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『星野リゾートの事件簿』

星野リゾートの事件簿 なぜ、お客様はもう一度来てくれたのか? 星野リゾートの事件簿 なぜ、お客様はもう一度来てくれたのか?
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2009-06-18

今回、紹介するのはリサーチとはあまり関係ありません。HRMをテーマとしている本です。
個を信じ、そのパワーを活かした組織運営が個人的に好きなのですが、本書はこの志向にドンピシャ、紹介をしたくなった、ということです。

「軽井沢・ほしのや」
皆さん、この旅館(といっていいのか迷いますが・・・)をご存知ですか?
そのホスピタリティの高さと、リノベーションの成功事例として、よく紹介されています。そして、運営会社の星野リゾートが、ホテルや旅館の再生に際して、どのような組織運営、HRMで取り組むのかについても。

本書には、この星野リゾートが、ホテルや旅館をどのように改革していったのか、とくに社員をどのように育てているのかを中心にした物語が11編収められています。
いずれの事例も、核になる社員が、何を考え、周りをどのように巻き込んでいくのか、その時に社長である星野佳路氏がどのように判断し、行動したのか、について紹介している内容になっています。
社員の育成、とくにサービス業における組織運営や人材育成について考えるときの、参考になればと思います。

たとえば、つぎのような言葉に共感を覚えます。

お客様の要望や期待と直接向き合うのは、社長や経営幹部ではない。あくまで現場のスタッフである。お客様にとっては、自分に対応しているスタッフ一人ひとりの判断こそが、星野リゾートの判断である。スタッフの判断の質が、星野リゾートのパフォーマンスを決めるのである。(P218)

さて、
マーケティングリサーチ業界も、まさにサービス業です。(ただ、後日での検討でも許してもらえることが少なくない点で、宿泊施設や飲食施設などの接客サービスほどの厳しさがありませんが。)
先の引用は、マーケティングリサーチ企業にもあてはまると思います。

最新の『マーケティング・リサーチャー(NO.109)』に、リサーチ業界の「経営業務実態調査&経営動向調査」の報告が添付されているのですが、その中の「当面の経営上の問題点」として、「中堅リサーチャーの不足」が39%と、三番目に高い項目としてあげられています。単純に解釈してしまえば、多くのリサーチ会社が社員の育成に失敗しているということなのかもしれません。
では、どうしたらいいのでしょうか・・・?
このような視点(リサーチ業界における人材問題)で、この本を読むのも、ありだと思います。

このように、本書のテーマは組織運営、HRMなのですが、一方で、星野リゾートは徹底的なリサーチ志向でも有名です。
たとえば、山梨県にあるリゾート施設「リゾナーレ」。ここでの経営を引き継いだ際に、ゼロベースで経営方針を再構築するために、「コンセプトづくり」からスタートします。

星野はコンセプトを固めるために、外部の調査会社を使い、リゾナーレの顧客分析を徹底的に進めた。(p140)

とあります。そして、重要なのは、この調査結果をどのように活用し、どのような議論をし、どのような意思決定をおこなっていくのか、です。本書では、この過程が描かれています。
大切なのは、調査結果そのものよりも、その結果をどう解釈し、納得し、行動に結び付けていくかであることを感じることができると思います。調査結果が絶対なのではありません、それをベースに、「自分たちがどうありたいのか」を考えることが重要だと思います。
このような場面は、本書では多くは描かれていませんが、ところどころに、リサーチのヒントになりそうな記述もありますので、このような視点でも、本書を読むことができると思います。

組織運営や人材育成に迷っている方、読んでみてください。
また、なんとなく元気になりたいとい思っている人にも、いいかもしれません。

(個人的には、ここに紹介されている施設、全部に行ってみたい・・・)

PS.
星野社長は、NHKの番組『プロフェッショナル』での、第1回ゲストでした。
このときの番組内容が本とDVDになっています。興味をもたれた方は、こちらもあわせてどうぞ。
こちらでは、星野社長がいまの運営形態に至る過程が、詳しく描かれています。

プロフェッショナル 仕事の流儀〈1〉リゾート再生請負人・小児心臓外科医・パティシエ プロフェッショナル 仕事の流儀〈1〉リゾート再生請負人・小児心臓外科医・パティシエ
価格:¥ 1,050(税込)
発売日:2006-04
プロフェッショナル 仕事の流儀 リゾート再生請負人 星野佳路の仕事 ”信じる力”が人を動かす [DVD]
価格:¥ 3,675(税込)
発売日:2006-09-22

