投稿者「ats_suzuki」のアーカイブ

『最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本』

図解入門ビジネス 最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本―市場の因果関係を読み解く (How‐nual Business Guide Book) 図解入門ビジネス 最新マーケティング・リサーチがよーくわかる本―市場の因果関係を読み解く (How‐nual Business Guide Book)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2009-11

前の2つのエントリー( こちらこちら )で、広く社会調査という視点でのエントリーをしました。
社会調査の方法論としての考え方を学ぶことが重要では、ということで。

が・・・
とはいっても、やはりマーケティング・リサーチにはマーケティング・リサーチだからこその知識や考え方が必要であることも、また事実で。。。
そのようなときには、この本をどうぞ。

ただし本書は、著者も「はじめに」で書いてあるように、「入門書」です。はじめてマーケティング・リサーチを学ぼうとする人や、もう一度基礎を復習しようとする人々を対象としています。
ですので、もくじも以下のようにオーソドックスに、リサーチの実務に沿った内容になっています。

第1章 マーケティング・リサーチの役割
第2章 企画
第3章 実査
第4章 集計・分析
第5章 調査報告
第6章 リサーチ・ソリューション
(第6章は、CPテスト、ブランド診断調査、顧客満足度調査について書かれています)

内容も、当然入門者や初心者向けのもの。しかし、視点には共感できる記述が多く含まれています。それはきっと、

本書は、特にこの原因と結果の関係を読み解くマーケティング・リサーチの方法の理解に焦点を当てた入門書です。なぜなら、因果関係の解明は、科学としてのリサーチの基礎中の基礎であるにもかかわらず、未だにリサーチャーの間に広く、深く浸透していないと思われるからです。さらに重要な点は、この因果関係思考法の欠落が、課題解決や提案力のアップといったリサーチの応用力の育成を妨げていることです。
(本書 p.18)

という考え方の元に書かれているからだと思います。そして、とても共感できる考え方です。
(だからでしょうか・・・、私がリサーチ研修のために作成している資料の内容と似たような記述やチャート、チェックリストが多くあるんですよね。もしかして、どこからか入手しました?、と思ってしまうくらいに ^^; )

さて、皆さん、以下の問にどのくらい答えられますか?
すべて答えられる方は、本書は必要ないでしょう。きっちり答えられないものがある方は、本書を手にとってみてもいいかも?・・・

  • 一般に、標本誤差を半分にしたいとき、標本数は何倍にすればよい? →p.38
    (「標本誤差」がわからないでは、お話になりませんが・・・)
  • 新製品の会場テストにおいて、「対象商品カテゴリー使用者」という条件で集めた対象者は、代表性という面で、どのように考えればいいでしょうか? →p.43
  • なぜ世論調査では、いまだインターネット調査が主流の調査方法として使われていないのか? (「抽出フレーム」という言葉を使って説明すると?) →p.80
  • たとえば、「店内でのサンプリング効果」を測定する場合の実験デザインは? (どのような方法が考えられ、どのようなメリット・デメリットがあるか?) →p.85
  • では、製品テストでのテスト方法は? →p.91
  • クロス表で%のベースとなるのは、原因となる変数?、結果となる変数? →p.126
  • 実態把握を目的とした調査の報告書は、結果一覧の報告だけでいいのか?→p.140
  • ブランド診断の場合、イメージ評価項目を考える視点は? →p.172

いかがですか?
著者は、これまでメーカーやリサーチ会社で、マーケティング・リサーチの実務を経験された方ですので、実務の現場に沿った内容で記述されているのが、本書のよい点であるといえます。
これまでの類書に満足できなかった方、著者のスタンス(因果関係の重視)に共感する方は、一度、本書を手にとってみてください。

さらに、本書の関連HPもありますので、そちらも ↓ どうぞ。
本書では触れられなかった内容についても、書かれているみたいですので。

みんなのMR.COM

(実は、著者の岸川さんも、このblog がご縁で知り合いになることのできた、おひとりです。本書の執筆についての裏話についても、おうかがいしましたが、ここでは触れずにおきます。本を書くのもたいへんだな、ということはわかりましたが、でも、本、出したいなとも思います。。。)

『社会調査論』

社会調査論 社会調査論
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:2009-09-24

前のエントリー(「社会調査学科」?!)と関連して。
少し前に読んで、「これは紹介しないと」と思っていた本です(ただ、売れてなさそうなんですよね、Amazonのランキングでは・・・。仕方ないとも思いますが。。。)

実はこの本、1998年に出版されている ↓ の本の改訂版です。
(タイトルが変更になっていますが、理論的な部分はほとんど同一、事例的な部分がほとんど改定、という内容になっています。前書をお持ちの方は、内容を検討してから購入してください)

見えないものを見る力―社会調査という認識 見えないものを見る力―社会調査という認識
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:1998-09

「社会調査を学ぶ本質は、その方法論を学ぶことにあるのではないか」というようなことを前のエントリーで書きました。
しかし、世の中にある多くの社会調査の本は、サンプリングの方法や調査票の作り方、あるいは集計や統計といった「テクニック」について記述しているものがほとんどだと思います。
(少し話がそれますが、最近のビジネス書のコーナーに行くと、「○○しなさい」「○○せよ」「○○術」「○○力」といったタイトルの本があふれています。個人的には、このような傾向はいかがなものかと思っていました。テクニック~というかノウハウといった方が正しいかも~ばかりを身につけても、本質的な理解ができなければ、意味はないと思うのですが。。。)

そこで本書。この「社会調査の本質」について考えさせてくれる数少ない本だと思います。
まずは、もくじを紹介。

Ⅰ部 社会調査の方法
 1章 問うということ―問題の組織化
 2章 対象を設定する―単位と全体の構成
 3章 データの収集―新しいテクストづくり
 4章 データの処理―データベースの構築
 5章 データの分析―比較から説明へ
 6章 書くということ―分析の再組織化

Ⅱ部 社会調査の問題
 7章 社会調査と社会認識
 8章 具体的な知・抽象的な知
 9章 仮説が生まれるとき
10章 社会調査がつくる「現実」

Ⅲ部 社会調査の実践
11章 方法論の歴史と想像力
12章 日雇い労働現場のフィールドワーク
13章 住まいという場を読み解く
14章 犯罪を減らすためになにをどう探るか
15章 地域社会に広がる社会関係の網
16章 格差や不平等をどうとらえるか
17章 「所有」と「自然」の発見

たとえばⅠ部の内容は、これまでのよくある社会調査の本と同様に見えるかもしれません。しかし、データの収集法を定量・定性とは分類せずに、「観察による/対話による/記録・資料による」という3つで整理しています。その心は本書を読んでいただくとして、個人的には定量・定性という分類よりも、こちらの整理の方がしっくりします。このように、単純にテクニックについて語るのではなく、その考え方をふまえて記述しているのが本書の特徴です。

