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ここ1年(≒2011年)のお勧め本~その2:応用編

ここ1年のお勧め本、前回の基本編につづいて応用編です。

 

『ショッパーマーケティング』
前回の基本編で取り上げようかと思ったのですが、専門性が高いのでこちらに。

ショッパー・マーケティング ショッパー・マーケティング
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2011-10-04

近年、広告代理店でも「買場」を研究する専門部隊がつくられ、いくつかの本も出版されています。消費者(コンシューマー)を、使用者(ユーザー)としてだけ理解していては不十分で、買物をする人(ショッパー)としても理解しないといけないという流れです。
本書は、日本でのISM(インストア・マーチャンダイジング)や購買者研究の総本山ともいえる流通経済研究所編集とあって、これまでの研究成果が体系的に、かつ具体的にまとめられているといえます。もくじをみると、本書の内容が理解できると思うので紹介しておきます。

第1章 ショッパーマーケティングとは何か
第2章 欧米で注目が高まった背景
第3章 なぜショッパーを捉える必要があるのか
第4章 買物中の意識と店内購買行動の活用法
第5章 ショッパーインサイトを捉えるための技法
第6章 コンシューマーインサイトとショッパーインサイトを統合する店頭マーケティング
第7章 ショッパー行動観察からの売場づくり
第8章 ショッパーの購買行動に基づく店頭コミュニケーション
第9章 FSPデータの活用法
第10章 ショッパーマーケティングにどう取り組むか
第11章 日本コカコーラのショッパーマーケティングへの取り組み
第12章 ロッテのショッパーマーケティングへの取り組み

ショッパーマーケティングの背景や意義の理解(1~4章)、ショッパーの行動や心理を把握する調査手法(5~9章)、そして企業による事例(10~12章)と、ショッパーマーケティングを総合的に理解ができる構成になっています。
最終の価値伝達の場としての買場は一層重要になっていますし、とくに消費財のマーケティングには欠かせない考え方だと思います。(そして、リアルでも、ネット上でも、応用可能だとも思います)

『次世代コミュニケーションプランニング』
つぎに、以下で紹介する本を理解するベースとして読んで欲しい本。

次世代コミュニケーションプランニング 次世代コミュニケーションプランニング
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2012-03-30

基本的には「広告・PR人のための新しいプランニング思考法」(帯より)の本です。
しかし、よくあるハウツーものでも、「~すべき」や「~力」といった類の本でもありません。著者がはじめにで書いているように、「本物の変化を把握するための基礎力をつけるための本」であり、「考える癖を読者のみなさんに提供したい」というスタンスの本なので、マーケティングリサーチにも十分に応用が効きます。それに、同書のシリーズである『次世代マーケティングリサーチ』でも触れられていたように、広告とマーケティングリサーチは表裏一体の関係にあるので、マーケティングリサーチを理解しようとするならば、当然、広告・コミュニケーションの理解は欠かせません。
この本をリサーチという視点から読み解くことで、著者のいう「!」や「?」を感じることができるのではないでしょうか。たとえば、P24後段の文章などは「コミュニケーションプランニング」を「リサーチプランニング」に置き換え、他の言葉も少しだけ置き換えれば、ほとんど意味が通じますし、いまのリサーチが置かれている状況が示されているともいえます。他にも、「オーダー」と「オファー」(p18)、「マスからトライブへ」(p97)などの論点は、マーケティングリサーチを考える上でも重要なポイントですし、リサーチそのものについての言及もあります(p46やp57)。
そして、この本のキー概念でもある「コンテクスト」。私がリサーチとの関わりで理解しようとした言葉でもあるのですが、3年くらい前までは耳にすることの少ない言葉でした。ところが今は、これからのマーケティングを考える上では欠かせない言葉になっていると思います。
そして、以降で紹介する本を理解するためにも、この「コンテクスト」という言葉の理解は欠かせません。

『リッスン・ファースト』
関連して、帯に「ソーシャルリスニングの教科書」と書かれている、こちらの本。

リッスン・ファースト! ソーシャルリスニングの教科書 リッスン・ファースト! ソーシャルリスニングの教科書
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2012-04-13

まさに教科書。
ソーシャルリスニングを、マーケティングの過程の中でどのように活用するかが事例を交えながら整理されています。既刊のソーシャル系の本は、どちらかというと考え方~時代的背景や、なぜリスニングか、いくつかの典型的な事例など~を示した本がメインでしたが、本書は実務に繋がる視点でソーシャルリスニングを体系的に整理しています。
扱っている領域は経営やマーケティング全般で、消費者理解、商品開発、コミュニケーション、ブランディング、カスタマーリレーション、予測といったテーマが、事例を交えながら紹介されています(ただし、事例は当然日本のものではないので理解が難しいものもありますが)。また、この分野に関わる日本の識者のコラムや対談を挟み込んでいるので、日本の状況を踏まえた視点も補えるのも、本書の特徴でしょう。
これまでのソーシャルメディア系の本では実務に活かせないなと思っていた方に、お勧めの本だと思います。
(個人的には、個別の方法論や事例よりも、Part4の「リスニングの新境地」がおもしろかったのですが、これは関心領域の違いなので・・・)

『異文化適応のマーケティング』
つづいて、グローバルマーケの本のように見えて、実は異文化論という視点が参考になる、こちらの本。

異文化適応のマーケティング 異文化適応のマーケティング
価格:¥ 4,620(税込)
発売日:2011-06

本書、帯には「国際マーケティングの本格テキスト」とあり、一見するとグローバルマーケティングの本のように見えますが、原題は、“Marketing Across Cultures”。どこにも global とか  management 、economics などの単語は入っていません。
監訳者の小川先生(法政大学大学院)が指摘するように、「社会心理学と消費文化論をベースに、国際マーケティングの分野に新しい視点を提供している(p.609)」点がおもしろい本です。さらに著者は欧州系の方なのですが、そのため米国流のマネジリアルなマーケティングとは趣を異にする視点が見られるのも特徴的ですし、おもしろい点です。
もくじを見ると、消費者行動、消費のグローバル化、市場調査、製品政策、価格、販促、コミュニケーションが扱われ、まさにグローバルマーケティングを文化の視点から考えるための教科書になります。とくに6章の「異文化での市場調査」は、“等価性”という視点から国際的な市場調査の課題を指摘しているので、これからグローバルリサーチに携わらなければならない方は、この章を読むだけでも参考になるでしょう。
しかし、ここで本書を紹介したい理由は別にあります。それは、『次世代コミュニケーションプランニング』でも言及されていた「トライブ」との関わりです。トライブとは「部族」のことなのですが、ハイコンテクストと言われる日本でも人々の均質性は弱まり、さまざまな興味や関心のもとにトライブ(部族)を形成しているのではないかと考えています。そうなると、これはまさに「異文化」を理解するためのリサーチ、マーケティングと同じ考え方をとらなくてはいけなくなります。エスノグラフィという手法が注目されているのも象徴的です。このような視点に立つときに、本書の意義は、ぐっと大きくなってきます。
とくに前半の1章から6章まで(構成は、文化というプロセス/文化のダイナミクス1:時間と空間/文化のダイナミクス2:相互作用、考え方、および行動/異文化間の消費行動/ローカルな消費者と消費のグローバル化/異文化での市場調査、となっています)は、このような視点で読むと参考になることが少なくないでしょう。
グローバルマーケティングに関わる人はもちろんですが、その他の方にも参考になる本だと思います。
(ただし、600ページにも及ぶ本ですし、お値段もそれなりので、ぜひ購入をとまでは言えません・・・)

『マーケティング・コンセプトを問いなおす』
マーケティングについて、もう一度考えてみたい人へ、おすすめの本がこちら。

マーケティング・コンセプトを問い直す --状況の思考による顧客志向 マーケティング・コンセプトを問い直す –状況の思考による顧客志向
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2012-05-01