『花王の日々工夫する仕事術』

花王の「日々工夫」する仕事術 花王の「日々工夫」する仕事術
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2006-05-27

実はずいぶん前に読んでいたのですが、紹介するまでもないかなと思っていました。まんまと、「あたりまえ」の罠にはまっていたと反省です・・・。

筆者は、花王と長い間専属契約を結んでいたライターなので、等身大の「花王マン」の仕事ぶりが描かれています。書かれていることは、さらっと読んでしまうと、至極あたりまえのことに思われますが、よく読むと、日々の仕事に活かせることが随所に散りばめられています。これに気づくかどうかが、本書を読んで価値を得るかどうかの分かれ目になるのでしょうが・・・。

「はじめに」で、本書を書くきっかけについてつぎのように書かれています。

花王の成長の秘密は、「当たり前のことを当たり前にやる」強みだといわれます。それは確かにそうでしょうが、多くの花王社員に接した結果、「当たり前のことを自分で工夫する」のも大切だと思うようになりました。
この本に出てくる花王社員の仕事ぶりは「きわめてフツー」です。みなさんのなかには「こんな程度なの?」と思う人がいるかもしれません。ただし地道に日々の業務に取り組みながら、“自分なりに工夫”しています。そんな個人の工夫が、チームとして、会社としての「総合力」に結びつく。それが花王のもうひとつの真骨頂といえます。

さて、では「フツー」と「工夫」がどのように紹介されているか。いつものように、もくじを紹介しておきます。

1章 常に考えて「新たな展開」につなげる
    ~花王マンの「商品開発」に学ぶヒント
2章 「従来のよさ」と「新しさ」を使い分けて進む
    ~花王マンの「商品マーケティング」に学ぶヒント
3章 顧客への密着で「新たな提案」をし続ける
    ~花王マンの「販売・販促現場」に学ぶヒント
4章 「専門性」を打ち出し、「存在感」を高める
    ~花王マンの「原料調達・生産・物流現場」に学ぶヒント
5章 消費者の“真意”を探り、ファン獲得をめざす
    ~花王マンの「消費者交流」に学ぶヒント
6章 「聞き手の関心」を考え、自分の言葉で熱心に伝える
    ~花王マンの「話し方・プレゼン」に学ぶヒント
7章 「親切」「ていねい」がすべてにまさる
    ~花王マンの「人とのつき合い方」に学ぶヒント
8章 「効率性」と「根回し」を使い分ける
    ~花王マンの「会議・ミーティング」に学ぶヒント
9章 「柔軟」に受け入れ、「頑固」にこだわる
    ~花王マンの「風土・体質」に学ぶヒント
10章 「何を得たか」を重視して、「今後の活動」につなげる
    ~花王マンの「失敗」に学ぶヒント

本書の一番最初に紹介されている「トップブランドの全面刷新に結びついた母親の洗濯」は、まさに「カンブリア宮殿」でも紹介されている事例です。

冒頭でも書いたように、ほんとうにさらっと読めてしまう本です。
しかし、「自分はどうか」という視点で読み返すと、なかなかできていないことも多いことに気づくと思います。
本書を、「つまらん」と感じるか、「なるほど」と感じるかは、読み方ひとつです。
(か、ふだんから、当たり前のことをやる、少しでも工夫しながらやる、ということが身についている人ですね。そういう人は、本書を読む必要は無いでしょう。)

「花王マン」の仕事ぶりに興味のある方、ふだんの自分の行いを顧みたい方、少しでも仕事のヒントを得たいと思う方、一読ください。






『空飛ぶタイヤ』

空飛ぶタイヤ 空飛ぶタイヤ
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2006-09-15

少しだけマーケティング・リサーチを離れて・・・。
最近、新書やビジネス系の本ばかり読んでいましたが、久しぶりにエンターテイメント系の本を読んで、これがヒット、一気に読んでしまいました。(500ページ近い、それも2段組の本なのに!)

