月別アーカイブ: 2007年3月

マーケティング・コラム(備忘録)

最近、blog中心に情報収集をしていて、あまりHP系は見ていなかったのですが、久しぶりにwebサーフィン(死語?)して、保存しておきたいページがあったので、備忘録を兼ね、ご紹介しておきます。
いずれも、「President Online」からのものです。

■消費者の生活に深く入り込む「経験価値マーケティング」(2006/1/30号)

マス・マーケティングの反省の中から生まれたのが、ブランド・マネジメントである。
しかし、その落とし穴はブランドのアイデンティティの議論が抜け落ちてしまうことにあった。
そこで筆者は、「経験価値マーケティング」という新しい手法を提案する。

■なぜテレビで紹介された商品を買ってしまうのか?(2006/4/3号)

情報バラエティ番組の商品紹介は、広告よりも圧倒的に効果がある。
筆者は、これを「インフォテイメント効果」と呼ぶ。
なぜこの効果が生まれるのか。二つの心理的機制から、この問題を考える。

■好調!松下PC事業の「三つの秘密」(2006/7/31号)

PC業界のトップを走るデルやHPでさえ、売上高利益率は10%に達しない。
生き残りをかけて、どういう戦略をとるべきか──。
筆者は、松下電器の例を基に「リーン・デザイン」の重要性を説く。

■市場に揉まれて強くなる「ロバストデザイン」とは(2006/10/2号)

持続的な競争優位を求め物づくりにこだわると、最初は単純なコンセプトで
出発したはずの商品も、多彩なベネフィットをもつ商品として完成度を上げる。
こういった商品を「ロバストデザイン」と呼ぶ。
筆者はここに、日本企業の優位を発揮できる余地があると主張する。

■隠れたニーズを掴むもうひとつのイノベーション(2006/12/4号)

「コマーシャル・イノベーション」という言葉をご存じだろうか。
顧客と新しい関係をつくることによって、市場を開拓する方法をこう呼ぶ。
新商品、改良商品、既存商品の三つの例をもとに、
このイノベーションについて検証してみよう。

■病院改革に光!「プリコラージュ」という手法(2007/1/29号)

高齢化により、病院の患者獲得合戦が繰り広げられている。
産業界が経営に乗り出すケースも増えている。
患者満足の向上、医療の質の向上、無駄なコストの削減という
三つの課題をどうやって解決するか。筆者は、新しい手法を提案する。

すべて、神戸大学の石井先生のものですが・・・^^;

『ヒット商品を最初に買う人たち』

ヒット商品を最初に買う人たち ヒット商品を最初に買う人たち
価格:¥ 735(税込)
発売日:2007-03-16

【2007.3.28追記しました】

(またまた本紹介です。寺子屋は4月から再開予定です、すいません<(_ _)>)

前回紹介した『シンプルマーケティング』の著者・森氏の、新書による新刊です。
テーマはイノベータ理論を使っての商品ヒットについての分析、解説です。
今回も、具体的な事例を使ってのわかりやすい内容になっています。

もくじは、以下。

第1章 最初に手を出す人たち
第2章 ヒットを作る「イノベータ」たち
第3章 ヒットの寿命もイノベータ次第
第4章 ヒットを狙う企業の戦略
第5章 ゲームの理論を変える革新的イノベータ

森氏のイノベータ理論は、「イノベータ」「アーリーアダプタ」「フォロワー」の3分類で、日本での分布を、イノベータ=10~12%、アーリーアダプタ=15~35%、フォロワー=60~70%としています。
ロジャースの普及理論をすでにご存知の方からすると、この言葉の使い方は少々混乱するかもしれませんので、その点は注意が必要かもしれません。

1章で「ヘルシア緑茶」「ニンテンドーDS」「iPod」を事例にヒット過程を検証していきます。
2章では、イノベータがどんな人たちかを解説します。
3章では、この3分類を軸とした購入意向を指標としながら商品のプロダクトライフサイクルの見極めを行う方法を解説します。
4章では、ヒットを狙う企業サイドからの方法論として、プロダクトコーン理論とスキミング戦略/ペネトレーション戦略の視点から解説します。
そして5章。おそらくこの本のポイントだと思うのですが、革新的な商品は市場のルールを変える商品だとして、ルールを変える消費者を「革新的イノベータ」と定義します。そして、「伝統的なイノベータ」と「革新的イノベータ」が存在するダブルイノベータ構造が生まれます。詳しくは、本書を読んでいただくとして、リサーチの視点としては、つぎの文章が参考になります。

