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リサーチャーをめざす人へ(2)

owl 前回は、Q子さんにつられて、だいぶ実利的な話になってしまったけど、今回は、調査会社がどんな仕事をしているのか、どういう資質や能力が求められているのかについて。

Q子 お願いしま~す(^^)

owl ・・・。
では、調査会社の仕事。調査会社の主な仕事は、一般的には、クライアントの課題解決のために、リサーチの企画・設計をして、実際にデータを収集・分析・報告すること。だから、必ず実査を伴うことになるし、この実査をいかに正確に、効率的に行うことができるかが大切になる。そして、忘れないでおいて欲しいのが、適切なリサーチデザインを企画・設計するには、実査の現場を知らないといけないということ。学術的な正確さとか、理想の調査は確かにあるんだけど、現場では様々なことが起こるからね。「データを集める」と一言で簡単に言うけど、いろいろな作業工程がある。どのような作業が行われていて、どんなことに留意しなければならないのかについて、理想と現実のギャップを認識して、それをリサーチの企画・設計にどれだけ反映できるかということが、とても大切なことになる。
だから、調査会社に入ったら、一度は実査セクションを経験することはとても大切なことだと思う。

Q子 でも、実査って、泥臭いって書いてあったような・・・。嫌だな・・・。

owl どんな仕事でも、泥臭い部分はあるし、そんな仕事をしてくれている人がいるから、企業が成り立つんだよ。どうも、表面的なかっこよさとか、きれいなところしか見ない人が少なく無いし、そういう泥臭いところを嫌がってすぐに会社を辞める人もいるけど、それは違うと思うよ。
メーカーだって、工場で商品を製造してくれている人がいるし、営業で商品を売ってくれる人がいてはじめて、商品がお客様に届けられるんだから。そういうことを知らずに、商品開発だ、マーケティングだといっても、現実を見ない机上の空論になってしまう。
調査も一緒だよ。正しいデータを集めて、はじめて分析ができるし、クライアントへの提案だってできるようになる。データ収集の現場で、何が行われていて、どんなポイントがあるのかを知らないと、浮ついた企画や提案しかできないからね。

Q子 はい・・・。

owl では、企画や設計、調査票の作成はどうするか。これも、一朝一夕でできるようになるわけではない。テーマも様々、商品も様々で、いくつかのフレームやパターンを覚えたからといって、なんでもできるようになるわけではないから。むしろ、覚えたフレームやパターンに囚われて、テーマや商品を無視して企画をしたり、調査票を作っても、使えない調査になる可能性の方が高いと思う。
だから、知識を得ることや、経験を積むことに対して、貪欲になってほしい。自分で実際に経験できることは多くないのだから、他の人の仕事を見たり聞いたりする、新聞、雑誌やテレビ、あるいはセミナーなどを通じて、いろいろな業界や商品について理解しようとする、どんなことが課題になっているのかを知ろうとする、そんな態度や姿勢が必要だよね。

P夫 で、分析は?

owl 分析も、まずは知識と経験が大切。それと、センスもけっこう大事。
センスというと先天的なもののように思うかもしれないけど、やっぱり知識と経験に裏打ちされたものでないと。野球のイチローしかり、サッカーの中田しかり、将棋の羽生しかり。みんな天才的だけど、それまでの練習や訓練、学習の積み重ねがあってこそ、だよね。
で、リサーチャーはどんな知識と経験を積まなければならないか?
プロです、スペシャリストです、というくらいになろうとしたら、かなり広い範囲でカバーすることが必要だと思う。調査理論、統計理論はあたりまえとして、さらにマーケティングや経営学、心理学は必須かな。プラス、論理力、表現力、コミュニケーション力もないと困る。いまでは、ネットワーク理論や脳科学、行動経済学なんて領域まで知っていると、なおいいだろうね。
それと、クライアントの業界、商品について知らないのも、お話にならない。。。

Q子 なんか、たいへんそう・・・。私、リサーチャーの資質、あるのかな・・・。

owl これまでの繰り返しになるかもしれないけど、いくつかの本で整理されている「リサーチャーの資質」を上げておくので、参考にして。
ただ、これをみてすぐに諦めないでね(^^;
皆がみんな、こんな人というわけではないし、仕事を通じて身に付くものだっていっぱいあるんだから。ただ、リサーチャーを目指したいという人は、ひとつの指針として、頭の中には入れておいてほしいんだ。
(のだめではないですが、「上」をめざすつもりのない人は別です・・・)

まずは、「マーケティング・リサーチの論理と技法」から。

<素養関係>
・企業行動を理解しマーケティング視点に立脚している
・消費者の心理や行動に強い関心がある
・論理的思考、科学的思考ができる
・チャレンジ精神が旺盛である
・サービス精神がある
・責任感が強い
<能力関係>
・リサーチの企画・設計に優れている
・実査・集計業務に明るい
・分析能力、洞察力、要約力に優れている
・文章表現が豊かである
・口頭プレゼンテーションに優れている
・数字に明るい
<態度関係>
・問題点を完全に解決しようとする気持ちが強い
・作業効率を高める努力をする
・自社内のリサーチ発注部門を支援しようとする気持ちが強い
(筆者注:「自社内のリサーチ発注部門」は、「クライアント」へ置き換え可)

