月別アーカイブ: 2007年4月

統計調査の民間開放・市場化テストに関する研究会

総務省の「統計調査の民間開放・市場化テストに関する研究会」で、最終報告が出されているようです(HPはこちらです↓)。

http://www.stat.go.jp/info/kenkyu/minkan/kenkyu.htm

「民間でできることは民間で」という方針の下で、総務省所管の調査のうち民間開放ができるものはないかということで、いくつかの市場化テストが行われていました。
結論としては、「できるところからやりましょう」ということだと思います。

ただ、議論の過程や市場化テストの結果などをみると、いまの日本の「市場調査」についての様々な課題が透けて見えます。。。

最終報告書は、結構長い文章なのですが、どのような議論やテストが行われ、市場調査の課題がどこら辺にあるのかを確認するには貴重な資料だと思いますので、一度目を通されてはいかがでしょうか?
(最終報告書は、こちらです↓)

http://www.stat.go.jp/info/kenkyu/minkan/houdou4.htm

私自身、気になった文章や表現もいくつかありましたが、国・都道府県が実施していたときに比べ、民間で実施した場合は、回収率や記入内容にいくつかの問題が見られたという点は、とくに気になりました。
WEB調査全盛のいま、マーケティング・リサーチを主業務としている調査会社では、従来のような訪問面接調査を行う機会自体がかなり減少しています。結果として、統計理論に基づく実査ノウハウを持った管理者や調査員が減少しつつあり、そのことがこのような事態をもたらしているのではと思いました。
クライアントの要請もあるでしょうから、WEB調査にシフトしていくこと自体に、とやかくいうつもりはありませんが、だからといって、調査理論を理解しているリサーチャーや調査員が調査会社からも減少していくことにならないのか、それがほんとうにマーケティング・リサーチ全体にとっていいことなのかと・・・。
(う~ん・・・、こう書くと理論至上主義の先生のように見えますね。。。
そうではなくて、現実にあわせた応用を行うにも理論の裏づけがないとできないのでは、ということがいいたいのです。理解していただけますでしょうか?・・・)

こういう視点からも、「統計調査の民間開放」というのは意義のあることなのかもしれませんね。調査会社の劣化を一部にせよ、防ぎうるということで。

報告書の最後にあげられている「今後の課題」からポイントを抜粋して、終わりにします。

第一に、経験や業務遂行能力のある民間事業者が増加していくことの必要性が挙げられる。(中略)
このような状況の下で民間開放を進めていくためには、経験や業務遂行能力のある民間事業者が、現在よりも増加していくことが必要となる。その意味では、統計の正確性、信頼性の維持・向上等を前提とした上で、民間事業者に対して調査実施に関わる機会を与え経験の蓄積を促していくことは、適格な民間事業者が増加し統計調査の実施業務に関わる市場が成熟していくためのステップとしても有意義なものと考えられる。

第二に、統計調査員の在り方と民間開放との関係についても、更なる整理が必要である。

さらに、統計調査を円滑かつ適切に行うためには、調査対象者の理解と協力が不可欠であり、今回の取組を契機として、民間開放の趣旨に加え、統計の意義や重要性について改めて国民に理解されるよう、より一層の広報を適切に行っていくことも重要である。

もうひとつだけ、クライアントとなるリサーチ発注者の方たちに、とくに読んでおいていただきたい文章がありました。これで、ほんとの最後にします。
(ただ、調査会社もどれだけ合理化努力を行っているのかという、一方の課題があることも認識はしてますので。)

3) 結果精度確保のためのコスト
試験調査の各受託事業者が指摘しているように、調査対象から調査の趣旨に理解を得て、調査に協力を得る業務は決して容易ではない。民間事業者がこうした業務を遂行し得る能力、経験と熱意を有する調査員や指導者等を確保するには、一定のコストが必要となる。また、調査の詳細を理解し指示を出すことができる専任スタッフを確保するなどの業務管理体制の確立も、一定のコストを要する。
試験調査の目的上、ヒアリングへの協力や報告書作成の事務経費をも必要としたこと等に留意する必要はあるが、試験調査Bにおける各受託事業者のいずれも、今回の落札金額のみでは実施経費をカバーしきれなかったとしていること、試験調査Bの受託事業者の中で、他に比べて特に安価な金額で落札した広島の受託事業者において記入状況の質の不十分さ等が最も著しかったことなどの事実は、コスト面の効率化のみを追求すべきではなく質の維持・向上との両立を図ることの重要性を示唆している。入札に際して実施経費を見積もるに当たっても、こういった点を考慮する必要があると考えられる。

ふたたび、よいblog紹介~カスタマーバリューのフロンティア

(寺子屋はなかなか再開せず、他の方のHPやblogばかりを紹介していますが・・・。)
とても参考になるエントリーを発見、ぜひ紹介したい&備忘録に、ということでとりあえずのアップになります。

そのblogは、「マーケティング・ブレイン」さんです。
今週シリーズでエントリーされている「カスタマー・バリューのフロンティア」は、リサーチ担当者、商品開発担当者は必読の内容だと思います。
また、このblogでも取り上げた「仮説探索型」リサーチのよい事例集になると思います。

マーケティング・ブレインさんが触発されたのは、以前少し紹介した「心脳マーケティング」のようですが、消費者調査・リサーチの最先端ともいえる様々な事例を紹介してくれています。
6回シリーズなのですが、初回の内容を読んだだけで、共感できる記述が盛りだくさんです。

全6回の内容とリンクを以下に記しますので、どうぞお楽しみください。

1.カスタマー・バリューのフロンティア
2.表層心理の消費:シャープの『ホット庫』という見えないニーズへの気づき

3.深層心理の消費:サントリーのネット‘珍問答’飲料調査
4.感動心理の消費:花王『エッセンシャル』でかわいくなる
5.経験心理の消費:AVISレンタカーの経験
6.売り手の情熱:トヨタ『bB』 若者による若者のための・・・

他の方のblogだけを紹介していてもなんなので、関連していくつか。

第3回で取り上げられているサントリーの事例は、↓の本の中でも取り上げられています。(いずれ紹介しようと思っていたのですが・・・)

イノベーションの作法―リーダーに学ぶ革新の人間学 イノベーションの作法―リーダーに学ぶ革新の人間学
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2007-01

この本の中で、つぎのような記述があります。

見えないものの典型のひとつに、消費者の潜在的なニーズがある。変化の早い市場や成熟度の高い市場については、顕在化しているニーズに対応するだけでは、ニーズの変化に遅れたり、他者との過当競争に陥りやすいため、いち早く潜在的ニーズをつかむことが大切になってきた。ただ、消費者自身も意識しておらず、その商品やサービスが提供されて初めて、それを求めていたことに気づくことが多いため、いくら市場調査を重ねても、潜在的ニーズは見えない。顕在化していない以上、一般的な消費者調査では調べることができない。

そして、この「一般的な消費者調査ではみえないニーズ」を探ろうという試みの事例が、マーケティング・ブレインさんが取り上げている事例にあたると思います。

また、一方で、コカ・コーラ社もつぎのような取り組みを始めています。

コカ・コーラ、心理学に着目して消費者を分析~飲料市場を「なぜ」でとらえるマーケティング展開(NBonline)

コカ・コーラの事例については、まいどの「マインドリーダーへの道」さんも取り上げていますので、あわせてご覧ください。

コカ・コーラの「CBL」:消費者調査の新手法

PS.
このようなblogを見てしまうと、正直、寺子屋を続けるのが必要だろうかと思ったり^^;
ま、近日中には再開をしようと思ってはいますが・・・