月別アーカイブ: 2012年10月

リサーチにおけるコンテクスト~2)生活者の背景理解

『市場調査クリニック』でのインタビュー再掲、3回目はリサーチにおけるコンテクストのふたつめ、生活者の背景や文脈を理解することの大切さについてです。
この点は、マーケティングや経営系の方たちの中では、少なくない方が、ほぼ同様の指摘をされています。おそらく、いまのマーケティングや経営、そしてリサーチを考える上で、とても大切なポイントだと思います。「リサーチ使えない論、不要論」は、この点の理解が十分になされていない結果だともいえそうです。
(初出:『市場調査クリニック』2012年8月 に加筆修正)

***********************************************************************************

時代の変化~消費者は欲しいモノを答えられない

なぜ生活者の背景や文脈そのものの理解が必要なのか、これはリサーチ不要論とも関連する話になります。最近のリサーチ不要論を解釈してみると、リサーチをしても消費者は欲しいモノを答えられない、そもそも自分のことをわかっていない、だから本当のことを答えない、答えられない、ということを言いたいのだと思います。

でも、よく考えれば、これは当たり前のことではないでしょうか。一昔前、まだまだモノが今のようにあふれていなくて、新しいモノを買うと生活が楽になる、たのしくなる、豊かになるというような時代であれば、こんなものが欲しい、こんな生活がしたいということも自覚できたでしょう。それに、モノ自体もまだまだ完全なものではなかったでしょうから、そこに様々な我慢や不満もあったでしょう。

ところが今の時代、基本的にモノはあふれているし、「使えない」と思うものも少ない。欲しいものはあるかと問われても、思いつくようなものは既にあるか、無いとしてもすぐには実現不可能なもの。そもそも、モノによって生活が充実するなんて考えていないし、大抵のものは揃っている。確かに良いものや新しいものも欲しいけど無くても困らない。このような状態で、消費者に欲しいものは何か、困っていることは何か、と聞いても答えられるはずがないと思います。そもそも、多くの人が欲しいと答えるものは、すでに誰かが製品化を目指しているでしょうし、そのような製品に差別性があるのでしょうか。消費者のニーズに応えることが企業の使命で、そのために消費者のニーズを聞くことがリサーチの役目、という考え方自体が、古典的というか、一面的な気がします。

一方で、時に生活を大きく変える商品が現れます。たとえば最近では、i-Phoneやi-Padがそうでしょう。このような商品が出ると、一部の人から「これが、私が欲しかったもの!」という熱狂的な声があがり、彼らが様々な使い方を紹介し、この商品を使った生活がどんなに便利で楽しいかを話してくれる。そうすると、「こんなもの必要なの?」と最初は思っていた人たちが、だんだんとその便利さに気づいてブレイクしていく。最近の革新的なモノは、こんな過程を経て普及するように思います。実物があったとしても、すぐにその便利さには気づかない。いわんやニーズの段階においてをや、ということです。

では、なぜアップルが革新的な商品を次々に生み出せるのか。それは、リサーチをしないからだ、などとも言われますが(笑)。実際は、ジョブズが「こんな生活」というものを描き、そのためにはこんな商品、スペック、ユーザービリティが必要とブレイクダウンし、形にしていったのでしょう。つまり、モノ自体を考えるのではなく、新しい生活や実現したいコトを想定し、そこに必要なモノを創造する。いま企業が求められているのは、こういうことなのではないでしょうか。

 

日常のシーンからの発想

しかし、ジョブズのように未来を描ける、そして成功するまで試行錯誤を繰り返し、周りをへとへとにしてでも最終的な形にできる人は、そうはいません。凡人は、人々の生活を見たり、話を聞いたり、調べたりして、そこから、こんなことに困っているかも、こんなコトができると便利かも、楽しいかもということを想像し、新しい商品やサービスのアイデアを発想するしかないでしょう。

もうだいぶ前の話になってしまいますが、R25というフリーペーパーの開発過程でのリサーチの話は興味深いものでした(こちらも参照)。
この雑誌はM1層(男性の20~35歳)をターゲットにしようとしていたので、彼らを理解するために何組もグループインタビューを行なったそうです。ふだん新聞を読んでいるのか、どんなふうに読んでいるのか、読まないとしたらなぜ読まないのか、新聞に何を期待しているのか。けれど、そこから出てくる答えは、ふだん言われている新聞を読まないM1層とはまったく異なり、新聞をよく読み、ワールドビジネスサテライトを熱心に視聴するという姿だったそうです。しかし、そこには真実がなかった。見事に、リサーチは使えない、という結果になったのですね。
そこで、新聞のことには触れずに、ふだんの生活の流れを丹念に聞いてみたそうです。朝はどうやって起きるのか、出かけるまでに何をしているのか、出勤途中の電車では、仕事中は、お昼は、仕事が終わったら、などなど寝るまでの生活を聞いてみる。すると、そこには見事に新聞という言葉が出てこない。そこで、やっと彼らの本音と生活の実態が確認できたそうです。新聞との接点はない、そもそも新聞を読むようなまとまった時間がない、けれど新聞は読むべきだとは思っているし、新聞で読むような情報は知らないとまずいと思っている。このような実態を把握できたことから、R25は作られたといいます。

