投稿者「ats_suzuki」のアーカイブ

『調査データ分析の基礎』

調査データ分析の基礎―JGSSデータとオンライン集計の活用 調査データ分析の基礎―JGSSデータとオンライン集計の活用
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2007-03

「超入門!マーケティングリサーチ・ハンドブック」と一緒に購入したのが本書。
正直に言うと、統計は苦手です、何度勉強しても真の理解に辿り着けているのか自信がもてない・・・。けれど、マーケティング・リサーチをやっている以上、ここから逃げることもできないので、いつもわかりやすい本はないかと探しているのです。

で、本書ですが、大学生向けのテキストとして書かれた本です。それも、社会調査士資格認定機構が定めている標準カリキュラムに対応していると。
まだ、流し読みしかしていませんが、基礎統計の本としては、わかりやすいのではないかという印象があります。構成も、ポイントで例題が用意されていて理解を助けてくれますし、各章末には課題がありWEB上で答えを確認できるようになっているという工夫もされていますので、独学で基礎統計を学ぶには手ごろな本ではないでしょうか。

もくじは、つぎのように基礎統計を網羅したものになっています。

第1章 調査データとは何か
第2章 社会調査の手順
第3章 多様な分析の方向性
第4章 公開データの利用
第5章 度数分布表
第6章 グラフ
第7章 代表値とばらつき
第8章 複数回答の扱い方
第9章 2変数のクロス集計
第10章 関連性を表す統計量
第11章 3変数のクロス集計
第12章 統計的推定の考え方
第13章 統計的検定の考え方
第14章 独立性の検定と比率の差の検定
第15章 平均値に関する推定と検定
第16章 分散分析
第17章 回帰分析の基礎
第18章 回帰分析の応用と一般線形モデル
第19章 ロジスティック回帰分析

あと、巻末に学習用の文献紹介もありますので、さらに統計について理解したい人は、こちらの本を参考にしながら、学習を進めていくとよいでしょう。

(くどいようですが・・・)
前々のエントリーも、調査とは、統計とはを真に理解していないことから起こるのだと思います。
そもそも、調査・リサーチは何のためにやるのか?という理解がなされていない、あるいはおぼろげにわかっていても、調査・リサーチで得られたデータとは何なのか?が理解されていないのだと思います。
調査・リサーチは、「今回の調査対象者そのものについて知りたいのではなく、調査対象者を含む母集団についての傾向を知るためのもの」であり、そのためには「サンプリングや代表性」の概念を理解しないことにはどうしようもありません。
ただ、よく統計の先生がいうように、「無作為抽出を行っていないデータは使い物にならない」などというつもりはなく、概念としてサンプリングや代表性ということを知らないと、データを読むときに誤ってしまうということが言いたいのです(完全な無作為抽出で調査を行うなんてことは、極めて困難な時代ですから)。
このあたりを理解せずに、無手勝流でリサーチを行い、データを分析して、結果が伴わないからといって、「調査は使えない」などと言われても・・・。

マーケティング・リサーチをやりたい方、少なくても本書に書かれていることはマスターしましょう。

『超入門!マーケティングリサーチ・ハンドブック』

マーケティングリサーチ・ハンドブック マーケティングリサーチ・ハンドブック
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2007-03

本屋をぶらぶらしていると、またマーケティング・リサーチに関する新刊書が。
ここ数年、マーケティング・リサーチに関する本、それも入門書として出版される本が多いように思うのですが、どうでしょう?以前は、マーケティング・リサーチに関する本といえば、専門書ばかりで、こんなに頻繁に出版されていなかったように思うのですが。。。
インターネット調査の出現でマーケティング・リサーチに対する垣根が低くなり、このような本への需要が高まっているのでしょうか?それはそれで喜ばしいことなのですが、前のエントリーで見たような「ちょっとどうなの?」と思うようなリサーチ結果も多くなり・・・。
マーケティング・リサーチをする前に、せめてこのような入門書くらいは読んでから、取り掛かって欲しいものです。(調査会社の人は、せめてここに書いてあることは、すべて理解しておいてほしいものです・・・)

ちょっと前置きが長くなりました(それも、愚痴っぽいですね、すいません)。
さて、本書です。標題に、「超入門」と書かれているように、マーケティング・リサーチについて一通りのことを理解できる内容になっています。

もくじを紹介します。

第1章 マーケティング・リサーチとは
      ~意外!あなたの身の周りで、こんなマーケティング・リサーチが
        行われている
第2章 マーケティング・リサーチを具体的に知ろう
      ~オーソドックスな手法を平易に解説、これを知ればとりあえず
        「リサーチ通」
第3章 リサーチャーってどんな人
      ~リサーチャーは地味な人?でも、その影響力はこんなに大きい
第4章 これがマーケティング・リサーチのキモ
      ~マーケティング・リサーチ4つのステップは、こうして実施される
第5章 インターネットリサーチは万能か?
      ~インターネットリサーチの欠点を知らなければ、あとで痛い目に会う

以前、このblogで紹介した、『マーケティング・リサーチはこう使え』は、リサーチ・ユーザーの立場から書かれた本でしたが、本書は長らく調査現場でリサーチを行ってきた人が書いた本です。ですので、マーケティング・リサーチに対する視点も当然異なり、内容的にはあまりかぶるところはありません。

「調査会社出身」の著者ならではで、本書は実査に関することに多くのページを割いています。ですから、調査を実際に行うにはどうしたらいいか、調査を実際に行う上でのポイントは何か、ということを知りたい方へお勧めしたい本です。
とくに、4章5節「実査の手抜きは命取り」と題されたパートは、他の本ではあまり触れられることのないもので、調査手法別に実査準備内容と実査上の注意がまとめられています。このパートを読むだけでも、この本の価値はあると思います。
調査会社に入社した新人リサーチャーは元より(新人ではなくても必要かもしれませんね・・・)、リサーチを発注する側の人にも、リサーチを完全に調査会社まかせにせず、このような実査のポイントは理解しておいてほしいものです。それが、ほんとうに意味のあるデータを得ることに繋がり、どれだけデータが信頼できるものか=自分の判断に自身を持てるのか、の分かれ目になります。

ただ・・・、
5章のインターネットリサーチに関する章は、少々食い足りない感じもします。書いてあることはその通りなのですが、もっと本質的に考えておかないといけないことが、インターネットリサーチにはあるように思いますので。
とはいえ、つぎのフレーズは、大いに同意します。

「知りたいことに対して、それを解決する最も適切なリサーチは何か」を常に考えることが大切です

ここで、問題を。
本書に、つぎのような事例が取り上げられています。

あるメーカーから相談を受けました。それによると、「競合メーカーで大きい容器に入ったお菓子を出して売上が伸びている。我が社もそれに対抗して大きい容器で出したらどうか、すでに試作品の容器はできている。手法はインターネット調査でやりたい」

さて、あなたはこの相談にどのように答えるでしょうか?
著者の回答は、本書でお確かめください。

4分の1がIE7ユーザー?、半数がCM見て検索?

