日別アーカイブ: 2012年10月26日

リサーチはコミュニケーション

このblogを始めたのは2006年の10月でした。
それから6年、当初に比べると更新間隔が長くなりましたが(半年くらい空いたこともあったかもしれません・・・)、なんとか続けてくることができました。
これも、ひとえにblogを読んでくれている方がいるからです。ありがとうございます。

しかし・・・
blogを始めた当初の目的からは、少し乖離してきたかなというのが正直な感想です。「当初の目的」については、『市場調査クリニック』さんのインタビューで、つぎのように話しています。

マーケティングリサーチの寺子屋を開始した2006年当時は、ちょうどネットリサーチが普及してきた頃です。私はいわゆる”Conventional (よくいえば伝統的、悪く言えば型にはまった)”なリサーチ会社に所属していたのですが、ネットリサーチが普及するにつれ、「リサーチの基本が疎かになっていないか?」という問題意識がありました。なので、寺子屋では「リサーチの基本的な考え方ってどうなっていくの?」「みんな、しっかり基本を勉強しようよ」といったアラートを発信したいというのが、最初の動機でした。「寺子屋」という名前も、このような想いからのネーミングです。 (『市場調査クリニック』より、以下同)

とはいえ、実際は

ただ、実際に始めてからはリサーチの基本的な考え方だけでは済まなくなってきて・・・。
blogをはじめた2006年頃は、TwitterもFacebookも、もちろんなかったですけど、WEB2.0ということが言われ、「価格.com」や「@コスメ」など消費者がネットを通じて情報を交換することが少しずつあたり前になっていました。また『心脳マーケティング』や『インサイト』という本が出版されたのもこのころで、アンケートやインタビューでは消費者のほんとの気持ちはわからない、というようなことが言われてもいました。さらに、ニューロマーケティング、エスノグラフィ、行動経済学、顔認証やRFIDのようなIT技術などの話がつぎつぎに出てきて、「伝統的なリサーチだけでは、とてもじゃないけど話にならないぞ」と感じるようになり、リサーチに影響を与えるかもしれないと思う情報についても発信するようになりましたね。

という方向に力点が移った感じです。
これはこれでよかったと思うのですが、このところ、初心を思い出すような出来事や話に接するようになり、あらためて「寺子屋」を再開しようと思った次第です。

まずは、『市場調査クリニック』さんとのインタビューを再掲させていただくことから再開したいと思います。ここでは、私が考える今のリサーチの基本について述べているつもりです。
すでに読んでいただいている方も多いかもしれませんが、このblogでも記録しておきたい内容ですので、まずは3回の再掲シリーズにおつきあいください。

最初のテーマは、「リサーチはコミュニケーションである」ということ。
この考え方が身についていると、リサーチに取り組むスタンスは違ってくると思います。
(初出:『市場調査クリニック』2012年4月 に加筆修正)

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リサーチはコミュニケーション

「回答者とのコミュニケーション」、これがリサーチの基本だと思っています。ビックデータだろうが、ソーシャルリスニングだろうが、MROCだろうが、この基本はかわりません。いや、時代と共に、ますます重要になっているかもしれません。

たとえば、調査票の作り方にも色々ルールはありますが、これらは「対象者にきちんと伝わるようにする」「誤解が無いようにする」「気持ちよく答えてもらう」などのために、ということが前提にあります。しかし最近の調査票の作りをみると、正直ひどいと感じる事が多いです。例えば、20ブランド×20のイメージ項目のマルチマトリクス(複数回答でのマトリクス回答形式)の質問なんて、きちんと答える気にならないでしょう。他にも、あてはまる選択肢がない、回答対象ではないと思うのに答えないといけないなど、基本が疎かになっているなと感じることが少なくないです。

