今日のテレビ東京「カンブリア宮殿」は、花王会長・後藤卓也氏でした(番組HPは、こちらへ)。
花王については、いつか書いておきたいと思っていたのですが、いい機会ですので。
番組で語られていた花王の強さは5つ。
1.イノベーション(革新)だけを求めるのではなく、インプルーブメント(改良)を続ける
2.お客様の声(とくに苦情)を大切に
3.キョロキョロする好奇心
4.まじめ、まじめ、まじめ
5.偉大なる凡人集団
最後に司会の村上龍さんは、「面白みがないかもしれない。けれど、あたりまえのことを、あたりまえに続けることが強さ」というようなコメントをしていましたが、まったく同感です。
ただ、ポイント、ポイントで紹介されていた花王内部の動きは、「あたりまえに見えるけど、あたりまえに行われていないこと」が多かったように思います。
気づきとしていくつかポイントをまとめておきたいと思います。
- 後藤会長の行動自体が、世間でいう「あたりまえ」からは外れているのではと思いました。多くの社長、会長といわれている人が、ふだんどのような生活をされているのかは、よく存じ上げませんが、後藤会長は社長時代から電車で通い、掃除・洗濯も自分でなさっているそうです。常に、「ふつうの生活」を続ける。そして、キョロキョロと好奇心をもって、周りを観察し続ける。トップ自ら、このような行動を取る企業は、DNAとして社員も当然、そのような行動を取るようになるのではないでしょうか。そのような中からも、改良の種は見出されていると思います。
- 「アタック」は、発売以来20回以上も改良を重ねているそうです。「花王といえば、改良を重ねることで、ロング・ブランド化する」というのはマーケティング界では常識となっているので、このこと自体には驚くことはないでしょう。では、どうやって「改良」のきっかけを得るのか。ふだんから、当然のように消費者調査を積み重ねていますが、花王の強さは「現場を観察すること」を重視し続けてきたことです。いまでこそ、「観察調査(あるいは、言葉を換えて、エスノグラフィなどといったりしていますが・・・)」は、かなり調査の場面でも重視されるようになってきたと思いますが、花王は以前から、消費の現場に入り込んで実態を捉えることを重視してきました。
- そして、「消費者相談センター」と、それを活かす仕組み(「エコーシステム」といっていたと思うのですが、今では、この呼称は使われなくなったのでしょうか・・・)。
多くの会社に、「消費者相談窓口」はあると思います。しかし、そこに集まった声をどの程度、活用できているのか。花王では、1日500件(年間で約12万件)の声がセンターに集まるといいます。そして、次の日には、役員を含めた全社員が、この声にアクセスでき、役員自らがこの声を読みます。お客様の声を役員自らが、毎日チェックする企業がどのくらいあるでしょうか?(花王の役員会では、このようなお客様の声がプロジェクターで投影され、それについて議論が行われているというようなことを聞いたこともありますが・・・)
そして、役員ばかりでなく、社員レベルでも改良できそうなことについては、すぐに改良を行う。全社で、お客様の声を真摯に聞く、それに応えるという姿勢ができているということが、すばらしいことだと思います。
番組の中で紹介されていたのは、以上のようなことでしたが、花王は流通でも、コミュニケーションでも、独自の考えで行動を行っています。このあたりについては、様々なマーケティングの教科書で触れられることも多いので、そちらをご覧ください。
とにかく、花王を勉強することが、マーケティングを勉強することに繋がるといっても過言ではないと思います。
ちょっと視点を変えて、他の本からも、花王についていくつか紹介を。
まずは、「アタック」の開発にあたっての調査について。
(参考図書:「ゼミナール・マーケティング理論と実際(TBSブリタニカ)」~残念ながら絶版になっているようです)
- 「アタック」は、一般的には、それまでの洗剤が大きくて重い(番組では4㎏と紹介されていました)という消費者の不満から、開発されたとなっています。ところがアタック以前の1975年には、「ザブ」や「ニュービーズ」で洗剤の小型化商品が売り出されるものの失敗に終わったという現実があります。
このときに、「小型化をすると、性能は同じでも評価が高くなるが、売りには繋がらない」という課題が残されました。 - 再度、洗剤小型化への挑戦を始めたのが1983年。ここから、様々な調査が行われます。
1:社外製品テスト
→剤状評価のための8週間の長期使用テスト
2:社内製品テスト
→包装形態、箇装、計量器具などについて、秘密保持のために社内でテスト
3:洗濯使用実態調査