題名をみてピンと来る人もいるかもしれませんが、実際に起こったある事故をモチーフとしたフィクションで、組織というか、サラリーマンを見事に描いていると思います。
帯には、つぎのようにあります。

マンション耐久強度偽装やエレベーター事故、いじめの事実隠蔽などのニュースを見聞きするたび、なぜ大人が責任のなすりつけ合いを何ヶ月も続けるのか、私はつねづね不思議に思っていたのだが、この小説を読んで「ああ、こういうことであるのか」と深く納得した。(中略)じつに牽引力のあるエンターテイメント小説であり、同時に、人間性を疑うような事件の多い現在への、痛烈な批判でもある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・角田光代氏(朝日新聞11/5読書欄より抜粋)

この本を読んでいるとつくづく思います。
「顧客第一」という言葉を社是・社訓にしている会社は、それこそ星の数ほどあるでしょう。ない会社を探す方が難しいくらいかもしれません。
なのになぜ、雪印、パロマ、不二家、それに損保会社・・・、同じような事件が次々と続くのか?
そして、このような事件が起こると必ず、「体制はどうなっていたんですか?、制度はどうなっていたんですか?」という質問がなされます。そして、「今一度、社内の体制を見直し・・・」という、毎度おなじみの返答が繰り返される。
なのに、なぜ・・・。

答えはやはり、「人の弱さ」なのでしょう。
「ポジション」のもつ権力の魔力、そしてポジションがあたかもその人自身の力であるかのような錯覚を与え、その力で人を従わせようという気持ちを持った人が現れる。そして、そのポジションを得ることへの執着とそのポジションを守ることへの執着が、正常な判断を無くし、顧客を見えなくし、社員を見えなくし、制度や体制を形骸化させる。さらに、ポジションをもった人に汲々とつき従うだけの人々が、判断を放棄し、顧客を見なくなる。
全体として、内向きの力ばかりが強大化して、「ひらめ」や「かます」「ゆでがえる」が大量発生していく。
いくら、組織や体制、制度をいじっても、それを運用する人が、「ポジション」という見せ掛けの力に惑わされる限りは、同じことが続く。

そして、「愛社精神」はあるのに、「愛社員心」という言葉はない。
「会社がなくなれば、社員もなにもない」という理屈はよく聞かれますし、否定するつもりもありません。けど、「社員がいない会社も存在しない」ということは、ないのか?
人は組織のためにだけ、存在しているのか?

実際、太古の昔から繰り返されていたことですから、人のもつ業なのかもしれません。
映画「墨攻」での梁王しかり。この映画もおすすめです。)

結局、このような愚かな繰り返しを断ち切るには、『経営戦略を問いなおす』でも言われていたことに行き着くのではないかと思います。
最後は、「人」です。それも、「事業観」をもった経営者の力量です。
お客様に、そして社員に支えられていることを忘れずに、そして自分たちの会社の存在意義を常に指針として、考え、行動できる、そして人を見極める力量をもった経営者が一人でも多くなることを願わずにはいられません。

沈まぬ太陽」や「クライマーズハイ」と繋がる感じでしょうか。これらの本が好きな方は、きっと、はまると思います。
(個人的には、「個人対組織」をテーマにした本や映画に弱くて・・・。「踊る大捜査線~レインボーブリッジを封鎖せよ!」を見ながら、泣いてしまったくらいで^^;)。

雪印、パロマ、不二家・・・、これらの事件がどうして起こるのか、会社とは何か、個人とは何かを考えるには絶好の書だと思います。
前回の直木賞候補作でもあり、ミステリー、エンターテイメントとしても、断然のお勧めです!

PS.
最後に、マーケティング・リサーチっぽいことも少し。
この本の中に、つぎのような文章がでてきます。

カスタマー戦略課の業績考課は、顧客アンケートによるCS、つまり顧客満足度で測定することになっている。アンケートは年4回、四半期毎の実施だ。当初からこの査定方法について「正確に測れるのか」という疑問の声が上がっていたものの、過去二回は期待値を下回り、「カスタマー戦略課なにやっている」と叱責の声があがった。

きっと、これも多くの企業でみられる光景なのでしょうね・・・。
それも、アンケートをすること自体が目的となり、満足度の数値だけが目標となり、すべての基準となる。
池井戸さんわかってるな、とニヤっとさせられました。。。

『経営戦略を問いなおす』

経営戦略を問いなおす 経営戦略を問いなおす
価格:¥ 735(税込)
発売日:2006-09

前のエントリー(「業界再編の予感・・・」)で、「対して、民族系(日本資本という意味)・独立系・非装置系のリサーチ会社は、どのような戦略を描くのか・・・。」などと書いてしまいましたが。。。

では、「戦略」とはなんぞや?