続いて、「リサーチャーの仕事」から。

<知識>
・基本的な知識は何か
 →信頼できる情報にアクセスする、コンピューターの腹の中を知る、
   質的情報の分析技術をもつ
・リサーチの専門知識は何か
 →サンプル調査の常識とは何か、リサーチ内容の専門知識とは何か、
   テーマに影響する周辺知識を持つ、
<能力>
・情報整理術を身につける
 →引き出しをたくさん持つ、引き出しの関係性を体で覚える
・分析能力を磨く
 →重要性で順位をつける、因果関係をはっきりさせる
・表現力がいる
 →説得力のある文章を書く、表やグラフを活用する
・課題を解決する発想力がいる
 →データに基づいて考察する、問題点を浮き彫りにする

最後に、「マーケティング・リサーチ業界」から。

・第一に必要なのはリサーチ・センス
 →物事の因果関係や関連性を見極めることができて、なおかつそこに隠された
   課題や問題点を明らかにできる能力
・分析力を磨くこと
 →ある事柄を先入観なしに細かな要素に分解して、さまざまな角度から
   その内容や性質を分類し、再び統合して新たな情報を構築していくこと
・論理的な思考を養うことが分析力をつける
 →閃きをしっかりと理屈にできて、ちゃんとしたシナリオが書けるような
   論理的な思考が必要
・表現力=プレゼン力が調査の価値を高める
 →調査をやって得られた結果をどうクライアントに説明するか

どう?3つの本から引用したけど、共通することが多いでしょう?

Q子 そうですね。意外だったのは、プレゼンテーション力かな。
「調査」っていうと、なんか研究、地道にこつこつ、って印象があったから。

owl そうだね。調査会社に入る人には、人と話すのがあまり得意じゃなくて、こつこつと仕事をするのが好きだから、という人も少なく無いんだよ。とくに、男でね(^^;
ただ、調査会社って、サービス業なんだよね。人と接するのが苦手な人はNGだよね、基本的に。ここでは、対クライアント視点で書かれているけど、実査セクションだって、調査員さんや対象者の方と接しないといけないし、クライアントと接するよりも、こちらの方が難しいかもしれない。
ただ、集計セクションだと、たしかに地道にこつこつという面も無きにしも非ずだけど・・・。

Q子 リサーチャーって、結構たいへんですね・・・。
となると、待遇面が気になったりしますが・・・(^^;。

owl また、実利に戻る・・・。
待遇ね・・・。会社による差が大きいと思うし、公開されているデータがないから、正確なところはわからない。ただ、一般的には、スペシャリストという言葉ほどにはよくはないと思う。たとえば、広告代理店やシンクタンクと比べると低いと思う。といって、世間一般と比べて悪い、というほどではないと思うけど。。。
やっぱり、どれだけデータに付加価値がつけられるか=データの分析能力や提案力が高いか、によると思うよ。
それと、調査って土日や夜に行うことが少なく無いから、ふつうに土日に休めないこともあるし、クライアントがいるので納期がぎりぎりのときとか、実査前日とかは、残業で終電間近ということもあるよね。
あとは、この仕事にどれくらいやりがいを持てるか、かな。
または、調査会社でリサーチに必要な知識や能力を積んで、広告代理店とか企業にステップアップするか。

P夫 企業だって、いろいろですよ・・・。

owl そうだよね。だから、就職するにしても転職するにしても、自分のやりたい仕事ができるか、自分の提供している価値に見合った待遇を受けているか、他の会社に行けばその待遇を期待できるか、将来的にいまの会社で成長できるか、他の会社に行った方が成長できるか、こういうことを総合的に判断しないとね。
体力的、精神的にしんどいという場合もあるだろうけど・・・。

Q子 はい、よくわかりました。

owl さて、調査業界のことについて、長々とやってきたけど、やっと本題に入れそうだね。
では、次回からは、マーケティング・リサーチについて勉強していくことにしよう。

P夫 やっとだよ・・・。




リサーチャーをめざす人へ(1)

Q子 前の寺子屋から、2週間以上経っているんですけど・・・(-_-)

owl そうだね(^^;
実は、かなり迷っていたんだ。どのように伝えればいいのか・・・。
腹を括って、はじめるけど、これはowl個人の考え方として、聞いて欲しいんだ。たぶん、反論したい人もいると思う。ただ、このような情報はなかなか無いみたいだから、多少偏りがあるかもしれないけど、少しでも、マーケティング・リサーチャーとは?とか、マーケティング・リサーチに興味のある人、マーケティング・リサーチを仕事にしたい人、リサーチャーになりたい人の参考になれば。。。

P夫 歯切れ悪いですね・・・。

owl ・・・・。はじめるよ!

まずweb上で、マーケティング・リサーチの仕事について整理しているものを探すと、つぎのようなサイトがあるみたいだね(2006/12/7現在)。

ただ、いずれもマーケティング・リサーチャーって、どんな仕事をするのかはわかるけど、具体的に、どんな企業に入ればいいかは書かれていない。当然かもしれないけど。

Q子 そうですね・・・。で、どんな会社に入ればいいんですか?マーケティング・リサーチを仕事にしたいと思っている人は?

owl まず、「マーケティング・リサーチをやりたい」というのが、「リサーチに興味がある」のか、「マーケティングに興味がある」のか、ということを、きちんと整理してほしいんだ。いいかえれば、リサーチャーになりたいのか、マーケターになりたいのか?

