マーケティング・リサーチ業界2012

しばらくマーケティング・リサーチ業界のことを書いていなかったので、久しぶりに。
(以前ほどの激動が無くなったということでも、あるのですが)

◆国内マーケティング・リサーチ会社売上ランキング
以前、リサーチ業界ランキングを書いたのは2008年5月でした。
このときの業界順位は、以下のようになっていました。(順位は2006年売上による。かっこ順位は2001年。宣伝会議推定)

1位(2位):インテージ
2位(1位):ビデオリサーチ
3位(3位):電通リサーチ
4位(-) :マクロミル
5位(5位):日経リサーチ
6位(6位):サーベイリサーチセンター
7位(-) :ジャパン・カンター・リサーチ
8位(-) :ヤフーバリューインサイト
9位(7位):日本リサーチセンター
10位(-):TNSインフォプラン

この記事のときも書きましたが、ネットリサーチと外資系リサーチ会社の躍進が明らかなランキングの変動でした。2001年から2006年にかけて、大きな変化があったことがうかがえます。

2010年度決算データによるランキングは、つぎのようになっています。
(『宣伝会議』2012.1.15号より。宣伝会議編集部調べ。かっこ順位は2009年度)

1位(1位):インテージ
2位(2位):ビデオリサーチ
3位(3位):マクロミル
4位(7位):サーベイリサーチセンター
5位(4位):電通リサーチグループ(現 電通マーケティングインサイト)
6位(5位):日経リサーチ
7位(8位):ジャパン・カンター・リサーチ
8位(10位):クロスマーケティング
9位(‐):Ipsos日本統計調査
10位(9位):日本リサーチセンター

YVIを飲み込んだマクロミルが、売上100億円超えで確実に3位に入っていますが、大きな傾向は2006年と変わっていないと言えそうです。そして、3位と4位の間には売上で倍の差(額では60億円の差)がありますので、(狭義での)リサーチ業界以外からの大型参入が無いかぎり、Big3時代は続きそうです。

蛇足になりますが、2012年4月から『宣伝会議』の広告業界トッピクス欄から「リサーチ」が無くなったようです。ここからも、リサーチの(というか、リサーチ業界 and/or 会社の、と言った方が正しいように思いますが)プレゼンスの低下を感じます。あるいは、リサーチという括りで言及すること自体に意味がなくなった、という判断かもしれませんが。
(このような事情もありますので、リサーチ業界ランキングは今回が最後になるかもしれませんので、あしからず。。。)

◆海外リサーチ会社ランキング
海外のリサーチ会社ランキングは、JMRAのホームページで確認することができます。
(一切の転用・転載禁止なので、リンクで勘弁ください)

ESOMARによる世界売上高トップ企業25(2010) (JMRAホームページ)

このランキングによると、インテージは9位、ビデオリサーチは13位、マクロミルは20位に位置しています。(金額がわからないので、上位企業との差がどの程度かわからないのですが。。。)

また、こちら ↓ の資料(PDFです)をみると、リサーチにおける世界の中での日本の位置づけが理解できると思います。多くの方が指摘しているのですが、人口一人あたりのマーケティング・リサーチ売上や広告費に対するマーケティング・リサーチ売上の割合などを見ると、日本でのリサーチ投資の少なさがわかります。

GLOBAL MARKETING RESEARCH 2011 LANDSCAPE
(PDF:JMRAホームページ)

◆いま、マーケティング・リサーチは?・・・
ここで、リサーチへの関心をGoogle Insight for Search で確認してみます。
「マーケティング・リサーチ」「ソーシャルメディア」「ビッグデータ」の3ワードで比較してみます。
(このグラフは、検索クエリの相対値を“人気度”としてグラフ化したものです。今回のグラフでは、2012年2月のソーシャルメディアのピークを100とした場合の、各ワード、各時期の相対値を示しています)

 

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このグラフではわかりにくいかもしれませんが、「マーケティング・リサーチ」は漸減傾向にあります。2005年の4月には45あったものが、2012年の4月には12まで減少しています。一方で、「ソーシャルメディア」は2010年に伸び始め、1月にはマーケティング・リサーチを超え、2011年に入りぐんと伸びました。ついで「ビッグデータ」も2011年に入って伸び始め、10月にはマーケティング・リサーチを超え、2012年に入って大きく伸び、とうとう5月にはソーシャルメディアとほぼ並ぶくらいまでになっています。

これは検索クエリの結果なので、「マーケティング・リサーチ」というワードがある程度理解されており、あえて検索する必要がないからだということもできるでしょう。しかし、それでも検索数が年々低下していることは危惧すべきことでしょうし、ネット上の関心が、ソーシャルメディア、そしてビッグデータに移っていることについては、疑いがありません。

そこで読んでおいてほしいのが、JMRAの会長メッセージです。

「すべての活動をリサーチャーのプレゼンス向上のために」
(JMRAホームページ:2012.4.2)

ここに書かれている、「顧客企業の海外シフト」「モバイル端末やソーシャルメディアの普及」そして「リサーチのコモディティ化による価格競争」という時代認識、環境認識は基本的に同意できますし、すべてのリサーチ会社が考えなければならない課題でもあると思います。
そしてキーとなる、つぎのフレーズ。

産業としての魅力は社会に対して 提供する価値であり、その価値を創造することができる専門性にあります。

リサーチ産業の価値とは何なのか、専門性とは何なのか、あらためて、この点を考える必要があるでしょう。

◆ここ1年でのリサーチ業界の動き
ついで、ここ1年くらいでのリサーチ業界の主な動きを見てみます。いくつかのトピックスにまとめられます。

1:合併や業務提携の動きは、まだまだ続いているようです。

  • 電通リサーチと綜研が合併し、「電通マーケティングインサイト」設立(2011.10)
  • 電通マーケティングインサイトとマクロミルが合弁で「電通マクロミル」設立(2012.4)
  • 電通マーケティングインサイトとインデックスアイがMROCで業務提携(2012.5)
  • マクロミル、マーシュとオフラインリサーチ分野で業務提携(2011.12)
  • マクロミル、エリアマーケティング分野でゼンリンデータコムと業務提携(2011.11)
  • クロスマーケティング、楽天リサーチとモニターデータベースの共同利用開始(2011.5)

 

2:海外進出も拡大しています。

  • インテージ、インドでの現地法人設立へ(2012.8予定)
  • インテージ、ベトナムリサーチ会社の資本取得・連結子会社へ(2011.9?)
  • マクロミル、韓国リサーチ会社を子会社へ(2011.2)
  • マクロミル、中国のマーケティング支援会社へ出資(2012.3)
  • マクロミル、中国法人でのサービス開始(2011.9)
  • クロスマーケティング、中国での子会社設立(2012.5)
  • GMOリサーチ、イギリスにヨーロッパオフィス設立(2012.2)

 

3:拡(超?、脱?)リサーチ、とくにプロモーション分野への進出が始まってます。

  • インテージ、docomoとの合弁会社「ドコモ・インサイトマーケティング」設立(2012.4)
  • マクロミル、連結子会社エムワープにて、「GREE」の広告誘導枠を活用したマーケティング支援サービス提供(2012.5)
  • マクロミル、マーケティング支援事業のための新会社「エムプロモ」設立(2012.2)
  • クロスマーケティング、モバイル向けソリューション事業、Webプロモーション事業のための子会社「クロス・コミュニケーション」設立(2011.8)

業務提携などは、もっとあるかもしれませんが、記憶にあるものをピックアップしています。
業務提携や海外進出は時代の流れから当然としても、マーケティング支援、とくにプロモーション分野への進出が行われるようになってきました。これまでは、基本的にはタブーといわれていた領域だと思います。
しかし、とくにネットの世界では、リサーチとプロモーション領域は隣接しているともいえますし、正直なところ、リサーチよりもプロモーションの方が予算が取れるということもあるので、とくに成長が求められる上場企業の新たな事業領域として魅力的なのでしょう。リサーチを行なっている本体とは別会社での運営が条件になりそうですが、今後、この領域への事業拡大は増えそうです。リサーチ綱領との整合性をどうするのか、そろそろ綱領の見直しが必要なのかもしれません。

 

そして・・・、
つい先日発表された、こちらのリリースに注目したいです。

トランスコスモス、CRM分析・コンサルティング専門子会社「トランスコスモス・アナリティクス株式会社」を設立 (トランスコスモス ニュースリリース:2012.6.11)

コールセンター運営やCRM分析では先頭集団にいるトランスコスモス社が、CRM分析・コンサルティングを専門に行う子会社を設立すると。基本となるのは、

コールセンターのみならず、インターネットプロモーション/Webサイト/ソーシャルメディア運用などで得られる、あらゆる顧客の声(VOC)や顧客の行動情報を収集し、CRM分析サービスを提供

することなのですが、「ダブルファネルをカバーする、調査・分析サービスメニューを整備」という一文が少し気になります。ビッグデータ解析だけではなく、サーベイや観察調査など、あらゆるリサーチ手法にウイングを広げる可能性があるのではないかと思っています。なにせ、『次世代マーケティングリサーチ』の著者である萩原さんが副社長に名を連ねているのですから。
2000年代、システム技術をもったベンチャー企業がネットリサーチ会社としてリサーチ業界の黒船として参入して来たように、今後はビッグデータの収集・解析技術を持った企業が旧来のリサーチ領域へ参入してくるという、第二の黒船の時代に入るのではないかと感じています。

そして、このことが脅威になると感じるのは、「KPO(Knowledge Process Outsourcing)」というキーワードゆえです。この「KPO」という言葉、このリリースではじめて知ったのですが、こちらのサイトで詳しい内容を確認してください。

アウトソーシングの新たなトレンド「KPO」って何? (ITmedia:2009.7.22)

これまでのBPO(Business Process Outsourcing)が「比較的単純な労働集約型業務の外部委託が中心」だったのが、KPOでは「データの収集や加工(データギャザリング)とデータの分析・アナリシスなどが中心」と指摘しています。まさに、本来はリサーチ会社が業務とすべき領域です。ただし、データの規模がビッグになりすぎ、これまでリサーチ会社が行なってきた程度の「集める・加工する・分析する」技術だけでは対応が難しくなっているという点で、ギャップがありそうです。
ほんとうに、KPOが新たなトレンドとして定着していくのか、そのときのプレイヤーは誰なのか、その中にリサーチ会社が含まれるのか。新たな、さざなみが見えてきました。。。