買ったままで未読だったこの本を思い出し、さっそく。
すでに多くのblogでも紹介されていますので、詳しい内容については、つぎのblogなどをあわせてご覧ください。

経営の戦略と自らのビジネスライフ戦略(大西宏のマーケティングエッセンス)

経営戦略を問いなおす(Outlogic)

自分自身、これまでも戦略系の本を多少かじってきましたが、これまでのものに比べ、腑に落ちることが多かった本です。
いつものように、まずもくじから。

第1章 誤信
     1.いつでも誰でも戦略?
     2.何が何でも成長戦略?
     3.戦略はサイエンス系?
第2章 核心
     1.立地
     2.構え
     3.均整
第3章 所在
     1.戦略は部課長が考えろ?
     2.我が社には戦略がない?
     3.戦略は観と経験と度胸!
第4章 人材
     1.企業は人選により戦略を選ぶ
     2.傑物は気質と手口で人を選ぶ
     3.人事は実績と知識で人を選ぶ
第5章 修練
     1.文系学生に送るメッセージ
     2.中堅社員に送るメッセージ
     3.幹部社員に送るメッセージ

このもくじ、きちんと「?」と「!」の使い分けには注意してみてください。でないと、著者が伝えようとしていることと逆のメッセージを受け取ってしまうので。

引用したい箇所が多すぎます。
それだけ、「つぼ」にはまった本です。
「戦略」とは何か?、そして、日常的に組織で行われている「戦略論」というものが、いかに本質をはずれたものであるかを納得させられます。(ただし、少しは社会人経験があり、組織・企業というものの不可思議さや理不尽さを経験していないと、この本のほんとのよさはわからないかもしれません。。。)
それは、『既存の戦略論が形から入る一般論だとすれば、これは戦略の現場から発想した実践論のつもりです』(「あとがき」より)、だからでしょう。

本文からの引用は難しい(長くなる)ので、著者自身が各章の扉でまとめているエッセンスを中心に、いくつかを紹介します。

・本当の戦略は、戦略の限定性を認識するところから始まる
・本当の戦略は、売上を伸ばすことを目指すものではなく、売上を選ぶもの
・本当の戦略は、主観に基づく特殊解
・戦略とは、「立地」「構え」「均整」
・戦略を実行部隊に委ねるのは話が違う、戦略まで決めろというのは行き過ぎ
・日本企業は、本社経営陣とミドルに挟まれた事業部長の職に矛盾が集中
・戦略は次々と飛び込んでくる情報への処し方で決まる
・戦略は頂に座する人(=経営者)に宿る
・戦略が人に宿るとすれば、戦略そのものを選ぶことはできない、そのかわり、人を選ぶことで戦略を間接的に選ぶという図式が成立する
・人選の基準は、幼少期や学齢期に身につける「気質」と、30代の仕事を通して身につける「手口」
・学生時代にしかできないこと、それは一般教養を体系的に身につけること
・愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
・経営職を目指すならば、中堅社員と呼ばれる時期(30代前半)に、個人としての精神の自立を遂げておくべき
・いくら今いる世界が地盤沈下を起こしていても、そこが知り尽くした明るみである以上、人はなかなか暗闇(無知の世界)へ足を踏み入れようとはしない⇒ジリ貧へ

そして、著者の戦略論の本質。それは、「経営の営為」が「結果(業績)」につながるということではなく、『結果につながる本当の原因は、営為の背後に控える「事業観」にあるのではないかという見方が浮かんできたのです』(「あとがき」より)。
だから、「戦略」を語れるのは、事業観をもった経営者だけだといえるのだと思います。

いかがでしょう?
少しでも興味をもたれた方は、ぜひ本書をお読みください。
決して、読みにくい本ではありませんので。
(大西さんのblogにあるように、自分のビジネスライフ戦略のために読むのも、有益だと思います)

(少し、寄り道してしまいました。次回からは、寺子屋に戻ります。今週中には・・・)

『サントリー、知られざる研究開発力』

サントリー 知られざる研究開発力―「宣伝力」の裏に秘められた強さの源泉 サントリー 知られざる研究開発力―「宣伝力」の裏に秘められた強さの源泉
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2006-11-03

理論ではなく、もう少し事例よりの本も紹介しておきます。
ここ数年、「伊右衛門」や「-196℃」「ザ・プレミアム・モルツ」など、ヒット商品が続くサントリーですが、その研究開発がどのように行われてきたのかを紹介した本です。
これまで、サントリーといえば宣伝広告力に焦点があてられることが多かったですが、本書は研究開発の視点で書かれています。