Q子 う~ん・・・。リサーチャーとマーケターって、どう違うんですか?

owl そうだね・・・。とっても卑近な言い方をしてしまうと、リサーチャーは「リサーチそのものが仕事」、マーケターは「リサーチで得られたデータから、どう売れる仕組みをつくるかが仕事」。あるいは、リサーチャーは「論理的・分析的・客観的思考がメイン」で、マーケターは「情熱的・創造的・主観的思考がメイン」かな。

Q子 いまいち、よくわかりません・・・。

owl では、リサーチャーは「世の中や人に興味があり、その構造や気持ちを見つめていたい人向き」で、マーケターは「事業を行うことに興味があり、商品やサービスを開発して、多くの人に買ってもらいたい人向き」というのは?個人的な解釈だけど。

Q子 なんとなく、わかります。でも、これまでowlさんは、リサーチャーもマーケティングの知識がないといけないと言っていませんでしたか?だとすると、リサーチャーとマーケターを分けることは矛盾になりませんか?

owl そうだね、リサーチャーもマーケティングの知識は必要だし、マーケターもリサーチの知識は知っておいた方がいい。けれど、リサーチャーの仕事とマーケターの仕事は、実際に異なるんだよ。
よくあるのが、実はマーケターを志向しているのに、「マーケティング」リサーチだからといって、調査会社に入社して理想と現実のギャップを感じてしまうという誤り。調査会社では、マーケティングの実務には携わることはできないからね。クライアントと一緒に考えて、提言を行うことはできるけど、実際に商品を形にして、広告を考えて、売り方を考えるのは、クライアントの仕事だから。
だから、「マーケター」を志向している人は、「マーケティング・リサーチ」がやりたいというのとは違うので、これから話をすることは参考にならない。

P夫 たしかに、僕なんかはリサーチのやり方とかにはあまり興味がなくて、どんなデータが得られたか、それをどう使うかということが仕事ですからね。でも今度、うちの会社でも元リサーチ会社出身の人を中途採用しないといけないかな、なんて話をしていますよ。

owl それは、P夫君の会社で、リサーチを理解している人がいないからだろうね。クライアントサイドでも、リサーチを理解している人は必要だから。とくにこれからは、単純に「アンケートをしてみました~」というだけでは課題への答えが見つからない場合も増えてくるだろうし、そうなるとリサーチについての理解がしっかりしている人が必要になってくると思う。

Q子 私は、いまはリサーチに興味があると思っているんですけど、そのうちに自分で商品を作ってみたくなるかも。。。そんな人は、どうしたらいいんですか?

owl とりあえず、調査会社に就職して、その後に代理店や、企業のマーケティングセクションなどに転職するんだね。

Q子 ありえるんですか、そういう進路が。

owl あるよ。あるけど、調査会社で何をしてきたか、が大切になるんだけど。
では、リサーチャーの進路について、整理しよう。ここでは、マーケターではなく、「リサーチャーになりたい」と思っている人をメインに話をするよ。
リサーチャーになるためには、つぎの4つの道筋があると思う。調査会社、広告代理店、シンクタンク、企業のマーケティングセクション。

Q子 どう違うんですか?

owl 調査会社は、リサーチを主業務としている会社だから、入ってからリサーチができなかったということは、ほとんどないだろうね。でも、他の3つは、リサーチは他のいろいろな職種のひとつでしかなく、リサーチを担当できるかどうかは、入ってみないとわからない。とくに、企業のマーケティングセクションなんて、そこに行けるかどうかはまったくわからない。
ただし、いまの時点で「リサーチとマーケティングと、どちらか迷っている」という人は、広告代理店がいいかもしれない。あるいは、「研究がしたい、コンサルタントになりたい」という想いが強い人は、シンクタンクがいいだろう。そして、「好きな商品や業界があって、どうしてもその商品や業界に関わっていたい」というのであれば、企業のマーケティングセクションを目指すべきだろう。

Q子 なんだ。だったら、リサーチャーを目指したい人は、調査会社でいいんじゃないですか?何か問題でも?

owl うん・・・。こんどは、「リサーチャー」に何をイメージしているかが問題になる。
まず、ここ(マーケティング・リサーチ業界とは2)でも整理したけど、調査会社にもいろいろあって、それこそ実査しかしないところから、リサーチ&コンサルとして認められている会社まである。あるいはアンケートなどの量的調査がメインの会社と、グループインタビューなどの質的な調査がメインの会社という分け方もできる。
だから、自分がどんなマーケティング・リサーチをしたいのかで、選ぶべき調査会社は、まったく違ってくるんだ。ここで選択ミスをすると、こんなはずではなかった・・・、ということになる。
それと、調査会社も組織があって、実査をするセクション、集計をするセクション、営業をするセクション、企画・分析をするセクションと分かれていることもある。とくに、規模の大きな調査会社はそうだろうね。確かに、すべてリサーチに関わるし、企画・分析をするには実査や集計の経験があった方がいいけど、中にはセクション間の移動がなかなか無い会社もあるだろう。そうなると、企画・分析がしたいと思って調査会社に入ったのに、そういう仕事ができないということも起こりうるんだ。そして、企画・分析をしていないと、調査業界以外への転職はなかなか難しくなる・・・。

Q子 じゃあ、どうしたらいいんですか!(-_-)

owl 自分がやりたいリサーチは、どんなリサーチなのかをきちんと整理する。そして、いろいろな調査会社を調べてみる。これしか、ないかと・・・。
調査会社のリストは、JMRAにあるので、こちら(JMRA正会員社紹介)を参考にしてください。。。
それと、JMRA会員社以外にも、リサーチをしているところはあるので、あとは地道に検索してください。。。

