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「プレミアムライフ向上委員会」by 7&i

ソーシャル・ネットワークに関連して、備忘録的にひとつ。

ニュースリリースや、企画・開発を担当した方のコラムを見ていて、前からウオッチしていたのですが、具体的な開発商品も発売されたようなので、このタイミングで紹介を。

セブン&アイ・ホールディングスが、商品開発のためのコミュニティサイトとして『プレミアムライフ向上委員会』をオープンしています。

プレミアムライフ向上委員会 (セブン&アイ・ホールディングス)

そして、このサイトを企画・開発した方のコラムが、こちら ↓ 。

「セブンプレミアム」 が顧客参加型商品開発サイト「プレミアムライフ向上委員会」をオープン (Webマーケティングコラム「生活者の力をマーケティングに活かそう」 by japan.internet.com:2009/10/30)

こちらのコラムでは、さらに継続してサイトに関連したエントリーを連載をしていますので、同サイトの詳細についてはこちらで理解できます。

早くも急成長している顧客参加型商品開発コミュニティ「プレミアムライフ向上委員会」
(同上:2009/11/2)

「セブンプレミアム」が顧客の声を商品開発に活用するために考えたこと
(同上:2009/11/9)

あなたも「セブンプレミアム」の商品開発プロジェクトに参加しませんか?
(同上:2009/11/16)

どうやってクラウドソーシングを実現するか?(同上:2009/11/30)

そして、「プレミアムライフ向上委員会」で開発された商品が、「ひとくちポテトコロッケ」。
この商品開発の過程についても、同コラムで紹介しています。

ソーシャルメディアを活用した「セブンプレミアム」の商品開発~第一弾「ひとくちポテトコロッケ」を発売 (同上:2010/1/25)

コミュニティサイトの立ち上げと運営についての事例のひとつとして参考になると思います。

ただ・・・
商品開発の流れ自体は、とくに新しいものは無いように思います。とくに、アンケートの内容とその分析については。(ここで明かされていないことも多いのだろうと思いますが)
これまで、事業会社とリサーチ会社が行ってきた過程を、事業会社とエンドユーザーが行っているに過ぎないのでは、と感じてしまうのは、ソーシャルメディアを理解していないだけなのかもしれませんが。。。
正直、この点については考えてしまいます。
(しかし、「リサーチ会社」が中抜きされていることだけは、紛れもない事実でしょう・・・。そして、その理由は?・・・)

この「プレミアムライフ向上委員会」の仕組みの中で、ひとつ面白いと思ったことがあります。
それは、下記の視点と仕組みです。

そこで、ペルソナに基づいて、「学生ライフ」、「自由人ライフ」、「OL ライフ」、「キャリアウーマンライフ」、「ビジネスマンライフ」、「子育てママライフ」、「スーパー主婦ライフ」、「マイペース奥様ライフ」、「アクティブシニアライフ」というチームをつくり、いずれかのチームメンバーとして参加してもらい、それぞれの「プレミアムライフ」の向上を目指せるようにしたのである。 (同上:2009/11/9より)

このチーム名は投稿の際にもハンドルネームと一緒に表示されているので、発言者の背景(コンテクスト)を理解した上で、発言内容を理解することができるという点が優れていると思います。私の持論でもある「リサーチの結果は、回答者のコンテクストを理解しないと有効ではない」という点にマッチした仕組みだと思いました。

さて、
「プレミアムライフ向上委員会」が成功なのかどうかは、まだこれからの評価になるだろうと思います。ソーシャルコミュニティ、クラウドソーシングを活用した取り組み事例のひとつとして、今後もウオッチはしていこうと思います。

海外マーケティングリサーチ情報源

本寺子屋の「弱み」は?

それは、日本語で記述された以外の情報に弱いということです。。。
これは自分でも重々自覚しているのですが、なにせ英語は得意ではないので、これまでチラチラと気になるサイトは眺めるものの、積極的な情報収集と紹介をしていませんでした。
(内容の理解が、どこまで正しいのか覚束ないというのもあるので・・・)

この点を補ってくれるサイトがありました。
以前このblogでも紹介しました 『最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本』 の著者である岸川さんのサイトです。
ここ2回のエントリーは、下記のような内容になっています。

Maket Research -Adapt or Die (みんなのMR.COM:2010/2/1)

2010年のリサーチトレンド~続き (みんなのMR.COM:2010/2/8)

あわせて、こちらのサイトもどうぞ。

Digital Consumer Planner’s Blog

海外の文献や論文、サイト 等を紹介しつつ、今後のマーケティングリサーチについての展望を整理しています。
基本的に、岸川さんのスタンス(というか、お仕事の方向性)はソーシャル・メディアの活用だと思うので、そちらの方向性の内容になっていますが、あながち否定もできない、いやいやこういう視点はとても大切、とも思います。とくに、asking から listening という言葉は、なるほどと思わされます。

岸川さんは、twitter でもご自身で検索されたサイトをその都度紹介していますので、海外のリサーチに関する論調に興味のある方は、フォローしてみてはいかがでしょう?

Experidge 岸川さんのtwitter アカウント

また、Survey MLの萩原さんのtwitterでも、時折、英語サイトが紹介されていますので、こちらも紹介しておきます。(このblogをご覧いただいている方は、すでにフォローされている方も多いと思いますが・・・)

Survey ML のtwitter アカウント

たとえば、こんな投稿が(まさに、いま投稿されました^^;)

業界の重鎮レイ・ポインター氏、ネットリサーチ会社のパネルを使った調査は現在がピーク、次第に他の新手法に取って代わられるとの予測 RT @RayPoynter: Have access panels peaked?
(Survey ML twitter でのtweet :2010/2/8 22:20ころ)

ただ、このblog(寺子屋)も含めて、いずれもそれぞれのフィルターを通った情報が発信されているということは忘れてはいけないと思います。これらの情報源を参照しつつ、自分でも検証や情報探索を行う姿勢も忘れずに。
(これは、決してお二人を批判しているわけではないので、この点はお間違えなきよう。どんな情報も、その発信者による価値判断がなされているということを踏まえて、判断を行う必要があるということです)

(しかし、やっぱり英語力はもっとつけないと・・・、と思う今日この頃。。。
それと、遅ればせながら twitter も始めようかな、とも思う今日この頃。。。
blogで書くには、それなりの覚悟と手間がかかるのですよ。
もっと気軽に、日頃の気づきや、読んだ本の紹介や記録をするには、twitterもいいかなと。
始めるときは、このblogでもお知らせします)

「社会調査学科」?!