このあたりについては、「はじめに」での以下の記述に想いが込められているのではないでしょうか。そして、この記述には強く賛同しますし、このような考え方が根底にあるらこそ、本書の価値があるのだと思います。

技法の活かしたかを学び、理論枠組みや思想の使い方を学ぶことは確かに重要である。しかしながら、社会への想像力をそのなかで養い、社会調査の解読力と批判力とを身につけることの方が、さらに大切である。だから、この方法と方法論の書物が伝えようとしているのは、「成果」や「結果」として認められた正解ではない。知るという過程を自分で歩もうとするとき、「力」となりうるであろう、問い方であり、疑い方である。
(本書p.ⅳ「はじめに」より)

そして、本書で一番読んで欲しいのは「Ⅱ部」です。
認識するとは何か、実証主義と解釈主義の問題、理論と経験の問題、仮説、アブダクション、グラウンデッドセオリー、予言の自己成就の問題、などが取り上げられています。
いずれも、調査やリサーチを行なっていく上で、直面する課題だと思います。このあたりを理解してリサーチを行なうのかどうかで、その解釈も異なってくる問題でもあるでしょう。
これ以上詳しいことを書こうとすると、引用だらけになってしまうと思うので、ここでは「お勧め!」ということだけを書いて終わりにしようと思います。

決して、簡単で、読みやすい本ではないです。具体的なテクニックやノウハウが知りたいのなら、もっとよい本があると思います。
しかし、あるていど調査やリサーチに携わった人や、ふとリサーチに疑問を感じることがある人が、いま一度リサーチについて考えるための一冊として、読むべき本だと思います。
(それと、大学院で研究をしたい方も、ぜひ)

「社会調査学科」?!

萬さんからコメントで、つぎのようなリクエストをいただきました。

奈良大学に日本初の「社会調査学科」ができるそうですね。
この話題についてのご意見をお聞かせ下さい。(2009/12/8)

少し遅くなりましたが、「社会調査学科」についてのエントリーを。

◆奈良大学・社会学部・社会調査学科とは

まず、ご存じない方のために「社会調査学科」についての紹介を。
「社会調査学科」は、奈良大学・社会学部に開設されます。これまであった「現代社会学科」からの名称変更のようです。

奈良大学・社会学部・社会調査学科HP

とくに、学科紹介のために作られている下記のページは、ぜひご覧ください。なかなかよくできたコンテンツだと思いますので。(ただし、全部みるのには少し時間が必要かも・・・)
とくに、STAGE1~3は、社会調査を理解するために、よい内容だと思います(マーケティング・リサーチについても、触れられています)。

What is 社会調査学科? 「社会調査学科はおもしろい」 (奈良大学HP)

◆「リサーチはツール」だけど・・

さて・・・
では以下で、「社会調査学科」についてのコメントを。

マーケティング・リサーチに限らず、調査についてよく言われることとして「調査やリサーチはツール」ということがあります。
たとえば、今回の「社会調査学科」について書かれたblogをみてみると(ほとんどないですけど・・・)、「調査は手段であって、望まれているのは調査をしてそれをベースに実行する人。だから、手段としての社会調査学科がこれまでなかったのもあたりまえ」という疑問を呈している方もいらっしゃいます。
確かに、調査やリサーチの知識や技術だけで問題を解決することはできないですし、問題解決を実行をするには、さらに様々な他学問の知見を持ち込まないといけないということは事実だと思います。
そして、このような「調査やリサーチはツール」という位置づけだからこそ、これまでも「社会調査」は社会学や経営学、商学のひとつのカリキュラムとして設定されていたのだと思います。
「ツールとして使いこなせればいい」ので。

しかし、ほんとうに「社会調査」で学ぶべきことは、ツールとしての理解でしかないのか?
実際に実務をしていると、さらに社会調査を理解すればするほど、これは単なるツールと捉えてはいけないのでは、と思うようになっています。
とくに、社会調査の方法論(サンプリングの方法とか質問紙の作り方、といったテクニックのことではないですよ)は、どんな職業においても必要な考え方ではないかと思っています。
問題の本質を捉え、仮説を立て、それを操作可能な変数に置き換え、正しい情報を正しい方法で得、情報を分析し、問題への解や、あらたな理論を創出する方法論、これが社会調査を学ぶ本質ではないでしょうか。
そして先にも言ったように、このような方法論は、どんな職業においても、もっといえば社会生活を営む上でも、必須のものではないかと思っています。
極論すると、大学の1年次で、すべての学生が学ぶべきもの、ではないかとも。

これほど大きな視点で考えなくても、これだけ様々な情報が氾濫している社会においては、「正しい情報を得る方法」「情報を判断する方法」を学ぶだけでも、かなり役立つのではないかと。

こういった視点から考えると、あえて「社会調査学科」ではなく、すべての大学で、すべての学生が、「社会調査論」の基礎を学ぶことこそが重要なのでは、と考えています。
(ほんとは、大学というところは、こういう研究の方法論を学ぶべきところのはずですよね。。。いまでは、大学院にその役割が移っているようにも感じますが)

ただ、このような考え方の端緒を開いたのではないか、という意味合いでも「社会調査学科」はおもしろい学科だと思いました。(「教養学部」という、やはりよくわからない学部を卒業した人間ですので、もともとこういった考え方への志向性が強かったというのもあって・・・^^; )

このあたりの考え方は、学科紹介でも記されていると思いますので、長いですが引用させていただきます。

高齢社会や環境問題、不況や雇用の不安。現代社会はさまざまな問題を抱えています。これらの問題の原因や背景は複雑に絡まり合っていて、「できごと」を表面的にながめているだけでは状況を正しく理解することも、解決策を見いだすこともできません。

複雑化する現代社会を生き抜くための技術。
それは、情報をいかに「収集」し「分析」し「活用」するか、という技術です。
これまで、情報武装といえば「情報技術(IT)」ばかりが注目されがちでした。しかし情報技術を活かすためには、情報そのものの「質」が非常に重要。どうすればそれらの技術を総合的に活用できる人材を育てることができるか。奈良大学の答えは「社会調査技術と情報技術の融合」。
それが「社会調査学科」です。

しかし、いくら優れた技術を身につけることができたとしても、社会に対する深い洞察力や、「おもしろいこと」をかぎ分けるセンスがなければ宝の持ち腐れです。
情報の収集・分析・活用のどの場面でも、具体的な理論を活かせてこその技術。
奈良大学は情報学・社会学・文化人類学・経済学・経営学を専門とする教員が、理論的な学びをサポート。知識を現実の社会で応用していく力をブラッシュアップします。

実際に課題をみつけ、実際に社会調査に取り組む実践的教育を通して、幅広い理論と問題を見つけ出す鋭いセンス、深い洞察力をもって社会に切り込んでいく鉄壁の武装を。
奈良大学・社会調査学科HP 「学科紹介」より)

そして、実際のカリキュラムも、1年次で社会調査のベースとなるもの(文化人類学も必須というのもおもしろいですよね)を学んだ上で、それぞれの興味で社会学、経営学、情報学といった専門性を深めていく過程になっているのも、いいカリキュラムだと思います。社会調査の方法論をベースにしたうえで、それぞれの専門領域の課題に向き合うことができるので。

蛇足ですが・・・
これらを、奈良、という多くの文化財と接することができる環境で勉強できるのもいいなと、個人的には思います^^;

「日本版CSI」は廃止か?!