Q子 具体的に(-_-)

owl はい(^^;
まず、自分のやりたいリサーチが、量的なものか、質的なものか、どちらもか。
数字に苦手意識がなくて、数字のデータをいろいろと分析してみたいというなら量的志向。人と話をするのが好きで、言葉を元に分析してみたいというなら質的志向。少し乱暴だけど、こんな感じです。
それと、調査そのもの=データを集めることやインタビューをすることが好きなのか、集計や分析をするのが好きなのか、マーケティング的な視点で提言までしてみたいのか、ということも考えておいた方がいいと思います。

Q子 で、調査会社を調べるには?(-_-)

owl う~ん・・・、実はこれが難題。。。
まずは、ホームページを見てみることだろうね。その内容が、自分の考えているリサーチとあっているかどうかが、最初だと思う。ホームページをみると、量的調査に力が入っているのか、質的調査に力が入っているのかは、すぐにわかる。それと、調査のことばかり書かれているのか、マーケティング・テーマ的な視点でも書かれているのか、新しい調査技術や分析技術を開発しているか、といったあたりをチェックすればいいと思う。

Q子 でも、それでは、入社してからどんな仕事をするかは、わからないですよね(-_-)

owl そう・・・。それは、その会社に実際に勤めている人に話を聞いてみるしかないよね・・・。もしくは、会社説明会の時に、配属の考え方とか、ジョブローテーションについて質問をしてみる。どこまで、本音で話をするかわからないけど・・・。あるいは、学生の時に、これはと思う会社でアルバイトをしてみるとか。。。
そうでなければ、あまり大きな調査会社を選ばない、かな。非装置型の調査会社は、一人でなんでもやらないといけないので、実査だけ、集計だけということはなく、最初から一通りのことを任せられる可能性も高いから。ただ、その分、仕事はハードになる可能性もあるし、やっぱり会社によってできることと、できないことの差が大きいというリスクはあるけど・・・。

って、そんなことばかり気にしてないで、もっと、どんな仕事をしたいのか、どんな適性が必要なのかとか、そういうことを考えないと!

Q子 てへ(^^;
では、つぎにその点について、お願いしま~す。

PS.
リサーチ業界がどういうところで、どんな仕事をしているのかを知りたい方、「マーケティング・リサーチ業界」という本を読んでみてください。。。

「インサイト」「インサイトマーケティング」

インサイト インサイト
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2005-02-17

「インサイト」について、もう少し知りたいという方に向けての本を2冊。

まず、その名もずばり「インサイト」。
入門書として読むには手ごろな本です。ただ、あまり奥行きはありません。
インサイトとは何か、インサイトを見つけるリサーチ手法は、発見したインサイトをどうマーケティングに結びつけるのかということと、ハーゲンダッツとシックをケーススタディとして取り上げています。

ただ、この本で一番共感してしまったのは、「はじめに」に書かれていたつぎの文章でした。

(グループインタビューで)
この日の座談会も司会者の仕切りのもと、「この点はいいと思います」「ここは、こういうふうに変えたほうがいい」など、理路整然と話し合いが進んでいた。ところが、話し合いの途中でたまたま、司会者がトイレか何かの急用で部屋を出た。そのときである。鏡の向こう側(座談会会場)で、とんでもないことが起きたのは。
司会者がいなくなったとたん、対象者たちがホンネで自由気ままに話し出したのだ。「この商品は売れないと思うな」「いままでのと変わらない」「私には必要なさそう」といった声が飛び交ったのである。
さっきまでの話し合いはいったい何だったのだろう、という感じだ。もし、司会者がいるときの発言だけを元にして新製品を出したとしたら・・・。想像するのも恐ろしい。司会者が部屋に戻ってくると、何事もなかったかのように話し合いが再開されたから、一同苦笑いだ。

あってはいけないシチュエーションですが、実際にあります。なので、私は謝礼を取りにわざと席をはずすようにしています。あるいは、謝礼を配る時や、帰り支度をしている時に核心の質問をしたりします、この時はふっと気が緩む瞬間ですから。

それと、クライアントの方。グルインは、必ず同じ瞬間に立ち会うようにしてください。その場での表情や、行間の雰囲気がとても大切ですから。あとでまとめられた報告書は、極論すれば報告書のための報告書であって、そこで雰囲気や行間を伝えることは難しいですので・・・。

インサイトの本題から横道にそれてしまいましたが、とりあえず、「インサイト」ってなんだという方の入門書として、どうぞ。

図解やさしくわかるインサイトマーケティング 図解やさしくわかるインサイトマーケティング
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2006-09-22

つぎに、「インサイトマーケティング」。図解とあるように、左ページ文章、右ページチャートで構成されています。
やはり、インサイトとは何か、脳科学とインサイトとの関係、インサイトマーケティングの進め方、インサイトを発見する技術、などで構成されています。いってしまえば、ノウハウ本です。
いまのところ、インサイトについて、ある程度、実務的に書いている本はこれだけだと思うので、実務でどう使うんだろうと思われる方は、こちらの本を。
ただ、読んだからといって、ほんとうにできるかどうかは別だということを心しておいてください。さきほどのグルインの事例にもあるように、彼ら、彼女らのほんとうの心を知ることは、簡単ではないので。

「マーケティングは消費者に勝てるか?」

マーケティングは消費者に勝てるか マーケティングは消費者に勝てるか
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2005-09-01

結構、あちこちのブログでも紹介されていましたし、評判もよかったので、すでに読まれている方も多いかもしれません。個人的にも、ここ数年では、かなり共感、納得をさせられた本です。

