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「生活者の背景や文脈を理解する」(補遺)

このblogで紹介するのが遅くなりましたが、4月から「市場調査クリニック(Collexia)」にてインタビュー記事を掲載してもらっています。
これまで3回掲載し、それぞれつぎのような内容になっています。

「変化するリサーチ業界と、変わらないリサーチの基本(前編)」
「変化するリサーチ業界と、変わらないリサーチの基本(後編)」
「回答者の背景を理解する(前編)~改めて回答者の背景を理解しなければいけない理由~」

そして、4回目となる今回のエントリーがこのblogでの表題でもある

「回答者の背景を理解する(後編)~生活者の背景や文脈そのものを理解する」

です。今回のエントリーは、この「生活者の背景や文脈を理解する」の補遺となる内容です。
この考えに示唆を与えてくれた本を紹介しておこうと思います。
(ですので、まずは「市場調査クリニック」でのエントリーを読んでから、こちらに戻ってきてもらえればと思います)

◆『イノベ-ションへの解』

まずは、「イノベーションのジレンマ」でも著名なクリステンセン、彼の本でもコト(「用事」と書かれています)の重要性は指摘されています。
多くの人は『イノベーションのジレンマ』を読んでいると思いますが、個人的には、こちらの著書のほうが、お勧めです。(リサーチの視点では、とくに3章)

イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press) イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2003-12-13

ここで紹介されているミルクシェーキの話は、ご存知の方も多いかもしれませんが、核心なので少し紹介しておきます。

あるクイックサービス型レストランチェーンの担当者がミルクシェーキの売上と利益の改善を図るために行なったこと、それは市場を商品=ミルクシェーキによって体系化し、既存顧客の属性を元に細分化し、ぞれぞれの属性のパネルを招集して顧客の求めるミルクシェーキを検討することでした。しかし、この結果に基づいた改良は売上や利益を大きく伸ばすことはありませんでした。
つぎに行なったのは、ミルクシェーキの購入者を子細に観察すること、そしてどんな用事を片付けるためにミルクシェーキを購入したのか、その用事のために代替となる商品は何か、ということを明らかにすることでした。さらに朝と夜との違いも明確にしました。用事に焦点を当てているので、時間による用事の違いも重要なポイントです。
「片付けるべき用事」に焦点を当て、この用事を片付けるイノベーションを実行に移せば、成功するだろうとしています。(pp.91–98)

このように、顧客が片付けようとしている「用事」を突き止めることこそが、破壊的イノベーションのための足がかりになると結論づけています。クリステンセンのこの主張も、「生活者の背景や文脈を理解することの大切さ」を確信するに至る大きな契機となりました。
(ただし、一方で「これまで述べてきたことは、多くの点で目新しいことではないし、目新しいと取られては困る」(p.109)と主張している点にも、注意をしておきたいです。そこには、4つの抵抗要因があると指摘しているのですが、いずれもなるほどと思わせる内容です。つまりは、4つの抵抗要因をクリアしないと、どうしても商品軸の定量的な分析をせざるを得ないということにもなります。詳しくは、本書で確認してください)

◆『ビジネスのためのデザイン思考』

「生活者の背景や文脈を理解する」という考え方に最も影響を与えたのは、大学院時代にデザイン思考に出会ったことでした。とくに、ビビビっときた(古いですね^^;)図があるのですが、その図が掲載されているのが本書です。(私が見たのは、この本になる前の授業でですが・・・)

ビジネスのためのデザイン思考 ビジネスのためのデザイン思考
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2010-12-01

この本の中では、つぎのように記述されています。

コモディティに付加価値を載せるという製造業のモデルではなく、顧客にとっての本質的価値を起点として、顧客との対話を通じて、コトや経験、「世界」を生み出し、それに沿って技術やモノ、知識を関係付けていくことです。(p.56)

そして、ビビビっときた図もこの本の中にあるのですが、そちらは読んで確認してください。

この図を見た時に、つぎのような解釈をしました。
以前の“モノづくり”は、モノにコトの知やデザインを施すことが“付加価値”であり、そのことで差別性を築いてきたのでしょう。だからモノはどんどん多機能化することになったのではないかとも思います。
つぎに、コトの知のみでの差別性が難しくなり、記号性をまとうことで“付加価値”を与える時代が来ました。『なんとなくクリスタル』(これまた古い^^;)の世界です。本質的な差異はなく、モノのもつ記号性自体が差別性となり、意味を持ちました。
しかし、記号による差別性にも限界が来ます。ほとんど差別性のない商品が世の中に溢れるようになります。この段階において求められるのが、顧客にとっての本質的な価値を起点に、顧客の生活、体験、コトという次元での新たな世界を生み出すことです。これこそが差別性の源泉となります。本質的な価値を起点とした生活、体験、コトにシーズや技術、つまりモノの知を埋め込む、という発想が必要になるのだと思います。

この理解が、「生活者の背景や文脈を理解する」ということにダイレクトに結びつきました。
本書では、あわせて背景や文脈を理解する手法(エスノグラフィ)や、そこから具体的にデザインを行う方法論まで紹介されていますので、デザイン思考に興味をもった方は、本書を読んでみてください。

◆『デザイン思考が世界を変える』

少し前後しますが、デザイン思考に最初に触れたのは、おなじみ『発想する会社!』です。
こちら のエントリーでも少し紹介しています。

いまはもう少し整理された、こちら ↓ の本の方がよいかもしれません。

デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方 (ハヤカワ新書juice) デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方 (ハヤカワ新書juice)
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2010-04

この本では、それこそ「リサーチは役にたたない」的なフレーズも多々なのですが。。。
たとえば、

「顧客に何が欲しいかと尋ねたら、もっと早い馬が欲しいという答えが返ってきただろう」と述べたヘンリー・フォードは、この点を理解していたのだ。(p.55)

そういった(=創造的な)アイデアやコンセプトは、専門のコンサルタントを雇ったり、「統計学的に平均的な」人々にアンケートを行ったりすることで生み出されるものではない。(p.57)

ただし、これらについても「従来のリサーチ」と断っていますし、「漸進的な改良には役立つ」とも書いています。つまり、目的と手段の関係性の中で、「創造的な」課題にとっては直接生活者に答えを求め、平均で物語るような手法は役立たたない、ということです。この点は、くれぐれも誤解なきようにしていただきたいと思う点です。

そして「市場調査クリニック」の今回の記事で後段に書いている、リサーチャーとクライアントのコラボレーションは、やはりデザイン思考(というか、方法論?)に学んだものでもあります。本書や、『発想する会社』を読むと、ディスカッションがいかに重要かがわかると思います。
また、JMRX(詳しくは こちらに)でのインサイトやエスノグラフィなどに関わるいくつかのセミナーでは、必ずといって良いほどアウトプットとしてのワークショップの重要性を指摘していました。最初にデザイン思考について触れていたので、創造的なリサーチにはワークショップは欠かせないのではないかという仮説を持っていたのですが、はたしてリサーチを提供する会社でこの形が可能なのかという疑問もありました。しかし、JMRXでのセミナーにおいて、やはり先進的な取り組みをされている企業さんではワークショップという形をとっていることがわかり、リサーチャーとクライアントのコラボレーションは重要なファンクションであると確信するに至りました。

他にもいろいろあるのですが、以上を代表的な3冊として紹介しておきます。
「生活者の背景や文脈を理解する」ことの意味と重要性について、さらに理解をしたいと思われた方は、これらの本もあわせて読んでいただければと思います。

最後に。
「市場調査クリニック」でも書いていますし、このエントリーでも触れましたが、従来の商品中心の検証型のリサーチが無意味だとは言っていないということは、理解しておいてください。
今でも、そしてこれからも、検証型のリサーチが不要になることはないと思いますし、重要な役割を担います。
しかし、よりイノベーティブな商品開発が求められている時代においては、創造的なリサーチが必要になるだろうし、そのためにはこれまでのリサーチとは異なる、「生活者の背景や文脈を理解する」という視点や姿勢が大切になるし、そのための方法論も異なってくるのではないですか、という提案であり、問いかけでもあります。
この点を前提としていただければと思います。

リサーチ手法のポジショニング

前回のエントリー( 「ソーシャルメディアとリサーチ」 )のあと、Survey ML 萩原さんにつぎのようなコメントをいただきました。

ソーシャルリスニングを<構成的-非構成的>、MROCを<独立性-関係性>というリサーチ業界の言葉で明快に整理した論考

はい、おっしゃるとおりです。
実は、この2軸でリサーチ手法をポジショニングできないかと考えていました。もうひとつ、しっくりくるものにならなかったので、前回はチャートにするのをあきらめていました。