萬さんからコメントで、つぎのようなリクエストをいただきました。

奈良大学に日本初の「社会調査学科」ができるそうですね。
この話題についてのご意見をお聞かせ下さい。(2009/12/8)

少し遅くなりましたが、「社会調査学科」についてのエントリーを。

◆奈良大学・社会学部・社会調査学科とは

まず、ご存じない方のために「社会調査学科」についての紹介を。
「社会調査学科」は、奈良大学・社会学部に開設されます。これまであった「現代社会学科」からの名称変更のようです。

奈良大学・社会学部・社会調査学科HP

とくに、学科紹介のために作られている下記のページは、ぜひご覧ください。なかなかよくできたコンテンツだと思いますので。(ただし、全部みるのには少し時間が必要かも・・・)
とくに、STAGE1~3は、社会調査を理解するために、よい内容だと思います(マーケティング・リサーチについても、触れられています)。

What is 社会調査学科? 「社会調査学科はおもしろい」 (奈良大学HP)

◆「リサーチはツール」だけど・・

さて・・・
では以下で、「社会調査学科」についてのコメントを。

マーケティング・リサーチに限らず、調査についてよく言われることとして「調査やリサーチはツール」ということがあります。
たとえば、今回の「社会調査学科」について書かれたblogをみてみると(ほとんどないですけど・・・)、「調査は手段であって、望まれているのは調査をしてそれをベースに実行する人。だから、手段としての社会調査学科がこれまでなかったのもあたりまえ」という疑問を呈している方もいらっしゃいます。
確かに、調査やリサーチの知識や技術だけで問題を解決することはできないですし、問題解決を実行をするには、さらに様々な他学問の知見を持ち込まないといけないということは事実だと思います。
そして、このような「調査やリサーチはツール」という位置づけだからこそ、これまでも「社会調査」は社会学や経営学、商学のひとつのカリキュラムとして設定されていたのだと思います。
「ツールとして使いこなせればいい」ので。

しかし、ほんとうに「社会調査」で学ぶべきことは、ツールとしての理解でしかないのか?
実際に実務をしていると、さらに社会調査を理解すればするほど、これは単なるツールと捉えてはいけないのでは、と思うようになっています。
とくに、社会調査の方法論(サンプリングの方法とか質問紙の作り方、といったテクニックのことではないですよ)は、どんな職業においても必要な考え方ではないかと思っています。
問題の本質を捉え、仮説を立て、それを操作可能な変数に置き換え、正しい情報を正しい方法で得、情報を分析し、問題への解や、あらたな理論を創出する方法論、これが社会調査を学ぶ本質ではないでしょうか。
そして先にも言ったように、このような方法論は、どんな職業においても、もっといえば社会生活を営む上でも、必須のものではないかと思っています。
極論すると、大学の1年次で、すべての学生が学ぶべきもの、ではないかとも。

これほど大きな視点で考えなくても、これだけ様々な情報が氾濫している社会においては、「正しい情報を得る方法」「情報を判断する方法」を学ぶだけでも、かなり役立つのではないかと。

こういった視点から考えると、あえて「社会調査学科」ではなく、すべての大学で、すべての学生が、「社会調査論」の基礎を学ぶことこそが重要なのでは、と考えています。
(ほんとは、大学というところは、こういう研究の方法論を学ぶべきところのはずですよね。。。いまでは、大学院にその役割が移っているようにも感じますが)

ただ、このような考え方の端緒を開いたのではないか、という意味合いでも「社会調査学科」はおもしろい学科だと思いました。(「教養学部」という、やはりよくわからない学部を卒業した人間ですので、もともとこういった考え方への志向性が強かったというのもあって・・・^^; )

このあたりの考え方は、学科紹介でも記されていると思いますので、長いですが引用させていただきます。

高齢社会や環境問題、不況や雇用の不安。現代社会はさまざまな問題を抱えています。これらの問題の原因や背景は複雑に絡まり合っていて、「できごと」を表面的にながめているだけでは状況を正しく理解することも、解決策を見いだすこともできません。

複雑化する現代社会を生き抜くための技術。
それは、情報をいかに「収集」し「分析」し「活用」するか、という技術です。
これまで、情報武装といえば「情報技術(IT)」ばかりが注目されがちでした。しかし情報技術を活かすためには、情報そのものの「質」が非常に重要。どうすればそれらの技術を総合的に活用できる人材を育てることができるか。奈良大学の答えは「社会調査技術と情報技術の融合」。
それが「社会調査学科」です。

しかし、いくら優れた技術を身につけることができたとしても、社会に対する深い洞察力や、「おもしろいこと」をかぎ分けるセンスがなければ宝の持ち腐れです。
情報の収集・分析・活用のどの場面でも、具体的な理論を活かせてこその技術。
奈良大学は情報学・社会学・文化人類学・経済学・経営学を専門とする教員が、理論的な学びをサポート。知識を現実の社会で応用していく力をブラッシュアップします。

実際に課題をみつけ、実際に社会調査に取り組む実践的教育を通して、幅広い理論と問題を見つけ出す鋭いセンス、深い洞察力をもって社会に切り込んでいく鉄壁の武装を。
奈良大学・社会調査学科HP 「学科紹介」より)

そして、実際のカリキュラムも、1年次で社会調査のベースとなるもの(文化人類学も必須というのもおもしろいですよね)を学んだ上で、それぞれの興味で社会学、経営学、情報学といった専門性を深めていく過程になっているのも、いいカリキュラムだと思います。社会調査の方法論をベースにしたうえで、それぞれの専門領域の課題に向き合うことができるので。

蛇足ですが・・・
これらを、奈良、という多くの文化財と接することができる環境で勉強できるのもいいなと、個人的には思います^^;

「日本版CSI」は廃止か?!

何かと話題になっている政府の「事業仕分け」ですが、その対象のひとつとして、「サービス産業生産性向上支援調査事業」も取り上げられていたようです。
本日(2009/11/27)実施され、結果は「廃止」対象とか。。。

 【サービス産業生産性向上支援調査事業】中小・零細のサービス企業の経営効率化を支援する経産省所管の事業。概算要求額は14億円。仕分けでは「業務委託先の財団法人の活動への支援になってしまっている」と批判が続出。再委託の契約についても、単独応札など不透明な例があると指摘され、判定は「廃止」。(「事業仕分け結果27日」~47NEWS:2009/11/27より)

関連の資料は、行政刷新会議のHPで見ることができます。

配布資料(PDF) 
 (行政刷新会議HP『ワーキンググループ・資料集』配布資料より

評価コメント(PDF)
 (行政刷新会議HP『ワーキンググループ・資料集』評価結果より)  

評価コメントが未掲載なので(11/27現在)、どのような議論がなされたのかは不明ですが、上記の記事からは本質的なことよりも委託先との関係が問題視された?、という印象を受けます。(確かに、要求額14.8億円のうち人件費が9.5億円というのを見ると、そうなのかなと思わせるものもありますが。。。)
ただ、予算担当部局による、この事業に対するコメントでは、「本来民間自身が実施すべき事業」であり、「民間による応分の負担又は国の関与の要否について検討すべき」とあるので、このあたりがどう判断されたのかが、興味のあるところです。

さて、
この事業で影響を受けるのが、以前このblogでも取り上げた「日本版CSI」。

日本版顧客満足度指数(日本版CSI)モデル(本blog:2009/3/19エントリー)

業界横断的に、共通の指標で、サービスについての顧客満足度を測定し、公表していこうというもの。パイロット調査を経て、第1回の調査結果が発表されていました。

日本版CSI(顧客満足度指数)の第1回発表
(サービス産業生産性協議会HP:2009/10/6のニュースリリース)

※上記の詳細資料は、→こちら(PDF)

個人的には、本事業のほかの支援策等についてはともかく、この「日本版CSI」については、続けて欲しいという気持ちはあります。
とくに、日本版CSIが参考にしたACSI(米国顧客満足度指数)を見ると、なおさら。

The American Customer Satisfaction Index

ここには、業界とそこに属する個別企業の満足度指数が、1994年から毎年掲載されています。さらに、このような個別業界・企業の評価ばかりでなく、GDPや株価などとの関連性なども分析され、マクロ経済の指標としても活用されていることがわかります。(さらには、政府に対する満足度評価まであります)