内容は、やはり、消費者の「心」を捉えるにはどうしたらいいのか、という視点で書かれています。ただ、古典的な消費者行動論や消費者心理学ではなく、脳科学やネットワーク理論などを用いて、こういう視点でみると、こういう解釈ができるのではないかというスタンスです。当時、なんとなくもやもやとしていたリサーチやマーケティングの限界のようなものについて、なるほどね、と思って読んだことを覚えています。
ただ、やはり鵜呑みは危険ですので、その点は注意しながら読んだ方がいいと思います。(すべての本にあてはまると思いますが・・・)

どの部分を引用すると、内容が伝わるかなと思ったのですが、カバー袖に書かれているものがいいかもしれません。

・アサヒ・スーパードライとニューコーク、同じことをしてなぜ成否が分かれたのか?
・消費者は理性的に考えて行動しているのか、そもそも人間の頭の中はどうなっているのか?
・直感的判断と客観的・科学的判断、どちらがあたるのか?
・大ブームや大ブーイングはどのようなプロセスで生まれるのか?
・流行に負けないマーケティングを行うことは可能か?
・消費者はどんな価格に納得するのか?
・CRMはどの企業にも必要なのか?
・企業ブランドと商品ブランド、どちらがより消費者の行動に影響を与えるのか?
・市場調査と仮説構築、どちらを先にやるべきか?
・これまでどんなマーケティングが行われ、今、どんなマーケティングが始まろうとしているのか?

一見、理論書のように見えますが、スーパードライとニューコーク、たまごっち、韓流ブーム、マクドナルド、ユニクロなど、日本人におなじみの事例を盛り込んでいますので、読みやすいと思います。

それと、リサーチャーの方。第1章だけでも読んでみてください。マーケティング・リサーチの歴史(どういう背景で、どういう手法が出てきたのか)とか、リサーチ界の神話とも言える「ニューコーク」や「アサヒスーパードライ」の事例が取り上げられていますので。
(1章を読めば、2章も読みたくなると思うんだけどな・・・)

「アカウント・プランニングが広告を変える」

アカウント・プランニングが広告を変える―消費者をめぐる嘘と真実 アカウント・プランニングが広告を変える―消費者をめぐる嘘と真実
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2000-06

(今日は、一気にいきます。日々、チェックをされている方がいましたら、ゴメンナサイ)

今度は、「インサイト」つながりで。
この本、タイトルだけみると広告関連の本で、リサーチや調査とは関係ないやと思いそうですが、副題の「消費者をめぐる嘘と真実」の方が内容をより表していると思います。リサーチに関すること、満載です。

いま、よく耳にする「コンシューマー・インサイト」という言葉を使ったのは、おそらく日本ではこの本が最初ではないかと思います(間違いであれば、コメントをお願いします)。
(この本では、あくまで広告業界で、ですが)「インサイト」がなぜ必要で、どのような背景から出てきたのか。インサイトを探る上で、従来の調査がどのようなデメリットを抱えているのか、それをふまえた上で、ではどうしたらいいのかについて事例をふまえて紹介しています。

とくに、「3章・調査に基づいた広告が間違った方向へ」であげている様々な事例は、思わず、にやりとさせられてしまします(ほんとうは、してはいけないのですが・・・)。具体的な内容については、ご自身でお確かめいただくとして、「はじめに」で著者がこの章について紹介している部分を引用しておきます。

その前提となる考え方、すなわち消費者を喜んで受け入れる広告主や広告代理店があまりに少なすぎるという考え方に対して、我々は消費者の意見を受け入れている、なぜなら「非常に多くの調査を行っている」のだから、と異議を申し立てる企業は多い。そこで3章「調査に基づいた広告が間違った方向へ」では、そういう企業の多くは、消費者の意見を受け入れているどころか、ますます遠ざける結果を招いていると申し上げたい。
広告リサーチをすべて否定する気は毛頭無い。なぜなら、それが正しく行われたときの価値と威力を心から信じているからだ。ここでは、調査を無意味とするばかりか、まったく非生産的なものにしてしまいがちな誤った使い方を、いくつか提示する。内容はさまざまだ。調査が広告づくりのプロセスで果たすべき役割に対する時代遅れなニュートン主義的定義、そもそもの発想から間違っていて、でたらめとすら言える調査、果ては、調査自体はしっかりしているのに、解釈やデータの使い方が誤っている場合もある。

ここで誤解をしていただきたくないのは、「ほら、調査は使えないって言っているでしょ」とか、「インサイト発見は、調査をしなければだめなんだ」とか、デジタルな2分法で考えないでいただきたいということです。どちらも正しいし、どちらも間違っている、要は使い方次第なんだ、そのためにはどうするかということを意識しながら読んでほしいのです。

それと、ここで書かれていることは、何も広告に限ったことではありません。商品開発の調査にも、すべからく当てはまります。

ただ・・・。
私だけなのかもしれませんが、正直、翻訳書は苦手です。
訳がどうこうではなく、事例とポイントがごちゃごちゃに書かれていることが多いので・・・。
日本式マニュアル本になれているからかもしれませんが・・・。