→濃縮型洗剤の潜在需要、マーケットサイズ確認のための調査
4:長期定性パネル調査
→プロダクト・コンセプト+製品の2週間使用テスト&事後グルイン
5:C/Pテスト
→定量的なコンセプト/プロダクト調査
6:長期定性パネル調査(2回目)
→コンセプト+製品の6週間使用テスト
7:コンセプトテスト
→コンセプトの方向性確認のための定量調査
8:C/Pテスト(2回目)
→定量的なコンセプト/プロダクト調査
9:容器使い勝手テスト
→容器形状決定のためのテスト
10:粒子色の嗜好性テスト
→4種類の粒子の比較テスト
11:社外製品テスト(2回目)
→競合商品とのブラインド・コンペアテスト
12:社外製品テスト(3回目)
→前回試作品&競合商品とのコンペアテスト
13:ネーミングテスト
→4案での比較テスト
14:コンセプトテスト(2回目)
→表現2案の比較テスト
15:C/Pテスト(3回目)
→表現2案+プロダクトの6週間使用テスト
16:コンセプトテスト(3回目)
→これまでの調査結果からの修正案によるコンセプトテスト
17:新聞広告タイプのコピーテスト
→広告表現づくりのためのテスト
18:パッケージデザインテスト
→4案での比較テスト
19:パッケージデザインテスト
→シェルフインパクトテスト(既存11銘柄との比較~モナディック&一対比較)
20:社外製品テスト(4回目)
→最終2案でのコンペアテスト
21:CFオンエア前テスト
→完成TV-CFのオンエア前テスト - と、これだけの調査を重ねて最終商品に辿り着いています(長い・・・)。
さらに、このときに、「売上予測モデル」の開発にも取り組んでいます。
この「売上予測モデル」について、筆者の陸正氏はつぎのように述べていますが、至言だと思います。
「予測モデルをもつことにより予測にかかわるいろいろな要因を論理的、組織的に考えるマーケティング風土が生まれ、根づいていくことが、モデルの第一の効果であり、モデルによる予測が当たるか当たらないかは副次的な要素といえよう。」
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1987年に「アタック」は上市されますが、花王の調査はここからも続きます。
22:トラッキングサーベイ
→発売直後(TV広告1000GRP時点)での知名、使用状況の把握(電話)
23:トラキングサーベイ(2回目)
→TV広告2000GRP時点での知名、使用状況の把握(電話)
24:CF電話調査
→TV-CFオンエア後のCF認知・評価、購入意向の把握
25:購入者追跡調査
→発売直後に店頭での面接調査&1ヵ月後の追跡調査
26:トラッキングサーベイ(3回目)
→TV広告3000GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
27:購入者追跡調査(2回目)
→地方都市での購入状況の把握
28:トラッキングサーベイ(4回目)
→TV広告6000GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
29:トラッキングサーベイ(5回目)
→TV広告7500GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
30:意識実態調査
→新型洗剤市場の今後を占うための意識&実態調査
31:洗濯実態調査
→市場実態の把握と、新型洗剤市場の意識&実態調査
32:トラッキングサーベイ(6回目)
→発売半年後の知名、使用状況の把握(訪問)
33:トラッキングサーベイ(7回目)
→9ヵ月後の知名、使用状況の把握(訪問)
参考書に書かれていた「アタック」に関する調査は、以上です。(まさかこんなに長くなるとは思っていませんでしたが・・・)
一度失敗しているカテゴリーであり、市場開拓型の新商品であったからこそだとは思いますが、すさまじい調査の繰り返しです。
後藤氏の語っていた、「まじめに、当たり前のことをしっかりと」「ヒーローではなく、凡人が皆の力で事を成していく」を、そのまま当てはめられそうな事例になっています。
もう一冊、花王の仕事ぶりを紹介した本があるのですが、いい加減長くなってしまったので、エントリーを改めることにします・・・。
PS.
テレビ放送の欠点は、こうやって紹介しても、見てない人に「見たら」といえないことです・・・。
しかし、「カンブリア宮殿」については、BSデジタル放送とスカパーで再放送があるようなので、これらの放送を見られる人は、ぜひご覧いただければと思います。
再放送のタイミングは、HP(→こちら)で紹介されていますので参考にしてください。