確かに、個別企業の満足度測定とそれに基づく改善活動は、民間が自身でやるべきことではあると思います。
ただ、マクロに捉えるならば、共通の物差しで、業界横断的にサービス水準が継続的に測定され、そのデータが公開されるということは大切なことではないかと思うのです。GDPがゴールとなる指標(KGI)であるとすると、そこに至る過程であり、影響を及ぼす要因(KPI)としてのサービス満足度を把握することは重要な視点であると思います。さらに、これらのデータが様々な研究に寄与していくことに意義があるのではないかとも思います。
もっといえば、低水準なサービスしか提供できていなかった業界が、他業界の満足度水準と比較されることによって、そのサービス水準の低さに気づき、サービスを向上するきっかけになる、結果とし国民生活の向上に寄与する、サービス産業の生産性の向上に寄与するというメリットもあるのではないか、とも考えるのです。

とはいえ・・・
国の予算に限りがあるのも事実で。。。
どのような議論を経て「廃止」ということになったのか、具体的な評価コメントを見てから、さらにコメントしてみたいと思います。

【2009/11/29追記】
評価コメントが掲載されていたので、追記。
記事の通り、運営機関との関係云々の話もありますが、

  • 国が関与する必要なし、民間に任せるべき
  • 受益を受けるのは一部企業に限られる
    しかも、中小企業ではなく、大企業が受益対象となる
  • すでにある成果を、普及すればよい

ということが、話されたようです。
まず、今回の議論の対象は、「サービス産業生産性向上支援調査事業」であって、日本版CSIそのものではない点を、あらためて指摘しておかないといけないでしょう。この点をふまえると、上記の意見も、もっともだと思います。この事業の中心を「支援」と考えるならば、たしかに国がすべきことでもないと思いますし。。。

とはいえ、日本版CSIは、アメリカのように継続して実施してほしいなと思っています。
理由は、上記のとおりです。業界横断的に、共通の指標で比較可能な指標が、時系列で把握でき、公に発表されるデータは、やはり貴重なものだと思います。評価者の意見にも一部あったように、公的統計として継続することを考えて欲しいと思います。
そして、このデータが、きちんとマスコミ等によって報道されることが重要なのですが。さらに、多くの研究者の素材データとして活用されることも。
データを集めるだけで、きちんと公表されないし、活用もされないのであれば、この事業仕分けでもよく議論される「成果」という点で、意味がないので。

蛇足ながら、この事例からマーケティングリサーチについて考えたことをもうひとつ。
この手のベーシックなデータ収集は、企業で実施する場合でも、3年くらい経過すると中止されることが多いと感じています。「結果が、変わらないから」という理由で。
しかし、このようなベーシックなデータは、長期間継続して収集するからこそ価値があるのではないでしょうか。長期にトレンドを追えるからこそ、市場の変化や、自社の課題を捉えることができるのではないでしょうか。分析の自由度も、長期的にデータが蓄積するからこそ、高まりますし(たとえば、コーホート分析などは、かなりの長期データが必要になります)。
また中止の理由として、「データばかり集めても、売り上げにつながらない」という声も聞かれます。たしかに、データはデータであって、ここから直接的に解決策が得られるわけではありません。しかし、データやリサーチに基づかない意思決定が、ほんとに売り上げに寄与するのか? 様々な施策の成功確率をあげるためにも、データやリサーチに基いた意思決定が必要なのではないか? データをデータとして眠らせるから価値がないのであって、情報やインテリジェンスに転換することの重要さを理解してほしいなと思います。

(今回の事業仕分けは、直接、日本版CSIを否定したものではないですが、ついでに。。。)

“「『新聞は必要』91%」の波紋”を考える

またまたSurveyMLでの萩原さんの投稿がネタ元です。。。

元記事は見ていないのですが、読売新聞にて「『新聞は必要』91%」という調査結果が発表され、はてぶで波紋を呼んでいるという内容のコラムです。(このコラムが、「あらたにす」のHP内で読めることも画期的だと思いますが)
前回の、世論調査論の続編的な位置づけで、このコラムを読んでみたいと思います。

まず、大元の記事はこちらです ↓ 。

「新聞は必要」91%…読売世論調査 (YOMIURI ONLINE:2009/10/14)

この記事についての、はてなブックマークがこちら ↓ 。
世間の調査についてのスタンスの一端がうかがえます。

「新聞は必要」91%…読売世論調査 (はてなブックマーク)

このはてぶに対するある個人の解説?、反論? がこちら ↓ 。
おそらく調査マンだと思いますが、この内容は。

はてな匿名ダイアリー anond:20091016123352 (2009/10/16)

そして、これら一連の動きを整理しコメントしているのが、標題の“「『新聞は必要』91%」の波紋”です。

「『新聞は必要』91%」の波紋 (歌田明弘、あらたにす内コラム「新聞案内人」:2009/11/2)

歌田氏のコラムには、いくつかの論点が含まれています。調査論に関すること、ネットユーザーに関すること、PRに関することなどです。
それぞれに、考えなければならないポイントだと思うのですが、個人的に共鳴したのは、以下の部分です。

調査の詳細がわかると、なぜ高い数値なのかの推定もできる。詳しいデ ータを見れば見るほど、当初の「ウソくさい」という思いは(完全に払拭 できるわけではないが)薄らいでいく。少なくとも「『新聞は必要』91% 」というタイトルのもと、わずかばかりの記事を読んだときとは印象が変わってくる。
(「『新聞は必要』91%」の波紋~歌田明弘、あらたにす内コラム「新聞案内人」:2009/11/2)

パブリシティ記事の限界だとは思うのですが、調査記事の多くは、調査サンプル全体を集計のベースとしたGT(単純集計)の数字のみを取り上げることがほとんどです。
しかしここで、前回の「誰が回答したデータなのか」という点を考える必要があります。日本人、あるいは調査対象としたい人々を正しく代表しているデータであれば、GTだけでも十分に意味のあるデータだと思いますが、そうでないならばGTにはあまり重要な意味はない。あくまで参考値と見るしかないでしょう。
(実際に、紙面で紹介されている年代別構成比は、高年齢層に偏った分布になっているようです)

ここで、データをどれだけ詳しく見ることができるか、が重要だと思うのです。
今回のテーマであるなら、少なくても、年代別の差異やインターネットの利用時間別の差異くらいは確認するべきでしょうし、このようなデータを検証していくことで、はじめて有用なデータが得られるのだと思います。
(まぁ、今回の記事はPR色が強いということで、今後の新聞をどうするかが目的ではないので、そこまで必要ではなかったのかもしれませんが)

マーケティング・リサーチを主にしている人にとっては、クロス集計はあたりまえかもしれません。。。
けれど、実際に使うデータ(とくにトップラインなど、エッセンスを報告する時のデータ)は、GTデータがメインだったりしませんか? あるいは、クロス集計の軸も性別、年齢、職業などの決まりきったものにしていませんか?
ほんとうに意味のあるクロス軸を考え出すことが、調査結果を活かせるかどうかにかかっていると思います。
クロス軸はまさに、「誰が回答したのか」をあぶりだす、あるいは「誰の回答を重視したいのか」を決める重要な視点になっているということです。

実際に、今回の読売調査でも、

調査についての発言部分は掲載されなかったが、取材を受けるさい、掲載されたよりももう少し詳しいデータも見せてもらった。それを見ると、 20歳代は30歳代以上と顕著に違っていた。
20歳代は新聞を読む時間が少なく、新聞への評価も低い。この世代は、 新聞離れが進んでいた。
(「『新聞は必要』91%」の波紋 (歌田明弘、あらたにす内コラム「新聞案内人」:2009/11/2))

