月別アーカイブ: 2007年5月

マーケティング・リサーチを取り巻く2題

マーケティング・リサーチに関して、気になるblog、HP、MLを立て続けに見たので、エントリー。
ひとつはクライアントサイドの問題、ひとつは調査対象者の問題です。

■マーケティング・リサーチ/リサーチ・リテラシー

いつもの「マインドリーダーへの道」さんのblogで、「リサーチ・リテラシー」といいうエントリーがありました。詳しくは、直接blogを読んでいただくとして、つぎの文章にとても同意です。

そして、実は、しばしばリサーチ・リテラシーの低さが、マーケティング企画の立案や実行上の障害となる場合がある点です。(私自身、過去なんども経験してきました・・・)
もちろん、すべてのマーケターが、調査の具体的なノウハウ・テクニックを習得する必要はありません。
ただ、調査の意義や、基本的な調査・分析手法の考え方、データの見方といった最小限のリサーチリテラシーを持っておく必要性は高いんじゃないでしょうか?

このblogをはじめたのも、まさに同じ問題意識からでした。
リサーチにお金をかけることを疎ましく思っている人が少なくない、また、リサーチを実際に行っている人のリサーチに対する理解力が低下している、こんな危機感は今も強くあります。(「リサーチを行っている人」は、いわゆる調査会社に所属している人も含めます。こちらの方が、問題はより一層深刻になりますが・・・)

「マインドリーダーへの道」さんが引用している、石井先生の記事はこちら↓になります。

成長持続の鍵「マーケティング・リテラシー」
~独立したリサーチ部門をもたなければ、マーケティングの経験を長期的に蓄積することは難しい。筆者は、「マーケティング・リテラシー」を改善する手法を提案する。

この提案の骨子は、「専門部署としてのリサーチ部門を持つこと」だと思うのですが、企業のマーケティング・リテラシーの問題点として、つぎの3つを上げています。

  • やるべきリサーチをやらずにすます
  • 不明確なリサーチ課題の下にリサーチが実施される
  • 「リサーチ標準」を定着させることができない

この指摘も、的を射たものだと思います。よく出くわすことです・・・(残念ながら)。
もしも、読者にリサーチ担当者の方がいらっしゃったら、「リサーチ専門部署」を持つかどうかは別として、このあたりの問題点は常に認識をしながら、リサーチに取り組んでいただければ、よりよいリサーチの実施に繋がると思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

■「調査協力依頼文のモデルについて」(JMRA)

日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)のHPで、

「調査協力依頼文のモデルについて」が策定されました(2007.5.21)

というWhats newが出ています。このモデル策定の背景として「はじめに」で説明されている文章をみると、

2005年-2007年期の(社)日本マーケティング・リサーチ協会 倫理綱領委員会は、「個人情報の保護に関する法律」(以下「保護法」)および「JIS Q 15001:2006 個人情報保護マネジメントシステム-要求事項」(以下「JIS」)に対応した調査協力依頼状モデルの作成を課題の一つとして与えられた。
モデルは、調査会社が調査対象者から個人情報を取得する場合に、保護法やJISが求めている明示あるいは通知すべき事項を満たす内容でなければならないが、さらに、マーケティング・リサーチ綱領の定めを満たし、できれば、(社)日本マーケティング・リサーチ協会のPRも含めたいとの要望があった。

との事なんですが・・・。
もっと、「調査対象者は何に不安を感じているのか」「なぜ調査協力依頼文が重要なのか」というような視点からの言及もしてほしかったなという気もするのですが。これでは、法律やシステム上必要だから作りました、ってだけに聞こえてしまいます(通達の意味合いが強い事務的文章かもしれないので、あえて考え方を入れる必要もないのかもしれないですけど・・・)。

それはさておき、JMRAとして、このようなモデルを提示することはとても重要なことだと思います。調査環境が悪化し調査協力を得ることが難しい状況の中では、少しでも調査対象者に対して、安心感を持ってもらうことは必要ですから。
で、あるMLでこのことに対し、素朴な疑問があげられていました。

「そもそも、この(調査)会社が言っていることが信用できるのだろうか?」という疑問を解消できるのでしょうか?

