月別アーカイブ: 2012年9月

『しくみづくりイノベーション』

しくみづくりイノベーション

しくみづくりイノベーション
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2012-09-14

本書は、電通コンサルティングによるもの。
タイトルよりも、「顧客を起点にビジネスをデザインする」というサブタイトルに惹かれて購入したのですが、読んでおくべき本だと思います。
(基本的な考え方のベースが私に似ているから・・・、というのが理由ですが。。笑)

本書で主張されているのは、MDBD=マーケティング・ドリブン・ビジネス・デザイン、つまり「最終顧客を理解することによってイノベーションを生み出し、市場投入を最適化するために事業体制を再構築し、高い業績を上げる手法(カバー折り返しより)」です。
そのための手法としてTPM(ターゲティング、ポジショニング、メイキング)があるとしています。

もくじは、こちら。

第1章 「ものづくり」から「しくみづくり」の時代へ
第2章 しくみの起点は顧客
第3章 ステップ1:ターゲティング-顧客を正しく理解する
第4章 ステップ2:ポジショニング-しくみのデザイン
第5章 ステップ3:メイキング-実践を通じて学習する
第6章 「しくみづくり」を可能にする組織
第7章 マーケティング発想で変えるビジネスのあり方

とくに、読んでほしいのは第3章です。
「顧客を正しく理解する」、すなわちリサーチについて書かれています。すでに、このblog他でも主張してきたこと、他の方が問題提起をされていることが、端的にまとめられています。いまのマーケティングリサーチの課題を、いまいちど再確認するのに良い内容です。
参考までに、この章の見出しを紹介すると、つぎのようになります。

・「需要の場」の発見と調査の限界
・思考を支えるアブダクション
・顧客との関係を構築する新たな技法
  (注:取り上げられているのは、ビッグデータとエスノグラフィです)

さらに1章と7章、そして「まえがき」も、なぜ顧客起点なのかという背景を理解するためには必須の内容だと思いますので、あわせて。

リサーチに携わるものとして、本書で必ず読んで欲しいのは上記の章(3章、そして1章と7章、はじめに)なのですが、これからのリサーチャーには、全体を通して読んでほしい内容でもあります。
もくじだけでは、わかりにくいですが、「TPM」は、つぎのような内容になっています(本書、pp.51-52)。

T:ターゲティング~顧客理解による需要創出可能箇所の特定
P:ポジショニング~需要充足価値創造のための事業の再構成
M:メイキング~ベータ版による学習の加速とその反映

つまり、Tだけではなく、PやMも顧客起点の考え方が反映されています。このあたりを理解できるようになると、「真の顧客起点とは何か」への理解が深まると思います。(もしかすると新しいリサーチテーマのヒントにもなるかもしれません)

そして、本書で何度か引用されている、2008年出版のこちらの本もあわせて読むといいかもしれません。(こちらを再読して気付いたのですが、つまるところ本書=『しくみづくりイノベーション』は、創発を具体的な方法論に落とし込んだもの、と言えそうですね)

創発するマーケティング 創発するマーケティング
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2008-03-14

『ビッグデータの衝撃』

少し前に出ていた本ですが、いまの時点のビッグデータを総括的に理解するには良書だと思うので。

ビッグデータの衝撃――巨大なデータが戦略を決める ビッグデータの衝撃――巨大なデータが戦略を決める
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2012-06-29

前回の jmrx 「マーケティングアナリシス最前線」(2012.8.28、※1)も、ビッグデータがテーマだったと言ってもよいと思うのですが、ビッグデータという流れは本物だと思います。ITベンダーのPRをみると、ビッグデータを扱うためには大規模で複雑なシステムや、高度な解析技術が必須のように見え、ハードルや期待値を思いっきり高めているので、バズワードとなる危険性も孕んでいるものの、ビッグデータそのものの考え方は、今の時代に欠かせないものだと感じています。ビッグデータの背景と本質、そして課題を理解しておくことは、とても重要だと思います。