ということのようです。

この調査の設問とGTデータが、こちら ↓ で確認できます。

「新聞週間」  2009年9月面接全国世論調査 (YOMIURI ONLINE)

今回の調査手法は、層化無作為二段抽出による個別訪問面接聴取法(抽出フレームが不明ですが、選挙人名簿かな?)。回収率は60.9%で、最近の訪問面接ではまあふつうでしょうか。
紙面では公表されていたようですが、せめて年代別の構成比くらいはここにも掲載してほしいものです。でないと、データをどう読んだらいいかわからない。。。

そこで、「回答者は誰か」を推し量るひとつのデータとして注目したのが「あなたは、平均して、1日にどのくらいの時間、パソコンや携帯電話でインターネットを利用しますか」への回答。「まったく利用しない」が43%に上っています。う~ん・・・、どうなんでしょう?
全国で、20歳以上だとこの程度なのでしょうか? 毎年総務省で行っている「通信利用動向調査」(平成20年版のプレスリリースは、→ こちらへ )からは、もっと高い利用率になりそうな気もします。。。
ということは、世間一般に比べ、インターネットなどをあまり使わない層の比率が高い可能性もあるのか?
(ただし、「利用」の定義がそれぞれの調査で異なっているかもしれないので、一概に比較できませんが。たとえば、プライベート利用だけなのか、会社や学校での利用も含むのかなど。このあたりは、調査票作成のポイントの話にもなりますけど)

このようなときも、インターネットの利用有無別(さらには、利用頻度別にも)でデータを見ると、GTでは歪んでいるかもしれない調査データも、ある知見を与えてくれるデータとなるのでは?、ということです。

今回紹介したコラムから、前回の「この調査の回答者は誰か?」を考えることとあわせ、データを分けてみる、まさに「分析」の重要性を理解していただければと。「分析」こそが、データの背景を考える=誰が回答した結果かを考えるひとつの重要な過程になるのです。

世論調査”論”からマーケティング・リサーチを考える

(ほぼ1ヶ月、更新が滞ってしまいました。。。
かなり前から標記のテーマを考えていたのですが、気軽に書けるテーマではないので筆が鈍っておりました。とはいえ、いつまで考えていても仕方ないので、とりあえずエントリーを。久しぶりに長編になってますが・・・)

この8月、9月は、衆議院選挙や鳩山内閣の誕生と、世論調査の重要なテーマが続き、さまざまな調査結果がメディアをにぎわしてきました。
そして、このタイミングだからなのか、世論調査をテーマにした研究会や雑誌、トピックスがいくつか目に留まりました。これら、世論調査「論」とでもいうものを少し整理し、ここからマーケティング・リサーチについても考えてみたいと思います。
(※このエントリーで紹介している情報、そして内容については、Survey MLでの萩原さんの投稿を参考にさせていただいています。この場で参考・引用と、情報提供への謝意を記したいと思います。いつも有益な情報をありがとうございます)

◆いくつかの世論調査”論(?)”

まず、ここ数ヶ月の間に発表されている世論調査”論”といえるような記事を紹介します。

最初に、日本記者クラブで行われた会見録から。つぎのHPで見ることができます。
(今回のテーマ以外の記事も、なかなか興味深いテーマとゲストが並んでいます)

日本記者クラブ会見速記録2009年(日本記者クラブHP)

このページに、シリーズ研究会「世論調査」として、下記の講演録が収められています。(もしかしたら、今後も続くかもしれません)

①2009/6/26 世論調査の役割と限界(峰久和哲氏)
②2009/7/10 世論調査にハイブリッド方法を(萩原雅之氏)
③2009/7/17 世論調査は勝負審判ではない(西平重喜氏)
④2009/9/3  世論調査へのエール(松本正生氏)

4名の方が、それぞれの立場から、それぞれに世論調査について話をしています。
多少乱暴に整理してしまうと、峰久氏はメディアの現場からみた世論調査の現状と課題を、萩原氏はマーケティング・リサーチの視点も入れながら今後を、西平氏は研究者の立場から世論調査の成り立ち、欧米との比較等をふまえた課題を、松本氏は研究者の立場からの現状整理と課題を、という内容になっています。これらを一通り読むと、世論調査が抱えている課題と、「これまで、いま、これから」を概観することができます。
以前、このblogでも取り上げた福田改造内閣の支持率問題についても、皆さん、それぞれの見解を整理しています(→ こちらのエントリーです「まちまちな改造内閣支持率・・・」)。

つぎに、雑誌『Journalism』での特集「世論調査を調査する」です。
具体的な内容については、下記 ↓ を参照してください。
(記者クラブのゲストのうち3名の名前が、こちらでも見られますが。。。)

『Journalism』2009年8月号もくじ(朝日新聞・ジャーナリスト学校HP)

最初の座談会がテーマ記事で世論調査の問題点や課題を整理しています。
他にも、RDDの現場で何が行われているのか、出口調査がどのように行われているのか、といった記事も、なかなか興味深く読むことができました。

最後に、ネット世論調査に関するいくつかの記事。
ネット上でもかなり物議を醸していたのでご存知の方も多いと思いますが、代表的なまとめ記事としては、つぎ ↓ のものがありました。

いつか牙をむく?「ネット世論は内閣支持率25.3%」という発想
(BP net /日経BP社)

この記事は、コメント欄にも目を通していただくと、世間の世論調査への意識も垣間見ることができると思います。

そして、この記事とぜひ一緒にご覧いただきたいのが、下記 ↓ の結果。
ニコニコ動画による衆議院選挙出口調査の結果と内閣支持率調査の結果です。
(参考までに、Yahoo!によるほぼ同時期の内閣支持率調査の結果も)

第45回衆議院議員総選挙ネット出口調査(ニコニコ動画)

内閣支持率調査2009/9/17(ニコ割アンケート:ニコニコ動画)

内閣支持率調査2009/9/16~19(Yahoo!みんなの政治)

最初、ニコニコ動画の数字を見たときは驚きました。
サンプル数だけでいえば、出口調査では約24万人、支持率調査では6万人近くの回答者を集めています。サンプル数至上主義の方からすると、メディアの世論調査に比べると、こちらの結果の方が妥当性があると判断してしまうサンプル数です。(「サンプル数が多いほうが正しい調査だ」と思っている方、時々いらっしゃいます。この結果を示せば、サンプル数がすべてではないと理解してくれるでしょうか・・・)
しかし、この出口調査の結果は明らかに現実の投票結果とは異なるもの。どうして、ここまでのギャップが生まれるのか?
(ここで、調査対象や調査手法に疑問を持った方は偉い。ということで、ニコ割アンケートの調査方法は、こちらを → ニコ割アンケートとは )
ただし、ニコニコ動画の結果が、いいかげんだとか、間違いだと決め付けるわけにはいかないと思っています。これも、ある側面からの現実のはず。では、ここには何が?

