月別アーカイブ: 2009年1月

『成功は洗濯機の中に』

成功は洗濯機の中に―P&Gトヨタより強い会社が日本の消費者に学んだこと 成功は洗濯機の中に―P&Gトヨタより強い会社が日本の消費者に学んだこと
価格:¥ 1,600(税込)
発売日:2008-09-05

2009.1.26の日経MJ一面「P&G、日本に溶け込む泥臭経営」を見て、積読になっていたこの本を想起。。。あわてて、読了。

日経MJの記事見出しを並べてみると、

    • 客・店に密着~社長、抜き打ち売場回り
    • 狭い日本の家研究~洗濯洗剤、横長容器に変更
    • 郷に入りては・・・~卸と二人三脚
    • 5期連続増収達成~成功モデル、アジアに移植

実は、P&Gは2000年に危機に陥っているのですが、それを克服し、この記事にあるような状態に復活しています。

P&Gは、2000年の危機をどのように乗り越えたのか?、どのような思想で、どのような取り組みを行ったのか?、これらについて概観し、整理しているのが本書です。
(よくある企業本のような軽さを感じるタイトルですが、P&G改革をきちんと整理している良書だと思います。タイトル変えるともっと売れるような気もしますが。)

まずは、もくじを。

第1章 トヨタを抜く、170歳の不死鳥
第2章 三年でV字回復させた「ラフリー大改革」
第3章 経営改革の基本設計
第4章 「消費者中心経営」宣言
第5章 強み1~オープン型の全方位イノベーション
第6章 強み2~メガブランド構築力の卓越性
第7章 強み3~売上拡大からスケール・メリットを享受
第8章 強み4~小売店頭で勝つしたたかな市場展開力
第9章 日本のビジネス体験からラフリーが会得した極意
第10章 P&G改革を日本企業に導入する

2000年危機については、2章の書き出しでつぎのように記しています。

2000年の初頭、P&Gは破裂寸前の状態まできていた。次々と発売した新製品は失敗し、社内は混乱する。成長を期して注ぎ込んだ研究開発、マーケティング投資と、成長を前提に抱えすぎた社員数。度重なる下方修正の発表。そして、社員のモラール低下、ブランド・マネジャーの大量退職など。160年間にわたり脈々と築き上げたP&Gの名声も、これまでかと思われた。

そして、「消費者がボス」「コネクト&ディベロップ」「ふたつの決着の瞬間」などをキーワードに、復活をしていくことになるのですが、詳細については、ぜひ本書を読んでください。

ここではリサーチに焦点を絞り、おもしろいと思った文章をいくつか紹介しておきます。このblogを読んでくださっている方には、いまさらという感じもあるかもしれませんが、いま一度、リサーチの課題を思い起こしていただければと。

◆「未知との遭遇」

(「さらなる成長を目指すには、新興国の低所得者市場に参入しなければならない」という文脈において)
したがって、消費者理解という点からは「未知との遭遇」状態が起きていた。その場合は、これまでの欧米、日本など高度経済市場での成功体験は横に置き、新興国で生活する消費者の人たちと虚心坦懐に接して、深く理解しなおすことがビジネス成功のカギになる。
新興国市場のほとんどを占める低所得の消費者が満足してくれる製品を提供する時に、米国の低所得者層の知識は全く役に立たない。その知識は逆に、有望ビジネスを破壊する危険性さえある。

ここでは新興国市場攻略のためのリサーチについて言及していますが、「未知との遭遇」というワードに注目すると、他にも応用の利く内容では?

◆「消費者にリードしてもらう」

消費者中心経営の中で、最も誤解されやすいのは、「消費者に決めてもらう経営」と解釈されることである。P&Gは決して、そう考えない。「消費者自身も、自分で何が欲しいのかわからない」からである。P&Gでは商品の開発時にあたっても、消費者と開発者が互いに対話を交わしながら、消費者の反応を見ながら、商品開発を進める。つまり、消費者に決めてもらうのではなく、消費者にリードしてもらう形で積極的に消費者の嗜好を取り入れている。