何かと話題になっている政府の「事業仕分け」ですが、その対象のひとつとして、「サービス産業生産性向上支援調査事業」も取り上げられていたようです。
本日(2009/11/27)実施され、結果は「廃止」対象とか。。。

 【サービス産業生産性向上支援調査事業】中小・零細のサービス企業の経営効率化を支援する経産省所管の事業。概算要求額は14億円。仕分けでは「業務委託先の財団法人の活動への支援になってしまっている」と批判が続出。再委託の契約についても、単独応札など不透明な例があると指摘され、判定は「廃止」。(「事業仕分け結果27日」~47NEWS:2009/11/27より)

関連の資料は、行政刷新会議のHPで見ることができます。

配布資料(PDF) 
 (行政刷新会議HP『ワーキンググループ・資料集』配布資料より

評価コメント(PDF)
 (行政刷新会議HP『ワーキンググループ・資料集』評価結果より)  

評価コメントが未掲載なので(11/27現在)、どのような議論がなされたのかは不明ですが、上記の記事からは本質的なことよりも委託先との関係が問題視された?、という印象を受けます。(確かに、要求額14.8億円のうち人件費が9.5億円というのを見ると、そうなのかなと思わせるものもありますが。。。)
ただ、予算担当部局による、この事業に対するコメントでは、「本来民間自身が実施すべき事業」であり、「民間による応分の負担又は国の関与の要否について検討すべき」とあるので、このあたりがどう判断されたのかが、興味のあるところです。

さて、
この事業で影響を受けるのが、以前このblogでも取り上げた「日本版CSI」。

日本版顧客満足度指数(日本版CSI)モデル(本blog:2009/3/19エントリー)

業界横断的に、共通の指標で、サービスについての顧客満足度を測定し、公表していこうというもの。パイロット調査を経て、第1回の調査結果が発表されていました。

日本版CSI(顧客満足度指数)の第1回発表
(サービス産業生産性協議会HP:2009/10/6のニュースリリース)

※上記の詳細資料は、→こちら(PDF)

個人的には、本事業のほかの支援策等についてはともかく、この「日本版CSI」については、続けて欲しいという気持ちはあります。
とくに、日本版CSIが参考にしたACSI(米国顧客満足度指数)を見ると、なおさら。

The American Customer Satisfaction Index

ここには、業界とそこに属する個別企業の満足度指数が、1994年から毎年掲載されています。さらに、このような個別業界・企業の評価ばかりでなく、GDPや株価などとの関連性なども分析され、マクロ経済の指標としても活用されていることがわかります。(さらには、政府に対する満足度評価まであります)

確かに、個別企業の満足度測定とそれに基づく改善活動は、民間が自身でやるべきことではあると思います。
ただ、マクロに捉えるならば、共通の物差しで、業界横断的にサービス水準が継続的に測定され、そのデータが公開されるということは大切なことではないかと思うのです。GDPがゴールとなる指標(KGI)であるとすると、そこに至る過程であり、影響を及ぼす要因(KPI)としてのサービス満足度を把握することは重要な視点であると思います。さらに、これらのデータが様々な研究に寄与していくことに意義があるのではないかとも思います。
もっといえば、低水準なサービスしか提供できていなかった業界が、他業界の満足度水準と比較されることによって、そのサービス水準の低さに気づき、サービスを向上するきっかけになる、結果とし国民生活の向上に寄与する、サービス産業の生産性の向上に寄与するというメリットもあるのではないか、とも考えるのです。

とはいえ・・・
国の予算に限りがあるのも事実で。。。
どのような議論を経て「廃止」ということになったのか、具体的な評価コメントを見てから、さらにコメントしてみたいと思います。

【2009/11/29追記】
評価コメントが掲載されていたので、追記。
記事の通り、運営機関との関係云々の話もありますが、

  • 国が関与する必要なし、民間に任せるべき
  • 受益を受けるのは一部企業に限られる
    しかも、中小企業ではなく、大企業が受益対象となる
  • すでにある成果を、普及すればよい

ということが、話されたようです。
まず、今回の議論の対象は、「サービス産業生産性向上支援調査事業」であって、日本版CSIそのものではない点を、あらためて指摘しておかないといけないでしょう。この点をふまえると、上記の意見も、もっともだと思います。この事業の中心を「支援」と考えるならば、たしかに国がすべきことでもないと思いますし。。。

とはいえ、日本版CSIは、アメリカのように継続して実施してほしいなと思っています。
理由は、上記のとおりです。業界横断的に、共通の指標で比較可能な指標が、時系列で把握でき、公に発表されるデータは、やはり貴重なものだと思います。評価者の意見にも一部あったように、公的統計として継続することを考えて欲しいと思います。
そして、このデータが、きちんとマスコミ等によって報道されることが重要なのですが。さらに、多くの研究者の素材データとして活用されることも。
データを集めるだけで、きちんと公表されないし、活用もされないのであれば、この事業仕分けでもよく議論される「成果」という点で、意味がないので。

蛇足ながら、この事例からマーケティングリサーチについて考えたことをもうひとつ。
この手のベーシックなデータ収集は、企業で実施する場合でも、3年くらい経過すると中止されることが多いと感じています。「結果が、変わらないから」という理由で。
しかし、このようなベーシックなデータは、長期間継続して収集するからこそ価値があるのではないでしょうか。長期にトレンドを追えるからこそ、市場の変化や、自社の課題を捉えることができるのではないでしょうか。分析の自由度も、長期的にデータが蓄積するからこそ、高まりますし(たとえば、コーホート分析などは、かなりの長期データが必要になります)。
また中止の理由として、「データばかり集めても、売り上げにつながらない」という声も聞かれます。たしかに、データはデータであって、ここから直接的に解決策が得られるわけではありません。しかし、データやリサーチに基づかない意思決定が、ほんとに売り上げに寄与するのか? 様々な施策の成功確率をあげるためにも、データやリサーチに基いた意思決定が必要なのではないか? データをデータとして眠らせるから価値がないのであって、情報やインテリジェンスに転換することの重要さを理解してほしいなと思います。