◆世論調査の課題

これらの記事で指摘されていることはいくつかあります。

まず、世論調査が氾濫しているのではないか、政治や国民が世論調査を気にしすぎているのではないか(世論調査政局とか世論調査型民主主義の問題)、ということがあります。
たとえば、松本先生のつぎの言葉は、なかなかおもしろい。

あれほど世論調査に答えるのを嫌がるのに、調査結果はこれほどもてはやすって何?、という、そういう気持ちがあるのです。
(「日本記者クラブ シリーズ研究会「世論調査」④ 松本先生の回」より)

マスメディアだけでなく、上記のようにニコニコ動画とかYahoo!とか、とにかくさまざまなところから世論調査と称した調査結果が発表されている。リサーチに対するリテラシーが高いとは思えない状況の中で、これだけ調査結果が氾濫していること自体、たしかに大きな課題だと思います。(統計教育など、ほとんどなされていない現状だと思いますので・・・)

ついで、回収率の低さの問題。さらに、RDDにしろ、ネットにしろ、さらには訪問面接にしろ、どんな手法にもそれなりの回答者の偏りがあるということも共通に認識されている内容です。
とくに、メディアの世論調査での代表的な手法であるRDDにおいても、代表性に課題があることが多く指摘されています。
世論調査ということを考えると、いかに代表性を確保するかは重要な課題ですので。

しかし、さらに見ると、調査回答者に対する深い認識も必要ではないかということが指摘されています。
たとえば西平氏は、社会学者ブルデューを引用しながら、つぎのように指摘しています。

1つは、彼には前提の3にしているのですが、調査のテーマが社会的、あるいは政治的、学問上どんな重要なものであっても、だれもがそれについて意見を持っているわけではないということである。それなのに、あたかもだれもが意見を持っているように世論調査をやっている。そんなもので調べた世論なんてものは n’existe pas 「ないよ」というわけです。
つぎに前提の1というのは、聞かれたから答えただけだよ、というのを、その人の意見といってよいか、というのであります。
それから、前提2は直接テーマと関係がある当事者の賛成というのと、それとは全然関心もなければ興味もない人の第三者としての賛成を同じ賛成意見と数えてよいか。賛成何%とか。子供がいて、いま大変な学校の問題で悩んでいる親の何とかに対する賛成と、私のような孫もいない者の賛成とを一緒に賛成と数えていいのか、こういうわけであります。
(「日本記者クラブ シリーズ研究会「世論調査」③ 西平先生の回」より)

この点に関して、朝日新聞の峰久氏もつぎのように言っています。

レジュメの4ですけれども、回答者は新聞をしっかり読んでいるはずだという錯覚が、調査を発注する側にはどうもあるようです。これは長年変わりません。残念ながら、いまは新聞を読んでいるどころか、テレビのニュースさえちゃんとみていない人が非常に増えています。先ほど申し上げましたように、いろいろ説明してあげなければ調査に答えられない、助け舟を出さなければ調査に答えられない、というのが現状なのです。
同時に、こういうことも考えています。要するに、何も知らずに、考えもせずに回答してしまう人が増えているのだな、と。ごくわずかな設問のワンフレーズで反応してしまう人たちが増えているように思います。
(「日本記者クラブ シリーズ研究会「世論調査」① 峰久氏の回」より)

単純に、「RDDでは在宅率の高い人の回答率が高い」など属性的な側面ばかりでなく、回答者の質的な問題も考える必要があるという指摘です。

◆マーケティング・リサーチについて考える

さて、世論調査の課題を、マーケティング・リサーチにどう援用するのか。
代表性の問題や回答者の質的な問題から、つぎのように考えました。

“どのようなリサーチにおいても、「回答者は誰なのか?」ということを、強く意識する必要がある”

ということです。

まず、どんな調査手法をとっても回答者に偏りが発生する可能性が高いという認識が必要だということがあります。
RDDに回答するのはどんな人か?、ネット調査に回答するのは?、訪問面接調査で回答するのは?、街頭でお願いしたCLT調査に回答してくれるのは?・・・。あるいは、回収率の低さという視点からみると、「回答しなかったのは、どんな人か?」ということ。
まずは、これらのことをしっかりと考えておくことが、重要だと思います。
(RDDについてがメインですが、手法別の回答者の特徴については、先に紹介した記者クラブの会見録でも、さまざまに指摘されているので、そちらを参考にしてください)

つぎに、とくにネット調査においては、同じ手法だからといって、同じ偏りが生じると考えない方がよい、ということです。これは、ニコニコ動画とYahoo!の結果の違いからも明らかです。
この点に関して、おもしろい記事がありました。

【WEB世論大調査】新政権でどうなる?あなたのお財布(MSN産経ニュース:2009/9/24)

記事の主目的は民主党が掲げている政策についての賛否だと思うのですが、ここで興味深いのは、アメーバ、MSN産経ニュース、ニコニコ動画、はてな、モバゲータウンという5つのサイトを通じて調査を行っている点です。
そして結果は、一様の結果にはならず、それぞれのサイトの特徴があらわれる結果になっています。もちろん、単純にそれぞれのサイトユーザーの性別・年齢などのデモグラフィック属性の差が表れているだけともいえるかもしれません。しかし、もっと深い何かがあるように感じるのは、私だけでしょうか?。。。

この点について、萩原さんはMLで、つぎのようにコメントしています。

確かに「世論調査の代替」では使い方は難しいですけど、私はむしろ質問の方を「ものさし」として、ネットユーザーにおける特徴ある部族(tribe)の特徴を分析したものとすれば面白いと思うのです。
つまり「産経族」「アメブロ族」「はてな族」「モバゲー族」「ニコニコ族」の文化人類学的考察であると。いずれの tribeも、ネットはもちろんリアル生活でも特有の価値観や行動を持っているように思うので、もっと同一設問をあびせて、特性を描き分けて欲しいと思った次第。
(「Survey ML:12075」萩原氏の投稿より)

私も、「部族(tribe)」というのは、いまのネットやマーケティングを考える上でのキーワードになるのではないかと考えていたので、この指摘にはまったく同意です。
マーケティング・リサーチを主としている会社のモニターの特徴は明らかではありませんが、やはりマクロミルにはマクロミルの、Yahoo!にはYahoo!の、クロスにはクロスの、楽天には楽天の、gooにはgooの・・・、とモニターの特徴=部族性が、多少ともあるかもしれません。

そして、先の西平氏や峰久氏の指摘にもあった「無関心性」についても、考えておく必要があると思います。
マーケティング・リサーチにおいても、「回答者が、自分たちと同じ知識・関心レベルにある」という意識で設問を作っているのでは?、と感じることがよくあります。たとえば、ブランドレベルではなく、商品アイテム別に認知をとるというのは、その商品への関与が高い人ならともかく、一般の人で、そこまでの認識や記憶がある人がどの程度いるでしょうか。
そして、さらにネット調査では必ず回答をしないと先に進めないので、自分の記憶が定かではなくても、「何も知らずに、考えもせずに回答してしまう」ということを誘発しやすいということも、自覚しておく必要があるでしょう。
結果、よくわからない認知率が得られ、データが安定しないということも起こりやすくなるのだと思います。少なくとも、商品に対する関与レベルくらいは確認し、関与を軸にクロス集計をするくらいの確認はすべきでしょう。これも、「回答者は誰か?」の重要な視点です。

また、マーケティングにおいてはターゲットが重要になります。重要なのは、このターゲットでの受容性や評価、理解がどうなのか、であって他の消費者の結果ではないはずです。
単に、「XXXのユーザー」としてスクリーニングしたとしても、その中でターゲットとして考えられる人とそれ以外の人が含まれるはずですし、それらを同一レベルで分析してもいいのか、ということもあります。これも、「回答者は誰か?」を意識した視点になります。(あるいは、スクリーニングの重要性ともいえます)

