日別アーカイブ: 2011年7月16日

リサーチとプロモーション

某リサーチ会社(JMRA加盟社)からリリースされたWEBプロモーションサービスについて、twitter 上で交わされた話題が、目に留まりました。
このままスルーしてしまおうかと思ってもいたのですが、そこで交わされた意見や感想に違和感があったので、このサービスの論点について少し整理をし、私見を書きたいと思いました。
結論から言うと、個人的には今回のケースは「なし」だと思っています。

◆サービスの内容は

このサービスは、

  1. 提携するネットワークへの登録者を対象に
  2. アンケートを活用して、商品やサービスの理解を促進し
  3. 共感している人をクライアントのランディングページに誘導しアクションへ繋げる

というもののようです。さまざまな議論が耳に入ったのか、当該社は追加リリースにて、

  1. 対象者は、リサーチパネルとは異なるネットワークを構築していること
  2. リサーチとは異なる担当者、組織で運営すること
  3. 上記2点において、JMRAには確認済みであること

を説明しています。

◆いくつかの論点と私見

そもそもは、「JMRAのリサーチ綱領に抵触するのではないか」という点です。
とくに、下記の第1条d項への抵触です。

マーケティング・リサーチは、個々の調査対象者に向けられた一切の商業的活動(例えば広告、セールス・プロモーション、ダイレクト・マーケティング、ダイレクト販売など)を含む、リサーチ以外の諸活動と明確に区別され、かつ分離されなければならない。

(JMRA綱領については、こちら のページに詳しいです)

そして、いくつかあげられてた論点として、以下のものがあります。

  1. リサーチパネルと区別しているのだろうか?
  2. リサーチ会社がプロモーションをしていいの?
  3. こんなサービスは、前からあるよね?
  4. サービスとして打ち出していなくても、実態としてあるよね?
  5. JMRA自体(and / or リサーチ業界?)が時代に後れているよね?

これらは、今回のサービスについての議論においては、少し的を外れた意見のように個人的に感じました。
とりあえず、それぞれの論点についての私見を、以下に整理します。

まず「1:対象の問題」。
これは、的外れとは言えないかもしれませんし、追加リリースでこの点は配慮していることを明らかにしています。
なぜ、リサーチパネルをプロモーションに利用してはいけないのかについての議論もありますが、今回はこの点はクリアしているようなので、OKとします。

「2:リサーチ会社がプロモーションサービスを行うこと」について。
これは、議論のわかれる点だと思うのですが、個人的には「してもいい」と思っています。
むしろ、リサーチの結果からクライアントの課題解決にむけて、プロモーション施策を構築したり実施したりできるのであれば、積極的に行うべきだと思っています。
私も、販売店向けのイベント内容を考えたり、情報誌やカタログのコンテンツとして、リサーチの結果を活用したことがありますので。(あたりまえのことですよね)
人的プロモーション(たとえば、販売店サポートをするヘルパーさんなど)サービスを行う一環として、販売店の声やお客様の声を集めるというのも、もちろんありです。
また、試供品のサンプリングの際に、ただ配布するだけでなく、試供品を使った人の声を集めるシステムをつくることなども、ほんとうは必要なのではと思っています。
なので、この点もOKです。

「3:すでにサービスとしてあるのでは」について。
たしかに、ありますね。しかし、「すでにある」ことが、「OK」の根拠にはなりません。
そして個人的には、これらのサービスは「なし」と考えています。
さらに、JMRAの会員社だろうが、なかろうが関係なく「なし」です。
この点については、あとで説明します。

「4:サービスとして打ち出していなくても、実態としてある」について
商品・サービスの評価をネットリサーチで行う場合、クライアントのページに回答者を誘導して、その商品・サービスの詳細をサイト上で読んでもらってから、設問に回答してもらう、というパターンがあります。この過程は、今回のサービスに、とてもよく似ています。
少し目端の利いた人であれば、これは一種のプロモーションではないかと気づくと思いますし、今回のサービスは、この過程を実際にプロモーションサービスとしてメニュー化したものでしょう。
ネットリサーチが普及し始めた頃、「商品の認知経路の選択肢に、『調査で知った』って必要だよね」と話していたことがあります。回答者がリサーチを通じて商品を認知することがあるということを感じていたからこその、(かなりブラックな)ジョークです。
リサーチを通じて商品に興味を持つというのは、グルインなどでもあります。座談会が終わったあとに、「この商品、いつごろ発売になるんですか?」などと聞かれることもあります。
しかし、「結果として知る、興味を持つ」ことと、「意図を持って、知らしめる、興味を持たせる」ことは異なるのではないかと思っています。
アンケートによって結果的にプロモーション的な作用が起こったとしても、それを意図的に行うのは個人的にはNGです。(これも、あとで説明する理由によります)