以上、2012年のいまのリサーチ業界を取巻く状況を整理してみました。
狭い範囲でのリサーチ業界は、ひと昔前の激動時代を過ぎ、優勝劣敗がほぼ決した凪の状態にあるように思われます。ただし、強いところはさらに動きを早め、つぎの布石を打っています。
そして、“KPO” という新たな波が、少し見え始めてきたようです。今度の相手は、ネットリサーチの時のようなベンチャーではなく、IT系コンサルのような、ある程度の実績と規模をもった企業になりそうです。
そのときに、これまでのリサーチ会社は、どのようなポジションをとるのか、とれるのか。
まさに、「リサーチ産業の価値とは何なのか、専門性とは何なのか」を、早急に考え、動くことが必要になりそうです。

 

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ここ1年(≒2011年)のお勧め本~その2:応用編

ここ1年のお勧め本、前回の基本編につづいて応用編です。

 

『ショッパーマーケティング』
前回の基本編で取り上げようかと思ったのですが、専門性が高いのでこちらに。

ショッパー・マーケティング ショッパー・マーケティング
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2011-10-04

近年、広告代理店でも「買場」を研究する専門部隊がつくられ、いくつかの本も出版されています。消費者(コンシューマー)を、使用者(ユーザー)としてだけ理解していては不十分で、買物をする人(ショッパー)としても理解しないといけないという流れです。
本書は、日本でのISM(インストア・マーチャンダイジング)や購買者研究の総本山ともいえる流通経済研究所編集とあって、これまでの研究成果が体系的に、かつ具体的にまとめられているといえます。もくじをみると、本書の内容が理解できると思うので紹介しておきます。

第1章 ショッパーマーケティングとは何か
第2章 欧米で注目が高まった背景
第3章 なぜショッパーを捉える必要があるのか
第4章 買物中の意識と店内購買行動の活用法
第5章 ショッパーインサイトを捉えるための技法
第6章 コンシューマーインサイトとショッパーインサイトを統合する店頭マーケティング
第7章 ショッパー行動観察からの売場づくり
第8章 ショッパーの購買行動に基づく店頭コミュニケーション
第9章 FSPデータの活用法
第10章 ショッパーマーケティングにどう取り組むか
第11章 日本コカコーラのショッパーマーケティングへの取り組み
第12章 ロッテのショッパーマーケティングへの取り組み

ショッパーマーケティングの背景や意義の理解(1~4章)、ショッパーの行動や心理を把握する調査手法(5~9章)、そして企業による事例(10~12章)と、ショッパーマーケティングを総合的に理解ができる構成になっています。
最終の価値伝達の場としての買場は一層重要になっていますし、とくに消費財のマーケティングには欠かせない考え方だと思います。(そして、リアルでも、ネット上でも、応用可能だとも思います)

『次世代コミュニケーションプランニング』
つぎに、以下で紹介する本を理解するベースとして読んで欲しい本。

次世代コミュニケーションプランニング 次世代コミュニケーションプランニング
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2012-03-30

基本的には「広告・PR人のための新しいプランニング思考法」(帯より)の本です。
しかし、よくあるハウツーものでも、「~すべき」や「~力」といった類の本でもありません。著者がはじめにで書いているように、「本物の変化を把握するための基礎力をつけるための本」であり、「考える癖を読者のみなさんに提供したい」というスタンスの本なので、マーケティングリサーチにも十分に応用が効きます。それに、同書のシリーズである『次世代マーケティングリサーチ』でも触れられていたように、広告とマーケティングリサーチは表裏一体の関係にあるので、マーケティングリサーチを理解しようとするならば、当然、広告・コミュニケーションの理解は欠かせません。
この本をリサーチという視点から読み解くことで、著者のいう「!」や「?」を感じることができるのではないでしょうか。たとえば、P24後段の文章などは「コミュニケーションプランニング」を「リサーチプランニング」に置き換え、他の言葉も少しだけ置き換えれば、ほとんど意味が通じますし、いまのリサーチが置かれている状況が示されているともいえます。他にも、「オーダー」と「オファー」(p18)、「マスからトライブへ」(p97)などの論点は、マーケティングリサーチを考える上でも重要なポイントですし、リサーチそのものについての言及もあります(p46やp57)。
そして、この本のキー概念でもある「コンテクスト」。私がリサーチとの関わりで理解しようとした言葉でもあるのですが、3年くらい前までは耳にすることの少ない言葉でした。ところが今は、これからのマーケティングを考える上では欠かせない言葉になっていると思います。
そして、以降で紹介する本を理解するためにも、この「コンテクスト」という言葉の理解は欠かせません。

『リッスン・ファースト』
関連して、帯に「ソーシャルリスニングの教科書」と書かれている、こちらの本。

リッスン・ファースト! ソーシャルリスニングの教科書 リッスン・ファースト! ソーシャルリスニングの教科書
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2012-04-13

まさに教科書。
ソーシャルリスニングを、マーケティングの過程の中でどのように活用するかが事例を交えながら整理されています。既刊のソーシャル系の本は、どちらかというと考え方~時代的背景や、なぜリスニングか、いくつかの典型的な事例など~を示した本がメインでしたが、本書は実務に繋がる視点でソーシャルリスニングを体系的に整理しています。
扱っている領域は経営やマーケティング全般で、消費者理解、商品開発、コミュニケーション、ブランディング、カスタマーリレーション、予測といったテーマが、事例を交えながら紹介されています(ただし、事例は当然日本のものではないので理解が難しいものもありますが)。また、この分野に関わる日本の識者のコラムや対談を挟み込んでいるので、日本の状況を踏まえた視点も補えるのも、本書の特徴でしょう。
これまでのソーシャルメディア系の本では実務に活かせないなと思っていた方に、お勧めの本だと思います。
(個人的には、個別の方法論や事例よりも、Part4の「リスニングの新境地」がおもしろかったのですが、これは関心領域の違いなので・・・)

『異文化適応のマーケティング』
つづいて、グローバルマーケの本のように見えて、実は異文化論という視点が参考になる、こちらの本。

異文化適応のマーケティング 異文化適応のマーケティング
価格:¥ 4,620(税込)
発売日:2011-06

本書、帯には「国際マーケティングの本格テキスト」とあり、一見するとグローバルマーケティングの本のように見えますが、原題は、“Marketing Across Cultures”。どこにも global とか  management 、economics などの単語は入っていません。
監訳者の小川先生(法政大学大学院)が指摘するように、「社会心理学と消費文化論をベースに、国際マーケティングの分野に新しい視点を提供している(p.609)」点がおもしろい本です。さらに著者は欧州系の方なのですが、そのため米国流のマネジリアルなマーケティングとは趣を異にする視点が見られるのも特徴的ですし、おもしろい点です。
もくじを見ると、消費者行動、消費のグローバル化、市場調査、製品政策、価格、販促、コミュニケーションが扱われ、まさにグローバルマーケティングを文化の視点から考えるための教科書になります。とくに6章の「異文化での市場調査」は、“等価性”という視点から国際的な市場調査の課題を指摘しているので、これからグローバルリサーチに携わらなければならない方は、この章を読むだけでも参考になるでしょう。
しかし、ここで本書を紹介したい理由は別にあります。それは、『次世代コミュニケーションプランニング』でも言及されていた「トライブ」との関わりです。トライブとは「部族」のことなのですが、ハイコンテクストと言われる日本でも人々の均質性は弱まり、さまざまな興味や関心のもとにトライブ(部族)を形成しているのではないかと考えています。そうなると、これはまさに「異文化」を理解するためのリサーチ、マーケティングと同じ考え方をとらなくてはいけなくなります。エスノグラフィという手法が注目されているのも象徴的です。このような視点に立つときに、本書の意義は、ぐっと大きくなってきます。
とくに前半の1章から6章まで(構成は、文化というプロセス/文化のダイナミクス1:時間と空間/文化のダイナミクス2:相互作用、考え方、および行動/異文化間の消費行動/ローカルな消費者と消費のグローバル化/異文化での市場調査、となっています)は、このような視点で読むと参考になることが少なくないでしょう。
グローバルマーケティングに関わる人はもちろんですが、その他の方にも参考になる本だと思います。
(ただし、600ページにも及ぶ本ですし、お値段もそれなりので、ぜひ購入をとまでは言えません・・・)

『マーケティング・コンセプトを問いなおす』
マーケティングについて、もう一度考えてみたい人へ、おすすめの本がこちら。

マーケティング・コンセプトを問い直す --状況の思考による顧客志向 マーケティング・コンセプトを問い直す –状況の思考による顧客志向
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2012-05-01

著者の栗木先生(神戸大学大学院)は石井淳蔵先生門下、なので石井先生のマーケティング論に興味を持っている方には、お勧めしたい本です。
現代のマーケティングコンセプトでもある「顧客志向」ですが、この単純明快な命題、真理がありながら、なぜいまだにマーケティングを学ぶ必要があるのか?、これが思考の原点になっています。結論を急ぐなら、それは現実が「状況」に根ざしたものだから、となります。「状況に根ざしつつ、状況を乗り越えることを導く(p.ⅵ)」ということが求められているのです。(そして、この状況についての考え方は、リサーチ不要論を安直に唱える人にも理解しておいてほしい視点です。最後に少し触れます)
このようなことを論理的に展開していくのですが、論文がベースとなっているので決して読みやすくありません。しかし、コトラーに代表されるマネジリアルなマーケティングに限界を感じている方には、発想の広がりを得るヒントになる本だと思います。
また、本書にはリサーチに関連した章が2つあります。
ひとつは6章の「デザインの罠」。リサーチでの属性評価(味は、パッケージは、値段は・・・と個別に重視度をとるような調査)の罠について言及しています。これは、リサーチのベテランだとすでに気づいている課題だと思いますが、最近のリサーチ不要論には、この罠の未理解もあるようにも思います。
そして7章、「マーケティングリサーチの罠」。論理実証主義、批判的合理主義、社会構築主義という3つのリサーチの基本的な方法論を検討しつつ、マーケティングリサーチについて考察しています(正直、難しいです)。

マーケティング・リサーチは、未来を予測する万能のツールではない。この限界を忘れて、普遍法則が成り立つことを前提とした思考や実践にのめり込んだときに、マーケティング・リサーチは企業の経営者やマーケティング担当者をマイオピアに導く。このような罠に陥らないためにも、マーケティング・リサーチには、規則や秩序の局所性の反省、すなわちマイオピアを乗り越えるという、もう1つの役割があることを忘れてはならない。(pp.165-166)

そして、

マーケティング・リサーチには、マイオピアを解くこと、そして状況の構成を解くことの2つの役割がある。(p.227)