そこで、本書。もくじは、つぎのとおりです。

第1章 ビッグデータとは何か
第2章 ビッグデータを支える技術
第3章 ビッグデータを武器にする企業~欧米企業編
第4章 ビッグデータを武器にする企業~国内企業編
第5章 ビッグデータの活用パターン
第6章 ビッグデータ時代のプライバシー
第7章 オープンデータ時代の幕開けとデータマーケットプレイスの勃興
第8章 ビッグデータ時代への備え

ビッグデータについて、いまの時点で理解しておくべき内容が網羅されているといえます。
なぜビッグデータなのか、ビッグデータとは何か(1章)ということから始まり、データの構造やHadoop、NoSQLなどの最低限知っておいた方がよい技術解説(2章)、そして事例(国内企業で取り上げられているのは、コマツ、リクルート、グリー、マクドナルド)と活用パターン(3~5章)、課題とこれから(6~8章)、といった構成で整理されています。

前回のjmrxをみても、技術的側面を多少は理解しておくことは欠かせないと思いますし(おそらく、DeNAの事例を理解するには必要だったでしょう)、プライバシーの問題やよく耳にするようになったデータサイエンティストの問題などの理解も欠かせないでしょう(技術動向の理解やプライバシーについては、中川さんも指摘されていたように思います)。
また、自社のデータだけでなく、他社のデータと連結する事例が増えていることも注目しておきたいです(本書では、ローソン×ヤフー、KDDI×楽天、クックパッド×アイディーズの事例が紹介されています)。

さらに、LOD(Linked Open Data)と呼ばれる、「データをオープンにし、みんなでつなげて、社会全体で大きな価値を生み出すために共有しようという取り組み」も、社会的な要請として必要だと思いますし、注目に値します。
現に、Google や Twitter が主体となって東日本大震災時のデータを共有してワークショップを行おうという取り組みや、

東日本大震災ビッグデータワークショップ – Project 311 –

公共機関データのオープン化へ向けて、課題整理や情報発信をしていこうというコンソーシアムが設立されたりしています。

オープンデータ流通推進コンソーシアム

直接、リサーチ会社がどうこうということもないのかもしれませんが、世の中では、このような動きが進んでいるということを理解しておくことは必要でしょう。(ほんとは、これらの流れにリサーチ会社も挑戦して欲しいのですが。。。)

そして、前回jmrxに参加して思ったのは、ビッグデータと言えども(だからこそ?)、そこには「リサーチマインド」と呼べるものが必要なのだということです。
データの活用を阻む壁を乗り越えて、データの意味を理解し、視覚化し伝えるのは、まさにリサーチャーの役割そのものです(ルグラン・泉氏、※2)。
データの量が対象理解のレイヤーをあげるという話(マイクロアド・中川氏、※3)は「対象者のコンテクストを理解する」ということに繋がります。
問題発見→解釈→提案というデータ分析のフローや「離脱者とは」という定義を考えることの重要性(DeNA、濱田氏)は、これまでのリサーチにおける考え方そのものでしょう。
このように、ビッグデータとこれまでのリサーチの接点は大きいのです(当たり前ですけど)。
ただし、活用できるのはノウハウ(サンプリングの仕方、調査票の作り方、実査の仕方、インタビューの仕方などの)ではなく、リサーチのベースにある考え方、マインドであるということは言えると思います。
マインドはスキルの理解が前提にあるとも言えますが、これまでのリサーチのノウハウをマインドとして理解しなおしつつ、本書でビッグデータの本質を読み解くことが求められそうです。

※ 前回のjmrx「マーケティングアナリシス最前線」(2012.8.28)の内容については、以下を参考にしてください。

※1: toggeter 「マーケティングアナリシス最前線まとめ」

※2: 【レポート】セミナー「マーケティングアナリシス最前線」(ルグランHP)

※3: 「価値観」「性格」も浮き彫りになるビッグデータ分析(blog「マインドリーディング」)