革新的イノベータは、つまり、いくら「その商品を買っている人」を調べても発見できません。しかし、多くの企業は、自社に関連する商品のユーザーしか調査していません。たとえば、ビール会社なら「ビールを週に1回以上を飲む人200人を対象としたアンケート調査」、ゲーム会社なら「ゲーム機を週3回以上使う人を対象としたアンケート調査」などです。ましてや、「自店に来店する顧客1000人を対象としたアンケート調査」しかしないファミレスもある。これでは、従来のルールに則った常識的な反応しか返ってきません。
この方法はマーケティング的には間違いではありませんが、たとえばiMACのような「パソコンを滅多に使わない人」「今までパソコンを使っていなかった人」の中から革新的イノベータを見つけることはできません。

・ビールを飲まないのはなぜなのか
・ファミレスをかつては利用していたのに、現在滅多に来店しないのはなぜなのか

こういった視点からしか革新的イノベータを見つけることはできないのです。

リサーチの設計、とくに「誰を対象とするのか」は、とても大切です。
このあたりを理解しているか、いないかでリサーチが有用なものになるか、ならないかが大きく異なるでしょう。

マーケティング初級者~中級者にお勧めの本です。
さらに、つぎの2冊もあわせて読むといいと思います。

キャズム キャズム
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2002-01-23

ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2006-05-16

最後に、少々苦言を・・・。
校正が、全般に甘い感じです。ソフトバンクとはいえ出版社なのですから、もう少しきちんと校正を行って欲しいものです。読む時の障害となってしまうこともありますが、119ページにあるようなミスは本書の信頼性を損なってしまいます。(こちらの読み違いかとも思ったのですが、たぶんミスです。ちょっと出版社に確認してみますが。)せっかくの良書なので、このあたりが残念です。

【2007.3.28追記】
上記の「119ページにあるようなミス」の件、出版社より返信をいただきました。
該当部分を、以下に紹介します。

この部分では、『ポカリスエット』や『オロナミンC』は他社製品で同等の広告費を掛けている例であり、これは、ケンタッキー・フライドチキンやカルピス食品工業1社分の年間広告費にあたります…という点を述べたかったとのことでございました。
増刷の段階で、このあたりは修正させていただきたいと考えております。

「コカ・コーラ」のように30億規模の広告費を使っているブランドの例として、他にも「ポカリスエット」「オロナミンC」があるということのようです。だとしたら、納得ですね。

『シンプルマーケティング』

改訂 シンプルマーケティング 改訂 シンプルマーケティング
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2006-01-31

最後に、もう一冊。
実は、この本が、個人的には一番のお勧め本だったりします^^;

この著者のメールマガジンは、マーケティング関連の中ではピカイチです(最近は、半年に1回くらいしか発行されないのが残念ですが)。
なにが良いかというと、本質をついた視点&結構長いメルマガなのですが、とにかく読みやすい。
そんな著者の書いた本ですし、身近な事例を用いながら解説していますので、読みやすいし、わかりやすい。
ただ、実践的な内容でもありますし、著者独自の理論もありますので、マーケティングの本質を理解した上で、かつある程度のマーケティング理論を知った上で読んでいただいた方がいいかと思い、一番最後に持ってきた次第です。
(この本から入っても、もちろん大丈夫だと思います。マーケティングは、こんな風に使えるのかと興味を持ってもらうのもありだと思いますので。)

もくじは、こんな感じです。

第1章 生活者をとらえる
  1-1 「イノベータ理論」で生活者をとらえる
  1-2 「ライフスタイル」から生活者をとらえる
第2章 市場をとらえる
  2-1 「クープマンの目標値」で戦略を立てる
  2-2 市場を細分化して考える
  2-3 売上を占う「プロダクト・ライフサイクル」
第3章 商品を評価する
  3-1 プロダクトコーン理論
  3-2 商品の「記号」と「意味」の一致(ブランド)
  3-3 ブランディング
第4章 商品の「戦略」を評価する
  4-1 3種の攻撃法
  4-2 スキミング&ペネトレーション戦略
  4-3 力のない企業でも勝てるDCCM理論
  4-4 「知名度」「トライアル」「レギュラー」から問題点を見つける(U&E)
第5章 生活者の意識と商品
  5-1 レーダー理論とポジショニング
  5-2 購入基準とヒエラルキー
  5-3 「選好シェア」と「実売シェア」の時間差理論