「大西宏のマーケティングエッセンス」さんのblogで、『不満のない人が多いからといって、良い評価結果とはいえない』というエントリーがありました。

こういった調査の場合、世論調査ではないので、「不満」と「満足」のどちらが多いかで評判を決めるということにはなりません。いまどき、不満が少ないというのは当たり前であり、むしろどれだけ満足度を上げていくかが鍵なので、「満足」とズバリ答えた人の比率が重要になってきます。その結果が19.3%というのはちょっと微妙な結果で、常識的には、ややパワー不足の感が否めません。「やや満足」も19.3%であわせても満足派は38.6%という結果です。

このデータ解釈、まったく同意です。やはり、現場で数字を見ている人の感覚は、違いますね

で、今回のテーマとしてあげたいのは、もう少し別の視点から。
満足度の解釈もそうなのですが、そもそも素材として取り上げられた「全体の約4分の1はすでに IE7 ユーザー」が、どうなのかと。このblogへのアクセスでは、IE7は10%を少し超える程度。自分の感覚がすべて正しいなどというつもりはありませんが、どうも実態とそぐわないのではないかと感じて仕方がない・・・。

で、元リンクを確認してみると。
調査対象者を見てください。つぎのようになっています。

調査対象は、民間企業に勤務する20代から60代の男女330人。男女比は男性82.7%、女性17.3%。年齢別では、20代13.6%、30代47.0%、40代30.9%、50代7.3%、60代1.2%。地域別では、北海道1.5%、東北2.7%、関東34.5%、甲信越1.2%、東海30.0%、北陸1.8%、近畿18.2%、中国5.2%、四国1.8%、九州沖縄2.7%。

男性が8割。さらに30~40代が8割近い。
もしも、このリリースにタイトルをつけるとすると、「30~40代を中心としたビジネスマンでは、IE7ユーザーが4分の1」が、許せる範囲で、決して「全体の4分の1」ではない、と思うのですが、いかがでしょうか。

ついでなので、最近みたデータで、どうなのかなと思ったものを紹介します。
日経MJの2007.3.7の2面の記事、タイトルは「CM見て検索、半数が経験」というものです。
そこで、調査方法と対象者を確認すると、手法はインターネット調査、対象者は「週1回以上テレビを視聴する20代~50代の男女2000人」とあります。
ふむふむ・・・。
ポイントでも、「ネット利用者の」という言葉を使ってますし、上記の「全体の」とは違うので、ネット利用者ならこんなものなのかなと思ったのですが、問題はそのネット利用頻度。
平日プライベートの利用時間が、1時間前後が29%、2時間前後が24%・・・。
あれ、残りの半分は?と思うと、どうも、1時間未満と3時間以上が入っているよう。具体的な数字がないので、なんともいえないところではありますが、「平日」の「プライベート」利用で、2時間とか3時間ってどうなんでしょう?かなりのネット・ヘビーユーザーといえるのではないでしょうか?
感覚でものをいってもいけないので、ネット利用時間に関する調査がないかと探してみると、2005年のNHK国民生活時間調査で、つぎのような結果が(元資料はこちらです)。

今回の調査結果では、平日の国民全体のインターネットの行為者率は13%、その人たちの平均時間は1時間38分でした。そこで年層を20~50代に限定し、1時間30分以上インターネットをする人を「長時間利用者」として分析し、自由行動としてのインターネットを長時間する生活とはどのようなものかを考察してみました。

平日のネット利用率が13%、平均時間は1時間38分・・・。
となると、この日経MJの記事の調査対象者は、かなりのネット・ヘビーユーザーとなり、とても「ネット利用者」を代表していると言えないのではと思うのですが。。。
さらに、NHKの資料では、つぎのような見解も述べられています。

  • インターネットを長時間する人は仕事や家事などの拘束時間が短く、その結果自由時間が長い。つまり、インターネットを長時間するだけの時間的な余裕がある。
  • 自由時間が長い人がインターネットを長時間する傾向があるため、インターネットを長時間する人は、結局テレビも長時間見ている。

これをあわせて考えると、自由時間の多い人が、テレビを見る時間も、ネットをする時間も多く、そういう人は「CMを見て、半数が検索」、というのがどうも真実のような気がしてきました。日経MJの記事をよく読むと確かに、

さらに、テレビ視聴時間が長い層でインターネット使用時間も長い傾向がある。これはこのような層が平日に比較的プライベートの時間が多いことに加えて、テレビを見ながらインターネットを使っている可能性が高いことが考えられる。このような層に対して「ウエブ連動広告」が効果的に作用していることが考えられる。

と書いてありました。
だとしたら、「(自由時間の多い)ネットヘビーユーザーでは、CMを見て検索、半数が経験」という見出しをつけてもらわないと。この見出し=「CMを見て検索、半数が経験」では、ミスリードする可能性が高いでしょう。

それと、記事ではさらっとしか触れられていませんが、つぎのようなデータもあります。

「続きはウエブで」と誘導するテレビCMでは
 →WEB検索率=46%、商品購入経験率=18%
URLを知らせるテレビCMでは
 →WEB検索率=44%、商品購入経験率=22%
テレビCMを見て気になった商品を検索では
 →WEB検索率=64%、商品購入経験率=52%

・・・。
え?!、「続きはウエブで」よりも、「気になった商品を検索」の方が検索率も、商品購入率も高いじゃないですか。
ということは、「続きはウエブで」とか「URLを知らせる」ということをやるよりも、CM自体&商品自体の魅力を高める方が、検索率も購入経験率も高くなるということでは?・・・。

『つっこみ力』のエントリーでも書きましたが、データはこのように、分析者(記者?)の意図が反映されるものなのです。とくに、見出しだけで判断するのがいかに危険なことかがお分かりいただけると思います。

それと、もうひとつ。インターネット調査のデータを読むときは、「答えている人が誰か」ということを、きっちり確認し頭に入れてデータを読まないといけない。とくに、PCやネット関係の調査のときは、要注意です。(このあたりのことについては、寺子屋でも近々テーマとして取り上げるつもりです。)

PS.
だからといって、「ネット調査はダメだ」などというつもりは毛頭ありません。
要は使い方と、データの読み方です。

『花王の日々工夫する仕事術』

花王の「日々工夫」する仕事術 花王の「日々工夫」する仕事術
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2006-05-27

実はずいぶん前に読んでいたのですが、紹介するまでもないかなと思っていました。まんまと、「あたりまえ」の罠にはまっていたと反省です・・・。

筆者は、花王と長い間専属契約を結んでいたライターなので、等身大の「花王マン」の仕事ぶりが描かれています。書かれていることは、さらっと読んでしまうと、至極あたりまえのことに思われますが、よく読むと、日々の仕事に活かせることが随所に散りばめられています。これに気づくかどうかが、本書を読んで価値を得るかどうかの分かれ目になるのでしょうが・・・。