というような趣旨だったと思います。たしかに・・・。

いくら、個人情報を守ります、このような趣旨で調査への協力をお願いしますと言っても、そもそもにおいて、市場調査って何だ?なんで自分が協力しないといけないのか?だいたいこんな会社聞いたこともない!という状況だと、なかなか調査への協力は得られないですよね。
前のエントリーで紹介したようにインテージさんやマクロミルさんが上場を果たし、企業本も出版されるまでになり、またいろいろな調査会社さんが調査結果をリリースするようになり、少しは「市場調査」というものへの理解は得られるようになったかもしれませんが、世間一般では、まだまだ・・・。
JMRAのHPでも、「調査協力者」というページをつくり(しかし、「調査協力者」って偉そうですよね・・・。「調査にご協力いただく方へ」とか、もう少し言いようもあるように思うんですけど)、

各種調査に御協力いただいた方、調査に興味をお持ちの方のページです。
マーケティング・リサーチへのご理解を深めていただける情報をご提供いたします。

とPRも行っているようですが、内容はまだまだ感もあり。。。

「統計調査の民間開放・市場化テストに関する研究会」の報告書にもあったように、

さらに、統計調査を円滑かつ適切に行うためには、調査対象者の理解と協力が不可欠であり、今回の取組を契機として、民間開放の趣旨に加え、統計の意義や重要性について改めて国民に理解されるよう、より一層の広報を適切に行っていくことも重要である

ということを、もっと推し進める必要があると感じます。

協会として、新聞一面にPR広告を出すとか、「ガイアの夜明け」「カンブリア宮殿」「プロフェッショナル」などで取り上げてもらうようにテレビ局に働きかけるとか、もっとマス広告の力も活用すべきかもしれませんね(先立つものの問題もありますが・・・)。HP上での啓蒙では、所詮、興味がある人向けにならざるを得ないので。
あるいは、インテージさんやマクロミルさんのようにお金を持っているところに、業界リーダーとしての活動をもっとがんばってもらうとか。。。そういえば「宣伝会議」という雑誌では、よくマクロミルさんや楽天リサーチさんなどの広告を見かけますね。でも、クライアントへの訴求ばかりでなく、調査対象者の理解を得るような訴求も、もっと行っていただければと思うのです。

マーケティング・リサーチを取り巻く課題を2題、ご紹介しました。
本格的にマーケティング・リサーチが始まって50年。この50年という期間が短いのか、長いのかわかりませんが、マーケティング・リサーチへの理解はまだまだだな、と思いました。
このような状況を打開するために、このblogが微力ながらも力になるといいのですが。
(という想いのもと、できるだけエントリーをするように心がけます。。。)






『サスティナブルカンパニーの条件~持続的成長企業「インテージ」の挑戦』

サスティナブル・カンパニーの条件―持続的成長企業「インテージ」の挑戦 サスティナブル・カンパニーの条件―持続的成長企業「インテージ」の挑戦
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-03

ほんと、リサーチ会社についての企業本が出るとは想像していませんでした。
(なので、気付いたのが少し遅くなって、今頃のエントリーになっているのですが。)

リサーチ業界を題材に企業本を書いた著者はどんな方だろうと思って略歴を見ると・・・。
なんだ、社会調査研究所(インテージが社名変更を行う前の社名です)の出身の方じゃないですか。現社長の田下氏とも、お歳が近いようですし。ある意味、納得です。
(なんか、インテージさんの広報blogのようになってますよね・・・。でも全然関係ないんです、インテージさんとは。けれど、リサーチ業界でインテージさんを見ておかないと意味ないですし、また上場して企業情報を公開しているのがインテージさんとマクロミルさんだけなので、どうしてもこの2社の情報が中心になってしまうんですよね。。。)

で、内容。
正直に言わせてもらうと、そんなに面白くなかったです。。。(もしかしたら、私がリサーチ業界にどっぷり浸かっているからかもしれませんが。)
一応、インテージをケースとして「サスティナブル・カンパニー」の要件を抽出するということなのですが、ほとんどの部分がインテージの紹介に終始している感じで。
「インテージ」という企業そのものに興味がある方は、一度、目を通しておくのもいいでしょう。ただ、この本でリサーチ業界について理解しようとは思わないでください、この本に書かれていることは、あくまでも「インテージ」のことなので。