マーケティングを少しでもやっている人であれば、聞いたことのある言葉がいくつかあると思います。教科書ではなかなか理解しにくい言葉でも、事例をもとに説明していますので、「なるほど、このように使うのか」ということを理解できるでしょう。

とくに、「プロダクトコーン理論」はおすすめです。
これを知っているといないとでは、商品を考える視点がまったく違ってくるのではないかとも思います。
また、ネット調査を考える上では、「イノベータ理論」も押さえておかなければならないです。今後、寺子屋で代表性の話をしていきますが、そのときにも、この「イノベータ理論」の視点から話をしようと思っていますので。

とにかく、マーケティングの理論を事例を元に理解するには、この本以上のものはないのではないかと思っています。
お勧めです、ぜひ一度、ご覧になってみてください。

PS.
また、「マインドリーダーへの道」さんのblogになってしまいますが・・・。
この本のポイントを、20回のシリーズで紹介してくれています。
著者の森さんも、コメントを投稿してくれていますので、本書についてのさらに深い理解も得られるかもしれません。(なので、ぜひ本文だけでなくコメントもご覧ください。)

デイリーブログ「マインドリーダーへの道」:シンプルマーケティング






『MBAマーケティング』

新版MBAマーケティング 新版MBAマーケティング
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2005-03-04

もっと、体系的にマーケティングを学びたい、けどコトラーのような分厚い専門書はちょっと・・・、という方へ。

まさに「教科書」です。それ以下でも、以上でもないという感じ。
とはいえ、ある程度、マーケティングのなんたるかはわかってきたし、もっと総合的に、理論的な背景も身につけたいと思っている方には、手ごろな本だと思います。

もくじはこちら。

第1章 マーケティングの意義とプロセス
第2章 市場機会の発見
第3章 セグメンテーション、ターゲティング
第4章 ポジショニング
第5章 製品戦略
第6章 価格戦略
第7章 流通戦略
第8章 コミュニケーション戦略
第9章 ブランド戦略
第10章 マーケティング・リサーチ
第11章 競争戦略
第12章 カスタマー・リレーションシップ・マネジメント
第13章 ビジネス・マーケティング(生産財マーケティング)

各章とも、「POINT-CASE-理論」という構成になっています。ですので、理論で説明されている内容について、ケースを再度考えながら読み込むことによって、理解が深まるのではないでしょうか。

本格的な専門書を読む前の導入として、本書をおすすめします。

さて・・・
ここまで、マーケティングについての3冊の本を紹介してきましたが、世の中には「マーケティング」と付いている本は、もっといっぱいあります。ここで紹介しなかった本でも、良書はあると思います。本屋さんのマーケティングのコーナーへ行って、片っ端から手に取ってみて、自分に合いそうな本を見つけていただいてもいいと思います。(ただ、玉石混合なので、その点は注意してください)
そして、より専門的な本へも、ぜひ挑戦してみてください。

といいながら・・・、
こちら↓でも、マーケティングに関する本をいくつか紹介していますので、こちらを参考にしていただけると、なおうれしいですが・・・^^;

マーケティング・リサーチの寺子屋出張書店:マーケティング

『マーケティング実践講座』

実況LIVE マーケティング実践講座 実況LIVE マーケティング実践講座
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2005-06-10

少しは、マーケティングについて理解できたかな、という方向けに。

マーケティングの代表的な理論を紹介しつつ、事例を交えながら、マーケティングを実践していく流れが紹介されています。
そして、割とマーケティング・リサーチ寄りの説明がなされているので、とくにリサーチャーの方にとっては、役立つポイントがあるのではないかと思います。

もくじは、こちら。

Part1 マーケティングとは何か
Part2 マーケティング戦略の実践法
 STEP1 顧客を知る
 STEP2 競合を知る
 STEP3 自社を知る
 STEP4 自社が勝てる市場を特定する
 STEP5 差別化のための具体策を立てる
Part3 マーケティングの調査分析手法
Part4 これからのマーケティングには何が求められるか?
Part5 [演習]サントリーDAKARAのマーケティング戦略を立てる