さらに、狭義でのマーケティング・リサーチばかりでなく、CGM分析においても、「回答者は誰か?」は、「発言者は誰か?」となり、やはり重要な視点になります。
たとえば、amazonの書評コメント。これも「誰が書いているのか?」によって、その内容の解釈は異なってくるでしょう。ノウハウ系が好きな人なのか、学者なのか、または学生なのか、などによってその評価視点は異なるはずです。ぐるめサイトも同様です。庶民的な店が好きな人と、おしゃれな店が好きな人では、同じ店を評価してもまったく異なる評価になる可能性もあります。
おそらく、ふだんの生活で、これらのコメントを読むときは、無意識にでも発言者の文脈を読み取ろうとしていると思います。ところが、仕事でCGM分析となると、データとしてこれらを見がちになり、この「発言者は誰か?」という意識が低くなるように見受けられるのです。

もとよりマーケティング・リサーチは、世論調査に比べ、「誰に聞くのか?」は重要なポイントなので、「回答者は誰か?」ということについては、ふだんから意識されているかもしれません。
これまでも、詳細なスクリーニングをベースにリサーチを行なっている方、クロス集計でしっかり分析している方にとっては、「何をいまさら」という感じでしょう。。。
しかし、従来のようにサンプリング理論に則れば代表性のあるサンプルが得られるという時代ではない、マーケティングでも、より狭いターゲット設定が行われている、そして一人十色のライフスタイルをもち、さらにネットによって生活者の部族性が高まっている、などの背景を考えると、この「回答者は誰か?」ということが、いまのマーケティング・リサーチを考える上での重要なキーになると思い、あらためて問題提起をしてみました。

とはいえ・・・、
まずは紹介した世論調査”論”を一読されることを、お勧めします。

(う~ん・・・、うまくまとめられていない。。。)

【追記:2010/4/5】

同じころに、↓ も発行されていました。社会調査協会の機関誌です。
(ほんと、この時期は世論調査論が花ざかり・・・)

『社会と調査 第3号:小特集1・世論調査の現場から』(2009/9/30)
(社会調査協会HP)

また、西平先生は世論調査を総括した ↓ の本を出版されています。

世論をさがし求めて―陶片追放から選挙予測まで 世論をさがし求めて―陶片追放から選挙予測まで
価格:¥ 4,200(税込)
発売日:2009-12

RFIDを活用したリサーチサービス

つぎのようなリリースが発表されていました。

RFIDスマートシェルフの技術を活用して、リサーチサービスを行なうという内容です。
具体的には、つぎのような内容のようです。

クレスコIDSのRFIDシステムによって、対象商品にRFIDタグを実装し、店頭の陳列棚にRFIDアンテナを組込む“スマートシェルフ”の仕組みを活用した消費者行動分析サービスです。これにより、棚上の商品動態のリアルタイムでのモニタリングが実現できます。これにより、POSデータなどの購買デー タでは掴みきれなかった、店頭で手に取られたが買われなかった商品などの理由に関する原因分析を含めた各種消費者分析を行うことができます。

実は、RFIDについては、このblogでも以前つぎのように書いていました。

たとえば、レジを通る商品はPOSでわかります。それ以外にも、手に取られた=動いた、あるいはずっと棚に置かれたまま=動いていない、というような情報が取れるとマーケティング的には有用なようにも思うのですが。
(マーケティング・リサーチの寺子屋「次代MR?~2.技術3題」:2008/8/27)

これが現実のサービスとして登場したということになります。
(それにしても、この記事を書いたのは、1年前でしかないんですね。もっと昔のことかと思っていましたが)

あらためて、「スマートシェルフ」で検索してみると、つぎのリリースを見つけることができました。

大日本印刷 タナックス シアーズ
ICタグを使ってマーケティング分析と店頭セールスプロモーションを同時に実現する商品棚システム『多目的スマートシェルフ(仮称)』を開発
(大日本印刷株式会社ニュースリリース:2006/9/12)

このリリースの中でも、つぎのような記述が見られます。

商品棚にICタグを読み取るアンテナと人感センサーを組み込むことで、商品の前で立ち止まった人数、関心を示さず通過した人数を記録するほか、ICタグのついた商品が手にとられた回数・時間、購入される際の検討時間を各店頭PCにデータ蓄積し、専用のソフトウェアで分析し、これらの分析結果を店頭でのマーケティングに直接活用することができます。

このリリースが発表されているのは2006年9月と、だいぶ前。。。やはり考えることは、みんな一緒なんですね。
ただ、百貨店で実験されているという記事はいくつかありましたが、実際のケースとして取り上げられている記事は見当たらず・・・。
「シェルフ」としての機能~在庫管理だとか、棚卸しの省力化等~としては機能しても、データ収集ツールとしてはあまり注目されていないということなのでしょうか。

けれど、購買に至る前段階での商品の動きについてのデータって、結構重要だと思うんですけど。。。
今回の、ジャパンマーケットインテリジェンス(JMI)社による具体的なリサーチサービス化で、活用が進めばいいなと思っています。

(ただ、冒頭のリリースの中で、ひとつ気になる点が。。。
「店頭で手に取られたが買われなかった商品などの理由に関する原因分析」は、どのようにしてわかるのだろう?
RFIDのデータからわかるのは、手に取られたかどうか、その商品が買われたかどうか、という実態の記述だけで、理由まではわからないような気がする。。。店頭実験を繰り返すということだろうか?・・・
このあたりは、直接問い合わせてみてください)

「博報堂ブレイン・ブリッジ・バイオロジー」

もうひとつ、備忘録を。

かねてから、脳科学や認知心理学の研究をしてきた博報堂ですが、専門組織を発足し、本格的に事業化するようです。

博報堂、潜在意識や深層心理をマーケティングに生かす専門チーム
「Hakuhodo B.B. Buyology(博報堂ブレイン・ブリッジ・バイオロジー)」を発足(博報堂ニュースリリース(PDF):2009/8/18)

新聞記事で代表的なものも紹介(Yahoo!ニュースのソース)。

博報堂 20人の新組織 脳科学でマーケティング支援(Fuji Sankei Business i :2009/8/19)

フジサンケイの記事では、脳科学、ニューロばかりが注目されていますが、博報堂のリリースをよく読むと、そればかりではなく、これまで同社で行ってきた様々な手法もあわせて提供するようです。
詳しくは上記のリリースを見ていただければと思いますが、その提供サービスを列挙すると下記のとおりです。

  • EEG(Electro EncephaloGraphy)
  • fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)
  • アイ・トラッキング調査
  • ZMET(Zaltman Metaphor Elicitation Technique)調査
  • レスポンス・レイテンシー調査

ニューロマーケティングや潜在意識を測定、解明するための主な手法が網羅されていると思います。

ちょうど、この前の「ガイアの夜明け」でもやっていたのですが(2009/8/18放送)、インタビューやアンケートで、「この商品を使って、快適に感じますか」というような質問への回答と、実際に脳を測定し「快適なときに反応する部位が反応している」という事実とでは、まったくその意味は異なります。
回答者本人が意識していない潜在的な意識を正確に捉えることができるという点で、これらの装置を使う意味は、とても大きいと思います。

ただ・・・
とくに、EEGやfMRI、アイトラッキングは「測定装置」であり、あくまでも「仮説」に対して、ほんとうによい「結果」が得られるのかということが、明らかになるだけだということは、認識しておく必要があると思います。
つまり、基本的には「仮説検証」のためのツールである、ということです。いま流行の「インサイト」を発見するためのもの、仮説を創造するためのもの、ではないということです。
調査の目的と手法の組み合わせについての理解は、とても重要なことです。このあたりを認識されないと、せっかくの新しい手法も、「使えない」という評価になってしまわないかと、ちょっと心配しています。。。