しかし、前回のエントリー後のここ一両日で、関連する雑誌やblogを立て続けに読むことに(セレンディピティでしょうか・・・)。それは、以下の3つです。

『宣伝会議』最新号(2011/9/1号)、第3特集「消費者の声を聞く 革新的リサーチの導入方法」

宣伝会議2011年9月1日号 NO.820

  • 注目集める次世代リサーチ手法――トランスコスモス/マクロミル 萩原雅之
  • リスニング、MROCに高い関心――MROCジャパン 岸川茂
  • 企業のマーケティングリサーチ活用――日産自動車、キリンホールディングス
  • 対談:ソーシャルメディア活用でマーケティングリサーチはどう変わるか――ホットリンク 内山幸樹×GMOリサーチ 細川慎一

『マーケティングリサーチャー』最新号(NO.115)、特集「インタビュー調査 再考」

『マーケティングリサーチャー』最新号(NO.115)

  • 定性調査の調査機関およびリサーチ・ユーザーにおける実態
  • インタビュー調査の現状と課題~リサーチ・ユーザーの生の声を通して考える
    株式会社ジュピターテレコム/株式会社電通/日本たばこ産業株式会社/ライオン株式会社/富士通株式会社/株式会社博報堂/アサヒビール株式会社/株式会社カネボウ化粧品
  • 〈考察〉 それぞれの立場から

blog 『えとじやブログ~ひねくれマーケッターのひとりごと』より、つぎのエントリー

「実はとっても難しいグループインタビュー -調査方法の選択」
(『えとじやブログ~ひねくれマーケッターのひとりごと』:2011/5/19)

“今日は目的に合った調査をしましょう、よく使われるグルインですが実はなかなか難しいんですよ、というお話でした。”

そして、これらに刺激を受けて整理したMAPは、こちら ↓ です。
(それぞれの軸の意味性については、前回のエントリー の後半を読んでいただくと、わかると思います)

 20110903リサーチchart

 

 

※Panel Data:視聴率データやPOSスキャニングデータなど
※Life Log Data:行動履歴データ(アクセスデータ、GPSデータなど)

ポイントは、「量的-質的」という軸を使わないことでした。この軸が、リサーチ手法を分類する基本中の基本なのはわかるのですが、Survey や Interview 以外のデータ収集方法がいろいろと実用化されるにつれ、この軸以外の整理軸が必要だとぼんやりと考えるようになりました。そして、いま時点での結果が、このMAPです。
ポジションニングのために単純化しているので、もちろん、いろいろと疑問や反論は出てくると思います。(たとえば、ホットリンクの内山さんは「ソーシャルリスニングは、検証にも使える」とおっしゃると思いますし、ベテランのモデレータさんは「グルインを構成的に使うことはあり得ない」、データ解析系の方は「アクセスlogデータは、検証的にも使う」、などなど)
が、いくつかの問題点には目を瞑り、いまのところのまとめとして、ご紹介しておきたいと思います。

そして、このMAPを通じて伝えたいと思ったことは、先に紹介した記事でも、みなさんがほぼ同様に書いていたことと一緒です。それは、

  • リサーチの目的(チャートでの吹きだし)に沿った、データ収集の手法を選ぼう
  • リサーチ手法はひとつだけでなく、目的にあわせて組み合わせよう
  • そして、よりよい仮説づくりと検証から、よりビジネスに活かせるリサーチをめざそう

ということです。

一昔前の Survey と Interview を理解していればいい、という時代ではもうないのかもしれません。だからといって、これらの手法が古くて、新しい手法に切り替えなければならない、という訳でもありません。
それぞれの手法のメリット・デメリットを理解し、合目的的に、そして効果的にリサーチをデザインすることも、これからのリサーチャーにとってはより重要な役割であり、それがビジネスに有効なアウトプットに結びつくのだと思います。

※寺子屋FBページも、ぜひフォローしてください( こちら です)。
リサーチやマーケティングに関連すると思われる情報を、都度、紹介しています。
今回のエントリーについての、ご意見・ご感想や異論・反論もぜひ。

 

ソーシャルメディアとリサーチ

「ソーシャルメディア」というワードが、かなり一般化してきました。
このblogのメモ版であるFaceBookページで取り上げる題材も、ソーシャルメディアに関するものが多くなってしまいます。(寺子屋FBページは、こちら です)
そこで、ここで一旦とりまとめをしながら、リサーチとの関連を考えておきたいと思います。
(※「ソーシャルメディア」という言葉の定義はあいまいで、人によって異なるようです。ここでは、「個人が発信することのできるメディア」すべてを含む広い意味で話を進めます。具体的には、mixiやtwitter、FaceBook、Googl+などに限定せず、ブログ、2chなどの掲示板、はてブなどのソーシャルブックマーク、YouTubeなどの投稿サイト、価格.comなどのリコメンドサイトなども含みます)

◆「ソーシャルメディア」は花盛り?

グラフは、google Insight での「ソーシャルメディア」検索の推移です。
2011年の1月にブレイクし、以降コンスタントに検索されていることが見てとれます。
(3月の底は震災、5月の底はGWです)

Ws000000002

また今年3月くらいから、雑誌でのソーシャルメディアに関する特集が続きました。
(主なものとしては以下)

まずは、HBR「ソーシャルメディア戦略」

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 04月号 [雑誌]

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 04月号 [雑誌]
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2011-03-10

宣伝会議「ソーシャルリスニングとは何か?~傾聴から始まる企業戦略」

宣伝会議 2011年 7/15号 [雑誌] 宣伝会議 2011年 7/15号 [雑誌]
価格:¥ 700(税込)
発売日:2011-07-15

Think! 「ソーシャルメディアインパクト」

Think! No.38 ―ソーシャルメディアインパクト Think! No.38 ―ソーシャルメディアインパクト
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2011-07-15

IT批評「ソーシャルメディアの銀河系」

IT批評 Vol.2
価格:¥ 1,000(税込)
発売日:2011-05-20

発行日をご覧いただくとわかるように、まさに“今が旬”、です。
ネット上での評論や事例紹介を追いかけると、それこそ数知れず、です。

本屋さんにいくと、ソーシャルメディア関連本のコーナーがあります。
Amazonで「ソーシャルメディア」で検索すると、471件がヒットします。さらに、過去90日以内発行に絞っても87件です(2011/8/25現在)、まさに旬です。

この中で、個人的にお勧めなのは、こちら ↓ の本。

ソーシャルメディア進化論 ソーシャルメディア進化論
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2011-07-29

ビジネス書らしからぬ筆致ですが、これも筆者が長年にわたりソーシャルメディアと向き合ってきた経験をベースに書かれているからだと思うと納得がいきます。
ソーシャルメディアの背景であるインターネットの歴史を遡りながらその本質を確認し、その上でいまのソーシャルメディアの地図を提示しています。そして事例とそこからもたらされる価値について整理する、という構成になっています。
全体に、単にビジネスの視点だけでなく、もっと大きな枠から整理されている点、そしていまの状況だけでなく、これまでの流れ(ここにいたる苦労?)もふまえて説明されている点に好感がもてます。
(この本のエッセンスは、こちら ↓ の連載でも理解できます)

「ソーシャルメディア進化論」(ダイヤモンド社 書籍オンライン)

また、こちら↓の本も、ソーシャルメディアを広く捉える上(社会学的な視点でといった方がいいでしょうか)では勉強になった本です。
(2010年12月に書かれているので、FaceBookのことなど今では「ん?」と思う点も多少あります。けど、個別事象ではなく、広く捉えることが目的なのでOKでしょう)

日本的ソーシャルメディアの未来 (PCポケットカルチャー) 日本的ソーシャルメディアの未来 (PCポケットカルチャー)
価格:¥ 1,554(税込)
発売日:2011-02-04

さらに、最新(平成23年版)の『情報通信白書』でも、ソーシャルメディアが取り上げられているではありませんか。
今年のテーマは「共生型ネット社会の実現に向けて」。とくに、ここ ↓ からソーシャルメディアの可能性と課題について、リサーチを元に検証しています。いまのソーシャルメディアの状況を捉えておくには、いい資料になっていると思います。(ただし、インターネット調査である点に注意)

平成23年版 情報通信白書 第2部第3章2節-3
「ソーシャルメディアの可能性と課題」 (総務省)

このようにソーシャルメディアは、もう「知らない」では済まない状況になってきている、といえそうです。(とくに、マーケティングやリサーチに関わる人なら)

ただし、「ソーシャルメディアがビジネスやマーケティングにどう“使える”のか」ということを追いかけるよりも、「ソーシャルメディアが社会や個人にどのような影響を与え、人々の生活や行動がどう変化するのか」ということを理解することが大切なのでは?、と感じています。その上で、ビジネスやマーケティングにどう使うのか、ということを自身で考えるべきでしょう。
これまでの「メディア」に接するのと同じ考え方でソーシャルメディアを捉えると、あるいは既に行われている事例の形をまねするだけでは、きっと成果は望めないでしょう。
(成果が望めないどころか、マイナスの影響を受けるリスクも高いと思います)

◆リサーチへの影響は?