気づいた方、いらしゃいますか?
前のエントリーの『ドリルを売るには穴を売れ』で言われていた4つのポイントと、ほぼ同じ構成ですよね。やはり、誰が書いても、マーケティングの本質はこの4つだということですね。

この本でおもしろいのは、Part5の演習。DAKARAを事例にしながら、具体的なマーケティング戦略立案の流れを示しています。自分で考えながら、このPartを読んでいけば、マーケティングの流れをさらに理解することができると思います。

PS.
以前、著者の講演を聞く機会がありましたが、そのセミナーもおもしろかったです。
こちら↓に概要がありますので、あわせてご覧ください。

夕学五十講楽屋blog:「五感と実質価値を提供する」 須藤実和さん






『ドリルを売るには穴を売れ』

ドリルを売るには穴を売れ ドリルを売るには穴を売れ
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2006-12-23

「寺子屋」で、マーケティングの本をいくつか紹介するといいながら、横道に逸れたエントリーばかりで・・・。

今回は、本筋に戻り、マーケティング本の紹介です。
とくに、マーケティングって何?、いくつかマーケティングの本を読んだけどピンとこなかった、というような入門者向きの本から、紹介します。

本書の題名をみて、「マーケティングの本だ」とわかる方は、すでにマーケティングを理解されている方だと思います。この「ドリルを売るには・・・」は、実はレビットという学者がだいぶ前に言った言葉で、マーケティングの本質を端的に示しています。
そして、個人的には、この本を読んで、「マーケティング・リサーチをやるには、やはりマーケティングを理解していないと」と強く思わされました・・・。

いつものように、まずはもくじから。

序章 ”マーケティング脳”を鍛える
第1章 あなたは何を売っているのか~ベネフィット
第2章 誰があなたの商品を買ってくれるのか~セグメンテーションとターゲット
第3章 あなたの商品でなければならない理由をつくる~差別化
第4章 どのようにして価値を届けるか~4P
第5章 強い戦略は美しい

いまの流行なのでしょうか、廃業寸前レストランの復活というサイドストーリーを絡めながら、マーケティングの本質をわかりやすく説明しています。
それは、もくじを見ていただければわかるように、マーケティングの理論を4つのポイントで説明しているからでもあります。確かに、マーケティングを学ぶ上では、他にもいろいろな理論や用語がありますが、マーケティングの「本質」を学ぶには、この4つでいいのかもしれません。(だからこそ、入門者向け、なのですが)
著者も、「序章」でつぎのように書いています。

もちろん、これは基本中の基本であり、これ以外のことも知っておいた方がもちろん良い。だが、その前にこの基本をおさえておかないと、次の応用・実戦などに進んでも、しっかりとした土台のないまま知識を積み上げていくことになってしまう。

ただし、本でマーケティングを学ぶことも大切ですが、地に足のついたマーケティングを行うには何が必要か。とくに、リサーチャーは、ともするとパソコンとにらめっこばかりになりがちなので、つぎの言葉は、心に留めておきたいものです。

「マーケティングは、お客様のココロの中で起きている」

そして、

マーケティング脳を鍛えるには、自分の身の回りから学べばよい。何かを買ったとき、買わなかったときに「なぜこの商品を買ったのか?」「なぜこの店で買ったのか」と考えていけばよいのだ。その裏には、売りたい人のマーケティングがあるはずだ。さらに家族の誰かが何かを買ったら、なぜそれを買ったのかを聞いてネタにすればいい。

これができるか、できないかで、ほんとうに大きな差がつきます。

それと・・・
少し本題からはずれるのですが、サイドストーリーの中に、集めたアンケート(紙)を一枚一枚読み込むシーンがでてきます。
いまのようにネット調査が主流ではなく、紙ベースでの調査が主だった頃、回答内容の点検をするために、ざっとではありますが一枚一枚の回答用紙を見ていたことを思い出しました。そうすると、回答をしてくれた方ひとりひとりの行動や意識のパターンがなんとなく想像されたものでした。これは、集計データという個をまったくなくしたものでは得られない情報だったと思います。この過程を経ることで、分析の際もある程度、「個」を意識したものになったと思います。
ネット調査では、これは難しい。データはすでに、Excel上の数字だけになってしまってますから。。。ネット調査がもたらした、ひとつの欠点といえるでしょうね。
(この視点については、「マインドリーダーへの道」さんのblogでも、もう少し詳しいエントリーがありましたので、こちらも参考にしてください。)