「はじめに」で、本書を書くきっかけについてつぎのように書かれています。

花王の成長の秘密は、「当たり前のことを当たり前にやる」強みだといわれます。それは確かにそうでしょうが、多くの花王社員に接した結果、「当たり前のことを自分で工夫する」のも大切だと思うようになりました。
この本に出てくる花王社員の仕事ぶりは「きわめてフツー」です。みなさんのなかには「こんな程度なの?」と思う人がいるかもしれません。ただし地道に日々の業務に取り組みながら、“自分なりに工夫”しています。そんな個人の工夫が、チームとして、会社としての「総合力」に結びつく。それが花王のもうひとつの真骨頂といえます。

さて、では「フツー」と「工夫」がどのように紹介されているか。いつものように、もくじを紹介しておきます。

1章 常に考えて「新たな展開」につなげる
    ~花王マンの「商品開発」に学ぶヒント
2章 「従来のよさ」と「新しさ」を使い分けて進む
    ~花王マンの「商品マーケティング」に学ぶヒント
3章 顧客への密着で「新たな提案」をし続ける
    ~花王マンの「販売・販促現場」に学ぶヒント
4章 「専門性」を打ち出し、「存在感」を高める
    ~花王マンの「原料調達・生産・物流現場」に学ぶヒント
5章 消費者の“真意”を探り、ファン獲得をめざす
    ~花王マンの「消費者交流」に学ぶヒント
6章 「聞き手の関心」を考え、自分の言葉で熱心に伝える
    ~花王マンの「話し方・プレゼン」に学ぶヒント
7章 「親切」「ていねい」がすべてにまさる
    ~花王マンの「人とのつき合い方」に学ぶヒント
8章 「効率性」と「根回し」を使い分ける
    ~花王マンの「会議・ミーティング」に学ぶヒント
9章 「柔軟」に受け入れ、「頑固」にこだわる
    ~花王マンの「風土・体質」に学ぶヒント
10章 「何を得たか」を重視して、「今後の活動」につなげる
    ~花王マンの「失敗」に学ぶヒント

本書の一番最初に紹介されている「トップブランドの全面刷新に結びついた母親の洗濯」は、まさに「カンブリア宮殿」でも紹介されている事例です。

冒頭でも書いたように、ほんとうにさらっと読めてしまう本です。
しかし、「自分はどうか」という視点で読み返すと、なかなかできていないことも多いことに気づくと思います。
本書を、「つまらん」と感じるか、「なるほど」と感じるかは、読み方ひとつです。
(か、ふだんから、当たり前のことをやる、少しでも工夫しながらやる、ということが身についている人ですね。そういう人は、本書を読む必要は無いでしょう。)

「花王マン」の仕事ぶりに興味のある方、ふだんの自分の行いを顧みたい方、少しでも仕事のヒントを得たいと思う方、一読ください。






花王の強さ

今日のテレビ東京「カンブリア宮殿」は、花王会長・後藤卓也氏でした(番組HPは、こちらへ)。
花王については、いつか書いておきたいと思っていたのですが、いい機会ですので。

番組で語られていた花王の強さは5つ。

1.イノベーション(革新)だけを求めるのではなく、インプルーブメント(改良)を続ける
2.お客様の声(とくに苦情)を大切に
3.キョロキョロする好奇心
4.まじめ、まじめ、まじめ
5.偉大なる凡人集団

最後に司会の村上龍さんは、「面白みがないかもしれない。けれど、あたりまえのことを、あたりまえに続けることが強さ」というようなコメントをしていましたが、まったく同感です。
ただ、ポイント、ポイントで紹介されていた花王内部の動きは、「あたりまえに見えるけど、あたりまえに行われていないこと」が多かったように思います。

気づきとしていくつかポイントをまとめておきたいと思います。

  • 後藤会長の行動自体が、世間でいう「あたりまえ」からは外れているのではと思いました。多くの社長、会長といわれている人が、ふだんどのような生活をされているのかは、よく存じ上げませんが、後藤会長は社長時代から電車で通い、掃除・洗濯も自分でなさっているそうです。常に、「ふつうの生活」を続ける。そして、キョロキョロと好奇心をもって、周りを観察し続ける。トップ自ら、このような行動を取る企業は、DNAとして社員も当然、そのような行動を取るようになるのではないでしょうか。そのような中からも、改良の種は見出されていると思います。
  • 「アタック」は、発売以来20回以上も改良を重ねているそうです。「花王といえば、改良を重ねることで、ロング・ブランド化する」というのはマーケティング界では常識となっているので、このこと自体には驚くことはないでしょう。では、どうやって「改良」のきっかけを得るのか。ふだんから、当然のように消費者調査を積み重ねていますが、花王の強さは「現場を観察すること」を重視し続けてきたことです。いまでこそ、「観察調査(あるいは、言葉を換えて、エスノグラフィなどといったりしていますが・・・)」は、かなり調査の場面でも重視されるようになってきたと思いますが、花王は以前から、消費の現場に入り込んで実態を捉えることを重視してきました。
  • そして、「消費者相談センター」と、それを活かす仕組み(「エコーシステム」といっていたと思うのですが、今では、この呼称は使われなくなったのでしょうか・・・)。
    多くの会社に、「消費者相談窓口」はあると思います。しかし、そこに集まった声をどの程度、活用できているのか。花王では、1日500件(年間で約12万件)の声がセンターに集まるといいます。そして、次の日には、役員を含めた全社員が、この声にアクセスでき、役員自らがこの声を読みます。お客様の声を役員自らが、毎日チェックする企業がどのくらいあるでしょうか?(花王の役員会では、このようなお客様の声がプロジェクターで投影され、それについて議論が行われているというようなことを聞いたこともありますが・・・)
    そして、役員ばかりでなく、社員レベルでも改良できそうなことについては、すぐに改良を行う。全社で、お客様の声を真摯に聞く、それに応えるという姿勢ができているということが、すばらしいことだと思います。

番組の中で紹介されていたのは、以上のようなことでしたが、花王は流通でも、コミュニケーションでも、独自の考えで行動を行っています。このあたりについては、様々なマーケティングの教科書で触れられることも多いので、そちらをご覧ください。
とにかく、花王を勉強することが、マーケティングを勉強することに繋がるといっても過言ではないと思います。

ちょっと視点を変えて、他の本からも、花王についていくつか紹介を。
まずは、「アタック」の開発にあたっての調査について。
(参考図書:「ゼミナール・マーケティング理論と実際(TBSブリタニカ)」~残念ながら絶版になっているようです)

  • 「アタック」は、一般的には、それまでの洗剤が大きくて重い(番組では4㎏と紹介されていました)という消費者の不満から、開発されたとなっています。ところがアタック以前の1975年には、「ザブ」や「ニュービーズ」で洗剤の小型化商品が売り出されるものの失敗に終わったという現実があります。
    このときに、「小型化をすると、性能は同じでも評価が高くなるが、売りには繋がらない」という課題が残されました。
  • 再度、洗剤小型化への挑戦を始めたのが1983年。ここから、様々な調査が行われます。