リサーチへの影響としては、2つの点であらわれていると言えそうです。
ひとつは「ソーシャルリスニング・プラットホーム」、もうひとつは「MROC」です。

ソーシャルリスニング・プラットホーム

このような言い方をする以前から、blog分析の形で、ソーシャルメディア上の発言を解析するサービスはありました。
それがいまでは、「ソーシャルリスニング・プラットホーム」として多くのプレイヤーから提供されるようになっています。(さらに発信機能とあわせて「ソーシャルメディア・プラットホーム」と言ったほうがいいものも)
こちら ↓ のページで一覧になっていましたので、ご紹介しておきます。

広告会議、クチコミ分析アーカイブ

なぜ、これだけ多くのサービスがリリースされるのでしょう。

リサーチの方法を考えるときに、構成的-半構成的-非構成的という視点があります。
構成的なデータは、しっかりと設計された上でデータを集めるので、こちらの知りたいことの答えを確実に集めることはできますが、聞かなかったことについてはまったく知ることができません。
一方で、非構成的なデータは、どんなデータが得られるのかまったくわからないので、もしかしたら期待したデータが得られないかもしれない、他の人も言わなかっただけで同じことを考えているかもしれないなどの制約はありますが、こちらが気づかなかった発見を得ることができる可能性は高まります。
これまでは、非構成的なデータを得るためには、まわりの人に話を聞くとか、観察をしてみるなどしか方法がなかったので、広く大量にデータを集めることが難しかったといえます。

しかし今は、「いままで気づかなかった発見」を、どれだけできるかが重要になっているといえそうです。「インサイト」という言葉がよく使われるのも、「エスノグラフィ」という手法が関心を集めるのも、このような背景があるからでしょう。
さらに、幸いなことには、ネット上にはソーシャルメディアを通じて、たくさんの非構成的なデータが溢れているわけです。
となると、非構成的なデータをどれだけ集めることができるか、そこからどれだけの知見が得られるかが求められているといえるでしょう。その結果として、ソーシャルリスニングのプラットホームが次々とリリースされていると考えると納得がいきます。

さらに、積極的な企業は自社で、ソーシャルリスニングの仕組みを作っています。
代表的な事例として、DELLを紹介しておきます。(写真が、なかなか興味深いです)

米デル社はなぜ、「ソーシャルメディア・リスニング・コマンドセンター」を設立したのか?(アドタイ、2011/7/19)

MROC

そして、もうひとつの展開がMROC。
実をいうと、このblogの検索ワードの上位に「MROC」があがってきます。ちょうど1年くらい前に、こちら ↓ の記事を書いたのですが、この記事がかなりのPVを獲得しています。

MROCを考える(2010/8/28)

このときはまだ、概要と疑問点を伝えただけの内容ですし、日本ではMROCの影も形もありませんでした。
しかし、いまではMROCをサービスメニューとしている会社があるという状況です。それも、上記のソーシャルリスニング・プラットホームとは異なり、リサーチ会社が主体となっているのも特徴的です。
代表的なものでも、これだけ ↓ あります。この1年で、まさに様変わりです。

メーカーの商品開発を支援するリサーチ専用コミュニティ、「Marketing Research Online Community」―MROCサービス開始のご案内(ドゥハウス)

MROC(エムロック):Marketing Research Online Community (クロスマーケティング)

楽天リサーチ ソーシャル・ネットワーキング・サービスを活用したインターネット調査手法「MROC」の取り扱いを開始 (楽天リサーチ)

MROC (エイベック研究所)

MROCフルサービス (index-i)

さらに、8/16の日経産業新聞によると、インテージとマクロミルも近々サービスインの予定と報じられています。(日経のサイトは会員限定です)

調査にSNSの声~インテージなどネット調査大手、相次ぎ導入
(日経新聞電子版:2011/8/21)

なぜ、複数のリサーチ会社がMROCに続々と参入しているのか?
ここには、やはりソーシャルメディアが影響していると思います。(単に、次の手を打っておきたい、乗り遅れないようにしたい、という会社もあるのかもしれませんが)

統計調査では、回答は互いに影響を受けない=独立であるという前提があります。
しかし、ソーシャルメディアで他人の意見や考え方に接する状況を考えると、「影響を受けない回答を得る」という考え方が、ほんとに正しいのだろうかという疑問を感じます。むしろ、積極的に他者の意見にふれながら回答を考えてもらった方が、実際の意思決定に近い状況になると考えた方が妥当ではないでしょうか? とくに開発系の、これからのマーケットを探索するようなテーマの場合は。(もちろん、実態調査のように他人の意見に影響されない方が正しい回答が得られるテーマもあります)

これまで、グループダイナミクスを前提にした調査はグループインタビューが代表的でしたし、今でも有用であることは間違いありません。しかし、時間をかけて、お互いのことがよくわかった相手と意見を交わしながら、考えをまとめていくという過程は、MROCの方が優れているといえそうです。
最初に紹介した1年前のエントリーで、MROCへの疑問点として掲示板グルインとの違いを上げています。しかし、これは大きな勘違いだったと、いまでは思います。
掲示板グルインは、まさにグルインの形をネットに置き換えただけ(しかも、リアルなグルインを劣悪にした感じで)でしたが、MROCは参加者相互のつながり、お互いの関係性を深めた上での意見交換が、肝なのだと思います。モデレータと参加者の対話ももちろん大切ですけど、参加者間で交わされる自然な会話が、より重要なのです。
(補記:リアルのグルインでも、よいモデレータさんは、対象者の関係性を深め、対象者間の会話が起こるように工夫されています)
ですから、単に対象者を集めて短期間で実施する、つまりお互いの関係性を十分に深めずに行うMROCは、本質的には以前の掲示板グルインと同じだといえると思います。(以前の単純な掲示板とは異なり、技術面で大きな進化を遂げていますので、「同じだ」というのには語弊がありますが、ここはあえて)
前のエントリーから1年を経て、MROCは、この点の理解がとても大切だと思うようになりました。

蛇足になりますが、調査員さんによる面接調査~郵送調査~電話調査~インターネット調査という流れの中でMROCを位置づける言説も見受けますが、これも見当違いといえると思います。たしかに、リサーチのメディア(媒体)の主体は大きく変遷していますが、「オンラインコミュニティ」は、メディアではないでしょう。
さらに、「SNSというツールを使った」という表現も見受けますが、これもやはり本質ではないと思います。
繰り返しになりますが、MROCの肝は「対象商品・サービスへの関心を通じた、参加者間の関係性」にあるのだと思います。

MROCについては、MROCジャパンの岸川さんが数回にわたってblog「みんなのMR.COM」に書いていますので、ぜひこちらもご覧ください。

次世代マーケティング・リサーチ・プラットフォームとしてのMROC(2011/4/4)

日本版MROCの離陸: MROCに対する理解不足と誤解(2011/4/18)

MROCに対する理解不足と誤解 その2(2011/5/23)

これらの他にもMROC情報は盛りだくさんですので、時間のあるときにでもどうぞ。

今回は、ソーシャルメディアについてのさまざまな情報の紹介と、ソーシャルメディアによってもたらされるリサーチへの影響について、まとめてみました。
「ソーシャルメディアとは何ぞや、というまとめがない」というご不満もあるかと思います。
しかし、ここは敢えて書きません。
ご紹介した雑誌や本、またWEB上でのさまざまな言論を読みながら、ぜひ、皆さん自身で考えていただければと思います。
ただ、ひとつお伝えしたいこと、それは途中でも書きましたが、「ソーシャルメディアがビジネスやマーケティングにどう“使える”のか」ということを追いかけるよりも、「ソーシャルメディアが社会や個人にどのような影響を与え、人々の生活や行動がどう変化するのか」ということを理解することが大切なのでは?、ということです。
その上で、自身のビジネスや業務に、どう影響してくるのかを考える姿勢が大切だと思っています。

<※ 関連エントリー: リサーチ手法のポジション 

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リサーチとプロモーション

某リサーチ会社(JMRA加盟社)からリリースされたWEBプロモーションサービスについて、twitter 上で交わされた話題が、目に留まりました。
このままスルーしてしまおうかと思ってもいたのですが、そこで交わされた意見や感想に違和感があったので、このサービスの論点について少し整理をし、私見を書きたいと思いました。
結論から言うと、個人的には今回のケースは「なし」だと思っています。

◆サービスの内容は

このサービスは、

  1. 提携するネットワークへの登録者を対象に
  2. アンケートを活用して、商品やサービスの理解を促進し
  3. 共感している人をクライアントのランディングページに誘導しアクションへ繋げる

というもののようです。さまざまな議論が耳に入ったのか、当該社は追加リリースにて、

  1. 対象者は、リサーチパネルとは異なるネットワークを構築していること
  2. リサーチとは異なる担当者、組織で運営すること
  3. 上記2点において、JMRAには確認済みであること

を説明しています。

◆いくつかの論点と私見

そもそもは、「JMRAのリサーチ綱領に抵触するのではないか」という点です。
とくに、下記の第1条d項への抵触です。

マーケティング・リサーチは、個々の調査対象者に向けられた一切の商業的活動(例えば広告、セールス・プロモーション、ダイレクト・マーケティング、ダイレクト販売など)を含む、リサーチ以外の諸活動と明確に区別され、かつ分離されなければならない。

(JMRA綱領については、こちら のページに詳しいです)

そして、いくつかあげられてた論点として、以下のものがあります。

  1. リサーチパネルと区別しているのだろうか?
  2. リサーチ会社がプロモーションをしていいの?
  3. こんなサービスは、前からあるよね?
  4. サービスとして打ち出していなくても、実態としてあるよね?
  5. JMRA自体(and / or リサーチ業界?)が時代に後れているよね?