著者の栗木先生(神戸大学大学院)は石井淳蔵先生門下、なので石井先生のマーケティング論に興味を持っている方には、お勧めしたい本です。
現代のマーケティングコンセプトでもある「顧客志向」ですが、この単純明快な命題、真理がありながら、なぜいまだにマーケティングを学ぶ必要があるのか?、これが思考の原点になっています。結論を急ぐなら、それは現実が「状況」に根ざしたものだから、となります。「状況に根ざしつつ、状況を乗り越えることを導く(p.ⅵ)」ということが求められているのです。(そして、この状況についての考え方は、リサーチ不要論を安直に唱える人にも理解しておいてほしい視点です。最後に少し触れます)
このようなことを論理的に展開していくのですが、論文がベースとなっているので決して読みやすくありません。しかし、コトラーに代表されるマネジリアルなマーケティングに限界を感じている方には、発想の広がりを得るヒントになる本だと思います。
また、本書にはリサーチに関連した章が2つあります。
ひとつは6章の「デザインの罠」。リサーチでの属性評価(味は、パッケージは、値段は・・・と個別に重視度をとるような調査)の罠について言及しています。これは、リサーチのベテランだとすでに気づいている課題だと思いますが、最近のリサーチ不要論には、この罠の未理解もあるようにも思います。
そして7章、「マーケティングリサーチの罠」。論理実証主義、批判的合理主義、社会構築主義という3つのリサーチの基本的な方法論を検討しつつ、マーケティングリサーチについて考察しています(正直、難しいです)。

マーケティング・リサーチは、未来を予測する万能のツールではない。この限界を忘れて、普遍法則が成り立つことを前提とした思考や実践にのめり込んだときに、マーケティング・リサーチは企業の経営者やマーケティング担当者をマイオピアに導く。このような罠に陥らないためにも、マーケティング・リサーチには、規則や秩序の局所性の反省、すなわちマイオピアを乗り越えるという、もう1つの役割があることを忘れてはならない。(pp.165-166)

そして、

マーケティング・リサーチには、マイオピアを解くこと、そして状況の構成を解くことの2つの役割がある。(p.227)

としています。個人的には、かなり共感できる結論です。この結論に至る過程を理解したい方、本書をどうぞ。

(参考:
栗木先生の、このマーケティング・リサーチ論についての発表が、(2012年)6月2日(土)に関西学院大学で開催される日本消費者行動研究学会(JACS)のカンファレンスであるようです。詳細は、下記のページで確認してください。

http://www.jacs.gr.jp/conference/44.html )

 

また本書に興味のある方は、関連して石井先生のこちら ↓ の本もどうぞ。
栗木先生の本に増して難解ですが。。。

マーケティング思考の可能性 マーケティング思考の可能性
価格:¥ 3,570(税込)
発売日:2012-01-27

こちらの本を適切に紹介するのは難しいので、石井先生がインタビューを受けている、こちらのHPを参考にしてください。。。

異様なところに「触角」を伸ばせ(第1回)
著者インタビュー(前篇) プロフェッショナルの知性を刺激する1冊『マーケティング思考の可能性』石井淳蔵(流通科学大学学長)著
(PRESIDENT Online スペシャル:2012/5/10)

『価値共創時代のブランド戦略』
最後は、ブランド戦略の本です。

価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦 価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2011-04

こちらも、アーカーによるマネジリアルなブランド論の次、といった感じの本でしょうか。
本書の目的について序章では、「本書は、こうした価値共創の問題をも視野に入れつつ、価値と関係性という2つのキーワードを基軸に、近年に展開された新たなブランド論の内容を、ケースも交えつつできるかぎり体系的に解説していくことにしたい(p.12)」としています。
アーカーやケラーをはじめとした、これまでのブランド論をきっちりとおさえながらも、「価値」と「関係性」といった21世紀の議論をふまえつつ整理しています。
ブランドに関する理論を、いまの視点も踏まえながら理解したいという方に、おすすめですし、ブランド論にこだわらなくても、価値共創とか関係性ということを理解したい方にも、参考になる本だと思います。
(ただし、こちらも論文集なので、読みやすくはありません。。。)

 

以上、ここ1年くらいの本で応用編といえるものを紹介してきました。
ここまで読んでいただければわかると思うのですが、問題意識としてあるのは、世の中に絶対的なものはなく、相対的な状況の中で位置づけられるという考え方です。おそらく、「解釈主義」といわれる考え方に近いと思います。
リサーチの古典的な考え方だと、普遍的な解(たとえば、事実とか、ニーズとか)が存在し、それを明らかにしていくのがリサーチというような捉えられ方をしていたと思います。しかし、今回紹介した本を読むと、リサーチも絶対的な解の存在を前提にして「正しい答え」を求めるような考え方からは脱却しなければならないと思えます。すべてのリサーチの結果は状況に依存しているのだし、リサーチで得られるのはある特定の状況の元での事実でしかないということです。このあたりについては、また機会を改めて整理していきたいと思います。
いずれにせよ、これまでのマーケティング論の主流であった、西洋的な要素還元主義、絶対主義、理論を前提にした考え方に疑問を感じたり、そこまででなくても何かが違う感じがする、何かヒントはないだろうか、と考えている方には、今回ご紹介したような本を読んでみると、頭を揺さぶられる感覚を得ることができると思います。

(ただし、だからといって、このような相対主義的な考え方をベースに実務を実践するのは難しく、これらの本を読んですぐに実務に役立った、ということもないと思いますので、その点は前提としておいていただければ。そしておそらく、いまだに解釈主義はどちらかというと異端だと思いますし)

ここ1年(≒2011年)のお勧め本~その1:基本編

ゴールデンウイークを利用して、積読になっていた本を少し整理しました。
この1年くらい、こちらのblogで本の紹介をしていなかったので、これを機に、主だったものを紹介しておこうと思います。あまり経験がなく、これから勉強していこうという方向けの基本編と、専門書を中心に少し変化球ぎみの応用編の2回にわけて、紹介します。
(出版されてから時間が経っている本が多いので、すでに購入された方もいるかと思いますが、その点はご容赦を・・・)

今回は基本編です。ただし、「自分はベテラン」と思っている人にも参考になると思います。

 

◆ものの見方、考え方についての本

昨年は、ものの見方や考え方、科学的リテラシーとは何か、あるいは統計・確率に関する本が多く出版された印象があります。おそらく、原発事故に伴って溢れ出た様々な情報やデータに多くの人が振り回された状況があったからだと思います(実際、これらの本の内容も、原発に関連した情報を検証するという内容のものも少なくありませんでした)。
日々の暮らしの中で接する情報をどのように読むのかということは、ふだんの生活を行う上でも重要ですが、これらの本が提示している内容は、とくにリサーチャーにとっては重要なベースとなるものです。

『自分のアタマで考えよう』

自分のアタマで考えよう 自分のアタマで考えよう
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2011-10-28

著者のちきりんさんのblog(→ こちら )は、その視点がユニークで、硬直したアタマではなかなか見ることのできない世の中の側面を提示してくれる、おすすめのblogです。各エントリーが平均4万人に読まれ、月間100万~150万のページビューを集めるということからも、そのおもしろさは推して知るべし、でしょう。
そして、このblogの発想の元となっているのが、この本で提示されている思考の方法論。
「はじめに」で、“この本が、「考えるって、つまりなんだよ?」と思われている方、「なにをどう考えればいいのか、誰か教えてくれよ!」と感じていらっしゃる方のお役に立つ”ことを目的として本書を書かれたとあります。
大枠は「もくじ」を見るとわかるので、紹介しておきます。

序:「知っている」と「考える」はまったく別モノ
1:最初に考えるべき「決めるプロセス」
2:「なぜ?」「だからなんなの?」と問うこと
3:あらゆる可能性を検討しよう
4:縦と横に比べてみよう
5:判断基準はシンプルが一番
6:レベルを揃えて考えよう
7:情報ではなく「フィルター」が大事
8:データはトコトン追い詰めよう
9:グラフの使い方が「思考の生産性」を左右する
終:知識は「思考の棚」に整理しよう

Amazon評では辛口の評も少なくありません。フレーム思考にすぎない、厳密性に欠ける、偏ったものの見方、一般的すぎるなどなど。しかし、ここに書かれていることは分析の基本的な思考法として知っておくべき内容だと思いますので、読んでおいて損はないと思います。とくに、まだまだ分析がよくわからないという方のベーシック本として、お勧めしておきます。

 

『「科学的思考」のレッスン』
さらに、アカデミックに振って「科学的思考」を学ぶための本が、こちら。

「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス (NHK出版新書) 「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス (NHK出版新書)
価格:¥ 903(税込)
発売日:2011-11-08

“アカデミックに振って”と書いたので敬遠したくなる人もいるかと思いますが、リサーチを仕事とする人にとって、この「科学的思考」を学ぶことは不可欠です。
こちらも「もくじ」を見ると、求められていることの大枠がわかると思いますので、紹介しておきます(ただし、2部構成の前半だけ紹介します。後半は、まさに原発問題を題材とした科学リテラシーについての内容ですので、読まなくてもいいかなと・・・)。

第1章 「理論」と「事実」はどう違うの?
第2章 「より良い仮説/理論」って何だろう?
第3章 「説明する」ってどういうこと?
第4章 理論や仮説はどのようにして立てられるの?
どのようにして確かめられるの?
第5章 仮説を検証するためには、どういう実験・観察をしたらいいの?
第6章 なぜ実験はコントロールされていなければいけないの?