そこで、
同じような趣旨の本と、もっと「インサイト」に的を絞った本を、つぎに紹介することにします。

「リクルート創刊男の大ヒット発想術」

リクルート「創刊男」の大ヒット発想術 リクルート「創刊男」の大ヒット発想術
価格:¥ 750(税込)
発売日:2006-08

「R25・藤井氏」つながりで、この本を。
以前から、リクルート出身者に興味を持っていました。なぜか、目に留まる人や、気になるブログの著者がリクルート出身者が多かったので、「リクルートというのは、一体、どうやって仕事をしているんだろう?」という想いがありましたので。
この本の著者のくらたまなぶ氏も、実は藤井氏と同じセミナーでプレゼンテーターをされたことがあり、その際の話が面白く、この本を読んでみようという気になりました。

著者は、リクルートで「とらばーゆ」や「じゃらん」など、それまで市場にない雑誌(=商品)を、14も世に送り出した方です。その際の仕事の流れについて、実体験を多く交えながら紹介してくれています。
まえがきで著者も書いてあるとおり、創刊にかかわらず、サイトの立ち上げ、企画、商品改良や新商品開発、既存事業の見直しや新規事業開発、新会社創業など、新たな市場を創造しようという場面で使えるノウハウが詰まってると思います。
ただ「リクルート」という組織だからできるのでは?と思うこともありますので、すぐにまねできるかどうかは別ですが、ヒントは与えてくれるのではないでしょうか。

もくじをみると雰囲気がわかると思うので、引用します。

1章 ちゃんとふつうに生活すること
2章 「人の気持ち」を聞いて、聞いて、聞きまくる
3章 「不」のつく日本語をもとめて
4章 ひたすらブレストをくり返す
5章 不平不満をやさしい言葉でまとめる
6章 まとめた言葉をカタチにする
7章 プレゼンテーション-市場への第一歩
8章 「起業」-夢を見すえて変化に即応する

この中で、2~3章がリサーチについて述べている章です。
いくつか、見出しを紹介しておきます。

・「マーケティング」とは、「人の気持ちを知る」こと
・ヒアリングのとっかかりは「算数」から
・とにかく「身近な人」から聞き始める
・用紙なし、録音なし、謝礼なし、90度の位置、友達感覚、2ショット
・「したこと」から、「思い」や「感じ」を引き出す
・いつでも、どこでも、誰でも、何でも、ヒアリング

4番目などは、ほんとうはグルイン、インタビューの理想型だと思うのですが、実践は難しいです。どこかの調査会社さん、グルインルームの改革をしてくれないでしょうか?会議室然としたものではなく、もっとサロン、居間のような感じのものに・・・。(もしも、そんなグルインルームを知っている方がいらっしゃっいましたら、教えてください。)

それと、6番目。これは、調査会社所属のリサーチャーに、とくに言っておきたいこと。ひとりでパソコンにしがみついているばかりでは、ダメ。テーマについて、もっといろんな人と話をしてみましょう、街へでましょう!

PS.
R25・藤井氏の話も、この本を読んでいたので、200人ヒアリングと聞いてもさほどの驚きは感じなかったです。リクルートならやるかも、と思っていました。。。

リサーチをきちんと使う

今週は、ばたばたしておりまして、投稿できず・・・
今日は、そのばたばたのひとつ、某セミナーで思った「そうだよ!」について。

ということで、新たなカテゴリーをつくりました。

「アハ!または???」

「アハ!」は茂木健一郎氏をご存知の方はわかると思うのですが、英語でいうところのaha!のように、なるほど!、そうか!という感じでしょうか。
セミナー、テレビ、新聞、ブログなどで、「これは!」と思ったことを平文でご紹介していきます。たまには、「???」なことも織り交ぜながら(一番最初に書いた「巷の調査」も、ここで・・・)

本題です。
そのセミナーのプレゼンテーターは、フリーペーパー「R25」の藤井編集長でした。
詳しい内容は、こちらこちらを参照していただくとして、ここではとくに調査についてお話をします。

「R25」をはじめるときに、「M1層(男性の20~35歳)って、もっとも活字から遠い人で、いくらフリーペーパーでも成功しないだろうな」と感じたという藤井編集長。まずは、彼らの調査からはじめたそうです。手法は、WEB調査とグルイン(だと思います)。
とくに、グルインはつぎのように実施されたようです。

  • グルインの最初のグループ(100人くらいだったでしょうか?この対象者数もすごいですが・・・)では、8割が新聞を読む、それも日経を読んでいると答えた。テレビも、WBSやガイアの夜明け、プロフェッショナル・・・。
  • 世間で言われている仮説=若者はネットでニュースを見るから新聞を読まない、とどうも違う、実感とも違う、と考える。「彼らは、本音で答えているのか?」
  • そこで、ネット調査で「新聞を読まない」と答えた人達だけを集めて、再度グルインを実施して、疑問を検証することを考え、実施する。
  • しかし、やはり「新聞、読んでます」という回答。ここですぐに、ネタバレ(=新聞を読まないという人を集めていること)をせずに、そのままふだんの生活について、詳細に聞いてみる。
  • ところが、ここで「新聞」が出てこない。そこで、最後の30分で、「最初に新聞を読んでいると言っていたけど、ふだんの生活に新聞が出てこないよね?」と核心に迫る。
  • これを、さらに100人で実施。

ここで得たインサイトが、R25のコンセプトや編集方針、チャネル(=どこに置くか)を決定づけることになり、ご存知のように、いまでは大成功を収めています。

いくつかポイントがあると思います。

  • 最初の100人もの回答を信じずに、さらに100人もの人の話を聞いて検証しようという態度、姿勢。
  • よくある間違い=直接、対象者に答えを聞いてしまう=この場合、なぜ新聞を読まないのか?、ではなくふだんの生活の中から、インサイトを探ろうという態度、姿勢。
  • あせらず、核心は最後の30分に。

