日別アーカイブ: 2011-08-31

ソーシャルメディアとリサーチ

「ソーシャルメディア」というワードが、かなり一般化してきました。
このblogのメモ版であるFaceBookページで取り上げる題材も、ソーシャルメディアに関するものが多くなってしまいます。(寺子屋FBページは、こちら です)
そこで、ここで一旦とりまとめをしながら、リサーチとの関連を考えておきたいと思います。
(※「ソーシャルメディア」という言葉の定義はあいまいで、人によって異なるようです。ここでは、「個人が発信することのできるメディア」すべてを含む広い意味で話を進めます。具体的には、mixiやtwitter、FaceBook、Googl+などに限定せず、ブログ、2chなどの掲示板、はてブなどのソーシャルブックマーク、YouTubeなどの投稿サイト、価格.comなどのリコメンドサイトなども含みます)

 

◆「ソーシャルメディア」は花盛り?

グラフは、google Insight での「ソーシャルメディア」検索の推移です。
2011年の1月にブレイクし、以降コンスタントに検索されていることが見てとれます。
(3月の底は震災、5月の底はGWです)

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また今年3月くらいから、雑誌でのソーシャルメディアに関する特集が続きました。
(主なものとしては以下)

まずは、HBR「ソーシャルメディア戦略」

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 04月号 [雑誌] Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 04月号 [雑誌]
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2011-03-10

 

宣伝会議「ソーシャルリスニングとは何か?~傾聴から始まる企業戦略」

宣伝会議 2011年 7/15号 [雑誌] 宣伝会議 2011年 7/15号 [雑誌]
価格:¥ 700(税込)
発売日:2011-07-15

 

Think! 「ソーシャルメディアインパクト」

Think! No.38 ―ソーシャルメディアインパクト Think! No.38 ―ソーシャルメディアインパクト
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2011-07-15

 

IT批評「ソーシャルメディアの銀河系」

IT批評 Vol.2
価格:¥ 1,000(税込)
発売日:2011-05-20

発行日をご覧いただくとわかるように、まさに“今が旬”、です。
ネット上での評論や事例紹介を追いかけると、それこそ数知れず、です。

本屋さんにいくと、ソーシャルメディア関連本のコーナーがあります。
Amazonで「ソーシャルメディア」で検索すると、471件がヒットします。さらに、過去90日以内発行に絞っても87件です(2011/8/25現在)、まさに旬です。

この中で、個人的にお勧めなのは、こちら ↓ の本。

ソーシャルメディア進化論 ソーシャルメディア進化論
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2011-07-29

ビジネス書らしからぬ筆致ですが、これも筆者が長年にわたりソーシャルメディアと向き合ってきた経験をベースに書かれているからだと思うと納得がいきます。
ソーシャルメディアの背景であるインターネットの歴史を遡りながらその本質を確認し、その上でいまのソーシャルメディアの地図を提示しています。そして事例とそこからもたらされる価値について整理する、という構成になっています。
全体に、単にビジネスの視点だけでなく、もっと大きな枠から整理されている点、そしていまの状況だけでなく、これまでの流れ(ここにいたる苦労?)もふまえて説明されている点に好感がもてます。
(この本のエッセンスは、こちら ↓ の連載でも理解できます)

「ソーシャルメディア進化論」(ダイヤモンド社 書籍オンライン)

 

また、こちら↓の本も、ソーシャルメディアを広く捉える上(社会学的な視点でといった方がいいでしょうか)では勉強になった本です。
(2010年12月に書かれているので、FaceBookのことなど今では「ん?」と思う点も多少あります。けど、個別事象ではなく、広く捉えることが目的なのでOKでしょう)

日本的ソーシャルメディアの未来 (PCポケットカルチャー) 日本的ソーシャルメディアの未来 (PCポケットカルチャー)
価格:¥ 1,554(税込)
発売日:2011-02-04

さらに、最新(平成23年版)の『情報通信白書』でも、ソーシャルメディアが取り上げられているではありませんか。
今年のテーマは「共生型ネット社会の実現に向けて」。とくに、ここ ↓ からソーシャルメディアの可能性と課題について、リサーチを元に検証しています。いまのソーシャルメディアの状況を捉えておくには、いい資料になっていると思います。(ただし、インターネット調査である点に注意)

平成23年版 情報通信白書 第2部第3章2節-3
「ソーシャルメディアの可能性と課題」 (総務省)