ここからの教訓は、モノに焦点をあててリサーチをしてもだめで、生活そのものに焦点をあてて、彼らの背景や文脈を理解することの大切さです。視点は少し違いますが、同じ頃に、商品やサービスの開発ターゲットの背景や文脈を精緻に作りこんでいくというペルソナという手法も注目されていたと思います。また、エスノグラフィが注目されるようになったのも、この頃です。2007年前後になると思うのですが、その前に注目されていたデータベースマーケティングや従来のリサーチへの限界の認識からか、このような解釈的な手法が注目され、理解が進むことになったのでしょう。

 

これまでのリサーチの限界

私たちがふだん取り組んでいるリサーチを考えてみてください。そこで聞いているのは、商品の認知であり、使用状況であり、使用意向であり、購入理由であり、利用シーンであり、満足度であり、不満点であり、イメージであり・・・、といったテーマが多いのではないでしょうか。U&A(Usage&Attitude)調査に代表されるように、いかに商品視点でのリサーチが多いかがわかるでしょう。これらを否定するつもりは、もちろんありません。これらは施策の検証、確認としては欠かせないリサーチですし、このようなリサーチ結果から、今後の戦術の見直しや改善や改良のヒントが得られるのですから。このようなリサーチを積み重ねてきたからこそ、いま私達が手にすることができる多くの商品やサービスの品質が向上しているわけです。

しかし、市場が成熟してしまい、ブレイクスルーやイノベーションが求められる場面では、モノ視点での改良や改善だけでは難しいのではないかと思っています。そもそも、モノ視点でリサーチをするということは、多くの場合いまのユーザーを対象とすることになり、彼らは基本的にその商品やサービスを受け容れているから使っているわけで・・・、という矛盾を抱えている。そこから出てくるのは、やはり改良レベルの意見が多くなるでしょう。だからと言って、ノンユーザーに、なんで使わないのですか、どうしたら使いますかと聞いても、そもそも関心がないから使っていない場合も多く、答えようがない。大きなジレンマに陥ってしまいます。

こういう時こそ、やはり生活者の背景や文脈に立ち返る必要があると思います。たとえばノンユーザーは、どんな生活の中でどんなコトをしているのか、そのコトの中で商品やサービスを受け容れてもらうには何がポイントになるのか、などと考える。あるいは、ユーザーの中でも提供者=企業の想定していなかった使い方をしているかもしれない、と考える。これらは、まさに観察調査で言われているエクストリームユーザーの考え方なのですが。

そして、ここで注意しておきたいのは、生活者の背景や文脈を読むのは定性的な調査に限ったことではない、ということです。アンケートでも、データ分析でも、生活を見る、生活者を見るということを意識し、設計すれば、可能だと思います。リサーチの役割のひとつは、この生活者の背景や文脈を理解することだと思いますし、いまは、こちらの重要性が増しているとも思います。

 

文脈を理解するリサーチとは

では、どうすればいいか。まずは、商品視点から生活視点、コト視点へ意識を変えることだと思います。どんな生活を送っているのか、このようなTPOで使っているのはどんなモノなのか、という視点になるでしょうか。商品の利用シーンと同じように聞こえるかもしれませんが、根本的に違います。たとえば、「スポーツドリンクをどのようなときに飲んでいますか」という問には、回答を限定させてしまう罠があります。“スポーツ”ドリンクというワードからの誘導です。しかし、スポーツの時は、風呂あがりは、風邪の時は、仕事中は、などとシーン毎に飲んでいるものを聞くと、しかも選択肢にスポーツドリンク以外のものも並ぶわけですから、コトからの発想で、広い視点でドリンクというものを考えることができます。おそらく、スポーツドリンクというモノからの発想よりは、広い発想ができるでしょう。

人についても、最初からスポーツドリンクだからジョギングしている人というような枠を設けずに、できるだけ広い範囲の人に網を投げて、コト視点で様々な生活を聞く。ここから、可能性のある、これまでの括りとは異なるシーンやコトが見つかったら、ここで初めて人を絞り込んでいく。おもしろそうな、市場の可能性のあるコトに反応するのは、どのような人なのか。そして、その人の生活や文脈を再び精緻化していく。このような過程が基本になると思います。ただ、このようなリサーチはとても手間がかかるので、テーマ設定とリサーチ設計はしっかりと検討しないといけないと思いますが。

また、最近話題のMROCにも注目しています。生活の背景や文脈を探るには、よいツールだと思いますので。そもそも、会話が成り立つ、盛り上がるということは、文字通りコンテクスト=文脈が成立しているからなので、そこにどのような共通する生活の背景や文脈があるのかということを探ることがポイントになると思います。また、こちらから問いかけもできるので、それこそ生活史だとか、ふだんの生活の実態を写真で見せてもらうとかが、わりと気軽にできるのもメリットで、その中でのモノの位置づけがわかると、とても有益な情報になるのではないかと思っています。

ただ、MROCも含め、生活者の背景や文脈を理解するリサーチでは、従来のリサーチとは異なる方法論で対応する必要もあるのではないかと思っています。それは、クライアントの課題に沿って、データを集めて、結果をまとめて報告書にする、という形態では、ちょっと違うのではないかということです。結果が出たら報告します、ではなくて、クライアントとリサーチャーが一緒になって生活者を理解する、体感するという姿勢が、とても重要だと思います。たとえば、グルインで終了後のブリーフィングがとても重要なことに似ています。MROCはもちろん、定量調査でも結果のデータをどう読むのか、そこからどのようなインスピレーションが得られそうかということを、ワークショップ形式でクライアントとリサーチャーが一緒になって考える、ということが必要なのではと思います。確かに、リサーチャーはデータ分析や消費者心理や行動などの視点ではプロかもしれませんが、これまでのユーザーとここが違う、この生活場面がおもしろい、こんなコトを提案できるのではないか、この文脈なら自社のこのシーズを活用できるのでは、などの発想ができるのは、常に担当商品について考えている、技術動向なども詳細に把握している、クライアントの側に優位性があると思うからです。