これらは、今回のサービスについての議論においては、少し的を外れた意見のように個人的に感じました。
とりあえず、それぞれの論点についての私見を、以下に整理します。

まず「1:対象の問題」。
これは、的外れとは言えないかもしれませんし、追加リリースでこの点は配慮していることを明らかにしています。
なぜ、リサーチパネルをプロモーションに利用してはいけないのかについての議論もありますが、今回はこの点はクリアしているようなので、OKとします。

「2:リサーチ会社がプロモーションサービスを行うこと」について。
これは、議論のわかれる点だと思うのですが、個人的には「してもいい」と思っています。
むしろ、リサーチの結果からクライアントの課題解決にむけて、プロモーション施策を構築したり実施したりできるのであれば、積極的に行うべきだと思っています。
私も、販売店向けのイベント内容を考えたり、情報誌やカタログのコンテンツとして、リサーチの結果を活用したことがありますので。(あたりまえのことですよね)
人的プロモーション(たとえば、販売店サポートをするヘルパーさんなど)サービスを行う一環として、販売店の声やお客様の声を集めるというのも、もちろんありです。
また、試供品のサンプリングの際に、ただ配布するだけでなく、試供品を使った人の声を集めるシステムをつくることなども、ほんとうは必要なのではと思っています。
なので、この点もOKです。

「3:すでにサービスとしてあるのでは」について。
たしかに、ありますね。しかし、「すでにある」ことが、「OK」の根拠にはなりません。
そして個人的には、これらのサービスは「なし」と考えています。
さらに、JMRAの会員社だろうが、なかろうが関係なく「なし」です。
この点については、あとで説明します。

「4:サービスとして打ち出していなくても、実態としてある」について
商品・サービスの評価をネットリサーチで行う場合、クライアントのページに回答者を誘導して、その商品・サービスの詳細をサイト上で読んでもらってから、設問に回答してもらう、というパターンがあります。この過程は、今回のサービスに、とてもよく似ています。
少し目端の利いた人であれば、これは一種のプロモーションではないかと気づくと思いますし、今回のサービスは、この過程を実際にプロモーションサービスとしてメニュー化したものでしょう。
ネットリサーチが普及し始めた頃、「商品の認知経路の選択肢に、『調査で知った』って必要だよね」と話していたことがあります。回答者がリサーチを通じて商品を認知することがあるということを感じていたからこその、(かなりブラックな)ジョークです。
リサーチを通じて商品に興味を持つというのは、グルインなどでもあります。座談会が終わったあとに、「この商品、いつごろ発売になるんですか?」などと聞かれることもあります。
しかし、「結果として知る、興味を持つ」ことと、「意図を持って、知らしめる、興味を持たせる」ことは異なるのではないかと思っています。
アンケートによって結果的にプロモーション的な作用が起こったとしても、それを意図的に行うのは個人的にはNGです。(これも、あとで説明する理由によります)

「5:JMRAが時代に後れている」について
たしかに、リサーチ業界やJMRAが時代に後れているということは、あると思います。
狭義でのリサーチというドグマにこだわって、クライアントへの意味のあるサービスが提供できていないと感じる気持ちもわかります(とくにtwitter で積極的に意見交換をする方たちなので、その思いは強いのだと思います)
以前の話になりますが、ミステリーショッパーはJMRAの綱領に抵触すると言われました。綱領では、対象者に身元と目的を明かさないといけないからです(第4条)。しかし、調査をすることを明かして、ミステリショッパーは成立しません。このとき、私にとってミステリーショッパーは重要なリサーチツールだったので、「時代にそぐわないよな」と不満を感じたことを覚えています。(いまは、どう解釈しているのかな?)
しかし、今回のケースは、JMRAやリサーチ業界の時代認識とは異なる次元の話だと思っています。これも、つぎの説明ゆえにです。

◆なぜ、今回のケースを「なし」だと思うのか?
ずいぶんと前置きが長く、へたなプレゼンの典型のような文章になってしまいました。
もう少しお付き合いください。

今回のケースは、「アンケートの目的外使用」であり「プロモーションツールとして使う」というものです。
お客様や生活者の声を聞くのではなく、アンケートに回答するという行為を通じてサイトを強制的に読ませ、誘導するということです。
厳しい言い方をすると、「アンケートの悪用」ではないかと思っています。
アンケートの結果でプロモーションを設計するとか、アンケートの結果データをプロモーションに引用する(これも、厳しくみるとリサーチ綱領的にはNGになるかもしれませんが、限定つきで個人的には「あり」と思っています)、あるいはプロモーションの一環として声を聞く、というのとは異なります。

今回のケースを、ネット上ではなくリアルの場面で考えてみます。

「ねえ、ちょっと時間ある?、アンケートなんだけど、協力してくれない?」
「このパンフレット見ながら、答えてね」
「あれ?、この商品に興味ありそうだね?
 もっと詳しく説明したいから、ちょっとこっちで話しない?」

私の第一印象は、これでした。そう、キャッチセールス。昔よく見た光景ですよね?
そして、いま路上でこれをやると、東京都では迷惑条例違反になるはずです。

リサーチ綱領は、こういったキャッチセールスを排除するために、第1条を設定したと聞いています。(他にも、アンケートを利用してセールス対象者の名簿を集めるということも行われており、これなども排除対象になっていると聞いています)
つまり、心あるリサーチャーなら、リサーチに対する社会の誤解を招かないように、リサーチと商業的活動を分離しろと言っているのです。そうでないと、リサーチ本来の活動自体も、悪とみなされてしまうので。

会場調査の実査をされたことがある方ならわかると思いますが、いま路上での対象者リクルートはとても厳しくなっています。まさに、キャッチセールスと同等だと捉えられているからです。いくら綱領で規定していても、現実は、アンケートを商業活動に使う人が多いのか、リサーチ環境は悪化しています。まさに、「悪貨は良貨を駆逐する」です。

ネットリサーチしかやったことのない人は知らないかもしれませんが、訪問調査や郵送調査などでは、調査対象者への依頼状に「この調査で、セールスや勧誘を行うことは一切ありません」と明記したものです(おっと、過去形ではないですね・・・)。
これなんかも、「アンケートに答えたら、商品を買わされた、しつこく勧誘された」という苦情があった結果だと推察します。

つまり、リアルであったように、ネットでもアンケートへの誤解が広がる=リサーチの実施環境に影響を与えるのでは、ということを危惧しています。
まさに、どなたかが書いていた「自分で自分の首を絞める行為」だと思います。
なので、このようなアンケートを使ったプロモーションは、個人的には「なし」という立場です。

最後に・・・
以上は、「リサーチ」という視点にたった意見です。
しかし、本音をいうと、プロモーションと感じさせすにプロモーションを行うということ自体が、どうなんだろうというのが率直な感想で、まずこの点で「なし」だなと思いました。
(ステルスマーケティングの一種では?、という感じ。ステルスマーケティングについては、こちらなどを参照 → 「IT Pro:ステルスマーケティングとは」 「Wikipedia:「ステルスマーケティング」

※サイト上のリリースやサービス説明を見て、書いた内容ですので、もしかしたらこちら側に誤認があるかもしれません。その点は、留意してください。
『アンケートパネルを利用していない』ことと同時に、対象者に対して『これは、アンケートではなく、当社の商品を知っていただくためのものです』という旨を明記し、回答者もこのことを了解の上で実施するのであれば、グレーではありますが、ぎりぎり「あり」かもしれません。
ただ、このような話は、あっという間に広がるのがソーシャルメディアの時代なので、「アンケートと思ったら、勧誘ページに行かされた」みたいな話が広がるのは、よろしくないなと思っています。。。

