月別アーカイブ: 2009年4月

雑誌『プレジデント』石井先生のコラム part3

雑誌『プレジデント』に掲載される石井淳蔵先生のコラムの紹介、Part3になります。
前のエントリーとの関連エントリーですので、あわせてごらんください。
(→こちら。先生の著書『ビジネス・インサイト』の紹介です

まず、このblogでの石井先生関連のエントリーのリンクから。
(いずれも、雑誌『プレジデント』のHPへのリンクです)

マーケティングコラム(備忘録) (2007/3/30)

雑誌『プレジデント』石井先生のコラム part2 (2008/6/2)

では、新しいコラムの紹介を。
(一部、前回とダブリがありますが、関連性がありますのであえて)

■本質を見抜く力「ビジネス・インサイト」を磨け(2008/6/2号)

ある一つの事象から、新しいビジネスの価値を生み出す能力──。
筆者は、二つの事例を交えて、この能力を身につける方法論を説く。

■マネジメントの必須条件「ミッション、ドメイン、成果測定」(2008/8/4号)

今日の経験を明日に繋げるためにはどうすればよいか。
筆者は、マネジメントのサイクルを回す三つの要素を解説する。

■沈むGMS、粘る百貨店(2008/9/28号)

企業は業態を超えられないという。
果たして克服する術はないものか。
GMSと百貨店における長期分析から明らかにする。

■仮説検証の限界、新しい「知価創造」の技法(2008/12/1号)

人には「知らないうちに知ってしまう」ことで、確信が閃くことがあるという。
筆者はこの「暗黙の知」について、メカニズムと重要性を説き明かす──。

■「誤算の連鎖」と価値創発のメカニズム(2009/2/2号)

日常会話の過程では、話し手の当初の意図には
存在しなかった新しい現実が創発される。
この過程はマーケティングのモデルになりうると筆者は説く──

■常識を打ち破る「創造的瞬間」のつかみ方(2009/3/30号)

不況の時代、経済の構造改革にとって重要なのは
「創造的瞬間」の概念であると筆者は説く。
ダイエー創業者・中内功の創業当時の苦悩から、
その概念を明らかにする。

『ビジネス・インサイト』

ビジネス・インサイト―創造の知とは何か (岩波新書 新赤版 1183)
価格:¥ 819(税込)
発売日:2009-04

このblogでも、何度か紹介しています石井淳蔵先生の新しい著書が出てました。
これまで、あちこちのコラム等で書いてこられたことを、「ビジネス・インサイト」というテーマの元にまとめたものと言えそうです。

また、前エントリー「マーケティング・リサーチの現状」でのコメントのやりとりの内容とも、多少かかわってくるかもしれません(→こちらのエントリーです、コメント欄をご覧ください)。
永遠の若手さんが最初感じていたような「マーケティングは、所詮、センスではないのか?」、そしてそれへの回答でとおりすがりさんが指摘した「科学的に「商売」を定式化したものが、マーケティング」。
今、この「センス」と「科学」の間で揺れ動いているマーケターの方は、多いのではないでしょうか?(リサーチャーの方も?)
私自身、このような意味でマーケティング・リサーチへの懐疑を抱き、一度現場から少し離れた視点で、マーケティング・リサーチを学びなおしたいということで大学院進学を選んだという経緯もあります。

石井先生の今回の著書は、このような疑問に対して、ひとつの回答を呈示している本だと思います。(この回答を肯定できるかどうかは、それぞれだと思いますが・・・)

では、いつものように、まずはもくじを。

序章 経営者は跳ばなければならない
第1章 実証主義の経営を検証する
第2章 ビジネス・インサイトとは何か
第3章 知の隠れた力 tacit knowing
第4章 ビジネス・インサイトをケースで学ぶ
第5章 ケース・リサーチの可能性
第6章 経営における具有性

こうやってもくじだけみると、お手軽なビジネス書に見えるかもしれませんが、岩波新書ですので。。。そんなにお手軽ではないですし、ノウハウが書いてあるわけでもありませんので、この点は誤解なきよう。
では、何が書いてあるのか?「本書の課題」として、つぎのように述べています。

本書では、「経営者は跳ばなければならない」ということをめぐって、それについての、経営の実践と経営の研究との関わりについて考えたい。経営者が跳ぶ、そこには経営者が将来の事業についてもつところのインサイトの存在があると考え、それを「ビジネス・インサイト」と名づける。そして、ビジネス・インサイトの考え方と、それを理解するための枠組みとを提起したいと考えている。(p10)

キーワードはすでに紹介した。「暗黙に認識する」ことと「対象に棲み込む」ことである。(p11)

このように、本書で書かれているのは、ノウハウではなく「考え方と枠組みの提起」ですので。
この文章だけでは内容がわからないかもしれませんが、ぜひ一度、ご自身で読んでみてください。よくある経営書とは違う視点を得ることができるかもしれませんので。

(amazonにも出てないようなので、以下、カバー折の惹句を紹介しておきます。こちらで少しはわかるでしょうか?・・・)

