月別アーカイブ: 2008年5月

予測市場

「日経サイエンス2008年6月号」に、↓の記事あり。なかなか興味深かったです。

世論調査より当る?大統領選を占う予測市場

タイトルだけみると、大統領選のことだけを書いているように思えますが、「予測市場」について包括的に知ることができる記事です。

その前に、「予測市場」とはなに?、という方へ。
↓が、詳しいのでまずはこちらで。

時代を読む新語辞典「予測市場」(nikkeiBPnet)

そういえば、話題になった梅沢さんの↓の本でも、「第5章 オープンソース現象とマス・コラボレーション」の章で、予測市場について触れていました。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書) ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)
価格:¥ 777(税込)
発売日:2006-02-07

さらに、「予測市場」を知る上で欠かせない一冊が、↓の本。
原題は、『THE WIDSDOM OF CROWDS』。

「みんなの意見」は案外正しい 「みんなの意見」は案外正しい
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発売日:2006-01-31

さて、周辺情報の紹介はこの程度にして。。。
実際に、アメリカ大統領選の数字をみると、世論調査よりも「予測市場」のデータが、より現実に近い結果を出しています。

それは、なぜか?
行動経済学などの理論や、もっとシンプルな「バンドワゴン効果」、さらには世論調査の影響などからの仮説はさまざまにあるようなのですが、すでに実証された手法=世論調査に比べ、なぜ予測市場の結果が優れているのかについての明確な理由は明らかにされていないようなのです。
とくに、統計学者にとって納得いかないのが、予測市場を構成している投機家の属性。とても代表性があるものではなく、

投機家のほとんどは、ブッシュとケリーの対決に関する自らの政治的洞察力を過大評価する傾向のある、高学歴の富裕な白人男性共和党支持者であり、適切に設定されたサンプルの定義にはあてはまらない集団だった。

ということです。

この記事の事例となっている2004年の米大統領選挙についての予測市場についての分析が、↓の駒澤大学山口先生のblogで詳しく解説されていますので、こちらもあわせてご覧ください。(他の記事も、予測市場について参考になるものが多いです。)

米大統領選市場をふりかえる(H-Yamaguchi.net)

この「予測市場」、日本でも静岡大学の先生が前回の参議院選挙で実験を行なってます。

sangi.in

予測市場での結果は、与党=51議席/野党=70議席。
朝日新聞の予想は、与党=48議席/野党=73議席(→こちらを参照ください)。
最終結果は、与党=47議席/野党=74議席。
ということで、今回は新聞の世論調査の方が近い結果になっていますが、予測市場もそんなにかけ離れた数字ではないですね。

次回の衆議院選挙へむけてのサイトも立ち上がっていますので、興味のある方はこちらものぞいてみてください。

Shuugi.in

さらに、すでに事業化している会社もあるようで、↓のサイトが立ち上がっています。
この会社の紹介記事も、一緒に。

総合予測市場サイト Prediction.com
未来予測を売買する「予測市場」 いよいよ日本上陸(ASCII.jp)

また、野村総研でも↓のようなリリースが。

予測市場プラットフォーム「Trueselect」を開発(野村総合研究所)

さて、この「予測市場」。マーケティング・リサーチにも使えるのか?
まず明らかなのは、これから市場に投入しようとしている商品については無理だということですね。上市した後に、競合と比べて売れそうかどうかについては可能かもしれません。(でも、上市した後に、売れないと分かっても・・・)

そこでふと思い出したのが、「デルファイ法」という調査方法。予測市場は、もしかしたらデルファイ法に近いのかも、と思いました(といっても、かなり遠い「近い」ですけど。。。)。ネット調査でデルファイ法に近いことを行なえば、予測市場に近い結果が得られないのかなと、ふと思ったりしました。
(実は、ある調査会社とネット・デルファイ法を研究したこともあるのですが、担当の方が古い考え方をする方で。。。結果も、もうひとつという感じだったので、没になったかな?)

いまのところ、直接マーケティング・リサーチに使えるとも思えないですが、注目すべき手法であると思います。

PS.
野村総研に、↓の記事がありました。
たしかに、社内の叡智を集めて予測するという方法は、ありかもしれませんね。

「群集の叡智」を未来予想に活用する(野村総合研究所)

さらにPS.
書き終わって検索をしてみると、こちら↓のblogが。
予測市場に関して詳しく説明していますので、あわせてご覧いただくといいかもしれません。

今、「予測市場」がおもしろい(Apple’s Eye)

インテージ決算2008.3

インテージの2008年3月期決算が発表されています。

2008年3月期決算および今後の成長戦略(pdf資料)

2008年3月期決算説明会(ストリーミング映像)

平成20年3月期決算短信(pdf資料)

連結決算で見ていくと、売上331億円(対前年+7.5%)、営業利益33億円(+13.1%)と順調な数字を残し、今年(2008年)の1月には東証2部に上場も果たしています。

市場調査・コンサルの部門数字は、218億円で+9.9%の伸び率とこちらも順調のようです。
さらに、カスタムリサーチとパネル調査に分けてみると、以下のような数字になります。

カスタムリサーチ:前期80.0億(+30.2%)→今期88.6億円(+10.7%)
パネル調査:前期118.2億(+3.9%)→今期129.2億円(+9.4%)

