日別アーカイブ: 2008-11-24

『定性調査がわかる本』

「定性調査」がわかる本―定性調査の実務に関わるすべての人達に向けて 「定性調査」がわかる本―定性調査の実務に関わるすべての人達に向けて
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2008-11

マーケティング・リサーチの新しい本です。テーマは、「定性調査」に絞ってますが。

この本は、JMRA(日本マーケティング・リサーチ協会)で10年続き、いまだに実施されている研修から生まれた本だそうです。10年も続いた研修だということ、そしてその研修を元に書かれているということからも、この本の良さは保証されているといえそう。。。
(私自身もいくつかリサーチ研修をさせていただいてますが、研修を通じての気付きは多く、それを踏まえることで、つぎの研修がブラッシュアップされるということは体験済みです。なので、「実際に現場のリサーチャー相手に研修をしている著者が書いた本」という点で、著者の一方的な視点だけでない、実際に現場でリサーチをしている人の視点からの練りこみがされていると思ったのです。)

そして、いまのリサーチは「いかに、生活者のインサイトに基く仮説を構築できるか」が焦点になっているように思います。そのためにも、定性調査についての本質的な理解が必要な時代でもあり、こんな時代的な要請からも期待し。。。

そんなこんなで、期待いっぱいの状態で購入したら・・・。期待に違わず!

まずはもくじの紹介から。

Ⅰ.理論編
1.定性調査の基本的な考え方
2.定性調査と定量調査の違い
3.定性調査の種類
4.グループインタビューの構造
5.その他の定性的な調査

Ⅱ.実践編~各ステップで大事なこと
1.企画
2.対象者の設定とリクルート
3.インタビューの現場
4.定性調査の分析

ふたりのつぶやき・・・このままでいいのか?

一見、定性調査についての基本的な内容と構成になってます。そして、確かに基本的な内容は押さえられていますので、定性調査を一から勉強しようという人には、とても参考になる本でしょう。

一方で、これまで定性調査を”それなりに”やってきた人にも、気づきを与えてくれる内容だと思います。通り一遍の教科書とは異なる視点、内容が綴られているからです。かなり、定性調査の本質に迫った内容ではないかと思います。
中でも、「Ⅱ-1.企画」の章は、定性調査に限らずリサーチの企画を行なうポイントがうまく整理されていると感じます。これまでマーケティング・リサーチに関する本は多く出ていますが、「リサーチの企画」についてポイントをおさえて書かれているものは、なかなかなかったと思うので、リサーチの企画について悩んでいる人は、一度目を通してみては?

そして個人的に、この本でもっとも気に入った点はどこか・・・?
それは、リサーチの現状に対する著者の想い(中でも危機感)を感じることのできる文章を、そこここに見つけることができる点です。たとえば、「企画」の章で書かれた、こんな文章。ちょっと長い引用になりますが、ご紹介を。

インタビュアーという立場で調査会社と一緒に仕事をしていると、ときどき「企画書がない」「調査課題が見えない」、つまり「インタビューフロー、あるいは調査項目だけしか見えない」という場面に遭遇することがある。
調査会社で作成したインタビューフローを、実査日の直前の打合せで「このとおり聞いてください」と言われたり、あるいは、調査項目しか書いていない書類を呈示され「これでインタビューフローを作ってください」と言われることがある。
「企画書を見せてください」とお願いしても「社外秘なので見せられない」あるいは「企画書はない」と断られる。「では、この調査の背景や発注者の抱える問題点とは?」と調査課題を突っ込んでも、「聞いていない」、あるいは「教えてもらっていない」と言われる・・・というように、何をしても暖簾に腕押し状態に近いことが起こっている。

もしも、「これのどこがいけないの?」「こんなこと、ふつうでしょ?」と思った方がいたら・・・。
ぜひ本書を読んでください。定性調査とは何かを、もう一度勉強してください。こんな状態で、まともなリサーチができるわけがないのですから。
(けれど残念ながら、こんな状況は確かにありますし、増えていると感じます。著者も、肝心な「調査課題」が全くない”企画書”を呈示されることが、控えめに見積もっても過半数はある、と指摘しています。)

さらに、つぎのような文章も。これも研修の場ではいつも感じる課題で、全く同感。

定性調査実践セミナーでは模擬オリエンテーションを行い、グループ演習によって企画書を作成しています。その際に、かなりのディスカッションをして、いろんな仮説や課題を話し合っているのに、作成する企画書になると、なんともそっけない調査目的や調査課題になったり、調査課題が調査項目に戻ったりしているケースがほとんどです。
考えたことを日本語で表現することや、説得性のある文章にすることが、どうも苦手のようです。どのような表現や文章にすると、自分の考えたことが伝わるのかについて、読書したり新聞を読んだりして、日本語表現能力を日々鍛えてほしいものです。

そして、最後の「ふたりのつぶやき」に書かれている想い。
この想いにかなりの部分で共感しました。具体的には本を読んでもらうとして、いまリサーチ(やマーケティング)を仕事としている人すべてに、読んでもらいたいなと思った内容です。

(そしてそして、著者の一人である林さんとは、一緒にお仕事をさせていただく機会もあったので、その語り口とともに、その想いが届いたからでもありますが^^;)

PS.

この本の元となったJMRAのセミナーは、こちらで↓。

定性調査実践講座(JMRA)

著者の一人、林さんのインタビュー記事がこちら↓でご覧いただけます。
(今回の本とは関係のないインタビューですが、この本のエッセンスを感じていただけると思いますので、参考までに。)

グルインで消費者の琴線を探り当てる!(日経BPコンサルティング)