なんか、こう書いてしまうと「あたりまえじゃないか」と思われそうですが、ほんとうにそうでしょうか?
あくまで真実を探求しようという態度、数グループでわかったような気にならずにとことん知ろうとする態度、直接答えを求めるのではなく洞察からインサイトを求めようという態度、答えがみつかりそうになってもあせらずに核心にもっていく態度。
わかってはいても、なかなか実践するのは難しいことのように思います。

調査はテクニックばかりではない、「インサイトをみつける洞察力」「はてな?と思える力」が大切なんだと、あらためて気づかされたセミナーでした。

(他に、このセミナーを聞かれた方がいらっしゃいましたら、ぜひ補足をコメントしていただけるとうれしいです。。。筆力のなさを痛感・・・。)




「購買心理を読み解く統計学」

購買心理を読み解く統計学―実例で見る心理・調査データ解析28 購買心理を読み解く統計学―実例で見る心理・調査データ解析28
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2006-06

統計学つながりで、もう一冊。

回帰分析、因子分析、クラスター分析、コレポン(コレスポンデンス分析)あたりが、マーケティングで使われる多変量解析の四天王だと思うのですが、他にも多変量解析の手法はいっぱいあります。「ほんとうは、こんなことが知りたいんだけど・・・」「課題を明らかにするもっと適切な手法はないだろうか」ということを考えたことのある方には、お勧めの本です。

表紙の紹介文を引用してみます。

企業や商品の「ブランド力」、お客さんの潜在的な「好み」、価格とニーズのバランス・・・
多種多様なデータをいくら集められても、それだけでは直接測ることのできない、いろいろな「買いたいココロ」があります。そのココロを、心理統計学+マーケティング・サイエンスの第一人者が、具体的な事例から幅広く役に立つ28の最新分析法をもとに、魅力的に解き明かします。

元々は、雑誌「プレジデント」に連載されていたものですので、読んでわかりにくいことはないと思いますが、この本を読んだからといって、すぐに解析ができるというものでもありません。「この解析手法を使うと、こんなことがわかるんですよ」という道案内をしてくれている本です。さらに、各解析手法の最後には、手法を実際に行うためのソフトウエアと参考図書が紹介されていますので、そちらを参照すれば興味をもった手法について、さらに詳しく知ることができるようになっています。
(ただし、参考図書を読むには、それなりの統計知識が求めまれますが・・・)

いくつかの手法を、タイトル見出しと一緒に紹介します。

第1章 目に見えない「好み」やニーズを読み解く
・構造方程式モデリング~見えない「ブランド力」の測定法 (他4手法)
第2章 「買いたいココロ」、その行動ルールを読み解く
・決定木~「もう一度買いたい」その理由のありかを探す (他4手法)
第3章 複雑な要因から、決定を下す根拠を読み解く
・AHP~「決められない問題」を優先順位から評価する (他5手法)
第4章 グループ化&マッピングで、関係性を読み解く
・多次元尺度法~心の中の「商品間のキョリ」の測定法 (他5手法)
第5章 どのくらい正確か、判断の信頼性を読み解く
・時系列分析~時季変動の予測から、リスク最小かつ利益最大に (他5手法)

この本を読んで、どのような解析手法があるかを知る、そして調査会社に「こんな手法があるみたいなんだけど、できる?」と問い合わせてみるのが、この本の一番の利用方法かもしれません・・・。
(そして、この質問への調査会社の応答が、調査会社を判断するひとつの指標にもなるかもしれません・・・。「なんですか、それ?」では、心もとないですよね?少なくとも、「聞いたことがあります、調べてみます。」くらいでないと。)

「現場で使える統計学」

現場で使える統計学 現場で使える統計学
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2006-09-28

本編(寺子屋)でのテーマにあわせながら、本を紹介していこうと思っていたのですが、つぎつぎと新刊が出るので、テーマ性に関係なく、新しい本が出たタイミングで紹介していくことにします。でないと、情報鮮度が落ちてしまうので・・・。

「マーケティング・リサーチはこう使え!」が、“道具としてのマーケティング・リサーチ”の視点から書かれている本であるのと同様に、この本は“道具としての統計学”としての視点から書かれています。
なので、極力数式は使わずに、ビジネスの現場でお目にかかる事例を交えながら、統計をどう使うのかということを説明しようと試みています。「現場でいろいろな数字を見てきたけど統計について勉強したことがなかった」「統計の本を読もうと思ったけど立ち読みしただけで止めた」「統計の本を読んだけど挫折した」、というような方にとっての入門書としてはよいかもしれません。

しかし、やはり統計を言葉だけで説明するのは難しいなということを感じさせる本でもあり、統計をきちんと学びたいという人にはお勧めしません。
このような欠点もありながら、この本を取り上げようと思ったのは、学者の方が書いている本にしては、厳密性にこだわっていないことに驚きを感じたからです。現場でときおり感じる統計の限界についてもきっちりと触れて、その上で、どう使えばいいかについて書かれているからです。

いくつか、共感できたフレーズを引用してみます。

・データがあれば、なんでもかんでも要約するというのであれば、せっかくのデータをわざわざ捨ててから使うということになってしまいます。(・・・中略・・・)捨てられる情報にこそ、ビジネスヒントがあることが多いからです。
・分析方法のみではなく、データが良いデータかどうか、十分なデータが揃っているかといったことを吟味しておかなければならないということです。
・分析しているデータに関心を持っている情報が全て含まれているとは限らないということです。
・母集団の厳密性を気にしていたらいつまでたってもビジネスの現場では統計学は使えないということです。
・仮説の主張は、みなが納得できるのであれば、理屈や直感で納得しても、グラフや表で説明しても、統計学から説得しても良いわけです。