(今回の事業仕分けは、直接、日本版CSIを否定したものではないですが、ついでに。。。)

『グローバル化とネット化の中で』

標題は、JMRA(日本マーケティングリサーチ協会)会長である田下氏の寄稿(かな?)です。

記事は、フジサンケイ・ビジネスアイのもの。

インテージ社長・田下憲雄 グローバル化とネット化の中で
(Fuji Sankei Business i:「特集:論風」 2009/11/13)

協会が、マーケティング・リサーチについての現在の課題を、どのように考えているのかを知ることができると思います。

また、開催が迫っていますが、協会のカンファレンスでも、生のお話を聞けるかも。
興味のある方は、こちらもどうぞ。特別講演が、茂木健一郎氏ですし。
(会費が、お高いとは思いますが・・・)

JMRAアニュアル・カンファレンス2009 (JMRA HP)

インテージ&電通、業務提携へ

すでに、多くのサイトでニュースとして取り上げているので、ご存知の方も多いと思いますが、インテージと電通の業務提携が発表されました。
ただ、どこのサイトもリリース記事の内容を簡単に紹介するのみで、踏み込んだ記事はないようです(2009/11/8現在では)

ということで、一番詳細なのはリリース元のオリジナルなのでこちらを ↓ 。

インテージと電通、「マーケティング・インテリジェンス」領域で業務提携
(インテージ、ニュースリリース:2009/11/5)

リリースの中心となるのは、おそらくつぎのパラグラフだと思います。

このたび両社は、インテージグループが得意とする「店頭の販売動向および生活者の購買行動の両面から課題解決の要因を洞察するノウハウ(マーケット・インサイト)と情報分析力」と、電通グループが得意とする「生活者の行動の起点となる意識・価値観から課題解決の要因を洞察するノウハウ(ターゲット・インサイト)と施策実行力」を組み合わせた、単なる個別の課題解決策の立案に止まらない、ワンストップ・ソリューションを共同開発することと致しました。これにより、クライアント企業の事業・マーケティング活動における「意思決定精度の向上」、「スピードと業務効率の向上」、「実効性の高い解決策の実行」のより強力な支援を目指します。

リサーチ業界トップのインテージと広告代理店トップの電通の業務提携なので、ニュースバリューはそこそこ。
けれど・・・。
このリリースを読んでも、何をするのかよくわからないな・・・、というのが正直なところ。

概念図をみても、???。
課題抽出をしたり戦略提案をするのは誰? PDCAサークルをまわすのは? 電通? インテージ?
というか、課題抽出や戦略提案って、領域が大きすぎない? 業務提携で行うこと?
素朴にみてしまうと、合併でもしないと実現できないことのような気が。。。

ということで、これ以上のコメントは差し控えます。。。

この後、blog等でコメントや解説記事がでていたら、ここでフォローしたいと思います。
あるいは、もっと具体的な動きが出てきた時に。

“「『新聞は必要』91%」の波紋”を考える

またまたSurveyMLでの萩原さんの投稿がネタ元です。。。

元記事は見ていないのですが、読売新聞にて「『新聞は必要』91%」という調査結果が発表され、はてぶで波紋を呼んでいるという内容のコラムです。(このコラムが、「あらたにす」のHP内で読めることも画期的だと思いますが)
前回の、世論調査論の続編的な位置づけで、このコラムを読んでみたいと思います。

まず、大元の記事はこちらです ↓ 。

「新聞は必要」91%…読売世論調査 (YOMIURI ONLINE:2009/10/14)

この記事についての、はてなブックマークがこちら ↓ 。
世間の調査についてのスタンスの一端がうかがえます。

「新聞は必要」91%…読売世論調査 (はてなブックマーク)

このはてぶに対するある個人の解説?、反論? がこちら ↓ 。
おそらく調査マンだと思いますが、この内容は。

はてな匿名ダイアリー anond:20091016123352 (2009/10/16)

そして、これら一連の動きを整理しコメントしているのが、標題の“「『新聞は必要』91%」の波紋”です。

「『新聞は必要』91%」の波紋 (歌田明弘、あらたにす内コラム「新聞案内人」:2009/11/2)

歌田氏のコラムには、いくつかの論点が含まれています。調査論に関すること、ネットユーザーに関すること、PRに関することなどです。
それぞれに、考えなければならないポイントだと思うのですが、個人的に共鳴したのは、以下の部分です。

調査の詳細がわかると、なぜ高い数値なのかの推定もできる。詳しいデ ータを見れば見るほど、当初の「ウソくさい」という思いは(完全に払拭 できるわけではないが)薄らいでいく。少なくとも「『新聞は必要』91% 」というタイトルのもと、わずかばかりの記事を読んだときとは印象が変わってくる。
(「『新聞は必要』91%」の波紋~歌田明弘、あらたにす内コラム「新聞案内人」:2009/11/2)

パブリシティ記事の限界だとは思うのですが、調査記事の多くは、調査サンプル全体を集計のベースとしたGT(単純集計)の数字のみを取り上げることがほとんどです。
しかしここで、前回の「誰が回答したデータなのか」という点を考える必要があります。日本人、あるいは調査対象としたい人々を正しく代表しているデータであれば、GTだけでも十分に意味のあるデータだと思いますが、そうでないならばGTにはあまり重要な意味はない。あくまで参考値と見るしかないでしょう。
(実際に、紙面で紹介されている年代別構成比は、高年齢層に偏った分布になっているようです)

ここで、データをどれだけ詳しく見ることができるか、が重要だと思うのです。
今回のテーマであるなら、少なくても、年代別の差異やインターネットの利用時間別の差異くらいは確認するべきでしょうし、このようなデータを検証していくことで、はじめて有用なデータが得られるのだと思います。
(まぁ、今回の記事はPR色が強いということで、今後の新聞をどうするかが目的ではないので、そこまで必要ではなかったのかもしれませんが)

マーケティング・リサーチを主にしている人にとっては、クロス集計はあたりまえかもしれません。。。
けれど、実際に使うデータ(とくにトップラインなど、エッセンスを報告する時のデータ)は、GTデータがメインだったりしませんか? あるいは、クロス集計の軸も性別、年齢、職業などの決まりきったものにしていませんか?
ほんとうに意味のあるクロス軸を考え出すことが、調査結果を活かせるかどうかにかかっていると思います。
クロス軸はまさに、「誰が回答したのか」をあぶりだす、あるいは「誰の回答を重視したいのか」を決める重要な視点になっているということです。

実際に、今回の読売調査でも、

調査についての発言部分は掲載されなかったが、取材を受けるさい、掲載されたよりももう少し詳しいデータも見せてもらった。それを見ると、 20歳代は30歳代以上と顕著に違っていた。
20歳代は新聞を読む時間が少なく、新聞への評価も低い。この世代は、 新聞離れが進んでいた。
(「『新聞は必要』91%」の波紋 (歌田明弘、あらたにす内コラム「新聞案内人」:2009/11/2))