いつものように、もくじは紹介しておきましょう。

プロローグ 絶えず変革を求める会社がさらに変わるとき
第1章    危機感なくして持続的成長はない
第2章    新たな人材の登用が変革を加速する
第3章    本社移転がさらなる進化の契機に
第4章    ナンバーワン企業が歩んできた道のり
第5章    変革のDNAを共有する仲間たち
第6章    なぜ、この会社は持続的成長ができるのか

この本の中で、へ~と思ったことは、つぎの2つでした。
「INTAGE」という社名が、Intelligence+Ageからの造語だということ。そして、ESOMAR(マーケティングリサーチの国際団体)の2005年の国際カンファレンスで次のような趣旨の発表がされているということ。(以下は、本書からの引用ですが、確かに以前JMRAのホームページで見たことを思い出しました。今でも、JMRAのホームページで元本の抄録を読むことができます)

こうした状況下、戦略・ITコンサルティングファームと戦うために、マーケティング・リサーチ会社がなすべきことが見えてきた。レポートではその内容を以下のように指摘する。

一 戦略・ITコンサルティング力のいずれか一方、または両方を備えること。
二 戦略・ITコンサルティングファームとのパートナーシップを結ぶこと。
三 マーケティングデータを価値ある情報へと変えるビジネススキルを身につける必要性があると認識している人間を雇い入れるか、または自社でそのような教育を施すこと。

マーケティング・リサーチ会社は、それぞれが特定の市場をますます重点的に取り扱うようになってきており、その中で幅広いサービスを提供しているというのが実情だ。特定分野での経験や集積される知識はとても重要なものとなる。なぜならば、クライアントはマーケティング・リサーチ会社にデータ分析にもとづくインサイトの提供を期待しているからだ。
これによりリサーチャーのスキルも見直しを要求される。ダイナミックに変化するビジネス環境にあって、マーケティングデータを超えたインサイトや、そればかりかビジネス上の解決策まで求めるようになっているのだ。リサーチャーは「これまで」なにが起こったかを報告するよりも、むしろクライアントが「その先」を見据えられるように手助けすべき存在とならなければならないのである。

(日本でも、クライアントが「インサイトの提供を期待」しているかどうかは別にして)
やはり、これからのリサーチ会社の方向性は、このような事であり、自分が感じていたことは間違いではなかったのだなと思いました(そして、コメントをくれた萬さんの考え方も、一緒でしたし)。
早くから「インテリジェンス・プロバイダー」を目指したインテージは、この視点からも、やはり日本のリサーチ会社では、特別な存在といえるのかもしれませんね。

(で、そのインテージの決算説明会の様子がWEB上で見ることができます。インテージのIRページからご覧ください。もしかしたら、この本よりおもしろいかも。リサーチ業界の今とこれからを知るにも、いいかもしれません。ただし、45分ありますので時間のあるときにどうぞ。。。)

インフォプラント&インタースコープ合併へ

インフォプラントとインタースコープの合併が発表されていました(2007/5/10)。

ヤフー傘下のネット調査会社、インフォプラントとインタースコープが合併(nikkei BPnet)

インフォプラントとインタースコープが7月に合併–インフォプラントを存続会社に(CNET Japan)

ヤフー傘下のネット調査会社2社が合併(ITmedia)

それぞれの会社のニュースリリースは、こちら。

株式会社インタースコープとの合併に関する基本合意のお知らせ(インフォプラント)

株式会社インフォプラントとの合併に関する基本合意のお知らせ(インタースコープ)

すでに、blogで取り上げられている方たちは、こちら(素早いですね・・・)。

トゥーランとプログレのためのブログ

備忘録

IT業界トレンド通

このblogでも以前、「業界再編の予感・・・」でつぎのようにコメントしています。

ただ、よくわからないのは、子会社化してシナジーが得られるのかということ。Yahoo!単独でも、事業部として活動を行っているようですし、4社が並列に営業をしたり、システムを抱えていても無駄ではないかと。。。
それぞれの関係がどうなっているのかは、中にいないのでわかりませんが、1社に統合すればこそ、4社のパワーが発揮できるのではないかと思います。
Yahoo!のモニター構築・管理力と顧客基盤、インフォプラントのシステムとネットリサーチ先駆者としてのノウハウ、インタースコープの分析力、インテージのマーケティング・リサーチ理解力。(ただ、インテージはこのグループに入らなくても、単独で世界のマーケティング・リサーチ業界で11位ですが・・・)
とくに今回は、以前からHPを見ていて、研究・開発力に一目置いていたインタースコープだけに、今後このグループがどのような展開を見せるのか、注目してみていきたいです。