さて、本書に戻ります。
なんども書いてますが、マーケティングの本質を理解する上で、とくに入門者の方には、おすすめの本です。

【関連して】

同じように、マーケティングの入門としては、↓の本もいいと思います。こちらは、ほんとに小説仕立てで、理論的なことはポイント的にまとめられているだけですが。

マーケティングは愛 銀座ママ麗子の成功の教えシリーズ マーケティングは愛 銀座ママ麗子の成功の教えシリーズ
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2005-05-25

それと、どのようにお客様のココロに近づくかについては、こちらのエントリーで紹介している本が、役立つと思います。

本書とあわせて、読んでみてください。

『調査データ分析の基礎』

調査データ分析の基礎―JGSSデータとオンライン集計の活用 調査データ分析の基礎―JGSSデータとオンライン集計の活用
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2007-03

「超入門!マーケティングリサーチ・ハンドブック」と一緒に購入したのが本書。
正直に言うと、統計は苦手です、何度勉強しても真の理解に辿り着けているのか自信がもてない・・・。けれど、マーケティング・リサーチをやっている以上、ここから逃げることもできないので、いつもわかりやすい本はないかと探しているのです。

で、本書ですが、大学生向けのテキストとして書かれた本です。それも、社会調査士資格認定機構が定めている標準カリキュラムに対応していると。
まだ、流し読みしかしていませんが、基礎統計の本としては、わかりやすいのではないかという印象があります。構成も、ポイントで例題が用意されていて理解を助けてくれますし、各章末には課題がありWEB上で答えを確認できるようになっているという工夫もされていますので、独学で基礎統計を学ぶには手ごろな本ではないでしょうか。

もくじは、つぎのように基礎統計を網羅したものになっています。

第1章 調査データとは何か
第2章 社会調査の手順
第3章 多様な分析の方向性
第4章 公開データの利用
第5章 度数分布表
第6章 グラフ
第7章 代表値とばらつき
第8章 複数回答の扱い方
第9章 2変数のクロス集計
第10章 関連性を表す統計量
第11章 3変数のクロス集計
第12章 統計的推定の考え方
第13章 統計的検定の考え方
第14章 独立性の検定と比率の差の検定
第15章 平均値に関する推定と検定
第16章 分散分析
第17章 回帰分析の基礎
第18章 回帰分析の応用と一般線形モデル
第19章 ロジスティック回帰分析

あと、巻末に学習用の文献紹介もありますので、さらに統計について理解したい人は、こちらの本を参考にしながら、学習を進めていくとよいでしょう。

(くどいようですが・・・)
前々のエントリーも、調査とは、統計とはを真に理解していないことから起こるのだと思います。
そもそも、調査・リサーチは何のためにやるのか?という理解がなされていない、あるいはおぼろげにわかっていても、調査・リサーチで得られたデータとは何なのか?が理解されていないのだと思います。
調査・リサーチは、「今回の調査対象者そのものについて知りたいのではなく、調査対象者を含む母集団についての傾向を知るためのもの」であり、そのためには「サンプリングや代表性」の概念を理解しないことにはどうしようもありません。
ただ、よく統計の先生がいうように、「無作為抽出を行っていないデータは使い物にならない」などというつもりはなく、概念としてサンプリングや代表性ということを知らないと、データを読むときに誤ってしまうということが言いたいのです(完全な無作為抽出で調査を行うなんてことは、極めて困難な時代ですから)。
このあたりを理解せずに、無手勝流でリサーチを行い、データを分析して、結果が伴わないからといって、「調査は使えない」などと言われても・・・。

マーケティング・リサーチをやりたい方、少なくても本書に書かれていることはマスターしましょう。

『超入門!マーケティングリサーチ・ハンドブック』

マーケティングリサーチ・ハンドブック マーケティングリサーチ・ハンドブック
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2007-03

本屋をぶらぶらしていると、またマーケティング・リサーチに関する新刊書が。
ここ数年、マーケティング・リサーチに関する本、それも入門書として出版される本が多いように思うのですが、どうでしょう?以前は、マーケティング・リサーチに関する本といえば、専門書ばかりで、こんなに頻繁に出版されていなかったように思うのですが。。。
インターネット調査の出現でマーケティング・リサーチに対する垣根が低くなり、このような本への需要が高まっているのでしょうか?それはそれで喜ばしいことなのですが、前のエントリーで見たような「ちょっとどうなの?」と思うようなリサーチ結果も多くなり・・・。
マーケティング・リサーチをする前に、せめてこのような入門書くらいは読んでから、取り掛かって欲しいものです。(調査会社の人は、せめてここに書いてあることは、すべて理解しておいてほしいものです・・・)