としています。個人的には、かなり共感できる結論です。この結論に至る過程を理解したい方、本書をどうぞ。

(参考:
栗木先生の、このマーケティング・リサーチ論についての発表が、(2012年)6月2日(土)に関西学院大学で開催される日本消費者行動研究学会(JACS)のカンファレンスであるようです。詳細は、下記のページで確認してください。

http://www.jacs.gr.jp/conference/44.html )

 

また本書に興味のある方は、関連して石井先生のこちら ↓ の本もどうぞ。
栗木先生の本に増して難解ですが。。。

マーケティング思考の可能性 マーケティング思考の可能性
価格:¥ 3,570(税込)
発売日:2012-01-27

こちらの本を適切に紹介するのは難しいので、石井先生がインタビューを受けている、こちらのHPを参考にしてください。。。

異様なところに「触角」を伸ばせ(第1回)
著者インタビュー(前篇) プロフェッショナルの知性を刺激する1冊『マーケティング思考の可能性』石井淳蔵(流通科学大学学長)著
(PRESIDENT Online スペシャル:2012/5/10)

『価値共創時代のブランド戦略』
最後は、ブランド戦略の本です。

価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦 価値共創時代のブランド戦略―脱コモディティ化への挑戦
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2011-04

こちらも、アーカーによるマネジリアルなブランド論の次、といった感じの本でしょうか。
本書の目的について序章では、「本書は、こうした価値共創の問題をも視野に入れつつ、価値と関係性という2つのキーワードを基軸に、近年に展開された新たなブランド論の内容を、ケースも交えつつできるかぎり体系的に解説していくことにしたい(p.12)」としています。
アーカーやケラーをはじめとした、これまでのブランド論をきっちりとおさえながらも、「価値」と「関係性」といった21世紀の議論をふまえつつ整理しています。
ブランドに関する理論を、いまの視点も踏まえながら理解したいという方に、おすすめですし、ブランド論にこだわらなくても、価値共創とか関係性ということを理解したい方にも、参考になる本だと思います。
(ただし、こちらも論文集なので、読みやすくはありません。。。)

 

以上、ここ1年くらいの本で応用編といえるものを紹介してきました。
ここまで読んでいただければわかると思うのですが、問題意識としてあるのは、世の中に絶対的なものはなく、相対的な状況の中で位置づけられるという考え方です。おそらく、「解釈主義」といわれる考え方に近いと思います。
リサーチの古典的な考え方だと、普遍的な解(たとえば、事実とか、ニーズとか)が存在し、それを明らかにしていくのがリサーチというような捉えられ方をしていたと思います。しかし、今回紹介した本を読むと、リサーチも絶対的な解の存在を前提にして「正しい答え」を求めるような考え方からは脱却しなければならないと思えます。すべてのリサーチの結果は状況に依存しているのだし、リサーチで得られるのはある特定の状況の元での事実でしかないということです。このあたりについては、また機会を改めて整理していきたいと思います。
いずれにせよ、これまでのマーケティング論の主流であった、西洋的な要素還元主義、絶対主義、理論を前提にした考え方に疑問を感じたり、そこまででなくても何かが違う感じがする、何かヒントはないだろうか、と考えている方には、今回ご紹介したような本を読んでみると、頭を揺さぶられる感覚を得ることができると思います。

(ただし、だからといって、このような相対主義的な考え方をベースに実務を実践するのは難しく、これらの本を読んですぐに実務に役立った、ということもないと思いますので、その点は前提としておいていただければ。そしておそらく、いまだに解釈主義はどちらかというと異端だと思いますし)

ここ1年(≒2011年)のお勧め本~その1:基本編

ゴールデンウイークを利用して、積読になっていた本を少し整理しました。
この1年くらい、こちらのblogで本の紹介をしていなかったので、これを機に、主だったものを紹介しておこうと思います。あまり経験がなく、これから勉強していこうという方向けの基本編と、専門書を中心に少し変化球ぎみの応用編の2回にわけて、紹介します。
(出版されてから時間が経っている本が多いので、すでに購入された方もいるかと思いますが、その点はご容赦を・・・)

今回は基本編です。ただし、「自分はベテラン」と思っている人にも参考になると思います。

 

◆ものの見方、考え方についての本

昨年は、ものの見方や考え方、科学的リテラシーとは何か、あるいは統計・確率に関する本が多く出版された印象があります。おそらく、原発事故に伴って溢れ出た様々な情報やデータに多くの人が振り回された状況があったからだと思います(実際、これらの本の内容も、原発に関連した情報を検証するという内容のものも少なくありませんでした)。
日々の暮らしの中で接する情報をどのように読むのかということは、ふだんの生活を行う上でも重要ですが、これらの本が提示している内容は、とくにリサーチャーにとっては重要なベースとなるものです。

『自分のアタマで考えよう』

自分のアタマで考えよう 自分のアタマで考えよう
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2011-10-28

著者のちきりんさんのblog(→ こちら )は、その視点がユニークで、硬直したアタマではなかなか見ることのできない世の中の側面を提示してくれる、おすすめのblogです。各エントリーが平均4万人に読まれ、月間100万~150万のページビューを集めるということからも、そのおもしろさは推して知るべし、でしょう。
そして、このblogの発想の元となっているのが、この本で提示されている思考の方法論。
「はじめに」で、“この本が、「考えるって、つまりなんだよ?」と思われている方、「なにをどう考えればいいのか、誰か教えてくれよ!」と感じていらっしゃる方のお役に立つ”ことを目的として本書を書かれたとあります。
大枠は「もくじ」を見るとわかるので、紹介しておきます。

序:「知っている」と「考える」はまったく別モノ
1:最初に考えるべき「決めるプロセス」
2:「なぜ?」「だからなんなの?」と問うこと
3:あらゆる可能性を検討しよう
4:縦と横に比べてみよう
5:判断基準はシンプルが一番
6:レベルを揃えて考えよう
7:情報ではなく「フィルター」が大事
8:データはトコトン追い詰めよう
9:グラフの使い方が「思考の生産性」を左右する
終:知識は「思考の棚」に整理しよう

Amazon評では辛口の評も少なくありません。フレーム思考にすぎない、厳密性に欠ける、偏ったものの見方、一般的すぎるなどなど。しかし、ここに書かれていることは分析の基本的な思考法として知っておくべき内容だと思いますので、読んでおいて損はないと思います。とくに、まだまだ分析がよくわからないという方のベーシック本として、お勧めしておきます。

 

『「科学的思考」のレッスン』
さらに、アカデミックに振って「科学的思考」を学ぶための本が、こちら。

「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス (NHK出版新書) 「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス (NHK出版新書)
価格:¥ 903(税込)
発売日:2011-11-08

“アカデミックに振って”と書いたので敬遠したくなる人もいるかと思いますが、リサーチを仕事とする人にとって、この「科学的思考」を学ぶことは不可欠です。
こちらも「もくじ」を見ると、求められていることの大枠がわかると思いますので、紹介しておきます(ただし、2部構成の前半だけ紹介します。後半は、まさに原発問題を題材とした科学リテラシーについての内容ですので、読まなくてもいいかなと・・・)。

第1章 「理論」と「事実」はどう違うの?
第2章 「より良い仮説/理論」って何だろう?
第3章 「説明する」ってどういうこと?
第4章 理論や仮説はどのようにして立てられるの?
どのようにして確かめられるの?
第5章 仮説を検証するためには、どういう実験・観察をしたらいいの?
第6章 なぜ実験はコントロールされていなければいけないの?

まさにリサーチの根本に関わる問題。
このあたりの概念や方法論が理解できているかどうかで、リサーチャーとしての質は問われるのではと思っています(定量調査に限らず、です。はやりのデータサイエンティストさんも同じ)。
リサーチにかかわる人には、必読本だと思います。

◆リサーチの本

リサーチに関する本、しかも基本的な本もいくつか出版されています。

『アンケート調査入門』
まずは、マーケティングリサーチやマーケティングサイエンスについての著書を多く書かれている朝野先生編著による本。

アンケート調査入門 アンケート調査入門
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2011-10-08

本書の特徴は、著者が事業会社でのリサーチ担当者だということ。内容も著者の皆さんの経験をベースに書かれているので実務的で、トラブルシューティングなどの工夫もあるなど、タイトル通り入門書としても読める内容だと思います(この部分の構成は、リサーチプロセスと実行管理/アンケート票の作成/テキストデータからの情報抽出/データの集計と統計解析/統計モデル/情報発信、となっています)。
ただ、この本で読んで欲しいのは、実は1章~3章です。ここは、リサーチの入門者には少し難しいかもしれません。一方でリサーチのベテランにとっては、これまでの考え方を揺さぶられる内容になっていると思います。古典的な統計調査の考え方に安住することの危険性を示してくれます。しかし、「いまのリサーチ」を捉えるには、理解しておくべき内容でしょう。ここに記されている背景や考え方を理解しているかどうかで、リサーチへ取り組む際の“深み”に違いが出てくるのではないかと思います。
(そういう意味では、第1章~3章と4章以降のレベル感や内容に、ギャップがあるとも言えるのですが…)

 

『インタビューのプロが教える、「ホンネ」を語らせる技術』
こちらは、インタビューのノウハウについての入門書です。

インタビューのプロが教える「ホンネ」を語らせる技術 インタビューのプロが教える「ホンネ」を語らせる技術
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2012-02-08

著者は、定性リサーチ会社(アクセス・ジェーピー)の代表。この会社での若手社員の教育向けに書き溜めた原稿をベースに書かれている、と紹介されています。
インタビューのための準備や仕込み、さまざまな投影法の紹介、インタビュー現場でのノウハウなどについて書かれています。掛け値なしの入門書、これからインタビュー調査をやらなければならない人、やってみたい人にとっては、よい参考書になると思います。

 

『図解 マーケティングリサーチの進め方がわかる本』
こちらは、10年前に出版された『図解でわかるマーケティングリサーチ(2001)』の改定版です。
基本的な構成や内容については大きな変更はありませんが、グループインタビューとインターネットリサーチについて加筆がなされています。
副題に「企画設計から、調査票の作成・実査、集計、分析、報告書作成まで」とあるように、マーケティングリサーチの全体像とポイントを理解したい人の入門書として、お勧めです。

図解 マーケティングリサーチの進め方がわかる本 図解 マーケティングリサーチの進め方がわかる本
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2012-01-26

 