新しいビジネスモデルが生まれるときに働く知を、「ビジネス・インサイト」と著者は呼ぶ。この創造的な知は何なのか。M・ポランニーの「知の暗黙の次元」を手がかりに、ビジネス・インサイトが作用した多くの事例を考察して、ケースを学ぶことで習得できる可能性を探る。マーケティング研究の第一人者による経営学の新展開。

ここでは、本書の本題からは離れるかもしれませんが、前のエントリーで少しテーマとなった「学ぶ」ということについて考えさせられる文章が随所にあるので、いくつかご紹介しておきたいと思います。(とはいっても、創造的な知のためには「暗黙に認識する」「対象に棲み込む」ことが必要、というキーコンセプトと関連しているのですが。)

たとえば、経営研究と経営実践については、つぎのように言っています。

学者の所説を一つの素材として自分の構想に取り込み、構想を描く。あるいは、その所説の中に棲み込んで、その所説を自家薬籠中のものとする。所説の良いところも悪いところも、裏も表も理解する。そしてたぶん、その所説を述べる学者が当初想定していた範囲を超えて、その所説に新たな意味づけを与え新しい生命を吹き込む。そのようにして、経営学における知識や所説は、彼らにとってかけがえのないものとなり、自身の事業経営の核にも位置することになる。(p9)

そして、「セオリー」については、つぎのように言っています。

セオリーを現実に使いこなすためには、セオリーもまた現実の一断片、意味ある全体を見通すための一つの手がかりでしかないことを知ることである。現実を説明する唯一無二のセオリーがあるわけではなく、一つ一つのセオリーが説明できる範囲、説明できない範囲を知り、セオリーの適材適所を図らないといけない。つまり、セオリーは相対化されることが必要だ。(p164)

さらに、「暗黙の認識の存在」という力を得るための姿勢について。これはまさに、「学ぶ」ことの基本的な姿勢だと思います。

第一に、「意味ある全体像」は、能動的に経験を形成しようとする結果として生起することである。(・・・中略・・・)
能動的な関わりは、現実にそういう事情に迫られれば、誰でもそうなることだろう。だが、「いつ必要になるかわからない将来に備えて学ぶ」ということになると、途端に能動的な関わりへの意欲を失ってしまう。(・・・中略・・・)
先に述べたように、その学ぶ意欲が教育においてもっとも肝心な要素である。意欲がなければ、言葉で伝えることができずに後に残した何かを、受け手が発見できることはないのである。(pp167-168)

第二として、学ぶ意欲をもって、全体を把握する手がかりとなる対象に棲み込むことが大事であるということも理解しておきたい。(・・・中略・・・)対象が当事者であれば当事者になりきって同じ視界で物事を見、そして考えること、対象がセオリーであれば、まずそのセオリーを使って問題を解いてみること、対象が事物であれば、その事物のありとあらゆる可能性や意味について探りを入れること、になるだろう。

こうやって、本を読み替えることも「新しい知の創造」には必要なことだと思います。(と、正当化をしておきます。。。)

PS.
実は、最近の石井先生のコラムを読むと、本書のポイントが散りばめられています。
つぎのエントリーで、まとめておきますので、こちらもどうぞ。

「マーケティングリサーチの現状」by JMA

先日(2009/4/10)、日本マーケティング協会(JMA)の「マーケティングリサーチの現状:2008年度調査報告会」に行ってきました(→こちら)。

この調査はJMAが1985年から隔年で実施しているもので、今回で13回目になります。
報告内容≒報告書構成は、以下の内容です。

Ⅰ.MRの実施状況とMR担当部門に対する役割・期待
Ⅱ.外部調査機関の利用状況と委託業務内容の期待・満足
Ⅲ.「定性調査」の実施状況と実施上の課題
Ⅳ.MR情報の意思決定寄与度合と活用を高めていくための施策
Ⅴ.「ROI」を意識したMRの実施状況と将来のMRの重要性
Ⅵ.(参考資料)「海外事業におけるMR」の実施状況と海外MRにおける課題

セミナーでは、上記の結果報告とあわせ、アサヒビール、花王、日本コカ・コーラの3社によるパネルディスカッションが行われました。

とくに「Ⅱ.外部調査機関について」の報告内容で、いくつか考えさせられる点がありましたので、ご紹介しておこうと思います。(ここで、どこまで引用、紹介していいのかという問題もありますが、あえて・・・)
JMA会員社の方は、おそらく報告書が送付されていると思いますので、あわせて実際の報告書をご覧ください。

◆気になるポイント1:外部調査機関の選択重視点

まずは、下の表を。

20090414chart1

外部調査機関の選択重視点のトップが「コスト」になっています。
この点は、パネルディスカッションでも議論になりました。
調査実施時期が2008年の11月から2009年の1月という時期だったこともあり、経済の低迷が大きな要因となっているという解釈は、そのとおりだと思います。
また、パネラーの方が言っていたように、単純に「コストが下がればよいと思ってもらっては困る、安かろう悪かろうになる」というのも、ほんとうでしょう。

