日別アーカイブ: 2010年1月25日

【Mrs.H】行動観察

久しぶりに、林さんに寄稿いただきました。
テーマは、「行動観察」についてです。

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 社団法人日本マーケティングリサーチ協会の機関紙『Marketing Reseacher 110号』の特集は、今、脚光を浴びている行動観察であり、各分野の経験者の方が具体例とその成果をあげている。中でも、TOTO株式会社の江藤祐子さんのお書きになった、UD(ユニバーサル・デザイン)サイクルの実例は興味深い。行動観察を商品開発に有効活用している実例が分かりやすく紹介されている。
 また過去の『Marketing Reseacher 101号』では、松下電器産業(現パナソニック)のユーザビリティ実践チームの水谷美香さんが、機器の操作性に関するユーザーの観察調査の例を紹介されていて、メーカーの方達が商品開発の段階で行動観察手法に積極的に取り組んでいらっしゃることが、如実にわかる。

 大手のトイレタリーメーカーでは、本社内に洗面台やシャワールームが備えてあり、生活者を招いて、洗髪や髪の手入れ、洗顔、スキンケアをしてもらう。その行動を観察したり、インタビューすることが日常的に行われ、商品開発の全てのステップで、この機能が活用されている。家電、食品メーカー等々、研究開発部門の担当者が生活者を知るために、行動観察調査を有効活用している。
 商品開発の初期の段階で、生活者ニーズを探すためにシニアの家庭に訪問して、行動観察やインタビューをし、さらにお買いものに同行する調査をさせていただいたことがある。その時担当だった研究開発の女性は、「いつも、あの時の対象者の方の立場に立ってものを考えている」と言って下さった。また、大手の流通のシンクタンクに入社した新人マーケッターは、オーナーの指導で、毎朝、ターミナル駅で生活者を観察し、そこでの気づきをレポートにすることを繰り返したという話を聞いたことがある。彼女は今、広告代理店のアカウントプランナーとして活躍している。

 マーケティングリサーチ業界では、「今こそ行動観察」だと、あたかも新しい手法のように言っているが、行動観察は市場調査の原点であり、アンケートやインタビュー法は、行動観察だけでは分からないことを解明するために導入された調査手法だと私は解釈していた。
 過去と比較すると、得られた情報のデータ化、分析の処理スピードや精度は上がっている。また、システムも整備され、行動観察を調査の中に取り入れやすくなったのは確かである。何でもアンケートやインタビユーで生活者に聞いて答えを出そうとしていたことがそもそも片手落ちで、今、日本のリサーチ業界でも、行動観察が見直されたことは、リサーチャーのはしくれとして大賛成である。
 携帯電話が普及する以前の調査で、「1週間にその家でかけた電話の本数」を思い出させた結果と、実際にかけた数には大きな差異があった。旦那が内緒で、子供が深夜にこっそり長電話をするような行為を差し引いても、実際にカウントした数の方が多かった。生活者が嘘をついているというのは被害妄想以外の何物でもなく、実際に人の記憶なんてそんなものである。誤解がないように言っておくが、だから、アンケートやインタビュー調査はあてにならない、行動観察こそ真実だと言うことではない。そもそも、その手法の特性を生かした使い分けが必要であり、新手法が全てを解決してくれるという妄想は抱かない方がいい。

 面接方式のインタビュー調査では、その場の生活者の態度、表情、そして語調も分析の対象であり、インタビュアーも分析者も、音として発せられる言葉以外の反応も重視している。冷静な観察者であることは、インタビュアーや分析者の役割のひとつであり、グループインタビューをバックで観察していたマーケッターが対象者のちょっとした仕種を見逃さなかったことで、パッケージ機能の些細でありながら重大な問題点を発見し、発売前に解決したケースもある。
 「Marketing Reseacher 110号」の中の、TOTOの内藤さんの項のタイトルは、観察者の「気づき」に着目したモノづくりである。また、同号の「観察工学の製品開発への展開」で和歌山大学の山岡先生は、行動観察をする人のセンスという言葉を使っていらっしゃる。気づきもセンスも人間がしなければならない。特に定性的観点での観察調査はそれを生かすも殺すも、リサーチャーやマーケッターの力量に掛っているということではないだろうか。

 ここが、一番難しい。                               

                                                 林美和子

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今回も、林さんのおっしゃる内容に、かなり同意です。
どんな手法も、「魔法の杖」でも「打出の小槌」でもありません。それぞれにメリットとデメリットがあり、その特質を理解した上で使うからこそ、意味があるのです。そして、「使う人」次第でもあります。
結局は、「リサーチのテーマと目的」に沿った手法を、しかるべきが人が実施しないと、どんな手法であっても効果を発揮することはできないのです。

少し視点が変わるかもしれませんが、日頃感じていることを・・・。
日本人の特質なのかどうかわかりませんが、経営手法などにしても、とかくその時に"流行っている"(としか言いようがないと思うのですけど)手法に、誰もがわっと飛びついてしまう傾向があるように思います。少し前では、「成果主義」などは、その典型でしょう。
どんな手法にも、メリット、デメリットがありますし、その背景を十分理解せずに行うと、「百害あって一利なし」だと思います。(このblogでも、いろいろ新しい動向を紹介していますが、実はこの点は、いつも気になっていました)
ですから、どんな手法でも「いまの流行はこれ」といって、その上辺だけをまねすることなく、しっかりと背景と内容を理解した上で、実施してほしいと思っています。

ということで、林さんの寄稿「行動観察」に関連して紹介しておきたい資料をいくつか。

まず、『マーケティング・リサーチャー』誌。
これは、社団法人マーケティング・リサーチ協会(JMRA)が発行している機関誌です。ここ数年、意欲的なテーマもありますし、リサーチに携わる方は読むべき雑誌だと思います。
(JMRA会員社には必ず本誌があるはずです、なかなか社内を回らないかもしれないですけど。。。見たことがない方は、総務あたりに聞いてみては?)

今回のテーマである110号のもくじは、こちら ↓ 。

『マーケティング・リサーチャー110号
 特集:なぜ、生活者が見えにくいのか ―今、脚光を浴びる行動観察』
(JMRA HP)

このページの下に、バックナンバーの案内もありますので、あわせてどうぞ。
ちなみに、林さん紹介の101号のもくじはこちら ↓ 。

『マーケティング・リサーチャー101号
 特集:言葉を介さない調査の最前線-なぜ「言葉を介さない調査」なのか?』
(JMRA HP)

(そういえば、『マーケティング・リサーチャー』の記事が、日経テレコンで検索ができるようになったはずです。記事単位での購入ができると思いますので、こちらでもどうぞ)

そして、今号で特集の総論を執筆されている山岡先生の本は、こちら ↓ 。
特集を読んで興味をもたれた方は、こちらもあわせて読んでみては?

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