いまでは「消費者に直接答えを聞いても意味がない」は、リサーチの常識の部類でしょう。ただ、だからといって、消費者を蚊帳の外に置いていいわけでもない。それが、「リードしてもらう」感覚なのでしょう。

◆「生活現場重視」

消費者の真意は、調査データに存在するのではないことを、ラフリーは日本でのビジネス経験を通して学んだ。P&Gのシンシナティ本社の経営陣は、消費者調査の統計データの中に埋まっているが、生きた消費者の生活実体や心を理解していないと見抜いた。
ラフリーは日本駐在の間、自分が確信の持てる市場調査を行うため、絶えず小売店や家庭を訪問した。

調査データの平均値だけを追っていっても、消費者の実態や心をなかなか把握できないというのもだいぶコンセンサスが取れてきたのでは?だから、エスノグラフィなどの手法に注目が集まっているのでしょう。(ただ、ここから短絡的に「定量調査は意味をなさない」などと思わないでください。)

他にもいろいろあるのですが、このようなP&Gのリサーチ思想は、世界60カ国で年間232億円という調査予算となって表出しています。単純平均で、1カ国で3.8億円強の予算。。。
(こんな企業がもっと増えてくれれば、リサーチ業界ももっと・・・)

以上、今回はリサーチ中心にレビューしてますが、他にもいまのマーケティングを考える上でのヒントが随所にあると思います。とくに、「コネクト・アンド・ディベロップ」は、オープン・イノベーションの事例としても、取り上げられることが多いものです。
P&Gの改革については、すでにあちこちで書かれていますが(たとえばHBRでの記事↓)、まだ読んだことがない方や、一度全体像として理解しておきたいという方には、必読の本だと思います。

注:HBRでの関連記事は、つぎのようなものがあります。

「P&G:マーケティングの原点」(HBR2007年7月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 07月号 [雑誌] Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 07月号 [雑誌]
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2007-06-08

「P&G:コネクト・アンド・ディベロップ戦略」(HBR2006年8月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 08月号 [雑誌] Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 08月号 [雑誌]
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2006-07-10

「P&G:有機的成長のリーダーシップ」(HBR2005年11月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2005年 11月号 Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2005年 11月号
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2005-10-08

「P&G:マーケティング力の復活」(HBR2004年2月号)

また、英語がOKな方は、改革の当事者であるA.G.ラフリーが著者である↓の本もありますでの参考までに。(おそらく翻訳されていないと思います。。。)

The Game-Changer: How You Can Drive Revenue and Profit Growth with Innovation

The Game-Changer: How You Can Drive Revenue and Profit Growth with Innovation
価格:¥ 2,587(税込)
発売日:2008-04-08

(↑ この本、翻訳されていました、こちら ↓ )

ゲームの変革者―イノベーションで収益を伸ばす ゲームの変革者―イノベーションで収益を伸ばす
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2009-05-23

さらに、オープン・イノベーションについては、こちら↓を。
P&Gが事例として取り上げらています。他にも、ボーイング、BMW、レゴ、メルク、IBMなども。

ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2007-06-07

「コミュニティを企業が活用する方法論」

WEB記事から備忘録。

コミュニティを企業が活用する方法論&べし・べからず
(Web担当者Forum/IMPRESS)

SNSやブログなどのオンラインコミュニティを活用したいと考えている企業は多い。しかし、コミュニティがビジネスにもたらす効果やリスク、展開の方法論は必ずしも明確にはなっていない。

米国の調査会社フォレスター・リサーチのシニアアナリストとして、企業のソーシャルメディア展開を中心としたWebマーケティングやインタラクティブマーケティングの専門家であるジェレマイヤ・オウヤン氏に、オンラインコミュニティを成功させる秘訣、コミュニティの運用上のポイント、ユーザーとの関係構築などについて聞いた。

コミュニティを活用する際に、どのようなことを意識しなければならないかがまとめられています。スターバックスなどの事例の簡単な紹介もあります。

また、この記事でも紹介されていますが、今回のインタビュー対象であるフォレスターリサーチによるつぎの本も、コミュニティを考える上では、とても参考になります。

グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略 グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2008-11-18