ということのようです。

この調査の設問とGTデータが、こちら ↓ で確認できます。

「新聞週間」  2009年9月面接全国世論調査 (YOMIURI ONLINE)

今回の調査手法は、層化無作為二段抽出による個別訪問面接聴取法(抽出フレームが不明ですが、選挙人名簿かな?)。回収率は60.9%で、最近の訪問面接ではまあふつうでしょうか。
紙面では公表されていたようですが、せめて年代別の構成比くらいはここにも掲載してほしいものです。でないと、データをどう読んだらいいかわからない。。。

そこで、「回答者は誰か」を推し量るひとつのデータとして注目したのが「あなたは、平均して、1日にどのくらいの時間、パソコンや携帯電話でインターネットを利用しますか」への回答。「まったく利用しない」が43%に上っています。う~ん・・・、どうなんでしょう?
全国で、20歳以上だとこの程度なのでしょうか? 毎年総務省で行っている「通信利用動向調査」(平成20年版のプレスリリースは、→ こちらへ )からは、もっと高い利用率になりそうな気もします。。。
ということは、世間一般に比べ、インターネットなどをあまり使わない層の比率が高い可能性もあるのか?
(ただし、「利用」の定義がそれぞれの調査で異なっているかもしれないので、一概に比較できませんが。たとえば、プライベート利用だけなのか、会社や学校での利用も含むのかなど。このあたりは、調査票作成のポイントの話にもなりますけど)

このようなときも、インターネットの利用有無別(さらには、利用頻度別にも)でデータを見ると、GTでは歪んでいるかもしれない調査データも、ある知見を与えてくれるデータとなるのでは?、ということです。

今回紹介したコラムから、前回の「この調査の回答者は誰か?」を考えることとあわせ、データを分けてみる、まさに「分析」の重要性を理解していただければと。「分析」こそが、データの背景を考える=誰が回答した結果かを考えるひとつの重要な過程になるのです。

世論調査”論”からマーケティング・リサーチを考える

(ほぼ1ヶ月、更新が滞ってしまいました。。。
かなり前から標記のテーマを考えていたのですが、気軽に書けるテーマではないので筆が鈍っておりました。とはいえ、いつまで考えていても仕方ないので、とりあえずエントリーを。久しぶりに長編になってますが・・・)

この8月、9月は、衆議院選挙や鳩山内閣の誕生と、世論調査の重要なテーマが続き、さまざまな調査結果がメディアをにぎわしてきました。
そして、このタイミングだからなのか、世論調査をテーマにした研究会や雑誌、トピックスがいくつか目に留まりました。これら、世論調査「論」とでもいうものを少し整理し、ここからマーケティング・リサーチについても考えてみたいと思います。
(※このエントリーで紹介している情報、そして内容については、Survey MLでの萩原さんの投稿を参考にさせていただいています。この場で参考・引用と、情報提供への謝意を記したいと思います。いつも有益な情報をありがとうございます)

◆いくつかの世論調査”論(?)”

まず、ここ数ヶ月の間に発表されている世論調査”論”といえるような記事を紹介します。

最初に、日本記者クラブで行われた会見録から。つぎのHPで見ることができます。
(今回のテーマ以外の記事も、なかなか興味深いテーマとゲストが並んでいます)

日本記者クラブ会見速記録2009年(日本記者クラブHP)

このページに、シリーズ研究会「世論調査」として、下記の講演録が収められています。(もしかしたら、今後も続くかもしれません)

①2009/6/26 世論調査の役割と限界(峰久和哲氏)
②2009/7/10 世論調査にハイブリッド方法を(萩原雅之氏)
③2009/7/17 世論調査は勝負審判ではない(西平重喜氏)
④2009/9/3  世論調査へのエール(松本正生氏)

4名の方が、それぞれの立場から、それぞれに世論調査について話をしています。
多少乱暴に整理してしまうと、峰久氏はメディアの現場からみた世論調査の現状と課題を、萩原氏はマーケティング・リサーチの視点も入れながら今後を、西平氏は研究者の立場から世論調査の成り立ち、欧米との比較等をふまえた課題を、松本氏は研究者の立場からの現状整理と課題を、という内容になっています。これらを一通り読むと、世論調査が抱えている課題と、「これまで、いま、これから」を概観することができます。
以前、このblogでも取り上げた福田改造内閣の支持率問題についても、皆さん、それぞれの見解を整理しています(→ こちらのエントリーです「まちまちな改造内閣支持率・・・」)。

つぎに、雑誌『Journalism』での特集「世論調査を調査する」です。
具体的な内容については、下記 ↓ を参照してください。
(記者クラブのゲストのうち3名の名前が、こちらでも見られますが。。。)

『Journalism』2009年8月号もくじ(朝日新聞・ジャーナリスト学校HP)

最初の座談会がテーマ記事で世論調査の問題点や課題を整理しています。
他にも、RDDの現場で何が行われているのか、出口調査がどのように行われているのか、といった記事も、なかなか興味深く読むことができました。

最後に、ネット世論調査に関するいくつかの記事。
ネット上でもかなり物議を醸していたのでご存知の方も多いと思いますが、代表的なまとめ記事としては、つぎ ↓ のものがありました。

いつか牙をむく?「ネット世論は内閣支持率25.3%」という発想
(BP net /日経BP社)

この記事は、コメント欄にも目を通していただくと、世間の世論調査への意識も垣間見ることができると思います。

そして、この記事とぜひ一緒にご覧いただきたいのが、下記 ↓ の結果。
ニコニコ動画による衆議院選挙出口調査の結果と内閣支持率調査の結果です。
(参考までに、Yahoo!によるほぼ同時期の内閣支持率調査の結果も)

第45回衆議院議員総選挙ネット出口調査(ニコニコ動画)

内閣支持率調査2009/9/17(ニコ割アンケート:ニコニコ動画)

内閣支持率調査2009/9/16~19(Yahoo!みんなの政治)

最初、ニコニコ動画の数字を見たときは驚きました。
サンプル数だけでいえば、出口調査では約24万人、支持率調査では6万人近くの回答者を集めています。サンプル数至上主義の方からすると、メディアの世論調査に比べると、こちらの結果の方が妥当性があると判断してしまうサンプル数です。(「サンプル数が多いほうが正しい調査だ」と思っている方、時々いらっしゃいます。この結果を示せば、サンプル数がすべてではないと理解してくれるでしょうか・・・)
しかし、この出口調査の結果は明らかに現実の投票結果とは異なるもの。どうして、ここまでのギャップが生まれるのか?
(ここで、調査対象や調査手法に疑問を持った方は偉い。ということで、ニコ割アンケートの調査方法は、こちらを → ニコ割アンケートとは )
ただし、ニコニコ動画の結果が、いいかげんだとか、間違いだと決め付けるわけにはいかないと思っています。これも、ある側面からの現実のはず。では、ここには何が?