従来の検証、確認メインのリサーチであれば、答えを出すべき課題がはっきりしているから、イエス/ノーや課題に対する答えを提示することができると思いますが、生活者の背景や文脈を探るという探索型のテーマの場合は、これまでの報告書納品というビジネスモデルとは異なるワークが必要になるのではないかと思っています。

 

生活者の背景や文脈を理解するということ

今日の話を少しまとめてみます。

  • 「リサーチは使えない」といわれるのは、いわゆる探索的、創造的課題の時が多い。それは、消費者に直接たずねても、答えが返ってくるようなテーマではないので。
  • このようなテーマでは、モノ視点でのリサーチから、コト視点でのリサーチが有効。これは、定性調査に限らず、定量調査でも必要なこと。
  • コト視点のリサーチとは、生活の流れや具体的なコトの理解であり、その生活やコトの背景や文脈について理解しようとする視点であり、姿勢である。
  • コト視点のリサーチの場合、リサーチと言われる機能はクライアントと一般生活者の媒介であって、そこから何かを生み出すには、その商品やサービスのプロであるクライアントと、データ分析のプロであり一般生活者代表であるリサーチャーのコラボレーションが大切。

ソーシャルリスニングやビッグデータの時代、クライアントからある課題の答えを求められ、リサーチを通じてデータを集め、答えを出し、それを報告するという形態は、今後ますますスピードとコストダウンを求められるようになると思います。ここでは、従来のリサーチ会社の優位性は脅かされていくことになるのではないでしょうか。つまり、検証メインで発達してきたリサーチのビジネスモデルは、厳しい状況にあるということです。

では、どこに活路を見出していくのか。成熟化した社会で企業が求められていることは、生活者の背景や文脈を理解し、その結果をベースに新しい生活やコトを創造し、そこに必要なモノを創りだしていくことだと思います。これこそが、いまクライアントが重視しているテーマではないかと思います。ただし、このテーマには正解はありません。そこでは、クライアントとリサーチャーがワークショップなどの場を通じ、コラボレーションすることで何かを生み出していくという新たな取組が必要になってきます。

これは、リサーチでは新たなビジネスモデルです。どのような手法を使うのか、ワーク全体をどのようにコントロールするのか、どうクライアントとコラボレートするのか、納品物をどうするのか、どのように費用を見積もるのか、などについて、あらためて考えていくことが必要になりそうです。

*********************************************************************************

今回の内容に関連して、考え方のベースとなった本を紹介した補遺を、すでにエントリーしています(こちら)ので、あわせてご覧ください。

さて、
いつまでも考え方ばかりを示していてもいけないですね。
次回からは、具体的なリサーチのフローにのっとって、考え方と具体的なポイントについて示していきたいと思います。
(できるだけ間を空けないように努力します。。。)

 

 

リサーチにおけるコンテクスト~1)データそのものの背景理解

『市場調査クリニック』でのインタビュー再掲、2回目はリサーチにおけるコンテクスト、とくにデータそのものの背景を理解することの大切さについてです。
これは、いわゆるアンケートなどの従来のリサーチデータに限らず、ビッグデータやソーシャルリスニングにおいても、考えなければならないテーマです。
(初出:『市場調査クリニック』2012年6月 に加筆修正)

*************************************************************************************

改めて回答者の背景を理解しなければいけない理由

前回、「リサーチの基本はコミュニケーション」という話の中で、「回答者の背景を理解しないといけない」ということを、コンテクストという言葉を使いながらお話ししました。けれど、この「回答者の背景理解」には2つの側面があることを、まずは理解しておいてほしいと思います。

ひとつは、純粋にリサーチに関わることで、「得られたデータの背景を理解しよう」ということです。統計調査の理論に則れば、第一段階として「母集団規定」を行うことが重要で、この母集団をリサーチ目的に沿って正しく設定し、正しい方法でデータを集めれば、母集団の写像としてのデータが集まるということになっています。しかし、調査環境が大きく変化したことで、この理論は破綻していると思います。過去に母集団フレームとしていた住民基本台帳などにアクセスすることが難しくなっている、プライバシーや防犯意識の高まりで回収率が落ちている、そしてそれぞれのリサーチ会社などが構築したパネルを調査対象としたネット調査にシフトしているということだけをとっても、破綻は明らかだと思います。なので、集めたデータが設定した母集団を反映したものだと決め付けること自体が危険で、集めたデータが、そもそもどのような人が回答したものだったのか、ということをあらためて確認することが求められると考えています。これが、ひとつめの「回答者の背景理解」です。

もう一つは、ブランド論や広告論で最近よく聞かれるようになったコンテクストです。生活の背景にある文脈そのものを理解し、その文脈に沿ってコミュニケーションをすることの重要性が言われています。インサイトという言葉にも通じると思うのですが、生活者そのものの理解であり、消費や生活の背景にある文脈や、社会的・文化的な背景、ネットワークなどを理解するという意味での「回答者の背景理解」です。

一般的に、消費者の“背景”と言った際に語られるのは後者の方ですが、今回はまず前者のリサーチにおける回答者の背景理解=「データそのものの背景理解」について話したいと思います。

