして、実際にデータを収集・分析・報告すること。だから、必ず実査を伴うことになるし、この実査をいかに正確に、効率的に行うことができるかが大切になる。そして、忘れないでおいて欲しいのが、適切なリサーチデザインを企画・設計するには、実査の現場を知らないといけないということ。学術的な正確さとか、理想の調査は確かにあるんだけど、現場では様々なことが起こるからね。「データを集める」と一言で簡単に言うけど、いろいろな作業工程がある。どのような作業が行われていて、どんなことに留意しなければならないのかについて、理想と現実のギャップを認識して、それをリサーチの企画・設計にどれだけ反映できるかということが、とても大切なことになる。
だから、調査会社に入ったら、一度は実査セクションを経験することはとても大切なことだと思う。
Q子 でも、実査って、泥臭いって書いてあったような・・・。嫌だな・・・。
owl どんな仕事でも、泥臭い部分はあるし、そんな仕事をしてくれている人がいるから、企業が成り立つんだよ。どうも、表面的なかっこよさとか、きれいなところしか見ない人が少なく無いし、そういう泥臭いところを嫌がってすぐに会社を辞める人もいるけど、それは違うと思うよ。
メーカーだって、工場で商品を製造してくれている人がいるし、営業で商品を売ってくれる人がいてはじめて、商品がお客様に届けられるんだから。そういうことを知らずに、商品開発だ、マーケティングだといっても、現実を見ない机上の空論になってしまう。
調査も一緒だよ。正しいデータを集めて、はじめて分析ができるし、クライアントへの提案だってできるようになる。データ収集の現場で、何が行われていて、どんなポイントがあるのかを知らないと、浮ついた企画や提案しかできないからね。
Q子 はい・・・。
owl では、企画や設計、調査票の作成はどうするか。これも、一朝一夕でできるようになるわけではない。テーマも様々、商品も様々で、いくつかのフレームやパターンを覚えたからといって、なんでもできるようになるわけではないから。むしろ、覚えたフレームやパターンに囚われて、テーマや商品を無視して企画をしたり、調査票を作っても、使えない調査になる可能性の方が高いと思う。
だから、知識を得ることや、経験を積むことに対して、貪欲になってほしい。自分で実際に経験できることは多くないのだから、他の人の仕事を見たり聞いたりする、新聞、雑誌やテレビ、あるいはセミナーなどを通じて、いろいろな業界や商品について理解しようとする、どんなことが課題になっているのかを知ろうとする、そんな態度や姿勢が必要だよね。
P夫 で、分析は?
owl 分析も、まずは知識と経験が大切。それと、センスもけっこう大事。
センスというと先天的なもののように思うかもしれないけど、やっぱり知識と経験に裏打ちされたものでないと。野球のイチローしかり、サッカーの中田しかり、将棋の羽生しかり。みんな天才的だけど、それまでの練習や訓練、学習の積み重ねがあってこそ、だよね。
で、リサーチャーはどんな知識と経験を積まなければならないか?
プロです、スペシャリストです、というくらいになろうとしたら、かなり広い範囲でカバーすることが必要だと思う。調査理論、統計理論はあたりまえとして、さらにマーケティングや経営学、心理学は必須かな。プラス、論理力、表現力、コミュニケーション力もないと困る。いまでは、ネットワーク理論や脳科学、行動経済学なんて領域まで知っていると、なおいいだろうね。
それと、クライアントの業界、商品について知らないのも、お話にならない。。。
Q子 なんか、たいへんそう・・・。私、リサーチャーの資質、あるのかな・・・。
owl これまでの繰り返しになるかもしれないけど、いくつかの本で整理されている「リサーチャーの資質」を上げておくので、参考にして。
ただ、これをみてすぐに諦めないでね(^^;
皆がみんな、こんな人というわけではないし、仕事を通じて身に付くものだっていっぱいあるんだから。ただ、リサーチャーを目指したいという人は、ひとつの指針として、頭の中には入れておいてほしいんだ。
(のだめではないですが、「上」をめざすつもりのない人は別です・・・)
まずは、「マーケティング・リサーチの論理と技法」から。
<素養関係>
・企業行動を理解しマーケティング視点に立脚している
・消費者の心理や行動に強い関心がある
・論理的思考、科学的思考ができる
・チャレンジ精神が旺盛である
・サービス精神がある