まさにリサーチの根本に関わる問題。
このあたりの概念や方法論が理解できているかどうかで、リサーチャーとしての質は問われるのではと思っています(定量調査に限らず、です。はやりのデータサイエンティストさんも同じ)。
リサーチにかかわる人には、必読本だと思います。

◆リサーチの本

リサーチに関する本、しかも基本的な本もいくつか出版されています。

『アンケート調査入門』
まずは、マーケティングリサーチやマーケティングサイエンスについての著書を多く書かれている朝野先生編著による本。

アンケート調査入門 アンケート調査入門
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2011-10-08

本書の特徴は、著者が事業会社でのリサーチ担当者だということ。内容も著者の皆さんの経験をベースに書かれているので実務的で、トラブルシューティングなどの工夫もあるなど、タイトル通り入門書としても読める内容だと思います(この部分の構成は、リサーチプロセスと実行管理/アンケート票の作成/テキストデータからの情報抽出/データの集計と統計解析/統計モデル/情報発信、となっています)。
ただ、この本で読んで欲しいのは、実は1章~3章です。ここは、リサーチの入門者には少し難しいかもしれません。一方でリサーチのベテランにとっては、これまでの考え方を揺さぶられる内容になっていると思います。古典的な統計調査の考え方に安住することの危険性を示してくれます。しかし、「いまのリサーチ」を捉えるには、理解しておくべき内容でしょう。ここに記されている背景や考え方を理解しているかどうかで、リサーチへ取り組む際の“深み”に違いが出てくるのではないかと思います。
(そういう意味では、第1章~3章と4章以降のレベル感や内容に、ギャップがあるとも言えるのですが…)

 

『インタビューのプロが教える、「ホンネ」を語らせる技術』
こちらは、インタビューのノウハウについての入門書です。

インタビューのプロが教える「ホンネ」を語らせる技術 インタビューのプロが教える「ホンネ」を語らせる技術
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2012-02-08

著者は、定性リサーチ会社(アクセス・ジェーピー)の代表。この会社での若手社員の教育向けに書き溜めた原稿をベースに書かれている、と紹介されています。
インタビューのための準備や仕込み、さまざまな投影法の紹介、インタビュー現場でのノウハウなどについて書かれています。掛け値なしの入門書、これからインタビュー調査をやらなければならない人、やってみたい人にとっては、よい参考書になると思います。

 

『図解 マーケティングリサーチの進め方がわかる本』
こちらは、10年前に出版された『図解でわかるマーケティングリサーチ(2001)』の改定版です。
基本的な構成や内容については大きな変更はありませんが、グループインタビューとインターネットリサーチについて加筆がなされています。
副題に「企画設計から、調査票の作成・実査、集計、分析、報告書作成まで」とあるように、マーケティングリサーチの全体像とポイントを理解したい人の入門書として、お勧めです。

図解 マーケティングリサーチの進め方がわかる本 図解 マーケティングリサーチの進め方がわかる本
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2012-01-26

 

『オンライン・ソーシャルメディア・リサーチ・ハンドブック』
いまは、ソーシャルメディア・リサーチについても理解しておかないといけない時代でしょう。
そういう意味で本書は、オンラインリサーチやソーシャルメディアリサーチの基本を理解するためのベースとなる本だと思います。
構成は、オンライン定量調査/オンライン定性調査/ソーシャルメディア/特定分野の調査/マーケティングリサーチの最新動向とあるように、まさに網羅的(そのため、分厚く、お値段もそれなりにするのが、ちょっと。。。)
この分野を専門とする方には、基本を学ぶ、事典的に調べるための本として必携だと思います。

オンライン・ソーシャルメディア・リサーチ・ハンドブック―リサーチャーのためのツールとその技法 オンライン・ソーシャルメディア・リサーチ・ハンドブック―リサーチャーのためのツールとその技法
価格:¥ 6,300(税込)
発売日:2011-10-20

 

『1からの商品企画』
リサーチとタイトルにはないですが、リサーチを学ぶにはよい一冊です。

1からの商品企画 1からの商品企画
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2012-02

この本、商品企画を学ぶための本です。ただ、本来の商品企画・開発は、結構泥臭いものだし、この本のようにリニアに進むものでもないと思いますが、「1からの」とあるように入門書ですので、その点は留意を。実務的かというと、否、でしょう。
商品企画の入門書を、なぜリサーチ本として紹介するのかというと、この本で商品企画の過程でリサーチがどのように組み込まれるかがわかるからです。とくに、リサーチ会社に所属するリサーチャーは、商品企画・開発の全過程に関与することはできないので、企画プロセスとリサーチの関わりを理解するには、ちょうど良い一冊でしょう。さらに、最近注目されるようになったリサーチ手法も取り入れているので、手法の基礎的な理解~どんなときに使うのか、どのように進めるのか~に役立つと思うからです。
もくじを見ると、この意図が少し理解いただけるかもしれないので、簡単に紹介。

第1部:探索的調査
商品企画プロセス/インタビュー法/観察法/リード・ユーザー法
第2部:コンセプトデザイン
アイデア創出/コンセプト開発/プロトタイピング
第3部:検証的調査
市場規模の確認/競合・技術の確認/顧客ニーズの確認
第4部:企画書作成
販促提案/価格提案/チャネル提案/企画書作成/プレゼンテーション

最近、アップルやマクドナルドの事例から、商品企画にリサーチは役立たないということが喧伝されていますが、リサーチを矮小化して理解した、かなり単純化した議論だと思っています。本書で、リサーチの多様性と商品企画との関わりを学び、その上で判断しても遅くはないでしょう。

◆消費者行動論の本
リサーチャーの必須科目となる消費者行動論の本が、ここ1ヶ月くらいの間に立て続けに出版された(される)ようなので、一応紹介しておこうと。(いずれも未読です)
リサーチ本もそうなのですが、20世紀にまとめられた消費者行動論の本だけでは追いつかなくなった、ここ10年くらいの研究蓄積が整理されたということなのでしょう。
構成を見るかぎり、いずれも教科書的で網羅的な内容になっているようです。
(内容については、ご自身で確認してください)

 

最初は、消費者心理学の定番本として評価の高かった『消費者理解のための心理学(1997)』の改定版です。基本的な部分はそのままにおさえつつ、情報環境の変化によってもたらされた領域について、最新研究を取り入れながら改定をしたということです。
出版社紹介は、“モノやサービスを消費するとき、人は何に刺激を受け、どのように行動し、何を感じるのか。消費者行動を心理学から読み解く方法を、より現代社会に即して解説した改訂版。”

新・消費者理解のための心理学 新・消費者理解のための心理学
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:2012-04

 

つぎに、早稲田の守口剛先生・竹村和久先生編著による著書。
出版社紹介は、“近年大きな発展を遂げている行動経済学、神経科学・脳科学ほか、社会学、文化人類学等の最新の研究成果を取り入れ、より学際的な研究の活発化が見られる消費者行動研究。伝統的な心理学的アプローチを基本に据え、消費者行動の基礎的な理論から先端的な研究動向までを解説、消費者行動研究の面白さが伝わってくる好著。”

消費者行動論―購買心理からニューロマーケティングまで 消費者行動論―購買心理からニューロマーケティングまで
価格:¥ 2,415(税込)
発売日:2012-04-16

 

続いて、基本書として優れた本が多い有斐閣アルマから。学習院の青木幸弘先生、法政の新倉貴士先生他による著書。
出版社紹介は、“消費者情報処理の理論を軸に,様々な段階の消費者選択に焦点を当てながら多様な消費者の行動を整理し,理解するための基本理論を易しく解説。消費者行動分析をマーケティング戦略,ブランド戦略につなげるための枠組みも提示する待望のスタンダード。”