リサーチとデータの背景

ちょっと昔話をします。ネットリサーチが普及し始めた頃の話です。たまたま、ネット調査と訪問面接調査で、同じ時期に、同じ調査をやることになりました。それは女性向けファッションブランドの認知度調査で、設定した母集団の属性・条件は当然一緒です。しかし、集めたデータを集計してみたら、ネット調査では訪問面接調査に比べ、10~20ポイント前後も高い認知率を示すブランドが現れました。

これは何故かと考えると、いくつかの仮説が考えられます。まだネット調査がそんなに普及していなかった頃なので、ネット調査の回答者は新しい事好きな、好奇心の高い人達が集まっているのではないか。それに、訪問面接調査に回答してくれる人は、夜の早い時間、もしくは土日に行けば会える人、つまり外出頻度が少ない人になる可能性が高い。一方でネット調査は、時間にとらわれずに回答できるので、夜遅く仕事から帰ってきてから、あるいは土日に遊びから帰ってからネットをしていたりする人たちに多いはずです。なので、調査方法によって得られる回答者の生活スタイル、ライフスタイルは違うだろう、もしかしたら訪問調査で集まるデータは、いわゆるフォロワー的な人たちを反映して、当時のネット調査の回答者はアーリーアダプター的な人たちを反映したデータかもしれないと考えました。この仮説をベースにしてデータを分析すると、なるほどと思える解釈が得られました。

これらは、あくまでも仮説でしかないですし、いまでは違う解釈ができるかもしれません。ネットリサーチのパネルがアーリーアダプターということは、もうないでしょうから。しかし、このような経験を通じて、それまで信じていた調査理論に則って集めたデータは設定した母集団を正しく反映するという考え方が、どうも違うのではないかと考えるようになりました。

それまでも、調査手法による回答者のバイアスは気になっていました。電話調査に回答してくれる人は?、路上でのリクルートに協力してくれる人は?、それに渋谷109付近を歩いている人と新宿西口を歩いている人の違いは?、などですね。
また、同じネットリサーチでも、パネル(リサーチへの協力を許諾した登録者)の違いによって回答傾向が違うこともあります。とくに政治や社会問題については、パネルによる差異が出ることが少なくないようです。以前、Yahoo!、ニコニコ動画、雑誌のホームページへの登録者をベースとしたパネル、それぞれで同じテーマで行った調査結果を比べたものがあったと記憶していますが、これが見事に違う結果になっていました、年代を揃えたとしてもです。

このように、きちんと設計して集めたデータでも、実際に集まった回答者の背景を確認することは、データを分析する前提として不可欠な過程になっていると思います。

ビッグデータとデータの背景

データの背景を考えるという課題は、狭義のリサーチのみではなく、ビックデータの話(ここでは、ソーシャルリスニングもビッグデータとして話をします)にも関連していると言えます。ビッグデータは、集まってくるデータなのだし、サンプリングという過程を経ないデータなのだから関係ないだろう、と思われるかもしれませんが、そうではありません。

有名な例え話として、こんな話があります。第二次世界大戦のころ、ある国で飛行機の損失が問題になっていました。撃墜されて帰還できない飛行機が、あまりに多いというのです。そこで、実際に帰還した飛行機を調べてみると、多くの帰還機が集中して被弾している箇所があったというのです。そこで、軍のお偉いさんは「だったら、その被弾している部位を強化すればいいじゃないか」ということを言ったそうです。さて、この話、どう思いますか?

少し考えれば、この判断は明らかに間違いだということがわかります。帰還できているのだから、その部位は多少被弾しても問題はないわけで、逆に多くの帰還機が被弾していない箇所こそ強化する必要があるかもしれないのです。ただ、帰還できなかった飛行機のデータはないので、これはあくまでも仮説になります。

この例は、たとえばコールセンターに集まる声にもあてはまるかもしれません。わざわざコールセンターに意見を言ってくれる人は、どのような人なのか。その製品の愛用者や、その製品カテゴリーでのヘビーユーザーかもしれません。このような背景を考えずに、センターに集まる声、とくに具体的な声だけを重視して製品改良などを行うと、いつも使う人には便利になっても、初めて使う人には不親切な製品になってしまうという可能性もあるかもしれません。

もうひとつ例をあげます。このブログ(マーケティングリサーチの寺子屋)のアクセス解析をすると、上位には「マーケティングリサーチ」や「エスノグラフィ」、「MROC」が並びます。では、ブログのアクセスをもっと増やすには、マーケティングリサーチという言葉をできるだけ使いながら、エスノグラフィやMROCをテーマとしたエントリーをもっと増やせばいいのでしょうか?

ここで、検索エンジン全体を元データとしているGoogleインサイトで過去1年のデータを見ると(2012年6月時点)、最近は「マーケティングリサーチ」よりも「ビッグデータ」で検索されている頻度が高く、世の中全般では「マーケティングリサーチ」よりも「ビッグデータ」の方に興味が向いているということが言えそうです。つまり、ブログのアクセスを増やすためには、とくに新規の読者を獲得するためには「ビッグデータ」が本当は重要なキーワードである可能性が高いのですが、自分のブログでのアクセス解析だけをしていても「ビッグデータ」というキーワードには決してたどり着けないのです。なぜなら、これまで私のブログでは「ビッグデータ」について、ほとんど触れていないからです。

たとえば自社カードでの購買履歴でも同様のことが言えそうです。お客様は、自社だけで買物をしていればいいのですが、そういうわけではないでしょう。つまり、自社カードのデータには含まれない購買履歴が存在するはずなのです。自社カードのデータには決して表れることのない、お客様の買物行動があるということは認識をした上で分析する必要があると思います。