関連して。
少し前に、脳科学に関する研究報告書を見つけていましたので、あわせて紹介しておきます。
(PDFが直接開きます)

「脳科学の産業応用への推進に資する脳機能計測機器に関する調査事業」~脳科学の産業応用を推進する支援策の策定に向けて~ 調査報告書 
(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構:H21年3月)

脳科学測定技術のシーズ保有企業側、ユーザー企業側それぞれの視点から、現状の整理と産業応用にむけての課題が整理されています。

このblogでの、関連エントリーもどうぞ。

2007/1/8に紹介している本 『欲望解剖』は、すでに文庫本になっていますので、購入される方は、こちらでどうぞ。

欲望解剖 (幻冬舎文庫) 欲望解剖 (幻冬舎文庫)
価格:¥ 480(税込)
発売日:2009-08

CGM分析、口コミ分析、blog分析

以前に、「ブログ分析」というタイトルでアップしています(→こちら。2007/11/7の記事です)が、最近また動きがあるよう&時間が経ったので、今回はこのテーマで。
(ただし今回は、「ブログ」に限定せずに、CGMあるいは口コミ分析とタイトルしました。)

◆ネットレイティングスの新サービス
まずは、ネットレイティングス(nielsen online)の新サービスの紹介。

ネットレイティングスが口コミ分析サービス「BuzzMetrics」開始
(INTERNET Watch:2009/7/30)

ネットレイティングス(nielsen online)のリリースはこちら↓。

ニールセン・オンライン、CGM分析サービス「BuzzMetrics(バズメトリクス)」の提供を開始~インターネット上のクチコミをお客様に役立つ情報としてレポート~
(ネットレイティングス、ニュースリリース:2009/7/30)

サービスページは、こちら↓。

CGM分析サービス「BuzzMetrics」(nielsen online)

ネットレイティングスのサービスは、アナリストの分析によるアドホックレポートが主軸となるようです。さらに、ネットレイティングス独自のデータである、インターネット視聴率調査やインターネット広告統計とあわせた分析が可能となるのが、強みですね。
INTERNET Watchの記事で、いくつかのスライド画面≒分析内容も確認できますので、興味を持った方は、ぜひどうぞ。

◆既存サービス
この分野は、既存のサービスも結構あります。
思いつくままに紹介すると、以下のようなサービスが。

2年前のエントリーの時と比べると、各社ともさまざまな機能を付加していることに気づきます。また、スパムをどう排除するかも大きなテーマです。
この中では、niftyから新機能の最近リリースが発表されています。

ニフティ、クチコミの影響力を測定するブログ分析指標「BPI-Influence」を提供(CNET Japan:2009/7/31)

ブログblog分析、クチコミ分析のこれからについては、ホットリンク社長内山氏のつぎのblogが参考になると思います。

クチコミ分析サービスはどこへ向かう?(内山幸樹のほっとブログ:2009/4/27)

まだ導入期~成長期という認識のようで、これからどこへ向かうかについて、明確な方向性が見えていないというのが結論のようなのですが。。。

◆参考図書
関連して、参考図書を一冊ご紹介。

実践 ブログ・リサーチ―デジタル・アカシックレコードの探索 実践 ブログ・リサーチ―デジタル・アカシックレコードの探索
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2009-04

上記で紹介したサービスは、いずれもレポートまで作成してもらえると思うので、自分でCGMのテキストデータから集計や分析をすることはないと思いますが。。。
しかし、CGMのデータにはどのような特徴があり、実際にどのようなことができるのか、限界や可能性は何か等について、あらかじめ知っておくことは大切なことだと思います。

そこで、この本。
ただし、CGM分析の「入門編」です。すでにCGMデータの分析をバリバリと行なっている人にはお勧めしません、すでにわかっていることが大半でしょうから。
まだCGM分析を行なったことがないけど興味がある、どのようなことができるのか知りたい、という人向きの本と言えます。

もくじの代わりに、「はじめに」から本書の構成について述べている部分を引用しておきます。

第1章 デジタル・アーカシックレコードの探索
本書の総論にあたり、Web2.0の進化のもとでネットにブログが溢れてくる状況をどのように捉えることができるかについて解説します。
第2章 ブログ・データの基本特性とブログ・リサーチの視点
ブログ・データの基本特性を5つの切り口から説明します。
第3章 実践!ブログ・リサーチ
ブログ・リサーチを行なうツールと実践的なリサーチ手法を解説します。
第4章 ブログを科学しよう
ブログ・データの形式を整え、既存のマーケティング・リサーチで使われる手法の適用を試みます。
第5章 ブログの時系列波動に注目してみよう
ブログ・データを時系列「波動」として捉え、どのような現象が見られるかについて解説します。
第6章 ブログ・リサーチの可能性
ブログ・リサーチの限界や可能性についてのまとめを行ないます。

専門書の体裁はきっちりとっています(注の充実など)が、内容は読みやすい内容ですので、気楽に読んでみてください。

「信頼できるインターネット調査法の確立に向けて」 by SSJ

2009/7/16の"Survey ML"で萩原さんが紹介されていた、「信頼できるインターネット調査法の確立に向けて」について、今日は考えてみたいと思います。

報告書は、こちら↓からダウンロードできます。
(No.42です。PDFで、ファイルサイズが5.5Mあります。)

東京大学社会科学研究所付属社会調査・データアーカイブセンター

インターネット調査、郵送調査、訪問調査による違いを把握しようというものです。
これまでも、同種の調査・研究は多く行われていますが、少し前のものになってしまっていましたので、あらためて、この種の調査が行われ、公開された意義は大きいと思います。

ただ。。。
以前から思っていたのですが、この種の調査は、基本的に社会調査、世論調査としての研究で、マーケティングリサーチとしての視点からではない点に、留意が必要かと思います。
できれば、マーケティングリサーチの視点からの比較調査も必要だと思うのですが、どこから費用を得て、どこがやるのか、というのが難しいでしょうね、正直なところ。。。(第三者的な視点で、客観的に分析ができるのか、という問題がつきまといそう。。。)
さらに社会調査であれば、国や自治体が実施した、いわゆる「正統な統計調査」というものが存在するので、比較データが存在するのですが、マーケティングリサーチでは、この「比較対象」となる正統な統計調査というものが存在するのかどうか、という問題も大きいです。
こんな問題があるので、「マーケティングリサーチにおける、調査方法による差異についての実証研究」は、難しいと思われます。
なので、この研究のような、社会調査としてのリサーチ研究を参考にするしかないかな、と。

さて、結果です。
これまでの、この種の研究は、どちらかというと「インターネット調査は、統計調査とはいえない」という主張が前面に出ている印象で、インターネット否定的な論調が多かったように感じています。
しかし、この報告書では、インターネット調査ばかりでなく他の調査手法にも限界があることが指摘されている点が、これまでとは違います。
この点については、個人的には、以前から感じていました。調査がどのように行われているかを論理的に考えていけば、インターネット調査だけが否定される理由がわからないと思っていましたので。