このようにソーシャルメディアは、もう「知らない」では済まない状況になってきている、といえそうです。(とくに、マーケティングやリサーチに関わる人なら)

ただし、「ソーシャルメディアがビジネスやマーケティングにどう“使える”のか」ということを追いかけるよりも、「ソーシャルメディアが社会や個人にどのような影響を与え、人々の生活や行動がどう変化するのか」ということを理解することが大切なのでは?、と感じています。その上で、ビジネスやマーケティングにどう使うのか、ということを自身で考えるべきでしょう。
これまでの「メディア」に接するのと同じ考え方でソーシャルメディアを捉えると、あるいは既に行われている事例の形をまねするだけでは、きっと成果は望めないでしょう。
(成果が望めないどころか、マイナスの影響を受けるリスクも高いと思います)

◆リサーチへの影響は?

リサーチへの影響としては、2つの点であらわれていると言えそうです。
ひとつは「ソーシャルリスニング・プラットホーム」、もうひとつは「MROC」です。

 

ソーシャルリスニング・プラットホーム

このような言い方をする以前から、blog分析の形で、ソーシャルメディア上の発言を解析するサービスはありました。
それがいまでは、「ソーシャルリスニング・プラットホーム」として多くのプレイヤーから提供されるようになっています。(さらに発信機能とあわせて「ソーシャルメディア・プラットホーム」と言ったほうがいいものも)
こちら ↓ のページで一覧になっていましたので、ご紹介しておきます。

広告会議、クチコミ分析アーカイブ

なぜ、これだけ多くのサービスがリリースされるのでしょう。

リサーチの方法を考えるときに、構成的-半構成的-非構成的という視点があります。
構成的なデータは、しっかりと設計された上でデータを集めるので、こちらの知りたいことの答えを確実に集めることはできますが、聞かなかったことについてはまったく知ることができません。
一方で、非構成的なデータは、どんなデータが得られるのかまったくわからないので、もしかしたら期待したデータが得られないかもしれない、他の人も言わなかっただけで同じことを考えているかもしれないなどの制約はありますが、こちらが気づかなかった発見を得ることができる可能性は高まります。
これまでは、非構成的なデータを得るためには、まわりの人に話を聞くとか、観察をしてみるなどしか方法がなかったので、広く大量にデータを集めることが難しかったといえます。

しかし今は、「いままで気づかなかった発見」を、どれだけできるかが重要になっているといえそうです。「インサイト」という言葉がよく使われるのも、「エスノグラフィ」という手法が関心を集めるのも、このような背景があるからでしょう。
さらに、幸いなことには、ネット上にはソーシャルメディアを通じて、たくさんの非構成的なデータが溢れているわけです。
となると、非構成的なデータをどれだけ集めることができるか、そこからどれだけの知見が得られるかが求められているといえるでしょう。その結果として、ソーシャルリスニングのプラットホームが次々とリリースされていると考えると納得がいきます。

さらに、積極的な企業は自社で、ソーシャルリスニングの仕組みを作っています。
代表的な事例として、DELLを紹介しておきます。(写真が、なかなか興味深いです)

米デル社はなぜ、「ソーシャルメディア・リスニング・コマンドセンター」を設立したのか?(アドタイ、2011/7/19)

MROC

そして、もうひとつの展開がMROC。
実をいうと、このblogの検索ワードの上位に「MROC」があがってきます。ちょうど1年くらい前に、こちら ↓ の記事を書いたのですが、この記事がかなりのPVを獲得しています。

MROCを考える(2010/8/28)

このときはまだ、概要と疑問点を伝えただけの内容ですし、日本ではMROCの影も形もありませんでした。
しかし、いまではMROCをサービスメニューとしている会社があるという状況です。それも、上記のソーシャルリスニング・プラットホームとは異なり、リサーチ会社が主体となっているのも特徴的です。
代表的なものでも、これだけ ↓ あります。この1年で、まさに様変わりです。

メーカーの商品開発を支援するリサーチ専用コミュニティ、「Marketing Research Online Community」―MROCサービス開始のご案内(ドゥハウス)

MROC(エムロック):Marketing Research Online Community (クロスマーケティング)

楽天リサーチ ソーシャル・ネットワーキング・サービスを活用したインターネット調査手法「MROC」の取り扱いを開始 (楽天リサーチ)

MROC (エイベック研究所)

MROCフルサービス (index-i)