もくじだけ紹介しておきます。

第1部 グランズウェルを理解する
 第1章 なぜ今、グランズウェルに注目すべきなのか
 第2章 柔術とグランズウェルのテクノロジー
 第3章 ソーシャル・テクノグラフィックス・プロフィール
第2部 グランズウェルを活用する
 第4章 グランズウェル戦略を立てる
 第5章 グランズウェルに耳を傾ける
 第6章 グランズウェルと対話する
 第7章 グランズウェルを活気づける
 第8章 グランズウェルの助け合いを支援する
 第9章 グランズウェルを統合する
第3部 グランズウェルで変革を促す
 第10章 グランズウェルが企業を変える
 第11章 グランズウェルを社内で活用する
 第12章 グランズウェルの未来

しかし、また新しい言葉が。。。
ちなみに、「グランズウェル」は「おおきなうねり」と訳されています。序文では、つぎのように紹介されています。

一言でいうなら、グランズウェルは社会動向だ。人々はテクノロジーを使って、自分に必要なものを企業ではなく、別の個人から調達するようになっている。企業の立場からすれば、これは挑戦だ。
グランズウェルは一過性の現象ではない。グランズウェルを動かしているテクノロジーは未曾有のペースで進化を続けているが、その根底にはすべての人間が持っている「つながりたい」という、永遠の欲求がある。グランズウェルは、世界のあり方を永遠に変えてしまった。本書の目的は、企業がテクノロジーの変化にとらわれることなく、このトレンドに対応できるようにすることだ。これを、我々は「グランズウェル的思考」と呼ぶ。

ブログやSNS、ウイキなどの「ソーシャルコンピューティング」と呼ばれている新たな技術を、どう戦略に取り込み、使いこなしていくのか、ということですね。

「データをざくざく処理するためのグラフの読み方、使い方」

以前、「統計の基礎~HP紹介~」でご紹介した衣袋氏の新しいシリーズが始まっていたのですね、それも昨年9月に。(う~ん・・・、なんで今まで気がつかなかったのか。。。)

その新しいシリーズは、こちらです↓。

データをざくざく処理するためのグラフの読み方、使い方
(Web担当者Forum by インプレス)

この連載では、データで表現したいことを、効果的にひと目でわからせるためのグラフの種類の選び方、作り方を紹介します。それぞれの回で、代表的な4つのグラフ(円グラフ、折れ線グラフ、比較棒グラフ、散布図)を順に取り上げ、グラフの使い分け、効果的な使い方、危険な使い方といったことを解説していきます。

前回のテーマであった「統計」以上に、今回の「グラフ」は、わかったつもりになっているテーマです。確かに、小学校で習うテーマですし。。。
しかし・・・、ほんとはきちんと理解していない人が少なくないテーマでもあると思います。
これまで「グラフの読み方、書き方」なんて考えたことがなかったという方が多いと思うのですが、ぜひ、このシリーズで基礎固めすることをお勧めします。
グラフの書き方ひとつで、伝わることも伝わらなかったり、誤って伝わったりしますので。
(一方で、あえて誤った印象を与えるということもできてしまうのですが、グラフは。。。)

ついでに、以前のシリーズ(統計)をまだ見ていない方は、こちら↓のシリーズもぜひ。

リサーチ/データのリテラシー入門~調査統計の基礎知識
(Web担当者Forum by インプレス)

【PS.】
グラフをテーマにした本でしたら、↓のあたりでしょうか。
気が向いたら、書店で手にとってみてください。

レポート・プレゼンに強くなるグラフの表現術 (講談社現代新書) レポート・プレゼンに強くなるグラフの表現術 (講談社現代新書)
価格:¥ 756(税込)
発売日:2005-02-18

(↑こちら、残念ながらAmazonでは在庫なしのようです。。。)

統計グラフのウラ・オモテ (ブルーバックス) 統計グラフのウラ・オモテ (ブルーバックス)
価格:¥ 987(税込)
発売日:2005-10-21

「マーケティング・エスノグラフィー」

表題は『日経情報ストラテジー』2009年2月号の第1特集のタイトルです。
(本誌では「マーケティング・エスノグラフィー」としていますが、他に「ビジネス・エスノグラフィー」という呼び方もされているようですので、検索は様々にトライしてみてください。)