「イノベーションノためのエスノグラフィ」(読売ADリポートOJO)

いまのところのビジネスエスノグラフィのまとめとして良記事だと思うので、とりいそぎの紹介。

「イノベーションノためのエスノグラフィ」(読売ADリポート『OJO』:2010.10.11)

総括的な整理を博報堂の田村大氏が行ない、他にいくつかの事例的な紹介という構成。

ビジネス・エスノグラフィーがイノベーティブな組織をつくる博報堂 イノベーション・ラボ 上席研究員 田村 大 氏

運動会の定点観測が生んだ「瞬足」の画期的コンセプト
アキレス シューズ事業部商品企画開発本部 副本部長 津端 裕 氏

現場の徹底観察からソリューションを生み出す
大阪ガス行動観察研究所 所長 松波晴人 氏

組織・業務の課題を可視化 コーポレート・エスノグラフィー
富士通 フィールド・イノベーション本部 FI技術センター センター長 岸本孝治 氏

新聞の読まれ方を観察する新聞版エスノグラフィーの試み

エスノグラフィについては、さまざまなところで、さまざまなことが言われていますが、個人的には田村さんの考え方やスタンスがもっとも共感でき、納得のいくものだと思っています。
それは、この特集でも語られているような「客観的な真実はない」「客観的事実と思っているのは解釈の問題」「集めた情報を現場の文脈から切り離した瞬間に、その情報は無価値になる」というような点においてです。
このようなスタンスに立てるのか、理解できるのか、によってエスノグラフィのもつ価値は異なってくるように思います。

とはいえ、こうやって文脈から切り離したフレーズを取り出すこと自体が、あやまった解釈を皆さんに与えることにもなると思うので、ぜひ上記の特集を読み込んでみてください。
最初にも書いたとおり、いまのところのビジネスエスノグラフィのまとめとして良記事だと思いますので。

メモ的に新しい動きをいくつか

最近、目についたリサーチ関連の新しい動きを備忘録としてメモ。

◆博報堂、専門チーム「ETHNOVISION」発足

博報堂は、以前にも潜在意識や認知心理学をベースとした専門チームである「博報堂ブレイン・ブリッジ・バイオロジー」を発足しています(→ この blog でも紹介してます)が、今回はエスノグラフィをベースとした専門チームを発足するというリリース。
博報堂からのニュースリリースは、こちら ↓ (PDF)。

エスノグラフィを活用した企業イノベーションコンサルティング専門チーム、
博報堂「ETHNOVISION(エスノビジョン)」発足、活動開始(博報堂:2010.8.30)

サービス内容は、生活者の日常生活に入り込み、多様な生活の文脈から新たな問題や機会(ビジネスチャンス)を発見するエスノグラフィ手法を機軸に展開。顧客の需要開拓からプロダクトデザイン、サービスデザイン、イノベーションマインドやスキルを育成するための人財育成や組織改革など、既存の市場内での競争戦略ではなく、新しい市場の創造を目指す、イノベーション創出を行っていきます。(同社リリースより)

前回のこのblogのエントリーである「MROC」とも絡みますが、やはり焦点はイノベーション創出ですね。

博報堂は以前からエスノグラフィに注力していましたし、開発責任者である田村大氏は、日本におけるビジネス・エスノグラフィの第一人者といえる方です。そういう点からも、エスノグラフィの活用を推進するチームとして期待したいと思いますし、ぜひ成果を発表してほしいと思います(もちろん、できる限りで)。

(※「顧客のインサイト」ということでは『日経情報ストラテジー2010年10月号』も、おもしろそう。まだ購入できてませんが。。。)

特集 顧客のインサイトをつかめ! (日経情報ストラテジー:2010年10月号)

◆インテージ、CSコンサルティングサービス提供

続いては、インテージ。

『JCSI(日本版顧客満足度指数:Japanese Customer Satisfaction Index)』の 「利用推進パートナー」認定を受け、CSを核としたコンサルティングサービスの提供を開始 (インテージ:2010.8.30)

CSコンサルティングサービスの提供開始というものですが、ベースになっているのは、なんと JCSI(日本版顧客満足度調査)。「利用推進パートナー制度」なるものがあったんですね。
こういう制度を活用し、いち早くサービス化してしまうのが、さすがインテージでしょうか。

サービス内容は、

  1. 『JCSI(日本版顧客満足度指数)』を活用した「診断(Diagnostic)」サービス
  2. 当社オリジナルのテーマ型リサーチによる課題の「要因分析(Analytical)」サービス
  3. 日々のお客様の声=“真実の瞬間”にもとづく「改善(Improvement)」支援サービス
  4. これらのKPIモデル化および組織へのビルトインプロセスをご支援する 「定着化(Consulting)」サービス
    (同社リリースより)

とのこと。

日本生産性本部の資料(→ こちら)をみると、他には日経リサーチも名前がでているので、近いうちにサービスインするのでしょうか。

(※JCSIについては、以下の過去エントリーを参照してください。)

平成21年度JCSI(日本版CSI)調査結果(2010.3.17)

国土交通省、道路交通データ収集を抜本改善

こちらはリサーチサービスのリリースではないですが、人手によるリサーチからIT活用のログデータに置き換わる事例として興味深い。

国土交通省、道路交通データ収集を抜本改善(GAZOO.COM:2010.8.6)

リサーチ視点でのポイントは、こちら。

人手による交通量調査や区間を限定した速度調査(断面速度調査)、利用者への聞き取り調査など、従来の道路交通センサスの手法を廃止し、ITS(高度道路交通システム)機器による常時観測値をベースにする。当面は約100万台の民間プローブデータなどを活用、面的な移動速度を把握し、旅行時間など利用者の便益を大きく左右するデータの精度を高める。 (同上記事より)

実態データに関しては、この事例のように、サーベイによるデータからログデータに置き換わっていくのかもしれません。

◆ネットレイティングによる「日本のオンラインメディアの現状」

インターネット視聴率調査の先駆であったネットレイティング社から、白書(ホワイトペーパー)発行のリリース(PDF)。

インターネットの成長ポテンシャルはシニア層に~ニールセン・オンライン、ホワイトペーパーの刊行を開始 創刊号は「日本のオンラインメディアの現状」~
(ネットレーティング社ニュースリリース:2010.8.23)

弊社では、 「どこにどのような消費者がいるのか」、「今インターネット上で何が起きているのか」という視点に重点を置き、 日々のデータ収集・分析を行っております。本レポートでは、それらの活動を通じて得られた知見を5つのトピックに分類し、 皆様にお届けいたします。 (同社リリースより)

ホワイトペーパーのダウンロードは、こちらから(→ ダウンロードページ

データのみでなく、コラムも役立つ。オンラインメディア関連のデータをウオッチしていくには、良い資料となる予感。

◆慶應大学による2つの実験

慶應大学からも、リサーチ関連の実験のリリースがふたつ。

最初は、MROC的な実験。

慶応大、Twitter を活用して未来の技術やサービスを考える社会実験を発表(japan.internet.com:2010.8.27)

Web サイトや Twitter を通じて一般の生活者から情報技術やサービスに対する様々な期待やアイデアを募集。将来の社会において求められる情報技術へのニーズやそれを活用した新たなサービス像を模索するという。 (同大リリースより)

サイトはこちら → 「 MIRAI TWEET COMPANY
twitter によって、生活者の意見を集めようというもの。まだ始まったばかりで、そんなに発言は多くないようですが、最終的にどのような形になるのか。。。

2つめは、「討論型世論調査」。
アンケート調査と市民討論会を組み合わせた、新たな調査手法としています。

「藤沢の選択,1 日討論」(討論型世論調査,市民1000人調査・200人討論)開催について (PDF:藤沢市・慶應義塾大学:2010.8.23)

「藤沢のこれから,集中討論」~討論型世論調査(藤沢市HP:2010.8.26)

討論型世論調査(Deliberative Poll○R)は,アンケートの実施と市民討論会を組み合わせた,新しい調査手法であり,無作為抽出により参加をいただく藤沢市民の熟慮に基づく声を,新総合計画の策定に反映させることを目的としています。 (上記リリースより)

実施の流れの詳細については、上記の資料をご覧ください。

この試みは、少し前に紹介されていた「熟議」という言葉に繋がるものでしょう。そこでは、「集計民主主義」と「熟議民主主義」という対比で紹介されていたのですが、最近のメディアによる世論調査(ともいえないものが跋扈してますが)を見るにつけ、このような仕組みが重要になってくるかもしれないと思っていました。

本当に「多数決」は万能なのか?(JB PRESS:2010.6.22)

“コク”のある世論調査(東京新聞:2010.1.11)