消費者行動論–マーケティングとブランド構築への応用 (有斐閣アルマ)
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2012-05-12

 

そして、明治大学の井上崇通先生による著書。
出版社紹介は、“「マーケティングと消費者行動」「消費者行動のモデル化」「消費者心理」「社会のなかの消費者」の4部構成。消費者行動論の体系的な標準テキストを目指した著者渾身の書き下ろし。”

消費者行動論 消費者行動論
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2012-04

以上が、基本書として紹介したい本です。
消費者行動論のところでも書いたように、専門書については、ここ10年くらいに起きた環境変化に即して、改定された内容の本が少なくないことに気づきます。
最初に、入門者向けの基本的な本と書きましたが、そういう意味では20世紀に基本的な知識を習得したベテランほど、これらの本で新たな理論を理解しなければいけないのかもしれません。すべてのリサーチャーに、読んでおいてほしい本といえそうです。

 

 

『次世代マーケティングリサーチ』

次世代マーケティングリサーチ 次世代マーケティングリサーチ
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2011-03-03

前回、予告編で紹介していた萩原さんの単著、発売されました。

Amazonランキングでは今日(3/4)現在、「マーケティング・セールス(一般)」で2位、「経営学・キャリア・MBA」で17位のポジション。また、大きな書店では平積みされてる様子が報告されていますし(私は池袋リブロで確認)、売れ行き好調のようです。
しかし、「マーケティングリサーチ」とタイトルにある本がこんなに話題になるとは・・・(もちろん、萩原さんの力でもあり、ソーシャルメディアやネットワークテクノロジーについて言及しているからだと思いますが)
twitter でもありましたが、こうなると確かに、クライアントから「読みました?」と言われる、言われずとも読んだことを前提に話をされる可能性も大ですね。

 

そして、売れているとか、そういうことに関わらず、マーケティングリサーチやマーケティングに携わる方は、いま、読んでおくべき本だと思います。

著者は「はじめに」で、「この本で紹介する手法の多くは、今のところ辺境に位置しています」としています。たしかに、いまだにマーケティングリサーチの多くはアンケートであり、インタビューです。しかし、つぎのメッセージについて、考えてみないといけないと思います。

ただ本当に大切なのは、ソーシャルメディアの普及とネットワークテクノロジーの進歩によって、生活者・消費者の行動そのものが変化していることであり、それによって企業が直面する新しい課題に対応していくことです。
マーケティングリサーチは伝統芸能のようなところがあり、基本的な哲学や必要なスキルは変わらないものと思われていました。しかし、現代のあらゆるビジネスは、知識、技術、ノウハウが次々に上書きされる宿命にあります。経験を活かしながらも、新しい時代に求められることを常に学び、イノベーションを共有していくことが求められます。
(「はじめに」p.3)

このような思いで書かれている本書の詳細な目次については、著者自身がFacebookにて紹介していますので、そちらを参照してください。

次世代マーケティングリサーチ:目次 (Facebookページ)

 

ここでは、章扉の紹介文を引用します。

Introduction 消費者が変わればリサーチも変わる
マーケティングリサーチとは何か。
今なぜ「次世代」について語らなければならないのか?
マーケティングリサーチをめぐる論点を整理する

Chapter1 なぜ新しい消費者理解の技術が必要なのか
戦争から恋愛へ。
消費者の心の中のシェアを争うとはどういうことなのか。
従来の調査ではつかめない、新しいデータ利用の発想を学ぶ。

Chapter2 パートナーとしての消費者
消費者はリサーチの「回答者」か、それとも「参加者」か。
消費者の中に飛び込み、消費者と会話するためのさまざまなノウハウを知る。

Chapter3 消費者の言葉に耳をすます
「消費者の声を聞くこと」は「市場調査」にとってどんなメリットがあるのか。
検索やクチコミ、そしてTwitterを使った「傾聴」の方法を考える

Chapter4 新しいデバイスとテクノロジーの活用
日々進化するテクノロジーがリサーチを変える。
センサリング技術や映像技術がもたらすインテリジェンスとはどのような
ものか。最先端の事例を探る。

Chapter5 マーケティングリサーチの伝統と革新
マーケティングリサーチのビジネスモデルが転換期を迎えつつあるい今、
伝統的手法と新しい手法をどう使い分けるべきか。
次世代のリサーチャーへの提言。

イントロダクションで論点整理をし、Chapter1でリサーチに求められる新たなスタンスが整理されています。Chapter2~Chapter4では、次世代マーケティングリサーチの様々な事例を紹介し、Chapter5でマーケティングリサーチへの提言がまとめられている、という構成です。

とくにリサーチャーの方には、イントロダクションとChapter1は、ぜひ読んでもらいたいです。
いま、マーケティングリサーチの周辺で何が起こっているのか、環境がどのように変化しているのか、その変化の中でリサーチャー(やマーケター)は、どのような発想やスタンスが求められているのか、が明確に整理されています。
日々の業務に追われていると、自分たちを取巻く環境の変化をなかなか感じることができないかもしれません。あるいは、まさに「辺境」の変化と感じてしまうかもしれません。
しかし、変化を自分事と感じたときは、往々にして「時、既に遅し」ということが少なくないものです。いまから、しっかりと認識をすることが大切だと思います。

いつもは、ここで本書の内容を少し紹介するのですが、とめどなく引用することになりそうなので、今回は止めておきます。
それだけ、私の感じていることが、本書には反映されているということでもあるのですが。

 

さて・・・
本書を読むと、「では、既存の調査会社(とくに伝統的といわれる調査会社)はどうすればいいのか?」ということを考えさせられます。

だが、本書でとりあげてきた次世代型のリサーチは、伝統的な調査会社ではなく、ネット企業や他業種で生まれてくるものがほとんである。マーケティングリサーチ業界が数十年続けてきたルールや習慣にこだわればこだわるほど、他業種が提供するマーケティングインテリジェンスに顧客が流れ、ビジネス機会が縮小する懸念があるのは事実だ。(「Chapter5」p.183)

という状況なので。
方法は、いくつかあると思います。

    1. 所詮これらは辺境なんだから、と何もしない。
      (わりと多いんですよね、これ・・・)

 

    1. 自前で、新たなシステムやサービスを構築する。
      (業界上位にある数社でないと、資金的に難しいかも・・・)

 

  1. すでにあるシステムを借りて、サービスを提供する。
    (ネット調査のシステムやパネルを持っていない調査会社が、ネットリサーチ会社に外注するのと同じ形ですね・・・)

たとえば、ネットリサーチがシェアを増すときに、既存のリサーチ会社が対応した方法は、主にこれらの3つだったように思います。

しかし、これから求められるのは、第4の道であるような気がします。
それは、「さまざまな会社が提供するリサーチサービスの特徴をしっかりと理解し、クライアントの求める課題にあわせて、適切なサービスを選ぶ、あるいは組み合わせて提案できる」ことではないかと思っています。言い換えれば、「リサーチのデザイン」となるでしょうか。
もちろん、手法の提案ばかりではなく、課題解決にむけて一緒に考えることが必要であることは、言うまでもありません。

以上から誤解される方もいるかもしれません。「新たな手法にばかり目を向ければいいのか」、「伝統的な手法は役に立たないのか」と。
もちろん、いまも多くのシェアを占めている伝統的な手法が(すぐに)無くなることはないでしょう。この点は、本書でも主張されていることです。
ただし、著者がいうように「リノベーション」は必要だと思います。

ですから、次世代の手法と伝統的な手法を、どのように活用すると、クライアントのニーズに応えることができるのか、ということを考える必要がある、それが求められているのではないかと思うのです。

 

思えば、”マーケティング”リサーチといいながら、調査会社自身はマーケティングができていたのでしょうか。
『欲しいのは”穴”であって、”ドリル”ではない』に沿って考えると、これまでツールとしての「サーベイ手法」の精度にこだわるばかりで(もちろん、これも大切なことです)、真にクライアントが求めていることを基点に、リサーチを考えてきただろうか、という思いがあります。
これまでは、「リサーチ業界」というコップの中で競争をしていればよかったかもしれませんが、本書で示されているように、これからはコップの外も見すえた競争もしないといけないでしょう。