    1:社外製品テスト
    →剤状評価のための8週間の長期使用テスト
    2:社内製品テスト
    →包装形態、箇装、計量器具などについて、秘密保持のために社内でテスト
    3:洗濯使用実態調査
    →濃縮型洗剤の潜在需要、マーケットサイズ確認のための調査
    4:長期定性パネル調査
    →プロダクト・コンセプト+製品の2週間使用テスト&事後グルイン
    5:C/Pテスト
    →定量的なコンセプト/プロダクト調査
    6:長期定性パネル調査(2回目)
    →コンセプト+製品の6週間使用テスト
    7:コンセプトテスト
    →コンセプトの方向性確認のための定量調査
    8:C/Pテスト(2回目)
    →定量的なコンセプト/プロダクト調査
    9:容器使い勝手テスト
    →容器形状決定のためのテスト
    10:粒子色の嗜好性テスト
    →4種類の粒子の比較テスト
    11:社外製品テスト(2回目)
    →競合商品とのブラインド・コンペアテスト
    12:社外製品テスト(3回目)
    →前回試作品&競合商品とのコンペアテスト
    13:ネーミングテスト
    →4案での比較テスト
    14:コンセプトテスト(2回目)
    →表現2案の比較テスト
    15:C/Pテスト(3回目)
    →表現2案+プロダクトの6週間使用テスト
    16:コンセプトテスト(3回目)
    →これまでの調査結果からの修正案によるコンセプトテスト
    17:新聞広告タイプのコピーテスト
    →広告表現づくりのためのテスト
    18:パッケージデザインテスト
    →4案での比較テスト
    19:パッケージデザインテスト
    →シェルフインパクトテスト(既存11銘柄との比較~モナディック&一対比較)
    20:社外製品テスト(4回目)
    →最終2案でのコンペアテスト
    21:CFオンエア前テスト
    →完成TV-CFのオンエア前テスト

  • と、これだけの調査を重ねて最終商品に辿り着いています(長い・・・)。
    さらに、このときに、「売上予測モデル」の開発にも取り組んでいます。
    この「売上予測モデル」について、筆者の陸正氏はつぎのように述べていますが、至言だと思います。

「予測モデルをもつことにより予測にかかわるいろいろな要因を論理的、組織的に考えるマーケティング風土が生まれ、根づいていくことが、モデルの第一の効果であり、モデルによる予測が当たるか当たらないかは副次的な要素といえよう。」

  • 1987年に「アタック」は上市されますが、花王の調査はここからも続きます。

    22:トラッキングサーベイ
    →発売直後(TV広告1000GRP時点)での知名、使用状況の把握(電話)
    23:トラキングサーベイ(2回目)
    →TV広告2000GRP時点での知名、使用状況の把握(電話)
    24:CF電話調査
    →TV-CFオンエア後のCF認知・評価、購入意向の把握
    25:購入者追跡調査
    →発売直後に店頭での面接調査&1ヵ月後の追跡調査
    26:トラッキングサーベイ(3回目)
    →TV広告3000GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
    27:購入者追跡調査(2回目)
    →地方都市での購入状況の把握
    28:トラッキングサーベイ(4回目)
    →TV広告6000GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
    29:トラッキングサーベイ(5回目)
    →TV広告7500GRP時点での知名、使用状況の把握(訪問)
    30:意識実態調査
    →新型洗剤市場の今後を占うための意識&実態調査
    31:洗濯実態調査
    →市場実態の把握と、新型洗剤市場の意識&実態調査
    32:トラッキングサーベイ(6回目)
    →発売半年後の知名、使用状況の把握(訪問)
    33:トラッキングサーベイ(7回目)
    →9ヵ月後の知名、使用状況の把握(訪問)

参考書に書かれていた「アタック」に関する調査は、以上です。(まさかこんなに長くなるとは思っていませんでしたが・・・)
一度失敗しているカテゴリーであり、市場開拓型の新商品であったからこそだとは思いますが、すさまじい調査の繰り返しです。
後藤氏の語っていた、「まじめに、当たり前のことをしっかりと」「ヒーローではなく、凡人が皆の力で事を成していく」を、そのまま当てはめられそうな事例になっています。

もう一冊、花王の仕事ぶりを紹介した本があるのですが、いい加減長くなってしまったので、エントリーを改めることにします・・・。

PS.
テレビ放送の欠点は、こうやって紹介しても、見てない人に「見たら」といえないことです・・・。
しかし、「カンブリア宮殿」については、BSデジタル放送とスカパーで再放送があるようなので、これらの放送を見られる人は、ぜひご覧いただければと思います。
再放送のタイミングは、HP(→こちら)で紹介されていますので参考にしてください。






『マーケティングで使う多変量解析がわかる本』

マーケティングで使う多変量解析がわかる本 マーケティングで使う多変量解析がわかる本
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2007-01-26

多変量解析の入門書として、手ごろな本が出版されています。

以前、「購買心理を読み解く統計学」を紹介していますが、どちらかというと新しい手法を中心としたものでした。
翻って本書は、マーケティングでの事例を取り上げながら、多変量解析初心者でもわかりやすく、ベーシックな手法を中心に解説しています。

もくじを紹介しながら、とりあげられている手法を見てみます。

第1章 多変量解析とは
第2章 解析データの基礎知識
第3章 重回帰分析
第4章 数量化Ⅰ類
第5章 プロビット分析
第6章 コンジョイント分析
第7章 判別分析
第8章 数量化Ⅱ類
第9章 ロジスティック回帰分析
第10章 因子分析
第11章 数量化Ⅲ類
第12章 コレスポンデンス分析
第13章 クラスター分析
第14章 多次元尺度法
第15章 パス解析と共分散構造分析
第16章 AHP(階層化意思決定分析法)

それぞれの分析手法について、どのような手法か、各分析に出てくる統計用語の意味、解析の手順、アウトプットまでの手順、結果の解釈の仕方について整理されています。

多変量解析をはじめて使ってみたいという人や、これまでまったく手法の理解をせずに見よう見真似で使っていた人、あるいは自分で分析はしないけれど結果を見ることがある人にとって、多変量解析とはどんなものか、各手法がどんなものかを知る最初の取っ掛かりとしては手ごろな内容だと思います。

ただ、14もの解析手法が取り上げられていることからもわかるとおり、それぞれの手法についての突っ込んだ説明はされていませんので、すでに多変量解析についてある程度の知識を持った方には、内容が浅すぎると思います。
また、本書で多変量解析への取っ掛かりをつかんだとしても、つぎにはより専門的な本も読まないと、ほんとうの意味で手法を使いこなすことは難しいです。とくに、自分で統計ソフトをまわし、分析をする必要のある人は、他の本で理解を深めることをお勧めします。
(→こちらで、いくつかの本を紹介していますので、参考にしてください)

そして、著者が「はじめに」で指摘しているとおり、

多変量解析の手法を正しく使い分けるには、手法の習得だけではなく、洞察力、推理力、データを丁寧に分析する根気強さに加え、解析結果を社会全般と照らし合わせて妥当性をチェックできる幅広い知識なども求められます。