このコメントが少し現実化したということですね。

関連して、

インテージの決算資料も発表されています。

平成19年3月期決算短信(インテージ)

この中で、つぎのような記述があります。

当社グループが属しております情報サービス業界では、経済産業省の「特定サービス産業動態統計」によりますと、当連結会計年度の月々の売上状況はおおむね前年を上回る伸び率で推移しております。当社グループの主力事業分野であります市場調査業界でも社団法人日本マーケティング・リサーチ協会の「第31回経営業務統計実態調査」から、堅調な伸びが報告されております。特にインターネット調査の拡大が当市場を牽引している状況です。
このような市場環境のもと、当社グループは「Team INTAGE によるインテリジェンス・プロバイダー事業の実現」を目指し、ビジネスパートナーとしてのお客様満足度の向上に向けて努力してまいりました。当連結会計年度は「変革のスピードを上げよう-本当のたたかいは、これから始まる」を基本方針に掲げ、「カスタムリサーチ分野の構造変革とインターネット調査への資源集中の加速化」を最重点課題としました。また、パネル調査分野のソリューション型ビジネスへのシフト推進、personal eye(個人消費者パネル調査)やRep Track(MR訪問実態調査サービス)等の新商品の成長促進、融合ソリューションの拡大、CRO(医薬品開発業務受託機関)業務の持続的成長の基盤再構築、トータルヘルスケア分野の積極投資に取り組んでまいりました。

高らかな「インターネット調査シフト宣言」です・・・。

では、インターネット調査のトップ企業であるマクロミルはどうかというと・・・。

平成19年6月期中間決算説明会資料(マクロミル)

売上・利益ともに着々と上昇、またクライアント構成もこれまでの代理店/調査会社/コンサル会社依存から一般事業会社比率の上昇へ(50%超)と、地保を固めているようです。
とくに注目したいのが、この資料の6ページ「サービス別売上構成比の推移」です。構成比こそ、まだ10%前後であるものの「分析」と「グローバルリサーチ」の対前年伸び率が大きいことです。

これまでは、ともするとインターネットリサーチ会社は、データ収集は強いが集計・分析は弱いとされてきました。しかし、これまでみてきた3つの会社の事例をみると、インターネット調査でも「集計・分析力」がこれからの競争ポイントになるであろうことは予想できます。
調査票設計力や集計・分析力で、ネット調査会社との差別化を図ってきた従来の調査会社は、この環境の中でどのような戦略を描くのでしょうか・・・。
ネット調査シフトが明らかな中で、従来調査に依存しているばかりではジリ貧は目に見えているでしょうし、とはいえネット調査インフラでの競争力では、先行ネット調査会社に太刀打ちできるとも思えないですし・・・。だからといって、合従連衡して力を合わせるという機動力もなさそうですし・・・。

さらに、設計力と集計・分析力に磨きをかける、それしかないでしょうか???

これからも、リサーチ業界の動きはウオッチしていきたいと思います。

PS.
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『できない人ほど、データに頼る』

できない人ほど、データに頼る できない人ほど、データに頼る
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2007-04-20

「仮説って、どうやって考えるの?」という方、本書を読んでみてください。

ただ・・・
これは強調しなければいけないのですが、「できない人ほど、データに頼る」であって、「できる人は、データに頼らない」ではない、ですからね。ここのところを間違ってもらっては、困りますので。実際、この本に出てくるできる人達も、結構、調査をやっていますから。
著者は、インターブランドというコンサル会社のディレクターで、翻訳本です。原題は、“SEE、FEEL、THINK、DO~The power of instinct in business”。かなりの意訳です・・・。

まずは、もくじから。

序章 それでも、まだデータに頼るのですか?
第1章 すべては「見て、感じて、考えて、実行する」から生まれた
第2章 見る~実際に自分の目で確かめなければ何もわからない
第3章 感じる~顧客の心に共感できるか
第4章 考える~「なぜだろ?」子供のように自問しよう
第5章 実行する~直感を信じて行動に移そう
第6章 疑問を持ち続けることが成功を引き寄せる
第7章 見て、感じて、考えて、実行した勝者たち