取り上げられているテーマ(商品)が多いので、それぞれについては食い足りない面もありますが、やはりいくつかのところで、リサーチが活用されていることが見て取れます。

もくじは、つぎのようになっています。

第1章 「伊右衛門」の記録的な快進撃
第2章 プレミアムビールで躍進するビール事業
第3章 「-196℃」が低アルコール飲料市場を拡大
第4章 トップブランドを急追する「BOSS」
第5章 急拡大が続く健康食品事業の戦略
第6章 世界で初めて咲かせた「青いバラ」
第7章 水と生きる-佐治信忠社長に訊く

この中でおもしろいのは、やはり「伊右衛門」でしょうか。
消費者調査のどのようなファインディングから「福寿園」との共同開発に至ったのか、味に対する消費者ニーズをどのように商品として成立させていったのか、ネーミングはどのように決定していったのか、などが明らかにされています。

中でも、共同開発者である福寿園の主任研究員が語るつぎの言葉に、やはりトップメーカーのリサーチに対するスタンスが、うかがえると思います。

私たちも消費者調査をしますが、今回のサントリーさんほど徹底してやることはありません。私たち生産者が考えて作ったお茶商品を「これでどうですか」と提案する形で販売してきましたが、サントリーさんの商品づくりは違うと痛感しました。お客様の声をこれほど執拗に聞きだし、それを商品開発に反映させようとする執念には圧倒され、凄みすら感じました。その一方で、お客様はお茶の専門家ではないので、お客様の主張をそのまま反映するわけではなく、お客様の意見を入れながらも、それによって変わるバランスをより高い次元でまとめていく。その味はお客様にとっても、新たな驚きや納得感になるというわけです。このあたりの執拗な改善努力はすばらしいと思いましたね。

このような企業本につきまとう「まとまり感」「きれい感」はありますが、リサーチを徹底的に行い、しかもただ「聞く」だけではない、振り回されない。この姿勢こそが重要だと思います。
やはり、「新たな驚きや納得感」を、リサーチを使いながら、どのように出していくのか。
ここがリサーチが使える、使えないの差になるのではないでしょうか。

「伊右衛門」だけに焦点をあてた本も出ているようです。
興味のある方はこちらもどうぞ。
(ただ、どの程度開発について明らかにされているかはわかりません。。。)

なぜ、伊右衛門は売れたのか。 なぜ、伊右衛門は売れたのか。
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2006-04-20

『故事成語でわかる経済学のキーワード』

故事成語でわかる経済学のキーワード 故事成語でわかる経済学のキーワード
価格:¥ 882(税込)
発売日:2006-11

ついでに、もう1冊。
行動経済学関連の本を読んでいる時に、見つけた本です。

題名のとおり、故事成語を引用しながら、経済学のキーワードを学んでしまおうというものです。まさに、「一石二鳥」です。
本書の狙いについて、「温故知新~はじめに」でつぎのように書いています。

私がこの本で試みたのは、ともすれば難解であると敬遠されがちな経済学的な考え方と経済学のキーワードを、故事成語を用いて格調高くしかも心に残るように解説することである。

とりあげられている故事成語と経済学のキーワードは28個で、たとえばつぎのような感じです。

覆水盆に返らず~サンク・コスト
矛盾~トレードオフ
他山の石~分業と専門の経済効果
洛陽の紙価を貴ぶ~価格理論
朝三暮四~フレーミング効果
完璧~データの経済学的解釈
敗軍の将は兵を語らず~結果論はなぜいけないのか
三顧の礼~長期的関係とインセンティブ

行動経済学を学ぶにしても、ベースにあるのは経済学であり、経済学の考え方をまったく知らずには、理解も難しいと思います。
そこで、本書で経済学の考え方の雰囲気を学んでおくのはどうでしょう?