◆世論調査の課題

これらの記事で指摘されていることはいくつかあります。

まず、世論調査が氾濫しているのではないか、政治や国民が世論調査を気にしすぎているのではないか(世論調査政局とか世論調査型民主主義の問題)、ということがあります。
たとえば、松本先生のつぎの言葉は、なかなかおもしろい。

あれほど世論調査に答えるのを嫌がるのに、調査結果はこれほどもてはやすって何?、という、そういう気持ちがあるのです。
(「日本記者クラブ シリーズ研究会「世論調査」④ 松本先生の回」より)

マスメディアだけでなく、上記のようにニコニコ動画とかYahoo!とか、とにかくさまざまなところから世論調査と称した調査結果が発表されている。リサーチに対するリテラシーが高いとは思えない状況の中で、これだけ調査結果が氾濫していること自体、たしかに大きな課題だと思います。(統計教育など、ほとんどなされていない現状だと思いますので・・・)

ついで、回収率の低さの問題。さらに、RDDにしろ、ネットにしろ、さらには訪問面接にしろ、どんな手法にもそれなりの回答者の偏りがあるということも共通に認識されている内容です。
とくに、メディアの世論調査での代表的な手法であるRDDにおいても、代表性に課題があることが多く指摘されています。
世論調査ということを考えると、いかに代表性を確保するかは重要な課題ですので。

しかし、さらに見ると、調査回答者に対する深い認識も必要ではないかということが指摘されています。
たとえば西平氏は、社会学者ブルデューを引用しながら、つぎのように指摘しています。

1つは、彼には前提の3にしているのですが、調査のテーマが社会的、あるいは政治的、学問上どんな重要なものであっても、だれもがそれについて意見を持っているわけではないということである。それなのに、あたかもだれもが意見を持っているように世論調査をやっている。そんなもので調べた世論なんてものは n’existe pas 「ないよ」というわけです。
つぎに前提の1というのは、聞かれたから答えただけだよ、というのを、その人の意見といってよいか、というのであります。
それから、前提2は直接テーマと関係がある当事者の賛成というのと、それとは全然関心もなければ興味もない人の第三者としての賛成を同じ賛成意見と数えてよいか。賛成何%とか。子供がいて、いま大変な学校の問題で悩んでいる親の何とかに対する賛成と、私のような孫もいない者の賛成とを一緒に賛成と数えていいのか、こういうわけであります。
(「日本記者クラブ シリーズ研究会「世論調査」③ 西平先生の回」より)

この点に関して、朝日新聞の峰久氏もつぎのように言っています。

レジュメの4ですけれども、回答者は新聞をしっかり読んでいるはずだという錯覚が、調査を発注する側にはどうもあるようです。これは長年変わりません。残念ながら、いまは新聞を読んでいるどころか、テレビのニュースさえちゃんとみていない人が非常に増えています。先ほど申し上げましたように、いろいろ説明してあげなければ調査に答えられない、助け舟を出さなければ調査に答えられない、というのが現状なのです。
同時に、こういうことも考えています。要するに、何も知らずに、考えもせずに回答してしまう人が増えているのだな、と。ごくわずかな設問のワンフレーズで反応してしまう人たちが増えているように思います。
(「日本記者クラブ シリーズ研究会「世論調査」① 峰久氏の回」より)

単純に、「RDDでは在宅率の高い人の回答率が高い」など属性的な側面ばかりでなく、回答者の質的な問題も考える必要があるという指摘です。

◆マーケティング・リサーチについて考える

さて、世論調査の課題を、マーケティング・リサーチにどう援用するのか。
代表性の問題や回答者の質的な問題から、つぎのように考えました。

“どのようなリサーチにおいても、「回答者は誰なのか?」ということを、強く意識する必要がある”

ということです。

まず、どんな調査手法をとっても回答者に偏りが発生する可能性が高いという認識が必要だということがあります。
RDDに回答するのはどんな人か?、ネット調査に回答するのは?、訪問面接調査で回答するのは?、街頭でお願いしたCLT調査に回答してくれるのは?・・・。あるいは、回収率の低さという視点からみると、「回答しなかったのは、どんな人か?」ということ。
まずは、これらのことをしっかりと考えておくことが、重要だと思います。
(RDDについてがメインですが、手法別の回答者の特徴については、先に紹介した記者クラブの会見録でも、さまざまに指摘されているので、そちらを参考にしてください)

つぎに、とくにネット調査においては、同じ手法だからといって、同じ偏りが生じると考えない方がよい、ということです。これは、ニコニコ動画とYahoo!の結果の違いからも明らかです。
この点に関して、おもしろい記事がありました。

【WEB世論大調査】新政権でどうなる?あなたのお財布(MSN産経ニュース:2009/9/24)

記事の主目的は民主党が掲げている政策についての賛否だと思うのですが、ここで興味深いのは、アメーバ、MSN産経ニュース、ニコニコ動画、はてな、モバゲータウンという5つのサイトを通じて調査を行っている点です。
そして結果は、一様の結果にはならず、それぞれのサイトの特徴があらわれる結果になっています。もちろん、単純にそれぞれのサイトユーザーの性別・年齢などのデモグラフィック属性の差が表れているだけともいえるかもしれません。しかし、もっと深い何かがあるように感じるのは、私だけでしょうか?。。。

この点について、萩原さんはMLで、つぎのようにコメントしています。

確かに「世論調査の代替」では使い方は難しいですけど、私はむしろ質問の方を「ものさし」として、ネットユーザーにおける特徴ある部族(tribe)の特徴を分析したものとすれば面白いと思うのです。
つまり「産経族」「アメブロ族」「はてな族」「モバゲー族」「ニコニコ族」の文化人類学的考察であると。いずれの tribeも、ネットはもちろんリアル生活でも特有の価値観や行動を持っているように思うので、もっと同一設問をあびせて、特性を描き分けて欲しいと思った次第。
(「Survey ML:12075」萩原氏の投稿より)

私も、「部族(tribe)」というのは、いまのネットやマーケティングを考える上でのキーワードになるのではないかと考えていたので、この指摘にはまったく同意です。
マーケティング・リサーチを主としている会社のモニターの特徴は明らかではありませんが、やはりマクロミルにはマクロミルの、Yahoo!にはYahoo!の、クロスにはクロスの、楽天には楽天の、gooにはgooの・・・、とモニターの特徴=部族性が、多少ともあるかもしれません。