『オンライン・ソーシャルメディア・リサーチ・ハンドブック』
いまは、ソーシャルメディア・リサーチについても理解しておかないといけない時代でしょう。
そういう意味で本書は、オンラインリサーチやソーシャルメディアリサーチの基本を理解するためのベースとなる本だと思います。
構成は、オンライン定量調査/オンライン定性調査/ソーシャルメディア/特定分野の調査/マーケティングリサーチの最新動向とあるように、まさに網羅的(そのため、分厚く、お値段もそれなりにするのが、ちょっと。。。)
この分野を専門とする方には、基本を学ぶ、事典的に調べるための本として必携だと思います。

オンライン・ソーシャルメディア・リサーチ・ハンドブック―リサーチャーのためのツールとその技法 オンライン・ソーシャルメディア・リサーチ・ハンドブック―リサーチャーのためのツールとその技法
価格:¥ 6,300(税込)
発売日:2011-10-20

 

『1からの商品企画』
リサーチとタイトルにはないですが、リサーチを学ぶにはよい一冊です。

1からの商品企画 1からの商品企画
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2012-02

この本、商品企画を学ぶための本です。ただ、本来の商品企画・開発は、結構泥臭いものだし、この本のようにリニアに進むものでもないと思いますが、「1からの」とあるように入門書ですので、その点は留意を。実務的かというと、否、でしょう。
商品企画の入門書を、なぜリサーチ本として紹介するのかというと、この本で商品企画の過程でリサーチがどのように組み込まれるかがわかるからです。とくに、リサーチ会社に所属するリサーチャーは、商品企画・開発の全過程に関与することはできないので、企画プロセスとリサーチの関わりを理解するには、ちょうど良い一冊でしょう。さらに、最近注目されるようになったリサーチ手法も取り入れているので、手法の基礎的な理解~どんなときに使うのか、どのように進めるのか~に役立つと思うからです。
もくじを見ると、この意図が少し理解いただけるかもしれないので、簡単に紹介。

第1部:探索的調査
商品企画プロセス/インタビュー法/観察法/リード・ユーザー法
第2部:コンセプトデザイン
アイデア創出/コンセプト開発/プロトタイピング
第3部:検証的調査
市場規模の確認/競合・技術の確認/顧客ニーズの確認
第4部:企画書作成
販促提案/価格提案/チャネル提案/企画書作成/プレゼンテーション

最近、アップルやマクドナルドの事例から、商品企画にリサーチは役立たないということが喧伝されていますが、リサーチを矮小化して理解した、かなり単純化した議論だと思っています。本書で、リサーチの多様性と商品企画との関わりを学び、その上で判断しても遅くはないでしょう。

◆消費者行動論の本
リサーチャーの必須科目となる消費者行動論の本が、ここ1ヶ月くらいの間に立て続けに出版された(される)ようなので、一応紹介しておこうと。(いずれも未読です)
リサーチ本もそうなのですが、20世紀にまとめられた消費者行動論の本だけでは追いつかなくなった、ここ10年くらいの研究蓄積が整理されたということなのでしょう。
構成を見るかぎり、いずれも教科書的で網羅的な内容になっているようです。
(内容については、ご自身で確認してください)

 

最初は、消費者心理学の定番本として評価の高かった『消費者理解のための心理学(1997)』の改定版です。基本的な部分はそのままにおさえつつ、情報環境の変化によってもたらされた領域について、最新研究を取り入れながら改定をしたということです。
出版社紹介は、“モノやサービスを消費するとき、人は何に刺激を受け、どのように行動し、何を感じるのか。消費者行動を心理学から読み解く方法を、より現代社会に即して解説した改訂版。”

新・消費者理解のための心理学 新・消費者理解のための心理学
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:2012-04

 

つぎに、早稲田の守口剛先生・竹村和久先生編著による著書。
出版社紹介は、“近年大きな発展を遂げている行動経済学、神経科学・脳科学ほか、社会学、文化人類学等の最新の研究成果を取り入れ、より学際的な研究の活発化が見られる消費者行動研究。伝統的な心理学的アプローチを基本に据え、消費者行動の基礎的な理論から先端的な研究動向までを解説、消費者行動研究の面白さが伝わってくる好著。”

消費者行動論―購買心理からニューロマーケティングまで 消費者行動論―購買心理からニューロマーケティングまで
価格:¥ 2,415(税込)
発売日:2012-04-16

 

続いて、基本書として優れた本が多い有斐閣アルマから。学習院の青木幸弘先生、法政の新倉貴士先生他による著書。
出版社紹介は、“消費者情報処理の理論を軸に,様々な段階の消費者選択に焦点を当てながら多様な消費者の行動を整理し,理解するための基本理論を易しく解説。消費者行動分析をマーケティング戦略,ブランド戦略につなげるための枠組みも提示する待望のスタンダード。”

消費者行動論–マーケティングとブランド構築への応用 (有斐閣アルマ)
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2012-05-12

 

そして、明治大学の井上崇通先生による著書。
出版社紹介は、“「マーケティングと消費者行動」「消費者行動のモデル化」「消費者心理」「社会のなかの消費者」の4部構成。消費者行動論の体系的な標準テキストを目指した著者渾身の書き下ろし。”

消費者行動論 消費者行動論
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2012-04

以上が、基本書として紹介したい本です。
消費者行動論のところでも書いたように、専門書については、ここ10年くらいに起きた環境変化に即して、改定された内容の本が少なくないことに気づきます。
最初に、入門者向けの基本的な本と書きましたが、そういう意味では20世紀に基本的な知識を習得したベテランほど、これらの本で新たな理論を理解しなければいけないのかもしれません。すべてのリサーチャーに、読んでおいてほしい本といえそうです。

 

 

リサーチ会社の情報発信

前回のエントリーから、7ヶ月も経ってしまいました。

このblogをはじめたのは2006年10月。
当時はリサーチ関連の情報発信が乏しく、ネット上でリサーチの情報を得ることは難しかったと思います。
だから、このblogも意味があったのかもしれないですが、ここ数年で、リサーチ関連の情報をネット上、その他で入手することが比較的容易になりました。そうなると、あえてここで情報を伝える意味も薄くなってしまい、更新から遠ざかるということになっているのですが・・・。

お会いする方からも、「最近、更新してませんよね」とか「やめたの?」とか尋ねられます(ありがたことです)。
blog未更新の間も、Facebookページ(→ こちら )では情報提供を継続してはいるのですが。。。(Facebookなので登録していないと見られないと思っている方もいるかもしれませんが、登録なしでも見ることができると思いますので、ぜひこちらもチェックしてください)
ただ、このFacebook、(仕様変更してからとくに)ちょっと見ずらいなと思うことも。さらに、単なる情報提供だけではなく、オピニオン的に書きたいと思うテーマも少しあったので、久しぶりに、このblogを書いてみようかと思った次第です。

とはいえ、いきなりテーマ性のある内容もどうかと思うし、このblog以外でも、リサーチ会社発の情報提供が行われるようになってきているので、まずはこちらを紹介するエントリーを。

以前は(今でも?)リサーチ会社の情報発信というと、自社調査の結果をパブ的に流すという形や、自社で可能なリサーチや解析手法の教科書的な解説というものが多かったのですが、もっと一般的で勉強になる情報や、オピニオン的な情報が増えています。

個人的に気づいて、ウオッチしているページを以下で紹介しようと思います。

◆「JMAリサーチ道場」(by JMA ジャパン・マーケティング・エージェンシー)

2010年から、月一回更新で続いているサイトです。
硬軟とりまぜて、リサーチ周辺のさまざまな情報が提供されている、お勧め度NO.1のサイトです。どちらかというと、ノウハウや実践というよりは、リサーチについて考えさせられる内容が多いかもしれません。
(個人的には「社会学のすゝめ」が好みです。馴染みがない人にはマニアックかもしれませんが、リサーチャーには、こういう知識も必要だよなと思うのです)

◆「GMO最新ネット業界レポート:マーケティング編」
     (by GMOジャパンマーケットインテリジェンス)

ついで、GMOグループから。こちらも2009年からなので、長く継続されています。
ネット関連のさまざまなレポートが提供されているのですが、この「マーケティング編」は参考になります。GMOリサーチグループであるGMOジャパンマーケットインテリジェンスによる執筆。こちらは、実践的な内容が多いと思います。
これまで、マーケティングリサーチ活用法、ソーシャルメディア活用法、顧客満足度調査、MROCなどがテーマとして取り上げられています。

◆「アウラマーケティングラボ:コラム」(by アウラマーケティングラボ)

図解 マーケティングリサーチの進め方がわかる本 図解 マーケティングリサーチの進め方がわかる本
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2012-01-26

↑ こちらの本(リサーチ入門としてお勧めの本です)の著者である石井氏の会社ホームページでのコラム。
実務家視点でのリサーチ考察という内容で、多くの気づきを与えてもらっています。
(ページ構造上、コラム全体のページがないので、とりあえず「その他」のもくじページへリンクしています。左サイドバーの「コラム」も参考にしてください)
あわせて、石井さんのblogもご一緒にどうぞ →こちら(アウラなブログ)。

◆「市場調査クリニック」(by Collexia コレクシア)

最近はじまった&発見した、ホームページです。
マーケティングリサーチの著書を数々書かれている朝野煕彦先生のインタビュー記事が無料で読める、お得なページ。(こちらも、朝野先生のインタビュー全体ページがないので、とりあえずトップページへリンク。右サイドバーのバナーから、どうぞ)
朝野先生のインタビュー以外でも、分析手法の紹介が、よくある教科書的な紹介ではなく、わりと具体的なものになっているので、参考になると思います。

◆「聞く技術研究所」(by ドゥハウス)

こちらも、つい最近はじまったばかり。
ソーシャルに焦点を絞ったコラムが参考になります。ソーシャルリスニングとかコミュニティ、MROCに関しては参考になる情報を提供してくれそうです(はじまったばかりなので、期待もこめて、になります)

◆「マクロミルFacebookページ」(by マクロミル)

マクロミルでも、昨年末くらいからFacebookページにて、コラムを掲載しています。
Facebookページなので記事を探しづらいのですが、基本的なリサーチの心得といった内容のコラムが時々紹介されています。(ノートのページにリンクしたかったのですが、うまくできなかったので、FBのトップページへリンクしています)
これまでに、たとえば以下のような内容が紹介されています。

・コラム「もっとうまくいくネットリサーチ」(5) ~ 見落としがち? 質問数過多が及ぼす本質的な影響とは? ~

・コラム「もっとうまくいくネットリサーチ」(4) ~アンケートの購入率データと購買データはなぜズレる?~

・読んで学べるコラム「もっとうまくいくネットリサーチ」(3) ~ 競合より高い満足度にひと安心。でも・・・ ~

(ほかにも、FGIとかHUTとかも取り上げられています)