しかし、「コストの低減」のポイントが大きくアップしているのと同時に、「リサーチャーの優秀さ」「調査結果の分析」「調査結果の提言」が大きくポイントを下げているのが、気になります。

このセミナーの標題でもある「ROIを意識した意思決定に役立つ」ということ、つまり「投資効果=価値/コスト」という式で考えるとすると、“価値は期待していないから、コストを下げることで、投資効果に寄与してね”という声が聞こえてきそうです。。。
あるいは、“これまでは分析も期待していたけど、無理みたいだからコストで貢献してね”という声が。。。

外部調査機関に対する全体的な満足度も、TOP2では63%ですが、TOP BOXでは5%に過ぎない。これを「高い」と判断するか、「低い」と判断するか?・・・
(ちなみに、花王の方はノーム値の話の際に、「指標は、5段階のTOP BOXで判断する」とおっしゃっていましたが・・・汗。さらに、このTOP BOXの選択肢は「そう思う」です。「とてもそう思う」では、ありません・・・。)

◆気になるポイント2:外部調査機関への委託内容

つぎに、外部調査機関への委託内容です。
これも、個人的にはかなりショックな内容で・・・。

20090414chart2

調査設計は36%、報告書作成は40%しか任されていない、しかも前回に比べ10ポイント以上ダウンしている。

パネラーの方は、「定型調査だと設計も報告書もいらない場合が多いから、その反映では?」とフォローしてくれていましたが、それだけでしょうか・・・?
どうも、データサプライヤーとしかみられていないと感じるのですが。。。
(というか、設計も分析もできない会社がふえたから?)

◆気になるポイント3:新しい調査技法や分析手法の提案

もうひとつ議論になったのが、外部調査機関への期待での「新しい調査技法や分析手法の提案」について。
パネラーの方のお話を聞くと、新しいリサーチの可能性を模索している様子、切実さが伝わってきました。「調査会社の営業の方がお見えになると、コストのことはお話いただけるが、新しい手法を提案してくれる会社はほとんどない」とも。さらに、「新しい提案を持ってきてくれるのなら、門戸を開いていますから、どんどん持ってきてください」とも。。。

ただ、司会の近藤さんが、新しい技法・手法開発はクライアントや学会の協力もいただかないと難しいといった趣旨の話を振ったときの反応が、また気になり・・・。
今回のパネラー3社は、いずれも産学共同プロジェクトを行っていると回答。そして、そのプロジェクトの中にリサーチ会社は入っていない。つまり、研究・開発の相手として、リサーチ会社に期待はしていないというのが本心でしょう。いみじくも、「実査の段階、オペレーションの段階になったら、リサーチ会社さんにも入ってもらって・・・」と、つい本音を漏らしていましたが。。。

◆さて・・・

以上の結果について、調査会社の方はどのように感じたでしょう?
「深読みのしすぎでしょう、そんなことはないよ」?
「たしかに反省すべき点が多いな」?
あるいは、「たしかにそうかもしれないけど、それで?何か問題?」?

リサーチ・クライアントの皆さんはどうでしょう?
「そのとおりだから、少し考えて欲しい」?
「そこまでは言ってないよ、このご時勢だからさ・・・」?
あるいは、「たしかにそのとおりだけど、いいよ気にしなくて、期待しないから・・・」?

ポイント1~3の解釈は、報告書の中で書かれているものではなく、あくまで個人的なものです。しかし、このような状況=“リサーチ会社への期待感が低下しており、データサプライヤーとしての位置づけが強くなっている。結果、真のマーケティングパートナーとはなり得ていない”というのが、いまのリサーチ会社の大きな課題ではないかと考えています。
今回の調査結果は、これらが如実にデータとなって表れていると感じています。
この解釈が、杞憂であればいいのですが。。。
(あるいは、データサプライヤーで何がいけないのか?リサーチ会社はそういうものだ、という考え方であれば、それはそれでいいです・・・)

そして、調査のもっともおもしろいデータのひとつが自由回答。
今回も、ずいぶんと考えさせられる意見が多く寄せられています。データを見なくても、この自由回答を読むだけで、今後のリサーチ業界を考えるヒントがあると思います。

中でも、つぎの意見には思わず涙が・・・(^^;
これこそ、私が独立して「りんく考房」として活動しているコンセプトそのものです。勇気づけられました。

今後の調査実施の広がりを期待する意味で、あまり調査がうまくないクライアントの場合は特に、クライアントサイドと調査会社をうまくコーディネートするプロが必要ではないか。調査会社は会社として調査の実施完了に重点を置くため、そのマーケティング上の役立ち度には責任を持ちたくない、持てないことが多いのではと思う。マーケティングの全体を把握しつつベストな調査を企画実施し分析し提案することを仕事とする人間集団が調査会社とは独立して必要と思われる。これにより調査の品質だけでなくその役立ち度、価値が維持向上すると考える。
(報告書p63)