そして、先の西平氏や峰久氏の指摘にもあった「無関心性」についても、考えておく必要があると思います。
マーケティング・リサーチにおいても、「回答者が、自分たちと同じ知識・関心レベルにある」という意識で設問を作っているのでは?、と感じることがよくあります。たとえば、ブランドレベルではなく、商品アイテム別に認知をとるというのは、その商品への関与が高い人ならともかく、一般の人で、そこまでの認識や記憶がある人がどの程度いるでしょうか。
そして、さらにネット調査では必ず回答をしないと先に進めないので、自分の記憶が定かではなくても、「何も知らずに、考えもせずに回答してしまう」ということを誘発しやすいということも、自覚しておく必要があるでしょう。
結果、よくわからない認知率が得られ、データが安定しないということも起こりやすくなるのだと思います。少なくとも、商品に対する関与レベルくらいは確認し、関与を軸にクロス集計をするくらいの確認はすべきでしょう。これも、「回答者は誰か?」の重要な視点です。

また、マーケティングにおいてはターゲットが重要になります。重要なのは、このターゲットでの受容性や評価、理解がどうなのか、であって他の消費者の結果ではないはずです。
単に、「XXXのユーザー」としてスクリーニングしたとしても、その中でターゲットとして考えられる人とそれ以外の人が含まれるはずですし、それらを同一レベルで分析してもいいのか、ということもあります。これも、「回答者は誰か?」を意識した視点になります。(あるいは、スクリーニングの重要性ともいえます)

さらに、狭義でのマーケティング・リサーチばかりでなく、CGM分析においても、「回答者は誰か?」は、「発言者は誰か?」となり、やはり重要な視点になります。
たとえば、amazonの書評コメント。これも「誰が書いているのか?」によって、その内容の解釈は異なってくるでしょう。ノウハウ系が好きな人なのか、学者なのか、または学生なのか、などによってその評価視点は異なるはずです。ぐるめサイトも同様です。庶民的な店が好きな人と、おしゃれな店が好きな人では、同じ店を評価してもまったく異なる評価になる可能性もあります。
おそらく、ふだんの生活で、これらのコメントを読むときは、無意識にでも発言者の文脈を読み取ろうとしていると思います。ところが、仕事でCGM分析となると、データとしてこれらを見がちになり、この「発言者は誰か?」という意識が低くなるように見受けられるのです。

もとよりマーケティング・リサーチは、世論調査に比べ、「誰に聞くのか?」は重要なポイントなので、「回答者は誰か?」ということについては、ふだんから意識されているかもしれません。
これまでも、詳細なスクリーニングをベースにリサーチを行なっている方、クロス集計でしっかり分析している方にとっては、「何をいまさら」という感じでしょう。。。
しかし、従来のようにサンプリング理論に則れば代表性のあるサンプルが得られるという時代ではない、マーケティングでも、より狭いターゲット設定が行われている、そして一人十色のライフスタイルをもち、さらにネットによって生活者の部族性が高まっている、などの背景を考えると、この「回答者は誰か?」ということが、いまのマーケティング・リサーチを考える上での重要なキーになると思い、あらためて問題提起をしてみました。

とはいえ・・・、
まずは紹介した世論調査”論”を一読されることを、お勧めします。

(う~ん・・・、うまくまとめられていない。。。)

【追記:2010/4/5】

同じころに、↓ も発行されていました。社会調査協会の機関誌です。
(ほんと、この時期は世論調査論が花ざかり・・・)

『社会と調査 第3号:小特集1・世論調査の現場から』(2009/9/30)
(社会調査協会HP)

また、西平先生は世論調査を総括した ↓ の本を出版されています。

世論をさがし求めて―陶片追放から選挙予測まで 世論をさがし求めて―陶片追放から選挙予測まで
価格:¥ 4,200(税込)
発売日:2009-12

RFIDを活用したリサーチサービス

つぎのようなリリースが発表されていました。

RFIDスマートシェルフの技術を活用して、リサーチサービスを行なうという内容です。
具体的には、つぎのような内容のようです。

クレスコIDSのRFIDシステムによって、対象商品にRFIDタグを実装し、店頭の陳列棚にRFIDアンテナを組込む“スマートシェルフ”の仕組みを活用した消費者行動分析サービスです。これにより、棚上の商品動態のリアルタイムでのモニタリングが実現できます。これにより、POSデータなどの購買デー タでは掴みきれなかった、店頭で手に取られたが買われなかった商品などの理由に関する原因分析を含めた各種消費者分析を行うことができます。

実は、RFIDについては、このblogでも以前つぎのように書いていました。

たとえば、レジを通る商品はPOSでわかります。それ以外にも、手に取られた=動いた、あるいはずっと棚に置かれたまま=動いていない、というような情報が取れるとマーケティング的には有用なようにも思うのですが。
(マーケティング・リサーチの寺子屋「次代MR?~2.技術3題」:2008/8/27)

これが現実のサービスとして登場したということになります。
(それにしても、この記事を書いたのは、1年前でしかないんですね。もっと昔のことかと思っていましたが)

あらためて、「スマートシェルフ」で検索してみると、つぎのリリースを見つけることができました。

大日本印刷 タナックス シアーズ
ICタグを使ってマーケティング分析と店頭セールスプロモーションを同時に実現する商品棚システム『多目的スマートシェルフ(仮称)』を開発
(大日本印刷株式会社ニュースリリース:2006/9/12)

このリリースの中でも、つぎのような記述が見られます。

商品棚にICタグを読み取るアンテナと人感センサーを組み込むことで、商品の前で立ち止まった人数、関心を示さず通過した人数を記録するほか、ICタグのついた商品が手にとられた回数・時間、購入される際の検討時間を各店頭PCにデータ蓄積し、専用のソフトウェアで分析し、これらの分析結果を店頭でのマーケティングに直接活用することができます。

このリリースが発表されているのは2006年9月と、だいぶ前。。。やはり考えることは、みんな一緒なんですね。
ただ、百貨店で実験されているという記事はいくつかありましたが、実際のケースとして取り上げられている記事は見当たらず・・・。
「シェルフ」としての機能~在庫管理だとか、棚卸しの省力化等~としては機能しても、データ収集ツールとしてはあまり注目されていないということなのでしょうか。

けれど、購買に至る前段階での商品の動きについてのデータって、結構重要だと思うんですけど。。。
今回の、ジャパンマーケットインテリジェンス(JMI)社による具体的なリサーチサービス化で、活用が進めばいいなと思っています。

(ただ、冒頭のリリースの中で、ひとつ気になる点が。。。
「店頭で手に取られたが買われなかった商品などの理由に関する原因分析」は、どのようにしてわかるのだろう?
RFIDのデータからわかるのは、手に取られたかどうか、その商品が買われたかどうか、という実態の記述だけで、理由まではわからないような気がする。。。店頭実験を繰り返すということだろうか?・・・
このあたりは、直接問い合わせてみてください)