このように、ビッグデータとして集まったデータの性格付け、背景の理解はとても重要で、そこを理解しない分析はありえない、といっても過言ではないでしょう。自社のビッグデータを有効活用しようとなった際に、いま手元に有るデータで基本的に分析をしようという欲求が高くなり、それがデータの全てであるかのような錯覚に陥りがちです。なにせ、集めたのではなく、“集まった” データ “すべて” なのですから。
つまり、自社に集まっているビックデータが、そもそもどういう前提のデータかを理解しなければ、どんなにデータ量があっても正しい理解ができない恐れがあるということです。どんなに沢山のデータがあったとしても、集まっているデータ自体がどういう性格のものであるか、きちんと理解することが不可欠だと言えますし、手元に集まったデータだけで分析目的が達成できるのかの吟味が必要です。

データ分析に潜む罠

このような話をすると、「何をあたり前な」という顔をする方が少なくありません。けれど、実際のワークを行なう上で、ほんとうに回答者の背景を確認しているかというと、どうなのでしょうか。サンプリング理論への固定観念、「ビッグなデータ」という錯覚、そして、自分はこんなことはわかっているという前提、このような事柄が呪縛となって、きちんとしたデータの確認をせずに分析を行い、データのもつ罠に嵌っていることがあるかもしれません。

そしてやっかいなのは、この罠は明らかになりにくいという点にあります。表面上の集計結果に誤りはないのですから。結果として、知らず知らずのうちに、本来分析対象とすべき対象とは異なる、あるいは偏りのある特定の性質を持った集団のデータを元に分析を行ない、それを一般化しているかもしれないのです。

もしくは、確認といっても多くの場合、デモグラフィック属性による確認に終わっている気がします。性別や年代、未既婚、職業、居住地などの分布の確認です。しかし、先ほど例にあげた、訪問面接調査とネット調査によるブランド認知率の違いは、デモグラフィック属性による違いではありませんでした。いずれも「首都圏在住・20代・女性・未婚・社会人」なのに、結果が異なったのです。このように、単純にデモグラフィック属性のみで集まったデータの性格付けをしているだけでは十分ではありません。差がでるのは、ライフステージかもしれないし、ライフスタイルかもしれないし、価値観かもしれないし、購買行動かもしれないし、該当商品やサービスへの関与度かもしれないし・・・。考えられる要素は、限りなくあります。

消費者の背景理解を十分に行う為のポイント

では、どうすればいいのか。リサーチの基本に戻ってしまいますが、3点考えられます。

  • リサーチテーマに影響を与える要因にはどんなものがあるのか、どんな回答者の性格付けを理解するとデータ分析の助けになるのか、分析の誤りを防ぐことができるのかを、あらかじめ考えておき、設問やデータベース設計に加えておく。
  • サーベイの場合は、後からさまざまなクロス集計が可能なように、サンプルサイズを大きくする(リサーチ単価も安くなっていますので・・・)。
  • ビッグデータの場合は、分析の目的に適合するデータなのかの検討を必ず行う。

そして「回答者の背景理解」は、定量調査ばかりではなく、当然、定性調査でも必要です。むしろ、定性調査でこそ重要だといえるかもしれません。実際に、ベテランのモデレーターさんほど、インタビューの参加者や対象者がどんな人なのかを理解する時間を長くとるようです。最近では、この時間を無駄な時間というように考えるクライアントさんもいるようですが、ベテランのモデレーターさんは30分や1時間くらい時間をかけることもあります。そして、それをベースに発言を理解する。定性調査のレポートは、発言者の文脈、背景をちゃんと理解した上で、個々の発言を理解するから、意味のある解釈が出来るのだと思います。

今日の話は、「釈迦に説法」だったかもしれません。しかし、あえて議論をしておきたいテーマでした。もちろん、リサーチ設計の段階で、集めたいデータと集まったデータに齟齬がないように設定することが重要なのは言うまでもないことです。しかし、いまのリサーチ環境ではこの点を完全にコントロールすることは難しいでしょう。このような状況なのですから、集めた、あるいは集まったデータは、どんな人が回答したデータなのか、どんな背景で集められたデータなのか、このデータに含まれないのはどのような条件なのかなど、分析の前に必ず確認する、考えることが重要なのです。

************************************************************************************

次回は、『市場調査クリニック』からの再掲の最後、リサーチにおけるコンテクストの2つめのテーマである、「回答者自体の生活を理解する」についてです。

 

リサーチはコミュニケーション

このblogを始めたのは2006年の10月でした。
それから6年、当初に比べると更新間隔が長くなりましたが(半年くらい空いたこともあったかもしれません・・・)、なんとか続けてくることができました。
これも、ひとえにblogを読んでくれている方がいるからです。ありがとうございます。

しかし・・・
blogを始めた当初の目的からは、少し乖離してきたかなというのが正直な感想です。「当初の目的」については、『市場調査クリニック』さんのインタビューで、つぎのように話しています。

マーケティングリサーチの寺子屋を開始した2006年当時は、ちょうどネットリサーチが普及してきた頃です。私はいわゆる”Conventional (よくいえば伝統的、悪く言えば型にはまった)”なリサーチ会社に所属していたのですが、ネットリサーチが普及するにつれ、「リサーチの基本が疎かになっていないか?」という問題意識がありました。なので、寺子屋では「リサーチの基本的な考え方ってどうなっていくの?」「みんな、しっかり基本を勉強しようよ」といったアラートを発信したいというのが、最初の動機でした。「寺子屋」という名前も、このような想いからのネーミングです。 (『市場調査クリニック』より、以下同)