そしてリサーチ会社だけでなく、個人としてのリサーチャーは、どこへ向かうべきか。
このことについても、もちろん考える必要がありそうです。
(少し、リサーチ会社に偏った内容になったかもしれませんね。しかし、事業会社に属されているリサーチャーも、「リサーチのデザイン」という視点は一緒だと思います)

本書は、とても良いヒントを与えてくれると思います。

(そういえば、本書Appendix でこのblogを紹介いただきました。ありがとうございます>萩原さん)

『次世代マーケティングリサーチ』(予告編)

次世代マーケティングリサーチ 次世代マーケティングリサーチ
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2011-03-03

個人的には、やっと年が明けた感覚。
おとなりの国では、いまが春節なのでちょうどいいのかもしれませんが。。。

さて、今回紹介する本、実はまだ発売されていません(予定では2/23発売)。
ただ、Amazonではエントリーされていますので、紹介してしまおうと。

この本の著者は萩原雅之さん。
リサーチ業界では、著名人です。
記事執筆も多数ですし、SurveyMLの主宰者として、さらにTwitter でも @SurveyML として、さまざまな問題提起をされていますし、有益な情報を発信してくれています。

そして、本書のタイトルは『次世代マーケティングリサーチ』。
昨年(2010年)7月に、JMRX(旧ツイッチャーの会)のセミナーで講演していただいたタイトルそのもの。このときの内容に沿ったものになっているのではないかと想像します。
だとすると、リサーチャーにとっては必読本になるのでは?!(という期待も込めて)
このときにも、ご本人に「この内容で、出版されないのですか?」とコメントしたのですが、まさかほんとに出版されるとは。うれしいかぎりです。

JMRX当日のセミナーの内容については、こちら ↓ を参照ください。

萩原さん、ツイッチャーの会で、次世代マーケティングリサーチについて語る!
(みんなのMR.COM:2010/7/20)

Amazonで紹介されている本書の内容は、つぎのように。

ビジネスに生きる本当の消費者データ”Ask”から”Listen”へ。
海外で注目される新技法は日本でも普及するのか。
ソーシャルメディア時代におけるマーケティングリサーチの伝統と革新を知る貴重な一冊。
ソーシャルメディアの発達で、消費者の声を探る手法が大きく変わりつつある。
質問紙やインタビューに依存した従来型の手法では消費者の心の声(インサイト)を十分に反映できない。
コミュニティの中に入り、データを観察し、企業活動に生かしていくために今何ができるのか。
マーケティングリサーチの最新手法を紹介しつつデジタル時代の新たなデータ活用法を説く。

まだ目次も掲載されていないですし、フライング気味のエントリーですが、興味を持った方は予約をどうぞ。
もちろん、発売後に紹介したいと思いますので、その後でもかまいませんが。

【追記:2011/2/25】
発売予定日が、3/3に延期されました。
また、著者である萩原さんによる本書のFacebookページが作成されています。
詳細もくじもありますので、こちらもぜひ参照ください。

http://www.facebook.com/NextMR

『課題解決!マーケティング・リサーチ入門』

課題解決! マーケティング・リサーチ入門 課題解決! マーケティング・リサーチ入門
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2010-08-06

マーケティングリサーチ本の新刊です。
中央大学大学院の田中洋先生が編著、リサーチナレッジ研究会という実務家による研究会が著者となっています。

このリサーチ本、これまでの一般的なリサーチ本とは趣を異にしています。

これまでのリサーチ本は、どちらかというと「リサーチをどのように行なうのか(HOW)」に焦点をあてた本が多かったと思います。サンプリングとか、調査票の作り方とか、集計の仕方とか、統計とか・・・。
しかしこの本は、「何を調べればいいのか(WAHT)」に焦点をあてた本だといえそうです。
(そして、調査設計はできるけど、調査課題を設定したり、何を調べたらいいのかを考えるのは苦手というリサーチャーも少なくないような?。。。)

本書の「はじめに」でも、この本の狙いについて、つぎのように書いてあります。

これまで多くのマーケティング・リサーチに関する書物が出版されてきました。優れた本も少なからず存在します。しかし私が長年感じていた不満は、こうしたマーケティング・リサーチの本の多くがリサーチ手法やデータ解析の解説にとどまっていることでした。
調査票の作り方、グループインタビューの手法、多変量解析の方法・・・、こうした手法を解説した本は数多くあります。しかし、ビジネスパーソンが抱えている問題をリサーチにどのように置き換えて、解決にまで導くのかという問題に答えてくれるような本はあまり見当たりませんでした。(「はじめに」 p.ⅳ)

私が考えたのは、こうした「主人の技術」についての本をまとめることでした。つまり、どのようにマーケティングの問題をマーケティング・リサーチの問題に転化し、さらにリサーチで得られた結果をマーケティング活動に反映していくか、こうしたことを教えてくれるような本のことです。(「はじめに」 p.ⅴ)

このような狙いで書かれていますので、「マーケティング・リサーチ入門」とはいっても、道具としてのリサーチの解説書ではありませんので、この点は注意してください。
しかし、マーケティングの問題が複雑になっているいまという時代には、このような趣旨のリサーチ本こそ必要なのだと思います。

では、どんなマーケティングの問題を扱っているのか。もくじを見てみます。

プロローグ

Ⅰ 既存商品のマネジメント
 1.ブランドの健康診断
 2.ブランドのリポジショニング
 3.ブランドストレッチの検討
 4.既存ブランドの価格再検討

Ⅱ 新商品の開発
 5.ブランド設計のためのマーケティング・リサーチ
 6.生活者の「問題」からのアイデア発見
 7.新商品アイデアの探索
 8.コンセプトの作成と評価
 9.商品の評価と改善点の抽出
 10.最適価格の設定
 11.パッケージデザインの評価
 12.販売量の予測
 13.上市後の追跡調査の実施

Ⅲ 効果的な広告展開
 14.広告戦略の検討
 15.広告の事前評価
 16.広告出稿計画の策定

Ⅳ 魅力的な市場の発見
 17.新市場把握のための調査
 18.既存市場の周辺領域の開発
 19.消費動機の探索
 20.消費者行動の理解促進
 21.海外でのマーケティング・リサーチ

かなり網羅的な内容だと思います。そして、それぞれの章は、

課題 → Q&Aによる概要 → 課題解決ステップ → 
課題解決への調査と解説 → コラム(主要調査手法の紹介)

という構成です。
また、課題解決の具体的な内容では、いわゆるSurvey(実査)を伴わず、パネルデータの分析により課題に迫る、広義でのリサーチステップが紹介されていることにも特徴があります。(たとえば、「4.既存ブランドの価格再検討」では、小売店パネルデータの分析だけで解説されています)

もちろん、ここに紹介されている解決ステップがすべてでも、万能でもありません。しかし、何事も基本的な考え方があっての応用だと思いますので、まずはこの本に書かれている内容を理解しつつ、実際の課題にむかって応用をしていくという態度も必要でしょう。

そして、「プロローグ」に書かれているつぎのセンテンス、リサーチユーザーの方~リサーチを発注し、結果をビジネスに活かす立場の方~には、ぜひ覚えておいていただきたいことです。(少し長い引用になってしまいますが、大切なことですので。著者の皆さん、すいません)

ビジネスパーソンが専門家(注:専門のリサーチ会社のリサーチャー)にリサーチを依頼するときに重要なこと、明確にしなくてはならないことは2つあります。
・誰が、何をするための事実を知りたいのか
・何がわかると自分(たち)はうれしいのか
「誰が」というのは、たとえば「開発部が」なのか、「営業部が」なのか、「広告宣伝部が」なのかといった意味になります。つまり、その調査の背景であり、何のための調査なのかということが大切なのです。「当たり前のこと」だと思うかもしれませんが、これが意外とはっきりしていない、あるいは、はっきりとリサーチャーに伝えられていないというケースがことのほか多いのです。それがわからないと、的確な調査項目を練ることが難しくなります。
また、何がわかるとうれしいのか。これは、調査の本当の目的は何なのかを、突きつめて考えることになります。新しい商品を開発するために、営業部門を説得したいのか、既存商品の広告戦略を強化するために市場の将来を把握したいのかなど、なるべく具体的に調査結果の使い方を考えておくことが重要です。「漠然とした理由で行なう調査」は意外と多いもので、これでは、効果的なマーケティング・リサーチにつながりません。 (「プロローグ」 p.4-5、注はblog筆者加筆)