ということを忘れずに、分析に取り組む姿勢がとても大切だと思います。
安易に、多変量解析を使えば何かわかるだろう、という姿勢で分析を行うことは、厳に慎みたいことです。

とはいえ、何も知らずに分析を行うことの方が、もっと悲惨な結果を招くでしょう。
「多変量解析とはなんぞや?」「どのように使うのか?」「どういうときに使えるのか?」を知り、多変量解析への第一歩を踏み出すには、ちょうどよい本だと思いますので、入門者や初心者の方へは、お勧めの本です。







『つっこみ力』

ちくま新書 645 ちくま新書 645
価格:¥ 735(税込)
発売日:2007-02-06

ご存知(ですか?)、パオロ・マッツァリーノ氏の三冊目の本です。
(パオロ・マッツァリーニという名前をみて、「おぉ!」とか、「くすっ^^」とされた方、同好の士ですね^^;)

この本の本題は、題名にもある「つっこみ力」だと思うのですが、マーケティング・リサーチを主テーマとしているblogとしては、「第二夜:データとのつきあいかた」を中心に紹介をしていこうと思います。
(「第一夜:つっこみ力とはなにか、もしくは、なぜメディアリテラシーは敗れ去るのか」も、おもしろい内容ですし、一読の価値はあると思います。)

マーケティング・リサーチを飯の種にしている私がいうのもなんですが、ここで氏が語る「データ」についての見解は、まったくもってその通りと思わざるを得ません。
たとえば、つぎのようなことです。

データほどおもしろいものはないし、便利なものはない。と同時に、データほどバカバカしいものもない、っていえば、私の気持ちをほぼ伝えられると思います。

社会現象に関するデータとつきあう上で、最も大事な点をお話しましょう。「データは自然に湧いてこない」んです。
どんなに高度な分析から得られたものであろうと、データは自然に湧いてくるものではありません。誰かがなんらかの目的を持って社会現象の一部を切り取ったものなんです。すべてのデータには、それを作成した人間の、なんらかの意図や偏見が裏に隠されています。データをおもしろがれずに、信じてしまう人は、そこらへんのカラクリをわかっていないのでしょう。

少し旧聞になってしまいますが、「あるある大事典」でのデータ捏造問題なんて、こんなことをわかっていれば振り回されることもないでしょうに・・・、と思ってしまいます。(ただ、「あるある」の場合は「捏造」なので、データの読み方とか、解釈の仕方以前の問題でありますし、「社会現象」ではなく「科学実験」として提示しているところが、なお罪深いのですが。)
「あるある」ほどひどい例はそんなにないとしても、すべて「データの解釈」は、それを行った人の意図に沿って行われているというのは真実だと思いますし、Aというデータを見た全員が一意にデータを解釈するということもないと思います。(だから、「格差論争」が起こるわけで・・・)
すべてのデータは、それを発表している人達の意図に沿って提示、編集されているものです。
さらに、調査データなんて(「なんて」、といってしまうと少々語弊もありますが)、データ発表者の意図した結果を出したいと思ったら、ある程度可能な世界であったりもします。

メディアに取り上げられるデータにしろ、マーケティングで行われる調査にしろ、結局、つぎのような視点がとても大切になるのではないでしょうか。

経済学者のディアドラ・N・マクロスキーさんは、統計データを解析しただけで学問したつもりになっている学者が増えている現状を批判しています。データの計算結果をどう考え、どうやって社会にいかしていくべきかは、最終的には人間が判断しなければいけないんだと、ごくあたりまえと思える忠告をしています。

ここでは学者を批判していますが、これはそのままリサーチャーやマーケターといわれる人にも当てはまりますし、データは素材であって、それをどのように活かしていくのかを常に考えていかなければならないと思います。

この本では、自殺の原因についてある見解を示しています。しかし、これもひとつの見方であってすべてではない。氏も、これを読んで「そうだ、そうだ」と手放しで納得する人に対しては、「わかってないな」と突き放すと思うのですが・・・。

この本とあわせて、ぜひ↓の本を読むことをお勧めします。

反社会学講座 反社会学講座
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2004-06-20

パラサイトシングル、少子化論などを題材として、いわゆる「世間」でいうところの一般論とは異なる見方を提示してくれています。データの取り出し方、見方ひとつで、このような見方もできるのだという例示をしてくれています(もちろん、データは捏造されたものではありません。出所のしっかりしたデータを使って論を展開しています。)

ついでに、氏のもう一冊の本も。
(個人的には、あまりいいできだと思いませんが・・・)

反社会学の不埒な研究報告 反社会学の不埒な研究報告
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2005-11

データは決して一面的ではないということを理解するには格好の本だと思いますので、とりあえず一読されることをお勧めします。できれば、「反社会学講座」→「反社会学の不埒な研究報告」→「つっこみ力」の順番で読むのがいいと思いますが。

とはいえ・・・、
氏は自分の職業を「戯作者」としています。いずれの本も、結構、毒含みの文章ですし、ときおり、それこそ劇作っぽく構成していたりと、好き嫌いがわかれると思いますが・・・。

PS.
「データの読み方」という視点では、以前にこのblogで紹介している次の2冊も、あわせて読んでいただくといいと思います。

■リサーチリテラシーのすすめ

■データの罠

プラス、blogでは紹介していませんでしたが、つぎの2冊も類書としては参考になると思います。

統計数字を疑う なぜ実感とズレるのか? 統計数字を疑う なぜ実感とズレるのか?
価格:¥ 777(税込)
発売日:2006-10-17
99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方 99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方
価格:¥ 735(税込)
発売日:2006-02-16

『空飛ぶタイヤ』

空飛ぶタイヤ 空飛ぶタイヤ
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2006-09-15

少しだけマーケティング・リサーチを離れて・・・。
最近、新書やビジネス系の本ばかり読んでいましたが、久しぶりにエンターテイメント系の本を読んで、これがヒット、一気に読んでしまいました。(500ページ近い、それも2段組の本なのに!)