う~ん、やはり調査否定のように感じますかね。。。
「序章」で、著者はつぎのように言っています。

本書は、調査機関やコンサルティング会社、MBA(ビジネススクール)を決して批判するものではありません。もう少し自分の本能を信じて、お客様との距離を縮めてはどうですかと呼びかけているのです。仕事だけではなく、何年にもわたる経験から得た知識と直感をもっと信じるべきです。もちろん情報に基づいて決断する必要はありますが、そこには感情も存在していなければなりません。見たいものを見ようとするのではなく、ありのままを見る。感情を排除するのではなく、感じるものを感じる。いま起きていることに対して、はっきりと焦点を当てて考える。そして、調査結果を鵜呑みにするのではなく、参考にして実行する。

ポイントは、「お客様との距離を縮める」です。そして、なぜだろうと考えることが大切なのです。ここから、仮説が生まれます。

もうひとつ間違って欲しくないのは、「経験から得た知識と直感」をもっと信じることは大切ですが、決して「見たいものを見る」ではなく、「ありのままを見る」ということです。よくあるのが、業界に長いこと居て、その分野の「プロ」になってしまっているにもかかわらず、自分の考え=お客様の考えと勘違いしてしまうことです。よくいますよね、「どうして、この味がわからないのだろう?」「どうして、こんな便利なものを使わないのだろう?」という、ある意味、傲慢な視点で語る方々が・・・。このような人達は、見たいものを見ている、自分の物差しだけですべてを解釈しているから、同じ「見る、感じる、考える」でも間違った方向に行ってしまうのです。
消費者は決してその分野のプロではない、ということを忘れてはいけないと思います。「ありのまま」を見て、感じることが大切だと思います。その上で、プロの視点からもう一度、解決策を考えていく、仮説をつくり、実行していく。
著者が伝えたかったのは、そういうことではないかと、自分なりの解釈をしています。

翻訳書にしては、文章が平易なのでわりと読みやすいと思います。ただ、事例が外国の企業なので、なじみがない場合も多く、その点が少々難ありでしょうか。。。

「仮説」ってなんだろう

Q子 うわー、ずいぶん久しぶりですね。世間では、新学期も始まり、GWも終わってますよ!

owl そうだね、まぁそのことは置いておいて。。。^^;
今日は、「仮説」について考えてみようか。P夫くん、仮説ってなんだろう?

P夫 いきなり再開して、またずいぶんばくっとした質問ですね・・・-_-
そうですね・・・、たぶんこうなんじゃないかとか、ああなんじゃないかと考えることですかね?

owl う~ん・・・。Q子さんは?

Q子 「ある現象を合理的に説明するため、仮に立てる説。実験・観察などによる検証を通じて、事実と合致すれば定説となる。」と、Yahoo!辞書の大辞泉にはあります。

owl まあ、そうなんだけどさ・・・。
たとえば、いまはボストン・レッドソックスの松坂大輔もつぎのようなことを言っていたらしい。

マウンドではいつも実験しているんだよね。仮説を立て実験し、結果を求め、それを分析し、将来つかえるかどうかを見極める。例えば実験しているものをジグソーパズルに譬えると、これまで百ピースで埋められていたものが、二百ピースになり三百ピースになる。そのコマは年々増えていく。コマが増えると埋める作業って難しくなるでしょ。それと同じように、年を追う毎に考えることが増えて、苦しみも増していくんだよね。でも、より細かいコマで埋めた方が完成したときに絵は綺麗になる。多分、この作業は引退するまで続けていくんだろうなあ・・・(『夢を見ない男・松坂大輔』)

マーケティング・リサーチって、実験みたいなものだよね。たとえば、このコンセプトで、このターゲットに、こんな商品をつくって、こんなふうに売れば、買ってくれるんじゃないか。これがまさに仮説で、調査でデータを集めて、分析して、ほんとうにそうかどうかを確かめる。まさに、松坂がマウンドでやっていることと一緒。
そして、仮説がなければ、実験も調査もできない。何を確かめればいいかわからないんだから。
よく、調査をするときに「仮説はなんだ」と言う人がいるけど、確かに「仮説なくして調査はできない」ということが、わかるんじゃない?