以上、ここ1ヶ月くらいで目に留まったものを、ご紹介しました。

(紹介するプレイヤーがいつも同じになるのは、こちらの情報源が偏っているからなのか、これらのプレイヤーが積極的にリリースを行なっているからなのか、という点が気になりますが・・・)




MROCを考える

8/25にツイッチャーの会(twitter で繋がったリサーチャーの勉強会)が行なわれました。
今回は、experidge 岸川さん(→ blogはこちら。とても参考になるblogです)によるMROC(marketing research online community)の事例紹介。
MROCという言葉はともかく、オンライン・コミュニティを活用したリサーチは以前から興味を持っていたので、岸川さんのセミナーを少しサマライズしつつ、MROCについて思うところをまとめておこうと思います。

【岸川さんによるMROC事例紹介とまとめ】

紹介していただいた事例は、BrainJuicer 社(→HPこちら)の「the JuicyBrains Innovation Community 」。
同社はこのシステムで、ESOMAR の Best Methodology Prize を受賞しているそう。

岸川さんの説明からポイントをつまむと(誤りがありましたら訂正ください>岸川さん)

  • このコミュニティは、製品開発におけるコンセプト開発のための定性調査のプラットフォームとして位置づけられる。
  • 同社の場合は、ひとつのブランドに特化していないクローズドなコミュニティであることが特徴。 (ブランド特化型のクローズドコミュニティの運営会社としては「communispace社」がある。こちらの事例が知られているよう ↓ )

    「米ゴディバ、市場調査よりも「交流サイト」を活用」(日経ビジネスオンライン:2009.4.3)

  • 「ブランド特化型でないコミュニティ」のメリットとして、
    参加者としては、疲弊や惰性、バイアスを軽減できるし、さまざまな製品開発に関与できるので「おもしろい」。
    サービス提供者としては、低価格&低負担で提供が可能。
  • 主なリサーチテーマとしては、インサイトジェネレーション、コンセプトジェネレーション、コンセプトクリニックといった開発上流でのテーマ。
  • 1回のテーマでの参加者は、100人程度。
  • (GIと対比した)オンライン・コミュニティ活用のメリットとしては、安い、早い、継続できる、多くの人の意見を聞ける、広域な人の意見を聞ける、消費者同士のインタラクティブ性がある、等があげられる

といったあたりでしょうか。

実務上の課題となるのが、「コミュニティ運営と結果の分析」というのも納得。
現状は、テキストアナリシス(テキストマイニング)は補助的であって、分析者の読み込みによる解釈が主流だとか。

また、広くMROCとして整理すると(レイ・ポインターによる。下記書籍参照)

  • もっとも急速に伸びている手法。
  • しかし、「これがMROC」という決まった型はない。
  • 定性と定量の融合が図れる。
  • ディスカッション、リスニングという視点は将来のマーケティング・リサーチの主要部分となる。
  • ORC(オンライン・リサーチ・コミュニティ)は、ニューパラダイムやニューマーケティング・リサーチの一要素であることは間違いない。

ということです。

すでに欧米では、blogや本でMROCは広く取り上げられており、代表的な blog や本も紹介していただきました。英語に抵抗のない方は、こちらもぜひ。

◆blog: Research Community FAQ(Jeffrey Henning’s Vovici:2010.7.21)

◆書籍: "The Handbook of Online and Social Media Research" →11章がMROC

The Handbook of Online and Social Media Research: Tools and Techniques for Market Researchers The Handbook of Online and Social Media Research: Tools and Techniques for Market Researchers
価格:¥ 5,698(税込)
発売日:2010-10-11

【感想など】

自分の卑近な例にあてはめて考えるのは、よくない思考なのですが、直感的に思い出したのが、掲示板を活用したオンライングルインでした。この点は、当日の議論でも話がされたので、皆さん同様だったよう。MROCを考える上で、参考になるかもしれません。

また、「空想生活」や「@コスメ」などの事例も頭に浮かびました。

これらもふまえつつ、個人的に気になった点は、以下でした。

  • 「ひとつのブランドに特化していないコミュニティ(以下、インディペンデント・コミュニティといいます)」をメリットとしているが、ほんとにメリットか?
    確かに、ブランド特化型コミュニティでは参加者が偏る可能性もあり、そこでの意見がとんがり過ぎる、過度な適応を導く危険性もあるが、インディペンデント・コミュニティ参加者のテーマ製品への「関与度」は、どの程度のものなのだろう?
    あまり関与度が高くない人の意見をいくら集めても、あまり意味を感じない。。。
  • 参加者間のインタラクティブは、どの程度行なわれているのだろうか?
    オンラインコミュニティで行なう意義は、参加者間のインタラクティブだと思うので、この点は気になる。ただ一方で、twitter をやってみて感じるのは、100人くらいの意見が流れると、意見を追うのがなかなか難しいとも感じるので。。。
    もしも、あまりインタラクティブがなされないとしたら、それは自由回答メインの定量調査と変わらなくなってしまう。
  • そして、すでに岸川さんからもあげられていた「運営と分析」の問題は?
    掲示板型のグルインがうまくいかなかった原因のひとつとして、この「運営と分析」の問題は大きかったように思う。
    個人的に、とくに気になったのがコンテクストの問題。コミュニティ登録の際に、どの程度のプロフィールを取っているのかについては詳しくわからなかったが、「誰が、何を背景に、どういう発言をしているのか」というのが、とくにインサイトジェネレーションでは大切だと思っているので、このあたりの情報がどの程度取れるのかは気になるところ。
    (ブランド型のコミュニティだと、日々の発言の積み重ねで、発言者のコンテクストをある程度把握することができそう。またリアルのグルイン等では、参加者の表情等がコンテクストを理解するひとつの参考になりうるのでは。)

主なポイントは、この3点。つまり、「コミュニティ形成(パネル構成)」「運営」「分析」になりそうです。

【さて、では?】

なんか、このように整理してしまうと、MROC否定派、あるいは懐疑派と捉えられそうですけど、決してそんなことはありません!むしろ、積極推進派です。
(5年以上前から、クオリティパネルやインタラクティブな手法を用いたリサーチの必要性については考えていたくらいです。いくつか実験もしましたが、既存手法の応用では、なかなか難しく・・・)

  • 消費者が「一人十色」になり、「平均的な」マーケットが小さくなっている
  • 消費者の意思決定に、ネットワーク(オンラインでも、オフラインでも)の関与する割合が大きくなっている(意思決定の際にさまざまな情報に接する)
  • 「代表性のあるマーケティング・リサーチ」が難しくなっている
  • 市場実態(何が売れているか)は、IT技術の進化により「サーベイ」を行なわなくてもデータが得られる
  • 上記のような結果として、マーケティング・リサーチのテーマも、インサイト・ジェネレーションやコンセプト・ジェネレーションの比重が大きくなっている

いずれも仮説ですが、このような時代状況にあると考えると、MROCのような手法が有効になると思うからです。

「ここでもう一度、先行研究的な本を見直さないといけないな」と思い、手に取ってみたのが以下の本です。MROCを考えようとするには、このあたりの本は読んでおくべきだろうと思います。(こうやって並べると最近の本がない。ちょっと勉強不足かも・・・)

まず、すでに古典ともいえそうな2冊の本。
「コミュニティ」や「ソーシャルテクノロジー」について考えるには、必読の2冊だと思います。

グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 (Harvard Business School Press) グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 (Harvard Business School Press)
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2008-11-18
ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2007-06-07

日本でのユーザードリブン開発の先行事例として必ず取り上げられるのが「空想生活」であり「空想無印」。ファイル形式= pdf 限定でググると、さまざまなペーパーが得られると思います。やはり「コミュニティ形成」や「運営」を考える上では、参考になるはずです。
そして、少し前のものになりますが、空想生活と空想無印について整理した論文が掲載されているのが、こちらの本です。

競争的共創論―革新参加社会の到来 (HAKUTO Management) 競争的共創論―革新参加社会の到来 (HAKUTO Management)
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:2006-06

もうひとつの課題である「分析」。
MROCが定性情報のためのプラットフォームであるとすると、やはり定性的な分析の視点は必要になるはず。定性分析の基本的な視点を与えてくれるのが、こちらの本。
フィールドをベースにしたリッチな定性情報の分析を基本にしているので、MROCの情報をこのような視点で分析できるのかという疑問も残りますが、逆に、このような視点での分析が可能な情報を得るにはどうするのか、という視点も与えてくれそうです。
(さらに、MROCに定性的な役割だけを求めるのか、という議論もありそうですが)

質的データ分析法―原理・方法・実践 質的データ分析法―原理・方法・実践
価格:¥ 2,205(税込)
発売日:2008-03-25

しかし・・・
先程あげたMROCのポイント、「コミュニティ形成(パネル構成)」「運営」「分析」以外に、重要な構成要素があると考えています。これまで紹介してきた本では、あまり触れられていない要素でもあります。
それは、コミュニティ運営の基礎となる「システム」と、コミュニティ形成の基礎となるであろう「既存の会員組織」です。(これから、まったくゼロベースでコミュニティを形成するのは、かなり難しい選択肢だと思いますので)
これらがベースにあって、リサーチ的な視点からの検討を加えていくことで、日本版MROCが始動するのではないかと思っています。

すでにいくつかの事業会社がオンラインコミュニティを形成し活動を行なっていますし、たしかに、これらのコミュニティも一部MROC的な機能を担っているといえます。
しかし、このようなコミュニティを立ち上げ、運営できる企業は限られています。
であればこそ、ぜひリサーチ会社主導のMROCも求められているのではないかと思うのです。

<関連エントリー>
つぎに、こちら ↓ のエントリーをどうぞ、ほぼ1年後(2011/8)のソーシャルメディアとリサーチの状況を整理しています。

・ソーシャルメディアとリサーチ(2011.8.31)

・リサーチ手法のポジショニング(2011.9.3)

「NHK大相撲名古屋場所生中継」問題から考える

NHKが大相撲名古屋場所を生中継するのかどうかという問題が、データについて考えさせられるので、久々に。

こちら ↓ の記事について、みなさん、どう思いますか?