以前はリサーチャーと回答者の間に調査員さんというプロがいました。今のネットが調査員という「人」だったわけです。熟練の調査員さんは、どんな質問をすると回答が返ってこないとか、どんな質問にするといい加減な回答になりそう、というのを熟知していました。リサーチャーが作った調査票に対して「これは答えられない」「どういう意図で作ったのか」といったやりとりが回答者に聞く前にありましたので、そのフィルターを通して学ぶ機会があったのですが、ネットリサーチではその様な経験ができません。

また、紙の調査票だと回答者の自筆の回答を紙で見る事ができました。そうすると、例えば先ほどのマトリクスの例では、ひどい回答者は選択肢を大きい ○ (まる)でざっと囲ってしまうかもしれません。あるいは、無回答が多い設問もすぐにわかります。そういう回答が散見されれば、この質問は答えたくなかったかとか、面倒くさかったかという加減が分かりました。しかし、ネットリサーチでは、無回答は許されないですし、論理上正しい回答をしないと先に進めないので、きれいなデータしか得られません。なので、このような設問上のミスに気づくことが難しくなっています。(ただし、ネットリサーチでも、集まったデータから、いい加減な回答を見つけることは可能です)

ネットリサーチが主流になる中で、このような学びの機会が減少していると思いますが、「リサーチは回答者とのコミュニケーション」ということを、今のリサーチャーには強く意識してほしいと思っています。ただでさえ、消費者は分かっている事でもちゃんと答えられるのか?、という疑問がある中で、聞きたいことを、聞きたいだけ、自分が聞きたいように、一方的に聞いて、相手になんの選択も弁解も与えずとにかく「教えて、教えて」と言っているだけでは、こちらの意図は伝わりませんし、回答者も答えたくなくなり、(意図的である、ない、にかかわらず)いい加減な回答が増えてしまいます。

とはいえ、昔のように紙の調査票に戻ろう、というわけにはいきません。最低限、自分で作った調査票を自分で回答してみる、まわりの数人に答えてもらうということくらいは、やってほしいと思います。できれば、調査テーマに詳しくない人がいいですけど。それだけでも、自分の作った調査票がコミュニケーションツールとしてどうなのかということに気づくことができるでしょう。

教科書にはいわゆるテクニックやハウツーしか書いてないかもしれないですが、その背後にある考え方や哲学のような部分も考えて、学ぶことも大切なのだと思います。

「そのデータは、誰の回答なのか」を考えることの大切さ

ネットリサーチは特にそうですが、調査で集めた、“ここに今あるデータは一体誰を代表としたデータなのか?” が、分析以前に明確にされている必要があると思います。リサーチでのサンプリングの一番の基本は、母集団を規定し、そこから対象者を抽出する、という考え方なのは周知の通りです。しかし今は、正しいといわれるサンプリングを行うことは現実的にはできません。そこで考えないといけないのは、逆に集まったサンプルから母集団を考える、想定することです。

年代や性別、使っている商品などの属性を軸として何かしらの “母集団” をイメージし、データを回収すればサンプルは手元に集まります。けれども、そこで得られたサンプルは “社会調査”で学ぶ厳密なサンプリングに則とったデータではないということは、すでに皆わかっているわけです。だとしたら、その集まったサンプルは誰なのか?、をちゃんと性格付けする、理解するためのデータも取っておかなければいけないと思います。「結局このデータは、誰の回答なのか」が分からず分析を行っても、結論を間違う恐れがあるからです。

これは伝統的なリサーチに限らず、ビッグデータの分析でも、ソーシャルリスニングの分析でも、欠かせない考え方だと思っています。どんどんデータが取れてしまうのは良いのですが、そもそもそのデータは誰の行動や発言を集めたデータなのかを考えておくべきです。あるいは、全てのデータを使うべきなのか、抽出という過程をどう考えるのか、サンプリングの理論に則った考え方をどう組み込んでいくべきなのか、などの課題がありそうです。データの性格を判断した上で分析をしていかないと、「これは誰のこと?」という罠に陥ります。

