日別アーカイブ: 2007年1月17日

『サントリー、知られざる研究開発力』

サントリー 知られざる研究開発力―「宣伝力」の裏に秘められた強さの源泉 サントリー 知られざる研究開発力―「宣伝力」の裏に秘められた強さの源泉
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2006-11-03

理論ではなく、もう少し事例よりの本も紹介しておきます。
ここ数年、「伊右衛門」や「-196℃」「ザ・プレミアム・モルツ」など、ヒット商品が続くサントリーですが、その研究開発がどのように行われてきたのかを紹介した本です。
これまで、サントリーといえば宣伝広告力に焦点があてられることが多かったですが、本書は研究開発の視点で書かれています。

取り上げられているテーマ(商品)が多いので、それぞれについては食い足りない面もありますが、やはりいくつかのところで、リサーチが活用されていることが見て取れます。

もくじは、つぎのようになっています。

第1章 「伊右衛門」の記録的な快進撃
第2章 プレミアムビールで躍進するビール事業
第3章 「-196℃」が低アルコール飲料市場を拡大
第4章 トップブランドを急追する「BOSS」
第5章 急拡大が続く健康食品事業の戦略
第6章 世界で初めて咲かせた「青いバラ」
第7章 水と生きる-佐治信忠社長に訊く

この中でおもしろいのは、やはり「伊右衛門」でしょうか。
消費者調査のどのようなファインディングから「福寿園」との共同開発に至ったのか、味に対する消費者ニーズをどのように商品として成立させていったのか、ネーミングはどのように決定していったのか、などが明らかにされています。

中でも、共同開発者である福寿園の主任研究員が語るつぎの言葉に、やはりトップメーカーのリサーチに対するスタンスが、うかがえると思います。

私たちも消費者調査をしますが、今回のサントリーさんほど徹底してやることはありません。私たち生産者が考えて作ったお茶商品を「これでどうですか」と提案する形で販売してきましたが、サントリーさんの商品づくりは違うと痛感しました。お客様の声をこれほど執拗に聞きだし、それを商品開発に反映させようとする執念には圧倒され、凄みすら感じました。その一方で、お客様はお茶の専門家ではないので、お客様の主張をそのまま反映するわけではなく、お客様の意見を入れながらも、それによって変わるバランスをより高い次元でまとめていく。その味はお客様にとっても、新たな驚きや納得感になるというわけです。このあたりの執拗な改善努力はすばらしいと思いましたね。

このような企業本につきまとう「まとまり感」「きれい感」はありますが、リサーチを徹底的に行い、しかもただ「聞く」だけではない、振り回されない。この姿勢こそが重要だと思います。
やはり、「新たな驚きや納得感」を、リサーチを使いながら、どのように出していくのか。
ここがリサーチが使える、使えないの差になるのではないでしょうか。

「伊右衛門」だけに焦点をあてた本も出ているようです。
興味のある方はこちらもどうぞ。
(ただ、どの程度開発について明らかにされているかはわかりません。。。)

なぜ、伊右衛門は売れたのか。 なぜ、伊右衛門は売れたのか。
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2006-04-20

『新製品・新事業開発の創造的マーケティング』

新製品・新事業開発の創造的マーケティング―開発情報探索のマネジメント 新製品・新事業開発の創造的マーケティング―開発情報探索のマネジメント
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2006-12

前回寺子屋で、「調査(リサーチ)は役にたたない?」と題してアップしましたが、開発プロジェクトをどのように進めるのかについて論じている本が、ちょうど出版されていました。
内容は、『主として大学テキストとして、また企業経営者、行政管理官、さらにはこれから事業を起こそうとしている人々などを対象に』と書かれているように、ベーシックに研究開発や新製品開発、新事業開発についてまとめたものです。

もくじは、つぎのようになっています。

序章 プロローグ
第2章 戦略計画と研究開発管理
第3章 研究開発プロジェクトの計画、選択及び評価法
第4章 情報の新しい体系化と戦力化
第5章 研究開発の進め方と考慮すべき要件
第6章 『からだ巡茶』の開発における情報探索
第7章 Webリコメンデーション・エンジンを搭載した商品お勧めサイト
      『教えて!家電』の開発
第8章 ロボットの開発事例-感性と機能からのアプローチ
第9章 製品事故における企業組織内外コミュニケーションとマネジメント
      -M社、P社の一酸化炭素中毒事故を事例に

研究開発や新製品開発についての概論書としてもよくまとまっていると思いますが、「リサーチは新製品開発にどのように寄与するのか?」あるいは「新製品開発に役立つリサーチは?」という視点では、第6章の『からだ巡茶』の開発事例がとても参考になると思います。
開発キーワードの整理、開発与件の整理から、製品化にむけての過程まで、比較的ていねいに紹介してくれています。詳しい内容は、本書をお読みいただくとして、さすが飲料トップメーカーだけあり、いたるところでリサーチを活用していることがうかがえます。

この中で、開発にたずさわった日本コカ・コーラ㈱の経営情報部統括部長のコラムから、今後のリサーチを考える視点となる一文を引用しておきます。

さて、上記の復権は誤解を恐れずに極論すればリサーチの現場に「調査票との決別」、また言い換えれば、リサーチの軸足を「見えるものの計測とその組み合わせによる推計」から、「人間の本質的な共通性の理解とそこに存在するモチベーション仮説の構築」へ移行するという変化を興す。生活者にとって認知、認識できる領域、マーケターにとって理解しやすい領域の中だけでグルグルと表面的な現象を追いかけ回すことよりも、生活者自身も理解・説明困難な領域に果敢に踏み込み、リサーチャー自らがコンテクスト化し、逆に生活者に気づきとして還元することが、製品開発やマーケティング戦略への近道になるからである。「ニーズを創りだすリサーチ」の誕生である。

(*注:「上記」とは、モチベーショナルリサーチ、オブザベーショナルリサーチを指しています)

おそらくリサーチを活用している企業では、あたりまえの視点になっていることだと思いますが、あらためてこのように提示されると、今後のリサーチの方向性がクリアになってきます。決して、対象者に「なにがほしいか」を聞くことだけが新製品開発のリサーチではないということです。

蛇足ながら・・・
ひるがえって調査業界をみるに、このような環境変化が起こっている中で、「人間の本質的な共通性の理解とそこに存在するモチベーションの仮説構築」に寄与する調査技法とか分析技法の開発が行われているのかどうか・・・。
調査業界こそ、この本で研究開発のなんたるかを学ばなければならないのかもしれません。
(ただ、人にしろ、金にしろ、モノにしろ、情報力にしろ、いまの調査業界で資本力のある会社が限られているのも事実です。なので、いつか書いたこともあるのですが、そろそろ調査業界の再編も必要ではないかと思ったりしています。1社ではできないことも、数社が共同で行えばできることもあるでしょうから・・・。)

さらに蛇足・・・
この章の最後に『本製品の開発にあたり、良き議論の相手がいなければ決して成功に導けなかった』謝辞として、関与者の氏名が並んでいるのですが、この中に調査会社は含まれていません。広告代理店やデザイン会社は紹介されているのに・・・。
おそらく、いくつかの調査会社を使っているでしょうし、議論の相手にもならなかったのでしょうが、このような時に、きちんと議論の相手になれる調査会社がないというのも寂しいかぎりです・・・。