「楽しみにしていたのに」NHKに反響2000件「中継すべき」が反対を上回る(iza:2010/7/7~リンク切れです)

簡単に整理すると、まず以下の事実があったと。

先月14日から会見直前の6日午後4時半までにNHKに寄せられた意見は約1万4000件で、「中継反対」が66%(約9400件)、「中継賛成」が14%(約2000件)だった。

これを理由のひとつ(=視聴者からも厳しい意見が多い)として、NHKは大相撲名古屋場所の生放送中継をしないことを決めたのですが、それに対して、

NHK広報局によると、意見は福地茂雄会長が記者会見を開いた午後4時半から午後10時までの集計。電話やメールなどで寄せられた約1200件のうち、「中継すべき」は44%を占め、「中継反対」の20%の倍以上となった。

というものです。

単純に見てしまうと、NHKの生中継中止の会見をはさんで、「中継反対」という意見が66%から20%へ減少し、「中継賛成」が14%から44%へと増加した、ということになります。
この数字だけ見せられると、なんと世の中は・・・、という印象を持ってしまいそうです。とくに、最近の内閣支持率の急激な変動などとあわせて考えると、なおさら、「ほら。世の中の意見なんてこんなもんさ。当てにならない」、あるいは、「調査って、ほんとひどい。信用ならん」などということを感じる人もいるでしょう。

ほんとに?、そうなの?。
?マークが頭の中を駆け巡ります。。。

結論を先に言うと、ここに表れている数字は、『世論の曲解』の菅原先生が tweet されていたように、「世論ではなくて反応ですね。不利益を被る側が反応するのが通常なので」ということなのだと思います。

まず確認しないといけないのは、ここで呈示されているデータは「電話やメールなどでよせられた意見」、つまり「NHKに対して(強く?)意見したい人が、実際にNHKに対して言った意見」を元に%を算出しているという点です。
このような背景の下での「反対66%」という数字の意味は、「自らNHKに物申した人の中では、中継反対の人が66%だった」ということで、決して視聴者全体の中の割合でも、相撲に興味がある人の中の割合でも、ふだん相撲を見ている人の中の割合でもない。このことを忘れてはいけないと思います。

そして、「満足した人より、不満な人の方が他人に話をする割合が高い」というデータがあったと思います。
(80年後半頃に、顧客満足の背景として繰り返し語られていたデータなのですが、出典が思い出せません・・・。満足→5人に対し、不満→10人くらいだったように記憶しているのですが)
このことに照らして考えると、「自ら意見を言う人は、相対的に不満な人が多い」ということが考えられ、NHKに寄せられた意見の中で「反対」の立場をとる人が多くなるのは当然の結果だともいえるでしょう。
つまり、NHKが中継中止を表明するまでは「中継反対」の人の意見が多くなり、同様に、中継中止決定後は「中継中止に反対=中継賛成=44%」が多くなる。結果、見かけの数字では逆転現象を起こすのも、これまた当然の結果といえるでしょう。

つまり、これは「(いわゆる)調査」ではないし、このような結果が出てくるのは、ある意味、当前の結果であって、このデータを中継中止の理由のひとつとして示したNHKの考え方に違和感がありました。(そして、中継中止後の状況をあえて記事にするのもどうなの?、と報道する側のスタンスにも疑問を抱いたのですが・・・)

もうひとつ、「シンプソンのパラドックス」という問題があります。

「集団を2つに分けた場合にある仮説が成立しても、集団全体では正反対の仮説が成立することがある」(Wikipedia)というものです。
今回の相撲中継問題にあてはまるかどうか、正直なところ自信はないのですが、データ分析の際に、このようなパラドクスがあるということを、ついでに覚えておいていただければ。

とはいえ、私にこのパラドクスを詳しく説明する力量はないので、サイトをいくつか紹介しておきますので、こちらを参考にしてください。
(ただし、煙に巻かれたような感じを持つかもしれませんが・・・)

シンプソンのパラドクス(Wikipedia)

最後に。

今回のテーマからすると、“(いわゆる)量的調査”に基づかないデータ、たとえばコールセンターへの意見や、blogとか、コミュニティとか、twitter とかのソーシャルメディア上の意見についてはどうなの?、分析しても意味ないと言うの?、という疑問をもつ方もいるかもしれません。
そうではありません。これらのデータも十分に有効なデータだと思っていますし、へたな“調査”に基づいたデータよりも、リッチな内容で、多くの知見を得ることができる可能性があります。
むしろ、たとえ一人の意見であり、つぶやきであったとしても、商品改良やイノベーションのきっかけになることは十分ありますし、粗末な量的調査データよりも、商品改良やイノベーションに寄与する可能性は高いと思います。

ただし、意見を単純に数字に置き換えること、とくに賛否の比較をすることについては、今回のような背景=言いたい人が言っている意見である、ということは踏まえておかないと危険だと思います。
一方で、「不満」の内容を項目レベルで整理し、大小を比較することについては、同じ基準の中での比較になると考えることもできるので、賛否の比較に比べると、素直にデータを読むことができるでしょう。
(ここで、ひとつ気になる点を追加。同じ「意見を言う回路」であっても、電話をする>メールをする>blogを書く>コミュニティサイトへ書き込む>twitterで書く、というように意見を言うことについての障壁は低くなると思うので、すべてのチャネル、メディアに対し、単純に今回の背景を当てはめられない、ということも言えるかもしれません)

また、ある意見を参考にするにあたっては、「どのような人が言っているのか」「どのような文脈で言っているのか」ということも、あわせて理解することも大切ではないでしょうか。
今回のNHK問題については社会的なテーマであるため、マーケティング的な視点からだけ見るのはそぐわないのですが、「中継反対」を言っている人がどのような人なのか、たとえば、ふだんから相撲を見ているのか、見ていないのか、といった背景を理解するだけでも、意思決定は異るかもしれません。

NHKの大相撲中継問題についての記事から、話は拡散気味に、ずいぶん長いエントリーになってしまいました。。。
ただ、このようにデータを扱った記事については、ほんと?、背景は?、などを考えるくせをつけ、そこからふだんの仕事に繋げていくのも、大切なことですよね。
(6月twitterまとめは、近日中に・・・)

「母数」と「サンプル数」の本来の意味は?