以上、個人的に拾えたものだけですが、リサーチ会社としての情報発信も、会社案内のようなものばかりでなく、このようなメッセージ性の強いものも出てきました。
また、個人の方のblogでも興味深いメッセージを提供してくれるものも少なくありません。
こちらのblogやFBでも、これはという内容の記事があれば紹介しようと思いますが、皆さんもご自身で探してみると、おもしろいページを発見できるかもしれません。




リサーチ手法のポジショニング

前回のエントリー( 「ソーシャルメディアとリサーチ」 )のあと、Survey ML 萩原さんにつぎのようなコメントをいただきました。

ソーシャルリスニングを<構成的-非構成的>、MROCを<独立性-関係性>というリサーチ業界の言葉で明快に整理した論考

はい、おっしゃるとおりです。
実は、この2軸でリサーチ手法をポジショニングできないかと考えていました。もうひとつ、しっくりくるものにならなかったので、前回はチャートにするのをあきらめていました。

しかし、前回のエントリー後のここ一両日で、関連する雑誌やblogを立て続けに読むことに(セレンディピティでしょうか・・・)。それは、以下の3つです。

『宣伝会議』最新号(2011/9/1号)、第3特集「消費者の声を聞く 革新的リサーチの導入方法」

宣伝会議2011年9月1日号 NO.820

  • 注目集める次世代リサーチ手法――トランスコスモス/マクロミル 萩原雅之
  • リスニング、MROCに高い関心――MROCジャパン 岸川茂
  • 企業のマーケティングリサーチ活用――日産自動車、キリンホールディングス
  • 対談:ソーシャルメディア活用でマーケティングリサーチはどう変わるか――ホットリンク 内山幸樹×GMOリサーチ 細川慎一

『マーケティングリサーチャー』最新号(NO.115)、特集「インタビュー調査 再考」

『マーケティングリサーチャー』最新号(NO.115)

  • 定性調査の調査機関およびリサーチ・ユーザーにおける実態
  • インタビュー調査の現状と課題~リサーチ・ユーザーの生の声を通して考える
    株式会社ジュピターテレコム/株式会社電通/日本たばこ産業株式会社/ライオン株式会社/富士通株式会社/株式会社博報堂/アサヒビール株式会社/株式会社カネボウ化粧品
  • 〈考察〉 それぞれの立場から

blog 『えとじやブログ~ひねくれマーケッターのひとりごと』より、つぎのエントリー

「実はとっても難しいグループインタビュー -調査方法の選択」
(『えとじやブログ~ひねくれマーケッターのひとりごと』:2011/5/19)

“今日は目的に合った調査をしましょう、よく使われるグルインですが実はなかなか難しいんですよ、というお話でした。”

そして、これらに刺激を受けて整理したMAPは、こちら ↓ です。
(それぞれの軸の意味性については、前回のエントリー の後半を読んでいただくと、わかると思います)

 20110903リサーチchart

 

 

※Panel Data:視聴率データやPOSスキャニングデータなど
※Life Log Data:行動履歴データ(アクセスデータ、GPSデータなど)

ポイントは、「量的-質的」という軸を使わないことでした。この軸が、リサーチ手法を分類する基本中の基本なのはわかるのですが、Survey や Interview 以外のデータ収集方法がいろいろと実用化されるにつれ、この軸以外の整理軸が必要だとぼんやりと考えるようになりました。そして、いま時点での結果が、このMAPです。
ポジションニングのために単純化しているので、もちろん、いろいろと疑問や反論は出てくると思います。(たとえば、ホットリンクの内山さんは「ソーシャルリスニングは、検証にも使える」とおっしゃると思いますし、ベテランのモデレータさんは「グルインを構成的に使うことはあり得ない」、データ解析系の方は「アクセスlogデータは、検証的にも使う」、などなど)
が、いくつかの問題点には目を瞑り、いまのところのまとめとして、ご紹介しておきたいと思います。

そして、このMAPを通じて伝えたいと思ったことは、先に紹介した記事でも、みなさんがほぼ同様に書いていたことと一緒です。それは、

  • リサーチの目的(チャートでの吹きだし)に沿った、データ収集の手法を選ぼう
  • リサーチ手法はひとつだけでなく、目的にあわせて組み合わせよう
  • そして、よりよい仮説づくりと検証から、よりビジネスに活かせるリサーチをめざそう

ということです。

一昔前の Survey と Interview を理解していればいい、という時代ではもうないのかもしれません。だからといって、これらの手法が古くて、新しい手法に切り替えなければならない、という訳でもありません。
それぞれの手法のメリット・デメリットを理解し、合目的的に、そして効果的にリサーチをデザインすることも、これからのリサーチャーにとってはより重要な役割であり、それがビジネスに有効なアウトプットに結びつくのだと思います。

※寺子屋FBページも、ぜひフォローしてください( こちら です)。
リサーチやマーケティングに関連すると思われる情報を、都度、紹介しています。
今回のエントリーについての、ご意見・ご感想や異論・反論もぜひ。

 

ソーシャルメディアとリサーチ

「ソーシャルメディア」というワードが、かなり一般化してきました。
このblogのメモ版であるFaceBookページで取り上げる題材も、ソーシャルメディアに関するものが多くなってしまいます。(寺子屋FBページは、こちら です)
そこで、ここで一旦とりまとめをしながら、リサーチとの関連を考えておきたいと思います。
(※「ソーシャルメディア」という言葉の定義はあいまいで、人によって異なるようです。ここでは、「個人が発信することのできるメディア」すべてを含む広い意味で話を進めます。具体的には、mixiやtwitter、FaceBook、Googl+などに限定せず、ブログ、2chなどの掲示板、はてブなどのソーシャルブックマーク、YouTubeなどの投稿サイト、価格.comなどのリコメンドサイトなども含みます)

 

◆「ソーシャルメディア」は花盛り?

グラフは、google Insight での「ソーシャルメディア」検索の推移です。
2011年の1月にブレイクし、以降コンスタントに検索されていることが見てとれます。
(3月の底は震災、5月の底はGWです)

Ws000000002

また今年3月くらいから、雑誌でのソーシャルメディアに関する特集が続きました。
(主なものとしては以下)

まずは、HBR「ソーシャルメディア戦略」

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 04月号 [雑誌] Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 04月号 [雑誌]
価格:¥ 2,000(税込)
発売日:2011-03-10

 

宣伝会議「ソーシャルリスニングとは何か?~傾聴から始まる企業戦略」

宣伝会議 2011年 7/15号 [雑誌] 宣伝会議 2011年 7/15号 [雑誌]
価格:¥ 700(税込)
発売日:2011-07-15

 

Think! 「ソーシャルメディアインパクト」

Think! No.38 ―ソーシャルメディアインパクト Think! No.38 ―ソーシャルメディアインパクト
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2011-07-15

 

IT批評「ソーシャルメディアの銀河系」

IT批評 Vol.2
価格:¥ 1,000(税込)
発売日:2011-05-20

発行日をご覧いただくとわかるように、まさに“今が旬”、です。
ネット上での評論や事例紹介を追いかけると、それこそ数知れず、です。

本屋さんにいくと、ソーシャルメディア関連本のコーナーがあります。
Amazonで「ソーシャルメディア」で検索すると、471件がヒットします。さらに、過去90日以内発行に絞っても87件です(2011/8/25現在)、まさに旬です。

この中で、個人的にお勧めなのは、こちら ↓ の本。

ソーシャルメディア進化論 ソーシャルメディア進化論
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2011-07-29

ビジネス書らしからぬ筆致ですが、これも筆者が長年にわたりソーシャルメディアと向き合ってきた経験をベースに書かれているからだと思うと納得がいきます。
ソーシャルメディアの背景であるインターネットの歴史を遡りながらその本質を確認し、その上でいまのソーシャルメディアの地図を提示しています。そして事例とそこからもたらされる価値について整理する、という構成になっています。
全体に、単にビジネスの視点だけでなく、もっと大きな枠から整理されている点、そしていまの状況だけでなく、これまでの流れ(ここにいたる苦労?)もふまえて説明されている点に好感がもてます。
(この本のエッセンスは、こちら ↓ の連載でも理解できます)

「ソーシャルメディア進化論」(ダイヤモンド社 書籍オンライン)

 

また、こちら↓の本も、ソーシャルメディアを広く捉える上(社会学的な視点でといった方がいいでしょうか)では勉強になった本です。
(2010年12月に書かれているので、FaceBookのことなど今では「ん?」と思う点も多少あります。けど、個別事象ではなく、広く捉えることが目的なのでOKでしょう)

日本的ソーシャルメディアの未来 (PCポケットカルチャー) 日本的ソーシャルメディアの未来 (PCポケットカルチャー)
価格:¥ 1,554(税込)
発売日:2011-02-04

さらに、最新(平成23年版)の『情報通信白書』でも、ソーシャルメディアが取り上げられているではありませんか。
今年のテーマは「共生型ネット社会の実現に向けて」。とくに、ここ ↓ からソーシャルメディアの可能性と課題について、リサーチを元に検証しています。いまのソーシャルメディアの状況を捉えておくには、いい資料になっていると思います。(ただし、インターネット調査である点に注意)

平成23年版 情報通信白書 第2部第3章2節-3
「ソーシャルメディアの可能性と課題」 (総務省)

このようにソーシャルメディアは、もう「知らない」では済まない状況になってきている、といえそうです。(とくに、マーケティングやリサーチに関わる人なら)

ただし、「ソーシャルメディアがビジネスやマーケティングにどう“使える”のか」ということを追いかけるよりも、「ソーシャルメディアが社会や個人にどのような影響を与え、人々の生活や行動がどう変化するのか」ということを理解することが大切なのでは?、と感じています。その上で、ビジネスやマーケティングにどう使うのか、ということを自身で考えるべきでしょう。
これまでの「メディア」に接するのと同じ考え方でソーシャルメディアを捉えると、あるいは既に行われている事例の形をまねするだけでは、きっと成果は望めないでしょう。
(成果が望めないどころか、マイナスの影響を受けるリスクも高いと思います)

◆リサーチへの影響は?