ちょっと前置きが長くなりました(それも、愚痴っぽいですね、すいません)。
さて、本書です。標題に、「超入門」と書かれているように、マーケティング・リサーチについて一通りのことを理解できる内容になっています。

もくじを紹介します。

第1章 マーケティング・リサーチとは
      ~意外!あなたの身の周りで、こんなマーケティング・リサーチが
        行われている
第2章 マーケティング・リサーチを具体的に知ろう
      ~オーソドックスな手法を平易に解説、これを知ればとりあえず
        「リサーチ通」
第3章 リサーチャーってどんな人
      ~リサーチャーは地味な人?でも、その影響力はこんなに大きい
第4章 これがマーケティング・リサーチのキモ
      ~マーケティング・リサーチ4つのステップは、こうして実施される
第5章 インターネットリサーチは万能か?
      ~インターネットリサーチの欠点を知らなければ、あとで痛い目に会う

以前、このblogで紹介した、『マーケティング・リサーチはこう使え』は、リサーチ・ユーザーの立場から書かれた本でしたが、本書は長らく調査現場でリサーチを行ってきた人が書いた本です。ですので、マーケティング・リサーチに対する視点も当然異なり、内容的にはあまりかぶるところはありません。

「調査会社出身」の著者ならではで、本書は実査に関することに多くのページを割いています。ですから、調査を実際に行うにはどうしたらいいか、調査を実際に行う上でのポイントは何か、ということを知りたい方へお勧めしたい本です。
とくに、4章5節「実査の手抜きは命取り」と題されたパートは、他の本ではあまり触れられることのないもので、調査手法別に実査準備内容と実査上の注意がまとめられています。このパートを読むだけでも、この本の価値はあると思います。
調査会社に入社した新人リサーチャーは元より(新人ではなくても必要かもしれませんね・・・)、リサーチを発注する側の人にも、リサーチを完全に調査会社まかせにせず、このような実査のポイントは理解しておいてほしいものです。それが、ほんとうに意味のあるデータを得ることに繋がり、どれだけデータが信頼できるものか=自分の判断に自身を持てるのか、の分かれ目になります。

ただ・・・、
5章のインターネットリサーチに関する章は、少々食い足りない感じもします。書いてあることはその通りなのですが、もっと本質的に考えておかないといけないことが、インターネットリサーチにはあるように思いますので。
とはいえ、つぎのフレーズは、大いに同意します。

「知りたいことに対して、それを解決する最も適切なリサーチは何か」を常に考えることが大切です

ここで、問題を。
本書に、つぎのような事例が取り上げられています。

あるメーカーから相談を受けました。それによると、「競合メーカーで大きい容器に入ったお菓子を出して売上が伸びている。我が社もそれに対抗して大きい容器で出したらどうか、すでに試作品の容器はできている。手法はインターネット調査でやりたい」

さて、あなたはこの相談にどのように答えるでしょうか?
著者の回答は、本書でお確かめください。

4分の1がIE7ユーザー?、半数がCM見て検索?

「大西宏のマーケティングエッセンス」さんのblogで、『不満のない人が多いからといって、良い評価結果とはいえない』というエントリーがありました。

こういった調査の場合、世論調査ではないので、「不満」と「満足」のどちらが多いかで評判を決めるということにはなりません。いまどき、不満が少ないというのは当たり前であり、むしろどれだけ満足度を上げていくかが鍵なので、「満足」とズバリ答えた人の比率が重要になってきます。その結果が19.3%というのはちょっと微妙な結果で、常識的には、ややパワー不足の感が否めません。「やや満足」も19.3%であわせても満足派は38.6%という結果です。

このデータ解釈、まったく同意です。やはり、現場で数字を見ている人の感覚は、違いますね

で、今回のテーマとしてあげたいのは、もう少し別の視点から。
満足度の解釈もそうなのですが、そもそも素材として取り上げられた「全体の約4分の1はすでに IE7 ユーザー」が、どうなのかと。このblogへのアクセスでは、IE7は10%を少し超える程度。自分の感覚がすべて正しいなどというつもりはありませんが、どうも実態とそぐわないのではないかと感じて仕方がない・・・。