ある日、つぎのようなtweetを見ました。

"ときどき、分母のことを「母数」と表現するリサーチャーがいてすご~く気になる。"

"「サンプル数」も気をつけたい表現。広く出回っている表現なので清濁併せ呑む。"

うむ・・・。なにげに使っているかもしれない。。。
そこで、
このtweetのご本人に「寺子屋で解説してくれません?」とお願いしたところ、快諾いただきました。

ということで今回は、とある市場調査会社に在籍している @slowtempo さん (すでにアカウントが異なっているので削除します)の寄稿をお届けします。

******************************************************************************************************

こんにちは。
今回はご縁があり、@slowtempoが寄稿させていただくことになりました。
よろしくお願いいたします。

まずは簡単な自己紹介を。
大学院卒業後、とある調査会社に職を得て6年になる若手(?)市場調査会社員です。
もともと統計学を専攻していた経緯もあり、データ解析に関連した業務に携わっています。

今回は、この業界に飛び込んでからお仕事をしていくなかで、とくに気になることについてお話をしたいと思います。

それは、「用語の使い方」です。

社内外を問わず市場調査関連の資料・プレゼンを見ていくと、「用語の使い方」に違和感を感じることがあります。その違和感には理由があって、「その用語が本来持つ意味と異なる使われ方をしている」ことによるものです。

本日はとくに、「母数」と「サンプル数」という表現の使い方についてお話をしたいと思います。

◆母数

はじめにお話するのは、「母数」という表現についてです。

「母数」を使った表現として、

  • 「母数がどんどん大きくなるから、この割合はどんどん小さくなって・・・」
  • 「この割合の母数はいくつで・・・」

などと、市場調査業界の内外を問わずよく耳にします。

ここでいう「母数」とは分数の「A/B」の「B」の部分のことを指しているようで、 私たちが小学校時代に算数で習った「分母の数」に相当します。

「うーん、まぁ分母の数って言った方がいいのかもしれないけど、母数という表現でもいいか?」 という気もするのですが、ここは厳密にいきましょう。

上述の文脈で「母数」という言葉を適用するのは誤りです。

それは、統計学において「母数」という言葉には、「分母の数」という意味は存在しないからです。統計用語辞典(芝祐順, 新曜社)によれば・・・

「母数:確率変数の分布を特定している定数で、分布を表す関数の中にはっきりと示されているもの」

とあります。
したがって、「母数」という言葉には「分母の数」という意味は存在しません。
先の例を表現するならば、

  • 「分母の数がどんどん大きくなるから・・・」
  • 「この割合の分母の数はいくつで・・・」

という表現のほうが正確と言えます。

◆サンプル数

もう一つお話したいのが、「サンプル数」という言葉です。
似たような表現に「サンプルサイズ」という言葉もあります。

この2つの表現はともに「抽出した標本の大きさ」の意味で使われることが多いです。 個人的な肌感覚ですが、「サンプル数」という表現が使われる頻度がより多いように思います。

・・・・・・・・・。

まぁこう言った書き出しですので、お気づきとは思いますが、「サンプル数」は統計学では「抽出した標本の大きさ」を表す表現ではありません。「サンプル数」は抽出した標本の「数」を表します。ちょっとわかりにくいですね。具体例をあげましょう。

たとえば、とあるフレームから200サンプルを抽出したときの「サンプル数」はいくつか?
答えは200・・・ではなく、「1」です。
では、AとBという2つのフレームからそれぞれ200サンプル抽出したときの「サンプル数」はいくつか?答えは「2」です。

標本は「観測された数値の集まり」を表す言葉です。したがって、「サンプル数」はその「集まり」の数をあらわします。一般的な調査では抽出は1回ですので、この場合の「サンプル数」は「1」となります。

「標本の大きさ」を表すことばとして適当なのは、「サンプルサイズ」です。 もしくは、そのまま「標本の大きさ」という言葉が統計学では正しい表現といえるでしょう。

ちなみに「n数」という表現もよく聞かれる言葉です。これはすごく独特な言い回しですね。
「n」は標本の大きさを表すことの多い記号です(一方、母集団の大きさは「N」で表すことが多いです)。要は「標本の大きさの数」ということを「n数」という言葉で表現しようという意図なのだと思いますが、スラングに近い言葉なので統計学的に正しい表現とは言い難いと思います。

◆清濁を併せ呑む

ここまで理屈っぽくお話をしてきましたが、「ん~、まぁ統計学ではそうかもしれないけど、世の中で多く出回っている表現なわけだから、どっちでもいいんじゃない?」というご意見もあろうと思います。

えーと、そのご意見には、私も部分的には同意します。
私も、社内外で「サンプル数」という表現が標本の大きさの意味で使われていても、いちいち訂正したりはしません。そんなことをしていたら、コミュニケーションが止まっちゃいますよね(汗)

ただですね・・・
市場調査に携わって、かつその道のプロを標榜するならば、統計学における正しい使い方を最低限「知っている」実務家であるべきなのではないかと個人的には考えています。

調査を円滑に、適切に実施・分析するために重要なのは、非学術的なスキルが圧倒的に重要であるように思います。上述の用語の使い方などは瑣末な問題なのかもしれません。

しかし、科学的に仮説検証、評価を行う市場調査では、統計学の知識も重要です。
正しい統計学の知識を学び、更新しつづけることが、実務家が信頼性を獲得していく上で必要なのではないか。
そう思うのです。

そういったスタンスに立った上で、清濁を併せ呑み、状況に応じて用語を使い分けるのがプロとしてあるべき姿なのではないかと若輩者ながら思う次第です。

最後は理想論になって、恐縮です。。。

あと、私より若い世代のリサーチャーには以上のようなことは伝え続けていきたいな、と思っています。草の根活動ですが、「正しいお作法」として用語の使い方を知っておいてほしいと願うのです。

                                           @slowtempo

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いかがですか?
とくに「サンプル数」は、ほんとによく耳にしますよね。無意識に使ってしまうことも少なくないですし。。。
「サンプル数」については、@slowtempo さんの tweet で紹介されていた ↓ のサイトも参考にしてください。

サンプル数とは何か?
 (独立行政法人 労働政策研究・研修機構HP「コラム」より)

さて、ここで考えておきたいこと。
@slowtempo さんご指摘の、

市場調査に携わって、かつその道のプロを標榜するならば、統計学における正しい使い方を最低限「知っている」実務家であるべきなのではないかと個人的には考えています。

という、ご意見に賛成です。

日々の業務に追われていると、知らない言葉を聞いてもそのままスルーしてしまったり、なんとなくの理解で使ってしまうことが少なくありません。これは、統計用語に限らずですが。
同僚の話やクライアントとの話で出てきた言葉、それが専門的な言葉のようであれば、あらためてきちんと調べる態度は、とても必要なことだと思います。
「本来の意味を知らないまま、慣例的に使う」ことと、「本来の意味を知っていて、慣例的に使うこと」は、まったく異なります。このことは、仕事をしているとだんだんと理解できるようになると思いますが。

たとえば、マーケティングリサーチであれば、↓ のような辞典もあります。

マーケティング・リサーチ用語辞典 マーケティング・リサーチ用語辞典
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2004-12

今回テーマになっている「母数」や「サンプルサイズ」についても、この辞典の中で説明がされています(「サンプルサイズ」は、「標本」の項に載っています)。調べてみてください。

これからも、機会があれば@slowtempo さんに寄稿いただきながら、統計や解析についての理解を深めていきたいなと思っています(が、どうなるか?)。

平成21年度JCSI(日本版CSI)調査結果

以前、このblogでも取り上げた日本版CSI調査、本格実施となり、第1回目である平成21度の調査結果が発表になっていました。
いくつかの記事をとりまとめ。

まずは、JCSI(日本版CSI)とは何かについては、本blogのこちら ↓ のエントリーで確認を。

日本版顧客満足度指数(日本版CSI)モデル(2009/3/19)

結果については、まずは実施主体であるサービス産業生産性協議会によるリリースを。

平成21年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)調査結果発表
 (サービス産業生産性協議会:H22/3/16ニュースリリース)

平成21年度 JCSI(日本版顧客満足度指数) 調査結果発表
 (サービス産業生産性協議会:H22/3/16~こちらはPDFです)

さすが実施主体だけあり、結果ランキングだけでなく、JCSIで設定している因果モデル図や質問内容、調査方法についても詳しく説明しているので、まずはここで、JCSIについての理解をすることを、おすすめします。

そして、JCSIの開発に参加されていた小野譲司先生(明治学院大学:ちなみに、CS関連の文献を探すときは小野先生の名前で検索すると、いくつかの論文が見つかると思います)による解説が読める記事が、こちら。

待望の「業界横断」顧客満足ランキングが登場!
 (日経ビジネスONLINE:2010/3/16)

この記事では、指標や調査方法、なぜ中央値なのかなどの背景や考え方について、上記のリリースよりも、より深い理解をすることができると思います。

そして、一般的な記事として代表的なもの、皆さんの関心が高いと思われる「どこの企業が一番なのか」に始まるランキングについては、同じ日経ビジネスオンラインに。

トップサービスは東京ディズニーリゾート
 (日経ビジネスONLINE:2010/3/16)

こちらの記事は、今回の単発記事ではなく結果詳細について、「”究極のサービス”はここだ」というタイトルでシリーズ化するようです。関心のある方は、追いかけてみてください。

さらに、ネットではないものも。
日経MJの2010/3/17にて取り上げ、つぎのような見出しを打っています。

「A(安価)、K(快適)、B(便利)で顧客満足」
「通販・旅行、競争バネに躍進」
 (日経MJ:2010/3/17、1&3面)

新聞ならではの解説記事といえそうです。

今回のJCSIの結果は上記のようになっていますが、ランキングばかりに気をとられずに、顧客満足度調査のモデルや調査方法の考え方なども理解し、自社で顧客満足度調査を考える際の参考にしていただければ、とも思っています。

※twitter やってます → MR寺子屋メモ
 twilog(過去twitt の取り纏め)はこちら → MR寺子屋メモ