リサーチへの影響としては、2つの点であらわれていると言えそうです。
ひとつは「ソーシャルリスニング・プラットホーム」、もうひとつは「MROC」です。

 

ソーシャルリスニング・プラットホーム

このような言い方をする以前から、blog分析の形で、ソーシャルメディア上の発言を解析するサービスはありました。
それがいまでは、「ソーシャルリスニング・プラットホーム」として多くのプレイヤーから提供されるようになっています。(さらに発信機能とあわせて「ソーシャルメディア・プラットホーム」と言ったほうがいいものも)
こちら ↓ のページで一覧になっていましたので、ご紹介しておきます。

広告会議、クチコミ分析アーカイブ

なぜ、これだけ多くのサービスがリリースされるのでしょう。

リサーチの方法を考えるときに、構成的-半構成的-非構成的という視点があります。
構成的なデータは、しっかりと設計された上でデータを集めるので、こちらの知りたいことの答えを確実に集めることはできますが、聞かなかったことについてはまったく知ることができません。
一方で、非構成的なデータは、どんなデータが得られるのかまったくわからないので、もしかしたら期待したデータが得られないかもしれない、他の人も言わなかっただけで同じことを考えているかもしれないなどの制約はありますが、こちらが気づかなかった発見を得ることができる可能性は高まります。
これまでは、非構成的なデータを得るためには、まわりの人に話を聞くとか、観察をしてみるなどしか方法がなかったので、広く大量にデータを集めることが難しかったといえます。

しかし今は、「いままで気づかなかった発見」を、どれだけできるかが重要になっているといえそうです。「インサイト」という言葉がよく使われるのも、「エスノグラフィ」という手法が関心を集めるのも、このような背景があるからでしょう。
さらに、幸いなことには、ネット上にはソーシャルメディアを通じて、たくさんの非構成的なデータが溢れているわけです。
となると、非構成的なデータをどれだけ集めることができるか、そこからどれだけの知見が得られるかが求められているといえるでしょう。その結果として、ソーシャルリスニングのプラットホームが次々とリリースされていると考えると納得がいきます。

さらに、積極的な企業は自社で、ソーシャルリスニングの仕組みを作っています。
代表的な事例として、DELLを紹介しておきます。(写真が、なかなか興味深いです)

米デル社はなぜ、「ソーシャルメディア・リスニング・コマンドセンター」を設立したのか?(アドタイ、2011/7/19)

MROC

そして、もうひとつの展開がMROC。
実をいうと、このblogの検索ワードの上位に「MROC」があがってきます。ちょうど1年くらい前に、こちら ↓ の記事を書いたのですが、この記事がかなりのPVを獲得しています。

MROCを考える(2010/8/28)

このときはまだ、概要と疑問点を伝えただけの内容ですし、日本ではMROCの影も形もありませんでした。
しかし、いまではMROCをサービスメニューとしている会社があるという状況です。それも、上記のソーシャルリスニング・プラットホームとは異なり、リサーチ会社が主体となっているのも特徴的です。
代表的なものでも、これだけ ↓ あります。この1年で、まさに様変わりです。

メーカーの商品開発を支援するリサーチ専用コミュニティ、「Marketing Research Online Community」―MROCサービス開始のご案内(ドゥハウス)

MROC(エムロック):Marketing Research Online Community (クロスマーケティング)

楽天リサーチ ソーシャル・ネットワーキング・サービスを活用したインターネット調査手法「MROC」の取り扱いを開始 (楽天リサーチ)

MROC (エイベック研究所)

MROCフルサービス (index-i)

さらに、8/16の日経産業新聞によると、インテージとマクロミルも近々サービスインの予定と報じられています。(日経のサイトは会員限定です)

調査にSNSの声~インテージなどネット調査大手、相次ぎ導入
(日経新聞電子版:2011/8/21)

なぜ、複数のリサーチ会社がMROCに続々と参入しているのか?
ここには、やはりソーシャルメディアが影響していると思います。(単に、次の手を打っておきたい、乗り遅れないようにしたい、という会社もあるのかもしれませんが)

統計調査では、回答は互いに影響を受けない=独立であるという前提があります。
しかし、ソーシャルメディアで他人の意見や考え方に接する状況を考えると、「影響を受けない回答を得る」という考え方が、ほんとに正しいのだろうかという疑問を感じます。むしろ、積極的に他者の意見にふれながら回答を考えてもらった方が、実際の意思決定に近い状況になると考えた方が妥当ではないでしょうか? とくに開発系の、これからのマーケットを探索するようなテーマの場合は。(もちろん、実態調査のように他人の意見に影響されない方が正しい回答が得られるテーマもあります)

これまで、グループダイナミクスを前提にした調査はグループインタビューが代表的でしたし、今でも有用であることは間違いありません。しかし、時間をかけて、お互いのことがよくわかった相手と意見を交わしながら、考えをまとめていくという過程は、MROCの方が優れているといえそうです。
最初に紹介した1年前のエントリーで、MROCへの疑問点として掲示板グルインとの違いを上げています。しかし、これは大きな勘違いだったと、いまでは思います。
掲示板グルインは、まさにグルインの形をネットに置き換えただけ(しかも、リアルなグルインを劣悪にした感じで)でしたが、MROCは参加者相互のつながり、お互いの関係性を深めた上での意見交換が、肝なのだと思います。モデレータと参加者の対話ももちろん大切ですけど、参加者間で交わされる自然な会話が、より重要なのです。
(補記:リアルのグルインでも、よいモデレータさんは、対象者の関係性を深め、対象者間の会話が起こるように工夫されています)
ですから、単に対象者を集めて短期間で実施する、つまりお互いの関係性を十分に深めずに行うMROCは、本質的には以前の掲示板グルインと同じだといえると思います。(以前の単純な掲示板とは異なり、技術面で大きな進化を遂げていますので、「同じだ」というのには語弊がありますが、ここはあえて)
前のエントリーから1年を経て、MROCは、この点の理解がとても大切だと思うようになりました。

蛇足になりますが、調査員さんによる面接調査~郵送調査~電話調査~インターネット調査という流れの中でMROCを位置づける言説も見受けますが、これも見当違いといえると思います。たしかに、リサーチのメディア(媒体)の主体は大きく変遷していますが、「オンラインコミュニティ」は、メディアではないでしょう。
さらに、「SNSというツールを使った」という表現も見受けますが、これもやはり本質ではないと思います。
繰り返しになりますが、MROCの肝は「対象商品・サービスへの関心を通じた、参加者間の関係性」にあるのだと思います。

MROCについては、MROCジャパンの岸川さんが数回にわたってblog「みんなのMR.COM」に書いていますので、ぜひこちらもご覧ください。

次世代マーケティング・リサーチ・プラットフォームとしてのMROC(2011/4/4)

日本版MROCの離陸: MROCに対する理解不足と誤解(2011/4/18)

MROCに対する理解不足と誤解 その2(2011/5/23)

これらの他にもMROC情報は盛りだくさんですので、時間のあるときにでもどうぞ。

今回は、ソーシャルメディアについてのさまざまな情報の紹介と、ソーシャルメディアによってもたらされるリサーチへの影響について、まとめてみました。
「ソーシャルメディアとは何ぞや、というまとめがない」というご不満もあるかと思います。
しかし、ここは敢えて書きません。
ご紹介した雑誌や本、またWEB上でのさまざまな言論を読みながら、ぜひ、皆さん自身で考えていただければと思います。
ただ、ひとつお伝えしたいこと、それは途中でも書きましたが、「ソーシャルメディアがビジネスやマーケティングにどう“使える”のか」ということを追いかけるよりも、「ソーシャルメディアが社会や個人にどのような影響を与え、人々の生活や行動がどう変化するのか」ということを理解することが大切なのでは?、ということです。
その上で、自身のビジネスや業務に、どう影響してくるのかを考える姿勢が大切だと思っています。

<※ 関連エントリー: リサーチ手法のポジション 

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リサーチとプロモーション

某リサーチ会社(JMRA加盟社)からリリースされたWEBプロモーションサービスについて、twitter 上で交わされた話題が、目に留まりました。
このままスルーしてしまおうかと思ってもいたのですが、そこで交わされた意見や感想に違和感があったので、このサービスの論点について少し整理をし、私見を書きたいと思いました。
結論から言うと、個人的には今回のケースは「なし」だと思っています。

◆サービスの内容は

このサービスは、

  1. 提携するネットワークへの登録者を対象に
  2. アンケートを活用して、商品やサービスの理解を促進し
  3. 共感している人をクライアントのランディングページに誘導しアクションへ繋げる

というもののようです。さまざまな議論が耳に入ったのか、当該社は追加リリースにて、

  1. 対象者は、リサーチパネルとは異なるネットワークを構築していること
  2. リサーチとは異なる担当者、組織で運営すること
  3. 上記2点において、JMRAには確認済みであること

を説明しています。

◆いくつかの論点と私見

そもそもは、「JMRAのリサーチ綱領に抵触するのではないか」という点です。
とくに、下記の第1条d項への抵触です。

マーケティング・リサーチは、個々の調査対象者に向けられた一切の商業的活動(例えば広告、セールス・プロモーション、ダイレクト・マーケティング、ダイレクト販売など)を含む、リサーチ以外の諸活動と明確に区別され、かつ分離されなければならない。

(JMRA綱領については、こちら のページに詳しいです)

そして、いくつかあげられてた論点として、以下のものがあります。

  1. リサーチパネルと区別しているのだろうか?
  2. リサーチ会社がプロモーションをしていいの?
  3. こんなサービスは、前からあるよね?
  4. サービスとして打ち出していなくても、実態としてあるよね?
  5. JMRA自体(and / or リサーチ業界?)が時代に後れているよね?