「5:JMRAが時代に後れている」について
たしかに、リサーチ業界やJMRAが時代に後れているということは、あると思います。
狭義でのリサーチというドグマにこだわって、クライアントへの意味のあるサービスが提供できていないと感じる気持ちもわかります(とくにtwitter で積極的に意見交換をする方たちなので、その思いは強いのだと思います)
以前の話になりますが、ミステリーショッパーはJMRAの綱領に抵触すると言われました。綱領では、対象者に身元と目的を明かさないといけないからです(第4条)。しかし、調査をすることを明かして、ミステリショッパーは成立しません。このとき、私にとってミステリーショッパーは重要なリサーチツールだったので、「時代にそぐわないよな」と不満を感じたことを覚えています。(いまは、どう解釈しているのかな?)
しかし、今回のケースは、JMRAやリサーチ業界の時代認識とは異なる次元の話だと思っています。これも、つぎの説明ゆえにです。

◆なぜ、今回のケースを「なし」だと思うのか?
ずいぶんと前置きが長く、へたなプレゼンの典型のような文章になってしまいました。
もう少しお付き合いください。

今回のケースは、「アンケートの目的外使用」であり「プロモーションツールとして使う」というものです。
お客様や生活者の声を聞くのではなく、アンケートに回答するという行為を通じてサイトを強制的に読ませ、誘導するということです。
厳しい言い方をすると、「アンケートの悪用」ではないかと思っています。
アンケートの結果でプロモーションを設計するとか、アンケートの結果データをプロモーションに引用する(これも、厳しくみるとリサーチ綱領的にはNGになるかもしれませんが、限定つきで個人的には「あり」と思っています)、あるいはプロモーションの一環として声を聞く、というのとは異なります。

今回のケースを、ネット上ではなくリアルの場面で考えてみます。

「ねえ、ちょっと時間ある?、アンケートなんだけど、協力してくれない?」
「このパンフレット見ながら、答えてね」
「あれ?、この商品に興味ありそうだね?
 もっと詳しく説明したいから、ちょっとこっちで話しない?」

私の第一印象は、これでした。そう、キャッチセールス。昔よく見た光景ですよね?
そして、いま路上でこれをやると、東京都では迷惑条例違反になるはずです。

リサーチ綱領は、こういったキャッチセールスを排除するために、第1条を設定したと聞いています。(他にも、アンケートを利用してセールス対象者の名簿を集めるということも行われており、これなども排除対象になっていると聞いています)
つまり、心あるリサーチャーなら、リサーチに対する社会の誤解を招かないように、リサーチと商業的活動を分離しろと言っているのです。そうでないと、リサーチ本来の活動自体も、悪とみなされてしまうので。

会場調査の実査をされたことがある方ならわかると思いますが、いま路上での対象者リクルートはとても厳しくなっています。まさに、キャッチセールスと同等だと捉えられているからです。いくら綱領で規定していても、現実は、アンケートを商業活動に使う人が多いのか、リサーチ環境は悪化しています。まさに、「悪貨は良貨を駆逐する」です。

ネットリサーチしかやったことのない人は知らないかもしれませんが、訪問調査や郵送調査などでは、調査対象者への依頼状に「この調査で、セールスや勧誘を行うことは一切ありません」と明記したものです(おっと、過去形ではないですね・・・)。
これなんかも、「アンケートに答えたら、商品を買わされた、しつこく勧誘された」という苦情があった結果だと推察します。

つまり、リアルであったように、ネットでもアンケートへの誤解が広がる=リサーチの実施環境に影響を与えるのでは、ということを危惧しています。
まさに、どなたかが書いていた「自分で自分の首を絞める行為」だと思います。
なので、このようなアンケートを使ったプロモーションは、個人的には「なし」という立場です。

最後に・・・
以上は、「リサーチ」という視点にたった意見です。
しかし、本音をいうと、プロモーションと感じさせすにプロモーションを行うということ自体が、どうなんだろうというのが率直な感想で、まずこの点で「なし」だなと思いました。
(ステルスマーケティングの一種では?、という感じ。ステルスマーケティングについては、こちらなどを参照 → 「IT Pro:ステルスマーケティングとは」 「Wikipedia:「ステルスマーケティング」

※サイト上のリリースやサービス説明を見て、書いた内容ですので、もしかしたらこちら側に誤認があるかもしれません。その点は、留意してください。
『アンケートパネルを利用していない』ことと同時に、対象者に対して『これは、アンケートではなく、当社の商品を知っていただくためのものです』という旨を明記し、回答者もこのことを了解の上で実施するのであれば、グレーではありますが、ぎりぎり「あり」かもしれません。
ただ、このような話は、あっという間に広がるのがソーシャルメディアの時代なので、「アンケートと思ったら、勧誘ページに行かされた」みたいな話が広がるのは、よろしくないなと思っています。。。