カスタムリサーチの伸び率が、前期に比べると鈍化しています。インターネット調査の伸びが思ったほどではなかったようです。たしかに、JMRAのデータ(→こちら)をみても、アドホックリサーチに占めるネット調査の売上構成比の伸びが鈍化していることが見て取れます。
一方で、パネル調査が伸びていますが、これはSRIという小売店パネル調査の寄与です。以前、このブログでも取り上げましたが、競合社であったニールセンが小売店パネル調査から撤退したことにより、約40社のクライアントがインテージへ切り替えたということです。
パネル調査は、クライアントが増えるほど利益率も上がりますので、説明会でも話されているとおり、安定的な経営基盤を確保できたといえそうです。

では、今後の戦略は?

リサーチ、システム、コンサルという3つのビジネス領域を収斂させ、
「工数提供型ビジネスモデル」から「価値提供型ビジネスモデル」へ転換

というのが、基本戦略のようです。正しい方向性だと思います。
「プラットフォーム」という概念を持ち出しているのも、さすがですね。(本来の意味と合っているかどうかは別にして、新しめのビジネス概念を取り入れているところが、「さすが」です。他の調査会社で、このような新しい概念を理解・活用できる会社が、どれくらいあるか・・・。)

今年は、上海に続きタイへも現地法人を設立するようですし、(TNSとgfkが合併すれば)期せずして世界ランキングも10位になりそうですので、日本におけるインテージの地歩は確固たるものになりそうです。

他のリサーチ会社(とくに、日本資本の独立系の調査会社)も、なんらかの手立てをうたないと・・・・・・・・・。

PS.
インテージではないですが、こんな↓リリースもありました。
YVIも着々と商品強化?

ヤフー・バリュー・インサイト、 アイスタイルと業務提携
~国内最大級の化粧品情報専門サイト @cosme会員を対象とした
  マーケティングリサーチサービスを提供開始

『マーケティング・リサーチ業界・新版』

マーケティング・リサーチ業界 新版―その仕事と働く人たち マーケティング・リサーチ業界 新版―その仕事と働く人たち
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2008-04

以前ご紹介した『マーケティング・リサーチ業界』の新版です。

内容をみると大きな変更はないようですが、データが最新のものに差し替えられていることと、インターネットリサーチや業界再編についての記述が現状にあわせて書き換えられています。
また、第3章「現場で働く人たち」の顔ぶれは一新され、ネット調査のマクロミル、外資系のIPSOS日本統計調査の方などがコメントしており、「いま」の業界の流れに沿っています。

前回の記事(こちら)でも書いたのですが、少しきれいにまとめられすぎ&将来の希望を持ちすぎでは?、という感じは否めないですが、リクルート本でもありますので、このあたりは大目に見ていただいて。。。
とはいえ、マーケティング・リサーチ業界、市場調査業界に興味がある人は、リサーチという仕事の雰囲気、リサーチャーに求められていることなどを、この本でしっかりと理解しておいていただきたいものです。

◆マーケティング・リサーチ業界売上ランキング
(最近、業界売上ランキングの検索が多いのですが。。。就職活動の影響?)

旧版と新版で、業界ランキングを比べておきましょう。

まずは、世界ランキング。
(順位は2006年、かっこは2001年順位。社名の*は、日本進出企業)

1位(1位):The Nielsen Company*
2位(2位):IMS Health*
3位(4位):Taylor Nelson Sofres*
4位(3位):The Kantar Group*
5位(6位):Gfk*
6位(8位):Ipsos Group *
7位(-):Synovate*
8位(5位):IRI
9位(10位):Westat
10位(-):Arbitron

このリストで順位を上げている企業は、多くが何らかの形で合併を行なった企業のようです。さらに、萬さんのコメントでは3位:TNSと5位:Gfkに合併の可能性もあるとか。。。
そして、世界上位7社の企業がすでに日本に進出しています。(このリスト外では、12位のJ.D.Power and Associates、13位のHarris Internationalも日本で営業を行なっています。)

では、日本でのマーケティング・リサーチ会社ランキング。
(「宣伝会議」推定、2006年。かっこは2001年順位。)。

1位(2位):インテージ
2位(1位):ビデオリサーチ
3位(3位):電通リサーチ
4位(-) :マクロミル
5位(5位):日経リサーチ
6位(6位):サーベイリサーチセンター
7位(-) :ジャパン・カンター・リサーチ
8位(-) :ヤフーバリューインサイト
9位(7位):日本リサーチセンター
10位(-):TNSインフォプラン

この中で、インテージは世界ランキング11位、ビデオリサーチは16位、電通リサーチ、日経リサーチ、マクロミルもトップ30位圏内にあります。
このリストをご覧頂くと一目瞭然、インターネットリサーチと外資系リサーチの躍進が目に付きます。日本資本&独立系で10位以内に踏ん張っているのは、インテージを別格とすると、SRCとNRCだけ。。。(そういえば、スミスがNTTデータグループの傘下に入っていたんですね、知らなかった。)
ここから、マーケティング・リサーチ業界が変革期(ほぼ終了?)にあることはお判りいただけると思います。