さらに、8/16の日経産業新聞によると、インテージとマクロミルも近々サービスインの予定と報じられています。(日経のサイトは会員限定です)

調査にSNSの声~インテージなどネット調査大手、相次ぎ導入
(日経新聞電子版:2011/8/21)

なぜ、複数のリサーチ会社がMROCに続々と参入しているのか?
ここには、やはりソーシャルメディアが影響していると思います。(単に、次の手を打っておきたい、乗り遅れないようにしたい、という会社もあるのかもしれませんが)

統計調査では、回答は互いに影響を受けない=独立であるという前提があります。
しかし、ソーシャルメディアで他人の意見や考え方に接する状況を考えると、「影響を受けない回答を得る」という考え方が、ほんとに正しいのだろうかという疑問を感じます。むしろ、積極的に他者の意見にふれながら回答を考えてもらった方が、実際の意思決定に近い状況になると考えた方が妥当ではないでしょうか? とくに開発系の、これからのマーケットを探索するようなテーマの場合は。(もちろん、実態調査のように他人の意見に影響されない方が正しい回答が得られるテーマもあります)

これまで、グループダイナミクスを前提にした調査はグループインタビューが代表的でしたし、今でも有用であることは間違いありません。しかし、時間をかけて、お互いのことがよくわかった相手と意見を交わしながら、考えをまとめていくという過程は、MROCの方が優れているといえそうです。
最初に紹介した1年前のエントリーで、MROCへの疑問点として掲示板グルインとの違いを上げています。しかし、これは大きな勘違いだったと、いまでは思います。
掲示板グルインは、まさにグルインの形をネットに置き換えただけ(しかも、リアルなグルインを劣悪にした感じで)でしたが、MROCは参加者相互のつながり、お互いの関係性を深めた上での意見交換が、肝なのだと思います。モデレータと参加者の対話ももちろん大切ですけど、参加者間で交わされる自然な会話が、より重要なのです。
(補記:リアルのグルインでも、よいモデレータさんは、対象者の関係性を深め、対象者間の会話が起こるように工夫されています)
ですから、単に対象者を集めて短期間で実施する、つまりお互いの関係性を十分に深めずに行うMROCは、本質的には以前の掲示板グルインと同じだといえると思います。(以前の単純な掲示板とは異なり、技術面で大きな進化を遂げていますので、「同じだ」というのには語弊がありますが、ここはあえて)
前のエントリーから1年を経て、MROCは、この点の理解がとても大切だと思うようになりました。

蛇足になりますが、調査員さんによる面接調査~郵送調査~電話調査~インターネット調査という流れの中でMROCを位置づける言説も見受けますが、これも見当違いといえると思います。たしかに、リサーチのメディア(媒体)の主体は大きく変遷していますが、「オンラインコミュニティ」は、メディアではないでしょう。
さらに、「SNSというツールを使った」という表現も見受けますが、これもやはり本質ではないと思います。
繰り返しになりますが、MROCの肝は「対象商品・サービスへの関心を通じた、参加者間の関係性」にあるのだと思います。

MROCについては、MROCジャパンの岸川さんが数回にわたってblog「みんなのMR.COM」に書いていますので、ぜひこちらもご覧ください。

次世代マーケティング・リサーチ・プラットフォームとしてのMROC(2011/4/4)

日本版MROCの離陸: MROCに対する理解不足と誤解(2011/4/18)

MROCに対する理解不足と誤解 その2(2011/5/23)

これらの他にもMROC情報は盛りだくさんですので、時間のあるときにでもどうぞ。

今回は、ソーシャルメディアについてのさまざまな情報の紹介と、ソーシャルメディアによってもたらされるリサーチへの影響について、まとめてみました。
「ソーシャルメディアとは何ぞや、というまとめがない」というご不満もあるかと思います。
しかし、ここは敢えて書きません。
ご紹介した雑誌や本、またWEB上でのさまざまな言論を読みながら、ぜひ、皆さん自身で考えていただければと思います。
ただ、ひとつお伝えしたいこと、それは途中でも書きましたが、「ソーシャルメディアがビジネスやマーケティングにどう“使える”のか」ということを追いかけるよりも、「ソーシャルメディアが社会や個人にどのような影響を与え、人々の生活や行動がどう変化するのか」ということを理解することが大切なのでは?、ということです。
その上で、自身のビジネスや業務に、どう影響してくるのかを考える姿勢が大切だと思っています。

<※ 関連エントリー: リサーチ手法のポジション 

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