とはいえ、実際は

ただ、実際に始めてからはリサーチの基本的な考え方だけでは済まなくなってきて・・・。
blogをはじめた2006年頃は、TwitterもFacebookも、もちろんなかったですけど、WEB2.0ということが言われ、「価格.com」や「@コスメ」など消費者がネットを通じて情報を交換することが少しずつあたり前になっていました。また『心脳マーケティング』や『インサイト』という本が出版されたのもこのころで、アンケートやインタビューでは消費者のほんとの気持ちはわからない、というようなことが言われてもいました。さらに、ニューロマーケティング、エスノグラフィ、行動経済学、顔認証やRFIDのようなIT技術などの話がつぎつぎに出てきて、「伝統的なリサーチだけでは、とてもじゃないけど話にならないぞ」と感じるようになり、リサーチに影響を与えるかもしれないと思う情報についても発信するようになりましたね。

という方向に力点が移った感じです。
これはこれでよかったと思うのですが、このところ、初心を思い出すような出来事や話に接するようになり、あらためて「寺子屋」を再開しようと思った次第です。

まずは、『市場調査クリニック』さんとのインタビューを再掲させていただくことから再開したいと思います。ここでは、私が考える今のリサーチの基本について述べているつもりです。
すでに読んでいただいている方も多いかもしれませんが、このblogでも記録しておきたい内容ですので、まずは3回の再掲シリーズにおつきあいください。

最初のテーマは、「リサーチはコミュニケーションである」ということ。
この考え方が身についていると、リサーチに取り組むスタンスは違ってくると思います。
(初出:『市場調査クリニック』2012年4月 に加筆修正)

*********************************************************************************************

リサーチはコミュニケーション

「回答者とのコミュニケーション」、これがリサーチの基本だと思っています。ビックデータだろうが、ソーシャルリスニングだろうが、MROCだろうが、この基本はかわりません。いや、時代と共に、ますます重要になっているかもしれません。

たとえば、調査票の作り方にも色々ルールはありますが、これらは「対象者にきちんと伝わるようにする」「誤解が無いようにする」「気持ちよく答えてもらう」などのために、ということが前提にあります。しかし最近の調査票の作りをみると、正直ひどいと感じる事が多いです。例えば、20ブランド×20のイメージ項目のマルチマトリクス(複数回答でのマトリクス回答形式)の質問なんて、きちんと答える気にならないでしょう。他にも、あてはまる選択肢がない、回答対象ではないと思うのに答えないといけないなど、基本が疎かになっているなと感じることが少なくないです。

以前はリサーチャーと回答者の間に調査員さんというプロがいました。今のネットが調査員という「人」だったわけです。熟練の調査員さんは、どんな質問をすると回答が返ってこないとか、どんな質問にするといい加減な回答になりそう、というのを熟知していました。リサーチャーが作った調査票に対して「これは答えられない」「どういう意図で作ったのか」といったやりとりが回答者に聞く前にありましたので、そのフィルターを通して学ぶ機会があったのですが、ネットリサーチではその様な経験ができません。

また、紙の調査票だと回答者の自筆の回答を紙で見る事ができました。そうすると、例えば先ほどのマトリクスの例では、ひどい回答者は選択肢を大きい ○ (まる)でざっと囲ってしまうかもしれません。あるいは、無回答が多い設問もすぐにわかります。そういう回答が散見されれば、この質問は答えたくなかったかとか、面倒くさかったかという加減が分かりました。しかし、ネットリサーチでは、無回答は許されないですし、論理上正しい回答をしないと先に進めないので、きれいなデータしか得られません。なので、このような設問上のミスに気づくことが難しくなっています。(ただし、ネットリサーチでも、集まったデータから、いい加減な回答を見つけることは可能です)

ネットリサーチが主流になる中で、このような学びの機会が減少していると思いますが、「リサーチは回答者とのコミュニケーション」ということを、今のリサーチャーには強く意識してほしいと思っています。ただでさえ、消費者は分かっている事でもちゃんと答えられるのか?、という疑問がある中で、聞きたいことを、聞きたいだけ、自分が聞きたいように、一方的に聞いて、相手になんの選択も弁解も与えずとにかく「教えて、教えて」と言っているだけでは、こちらの意図は伝わりませんし、回答者も答えたくなくなり、(意図的である、ない、にかかわらず)いい加減な回答が増えてしまいます。

とはいえ、昔のように紙の調査票に戻ろう、というわけにはいきません。最低限、自分で作った調査票を自分で回答してみる、まわりの数人に答えてもらうということくらいは、やってほしいと思います。できれば、調査テーマに詳しくない人がいいですけど。それだけでも、自分の作った調査票がコミュニケーションツールとしてどうなのかということに気づくことができるでしょう。

教科書にはいわゆるテクニックやハウツーしか書いてないかもしれないですが、その背後にある考え方や哲学のような部分も考えて、学ぶことも大切なのだと思います。

「そのデータは、誰の回答なのか」を考えることの大切さ

ネットリサーチは特にそうですが、調査で集めた、“ここに今あるデータは一体誰を代表としたデータなのか?” が、分析以前に明確にされている必要があると思います。リサーチでのサンプリングの一番の基本は、母集団を規定し、そこから対象者を抽出する、という考え方なのは周知の通りです。しかし今は、正しいといわれるサンプリングを行うことは現実的にはできません。そこで考えないといけないのは、逆に集まったサンプルから母集団を考える、想定することです。