で、元リンクを確認してみると。
調査対象者を見てください。つぎのようになっています。

調査対象は、民間企業に勤務する20代から60代の男女330人。男女比は男性82.7%、女性17.3%。年齢別では、20代13.6%、30代47.0%、40代30.9%、50代7.3%、60代1.2%。地域別では、北海道1.5%、東北2.7%、関東34.5%、甲信越1.2%、東海30.0%、北陸1.8%、近畿18.2%、中国5.2%、四国1.8%、九州沖縄2.7%。

男性が8割。さらに30~40代が8割近い。
もしも、このリリースにタイトルをつけるとすると、「30~40代を中心としたビジネスマンでは、IE7ユーザーが4分の1」が、許せる範囲で、決して「全体の4分の1」ではない、と思うのですが、いかがでしょうか。

ついでなので、最近みたデータで、どうなのかなと思ったものを紹介します。
日経MJの2007.3.7の2面の記事、タイトルは「CM見て検索、半数が経験」というものです。
そこで、調査方法と対象者を確認すると、手法はインターネット調査、対象者は「週1回以上テレビを視聴する20代~50代の男女2000人」とあります。
ふむふむ・・・。
ポイントでも、「ネット利用者の」という言葉を使ってますし、上記の「全体の」とは違うので、ネット利用者ならこんなものなのかなと思ったのですが、問題はそのネット利用頻度。
平日プライベートの利用時間が、1時間前後が29%、2時間前後が24%・・・。
あれ、残りの半分は?と思うと、どうも、1時間未満と3時間以上が入っているよう。具体的な数字がないので、なんともいえないところではありますが、「平日」の「プライベート」利用で、2時間とか3時間ってどうなんでしょう?かなりのネット・ヘビーユーザーといえるのではないでしょうか?
感覚でものをいってもいけないので、ネット利用時間に関する調査がないかと探してみると、2005年のNHK国民生活時間調査で、つぎのような結果が(元資料はこちらです)。

今回の調査結果では、平日の国民全体のインターネットの行為者率は13%、その人たちの平均時間は1時間38分でした。そこで年層を20~50代に限定し、1時間30分以上インターネットをする人を「長時間利用者」として分析し、自由行動としてのインターネットを長時間する生活とはどのようなものかを考察してみました。

平日のネット利用率が13%、平均時間は1時間38分・・・。
となると、この日経MJの記事の調査対象者は、かなりのネット・ヘビーユーザーとなり、とても「ネット利用者」を代表していると言えないのではと思うのですが。。。
さらに、NHKの資料では、つぎのような見解も述べられています。

  • インターネットを長時間する人は仕事や家事などの拘束時間が短く、その結果自由時間が長い。つまり、インターネットを長時間するだけの時間的な余裕がある。
  • 自由時間が長い人がインターネットを長時間する傾向があるため、インターネットを長時間する人は、結局テレビも長時間見ている。

これをあわせて考えると、自由時間の多い人が、テレビを見る時間も、ネットをする時間も多く、そういう人は「CMを見て、半数が検索」、というのがどうも真実のような気がしてきました。日経MJの記事をよく読むと確かに、

さらに、テレビ視聴時間が長い層でインターネット使用時間も長い傾向がある。これはこのような層が平日に比較的プライベートの時間が多いことに加えて、テレビを見ながらインターネットを使っている可能性が高いことが考えられる。このような層に対して「ウエブ連動広告」が効果的に作用していることが考えられる。

と書いてありました。
だとしたら、「(自由時間の多い)ネットヘビーユーザーでは、CMを見て検索、半数が経験」という見出しをつけてもらわないと。この見出し=「CMを見て検索、半数が経験」では、ミスリードする可能性が高いでしょう。

それと、記事ではさらっとしか触れられていませんが、つぎのようなデータもあります。

「続きはウエブで」と誘導するテレビCMでは
 →WEB検索率=46%、商品購入経験率=18%
URLを知らせるテレビCMでは
 →WEB検索率=44%、商品購入経験率=22%
テレビCMを見て気になった商品を検索では
 →WEB検索率=64%、商品購入経験率=52%