題名をみてピンと来る人もいるかもしれませんが、実際に起こったある事故をモチーフとしたフィクションで、組織というか、サラリーマンを見事に描いていると思います。
帯には、つぎのようにあります。

マンション耐久強度偽装やエレベーター事故、いじめの事実隠蔽などのニュースを見聞きするたび、なぜ大人が責任のなすりつけ合いを何ヶ月も続けるのか、私はつねづね不思議に思っていたのだが、この小説を読んで「ああ、こういうことであるのか」と深く納得した。(中略)じつに牽引力のあるエンターテイメント小説であり、同時に、人間性を疑うような事件の多い現在への、痛烈な批判でもある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・角田光代氏(朝日新聞11/5読書欄より抜粋)

この本を読んでいるとつくづく思います。
「顧客第一」という言葉を社是・社訓にしている会社は、それこそ星の数ほどあるでしょう。ない会社を探す方が難しいくらいかもしれません。
なのになぜ、雪印、パロマ、不二家、それに損保会社・・・、同じような事件が次々と続くのか?
そして、このような事件が起こると必ず、「体制はどうなっていたんですか?、制度はどうなっていたんですか?」という質問がなされます。そして、「今一度、社内の体制を見直し・・・」という、毎度おなじみの返答が繰り返される。
なのに、なぜ・・・。

答えはやはり、「人の弱さ」なのでしょう。
「ポジション」のもつ権力の魔力、そしてポジションがあたかもその人自身の力であるかのような錯覚を与え、その力で人を従わせようという気持ちを持った人が現れる。そして、そのポジションを得ることへの執着とそのポジションを守ることへの執着が、正常な判断を無くし、顧客を見えなくし、社員を見えなくし、制度や体制を形骸化させる。さらに、ポジションをもった人に汲々とつき従うだけの人々が、判断を放棄し、顧客を見なくなる。
全体として、内向きの力ばかりが強大化して、「ひらめ」や「かます」「ゆでがえる」が大量発生していく。
いくら、組織や体制、制度をいじっても、それを運用する人が、「ポジション」という見せ掛けの力に惑わされる限りは、同じことが続く。

そして、「愛社精神」はあるのに、「愛社員心」という言葉はない。
「会社がなくなれば、社員もなにもない」という理屈はよく聞かれますし、否定するつもりもありません。けど、「社員がいない会社も存在しない」ということは、ないのか?
人は組織のためにだけ、存在しているのか?

実際、太古の昔から繰り返されていたことですから、人のもつ業なのかもしれません。
映画「墨攻」での梁王しかり。この映画もおすすめです。)

結局、このような愚かな繰り返しを断ち切るには、『経営戦略を問いなおす』でも言われていたことに行き着くのではないかと思います。
最後は、「人」です。それも、「事業観」をもった経営者の力量です。
お客様に、そして社員に支えられていることを忘れずに、そして自分たちの会社の存在意義を常に指針として、考え、行動できる、そして人を見極める力量をもった経営者が一人でも多くなることを願わずにはいられません。

沈まぬ太陽」や「クライマーズハイ」と繋がる感じでしょうか。これらの本が好きな方は、きっと、はまると思います。
(個人的には、「個人対組織」をテーマにした本や映画に弱くて・・・。「踊る大捜査線~レインボーブリッジを封鎖せよ!」を見ながら、泣いてしまったくらいで^^;)。

雪印、パロマ、不二家・・・、これらの事件がどうして起こるのか、会社とは何か、個人とは何かを考えるには絶好の書だと思います。
前回の直木賞候補作でもあり、ミステリー、エンターテイメントとしても、断然のお勧めです!

PS.
最後に、マーケティング・リサーチっぽいことも少し。
この本の中に、つぎのような文章がでてきます。

カスタマー戦略課の業績考課は、顧客アンケートによるCS、つまり顧客満足度で測定することになっている。アンケートは年4回、四半期毎の実施だ。当初からこの査定方法について「正確に測れるのか」という疑問の声が上がっていたものの、過去二回は期待値を下回り、「カスタマー戦略課なにやっている」と叱責の声があがった。

きっと、これも多くの企業でみられる光景なのでしょうね・・・。
それも、アンケートをすること自体が目的となり、満足度の数値だけが目標となり、すべての基準となる。
池井戸さんわかってるな、とニヤっとさせられました。。。

調査の目的とタイプ~整理

owl さて、これまで何回かにわけて、調査の目的とタイプについてみてきたけど、整理できたかな?

P夫 実態把握、仮説探索、仮説検証というタイプ分類については理解できたんですけど、なんていうんだろう・・・、やっぱりそんなに意識しないといけないことなのかなと・・・。

owl うん、確かに無理やり分ける必要はないのかもしれない。
ここで覚えておいてほしいことは、調査目的に沿って、いろいろな調査のやり方があり、設計するにあたって、こういう視点は欠かせないということ。そして、実態把握→仮説探索→仮説検証というサイクルを回すことが効率的なマーケティングには必要ではないかということなんだ。
けど、すでに行っているリサーチについて、これはどのタイプだと無理やりどれかのタイプに当てはめて考える必要はないよ。

たとえば、「マインドリーダーへの道」さんのblogにあった粉ミルクの事例について、考えてみようか。この事例で取り上げられた「母親は、粉ミルクの銘柄をどうやって決めるのか」についての調査は、どのタイプだろう?

Q子 『Y社市場調査課ではこの情報を検証すべく』と書かれているんだから、仮説検証型ではないですか?

owl そう、この文脈でいくと、確かに仮説検証型のリサーチと位置づけられそうだよね。
でも、「マインドリーダーへの道」さんも最後の方で書いている、『論理を大切にすること以前に、そもそも消費者が特定の銘柄(ブランド)を選好するプロセスやきっかけ、つまりは「消費者心理・消費者行動」を十分に理解できていなかったことが問題だったのではないでしょうか。』という意見に大賛成なんだよね。
つまり、この程度のことは、本来実態把握型リサーチで押さえられるというか、押さえておくべきことだと思うんだ。
そうなると、この調査の目的であった「母親は、粉ミルクの銘柄をどうやって決めるのか」ということについては、実態把握型で調査すべきか、仮説検証型すべきかという問題設定自体がナンセンスで、Y社はたまたま実態を把握できずにいたところに、営業情報から仮説を見出し、それを検証した、という整理が正しいということになる。

P夫 なんか、ますますわからなくなるかも・・・。

owl う~ん・・・^^;
こういう例えではどうだろう。みんな、健康診断はしているよね?

P夫 まあ・・・

owl 健康診断は、なんでするの?

Q子 体に、どこか悪いところがないか調べるためじゃないですか。自覚症状はなくても、どこか悪いところがないかを定期的に調べることで、病気の早期発見をするという。

owl で、何か悪いところが見つかったら?

Q子 精密検査ですよね、やったことないですけど・・・。

P夫 ぼく、ありますよ。胃に影があるとかで、胃カメラを飲まされました。二度とイヤですけど・・・

owl 結果はどうだったの?

P夫 潰瘍が見つかったとかで、薬で治療をしましたけど。

owl で?直ったの?

P夫 再検査では、なんともないと。
僕の病気が、何の関係があるんですか?-_-

owl ごめんごめん^^;でもね、ちょっと考えてみて。

まず、毎年健康診断をしているよね。これって、いってみれば実態把握型のリサーチをしていることになると思わない?
そして、何かおかしなところが見つかったら精密検査をしてみる。これは、仮説探索型のリサーチ。具体的に、どのような病気かを健康診断とは別の手法で探し当てているんだよね。
で、治療をしてみる。これも、いってみれば仮説にあたるよね。この病気・症状なら、この治療法と薬って。そして、実際に直ったかどうかを再検査してみる。いってみれば、仮説検証型のリサーチ。
こうやって当てはめてみると、それぞれのリサーチの役割や位置づけってわかりやすくならない?

