日別アーカイブ: 2007-03-23

『ヒット商品を最初に買う人たち』

ヒット商品を最初に買う人たち ヒット商品を最初に買う人たち
価格:¥ 735(税込)
発売日:2007-03-16

【2007.3.28追記しました】

(またまた本紹介です。寺子屋は4月から再開予定です、すいません<(_ _)>)

前回紹介した『シンプルマーケティング』の著者・森氏の、新書による新刊です。
テーマはイノベータ理論を使っての商品ヒットについての分析、解説です。
今回も、具体的な事例を使ってのわかりやすい内容になっています。

もくじは、以下。

第1章 最初に手を出す人たち
第2章 ヒットを作る「イノベータ」たち
第3章 ヒットの寿命もイノベータ次第
第4章 ヒットを狙う企業の戦略
第5章 ゲームの理論を変える革新的イノベータ

森氏のイノベータ理論は、「イノベータ」「アーリーアダプタ」「フォロワー」の3分類で、日本での分布を、イノベータ=10~12%、アーリーアダプタ=15~35%、フォロワー=60~70%としています。
ロジャースの普及理論をすでにご存知の方からすると、この言葉の使い方は少々混乱するかもしれませんので、その点は注意が必要かもしれません。

1章で「ヘルシア緑茶」「ニンテンドーDS」「iPod」を事例にヒット過程を検証していきます。
2章では、イノベータがどんな人たちかを解説します。
3章では、この3分類を軸とした購入意向を指標としながら商品のプロダクトライフサイクルの見極めを行う方法を解説します。
4章では、ヒットを狙う企業サイドからの方法論として、プロダクトコーン理論とスキミング戦略/ペネトレーション戦略の視点から解説します。
そして5章。おそらくこの本のポイントだと思うのですが、革新的な商品は市場のルールを変える商品だとして、ルールを変える消費者を「革新的イノベータ」と定義します。そして、「伝統的なイノベータ」と「革新的イノベータ」が存在するダブルイノベータ構造が生まれます。詳しくは、本書を読んでいただくとして、リサーチの視点としては、つぎの文章が参考になります。

革新的イノベータは、つまり、いくら「その商品を買っている人」を調べても発見できません。しかし、多くの企業は、自社に関連する商品のユーザーしか調査していません。たとえば、ビール会社なら「ビールを週に1回以上を飲む人200人を対象としたアンケート調査」、ゲーム会社なら「ゲーム機を週3回以上使う人を対象としたアンケート調査」などです。ましてや、「自店に来店する顧客1000人を対象としたアンケート調査」しかしないファミレスもある。これでは、従来のルールに則った常識的な反応しか返ってきません。
この方法はマーケティング的には間違いではありませんが、たとえばiMACのような「パソコンを滅多に使わない人」「今までパソコンを使っていなかった人」の中から革新的イノベータを見つけることはできません。

・ビールを飲まないのはなぜなのか
・ファミレスをかつては利用していたのに、現在滅多に来店しないのはなぜなのか

こういった視点からしか革新的イノベータを見つけることはできないのです。

リサーチの設計、とくに「誰を対象とするのか」は、とても大切です。
このあたりを理解しているか、いないかでリサーチが有用なものになるか、ならないかが大きく異なるでしょう。

マーケティング初級者~中級者にお勧めの本です。
さらに、つぎの2冊もあわせて読むといいと思います。

キャズム キャズム
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2002-01-23

ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2006-05-16

最後に、少々苦言を・・・。
校正が、全般に甘い感じです。ソフトバンクとはいえ出版社なのですから、もう少しきちんと校正を行って欲しいものです。読む時の障害となってしまうこともありますが、119ページにあるようなミスは本書の信頼性を損なってしまいます。(こちらの読み違いかとも思ったのですが、たぶんミスです。ちょっと出版社に確認してみますが。)せっかくの良書なので、このあたりが残念です。

【2007.3.28追記】
上記の「119ページにあるようなミス」の件、出版社より返信をいただきました。
該当部分を、以下に紹介します。

この部分では、『ポカリスエット』や『オロナミンC』は他社製品で同等の広告費を掛けている例であり、これは、ケンタッキー・フライドチキンやカルピス食品工業1社分の年間広告費にあたります…という点を述べたかったとのことでございました。
増刷の段階で、このあたりは修正させていただきたいと考えております。

「コカ・コーラ」のように30億規模の広告費を使っているブランドの例として、他にも「ポカリスエット」「オロナミンC」があるということのようです。だとしたら、納得ですね。