P夫 それはわかります。でも、調査のタイプには「実態把握型」「仮説探索型」「仮説検証型」の3つがあるって言っていたじゃないですか?(→こちら)
「仮説検証型」だといまのowlさんの説明で納得できますけど、他の2つはどうなんですか?「実態把握型」なんて、市場や顧客がどうなっているかわからないから、やるんですよね?それなのに「仮説が必要」って、おかしくないですか?

owl ほう、だいぶ勉強した?いい視点だね^^。
確かに、「わからないから調査をするんであって、仮説なんか立てようがない」って言う人もいるし、なんとなく納得してしまう。とくに「仮説探索型」の調査なんて、読んで字の如く、仮説を探すんだからね。
けど、ほんとうにそうだろうか?ほんとに、まったく仮説がない状態で、どんな調査をしようというの?ばくっとした仮説でも持っていないと、どこから手を着けたらいいかわかんないし、まったく無駄なことをしてしまうかもしれないと思わない?こういう考え方の人が調査をすると、「あなたは、どんな商品が欲しいですか」的な調査をしてしまうんだよね。わかんないんだから、直接お客さんに聞いてしまえ!ってね。

P夫 う~ん・・・。確かに、そうかもしれないですけど。。。
でも、なんかしっくりこないです。わからないことを知ろうとしているのに、「合理的に説明するための仮の説」といわれても、無理じゃないですか?

owl そう、そこだと思う。「仮説」という言葉に囚われすぎているんだよ。本来の意味は、「合理的に説明するため」のものかもしれないけど、最初にP夫くんが言っていた「こうなんじゃないか、ああなんじゃないかという考え」くらいに思っておけばいいんじゃない?

P夫 まあ、それならできないこともないと思いますけど・・・。

owl あまり納得できていない?^^;
この点について、割と明確に説明してくれている本がある。前にも紹介した『マーケティングリサーチはこう使え』なんだけどね。
この本では、仮説を、「現状仮説」と「戦略仮説」にわけて説明してくれているんだ。

このケースのように、失敗の原因がまったく掴めていない状況では、まず、その原因について仮説を立てる必要があります。この例では、厳密にいうと過去のことになりますが、こうした「事態やその原因」についての推察を「現状仮説」といいます。
この「現状仮説」があって初めて調査の企画ができるようになります。これがないと、誰に何を聞いたらよいのかわからないからです。・・・(中略)・・・
このように、実態を把握する際にも仮説が必要になるケースがあります。そして、この現状仮説を立てる際には、次の「戦略仮説」(次はどんな手を打てば上手くいくのか)の立案に結びつくような項目になっていることが大切です。
戦略立案に役立たないような現状仮説は意味がありませんし、さらに、現状仮説を持たないでやみくもにデータを集めることは時間とお金のムダを生むだけです。データを集めてから現状仮説を立てるのではなく、仮説を立ててからデータを集めるようにすることが大切です。

どう?現状仮説と戦略仮説の例も本の中では紹介してくれているから、もっと知りたかったら、本を読んでね。

さて、たとえば、調査票をつくるときのことを考えてみようか?
どうしてこの商品を選んだのか、という商品選択理由はよく調査項目になるよね?このときに、どうやって選択肢をつくるの?
やっぱり、こうじゃないか、ああじゃないかという現状についての仮説、さらにいいのは、こういう理由が多いなら、こういう手を打てるのではないかという次に繋がる仮説をもっていないと、もしかしたら、ほんとうは必要なことが聞けていないということになると思わない?そして、もっと怖いのは、ほんとうに必要なことが聞けていなくても、聞けていないということ自体に気づかない、ということなんだけどね。

Q子 でも、アンケートとかって、よく「その他」ってあるじゃないですか?あれでわかるんじゃないですか?

owl たしかに、「その他」の記述で、こちらの仮説の致命的な欠点に気づかされることもあるよ。ただ、それは「こういう視点があったのか」ということであって、その量的なボリュームは、わからないと思った方がいいから。
選択肢で示されているので、自分でも「そうだな」と気づいて○をする人もいるし、「他にもあるけど、面倒だからいいや」とその他に答えない人もいるから、選択肢の%と「その他」の%を同じ基準で比べることはできないでしょ?あらかじめ、しっかりと仮説を立てて、選択肢に入れていたら、もっと大きな数値になっている可能性があるからね。