これはリサーチユーザー向けのメッセージですが、リサーチャーも、ここに触れられている内容(「誰が」と「何が」)を、クライアントにしっかりと確認しなければなりません。常に頭において、リサーチを進めなければなりません。

「マーケティング・リサーチ入門」とありますが、本書のメインターゲットはリサーチユーザーといえそうです。しかし、リサーチャーこそ、読むべき本だとも言えそうです。
リサーチャーが、このような知識をベースに持ち、リサーチユーザーと議論をできることが、マーケティング・リサーチをより有効なものにしていくのです。

PS.
すでに、本書についてコメントをされている先生もいらっしゃいました。
つぎのblog も、あわせて参考にしてください。

Mizono on Marketing (明治大学・水野誠先生)

j-ono.com (明治学院大学・小野譲司先生)

【追記:2010.8.8】
リサーチャーも、twitter でお勧めしてます。

surveyml さん(2010.8.7~8.8)

先ほど amazon から届いた。実用性の高い見事な構成、これは名著の予感

コモデティ化脱出のヒントかも<マーケティングリサーチに関する書物の多くは「従者の技術(servant)」、必要なのは「主人の技術(master)」

田中洋先生、ありがとうございます。クライアントが本書で「解決のステップ」を習得すればするほど、調査会社側はうかうかできなくなるのは確実です


simfarm さん(2010.8.7)

今日アマゾンから届いた『課題解決!マーケティング・リサーチ入門』(田中洋編著/ダイヤモンド社)。うん、これはかなり使えそう。リサーチャー、マーケター、調査関連職は必携かも。

さらに、ダイヤモンド社さんでは、本書の一部(10ページ)を電子ブック形式で見ることができますので、本書の内容を確認できます。

課題解決!マーケティング・リサーチ入門(ダイヤモンド社)

『お客様の“生”の声を聞くインタビュー調査のすすめ方』

お客さまの“生の声”を聞くインタビュー調査のすすめ方 お客さまの“生の声”を聞くインタビュー調査のすすめ方
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2010-04-27

この本、ターゲティングが明確にできていると感じます。
著者の福井さんが書いているように、「ビジネス現場で実務に関わる方々にとって参考となる調査ノウハウをお伝えしよう」(「はじめに」より、pⅲ)というコンセプトで書かれています。ですから、本職のリサーチャーではなく、日々の業務の中でリサーチを活用したい方、とくにこれまであまりリサーチをしたことがない方向けの本です。
ターゲットにあわせ、商品=内容も語り調で書かれており、やさしく、わかりやすい内容になっています。(ただ、タイトルに「調査」という単語を使わない方がよりターゲットに届いたかも、という気もしました)

また、著者の福井さんの経歴が、メーカー→リサーチ会社→フリーコンサル+MBA、であることが、この本の質を高めているのだなとも感じました。
やはり、リサーチ会社のみの経歴では事業の現場感覚はなかなか理解することはできません。しかし、事業会社の経歴だけでもリサーチの専門的な理解をすることはできなかったでしょう。また、大学院で体系的な勉強をされたことが、理論的な深みを与えているように思いました。

前置きはこれくらいにして、いつものようにもくじを。

Part1 「お客様の声」に耳を傾ければ、こんないいことが・・・
Part2 調査会社に頼まず、自分たちでできる消費者インタビュー調査
Part3 インタビュー調査の活用(1)-商品開発の情報収集
Part4 インタビュー調査の活用(2)-デザイン、広告の情報収集
Part5 インタビュー調査の活用(3)-不振脱出への突破口を探る
Part6 お客様へのインタビュー調査を企画しよう
Part7 インタビュー実施に向けた準備の段取り
Part8 上手に話を聞き出すインタビューの実践ノウハウ
Part9 発言内容を分析し、役立つ情報を抽出するステップ
Part10 消費者インタビュー調査を戦略の立案に生かそう
【ケーススタディ:マタニティ専門のウエディングドレスショップの開業に向けて】

Part1~2で「お客様の声を聞くこと」とはどういうことか、なぜ大切なのかという考え方を示し、3~5で具体的な活用場面を提示、6~10でインタビューのノウハウについて整理、という構成です。

これまで、実務の中でお客様の声を聞くことがなかった方には、まずPart1~2を読んでいただければと思います。ここを読んで学ぶことや同意することが多ければ、本書を購入する価値があると思います。

そして、このPart1~2には、同意できる記述が多いです。いくつか紹介すると、

企業が「知っていて当たり前」、「わかっていて当然」と思っていることも、消費者は案外わかっていない(p5)

結果がポジティブであれ、ネガティブであれ、その理由が大事(p9)

「誰が、なぜそう言ったのか?」という理由がわかる情報が重要(p9)

問題は、「業界関係者の話ばかり聞いて、肝心の消費者の声を聞いていない」という、情報が偏ってしまい、バランスを欠いているケースです(p12)

お金をかけて外部のリサーチ会社に調査をお願いするほではないけれども、消費者はどんな反応をするのか、おおよその状況を知りたいとき、つまり“アタリ”をつけたいときに行うことが多かったと思います(p20)

いずれも、とても賛同できる記述です。

少し話がずれますが、4番目の「業界関係者の話ばかり」を読んで、以前、つぎのようなtweetをしたことを思い出しました。

「売れ筋だとか言っているが、そんなアホなことせんと、ちゃんと生活シーンから提案しない限りは、聞く耳もちまへん」byアイリスオーヤマ・大山社長(2/15「カンブリア宮殿」にて) http://bit.ly/aglJQc 

「市場志向」という言葉には3つの側面がありますね。1:市場で何が売れているかをみる、2:競合が何をしているかをみる、そして、3:生活や人をみる。「3」であってほしいけど・・・。

(2010/2/10  http://twitter.com/ats_suzuki にて)

市場志向といいながら、実は「売れ筋」や「競合」ばかりを気にしている場合が少なくないです。しかし、ほんとに大切なのは「お客様」であり「生活」であるということを、大山社長の発言は気づかせてくれます。そして、そのために必要なことのひとつが「お客様の生の声を聞く」ことでしょう。

また、5番目の「アタリ」の話。これはリサーチ会社のリサーチャーにとっても重要な話です。調査の企画をするとき、やはり、この「アタリをつける」という行為は重要だと思うからです。この観点からすると、リサーチャーにとっても読むべき本となるかもしれません。
(というより、リサーチャーは直接のターゲットではないですが、読んだ方がいいと思います。「紺屋の白袴」「医者の不養生」という言葉もありますし。。。また最後のケースは、実際の事業の中でリサーチがどう活用されていくかのひとつの事例としても読めると思います)

さて、
本書の紹介については、下記もあわせて参照いただければ、よりよいかと。

「福井遥子著『お客さまの"生の声"を聞くインタビュー調査のすすめ方』のご紹介」(みんなのMR.COM  2010/5/10)

そして、福井さんの出版記念セミナーから、「そう!」と思った言葉を最後に紹介しておきます。

お客様に聞くことの前提は、「戦略に生かすこと」。調査のための調査となっては意味がない。

「未充足ニーズ」こそは、実務者(具体的な課題を持っている人、リサーチ会社から見るとクライアント)が、お客様の声を元に、それまでの知見を動員して考えるべき。

お客様の声を聞くことは経験の蓄積が大切。ただ、隣の人の話を聞くことも、1回の経験になりうる。

【追記:2010/5/21】

福井さんが、本書の中で師匠の一人としてあげている梅澤先生。その梅澤先生の新著が出ていますので、紹介しておきます。
「ビジュアル図解」とあるように、これまで梅澤先生がまとめてこられた消費者心理に関する理論が、見開きで整理されています。こちらも一緒によむと、より「お客様の気持」を理解することができると思いますので、本書とあわせてどうぞ。

ビジュアル図解ヒット商品を生む!消費者心理のしくみ (DO BOOKS) ビジュアル図解ヒット商品を生む!消費者心理のしくみ (DO BOOKS)
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2010-04-28

『聞き方の技術』

聞き方の技術―リサーチのための調査票作成ガイド― 聞き方の技術―リサーチのための調査票作成ガイド―
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2010-02-16

いまではすっかり、マーケティングリサーチは調査会社の専売特許ではなくなりました。。。
(たとえばこのblogでも紹介した 「プレミアムライフ向上委員会」by 7&i (2010/2/9) も事例のひとつですね)