景気下降が止まらない。一方で、消費者の価値観は多様化、複雑化が進み“一人十色”になっている。そんななか、商品開発やマーケティングの分野で、観察やインタビューといった地道な定性調査に熱心に取り組み、成果を出す動きが出てきた。そこで本誌は「マーケティング・エスノグラフィー」を提案する。文化人類学のフィールドワーク手法、エスノグラフィーを消費者調査に活用するのだ。見えづらくなった消費者という“異民族”理解の一助になるだろう。
日経情報ストラテジー2009年2月号 もくじ紹介HP

日経系のHPでは、上記以外にも、エスノグラフィーに関してつぎのような記事も読めます。

大阪ガス、調査手法「エスノグラフィー」をサービス改善などに活用、グループ会社にノウハウ伝授し調査の外販も(NIKKEI BP/IT Pro)

ユーザー行動を深く理解する「エスノグラフィー」 2009キーワード
(NIKKEI NET/IT Plus)

ただ、少し気になるのは、「エスノグラフィー」は、どうもプチブーム的な様相を呈しているのではないかということ。本質を理解している人はどのくらいいるのだろう、という疑問も。。。
個人的には、エスノグラフィー的な発想というのは、マーケティング・リサーチのパラダイム転換ともいえるのではないかと思っています。
なぜ、いまエスノグラフィーなのか?、これまでの定性調査とは何が違うのか?、定量調査ではどこに限界があるのか?、そして実施のポイントは?・・・。これらのことをきちんと踏まえた上で、実践に向かう必要があると思います。
その意味でも、記事中の「安易な実践には反対、正しい手順を踏め」という一橋大学大学院の佐藤郁哉先生(定性調査やエスノグラフィーといえば、佐藤先生です)のコラムは、必読です。

また、直接的にエスノグラフィーについて語っているわけではないですが、下記2つのblogやHPも「なぜエスノグラフィーなのか」について、きちんと考える上で参考になります。

「明日のマーケティング:消費者調査シリーズ」(ルディー和子氏のblog)

「仮説検証の限界、新しい「知識創造」の技法」(石井淳蔵氏、プレジデント)

(わかる人はわかると思いますが、おふたりのマーケティングに対する視点はポストモダン的だと思います。これらのページを読んで興味をもたれた方は、以下の本も読んでみてください。私的には、いずれもお薦め度の高い本です。)

マーケティングは消費者に勝てるか マーケティングは消費者に勝てるか
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2005-09-01

(↑過去にこのblogで紹介してました。こちらへ⇒)

マーケティングの神話 (岩波現代文庫) マーケティングの神話 (岩波現代文庫)
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2004-12

(↑2004年発売となってますが文庫版の発売年です。最初は1993年の出版です。
それと、石井先生のコラムに出てくるM.ポランニーの本は、こちら↓です。)

暗黙知の次元 (ちくま学芸文庫) 暗黙知の次元 (ちくま学芸文庫)
価格:¥ 945(税込)
発売日:2003-12

【PSその1】

このblogでのエスノグラフィーに関する過去記事は、こちら↓。
(2本めは直接エスノグラフィーではないですが、ちょっと近いかなということで。。。)

「ユーザーの体験を設計する」~エスノグラフィという手法(2008.2.3)

ふたたび、よいblog紹介~カスタマーバリューのフロンティア(2007.4.13)

【PSその2】

特集に気づいた時はすでに次号発売の時期で、紹介のタイミングを逃してしまったのですが・・・。

「見栄ない消費~売れたのにはワケがある」(「日経ビジネス」2008.12.15号)

も、必読の記事です。本文の中に、つぎのような一文があります。

2008年のヒット商品を読み解くと、2つの方法が見えてきた。1つは、「深堀り型」。徹底的に消費者の嗜好に従って商品を開発する。もう1つが「気づかせ型」。無意識のニーズを探り当てた商品を開発する。

景気が下降する時代だからこそ、ますます消費者を理解することが商品開発の肝になります。そして、そのためにはどのようなリサーチが必要なのか。
この記事では、いくつかの商品の開発事例が掲載されていますので、これらのケースから、さらに読み解いてみてください。