Q子 確かに、そうですね。

P夫 でもですよ、調査の前に立てた仮説に囚われていると、本来はもっと大事なことがあるのに、逆に見逃すということはないですか?

owl 今日は粘るねぇ。でも、またまたいい視点だね。
仮説検証型の調査では限界がある、ということを言う先生もいるし、最近はやりの心脳系でもそういう視点に立っている記述が多いよね。
で・・・、私もそう思う^^;

P夫 ちょっと・・・-_-

owl 仮説検証型の調査の否定論者(といってしまっていいのかどうかですが・・・)の最右翼は、朝野先生だろうね。著書の中で、つぎのようなことを言っているよ。

かねてから朝野が指摘してきたことであるが、仮説検証型の調査は、とかく自由奔放な発想を抑えがちである。なぜなら仮説検証型の調査から得られる結論は、しょせん事前に決めた仮設がYesかNoかの範囲を出ないからである。だから、あらかじめ想定しなかったアイデアが仮説検証の調査から出てくるはずがない。したがって、画期的な事業や新しい解決策を発見しなければならないようなリサーチ課題には、仮説検証型の調査は無力であると思われる。すでに海外産業の追随期を終え、オリジナリティのある新事業を創出しなければならない21世紀の日本の市場においては、クリエイティブなリサーチの必要性は、従来以上に高くなってこよう。これまで「仮説を発見する調査」は非正統であるとして軽視されがちであったが、再評価されて然るべきであろう。(『マーケティング&リサーチ通論』)

ただね、間違ってはいけないと思うのは、ここで言っている「仮説」というのはいわゆる最初にQ子さんが言った意味での仮説で、自然科学的な合理主義のもとでの仮説だということだと思うんだ。それと、そもそもの仮説が凡庸なものであれば、いくら仮説検証を行っても、凡庸なものしか出てこないということ。いまいった仮説は、戦略仮説になるけどね。

P夫 言っている意味が・・・。

owl うん、整理をしないとね。
「仮説」といっても、自然科学で使われているような「合理的な説明をするためのもの」という厳密な意味での仮説、「AだからB」というような仮説だけだと考えなくてもいいんじゃないかということ。こうかもしれない、ああかもしれないということも仮説と捉えてもいいんじゃないか。
それと、仮説といっても「現状を説明するための仮説」と「今後どうすればうまくいくのかということを考える仮設」という2つがあるということも、大切な視点だよね。
そして、2月くらいに言っていたように、「仮説検証型」だけが調査じゃないということ。朝野先生もそのことを言っていると思うんだけど、「仮説(ここでいう仮説は、わりと厳密な意味での仮説の方)」を発見するための調査も、とても重要になってきているということ。
ただ、仮説を発見するための調査であっても、こうかもしれないというような広い意味での仮説がないと、調査設計はできない、調査をしても無駄になることも多いということ。
こんな感じで理解してくれるといいんだけど。。。
難しいよね、自分でもうまく説明できているかどうか自信がない^^;

P夫 なんとなくですけど、わかったような気がします。最後に、もうひとついいですか?
広い意味での「こうかもしれない」にしても、それを思いつくにはどうしたらいいでしょうね?
そこがわからないと、どうしようもないんですけど。自分で考えることには限界があるだろうし。。。

owl そうだね。これまで、ちょくちょく私が言っていたことがあるんだけど。それがヒントかな。

P夫 なんですか?わかる?Q子ちゃん。

Q子 現場、ですか?・・・

owl そう、現場。いくら、机の上や会議室でうなっていても、どうしようもないんじゃないかな。とにかく、売り場に行ってみる、買っている人を見てみる、買うのを止めた人を見てみる。いつ、どんな広告をしているのか、どんな販促をしているのかをみてみる。あ、ちゃんと家でね。買って欲しい人がどんな人なのか見てみる、話を聞いてみる。
なんのことはない、仮説探索型の調査をやっているようなものだけど。
ちょうどいい本があるから、つぎに紹介するね。