年代や性別、使っている商品などの属性を軸として何かしらの “母集団” をイメージし、データを回収すればサンプルは手元に集まります。けれども、そこで得られたサンプルは “社会調査”で学ぶ厳密なサンプリングに則とったデータではないということは、すでに皆わかっているわけです。だとしたら、その集まったサンプルは誰なのか?、をちゃんと性格付けする、理解するためのデータも取っておかなければいけないと思います。「結局このデータは、誰の回答なのか」が分からず分析を行っても、結論を間違う恐れがあるからです。

これは伝統的なリサーチに限らず、ビッグデータの分析でも、ソーシャルリスニングの分析でも、欠かせない考え方だと思っています。どんどんデータが取れてしまうのは良いのですが、そもそもそのデータは誰の行動や発言を集めたデータなのかを考えておくべきです。あるいは、全てのデータを使うべきなのか、抽出という過程をどう考えるのか、サンプリングの理論に則った考え方をどう組み込んでいくべきなのか、などの課題がありそうです。データの性格を判断した上で分析をしていかないと、「これは誰のこと?」という罠に陥ります。

最近、「コンテクスト」という言葉を、よく目にするようになりました。コンテクストを一言で説明するのは難しいのですが、会話の背景となること、文脈ということができます。人がコミュニケーションするには、このコンテクストが大切だと言われています。たとえば、「優しい人だよね」という発言があったとします。しかし、この発言がどういう状況で、誰が発したのかによって、その意味するところは異なってきます。これまでお話してきた、「誰の回答なのか」という問題は、これと一緒です。さきほど、リサーチの基本はコミュニケーションと言いました。だからこそ、コンテクストとなるデータの背景を理解することがとても重要なのです。具体的にどうすればいいかをお伝えすることは難しいのですが、あなたが誰かと会話するとき、会話を理解するために、どんな情報が欲しいと思うか、リサーチもそれと一緒です。「○○の言った話なら信頼できる」とか、「××の言ったことなら、参考程度に聞いておくよ」、などといった会話をすることがあるでしょう。これと一緒です。今回のテーマで分析するときに、回答者のどのような性格付けがわかると、話の有用性の判断の根拠となるのか、そのことを常に考えておくことが大切なのだと思います。

これからのリサーチャーの役割

1つの手法で8割方見当がつけばいいや、という時代は終わったのだろうと思います。以前はアンケートをやれば、費用は1本300万とか500万、期間も1か月はかかる、というようなものでしたから、そのリサーチこそが、いまできるリサーチの全て(予算的にも、時間的にも)ということも少なくありませんでした。このリサーチがないと、とくにメーカーは、どのくらい認知があるのか、使ってもらっているのか、使っている人が何を考えて使っているのか、分かりようがありませんでした。しかし今は、まず購買実態を見る、つまり買ったか買わないかのPOSデータを見ればいいわけで、意識でしたら価格.comのようなサイトを見るという選択もありますし、blogやツイッター、Facebookなどで見られるかもしれません。

このように、広い意味でのリサーチがどんどんできるようになっています。かつ、伝統的なリサーチが独自の優位性を保てる範囲は狭くなってきています。その中でリサーチャーにとって重要なスキルのひとつは、どういうデータなのか、誰が言っているのかを明確にした上で、知見を導き出せる分析力なのだと思います。日本でのリサーチ業界の成り立ちをみると、広告代理店のデータ収集センター的な位置づけで発展してきた部分もあり、データコレクションに関しては色々研究されてきましたが、広告代理店などがやっている企画や分析と、今のリサーチ会社が同水準にあるかというと、懐疑的にならざるを得ません。それはネットリサーチのせいとかではなく、昔からデータを取る方に力点がいってしまい、データを解釈・分析しそこから知見を導くといった所に、あまり注力してこなかったからだと思います。

しかし、今だからこそデータから知見を導き出す為の分析力が重要になってきています。例えば、最近よく話題に上がる“ビックデータ”の活用にはデータベースエンジニア、データサイエンティストとマーケター、この三者の素養がないと難しいと言われます。大きなデータから必要なデータを抜き出して構造化するエンジニアと、どんな手法を利用するとどういう解が得られるかがわかるデータサイエンティスト、更にそれをマーケティング的に包括するマーケターがいないと、ビックデータは活かせない、という事です。たとえば、IBMがSPSSを買ったのはデータサイエンスの部分を巻き込まないと、ビックデータに対応できないと判断したからではないでしょうか。

しかし、この三者の技術と専門性を一人の人間が高度なレベルで持つというのは、並大抵のことではない。それこそ、スーパーマンです。だとすると、それぞれのエキスパートがコラボレートしながら、ひとつのテーマに取り組んでいくことが現実的になるのではないかと思っています。リサーチ会社がポジションを取るとするなら、データサイエンティストの部分が一番近いかもしれません。リサーチデザイン、つまりクライアントの課題を整理し、データコレクションのデザインを行い、適切な分析方法を提案する、そして得られた分析結果についてサイエンティストの立場からのコメントを行い、マーケターの判断を支援する。ここに、リサーチャーの価値と可能性があるのではなかと思っています。

*********************************************************************************************

次回は、今回も少し触れた重要な課題である、リサーチにおける「コンテクスト」についてです。

 

『デジタルマーケターが読むべき100冊+α』

デジタルマーケターが読むべき100冊+α デジタルマーケターが読むべき100冊+α
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2012-10-12