それと、関心したのは、見事な「読み替え」です。
本などを通じて事例を学ぶことの意味は、読み替えだと思っています。「所詮、他の会社の事例でしょ?それに、どうせ良いように書いてあるんだろうし」ということで、事例を学ぶことに懐疑的な意見も聞かれますが、そこに書いてあることから、何を学ぶか、どう活かすかということを考えることが大切なんだと思います。
古典や事例を、どのように他の事象にあてはめて考えるのか?、この本はこんな視点でも読むことができるのではないでしょうか。

そして、中国古典が好きな方=宮城谷氏の本や三国志にはまったことがある方も、様々なストーリーに隠された故事成語をもう一度確認してみるのも、また楽しいですよ。

通勤通学や、夜寝る前などに気軽に読んで、故事成語と経済について学ぶことのできる本書は、お勧めです。

『レバレッジ・リーディング』

レバレッジ・リーディング レバレッジ・リーディング
価格:¥ 1,523(税込)
発売日:2006-12-01

今回は、リサーチを離れた本の紹介です。
以前、どこかで「乱読のすすめ」を書いたと思いますが、このことをうまく整理してくれている本が出ています。
副題に、「100倍の利益を稼ぎ出すビジネス書「多読」のすすめ」とあります。

著者は、本を読むことについて、つぎのように書いています。
(ただし、ここでいう「本」は、ビジネス書のことです)

ビジネス書には世界的な経営者や、さまざまなビジネスで成功した人のノウハウが詰まっています。熊谷さんのお父さんの言われるとおり、汗水たらし、血のにじむような努力をした人の数十年分の試行錯誤の軌跡が、ほんの数時間で理解できるよう、本の中には情報が整理されているのです。

実際のビジネスがスポーツ選手にとっての試合だとしたら、ビジネスパーソンが本を読むことは、スポーツ選手にとっての練習にあたります。つまり、本を読まないビジネスパーソンは、練習しないでいきなり試合に臨むスポーツ選手のようなものです。(・・・中略・・・)練習すればするほど上達するように、読めば読むほど、実践に使えるベースが貯まっていきます。この累積効果により、レベルアップして仕事ができるようになります。だからこそ、たくさんの本を読むことが必要なのです。

そして、誤解しないでほしいのは、たくさんの本を読み、いろいろな人の意見を参考にするからといって、決して他人の意見を鵜呑みにするわけではないということです。むしろ、一人の人間の言うことだけに耳を傾けても丸ごと信じてしまわないためにも、なるべくたくさんの本を読むのです。

いかがでしょう?
なるほどと思う方は、この本を読んでみてください。この本には、つぎのような内容が書かれています(カバー袖からの引用です)。

・速読とは違う多読のメリットとは?
・膨大な書籍から、良書を選び出すには?
・一日一冊を読みこなす効率的な本の読み方とは?
・読書のための環境と時間はいかにして作り出すか?
・読んだままで終わらせないための工夫とは?
・本のエッセンスを実践に結び付けるには?

人が、実際に経験できることなんて、たかが知れています。とくに、リサーチャーは、クライアントの仕事について実際に経験できることなど、ほとんどありません。
しかし、クライアントがどんな仕事をしているのか、その業界での現在の課題は何なのか、もっと広く今の世の中で焦点となっているテーマは何なのか。このようなことについては、常に意識していることが重要です。
そのために、本ばかりでなく、新聞や雑誌を読むことも必要ですし、テレビを見ることも、とても大切なことになると思います。

ただ、最後の方で著者も言っているように、知識だけで十分ということではない、ということも心に留めておいてください。稲盛和夫氏のつぎの言葉を、引用しています。

「知識に経験が加わってはじめて、物事は『できる』ようになるのです。それまでは単に『知っている』にすぎない。情報社会となり、知識偏重の時代となって、『知っていればできる』と思う人も増えてきたようですが、それは大きな間違いです。『できる』と『知っている』との間には、深くて大きな溝がある。それを埋めてくれるのが、現場での経験なのです」

『ビジネスマンのための心理学入門』

ビジネスマンのための心理学入門 ビジネスマンのための心理学入門
価格:¥ 730(税込)
発売日:2004-09

マーケティングやリサーチを行っていく上で、心理学の知識はとても重要です。
ほんと?、と思っている人には、まず、この本からどうぞ。
著者は、様々な著作を出している精神科医の和田先生で、ビジネスの場面で心理学がどのように役立つのかについて書かれている「心理学入門」です。

