まずは、つぎのニュースリリースと、詳細データをごらんください。
高齢者におけるパソコン・ネットの利用動向に関する調査
(株式会社NTTデータ経営研究所:20081216ニュースリリース)
みなさんは、このデータとそこからのコメント(リリースの内容)を読んで、どのような感想をもたれましたか?
「なるほど、高齢者でもコンピュータのリテラシーは高いんだな」でしょうか。
あるいは、「ちょっと、待てよ・・・」でしょうか。
このリリースに対して、『大西宏のマーケティング・エッセンス』さんのblogでは、つぎのような記事をアップされています。
皆さんは、大西さんのblogの内容については、どのように思いましたでしょうか?
私は、基本的に大西さんの指摘は正しい指摘だと思います。
だいぶ前になりますが、このblogでも、近い内容の記事をアップしています(こちら↓)。
さて、ここでしっかりと皆さんに考えていただきたいと思います。
大西さんが指摘されていることは、どういうことなのでしょう?
この指摘を完全に理解できていること、さらに人に説明できることは、リサーチをする人にとっての絶対条件ともいえる内容だと思います。
そもそも論として、
・私たちは、なぜ「リサーチ」をするのか?
・「リサーチ」で得られるデータから、何を得ようとしているのか?
ということから、考える必要があります。
リサーチで得たいデータは、「そのとき調査に回答してくれた人たちの行動や意識、態度」を知るためのものでしょうか?違いますよね?
「そのとき、調査対象“条件”として設定した人たち全体の行動や意識、態度」を知りたいから行っているんですよね?
わかりにくいですかね・・・。
たとえば、「東京都在住の20代未婚男性の自動車免許保有率についての調査をし、300サンプル回収した結果のデータ」があるとします(この際、手法は問いません)。
このとき、私たちが知りたいのは、「東京都在住の20代未婚男性“全体”の自動車免許保有率」であって、「回収した300サンプルでの保有率」を知りたいわけではない、ということです。
(おそらく、免許保有率はオープンデータで調べられますが、その点は置いておいて。。。)
これが、「標本調査」で基本的に押さえておかないといけないポイントです。
いわゆる、「代表性」の問題です。
この点を明確にするために、「サンプリング・フレーム」とか、「標本抽出法」とか、「回収率」などが問題になるのです。(そして、本来は、報告書の調査概要にはこれらをきちんと明記しておく必要があります。)
今回のテーマになっている調査でいうと、下図のような構造が理解できているか、という問題になります。
今回知りたかったのは、上図の薄青で示す「60歳以上のPCユーザー」です。
そして、今回の調査で得られたデータは、上手の濃い青である「60歳以上のPCユーザー、かつ、インターネットユーザー、かつ、インターネットリサーチ登録者」です。
ここで考えないといけないのが、「インターネットリサーチ登録者」の回答が、「60歳以上のPCユーザー」の実態を正しく反映すると考えていいのか?、ということです。
この問に対する答えが、大西さんのblogで丁寧に説明されていた内容になります。
ただ、このようなことを言うと、「ネットリサーチなんて信頼できない」という極論に走る人がいますが、ほんとうにそうでしょうか?
たとえば『60代での日本茶系飲料の飲用状況』を考えてみてください。
「インターネットリサーチ登録者では、日本茶系の飲料を飲む頻度が多い(あるいは少ない)」と考えられる明確な根拠はあるでしょうか?むしろ、「差はほとんどないのでは?」と考える方が妥当でしょう。そうなると、インターネットリサーチの登録者の回答で、60代全体を推定することはそんなに理不尽なことではないということになります。
要は、
「今回の調査対象者が、最終的に知りたい人たち全体を、正しく代表する可能性が高いかどうかを、きちんと考える」
ということが大切だということなのです。
リサーチをするときは、この点をよく考えて設計しないと、偏ったデータの結果で意思決定を行っていたということになりかねません。
今回の内容は、「いまさら」感がある方も少なくないかもしれません。
しかし、現実にこのようなリサーチが多く行われ、さらに、ネット上にあふれているという現実もありますので、あえて、「いまさら」の内容について考えてみました。
(本来は、寺子屋でやらないといけないテーマなんですけど・・・)
(とはいえ・・・
「では、どんな方法でリサーチをすると、代表性の高いデータが得られるんだ」という問は、とても難しい問です。一昔前までは、「きちんとサンプリングを行った訪問調査です」と答えられたのですが、今ではかなり怪しい状況にあると思っています。
調査の基本である「リサーチの目的と明らかにしたい課題を明確に」した上で、どの部分の代表性を、どの程度まで担保したいのか、ということを考えながら設計する必要がある、というのがひとつの回答になるでしょうか。
そして、さらにいうと、今回の議論はネットリサーチのみに限らない、すべての調査手法において考えないといけないテーマだということも、忘れずにおきたいです。
一言で「代表性」といっても、とても難しいテーマなんだということを、マーケティング・リサーチを行うすべての人が認識しなければいけない時代になったということだけは、明らかです。)