ここでは、「終章 インターネット調査の限界と有効性」(pp.133-141)から、ポイントをあげておきます。

まず、

従来型調査をWEBモニター調査で代替することには,留意が必要なことが明らかにされた.ここでの従来型調査とは,明らかにしたい集団の特性を,当該集団(母集団)から統計的ルールに従って抽出した調査対象に対して調査を実施し,そのデータに基づいて母集団の特性を推定するものである.(p.139)

WEBモニター調査の限界を指摘したが,これは,WEB調査で,住民台帳や選挙人名簿から層化無作為抽出で調査対象を選定し,訪問面接調査や訪問留置調査で調査を実施する従来型調査(伝統的調査)を代替する場合を想定したものである.(p.140)

これは、これまでの常識を再度、確認した内容ですね。
ただし、比較対象を明確に定義している点がポイントだと思います。
つまり、「住民台帳や選挙人名簿から層化無作為抽出で調査対象を選定し,訪問面接調査や訪問留置調査で調査を実施する従来型調査(伝統的調査)を代替する場合」においては、インターネット調査に限界があるということで、どんな調査と比べても、というわけではないという点の理解が重要です。
ただ、マーケティングリサーチでは、この前提に立つ実査自体が、ほぼ不可能(住民台帳や選挙人名簿を閲覧すること自体が困難)なので、この点で限界を指摘されても、あまり意味はないかなと思います。

インターネット調査以外でも、つぎのような点が指摘されています。

従来型調査であっても,エリアサンプリングで調査対象を選定した訪問留置調査の場合では,回答者の基本属性に偏りがあることが確認された.(p.139)

訪問調査であっても回答率が低い場合には,特定の選好を持った者(「他人への信頼度」が高い人など)が調査に協力している可能性が高く,そのことが意識面の回答に偏りをもたらしている可能性が指摘できる.(p.140)

郵送ランダム調査でも回収率が低い場合は,モニター調査(WEB,郵送)に近い回答傾向があることが明らかにされた.(p.140)

「回収率が低ければ、従来型の調査でも偏りがあるんだよ」ということです。
(あたりまえといえば、あたりまえですが。ただ、この「あたりまえ」のことが、あまり「あたりまえでなくなっている」のが、いまのリサーチ業界の問題であると思えるのですが。。。なぜ、回収率が低いと偏りが出るのかについては、考えてみてください。説明できますか?)

そして、インターネット調査の有効性としては、つぎのようなことが上げられています。

調査母集団を確定できない対象に関して調査を実施する場合や,無作為抽出で調査対象を選定した場合では調査対象を十分に確保できい場合などではWEBモニター調査の有効性が高い.WEBモニター調査では,特定の属性や意識を持った層を抽出するための予備調査を容易に実施できるため,分析したい属性を持った対象者を事前に特定した後の本調査を実施出来ることによる.(p.140)

これって、マーケティングリサーチでは、ほとんどの場合に当てはまる条件のようにも思えるのですが。。。ある商品の使用者とか、認知層とか、母集団確定できないですよね?そんなリストはないことが、ほとんどでしょう。
と考えると、「マーケティングリサーチではWEBモニター調査」が有効ということになるけど、そんなに簡単なことでもないような。。。
(たとえば、「特定の属性や意識を持った層を抽出するための予備調査を容易に実施できる」とありますけど、実務となると、費用的にも、作業的にも、これがそんなに容易なことだとは思えない。。。)

さらに、

WEBモニター調査間の比較では,運営会社,モニターの構築方法(調査専用モニター,懸賞メーリングリストによるモニター),調査の回収方法(回収後に無作為抽出,先着順受付)などが異なっても,回答傾向に大きな違いがないことが明らかになった.(p.140)

WEB系リサーチ会社が行った他の研究でも、回収方法(回収後無作為抽出と先着順)による差は無い、と公表しているものを見た記憶がありますが、正直にいうと、この結果は鵜呑みにできないと感じています。
これらの結果は、あくまでも「それなりのサンプル数を確保する場合」と考えた方がいいのではないでしょうか?(今回の調査では1000サンプルベースで、集計しています。)
確かに、1000サンプルも集まれば、偏りは小さくなると思いますが、実務上はどうですか?
セル割付を行う場合、1セル100サンプルにも満たない場合も少なく無いのでは?(あくまでも、セル単位での話です。総サンプル数が1000サンプルだとしても、たとえば男女×10歳刻み年代で設計すると、1セルは100サンプルになります。)
たとえば、1セル=50サンプルくらいで設計されているとしたら?あっという間に調査終了しませんか?その場合、“回答できる人”に、ある特徴があると想定できませんか?
こうやって考えると、この「運営会社、モニター構築方法、回収方法による、回答傾向に大きな違いはない」という結論は、全面的に肯定できないように思います。(あくまで仮説です、実証できていないので。)

なんか、全般に否定的なコメントになってしまったでしょうか。。。
否定しているわけではなく、この研究の結果自体は、十分に理解しておいてほしいことばかりです。
ただ、この研究が「社会調査の視点に立っている」ことも含めて、結果の読み方には注意をしてほしい、ということです。

上記含め、調査手法について考えておいてほしいポイントをまとめます。

  • WEB調査ばかりでなく、他の調査手法でも、回答に偏りがでる場合がある。
  • とくに、「回収率」が重要な指標となり、回収率が低い場合は、どんな調査手法でも、偏りが発生する。
  • WEBモニター調査において、「回収方法による回答差はない」といわれているが、これはすべての場合において正しいとは限らないのではないか(サンプル数が十分に大きい場合に限定される可能性がある)。

一言でいえば、WEB調査に限らず、あらゆる調査手法には「偏り」の可能性があるということです。では、どうすればいいのか?

  • 従来のように「母集団」を所与のもの、規定されているものと考えずに、
    「集まったサンプルの母集団は、どんな人たちか?」ということを、
    常に考えて分析することが必要

ということではないでしょうか。
予備調査で「女性30代」と規定してサンプルを回収しても、実際に集まったサンプルは「どんな女性30代なのか」を考えた上で、分析する必要があるのでは?ということです。
未既婚比率やライフステージ、職業などの基本的な属性はもとより、イノベータ度や情報感度、その商品カテゴリーへの関与度や利用状況など、調査毎に集まったサンプルが異なる可能性もある、くらいの気持ちが必要なのかもしれません。

あるいは、

  • WEB調査でも、回収率を考えた実査コントロールが必要

ということもあるでしょう。
WEB調査に限らず、回収率が低ければ、偏りが生じる可能性があるというのが、今回の研究のポイントだと思っています。
となると、WEB調査でも回収率をしっかりと考えた実査コントロールが、本来は大切なのだと思います。ただ、これをきちんと行うには手間と時間=費用がかかり、せっかくのWEB調査の利点が損なわれることになるでしょう。
なので、ここは是々非々で、ある程度の代表性や精度が欲しい場合と、とにかく安く・早くの場合との使い分けが、大切ではないかと感じています。

以上、SSJの「信頼できるインターネット調査法の確立に向けて」を題材に、調査手法について考えてみました。ただ、ここに書いてある内容を鵜呑みにするだけでなく、皆さんも、報告書にぜひ目を通してください。
そして、今回のblogの内容では、「なぜ?」の部分については触れていません。(なぜ偏りがでるのか?、なぜ回収率がポイントなのか?等です)
また、調査手法による偏りがあることがわかったとして、では、どういう偏りが起こるのか、どういう時にどのような調査手法が適しているのか、等についても触れていません。
この点は、近いうちに、このblogでも考えてみたいと思いますが、しばし皆さんで考えてみてください。