アウラマーケティングラボの石井栄造氏も、twitterでつぎのように言っていました。

ネットは全ての「中」を抜く。リサーチも。(@auraebisu 2010/2/15)

至言だと思います。

しかし、そのことによる弊害もいろいろとありそうです。
たとえばWEB上では、つぎのような警句を見ることができます。

とりあえずアンケートというのは考えもの
 (『大西宏のマーケティング・エッセンス』2010/2/22)

意外性の法則 (『とみざわのマーケティングノート』2010/2/15)

いずれもそのとおりだと思いますし、このあたりのことについては、やはりリサーチ経験を積み重ねることで、肌感覚として理解できることでもあると思います。

しかし、基本的な「聞く」ということにも、いろいろな知識や技術が必要になるのです。

そこで、今回紹介する本書です。
副題に、「リサーチのための調査票作成ガイド」とあるように、とくに調査票を介した調査におけるポイントが整理されています。
著者である山田一成先生(法政大学)は、「はじめに」で、つぎのように書いています。

調査票はマーケティング・リサーチや世論調査などにおいて、主に言語を介して情報を収集するためのツールであり、アンケート用紙や質問紙とも呼ばれながら、たいへん身近なものになっています。
しかし、広く普及しているからといって、何の知識も経験もないままでは、調査票を作ることはできません。実用に耐える調査票は、さまざまな領域で蓄積されてきた専門技術を身につけなければ、決して作ることはできないのです。(本書 p3)

まさに!
「アンケート」というと、たとえば学校や職場、自治会などで実施したことがある人も少なくないと思います。けれど、ほんとに意味のある調査票は、簡単に作れるものではありません。
まだまだ、このあたりの理解が成されていないことに、危機感を感じます。

それでは、もくじから。

第1章 言葉ひとつで結果が変わる~ワーディングの要点
第2章 選択肢はそろっているか~回答形式の種類と特性
第3章 回答者はウソをつく~回答傾向と回答能力
第4章 鉱脈を掘り当てるには~類型・尺度・測定技法
第5章 調査票はこうして作る~質問の構成と配列

そして巻末資料として、調査票の実例も掲載されています。

各章は、Q&A方式で書かれており、「冒頭で初心者・初学者の方々が抱かれる疑問を紹介し、それに答える形で解説が始まる」(p5)ような構成になっていますので、自分の課題に沿った質問から確認していくこともできるようになっています。
(とはいえ、ぜひ、全編を読んで欲しいのですが)

たとえば、つぎのような質問です。

会社の先輩から、質問文の作成について、「あいまいな表現は避けるように」と教えられましたが、あいまいな表現とは、具体的にいうと、どのような表現のことなのでしょうか。(本書 p20)

消費者調査で「あなたは有機野菜にどれくらい関心がありますか」という質問文を作ったところ、上司からダメ出しされてしまいました。いったい、どこが悪いのでしょうか。どうしてNGなのか、まったくわかりません。(本書 p29)

商品への好意度を調べる質問は、なぜ5段階であることが多いのでしょうか。また、そうした質問では、「かなり好き」「とても好き」といった言葉が使われますが、どんな言葉でたずねるのが一番よいのでしょうか。上司や同僚には今さら聞けません(本書 p54)

いかがですか?
これらの回答に、明快に答えることができますか?なかなか、難しいですよね・・・。
あらかじめ断っておいた方がいいと思いますが、すべての質問に対して、「これが正解」ということが書かれているわけではありません。「考え方」しか書かれていない質問も、少なくありません。
けれど、これは当たり前のことです。たとえば選択肢の問題などは、ひとつの絶対的な解があるわけではないですから。

調査票を使ってリサーチを行うときは、ここに書いてあるような知識や技術を理解してほしいと思う内容です。さらに、定量調査に限らず、定性調査を行うときにも、ここに書いてあるようなことは参考になると思います。
まだ経験が浅いリサーチャーは当然として、ベテランの域にある方もこれまでの知識の整理として、ぜひ一読をしていただきたい本です。

(また、リサーチに関わっていない方でも、これだけ世の中に調査結果が溢れている時代には、ここに書かれていることは知っておくべきかもしれません。ものごとの正しい判断をするためにも。。。)

『マーケティング・メトリクス』

マーケティング・メトリクス マーケティング・メトリクス
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:2010-01-13

以前、このblogで下記の本を紹介しました。

『分析力を武器とする企業』(2008/10/8)

この本は、データを軸にする経営、ビジネス・インテリジェンスの重要さを説いたものでしたが、今回紹介する本書『マーケティング・メトリクス』は、もっと具体的に、どのようなデータを使うのか、ということに焦点をあてています。

ここで紹介されている指標は119本。網羅的で、基本的な指標が紹介されています。
また、「マーケティングの基本問題別に整理しながら、具体的な事例も交えて展望」(本書 p.ⅳ)されています。

では、どのような分類で整理がされているのかを、もくじで確認します。

序章 マーケティング・メトリクスがなぜ必要なのか
Ⅰ章 魅力的な対象市場を選ぶ
Ⅱ章 市場シェアを確保する
Ⅲ章 売上の収益性を高める
Ⅳ章 顧客創造で売上を積み上げる
Ⅴ章 バリュー顧客を狙う
Ⅵ章 ブランド化で競争力を持続させる
Ⅶ章 広告で市場普及を加速する
Ⅷ章 強い販路を構築する
Ⅸ章 営業力を強化する
終章 組織型ダッシュボードの構築に向けて

これらの基本問題別に、どういう視点で、どのようなデータを使い、どのように計算するのか、が整理されています。指標そのものを覚えることも、もちろん必要ですが、その指標の意味=計算式の意味もあわせて理解すべきです。さらに、具体的な指標についての理解だけでなく、マーケティング活動のポイントを理解することもできるでしょう。

ただ、「マーケティング・メトリクス」という言葉自体が、よくわからない方もいらっしゃるかもしれません。簡単に言ってしまえば、マーケターが意思決定を行う際に依拠する数的指標、とでもいえるでしょうか。
そして、このメトリクを理解するには、さらに終章のタイトルにもある「ダッシュボード」を理解すると、わかりやすいのかもしれません。そう、車のダッシュボードのメタファです。車を運転するときにダッシュボードでメーターを確認するのと同様に、経営においてもダッシュボードのデータを確認しながら、運営を行っていくことが必要だということです。

ここで、具体的な商品としての「マーケティング・ダッシュボード」をいくつか紹介しておきます。マーケティング・メトリクスに興味を持たれた方は、以下の資料もご覧いただくことで、よりマーケティング・メトリクスを理解できると思います。(いずれのリンクも、PDFが開きます)

マーケティングダッシュボード~マーケティング戦略の「見える化」
(野村総合研究所『知的資産創造』2006年5月号)

マーケティングダッシュボード
(電通イーマーケティングワングループ:商品紹介パンフレット)

ダッシュボードのご案内 (インテージ:商品紹介パンフレット)

とはいえ、ここまできっちりしたものを構築しようとすると、それなりの費用がかかりそう。。。
すでに意思決定に際し、なんらかのデータを常にウオッチしている企業は少なくないと思いますが、さらに基本的な指標にはどのようなものがあるのか、マーケティング活動の基本的な流れを指標という視点で理解したい方は、本書を手にとってみるといいでしょう。

ただし個人的には、ここで紹介されている指標は、ほんとに基本的な指標であり、誰もが知っておいてよい(知っておくべき?)指標だという感じもしています。(そういう意味では、必読書になりますね)
そして、もっと大切なのは、「どの指標を重視するのか」であり、KPIの指標として使うとするなら、もっと独自性の高い指標を開発することも必要ではないかと思っています。この点については、ちょうど『日経情報ストラテジー』で特集されていたので、そちらを参考にしていただければと思います。

『日経情報ストラテジー』2010年2月号もくじ (日経BP書店)

(ちなみに、まだ読んでませんが、3月号も関連がありそうです
 → 2010年3月号もくじ ) 

こちら ↓ を見ると、2月号の特集趣旨がわかると思いますので、あわせてどうぞ。
(似たようなことは、著書の田村先生も本書の中で、指摘されています)

「あなたの仕事で一番大事な「数字」は何ですか?」
(日経IT Pro:2009/12/22)

※「KPI」って何?という方は、こちらへ → 情報マネジメント用語事典(by IT Media)