Q子 ほんとだ・・・。いってみれば、リサーチって企業の健康診断であり、精密検査であり、再検査であり、ってことなんですね。

owl そう思うよ。だから、実態把握型のリサーチが重要なんだよね、病気になる前にその兆候を発見しようというんだからね。それに、体も市場も、それぞれの個体で違うのだからふだんどのような状態にあるのかを知らないと、変化もわからないからね。

今度は、素直に実際の商品開発の事例で整理してみようか。
教材は、『新製品・新事業開発の創造的マーケティング』で取り上げられていた「からだ巡茶」にしてみよう。

1.現状把握と仮説整理
・世の中で起こっている事象を把握するためのデータ整理
→既存市場データ、時系列市場トレンド、消費者意識データ、飲料購入調査から
・有識者ヒアリングの実施
→コンビ担当営業部隊へのヒアリング、スーパー担当へのヒアリング

2.初期仮説設定と開発キーワードの整理

3.仮説の深化
・専門家ヒアリング
・店頭観察
・一般消費者の「漢方意識」調査(web調査)

4.仮説の検証
・マーケットサイズとターゲットの特定のための一般消費者調査(web調査)
→因子分析、重回帰分析、クラスター分析の実施
・グループインタビュー
→ターゲットのプロファイリング

5.総合コンセプトの作成と承認

6.処方開発、ネーミング開発、パッケージ開発
→パッケージスクリーニングテスト

7.最終バンドル調査
→上市に近い状態でプロトタイプをつくり、総合的に製品としてどの程度の消費者受容性があるかのシミュレーション調査

どう?きちんと、実態把握→仮説探索→仮説検証の流れを踏んでいることがわかるでしょう?
とくに、最初のデータ整理で使われているのは、このときにあらためて調査をしているのではなくて、継続して実施している調査データがあってはじめて可能な分析だということに注意してほしいな。

P夫 なるほどね・・・。こうやって、具体的な事例をみるとよくわかりますよね。
でも、逆に、自分たちがいかにきちんとやっていないかということも気づかされますけど・・・。

owl 本を読んでもらうと、それぞれのステップでどんなことを考えたかも具体的にわかるから、興味をもったらぜひ読んでみてね。その方が、より理解は深まると思うから。

さて、これで調査目的とタイプの話は終わり。
つぎからは、他にもいっぱいあるリサーチを行う上で知っておいて欲しいことを話していくね。仮説、代表性、時系列データと横断分析、バイアスと偏り、%や平均の意味などをテーマにしていくつもり。
それと、そろそろマーケティングについての本も読んでおいてもらった方がいいだろうね。仮説探索の話なんかも、プロダクトコーン理論を理解している方が理解は早かったりするだろうし。
いくつか紹介していくので、目を通しておくこと。

Q子 はーい^^

仮説検証型リサーチ(調査)

owl 長らくご無沙汰しておりました・・・、皆さんも健康にはお気をつけください・・・。

Q子 もう-_-

owl 今日は、調査タイプの最後、仮説検証型のリサーチについて。
紹介したい本が溜まってきているから、さくさくいこうね^^;

さて、実態把握も終わり、仮説探索も終わり、ある仮説ができあがりました。
そこで必要になってくるのが、果たしてこの仮説は正しいのか、このまま開発を進めて大丈夫なのかというステップだよね。

P夫 でも、仮説はあくまで仮説であって、いちいち確認が必要ですかね・・・。
それと、そもそも「仮説」ってなんですか?これも、わかったようでわからない言葉なんですが・・・。

owl そうだね、「仮説」って言葉は結構使うけど、ほんとうのところってよくわからないよね。ただ、これを説明しはじめると長くなるので、機会を改めて説明することにする。
今回は、たとえば商品開発に際して、ターゲットはどうするのかとか、コンセプトはどうするのかとか、もっと進んで商品自体の仕様は、パッケージは、価格は、流通先は、広告は・・・といったように、いろいろなことを決めないといけないでしょ?その、いろいろなこと、方向性といえばいいかな、とりあえずはこれらのことと思っておいてもらえればいいや。

Q子 それをいちいち確認しなければいけないんですか?

owl 「しなければならない」ということはないかもしれない。ただ、市場に商品を出した時のリスクを少しでも小さくしようと思ったら、した方がいいだろうね。
仮説はあくまで仮説であって、それがほんとうにお客様に受け入れられるかどうかは別の話だから。

P夫 みんなそんなことやっているんですか?だいたい、さっきのターゲット、コンセプト、商品仕様、パッケージ・・・みたいに、その都度で調査をしていたら、開発に時間はかかるし、お金はかかるし。。。

owl うん、P夫君のいうことも、もっともだと思う。
でも、じゃあ仮説のままでつぱっしって、いざ市場に出したらまったく売れなかったというのも問題なんじゃない?

P夫 それはそう。でも、いまの時代って、とにかく他社に先駆けて新しい商品を出せるかというのも、必要ではないですかね?失敗したと思ったら、すぐに改良すればいいと思うし。ソフトなんか、発売された後で、つぎつぎとバージョンアップのソフトをダウンロードさせたりするじゃないですか?

owl たしかに、いまはとにかく発売してしまうことが、最大のテストマーケティングという考え方も、あながち否定できないとも思うよ。
費用対効果の問題だよね。開発コストがそんなにかからないとか、ソフトのようにすぐにバージョンアップをすることができるような商品、あるいは他社がすでに成功しているミートゥー商品だったら、あえて費用をかけて調査をするよりも発売した方がいいという考え方も成立すると思う。
でも、開発にそれなりのコストがかかる商品だとか、ここ一番の商品だとかだったら、やはりきちんと検証を繰り返しながら、商品をブラッシュアップして、発売する方が結局は費用対効果が高いということも少なくないんじゃないかな?

P夫 そうですね・・・。

owl それに、いまはweb調査もある。早く、安く、ターゲットを絞り込んだ調査をすることができる環境になっているんだし。これが、web調査の最大のメリットだし、リサーチにおける貢献だと思うんだけど。

Q子 で?仮説検証のリサーチってどうやるんですか?

owl 難しく考えずに、できたコンセプトや商品仕様、パッケージなんかを直接、お客様に想定している人達に聞けばいいんだよ。

P夫 へ?そんなんでいいんですか?注意することとかは?

owl いい質問^^
いま、P夫くんは、どんな質問を想定したんだろう?

P夫 「あなたは、このコンセプトについてどう思いますか」とか?

owl で、「いいと思う」「まあいいと思う」てな感じで選択肢をつくると。

P夫 まあ・・・。

owl それで?

P夫 で、「そう思う」「まあそう思う」という人が多ければOKと・・・。

owl まあ、ふつうはそう考えるよね。
でも、いつかも話したと思うけど、よほどひどいものでなければ「まあそう思う」くらいは、回答するんじゃない?それで、ほんとうにいいんだろうか?

P夫 でも、アンケートってそんなもんでしょ?

owl では、少し質問を変えて。この調査をする目的って何?