『デザイン・リサーチ・メソッド10』

デザイン・リサーチ・メソッド10 デザイン・リサーチ・メソッド10
価格:¥ 9,975(税込)
発売日:2009-06-18

以前から紹介したいと思いながら、いまになってしまいました。。。
価格も価格なので、気軽に買える本ではない、というのもありましたし。
内容は、世界の代表的な10のデザインファームでのリサーチメソッドを紹介するというもの。
(ただし、ここでいうデザインは、表層的な、お飾りとしてのデザインとはまったく異なります。ほんとうの意味でのデザインとは何かを考えるきっかけにもなると思います)
紹介されている10のデザインファームと事例は、以下のとおり。

●IDEO (アメリカ)~シマノ「COASTING BICYCLE」
●seymourpowell(イギリス)~ALICE「ブロードバンドルータ」、STANNAH「介護用エレベーター」
●TheAlloy(イギリス)~ARGUS「消防士用デジタルカメラ」、BT「ベビーモニター」
●tangerine(イギリス)~BRITISH AIRWAYS「ファーストクラスのシート」、AUPING「介護ベッド」
●The Division(イギリス)~パナソニックデザイン社「ブランドビジョン」、日産自動車「インテリアデザイン」
●fuseproject (アメリカ)~コカ・コーラ「Coca-Cola Refresh Recycling Bin
●CastelliDesign(イタリア)~日立製作所「スーパーテクニカルサーバ」
●AMO(オランダ)~PRADA「PRADA PROJECT」
●INNO DESIGN(韓国)~AMOREPACIFIC「LANEIGE」
●FRONT (スウェーデン)~「Sketch Furniture」

本書の編集協力を行ったトリニティ(デザインコンサルティング会社)が、「はじめに」で書いている内容が、この本の紹介を躊躇した気持ち、でも紹介したいと思った気持ちを表現してくれています。

ここに挙げた事例は、10ケースに過ぎない。またこれらは、彼らのクライアントとのかかわりによって展開された過去の実績である。企業組織の独自性、国内・海外と双方を持つ市場領域、デザインに対するユーザーの認識などを考えると、日本の企業やデザイン事務所にそのまま流用できない面もあろう。もとより、欧米のデザインアプローチを模倣する時代も終わっている。
しかし、私達はユーザーの潜在化・顕在化した欲求に対し、新しい商品やメッセージを将来にわたって永続的に届けなければならない。その欲求やデザインへの期待を理論的に導き出すこれらのデザインリサーチは、1つの解決手段として、日々のワークフローを検証する手段になると考える。また、これらを参考に、自ら独自のデザインリサーチを確立することも有効である。こうしたデザインリサーチが、ユーザーのマインドを探り当て、社内の共通言語や意識をまとめる手段として部門を越えて成立する可能性も秘めている。

「デザインリサーチ」という言葉自体は1990年代の終わり頃には語られていた、といいます。ちょうど、リサーチにおいてもポストモダンや解釈的手法が注目されていた頃にあたり、まさにパラダイム転換の時代であったといえるでしょう。
(この時代に興味がある方は、石井+石原によるマーケティング3部作をどうぞ)

しかし日本においては、いまに至っても「デザインリサーチ」という言葉も考え方も、注目されていないように思います。
(ただし、このように思うのは、もしかしたらリサーチ業界にどっぷり浸かっていたからかもしれません。企業のデザイン部門ではふつうの言葉だったかも? もしもそうだとしたら、これはこれで問題だとも思うのですが。リサーチ業界の狭さというか、限界というか・・・で)

けれど、いまは「インサイト」とか「エスノグラフィ」という言葉がもてはやされています。こんな時だからこそ、「デザインリサーチ」について学び、理解する必要があると思います。
たとえば、以下のIDEOのデザインリサーチメソッドがあります。

  • 理解(Understand)→観察(Observe)→統合(Synthesize)を経て、視覚化(Visualize)、実現化(Realize)、評価(Evaluate)、改良(Refine)のサイクルをまわし、実行(Implement)へと至る過程
  • ユーザー調査対象には、メインストリームユーザーではなく、エクストリームユーザーを選ぶ
  • 具体的なリサーチ手法として、「Analogous Observation」「Rapid Ethnography」「Card Sort」「Try it Yourself」を用いる

これらは、いま日本ではやり(?) and/or 話題(?)になっているエスノグラフィのメソッドとかなり共通する部分があります。というか、おそらくこのIDEOのメソッドをベースにしていると思います。

他に紹介されているメソッドも、ブランド分析と社会分析から目指すべき未来のブランド像を描くとか、ワークショップによるデザインアイデンティティの構築とか、狭い意味でのリサーチとは趣を異にしているといってもいいものです。
そして、これらのメソッドの共通点であり、ポイントは、「デザイナーが自らリサーチを行なうこと」。やはり、問題意識を持った人が、現場で経験し、観察し、議論することが重要なのでしょう。

これからのマーケティング・リサーチについて考えてみたい方、エスノグラフィに興味をもった方、あるいは本当の意味でのデザインについて興味がある方、ぜひ本書を読んでみてください。
さすがにデザイン関係の本だけあって、チャートや写真も豊富なので、眺めるだけでも十分におもしろいと思いますよ。
(しかし、価格がちょっと・・・、なので図書館ででも探してみてください)

◆関連本

本書で最初に紹介されているのがIDEOですが、IDEOに関しては以前も紹介したことがある、↓ の本でもそのメソッドが紹介されています。よりIDEOについて知りたい方は、こちらもどうぞ。
(ただ本書~デザイン・リサーチ・メソッドの方が、簡潔にポイントが整理されていて、理解しやすいと思います。。。)

発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法 発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:2002-07-25

日本企業でのデザインについて紹介されている本としては、↓ の本があげられます。
(こういう本を読むと、単にデザインリサーチという考え方を知らなかっただけなのかも、と考えさせられます)

ソーシャルイノベーションデザイン―日立デザインの挑戦 ソーシャルイノベーションデザイン―日立デザインの挑戦
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2007-12

◆おまけ
本文途中にあげた「石井+石原のマーケティング3部作」は、こちら ↓
コトラーのマーケティングや戦略的マーケティングに、飽き足らなくなった方、あるいは、なんか違うと感じている方に、おすすめです。
(ただし、論文集ですので、読みやすくはないです。。。)

マーケティングダイナミズム―生産と欲望の相克

マーケティングダイナミズム―生産と欲望の相克
価格:¥ 3,466(税込)
発売日:1996-08

マーケティング・インタフェイス―開発と営業の管理
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:1998-05

マーケティング・ダイアログ―意味の場としての市場 マーケティング・ダイアログ―意味の場としての市場
価格:¥ 3,465(税込)
発売日:1999-07