この本は、大きく3つのテーマで書かれています。

  • 職場の心理学の視点
  • マーケティングで使う心理学の視点
  • そして、心理学を学ぶにはどうするのか

なので、マーケティングやリサーチに役立つ視点での記述は、全体の1/3程度です。
もくじを引用すると、こんな感じです。

序章  サイコロジカルビジネスとは何か?
第一章 心理学を学ぶと世の中が正確に見えてくる
第二章 心理学を使って相手をコントロールする
第三章 心理学をどこで学べば良いのか
第四章 たった6作で学べる「ビジネス心理学理論」
第五章 ビジネスの場面での仮説の立て方
第六章 日本の未来はどうなるのか
終章  世界中でサイコロジカルビジネスが必要になる

「ビジネスと心理学ってどう結びついているの?」「心理学って、ビジネスに本当に役立つの?」と思っている方には、参考になる本だと思います。
また、マーケティングやリサーチ以外でも、職場でのマネジメントに悩んでいる方にもヒントとなることがあると思います。

著者もあとがきで、つぎのように書いています。

患者にしろ、心理ビジネスのクライアントにしろ目の前にいる人を助け、成功に導くためには、なるべく多くの処方を用意しておいたほうがいい、それだけの話である。
だから、本書の内容も少なくとも知っていることが邪魔になるとは思えない。たった一つでも二つでも使えそうだと思えるものがあれば、それだけでも頭に残してもらい、使う機会があれば、本の値段と、それを読むのにかけた時間のもとくらいは取れるだろうし、ひとつのアイデアで押したものと比べるとリスクは少ないはずだ。

同意です。
リサーチを究めようとするなら、様々な視点での知識が必要になります。
そのためにも、乱読は必要だと思っています。
とくに、いまは新書がつぎつぎに出版される、幸せな時代です。
(書籍の紹介なのか、乱読のすすめなのか、わからなくなってしまいましたが・・・)

これまでビジネスを行う上で心理学についてあまり考えたことがなかった人、本書をきっかけとして、心理学にも興味をもってもらえると、仕事の幅も広がると思います。

「情報のさばき方」

情報のさばき方―新聞記者の実戦ヒント 情報のさばき方―新聞記者の実戦ヒント
価格:¥ 756(税込)
発売日:2006-10

(すっかり、本紹介のblogと化していますが・・・。)

実は、まだ読了していないのですが、これはマーケティング・リサーチャーにとっては必読の本だと感じ、早々にアップすることにしました。

著者は、朝日新聞の編集局長です。情報のさばき方について、つかむ=収集、よむ=分析・加工、伝える=発信の3つの視点から解説しています。
収集・分析・加工・発信(報告)は、マーケティング・リサーチャーの仕事そのもです。
だからでしょうか、至るところにリサーチャーが心がけるべき視点がちりばめられています。

いわく、

疋田さんはインタビューについて、「こちらのおしゃべりは最小限に止めるようにしている」と書きます。続けてこう心得を説いています。「間違っても、こちらの論理を押し付けて相手を誘導することがないように心掛けている。とりわけ寡黙なひとの場合に、そうする。じれないで、何分間でも、その人の答えが出てくるのを待つ」。ここが肝心です。

まさに、グループインタビューやデプスインタビューのポイントです。

また、このような文章もあります。

新聞記者に限らず、人は経験を積めば積むほど、既知の事項から割り出したある種の推量や、世故に倣った「常識」で物事を判断しがちです。・・・(中略)・・・先入観や固定観念、自分の頭で考えた表現や論理を相手に押し付けてしまえば、記者は事実を発見することなく、逆に事実を自分の見方や考え方の鋳型にはめてしまうだけなのですから。

データを読むときには、厳に戒めなければならないポイントです。しかし、陥りがちなポイントです。「記者」を「リサーチャー」と置き換えても、そのままリサーチの世界にも当てはまります。

次のような文章もあります。

仮説なしに現場に行った場合、記者は自分で何を見聞きしているのかわからず、散漫な印象だけを残して帰る、といったことがしばしば起きがちです。自分が何を見ようとしているのか、意識化する前段の作業があれば、どこで、なぜその仮説が裏切られたのかを検証することができます。

「調査は仮説をたててから」、ということもリサーチの世界ではよく言われることです。
仮説のない調査をしてしまうと、データの山に埋もれてしまい、どこから、どうデータを読めばいいのかわからなくなってしまいます。

リサーチについて書いてある本だと、見過ごしてしまいそうなポイントが、このように別の職業の方の本で読むと、「なるほど」と思わせられるから不思議です。
まだ途中なので、これからどんな共通点が見つかるのだろうという期待感でいっぱいです。。。

あとは、皆さんで「これは」という文章を探し出してください。