これらは、今回のサービスについての議論においては、少し的を外れた意見のように個人的に感じました。
とりあえず、それぞれの論点についての私見を、以下に整理します。

まず「1:対象の問題」。
これは、的外れとは言えないかもしれませんし、追加リリースでこの点は配慮していることを明らかにしています。
なぜ、リサーチパネルをプロモーションに利用してはいけないのかについての議論もありますが、今回はこの点はクリアしているようなので、OKとします。

「2:リサーチ会社がプロモーションサービスを行うこと」について。
これは、議論のわかれる点だと思うのですが、個人的には「してもいい」と思っています。
むしろ、リサーチの結果からクライアントの課題解決にむけて、プロモーション施策を構築したり実施したりできるのであれば、積極的に行うべきだと思っています。
私も、販売店向けのイベント内容を考えたり、情報誌やカタログのコンテンツとして、リサーチの結果を活用したことがありますので。(あたりまえのことですよね)
人的プロモーション(たとえば、販売店サポートをするヘルパーさんなど)サービスを行う一環として、販売店の声やお客様の声を集めるというのも、もちろんありです。
また、試供品のサンプリングの際に、ただ配布するだけでなく、試供品を使った人の声を集めるシステムをつくることなども、ほんとうは必要なのではと思っています。
なので、この点もOKです。

「3:すでにサービスとしてあるのでは」について。
たしかに、ありますね。しかし、「すでにある」ことが、「OK」の根拠にはなりません。
そして個人的には、これらのサービスは「なし」と考えています。
さらに、JMRAの会員社だろうが、なかろうが関係なく「なし」です。
この点については、あとで説明します。

「4:サービスとして打ち出していなくても、実態としてある」について
商品・サービスの評価をネットリサーチで行う場合、クライアントのページに回答者を誘導して、その商品・サービスの詳細をサイト上で読んでもらってから、設問に回答してもらう、というパターンがあります。この過程は、今回のサービスに、とてもよく似ています。
少し目端の利いた人であれば、これは一種のプロモーションではないかと気づくと思いますし、今回のサービスは、この過程を実際にプロモーションサービスとしてメニュー化したものでしょう。
ネットリサーチが普及し始めた頃、「商品の認知経路の選択肢に、『調査で知った』って必要だよね」と話していたことがあります。回答者がリサーチを通じて商品を認知することがあるということを感じていたからこその、(かなりブラックな)ジョークです。
リサーチを通じて商品に興味を持つというのは、グルインなどでもあります。座談会が終わったあとに、「この商品、いつごろ発売になるんですか?」などと聞かれることもあります。
しかし、「結果として知る、興味を持つ」ことと、「意図を持って、知らしめる、興味を持たせる」ことは異なるのではないかと思っています。
アンケートによって結果的にプロモーション的な作用が起こったとしても、それを意図的に行うのは個人的にはNGです。(これも、あとで説明する理由によります)

「5:JMRAが時代に後れている」について
たしかに、リサーチ業界やJMRAが時代に後れているということは、あると思います。
狭義でのリサーチというドグマにこだわって、クライアントへの意味のあるサービスが提供できていないと感じる気持ちもわかります(とくにtwitter で積極的に意見交換をする方たちなので、その思いは強いのだと思います)
以前の話になりますが、ミステリーショッパーはJMRAの綱領に抵触すると言われました。綱領では、対象者に身元と目的を明かさないといけないからです(第4条)。しかし、調査をすることを明かして、ミステリショッパーは成立しません。このとき、私にとってミステリーショッパーは重要なリサーチツールだったので、「時代にそぐわないよな」と不満を感じたことを覚えています。(いまは、どう解釈しているのかな?)
しかし、今回のケースは、JMRAやリサーチ業界の時代認識とは異なる次元の話だと思っています。これも、つぎの説明ゆえにです。

◆なぜ、今回のケースを「なし」だと思うのか?
ずいぶんと前置きが長く、へたなプレゼンの典型のような文章になってしまいました。
もう少しお付き合いください。

今回のケースは、「アンケートの目的外使用」であり「プロモーションツールとして使う」というものです。
お客様や生活者の声を聞くのではなく、アンケートに回答するという行為を通じてサイトを強制的に読ませ、誘導するということです。
厳しい言い方をすると、「アンケートの悪用」ではないかと思っています。
アンケートの結果でプロモーションを設計するとか、アンケートの結果データをプロモーションに引用する(これも、厳しくみるとリサーチ綱領的にはNGになるかもしれませんが、限定つきで個人的には「あり」と思っています)、あるいはプロモーションの一環として声を聞く、というのとは異なります。

今回のケースを、ネット上ではなくリアルの場面で考えてみます。

「ねえ、ちょっと時間ある?、アンケートなんだけど、協力してくれない?」
「このパンフレット見ながら、答えてね」
「あれ?、この商品に興味ありそうだね?
 もっと詳しく説明したいから、ちょっとこっちで話しない?」

私の第一印象は、これでした。そう、キャッチセールス。昔よく見た光景ですよね?
そして、いま路上でこれをやると、東京都では迷惑条例違反になるはずです。

リサーチ綱領は、こういったキャッチセールスを排除するために、第1条を設定したと聞いています。(他にも、アンケートを利用してセールス対象者の名簿を集めるということも行われており、これなども排除対象になっていると聞いています)
つまり、心あるリサーチャーなら、リサーチに対する社会の誤解を招かないように、リサーチと商業的活動を分離しろと言っているのです。そうでないと、リサーチ本来の活動自体も、悪とみなされてしまうので。

会場調査の実査をされたことがある方ならわかると思いますが、いま路上での対象者リクルートはとても厳しくなっています。まさに、キャッチセールスと同等だと捉えられているからです。いくら綱領で規定していても、現実は、アンケートを商業活動に使う人が多いのか、リサーチ環境は悪化しています。まさに、「悪貨は良貨を駆逐する」です。

ネットリサーチしかやったことのない人は知らないかもしれませんが、訪問調査や郵送調査などでは、調査対象者への依頼状に「この調査で、セールスや勧誘を行うことは一切ありません」と明記したものです(おっと、過去形ではないですね・・・)。
これなんかも、「アンケートに答えたら、商品を買わされた、しつこく勧誘された」という苦情があった結果だと推察します。

つまり、リアルであったように、ネットでもアンケートへの誤解が広がる=リサーチの実施環境に影響を与えるのでは、ということを危惧しています。
まさに、どなたかが書いていた「自分で自分の首を絞める行為」だと思います。
なので、このようなアンケートを使ったプロモーションは、個人的には「なし」という立場です。

最後に・・・
以上は、「リサーチ」という視点にたった意見です。
しかし、本音をいうと、プロモーションと感じさせすにプロモーションを行うということ自体が、どうなんだろうというのが率直な感想で、まずこの点で「なし」だなと思いました。
(ステルスマーケティングの一種では?、という感じ。ステルスマーケティングについては、こちらなどを参照 → 「IT Pro:ステルスマーケティングとは」 「Wikipedia:「ステルスマーケティング」

※サイト上のリリースやサービス説明を見て、書いた内容ですので、もしかしたらこちら側に誤認があるかもしれません。その点は、留意してください。
『アンケートパネルを利用していない』ことと同時に、対象者に対して『これは、アンケートではなく、当社の商品を知っていただくためのものです』という旨を明記し、回答者もこのことを了解の上で実施するのであれば、グレーではありますが、ぎりぎり「あり」かもしれません。
ただ、このような話は、あっという間に広がるのがソーシャルメディアの時代なので、「アンケートと思ったら、勧誘ページに行かされた」みたいな話が広がるのは、よろしくないなと思っています。。。

Face Book ページはじめました

ほぼ3ヶ月も経っての更新なのに、お知らせですみません。。。

ひっそりとFace Book ページを始めています。
こちらのblog が本編ではありますが、備忘録的に気になったことをエントリーしています。

「マーケティングリサーチの寺子屋」Face Book ページ

Face Book のアカウントをお持ちの方は、「いいね!」ボタンをクリックした上で、ご覧いただけるとうれしいです。
(すでに、100名を越える方に「いいね!」していただいています。この場を借りて、お礼申し上げます。ありがとうございます)

もちろん「いいね!」なしでも、アカウントをお持ちでなくても、見ることはできるはずですので、気が向いたらチェックしてみてください。

blog、twitter 、Face Book。
正直なところ、これらをどのように位置づければいいのか、迷っていました。
そんなときに読んだ『フェイスブックインパクト』での池田紀行氏のフレーズに、なるほどと。

フェイスブックインパクト つながりが変える企業戦略 フェイスブックインパクト つながりが変える企業戦略
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2011-04-15

使い方にもよるが、ブログは一人が話して皆が聞く「講演」、フェイスブックは参加者がみんなで交流する講演後の「パーティー」、ツイッターはさらにカジュアルな「飲み会」と表現できるかもしれない。(『フェイスブックインパクト』p45-46)

確かに、このブログを書くハードルは自分の中では、それなりに高いです。たかが個人のブログではありますが、ネット上で公開されるからには、それなりの質を保ちたいと思っていたので(とはいえ、私の中での基準なので、一般的にどうかという問題はありますが)。
また、備忘録的なエントリーはtwitter などのソーシャルメディアによって、どなたかがピックアップしてくれるようになったので、あえてこのブログで書かなくてもよくなりました。(このブログをはじめた5年前くらいは、マーケティングリサーチの情報発信なんて、ほとんどなかったので、このブログにも意味があったのですけど・・・)

一時期、twitter で備忘録を行なおうとはじめたのですが、twitter はこのような使い方は馴染まないということに気づきました。池田さんが指摘するように、もっとカジュアルに、「飲み会」的に、自分の気持ちを率直につぶやくのが馴染む媒体ですので。

で、Face Book です。
いまだに使い方がよくわからない面もありますが、文字数の制限がない点(あるかもしれませんが十分です)、リンク先のイメージが表示される点、「いいね」ボタンでエントリーに気楽に反応できたりコメントが残せる点、ある程度「顔がわかる」点(これは皆さんにとってはメリットにならないかもしれませんが・・・)、などがblogやtwitterにないメリットでしょうか。たしかに、エントリーに対しての反応をいただける「講演会後のパーティ」的な感じが得られます。
ですので、できれば「いいね」ボタンや、コメント、シェアを活用していただければと思う次第です。

とはいえ、Face Book で、そんなに長いエントリーはしません。あくまでも、備忘録的な位置づけですので、気楽にのぞいてください。
また、こちらのblog を更新したときも、Face Book でお知らせしますので、そのときはぜひコメントなどをいれていただけるとうれしいです。

(なんていいながら、このblog のエントリーはいつになるでしょうか?・・・
少なくとも、一月に一回はエントリーしようと思っていますけど^^;)

『1からのマーケティング分析』

1からのマーケティング分析
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2011-03

今回は、最初にもくじを出しましょうか。。。

第1章 マーケティング分析の楽しさ
第2章 マーケティング分析の手順
第3章 仮説検証
第4章 サンプリング
第5章 グラフ
第6章 平均と標準偏差
第7章 相関分析
第8章 χ2(カイ二乗)検定
第9章 t 検定
第10章 分散分析
第11章 回帰分析
第12章 因子分析
第13章 コンジョイント分析
第14章 共分散構造分析
第15章 質問票の作成

「次世代のマーケティングリサーチ」だと言っていたのに・・・
「代表性のドグマに囚われるな」(こちら ↓ を参照)と言われているのに・・・

Will Social Media Replace Surveys as a Research Tool?
(Advertsing Age:2011.3.21)