『最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本』

図解入門ビジネス 最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本―市場の因果関係を読み解く (How‐nual Business Guide Book) 図解入門ビジネス 最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本―市場の因果関係を読み解く (How‐nual Business Guide Book)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2009-11

前の2つのエントリー( こちらこちら )で、広く社会調査という視点でのエントリーをしました。
社会調査の方法論としての考え方を学ぶことが重要では、ということで。

が・・・
とはいっても、やはりマーケティング・リサーチにはマーケティング・リサーチだからこその知識や考え方が必要であることも、また事実で。。。
そのようなときには、この本をどうぞ。

ただし本書は、著者も「はじめに」で書いてあるように、「入門書」です。はじめてマーケティング・リサーチを学ぼうとする人や、もう一度基礎を復習しようとする人々を対象としています。
ですので、もくじも以下のようにオーソドックスに、リサーチの実務に沿った内容になっています。

第1章 マーケティング・リサーチの役割
第2章 企画
第3章 実査
第4章 集計・分析
第5章 調査報告
第6章 リサーチ・ソリューション
(第6章は、CPテスト、ブランド診断調査、顧客満足度調査について書かれています)

内容も、当然入門者や初心者向けのもの。しかし、視点には共感できる記述が多く含まれています。それはきっと、

本書は、特にこの原因と結果の関係を読み解くマーケティング・リサーチの方法の理解に焦点を当てた入門書です。なぜなら、因果関係の解明は、科学としてのリサーチの基礎中の基礎であるにもかかわらず、未だにリサーチャーの間に広く、深く浸透していないと思われるからです。さらに重要な点は、この因果関係思考法の欠落が、課題解決や提案力のアップといったリサーチの応用力の育成を妨げていることです。
(本書 p.18)

という考え方の元に書かれているからだと思います。そして、とても共感できる考え方です。
(だからでしょうか・・・、私がリサーチ研修のために作成している資料の内容と似たような記述やチャート、チェックリストが多くあるんですよね。もしかして、どこからか入手しました?、と思ってしまうくらいに ^^; )

さて、皆さん、以下の問にどのくらい答えられますか?
すべて答えられる方は、本書は必要ないでしょう。きっちり答えられないものがある方は、本書を手にとってみてもいいかも?・・・

  • 一般に、標本誤差を半分にしたいとき、標本数は何倍にすればよい? →p.38
    (「標本誤差」がわからないでは、お話になりませんが・・・)
  • 新製品の会場テストにおいて、「対象商品カテゴリー使用者」という条件で集めた対象者は、代表性という面で、どのように考えればいいでしょうか? →p.43
  • なぜ世論調査では、いまだインターネット調査が主流の調査方法として使われていないのか? (「抽出フレーム」という言葉を使って説明すると?) →p.80
  • たとえば、「店内でのサンプリング効果」を測定する場合の実験デザインは? (どのような方法が考えられ、どのようなメリット・デメリットがあるか?) →p.85
  • では、製品テストでのテスト方法は? →p.91
  • クロス表で%のベースとなるのは、原因となる変数?、結果となる変数? →p.126
  • 実態把握を目的とした調査の報告書は、結果一覧の報告だけでいいのか?→p.140
  • ブランド診断の場合、イメージ評価項目を考える視点は? →p.172

いかがですか?
著者は、これまでメーカーやリサーチ会社で、マーケティング・リサーチの実務を経験された方ですので、実務の現場に沿った内容で記述されているのが、本書のよい点であるといえます。
これまでの類書に満足できなかった方、著者のスタンス(因果関係の重視)に共感する方は、一度、本書を手にとってみてください。

さらに、本書の関連HPもありますので、そちらも ↓ どうぞ。
本書では触れられなかった内容についても、書かれているみたいですので。

みんなのMR.COM

(実は、著者の岸川さんも、このblog がご縁で知り合いになることのできた、おひとりです。本書の執筆についての裏話についても、おうかがいしましたが、ここでは触れずにおきます。本を書くのもたいへんだな、ということはわかりましたが、でも、本、出したいなとも思います。。。)

『社会調査論』

社会調査論 社会調査論
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:2009-09-24

前のエントリー(「社会調査学科」?!)と関連して。
少し前に読んで、「これは紹介しないと」と思っていた本です(ただ、売れてなさそうなんですよね、Amazonのランキングでは・・・。仕方ないとも思いますが。。。)

実はこの本、1998年に出版されている ↓ の本の改訂版です。
(タイトルが変更になっていますが、理論的な部分はほとんど同一、事例的な部分がほとんど改定、という内容になっています。前書をお持ちの方は、内容を検討してから購入してください)

見えないものを見る力―社会調査という認識 見えないものを見る力―社会調査という認識
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:1998-09

「社会調査を学ぶ本質は、その方法論を学ぶことにあるのではないか」というようなことを前のエントリーで書きました。
しかし、世の中にある多くの社会調査の本は、サンプリングの方法や調査票の作り方、あるいは集計や統計といった「テクニック」について記述しているものがほとんどだと思います。
(少し話がそれますが、最近のビジネス書のコーナーに行くと、「○○しなさい」「○○せよ」「○○術」「○○力」といったタイトルの本があふれています。個人的には、このような傾向はいかがなものかと思っていました。テクニック~というかノウハウといった方が正しいかも~ばかりを身につけても、本質的な理解ができなければ、意味はないと思うのですが。。。)

そこで本書。この「社会調査の本質」について考えさせてくれる数少ない本だと思います。
まずは、もくじを紹介。

Ⅰ部 社会調査の方法
 1章 問うということ―問題の組織化
 2章 対象を設定する―単位と全体の構成
 3章 データの収集―新しいテクストづくり
 4章 データの処理―データベースの構築
 5章 データの分析―比較から説明へ
 6章 書くということ―分析の再組織化

Ⅱ部 社会調査の問題
 7章 社会調査と社会認識
 8章 具体的な知・抽象的な知
 9章 仮説が生まれるとき
10章 社会調査がつくる「現実」

Ⅲ部 社会調査の実践
11章 方法論の歴史と想像力
12章 日雇い労働現場のフィールドワーク
13章 住まいという場を読み解く
14章 犯罪を減らすためになにをどう探るか
15章 地域社会に広がる社会関係の網
16章 格差や不平等をどうとらえるか
17章 「所有」と「自然」の発見

たとえばⅠ部の内容は、これまでのよくある社会調査の本と同様に見えるかもしれません。しかし、データの収集法を定量・定性とは分類せずに、「観察による/対話による/記録・資料による」という3つで整理しています。その心は本書を読んでいただくとして、個人的には定量・定性という分類よりも、こちらの整理の方がしっくりします。このように、単純にテクニックについて語るのではなく、その考え方をふまえて記述しているのが本書の特徴です。

このあたりについては、「はじめに」での以下の記述に想いが込められているのではないでしょうか。そして、この記述には強く賛同しますし、このような考え方が根底にあるらこそ、本書の価値があるのだと思います。

技法の活かしたかを学び、理論枠組みや思想の使い方を学ぶことは確かに重要である。しかしながら、社会への想像力をそのなかで養い、社会調査の解読力と批判力とを身につけることの方が、さらに大切である。だから、この方法と方法論の書物が伝えようとしているのは、「成果」や「結果」として認められた正解ではない。知るという過程を自分で歩もうとするとき、「力」となりうるであろう、問い方であり、疑い方である。
(本書p.ⅳ「はじめに」より)

そして、本書で一番読んで欲しいのは「Ⅱ部」です。
認識するとは何か、実証主義と解釈主義の問題、理論と経験の問題、仮説、アブダクション、グラウンデッドセオリー、予言の自己成就の問題、などが取り上げられています。
いずれも、調査やリサーチを行なっていく上で、直面する課題だと思います。このあたりを理解してリサーチを行なうのかどうかで、その解釈も異なってくる問題でもあるでしょう。
これ以上詳しいことを書こうとすると、引用だらけになってしまうと思うので、ここでは「お勧め!」ということだけを書いて終わりにしようと思います。

決して、簡単で、読みやすい本ではないです。具体的なテクニックやノウハウが知りたいのなら、もっとよい本があると思います。
しかし、あるていど調査やリサーチに携わった人や、ふとリサーチに疑問を感じることがある人が、いま一度リサーチについて考えるための一冊として、読むべき本だと思います。
(それと、大学院で研究をしたい方も、ぜひ)