最近、「コンテクスト」という言葉を、よく目にするようになりました。コンテクストを一言で説明するのは難しいのですが、会話の背景となること、文脈ということができます。人がコミュニケーションするには、このコンテクストが大切だと言われています。たとえば、「優しい人だよね」という発言があったとします。しかし、この発言がどういう状況で、誰が発したのかによって、その意味するところは異なってきます。これまでお話してきた、「誰の回答なのか」という問題は、これと一緒です。さきほど、リサーチの基本はコミュニケーションと言いました。だからこそ、コンテクストとなるデータの背景を理解することがとても重要なのです。具体的にどうすればいいかをお伝えすることは難しいのですが、あなたが誰かと会話するとき、会話を理解するために、どんな情報が欲しいと思うか、リサーチもそれと一緒です。「○○の言った話なら信頼できる」とか、「××の言ったことなら、参考程度に聞いておくよ」、などといった会話をすることがあるでしょう。これと一緒です。今回のテーマで分析するときに、回答者のどのような性格付けがわかると、話の有用性の判断の根拠となるのか、そのことを常に考えておくことが大切なのだと思います。

これからのリサーチャーの役割

1つの手法で8割方見当がつけばいいや、という時代は終わったのだろうと思います。以前はアンケートをやれば、費用は1本300万とか500万、期間も1か月はかかる、というようなものでしたから、そのリサーチこそが、いまできるリサーチの全て(予算的にも、時間的にも)ということも少なくありませんでした。このリサーチがないと、とくにメーカーは、どのくらい認知があるのか、使ってもらっているのか、使っている人が何を考えて使っているのか、分かりようがありませんでした。しかし今は、まず購買実態を見る、つまり買ったか買わないかのPOSデータを見ればいいわけで、意識でしたら価格.comのようなサイトを見るという選択もありますし、blogやツイッター、Facebookなどで見られるかもしれません。

このように、広い意味でのリサーチがどんどんできるようになっています。かつ、伝統的なリサーチが独自の優位性を保てる範囲は狭くなってきています。その中でリサーチャーにとって重要なスキルのひとつは、どういうデータなのか、誰が言っているのかを明確にした上で、知見を導き出せる分析力なのだと思います。日本でのリサーチ業界の成り立ちをみると、広告代理店のデータ収集センター的な位置づけで発展してきた部分もあり、データコレクションに関しては色々研究されてきましたが、広告代理店などがやっている企画や分析と、今のリサーチ会社が同水準にあるかというと、懐疑的にならざるを得ません。それはネットリサーチのせいとかではなく、昔からデータを取る方に力点がいってしまい、データを解釈・分析しそこから知見を導くといった所に、あまり注力してこなかったからだと思います。

しかし、今だからこそデータから知見を導き出す為の分析力が重要になってきています。例えば、最近よく話題に上がる“ビックデータ”の活用にはデータベースエンジニア、データサイエンティストとマーケター、この三者の素養がないと難しいと言われます。大きなデータから必要なデータを抜き出して構造化するエンジニアと、どんな手法を利用するとどういう解が得られるかがわかるデータサイエンティスト、更にそれをマーケティング的に包括するマーケターがいないと、ビックデータは活かせない、という事です。たとえば、IBMがSPSSを買ったのはデータサイエンスの部分を巻き込まないと、ビックデータに対応できないと判断したからではないでしょうか。

しかし、この三者の技術と専門性を一人の人間が高度なレベルで持つというのは、並大抵のことではない。それこそ、スーパーマンです。だとすると、それぞれのエキスパートがコラボレートしながら、ひとつのテーマに取り組んでいくことが現実的になるのではないかと思っています。リサーチ会社がポジションを取るとするなら、データサイエンティストの部分が一番近いかもしれません。リサーチデザイン、つまりクライアントの課題を整理し、データコレクションのデザインを行い、適切な分析方法を提案する、そして得られた分析結果についてサイエンティストの立場からのコメントを行い、マーケターの判断を支援する。ここに、リサーチャーの価値と可能性があるのではなかと思っています。

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次回は、今回も少し触れた重要な課題である、リサーチにおける「コンテクスト」についてです。