という声も聞こえてきそうですですが、あえて。

本書は、これからどうなの?と言われている「サーベイ」のど真ん中の知識、統計分析について書かれた本です。サンプリングとか、平均とか、検定とかですから。

しかし、リサーチの基本を学ぶには、どうしても分析の基本を外すことはできない。いくら、次世代のマーケティングリサーチだと言われても。
萩原さんにしても、上記の英文リリースの主体であるP&Gにしても、リサーチの基本をしっかりとやってきたからこそ、いまのリサーチの問題が見えているのですし、本質を捉えることができていると思うのです。
このリサーチのベースを知らずして、またおろそかにして、次世代に突っ走っても、それは土台のない家を建てるようなものだと思っています。

それに、なんだかんだ言っても(残念ながら?)、まだ「数字で説明をする」文化が主流であるのも事実で、数字で論理的に周りを説得する技術は、欠かせないものでもありますし。

また、たとえば次世代のひとつであるバズリサーチにしても、結局統計的な分析は行なうことがあるわけですし。

ただし。
すべての人が、統計分析のエキスパートになる必要はないとも思っています。
少なくても、その考え方については、理解しておくべきだというスタンスです。

本書の内容は、まさに「入門書」です。
「マーケティング分析をはじめて学ぶ学生に向けられたテキストであり、執筆陣が学生時代に「こんなテキストがあったらよかった」という視点でまとめられている」(本書p.2)という内容です。(章立ても15章=年間講義数ですし・・・)

また、これまでの統計サイドからの入門書とは、少し毛色が異なるのが本書の特徴です。序章では、つぎのように述べられています。

マーケティング研究や消費者行動研究に関心を有する者が、調査方法や統計手法について学ぼうとしたならば、どうしてもこれまでは統計書に頼らざるを得なかった。ところが統計書の場合、まさに統計値の解説や分析手法の解説に主眼が置かれていたため、そうした統計値や分析手法をどのようにマーケティング研究や消費者行動研究に応用すべきかについてはほとんど論じられていなかった。そのため、利用局面については、読者なりにイメージを膨らませながら、読み進めるしかなかった。しかし本書では、いずれの章もマーケティング研究者や消費者行動研究者によって執筆されており、統計分析手法の「開発者側」ではなく統計分析手法の「利用者側」の視点が貫かれている。(p.4)

ほんとに入門書ですので、すでに統計についてある程度の理解のある方には、もの足りない内容だと思いますので、この点は注意を。
これまで、まったく統計分析の勉強をしてこなかった、統計分析に挑戦しながらなかなか理解できなかった、という方にはお勧めの本だと思います。

そして、本書を読んで、さらに統計分析について理解をしたいと思った方は、ぜひ、各章末にある「次に呼んで欲しい本」に挑戦を。ここにあげられている本が、私にとっても良書であったことも、本書をここで紹介しておこうと思ったひとつの要因です。

『次世代マーケティングリサーチ』の著者である萩原さんも、つぎのようにtweet してます。

“次世代の前に基本も” (2011.3.30)

『次世代マーケティングリサーチ』

次世代マーケティングリサーチ 次世代マーケティングリサーチ
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2011-03-03

前回、予告編で紹介していた萩原さんの単著、発売されました。

Amazonランキングでは今日(3/4)現在、「マーケティング・セールス(一般)」で2位、「経営学・キャリア・MBA」で17位のポジション。また、大きな書店では平積みされてる様子が報告されていますし(私は池袋リブロで確認)、売れ行き好調のようです。
しかし、「マーケティングリサーチ」とタイトルにある本がこんなに話題になるとは・・・(もちろん、萩原さんの力でもあり、ソーシャルメディアやネットワークテクノロジーについて言及しているからだと思いますが)
twitter でもありましたが、こうなると確かに、クライアントから「読みました?」と言われる、言われずとも読んだことを前提に話をされる可能性も大ですね。

 

そして、売れているとか、そういうことに関わらず、マーケティングリサーチやマーケティングに携わる方は、いま、読んでおくべき本だと思います。

著者は「はじめに」で、「この本で紹介する手法の多くは、今のところ辺境に位置しています」としています。たしかに、いまだにマーケティングリサーチの多くはアンケートであり、インタビューです。しかし、つぎのメッセージについて、考えてみないといけないと思います。

ただ本当に大切なのは、ソーシャルメディアの普及とネットワークテクノロジーの進歩によって、生活者・消費者の行動そのものが変化していることであり、それによって企業が直面する新しい課題に対応していくことです。
マーケティングリサーチは伝統芸能のようなところがあり、基本的な哲学や必要なスキルは変わらないものと思われていました。しかし、現代のあらゆるビジネスは、知識、技術、ノウハウが次々に上書きされる宿命にあります。経験を活かしながらも、新しい時代に求められることを常に学び、イノベーションを共有していくことが求められます。
(「はじめに」p.3)

このような思いで書かれている本書の詳細な目次については、著者自身がFacebookにて紹介していますので、そちらを参照してください。

次世代マーケティングリサーチ:目次 (Facebookページ)

 

ここでは、章扉の紹介文を引用します。

Introduction 消費者が変わればリサーチも変わる
マーケティングリサーチとは何か。
今なぜ「次世代」について語らなければならないのか?
マーケティングリサーチをめぐる論点を整理する

Chapter1 なぜ新しい消費者理解の技術が必要なのか
戦争から恋愛へ。
消費者の心の中のシェアを争うとはどういうことなのか。
従来の調査ではつかめない、新しいデータ利用の発想を学ぶ。

Chapter2 パートナーとしての消費者
消費者はリサーチの「回答者」か、それとも「参加者」か。
消費者の中に飛び込み、消費者と会話するためのさまざまなノウハウを知る。

Chapter3 消費者の言葉に耳をすます
「消費者の声を聞くこと」は「市場調査」にとってどんなメリットがあるのか。
検索やクチコミ、そしてTwitterを使った「傾聴」の方法を考える

Chapter4 新しいデバイスとテクノロジーの活用
日々進化するテクノロジーがリサーチを変える。
センサリング技術や映像技術がもたらすインテリジェンスとはどのような
ものか。最先端の事例を探る。

Chapter5 マーケティングリサーチの伝統と革新
マーケティングリサーチのビジネスモデルが転換期を迎えつつあるい今、
伝統的手法と新しい手法をどう使い分けるべきか。
次世代のリサーチャーへの提言。

イントロダクションで論点整理をし、Chapter1でリサーチに求められる新たなスタンスが整理されています。Chapter2~Chapter4では、次世代マーケティングリサーチの様々な事例を紹介し、Chapter5でマーケティングリサーチへの提言がまとめられている、という構成です。

とくにリサーチャーの方には、イントロダクションとChapter1は、ぜひ読んでもらいたいです。
いま、マーケティングリサーチの周辺で何が起こっているのか、環境がどのように変化しているのか、その変化の中でリサーチャー(やマーケター)は、どのような発想やスタンスが求められているのか、が明確に整理されています。
日々の業務に追われていると、自分たちを取巻く環境の変化をなかなか感じることができないかもしれません。あるいは、まさに「辺境」の変化と感じてしまうかもしれません。
しかし、変化を自分事と感じたときは、往々にして「時、既に遅し」ということが少なくないものです。いまから、しっかりと認識をすることが大切だと思います。

いつもは、ここで本書の内容を少し紹介するのですが、とめどなく引用することになりそうなので、今回は止めておきます。
それだけ、私の感じていることが、本書には反映されているということでもあるのですが。

 

さて・・・
本書を読むと、「では、既存の調査会社(とくに伝統的といわれる調査会社)はどうすればいいのか?」ということを考えさせられます。

だが、本書でとりあげてきた次世代型のリサーチは、伝統的な調査会社ではなく、ネット企業や他業種で生まれてくるものがほとんである。マーケティングリサーチ業界が数十年続けてきたルールや習慣にこだわればこだわるほど、他業種が提供するマーケティングインテリジェンスに顧客が流れ、ビジネス機会が縮小する懸念があるのは事実だ。(「Chapter5」p.183)

という状況なので。
方法は、いくつかあると思います。

    1. 所詮これらは辺境なんだから、と何もしない。
      (わりと多いんですよね、これ・・・)

 

    1. 自前で、新たなシステムやサービスを構築する。
      (業界上位にある数社でないと、資金的に難しいかも・・・)

 

  1. すでにあるシステムを借りて、サービスを提供する。
    (ネット調査のシステムやパネルを持っていない調査会社が、ネットリサーチ会社に外注するのと同じ形ですね・・・)

たとえば、ネットリサーチがシェアを増すときに、既存のリサーチ会社が対応した方法は、主にこれらの3つだったように思います。

しかし、これから求められるのは、第4の道であるような気がします。
それは、「さまざまな会社が提供するリサーチサービスの特徴をしっかりと理解し、クライアントの求める課題にあわせて、適切なサービスを選ぶ、あるいは組み合わせて提案できる」ことではないかと思っています。言い換えれば、「リサーチのデザイン」となるでしょうか。
もちろん、手法の提案ばかりではなく、課題解決にむけて一緒に考えることが必要であることは、言うまでもありません。

以上から誤解される方もいるかもしれません。「新たな手法にばかり目を向ければいいのか」、「伝統的な手法は役に立たないのか」と。
もちろん、いまも多くのシェアを占めている伝統的な手法が(すぐに)無くなることはないでしょう。この点は、本書でも主張されていることです。
ただし、著者がいうように「リノベーション」は必要だと思います。

ですから、次世代の手法と伝統的な手法を、どのように活用すると、クライアントのニーズに応えることができるのか、ということを考える必要がある、それが求められているのではないかと思うのです。

 

思えば、”マーケティング”リサーチといいながら、調査会社自身はマーケティングができていたのでしょうか。
『欲しいのは”穴”であって、”ドリル”ではない』に沿って考えると、これまでツールとしての「サーベイ手法」の精度にこだわるばかりで(もちろん、これも大切なことです)、真にクライアントが求めていることを基点に、リサーチを考えてきただろうか、という思いがあります。
これまでは、「リサーチ業界」というコップの中で競争をしていればよかったかもしれませんが、本書で示されているように、これからはコップの外も見すえた競争もしないといけないでしょう。

そしてリサーチ会社だけでなく、個人としてのリサーチャーは、どこへ向かうべきか。
このことについても、もちろん考える必要がありそうです。
(少し、リサーチ会社に偏った内容になったかもしれませんね。しかし、事業会社に属されているリサーチャーも、「リサーチのデザイン」という視点は一緒だと思います)

本書は、とても良いヒントを与えてくれると思います。

(そういえば、本書Appendix でこのblogを紹介いただきました。ありがとうございます>萩原さん)