どうでしょう?
「統計って、わずらわしいな・・・」と思っていた人にとっては、「そうなんだよ!」と思えることが少なくないのでは?
ただし、ここで誤解をしてもらっては困るのですが、著者は何も、統計なんてあてにならないんだよといっているのではなく、このようなことも頭に入れながら統計を使うと、より有益な情報も得られるということを書いているのです。

「このようなことを書いている統計の本ってどんな本?」「ほんとに現場で使えるようになる?」「へぇ~統計ってそうなんだ」などと思った方、ぜひ一度、手に取ってみてください。
そしてこの本で、「統計ってビジネスで使えるんだ」と思った方、つぎはもう少し専門的な統計の本へと進んでください(ブルーバックスあたりが手ごろだと思います。こちらの出張書店をのぞいてみてください)。

この本の著者も言っています。

統計の考え方の理解が「簡単だった」ことと「簡単に使える」ということは必ずしも一致しません。このことを知っておくことが、現場で使える統計学になるか、現場で使えない統計学になるかの分かれ目になります。
(中略)
現場で使うためには、このシンプルなものを現実のテーマに応用するといった応用力が必要で、この応用は必ずしも簡単ではないからです。

「マーケティング・リサーチの理論と実践~理論編」

マーケティング・リサーチの理論と実践 理論編 マーケティング・リサーチの理論と実践 理論編
価格:¥ 9,450(税込)
発売日:2006-11

このところ、マーケティング・リサーチ関連の新刊が相次いでいます。
他にも紹介したい本はあるのですが、取り急ぎ日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)肝いりのこの本を。

アメリカで2年前くらいに出版されたものを、JMRAが主導して翻訳した本のようです。
(「ようです」と書いたのは、立ち読みした記憶に頼っているからです・・・。なにせ、お高い本ですので、まだ購入していません。。。)
内容は、マーケティング・リサーチに関して、網羅的に、かつ詳細に記述されています。
今回は、「理論編」として、原書の前半部分である理論的なパートが出版されました。
ちなみに、後半部分は実査と解析系が取り上げられるようです。

参考までに、もくじを引用しておきます。

第1章 マーケティング・リサーチ序論
第2章 マーケティング・リサーチ課題定義とアプローチの展開
第3章 調査設計
第4章 探索的リサーチの設計:二次データ
第5章 探索的リサーチの設計:定性調査
第6章 記述的リサーチの設計:質問法と観察法
第7章 因果的リサーチの設計:実験法
第8章 測定と尺度化:基本原理と相対尺度
第9章 測定と尺度化:絶対尺度
第10章 調査票と観察フォームの設定
第11章 標本抽出:設計と実行手順
第12章 標本抽出:標本サイズの決定(?)

事例がアメリカのものなので、多少理解しにくいところはあるかもしれませんが、「日本では」というようなコラムを差し込むなどの工夫もしているようです。

JMRAが、なぜここまで投資をしたのか?(あまり投資をしてこなかったので、これまで)
「はじめに」で監訳の小林氏は、つぎのように書いています(記憶ですので、正確なニュアンスはお伝えできませんが)。
海外に比べ日本でのマーケティング・リサーチ市場規模が小さいのは、日本でマーケティング・リサーチャーが育つ環境になかったからではないかという危機感がある、と。
海外では、大学や大学院の授業でマーケティング・リサーチの講座があり、イギリスでは資格制度まであるようです。

まったく、同感です。このブログの「業界の歴史」でも見てきたように、このような業界環境、背景により、日本では真のマーケティング・リサーチャーが育ちにくく、多くの調査会社やリサーチャーが情報の中間流通業者的な働き、位置づけしかとれなくなっているという側面があると思います。マーケティング・リサーチの理論と技術を学ぶには、かなりの部分を自助努力で補わなければなりませんでしたから。
日本において、真のリサーチャーを育て、調査会社のポジションを上げていくことは、マーケティング・リサーチの市場を拡大していく上で、必須でしょう。マーケティング・リサーチ市場が拡大するということは、イコール、より消費者サイドにたった企業活動、科学的な意思決定に基づく成功確率の高い企業活動を拡大するということにつながります。そしてそれは、最終消費者であるお客様にとっても、選択・購買の効率を高め、より自分の生活を高める商品やサービスを手に入れる機会が多くなることを意味します。

少々、私的な想いの部分が長くなりましたが、現役リサーチャー、これからリサーチャーを目指す人にとっては、この本は基礎を固める上で有用だと思います。
ただ・・・。
いかんせん、価格が高いです。。。
(価格が高いのも、マーケティング・リサーチというテーマに対する需要が少ないからです・・・。多くの人に買ってもらえるのであれば安くできるのでしょうが、見込める販売量が少ないので。難しいですね。。。)
なので、会社経費で購入してもらうとか、大学の図書館に入れてもらうなどしながら、入手してください。お金の余裕のある方は、もちろん自腹で。

そういえば、JMRA会員の方は、1000円引きで購入できるようです。
詳細は、こちら(→JMRAのホームページ)

(他にも、紹介したい本があるのですが、今日はとりあえずこの1冊で・・・)