・責任感が強い
<能力関係>
・リサーチの企画・設計に優れている
・実査・集計業務に明るい
・分析能力、洞察力、要約力に優れている
・文章表現が豊かである
・口頭プレゼンテーションに優れている
・数字に明るい
<態度関係>
・問題点を完全に解決しようとする気持ちが強い
・作業効率を高める努力をする
・自社内のリサーチ発注部門を支援しようとする気持ちが強い
(筆者注:「自社内のリサーチ発注部門」は、「クライアント」へ置き換え可)
続いて、「リサーチャーの仕事」から。
<知識>
・基本的な知識は何か
→信頼できる情報にアクセスする、コンピューターの腹の中を知る、
質的情報の分析技術をもつ
・リサーチの専門知識は何か
→サンプル調査の常識とは何か、リサーチ内容の専門知識とは何か、
テーマに影響する周辺知識を持つ、
<能力>
・情報整理術を身につける
→引き出しをたくさん持つ、引き出しの関係性を体で覚える
・分析能力を磨く
→重要性で順位をつける、因果関係をはっきりさせる
・表現力がいる
→説得力のある文章を書く、表やグラフを活用する
・課題を解決する発想力がいる
→データに基づいて考察する、問題点を浮き彫りにする
最後に、「マーケティング・リサーチ業界」から。
・第一に必要なのはリサーチ・センス
→物事の因果関係や関連性を見極めることができて、なおかつそこに隠された
課題や問題点を明らかにできる能力
・分析力を磨くこと
→ある事柄を先入観なしに細かな要素に分解して、さまざまな角度から
その内容や性質を分類し、再び統合して新たな情報を構築していくこと
・論理的な思考を養うことが分析力をつける
→閃きをしっかりと理屈にできて、ちゃんとしたシナリオが書けるような
論理的な思考が必要
・表現力=プレゼン力が調査の価値を高める
→調査をやって得られた結果をどうクライアントに説明するか
どう?3つの本から引用したけど、共通することが多いでしょう?
Q子 そうですね。意外だったのは、プレゼンテーション力かな。
「調査」っていうと、なんか研究、地道にこつこつ、って印象があったから。
owl そうだね。調査会社に入る人には、人と話すのがあまり得意じゃなくて、こつこつと仕事をするのが好きだから、という人も少なく無いんだよ。とくに、男でね(^^;
ただ、調査会社って、サービス業なんだよね。人と接するのが苦手な人はNGだよね、基本的に。ここでは、対クライアント視点で書かれているけど、実査セクションだって、調査員さんや対象者の方と接しないといけないし、クライアントと接するよりも、こちらの方が難しいかもしれない。
ただ、集計セクションだと、たしかに地道にこつこつという面も無きにしも非ずだけど・・・。
Q子 リサーチャーって、結構たいへんですね・・・。
となると、待遇面が気になったりしますが・・・(^^;。
owl また、実利に戻る・・・。
待遇ね・・・。会社による差が大きいと思うし、公開されているデータがないから、正確なところはわからない。ただ、一般的には、スペシャリストという言葉ほどにはよくはないと思う。たとえば、広告代理店やシンクタンクと比べると低いと思う。といって、世間一般と比べて悪い、というほどではないと思うけど。。。
やっぱり、どれだけデータに付加価値がつけられるか=データの分析能力や提案力が高いか、によると思うよ。
それと、調査って土日や夜に行うことが少なく無いから、ふつうに土日に休めないこともあるし、クライアントがいるので納期がぎりぎりのときとか、実査前日とかは、残業で終電間近ということもあるよね。
あとは、この仕事にどれくらいやりがいを持てるか、かな。
または、調査会社でリサーチに必要な知識や能力を積んで、広告代理店とか企業にステップアップするか。
P夫 企業だって、いろいろですよ・・・。
owl そうだよね。だから、就職するにしても転職するにしても、自分のやりたい仕事ができるか、自分の提供している価値に見合った待遇を受けているか、他の会社に行けばその待遇を期待できるか、将来的にいまの会社で成長できるか、他の会社に行った方が成長できるか、こういうことを総合的に判断しないとね。
体力的、精神的にしんどいという場合もあるだろうけど・・・。
Q子 はい、よくわかりました。
owl さて、調査業界のことについて、長々とやってきたけど、やっと本題に入れそうだね。
では、次回からは、マーケティング・リサーチについて勉強していくことにしよう。
P夫 やっとだよ・・・。