・・・。
え?!、「続きはウエブで」よりも、「気になった商品を検索」の方が検索率も、商品購入率も高いじゃないですか。
ということは、「続きはウエブで」とか「URLを知らせる」ということをやるよりも、CM自体&商品自体の魅力を高める方が、検索率も購入経験率も高くなるということでは?・・・。

『つっこみ力』のエントリーでも書きましたが、データはこのように、分析者(記者?)の意図が反映されるものなのです。とくに、見出しだけで判断するのがいかに危険なことかがお分かりいただけると思います。

それと、もうひとつ。インターネット調査のデータを読むときは、「答えている人が誰か」ということを、きっちり確認し頭に入れてデータを読まないといけない。とくに、PCやネット関係の調査のときは、要注意です。(このあたりのことについては、寺子屋でも近々テーマとして取り上げるつもりです。)

PS.
だからといって、「ネット調査はダメだ」などというつもりは毛頭ありません。
要は使い方と、データの読み方です。

『花王の日々工夫する仕事術』

花王の「日々工夫」する仕事術 花王の「日々工夫」する仕事術
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2006-05-27

実はずいぶん前に読んでいたのですが、紹介するまでもないかなと思っていました。まんまと、「あたりまえ」の罠にはまっていたと反省です・・・。

筆者は、花王と長い間専属契約を結んでいたライターなので、等身大の「花王マン」の仕事ぶりが描かれています。書かれていることは、さらっと読んでしまうと、至極あたりまえのことに思われますが、よく読むと、日々の仕事に活かせることが随所に散りばめられています。これに気づくかどうかが、本書を読んで価値を得るかどうかの分かれ目になるのでしょうが・・・。

「はじめに」で、本書を書くきっかけについてつぎのように書かれています。

花王の成長の秘密は、「当たり前のことを当たり前にやる」強みだといわれます。それは確かにそうでしょうが、多くの花王社員に接した結果、「当たり前のことを自分で工夫する」のも大切だと思うようになりました。
この本に出てくる花王社員の仕事ぶりは「きわめてフツー」です。みなさんのなかには「こんな程度なの?」と思う人がいるかもしれません。ただし地道に日々の業務に取り組みながら、“自分なりに工夫”しています。そんな個人の工夫が、チームとして、会社としての「総合力」に結びつく。それが花王のもうひとつの真骨頂といえます。

さて、では「フツー」と「工夫」がどのように紹介されているか。いつものように、もくじを紹介しておきます。

1章 常に考えて「新たな展開」につなげる
    ~花王マンの「商品開発」に学ぶヒント
2章 「従来のよさ」と「新しさ」を使い分けて進む
    ~花王マンの「商品マーケティング」に学ぶヒント
3章 顧客への密着で「新たな提案」をし続ける
    ~花王マンの「販売・販促現場」に学ぶヒント
4章 「専門性」を打ち出し、「存在感」を高める
    ~花王マンの「原料調達・生産・物流現場」に学ぶヒント
5章 消費者の“真意”を探り、ファン獲得をめざす
    ~花王マンの「消費者交流」に学ぶヒント
6章 「聞き手の関心」を考え、自分の言葉で熱心に伝える
    ~花王マンの「話し方・プレゼン」に学ぶヒント
7章 「親切」「ていねい」がすべてにまさる
    ~花王マンの「人とのつき合い方」に学ぶヒント
8章 「効率性」と「根回し」を使い分ける
    ~花王マンの「会議・ミーティング」に学ぶヒント
9章 「柔軟」に受け入れ、「頑固」にこだわる
    ~花王マンの「風土・体質」に学ぶヒント
10章 「何を得たか」を重視して、「今後の活動」につなげる
    ~花王マンの「失敗」に学ぶヒント

本書の一番最初に紹介されている「トップブランドの全面刷新に結びついた母親の洗濯」は、まさに「カンブリア宮殿」でも紹介されている事例です。

冒頭でも書いたように、ほんとうにさらっと読めてしまう本です。
しかし、「自分はどうか」という視点で読み返すと、なかなかできていないことも多いことに気づくと思います。
本書を、「つまらん」と感じるか、「なるほど」と感じるかは、読み方ひとつです。
(か、ふだんから、当たり前のことをやる、少しでも工夫しながらやる、ということが身についている人ですね。そういう人は、本書を読む必要は無いでしょう。)

「花王マン」の仕事ぶりに興味のある方、ふだんの自分の行いを顧みたい方、少しでも仕事のヒントを得たいと思う方、一読ください。