この本、店頭発売は10月11日ですが、献本いただいたのですでに手元に。
実は、本書の「第4章 デジタルマーケティングを知る44冊~マーケティングリサーチ」を担当しています。依頼を受けた時は、どのような方たちが書くのか知らなかったのですが、本ができてびっくり。錚々たるメンバーが執筆されていて、かなり恐縮している次第です。

さて、具体的な本の内容や執筆者ですが、こちら ↓ のホームページで詳しいです。選者(執筆者)、目次、選ばれた本は、こちらを見ていただければわかります。

『デジタルマーケターが読むべき100冊+α』新刊のご紹介(翔泳社)

選者も素晴らしいですが、もちろん内容もおもしろいです。
選者が一線級の方たち(私は別として・・・)なので、単に本の紹介にとどまらずに様々なメッセージが読み取れます。このあたりのニュアンスは、「終わりに」でMarkezine編集長・押久保氏が書いているつぎの文章に示されています。

本書は「本を紹介する本」という体裁ですが、結果的に今のマーケティングの現状を反映した「読みもの」という面でも面白い内容となりました。古典、トレンド解説本、ビジネス本、はたまた、心理学・経済学系の本や小説など、多岐にわたる本が紹介されております。選ばれた本を眺めていて、自分の専門領域だけではなく他のジャンルにも目を配り広い視野を持とう、というメッセージが選者の方々の底流にあるのではないかと感じました。(p.178)

この指摘は私も同感で、ざっと目を通した中でとくに感じたのは、つぎの3点でした。

  • 人間を理解すること、そして好奇心が大切 (だから、小説も読まないと)
  • 本質を読み取る (だから、古典も大切)
  • 自分の領域に閉じこもらずに周辺領域にも目配りを (だから、心理学や経済学も)

そして、「読むべき」本なのに選者が選んだ本の数はかなり多く、実に幅広い本が選ばれています。見方を変えると、ベストセラーや流行本ばかり読んでいてはだめで、自分にとって役立つ本はどこにあるかわからないということなのでしょうし、本から何を読み取るか、自分の糧になるのかは、人それぞれということなのでしょう。
一方で選者の重なりが少ない中で、複数の選者が選んだ本は、かなり「読むべき度」が高い本ということも言えそうです。(索引を見ると、複数の選者に選ばれたのがどんな本かが、わかります)

マーケティングに関する本選びの参考書としてはもとより、ビジネスをしていく上での考え方を学ぶという点でも、おすすめの本になっています。

PS1:
この本で、私が取り上げたのは以下の本なのですが、コーナーの特性上、実務寄りの選になっています。なぜ、これらの本を選んだのかは、本書を読んでいただくとして、興味をもった本がありましたら、こちらからどうぞ。

次世代マーケティングリサーチ 次世代マーケティングリサーチ
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2011-03-03

 

 

リッスン・ファースト! ソーシャルリスニングの教科書 リッスン・ファースト! ソーシャルリスニングの教科書
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2012-04-13

 

 

ビッグデータの衝撃――巨大なデータが戦略を決める ビッグデータの衝撃――巨大なデータが戦略を決める
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2012-06-29

 

 

マーケティング・メトリクス マーケティング成果の測定方法 マーケティング・メトリクス マーケティング成果の測定方法
価格:¥ 3,675(税込)
発売日:2011-07-26

 

 

分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学 分析力を武器とする企業 強さを支える新しい戦略の科学
価格:¥ 2,310(税込)
発売日:2008-07-24

 

 

入門・社会調査法―2ステップで基礎から学ぶ 入門・社会調査法―2ステップで基礎から学ぶ
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:2010-04

 

本当にわかりやすいすごく大切なことが書いてあるごく初歩の統計の本 本当にわかりやすいすごく大切なことが書いてあるごく初歩の統計の本
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:1998-11

 

ヤバい統計学 ヤバい統計学
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2011-02-19

 

1からの商品企画 1からの商品企画
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2012-02

 

PS2:
他の選者が選んだ本なのですが、「この本を取り上げてくれた!」という意味でうれしかったので、紹介しておきたいのがこちら(私が岩手出身者というかなり個人的な思い入れで(笑 )。
陸奥の歴史を独自に読み解いた小説なのですが、中央史観以外にも視点を替えると、こういう歴史も見えてくるという本です。世界遺産にもなった「平泉」を訪れる予備知識としても、どうぞ。

火怨 上 北の燿星アテルイ (講談社文庫) 火怨 上 北の燿星アテルイ (講談社文庫)
価格:¥ 800(税込)
発売日:2002-10-16
炎立つ 壱 北の埋み火 (講談社文庫) 炎立つ 壱 北の埋み火 (講談社文庫)
価格:¥ 680(税込)
発売日:1995-09-06
天を衝く(1) (講談社文庫) 天を衝く(1) (講談社文庫)
価格:¥ 770(税込)
発売日:2004-11-16

PS3:
マーケティングリサーチ以外の活動領域として、最近取り組んでいるのが地域デザイン学会(→ こちらのHPを参照ください)での活動です。ここで分担執筆した本が、最近出版されましたので、この場を借りて紹介させてください。
温泉のビジネスモデルを考えるという、少々マニアックな内容の本です。地域、観光、ビジネスモデル、そして温泉に興味がある方は、手に取ってみてください(価格が高くなってしまったのですが・・・)。

温泉ビジネスモデル -ゾーンとコンテクストのデザイン- 温泉ビジネスモデル -ゾーンとコンテクストのデザイン-
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2012-09-26