P夫 仮説が正しいかどうかを検証すること。

owl 確かにそう。でも、正しいかどうかがわかるだけでほんとうにいいのかな?
では、ここでいくつか仮説検証型リサーチの整理をしてみるね。

まず、目的はなんだろうか?
一番知りたいのは、P夫くんもいうように仮説は正しいのか、言葉を変えると消費者のニーズにあうのかということ。これは、避けて通れない関門だよね。では、ニーズに合うというのをどうやって判断するのか。単純に「どう思いますか」の答えだけではなんともいえないでしょう?もっと、いろいろな視点で検証しないと。たとえば、回答者は提示したコンセプトを理解してくれたのか、共感してくれたのか、関心をもってくれたのか、これまでの商品と比べて差別性があると感じてくれたのか、新しいと感じてくれたのかなど多角的に捉えておくことが必要じゃないかな。それと、具体的に買ってみたいと思ったのか、これまで購入してきた商品からスイッチしたいとまで思ってくれたのか、くらいまで押さえることも必要かもしれないよね。コンセプト段階では難しいかもしれないけど。

で、ニーズに合う、あるいは合わないとわかったとして、それでいいのか?そんなことはないよね?具体的に、つぎのステップに進むにあたって、どこを強化すべきか、補強すべきか、直すべきかがわからないと、どうしようもないでしょう?これが、2番目の目的。

そして、仮説っていくつかある場合がほとんどなんだけど、じゃあどれがいいのかを最終的に決断しないといけない。複数案の中から、最善案を決定しないといけないよね?これが3番目の目的かな。これは、1番目と2番目の目的から判断することだと思うけど。

P夫 ふむ・・・。なんとなく、納得です・・・。

owl これで、目的は整理できた。調査票もつくれる。では、つぎに設計はどうするか?
どう?

P夫 どうって。。。ふつうに、誰に、どのように聞くかを決めればいいのでは?

owl そうなんだけどね^^;
これまでの、実態把握型や仮説探索型のリサーチと、この仮説検証型のリサーチのもっとも違う点は、調査設計かもしれないと思うんだ。
前の2つは、極論すると数字としての厳密性はそんなに高くないといえるかもしれない。でも、「検証」という言葉でもわかるように、このタイプのリサーチは、設計の厳密性が結構重要になる。さっき言ったように、最終的には複数案の中から最善案を決めなければならないわけだからね。
「ほんとうに、B案に比べて、A案の支持が高いといえるのか」ということが言えないと意味がない、ということだよね?
ここで、「実験計画法」の知識が必要になってくる。

Q子 実験、ですか?「あるある」みたいな?まゆつば・・・-_-

owl まあ、あれも本当はそうなんだよね。それが、正しい実験を行ってないばかりか、結果を捏造しているかもしれないから、問題になっているんだけどね。
この、「実験計画」は、結構難しいからね。ここでは、説明しないけど。。。

では、設計にあたって何を決めないといけないか。
まず、手法をどうするか?
WEBでやるのか、対象者を会場に呼んで行う会場テストか、回答者の自宅に商品を送って実際に使ってもらうHUT(ホーム・ユース・テスト)か、あるいはデータより改善ポイントの抽出を主眼にグルインでやるか。テストをするもの(コンセプトか、プロダクトか、パッケージか・・・)によって、また開発段階や、商品カテゴリーによって決まってくる。

つぎに、調査対象者をどうするか?
今のユーザーのみか、これまでユーザーでなかった人も含めるのか。あるいは、ヘビーユーザーのみでいくか、ライトユーザーまで含めるか。さらに、自社ブランドユーザーのみでいくか、競合ユーザーも含めるのか。これは、開発しようとしている商品の位置づけで決まるよね。

で、最後に、どんなテストをするのか。
これは、複数案を、どのように対象者にふりわけるか、提示するのかということだけど、これが実験計画を理解していないと、どうにもならない。何も知らないと、かなり適当な調査計画になってしまうから、注意が必要なんだ。
ピュア・モナディックか、シーケンシャル・モナディックか、一対比較でいくか。
ブランド名は提示するか、提示しないのか。
テスト品の提示順はどうするのか。系列位置効果とか、隣接効果の問題があるので。
これらで、調査結果はかなり変わってしまうから。

P夫 う~ん・・・。なんか、また魔法の言葉が・・・。モナ・・・なんですか?

owl 聞いたこと無いの?でも、これまで商品開発の調査ってやっているんだよね?

P夫 一応・・・。

owl だとすると、やばいかも・・・。
こんなことあまり言いたくないけど、へたをすると調査会社の人間でも、このあたりのことについて、正しく理解していない人間もいるかもしれないからな・・・。
これも説明を始めると長くなるから、今回は説明しないけど、一度自分で言葉を調べておいた方がいいかもしれないね。後で、きちんと説明するけど。
とりあえずは、この本(『マーケティング・リサーチの論理と技法』)あたりで勉強しておいた方がいいかもね。

Q子 少しでいいので、さわりだけでも。。。たとえば、どんなことですか?

owl そうだね・・・。
たとえば、君たちの名前、P夫くんとQ子さん。これも、なんの意味もなくつけたわけじゃないんだよね。

Q子 へ?

owl たとえば、提示したい案が3つあるとする。調査の現場では、呈示試料というんだけど、この3つの試料に名前をつけるときに、たいてい、P、Q、Rという記号を振り分けるんだ。なぜだと思う?

Q子 さあ・・・。

owl 最近、「県庁の星(→ CD)」って映画みたんだけど、この中でも象徴的な場面があったね。

Q子 織田裕二と柴崎こうのですか?けっこう、おもしろかったですよね^^

owl ある意味、マーケティングの勉強にもなるしね。「データでは、見えてこないことがいっぱいある」的なセリフがあったけど至言だよね。
で、この中で、お弁当つくりの競争の場面があるんだけど、AチームとBチームに分ける時に、県庁から研修に来ている織田裕二は最初Bチームといわれてむっとするんだ。
なんでだと思う?

P夫 そりゃ、AチームとBチームだったら、Aチームの方が正統派というか、いいチームという印象があるからじゃないですか?

owl そうだよね?どうしても、A、B、Cという記号には、すでに序列関係のイメージがついてしまっている。だから、CよりB、BよりAがいいと直感的に思ってしまうんだよ。
だから、調査のときの呈示試料についても、そのようなイメージを与える危険性を排除するために、P、Q、Rという記号をつけているんだ。
君たちの名前を、P夫くんとQ子さんにしたのも、調査屋のくせ^^;

Q子 なるほどねー。そんなところにまで、気をつかうんですね。

owl そう、この例は一部でしかないんだけど、とにかく調査の回答者に少しでも予断を与えたり、心理学的な見地からのバイアスがかからないように、いろいろと工夫をしているんだよ、調査の現場では。
そんなことを知らない人はいっぱいいるし、なんでこんなに準備に時間がかかるんだみたいなことを言う人もいっぱいいるけどさ(ブツブツ・・・)

Q子 はいはい^^;